やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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今回は晴風クラス、他校の先輩方視点です。


129話

遊戯祭二日目の競闘遊戯会、午後の部に最初に行われる競技である図上演習競技‥‥。

 

横須賀女子の大講堂に設置されているシミュレーションコンピューターにて行われる個人参加型の競技で既にエントリーの受付は終わり第一試合が間もなく行われようとしている。

 

シミュレーションコンピューターの台は三台あり、抽選の結果から一つ目の台では明乃たちの同級生であり天津風艦長の高橋と佐世保の千葉、

 

(昨日の借り、きっちり返してやる!!)

 

(おっ、昨日の金魚すくいの後輩か‥‥)

 

高橋が負けず嫌いで勝負事が好きなのは一年生の中でも有名であるが、高橋と千葉との間には昨日の遊戯祭で何かあったみたいだ。

 

二番目の台には時津風艦長の榊原と舞鶴の阿部、

 

そして三台目の台には、真白と優勝候補の一人とも言える呉の宮里が対戦することになった。

 

両者はパネルを操作し、艦隊の陣形や最初のコマンドをセットしながら戦闘の準備をする。

 

「一回戦目から、いきなり尾張の艦長に当たっちゃうなんて‥‥やっぱりついていないね、うちの副長」

 

西崎が真白の対戦相手を見て、真白の不運を代弁する。

 

普段の真白ならば西崎と同じように思い勝つことに対して諦めるだろうが、コンピューターの前に立つ真白には対戦相手が宮里だったと言うクジの不運を漂わせる雰囲気はなく、緊張しながらもいたって冷静な様子だった。

 

先攻は宮里のターンで彼女は戦艦による遠距離攻撃を行う。

 

この攻撃により真白が指揮する駆逐艦一隻に命中判定が下り、砲撃を受けた駆逐艦が撃沈判定を受ける。

 

「回避失敗?」

 

いきなり自軍の艦艇が撃沈されたことに納沙は思わず声をあげる。

 

「筋金入りのついてなさじゃな‥‥」

 

真白の不運はあの航海で晴風に乗っていたミーナも知っている。

 

その不運はこの時も健在かと思った。

 

しかし、

 

「人は誰しも不運が続くと闘争本能が衰えるものだ‥‥しかし‥‥」

 

『うん?』

 

「あれは諦めている人間の顔ではない」

 

テアは真白の表情から彼女の心情を読み取る。

 

初っ端から優勝候補の宮里と当たり、最初の一撃で駆逐艦クラスとは言え自軍の艦艇が撃沈されれば新入生ならば慌てふためいたり、何かしらのリアクションを起こしそうであるが、真白はそのような様子もなく画面をジッと見つめている。

 

(ついてないことは最初から分かっている‥‥)

 

(だったら、それも織り込み済みで策を考えるだけだ!)

 

真白はこれまでの人生の中で幸運よりも不運な事ばかりの方が多い。

 

そんな事はこれまでの人生経験から理解している。

 

この競技に他校の先輩方がエントリーした時点で自分の対戦相手が尾張級の艦長か副長になるのではないかと予感はしていた。

 

宮里が最初の対戦相手になるのも真白にとっては既に折り込み済みであった。

 

今の真白にはこの競技で優勝する事よりも大事な目的がある。

 

目の前の宮里なんて相手ではない。

 

自分には本当に戦いたい相手が居る。

 

その相手と戦うために自分は此処で負ける訳にはいかない。

 

「んっ‥‥」

 

真白は陣形を変えて行動に移す。

 

宮里は重巡洋艦と戦艦へ砲撃指示を出し、真白の艦隊へと砲撃を加える。

 

二隻の艦からの砲撃を受け、再び真白の艦隊の航洋艦が撃沈される。

 

戦況は宮里有利かと思われたが、

 

「あっ‥‥」

 

宮里は真白があまりにも冷静な態度からコンピューターの画面をみると、思わず声をもらす。

 

真白の艦隊は自分の艦隊の至近距離におり、真白の艦隊の戦艦からの砲撃で重巡洋艦が被弾、駆逐艦二隻からの砲雷撃で戦艦が被弾した。

 

「ん!?」

 

この短時間の戦闘で宮里は主力艦を失う大被害を被った。

 

『あっ』

 

その結果に宮里は思わず顔をしかめ、晴風クラスとミーナ、テアは驚愕する。

 

「こ、これって、もしかして、ちょっと盛り返している?」

 

鈴が真白の現状を確認するかのように呟く。

 

「ああ、幾度もの不運に見舞われながら、損害を最小限に食い止めて反撃できる形を作った」

 

テアが鈴の言葉を肯定する。

 

序盤から駆逐艦二隻を失う被害を出したが、相手の懐‥‥必中の距離まで近づき宮里に大ダメージを与えた。

 

「あっ‥‥」

 

まさかの予想外な展開に宮里は驚愕しながらも後輩相手にこのまま負けるつもりはなく、当然反撃する。

 

戦艦からの砲撃で真白の駆逐艦が撃沈される。

 

「図上演習は現実の海戦を模倣したもの‥運、不運が勝敗に大きく影響するが、それで、全てが決まる訳ではない。尾張の艦長は攻めっ気を誘われたな。不運が功を奏したとも言える」

 

テアの言う通り、真白は、次々と宮里の艦艇を撃破していき、あっという間に宮里の艦隊は全滅した。

 

運もあるが、宮里には対戦相手が今年入学したばかりの航洋艦クラスの新人と言う慢心があったのかもしれない。

 

「宮里対宗谷、試合終了!‥‥勝者、宗谷!」

 

「あっ‥‥こんな事が‥‥」

 

宮里にとっては信じられない結果だろうが、事実である。

 

予想外の敗北に宮里はショックを受けるが真白は、そんな宮里に一礼をして礼を尽くす。

 

礼に始まり礼に終わる。

 

戦車の競技、武道の競技以外でもこの儀礼は通ずるのかもしれない。

 

「あっ‥‥」

 

宮里も真白に一礼する。

 

「やられたわ。でも不思議ね、何で貴女みたいな子が航洋艦の副長なのか?」

 

一礼をした後、宮里は真白の実力を評価して、彼女がどうして航洋艦の副長なのか不思議に思った。

 

「いえ、そんな‥‥」

 

宮里の質問に対して、真白は恥ずかしくて言えなかった。

 

まさか、入学試験で大ポカして航洋艦クラスになった何て恥ずかしくて言えない。

 

それに試合が終わり、一礼した後、真白自身も優勝候補である宮里に勝つことが出来たなんて今でも信じられなかったのだ。

 

宮里はその場から去って行くが、真白は何とか無事に一回戦を突破でた事に慢心することなく、

 

(もし、最後まで勝ち続ける事が出来たら‥‥)

 

真白の真の対戦相手はあくまでも明乃だという事を自分に言い聞かせた。

 

「まさか、シロちゃんがあの先輩に勝つなんて‥‥」

 

「凄いねぇ~」

 

真白の第一試合を振り返って、内田と山下は『よくあの先輩相手に勝てたな』と思う。

 

「競技中の先輩方、凄いオーラだったしね」

 

「そうそう、まさに王者って感じで昨日会った時とは一味違ったよね」

 

内田と山下は昨日の歓迎祭の中、宮里に会ったような口ぶりだった。

 

「まゆちゃん、しゅうちゃん、あの先輩と会ったの?」

 

鈴が二人に訊ねると、

 

「うん、会ったよ」

 

「みかんちゃんたちのとんかつ屋でね」

 

すると、内田と山下は昨日、どのような出来事があったのかを話し始めた。

 

 

 

 

時系列は昨日の歓迎祭のお昼過ぎに遡る。

 

 

伊良子、杵崎姉妹、美波、等松が間借りしているトンカツ屋、『方丈』にて、お昼時を過ぎたことによりお客の出入りがようやくまばらになった頃、

 

「ふぅ~洗い物完了」

 

伊良子が食器洗いを終えた。

 

「こっちもトンカツの仕込み終わったよ」

 

この後、夕食時にお客の出入りが再び増えそうなことからほまれが追加のトンカツの準備をしていたのだが、それも終わった。

 

「ありがとう、ほっちゃん。これで夕方にお客さんがドッと来ても大丈夫だね」

 

「美波さん、さっき休憩に入ったばかりだけど、ミミちゃん戻ってこないね」

 

美波は休憩に入ったばかりなのだが、同じくトンカツ屋で自分たちと一緒に働いている等松がまだ外に出たきり戻ってこない。

 

「マッチが出ている映画に夢中なんじゃないかな?」

 

伊良子は苦笑いをしながら等松がまだ戻らない理由を口にする。

 

等松は同じ晴風クラスの展示である自主映画の上映の際にその映画を見に出て行ったのだ。

 

「あぁ~」

 

ほまれは十分あり得ると思った。

 

等松の野間に対する執着は凄いので、きっと映画も一度見ただけではなく、二度見くらいしているのだと思った。

 

「私たちも今の内に休んで‥って‥‥」

 

伊良子が夕方の客入りに備えて休憩しようと杵崎姉妹に声をかけようとした時、

 

「あっちゃんなにしているの?」

 

ほまれの双子の妹のあかねが何かをしていた。

 

「新しいメニューの試作だよ」

 

あかねは新メニューの開発をしていた。

 

「またぁ~今度は大丈夫なの?」

 

「艦内でみんなが持ち場から離れられない時でも、サッと食べられて、尚且つ栄養満点って言う革命的メニューになる予定だよ」

 

「ほんとかな~?」

 

伊良子もほまれもどうも懐疑的な視線をあかねに向ける。

 

これまであかねが様々メニューを新開発してきたが、それもこれも斬新と言うから攻めたメニューのため、あまり高評価をもらえたためしがない。

 

テスト休み中、和菓子屋でバイトしていた時、エクレアに甘納豆を入れ宇田が失神しかけた事があった。

 

そんな中、トンカツ屋の扉が開く音がした。

 

「「「いらっしゃいませ!!」」」

 

「あっ、まゆちゃんとしゅうちゃん」

 

来店したのは同じクラスの内田と山下だった。

 

「おつかれさま~」

 

内田が伊良子たちに労いの言葉をかけ、

 

「お疲れ様~」

 

伊良子も内田に声をかける。

 

「今って注文しても大丈夫かな?お腹すいちゃって‥‥」

 

山下が注文は大丈夫かと訊ねる。

 

「もちろんよ。ゆっくり食べていって」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

伊良子は大丈夫だと返答し、二人を席に案内する。

 

内田と山下は伊良子の案内の下、席に着く。

 

「トンカツ定食をください」

 

「私はメンチカツ定食で」

 

二人は店に来る前からあらかじめ何を食べるのか決めていたみたいで、内田はトンカツ定食を頼み、山下はメンチカツ定食を注文する。

 

「りょうかい~」

 

注文を聞き、厨房では早速オーダーされたメニューの調理が始まる。

 

肉を油で揚げる音がお客の居ない店内にこだまする。

 

「映画の方はどんな感じなの?」

 

ほまれは航海科が接客担当していた自主映画の展示について訊ねる。

 

「これがなんと‥大入りなんだよ」

 

山下があの自主映画が意外と受けていると答える。

 

「口コミでお客さんが増えているみたいで、最初の回よりもさっきの方が混んでいたよね」

 

初回の上映よりも初回を見たお客からの口コミで上映回数が増えるごとにお客の入りも増えていると内田が教える。

 

「でも、分からないなぁ~あの内容がそこまで受けるなんて‥‥」

 

納沙やミーナと違い、任侠映画になんの興味もない山下としてみれば、何故あの自主映画が受けているのか疑問に思えた。

 

「私も分からないけど、何て言うか‥言葉でうまく説明できない勢いだけはあると思うよあの映画」

 

山下と同じく任侠映画には関心が無い内田であるが、訳の分からない勢いはあり、その勢いがお客に受けているんじゃないかと予測する。

 

「一体どんな映画なんだろう?」

 

伊良子はあの自主映画の制作には関わっていなかったのか、映画の内容が気になる様子‥‥

 

「そんなにお客さん来ているのに、抜けてきて平気なの?」

 

ほまれが客入りが多いのであれば、当然仕事も沢山あるのに、此処にきて大丈夫なのかと二人に訊ねる。

 

「映写機ずっと回していたら、熱をもっちゃって‥‥しばらく上映休止って事になったんだよ」

 

「今の内にご飯食べて休憩して、またポップコーンとコーラ、どんどん売るよ!」

 

映写機の連続使用により、映写機がオーバーヒートしたみたいで映画は一時休止となり、その間に航海科のメンバーは食事休憩となったみたいだ。

 

伊良子とほまれが内田と山下に映画の客入りを聞いている間もあかねは厨房で新メニューの開発に勤しんでおり、会話に参加していない。

 

「この調子でいけばかなり良い売り上げになりそう!」

 

「まゆちゃんらしいやる気の出し方だねぇ~」

 

(あれ?それならなんでミミちゃんは戻ってこないんだろう?)

 

映画が上映休止ならば、その映画を見に行った等松が何故戻ってこないのか不思議に思うほまれだった。

 

「おまたせしました。トンカツ定食とメンチカツ定食でーす!」

 

その間に注文した品が出来上がり、伊良子が二人の下に運んでくる。

 

「「いただきまーす!!」」

 

二人は両手を合わせた後、料理を食べ始める。

 

伊良子たちの料理の腕はあの航海の中で十分に理解しており、あの間宮の艦長である藤田がスカウトしたいぐらいだった。

 

満面の笑みを浮かべて料理を食べていると、再び来客を知らせる扉が開く音がした。

 

「いらっしゃいませ」

 

伊良子が対応に出ると、

 

「六人ですけど、入れますか?」

 

「うっ‥‥なんかすごい迫力‥‥」

 

新たに来店したお客のオーラに思わず後退りする伊良子。

 

「あっ、どうぞ、こちらの大きなテーブルへ‥‥」

 

ちょっとドキッとしながらも伊良子は新たな来客たちを案内する。

 

「ご注文は‥‥?お決まりですか?」

 

新たに来店した六人の客が席に着くと伊良子が恐る恐る注文を訊ねる。

 

「トンカツ定食を」

 

まず、白い大礼服のような制服を着た女子が注文すると、

 

「同じで」

 

八つのダブルボタンのセーラー服を着た女子も同じモノを注文し、

 

「私も…」

 

「合わせます」

 

セーラー服に真白と同じ金色の飾緒をつけた水色の髪の女子と眼鏡をかけた女子も前二人と同じモノを注文する。

 

「私はトンカツ定食、トンカツダブルで」

 

サイドテールの髪型で銀髪の女子も同じモノを頼むがトンカツの量は他のメンバーと異なり二倍の量を注文する。

 

「ご注文ありがとうございます‥‥そちらのお客様は‥‥?」

 

伊良子は紫色の制服に黒マントを羽織った女子に注文を聞くと、

 

「味噌カツあらへんの?」

 

黒マントの女子はメニュー表から味噌カツはないのかと訊ねる。

 

「すみません、今日はちょっと、味噌カツは出来なくて‥‥」

 

伊良子は味噌カツを用意していなかったことに対してすまなそうに言うと、

 

「そんじゃあ、普通のトンカツ定食にするわ」

 

黒マントの女子も他のメンバーと同じトンカツ定食を注文した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

注文を聞き、そそくさと厨房に逃げるように戻る伊良子。

 

「ねぇ、隣のテーブルの人たちって先輩だよね‥‥?」

 

内田が山下に耳打ちにするかのような小声で自分たちの隣のテーブルに座る六人の客について確認するかのように声をかける。

 

「うん、あの制服‥‥間違いないね」

 

六人の客の制服を見て、確信を得た山下は席を立ち、

 

「あのぅ~」

 

そのお客たちに声をかけた。

 

「皆さんは海洋学校の先輩ですよね?」

 

「えぇー!!話しかけちゃうの!?」

 

山下の行動に度肝を抜かれる内田。

 

「なんとなく、大型艦の艦長さんと副長さんの雰囲気ですけど‥‥」

 

驚愕する内田を尻目に山下はなおも六人の客たちに訊ねる。

 

あの航海で大型艦の艦長であるシュテルと副長のクリスと交流する機会があったためか、六人の客たちに似た雰囲気を感じた山下は確認するかのように声をかけたのだ。

 

「その通りだけど、貴女は?」

 

どうやら、山下の読みは当たっていたらしく、六人の客たちは他校の大型艦の艦長と副長だった。

 

「横須賀女子海洋学校、航洋艦晴風クラスの航海員で、山下秀子と言います」

 

山下は六人の艦長、副長らに自分が所属する学校、クラス、役職を言う。

 

「こっちは同じ航海員の内田まゆみちゃんです」

 

そして山下は内田も六人の艦長と副長に紹介する。

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

内田は慌てて席から立ち、先輩方に一礼する。

 

「あっちに居るのは、同じクラスの給養員で‥‥」

 

「伊良子美甘です!」

 

「杵崎ほまれです。‥‥ほら、あっちゃん、新メニューの試作なんてやっていないで、ご挨拶して」

 

ほまれはあかねを引っ張りだし、先輩方に挨拶するように促す。

 

「‥‥っと、杵崎あかねです」

 

ほまれに促され、あかねは作業の手を一時中断して先輩方に自己紹介する。

 

「へぇ~これが噂の晴風クラスか~」

 

「私は呉女子海洋学校二年、尾張艦長、宮里十海」

 

「尾張副長の能村進愛だわ~」

 

「舞鶴女子海洋学校三年、近江艦長、阿部亜澄」

 

「副長の河野燕です」

 

「佐世保の三河で艦長をやっている千葉沙千帆。三年だ!よろしく頼む!」

 

「野際啓子。三河の副長を務めています」

 

「おぉー‥‥なんだか挨拶しているだけなのにカッコイイですね先輩たち」

 

山下はキラキラした目で六人の先輩たちを見る。

 

「しゅうちゃん、それ失礼か失礼じゃないかで言うとギリギリアウトの方じゃない?大丈夫?」

 

内田は山下の言動から先輩たちに怒られるんじゃないかと不安になる。

 

「大丈夫だと思うけど?」

 

そんな内田の不安をよそに山下本人は大丈夫じゃないかとお気楽な様子。

 

「君、なかなか度胸が据わっているなぁ~」

 

千葉は山下の事を褒める。

 

「ブルーマーメイドになったあかつきには一緒に仕事をしたいタイプだ」

 

「そうですか!?やったー!!」

 

「ふふ、ウチの千葉さんは人を褒めるのが上手ですからねぇ~」

 

「えっ?お世辞だったんですか?」

 

「そうは言ってませよ。むしろ‥‥」

 

山下は野際の言葉から千葉の言葉は社交辞令‥冗談だったのかと思ったが、野際はそれを否定する。

 

「私は世辞やら回りくどい事が苦手なんだ!!あはははは!!」

 

「‥‥と、まぁ、嘘がつけないタイプなの」

 

「と言う事はしゅうちゃんがマジで褒められている!?」

 

山下が先輩から‥‥千葉から褒められている事に驚く内田。

 

「えへへへへ‥‥照れるねぇ~」

 

「まぁ、他のみんなもそう固くなることはないわ」

 

宮里が伊良子たちにも肩肘張らずにリラックスしろという。

 

自分たちが来店した時に店の空気がなんだか緊張した空気に変わった事を察していたのだろう。

 

「私も先輩方もなにも一年生を取って食う訳ではあるまいし‥‥」

 

「そうじゃんね。私らは前日祭を楽しんでいるだけだにぃ。先輩、後輩の垣根なく気楽にいこまい」

 

愛知県出身の能村は三河弁訛りのある口調で宮里と同じ様に気楽にしてくれと言う。

 

「ありがとうございます」

 

「迫力あるけど、優しい人たちだね」

 

「うん、よかったぁ~‥‥あっ、お料理出来ているよ」

 

宮里と野村の言葉を聞いてほまれも伊良子もホッとしている様子。

 

そして、先輩方の注文した料理が出来上がる。

 

「OK」

 

出来上がった料理を先輩方のテーブルへと運ぶ。

 

「お待たせしました。トンカツ定食です」

 

「ありがとう」

 

「美味しそう~」

 

「いただきます」

 

注文した料理が来て食事を始める先輩方。

 

「そう言えば、先輩たちはどんな出し物を見て回ったんですか?」

 

山下が先輩方に此処に来る前、どんな展示物を見て来たのかを訊ねる。

 

「私とノムさんは和菓子の露店で買い物をしたわ」

 

宮里と野村は和菓子の屋台を見て回ったと言う。

 

「確か間宮クラスじゃんねぇ」

 

間宮クラスは今回の歓迎祭ではレストランではなく、和菓子の屋台を開いていたみたいだ。

 

「シベリアって言うカステラの間に羊羹を挟んだヤツだにぃ。どえらい甘いけど、ペロッと食べれるんだわ~」

 

「美味しそう~‥‥でも、カロリー高そう‥‥」

 

野村の話を聞いて間宮クラスのシベリアを食べたくなった内田であるが、カロリーを考えると悩んでしまう。

 

「なあに、食べた分、身体を動かせばどうってことない。何なら一緒にやるか?」

 

「ダイエットに効く運動とか教えてくれるんですか!?」

 

思わず席を立ち、興奮する感じで千葉に聞く内田。

 

「ウチの千葉さんは、スポーツと言えば格闘技なんですよぉ~」

 

野際は千葉が普段している運動が何なのかを内田に教える。

 

「空手とかキックボクシングとか‥‥フフフ‥‥」

 

「ダイエットとか知らんが、空手はいいぞ!心身を鍛えられる‥‥こぉぉぉ‥‥ふんっ‥ふんっ‥‥ふんっ‥‥」

 

能村も空手をやっているのか、一呼吸すると空手の型を披露する。

 

「さっきの『こぉぉぉ』って言う音は何なんですか?」

 

「空手の呼吸法だよ。『伊吹』と言うやつで、凄く体に良い」

 

「そうなんですね‥‥」

 

内田は少し引き攣った顔で納得する。

 

もし、この場に真冬が居たら、千葉と能村とは気が合ったかもしれない。

 

「阿部先輩と河野先輩は何か買いましたか?」

 

山下は次に阿部と能村に訊ねる。

 

「買ってはいないけど、面白いモノは見たよ。りんご飴の屋台」

 

「りんご飴って‥あの、お祭りとかでよく売っているヤツですよね?」

 

「そうそう、りんご飴自体は何の変哲もないんだけど、全自動りんご飴製造機って言う機械で作っていたんだよ」

 

「えっ?」

 

「りんごを入れると自動で水洗いされて、串が刺されて、溶けた飴に浸かって、機械から出てきた時にはちゃんと飴が固まっているの」

 

「明石クラスの出し物でしたね。やっぱりああ言う艦に乗っている子たちって機械いじりに強いんでしょうね」

 

河野の口ぶりから舞鶴に所属する三原クラスの生徒らも明石クラス同様、艦の補修の他に機械いじりが好きみたいだ。

 

まぁ、そうでなければ補修専門の艦なんて希望しない。

 

「へぇ~」

 

「うちにも欲しいなぁ~あの人材は‥なにかこう、労働の効率をアップするようなモノを作ってもらいたい」

 

阿部は明石クラスのクラスメイトをスカウトして作業の効率を上げる機械を作ってもらいたいと言う。

 

「いいですね。ソレ!!みんなの仕事が減って楽になりますし!!」

 

阿部の提案に山下も賛成する。

 

「何言ってるの?仮に効率が二倍になったとして、労働時間も二倍にすれば、四倍の成果が上がる訳よ」

 

「「ええええっー!!」」

 

阿部の発言に内田も山下も驚愕する。

 

堂々とブラック企業発言をしているのだから当然だ。

 

自分たちの艦長である明乃が絶対に言わない様なセリフだ。

 

「あず社長、そう言うブラック発言を後輩たちの前でするは止めてください」

 

「いいじゃない。私だってクラスの皆の二倍働いているし、アレ(労働基準監督署)の所から摘発されないギリギリのラインを見極めて、皆の仕事量を管理してくれている燕専務がいるから大丈夫!!」

 

「フォローになってないですよぉ~あと、私を持ち上げても何も出ませんから」

 

「あの~今、社長とか専務とか聞こえたんですけど‥‥」

 

艦の役職の中で社長、専務なんて役職は存在しない。

 

それを疑問に思った山下が阿部と河野に質問する。

 

「ああ、ウチのクラスの子たちがね、艦長のあまりの人使いの荒さに、『まるでノルマがキツイ会社みたいだよ。』 『艦長が社長で私らは社員だよ。』って言い始めてそれが定着しちゃったの。で、副長の私もついでに専務呼ばわりされるようになって‥‥」

 

「ノルマ達成できなくてもペナルティーないんだけどなぁ~むしろ、月間で一番頑張った子には社長賞だしているくらいなのに‥‥くどいようだけど、ペナルティーはないんだけどなぁ~」

 

「逆に怪しく聞こえますから、そこ強調しない方が良いですよ。社長」

 

阿部の言い方には河野の言う通り、ペナルティーが無くてもなんらかの罠が存在していそうな雰囲気である。

 

「君、山下って言ったっけ?」

 

「はい」

 

「聞き上手だね、君は‥君に聞かれているとつい、喋りすぎてしまう。ズバリ言うと営業向けの人材ね」

 

「営業!?‥って、船乗りにそんな仕事あるんですか?」

 

「まぁ、まぁ、私が君の才能を引き出せるよう上手く使ってあげるから、さっさと飛び級して近江に編入するんだよ」

 

阿部は山下をスカウトし始める。

 

「無茶を言ってはダメですよ。私たち卒業まであと半年しかないのに‥‥」

 

「じゃあ、ブルーマーメイドになってから私の艦に来ると良い。待っているからね」

 

「ひぃ~‥‥」

 

先輩からのスカウトは嬉しい筈なのに、なぜか阿部の言動から彼女が指揮する艦に配属されたら物凄く苦労しそうな予感がする山下だった。

 

「あ、あの千葉先輩と野際先輩はどの辺を回られたんですか?」

 

内田が話題を変えようと千葉と野際に訊ねる。

 

「ああ、まずは金魚すくいだな」

 

「金魚すくいですか!?平和な感じですね」

 

「ところがそこはなかなか面白くてな、店主と対戦するんだよ。沢山掬った方が勝ちっという事でね」

 

「えぇー?」

 

変わったシステムに内田は首を傾げる。

 

「確か、天津風クラスだったなぁ~そこの艦長がそりゃあもう、ムキになって金魚をすくうんだ。思わずこっちも本気になったよ。ハハハハ‥‥」

 

「全然平和じゃない‥‥」

 

(でも、天津風艦長の性格上なんかわかるかも‥‥)

 

天津風艦長の高橋はとにかく負けず嫌いな性格で勝負事には熱くなりやすい。

 

千葉と高橋が金魚すくいで競い合っている姿が容易に想像できる。

 

「あとは型抜きをやったな。これも店主が接客をそこそこに黙々と型抜きをやっていた。アレは‥‥時津風クラスだったなぁ」

 

時津風艦長の榊原は一度何かをやると周りが見えなくなるほど集中力が凄い子で、サンプル品の制作としての型抜きをやるあまり、つい型抜きに集中してしまい周りが見えなくなっていたのだろう。

 

「二つとも変わった屋台ですね。野際先輩も一緒にやったんですか?」

 

「私はウチの千葉さんが金魚をすくったり、型抜きをしたりする様子を少し離れたところから見ていました」

 

野際本人は金魚すくいや型抜きはやらず、金魚すくい、型抜きをしている千葉を見ていたらしい。

 

「啓子さんが見てくれていると、これがまた燃えるんだよ。ハハハハ‥‥」

 

「あぁ~‥そうですか‥‥」

 

千葉は生まれてきた性別を間違えたんじゃないかと思う内田だった。

 

「まゆちゃん、そろそろ戻らないと」

 

食事と先輩方との交流で時間を思ったより消費した二人。

 

そろそろ映写機の熱も冷めた頃だろう。

 

「おっ、もうこんな時間!?」

 

「先輩の皆さん、どうもありがとうございました。色々お話し出来て勉強になりました」

 

「お先に失礼します」

 

「私たちも楽しかったわ。では、また‥‥」

 

「急いでいるならお会計夜でもいいからね」

 

伊良子が二人にお勘定は後払いで構わないと言う。

 

「ごめんね」

 

「ありがとう」

 

二人は駆け足で映画を上映している三笠へ戻って行った。

 

「さて、我々もそろそろでますか?」

 

宮里たちも食事が終わったので、店を出ようとした時、

 

「ちょっと待ってください!!」

 

あかねが先輩方を呼び止める。

 

「今まで黙って奥に引っ込んどった子がどえらい勢いで来たじゃんね」

 

「これを食べてみてください!!」

 

あかねが先輩方にある料理を出す。

 

「なんだ?これは‥‥?コロッケか?」

 

皿に盛られた料理を見て首を傾げる千葉。

 

「コロッケじゃありません。革命的新メニュー、『肉巻きミルフィーユカツおにぎり』の試作品です!!」

 

あかねは今まで厨房で作っていた新メニューの試作品を先輩方に出して試食を頼んだのだ。

 

「はわわわ‥‥あっちゃん、試作品を先輩たちに持って行っちゃったよ‥‥みんな優しい先輩さんだけど、流石にあっちゃんの試作品は‥‥」

 

「マズくはない‥‥って言うか、味はいいんだけど、いつも奇抜すぎるのよね」

 

ほまれと伊良子はあかねの行動に驚愕すると共に宮里たちがどんなリアクションを取るのかドキドキしながらその様子を窺う。

 

「どれどれ‥‥」

 

「一つ食べてみよう‥はむっ‥‥ん?‥‥ん?」

 

「もぐもぐ‥‥」

 

あかねの試作品を試食する先輩方。

 

「あわわわ‥食べちゃった‥‥」

 

「念のため、お茶を用意しておこう‥‥」

 

宇田の時みたいになったら大変だと思い、ほまれは喉に流し込みやすいようにお茶を用意する。

 

「美味しい!!」

 

「よしっ!!」

 

阿部の反応にあかねは思わずガッツポーズ。

 

「「ええっー!!」」

 

伊良子とほまれは驚愕。

 

「ふむ、こりゃあ美味い!!」

 

「美味しそうに食べていますね千葉さん」

 

「すごく美味しいんだけど、これどういう作りになっているの?ご飯が入っているのね」

 

河野があかねに作り方を訊ねる。

 

「カレー味のご飯を薄切りの豚肉でグルグル巻いて、衣をつけてフライにしてみたんです。これなら立ったままで、片手で食べられますから、忙しくて手が離せない時でも食事ができます」

 

「よく考えられとるじゃん。しかも味もえぇし、腹持ちもかなり良さそうだにぃ」

 

「ウチの艦に最適じゃないか!!毎食これにすれば、食事休憩の時間をゼロに出来る」

 

能村も阿部もあかねの試作品を絶賛する。

 

「止めてください」

 

阿部の食事休憩ゼロ発言にさすがにそれは止めろと河野が止める。

 

「やったー‥‥ついにやったよぉ~革命的艦内食の完成だよぉ~」

 

先輩方のリアクションを見て、あかねが思わず歓喜の涙を流す。

 

「晴風のクラスはユニークな人材の宝庫みたいですね」

 

「ああ、明日の共闘遊戯会が楽しみだな」

 

と、先輩方は翌日の競技を楽しみにして店を後にした。

 

 

 

 

「‥‥って、事があったの」

 

山下と内田は昨日の出来事を他のクラスメイトに話す。

 

なお、試作品の料理部分に関しては、昨日の夜に昼食代を伊良子たちに払いに行った時にあかねが嬉しそうに語っていたのを聞いて知ったのだ。

 

「へぇ~そんなことがあったんだ‥‥」

 

「しゅうちゃん、ブルーマーメイドになったら、その阿部さんの艦に行っちゃうの?」

 

鈴が山下に訊ねると、

 

「うーん‥‥その辺は何とか回避したいんだよねぇ~」

 

阿部と河野の言動から、阿部が艦長を務める艦に配属されたら自分は過労死するんじゃないかと思い、出来るなら遠慮したい山下だった。

 




はいふり世界では第二次世界大戦がなかったので、史実における第二次世界大戦の映画は存在せず、また大和が沈んでいないので、宇宙戦艦ヤマトと言うアニメもゲームもきっと存在していないのでしょう。

もし、大和級の艦長を務めている先輩方に第二次世界大戦の映画や宇宙戦艦ヤマトのアニメを見てもらったら、どんなリアクションをするのか見てみたいですね。

共通としては大和級の戦艦が航空機の攻撃で沈むなんて信じられないでしょうし、阿部や河野は信濃が戦艦ではなく空母になり、廻航途中で沈んだことに複雑な気持ちでしょうね。

阿部のモデルが信濃艦長、阿部俊雄 大佐ですから、同じ阿部姓なので彼女の心境は河野以上なモノでしょう。

千葉と野際は建造さえされていないことに驚きそう。

宇宙戦艦ヤマトを見た宮里と能村以外の先輩方は、なんで大和だけ!?と思いそう。
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