やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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131話

横須賀女子の大講堂内で行われている図上演習競技の決勝戦は、呉、舞鶴、佐世保の先輩方を破った一年生、同じクラス同士の戦いとなっており、一年生同士の戦いにも関わらず、観客席の生徒たちは固唾を飲んで戦いの行方を見守っていた。

 

それは教員である真雪と古庄教官も例外ではなく、教員観客席から二人の試合の成り行きを見ていると、

 

ブブ‥‥!ブブ‥‥!

 

マナーモードに設定されていた真雪のスマホのバイブレーションが揺れて着信を知らせる。

 

真雪がスマホのディスプレイを見ると、

 

「はぁっ!?」

 

彼女は険しい表情を浮かべるとすぐに席を立ち上がり講堂から出ていく。

 

講堂から出ていく真雪の後姿を古庄教官は怪訝な表情で見ていた。

 

真雪のスマホに一体どんな事が表示されていたのかは分からないが、試合はそんなこと関係なしに進んでいる。

 

「艦長!もし私が艦長に勝てたら、その時は‥‥」

 

真白はコマンドを入力し終えると、対峙する明乃に語り掛ける。

 

「うん‥分かっているよ!シロちゃん!」

 

「だから、絶対手は抜かないで下さい!」

 

真白はそう言うが、明乃は真白がこの試合で自分に勝てたら比叡クラスへ移籍すると思っていたが、真白が自分に負けても明乃は真白に対して比叡クラスへの移籍を薦めるつもりでいた。

 

真白が艦長になりたいと思っているのはあの時の航海で分かっている。

 

今、真白にきている話は駆逐艦の艦長ではなく、戦艦の艦長への移籍話だ。

 

艦長になりたいのであれば、駆逐艦よりも戦艦の艦長の方が将来ブルーマーメイドになった時にプラスの学歴になる筈だ。

 

自分や親友のもえかがブルーマーメイドになりたいように、真白もブルーマーメイドになりたがっているのは十分に知っている。

 

だからこそ、明乃は真白に比叡クラスへ移籍して欲しかった。

 

「勿論だよ!そんな事をしたら、シロちゃんには直ぐばれちゃうし!」

 

口ではそう言っても、心の隅では本当に真白と別れていいのかと、明乃自身もまだ真白の移籍話の件はくすぶっていた。

 

「そうですね‥‥」

 

二人はそのまま試合を進める。

 

 

その頃、講堂を出た真雪は校舎内の会議室に来ていた。

 

会議室にあるモニターには真霜の姿が映っていた。

 

「状況は?」

 

真雪は早速、真霜に現状確認をする。

 

「北緯26度、東経135度付近の洋上で試験運用されている水精製プラントが海賊に占拠されたわ」

 

ここにきて、真雪も現在海上で起きているプラントの占拠事件を知った。

 

「確か、植物栽培と人口蛋白合成ユニットが付いている自己完結型の‥‥」

 

「そう、プラントの技術者は全員人質にされている」

 

「やっかいね」

 

このプラントは国土が水没し、食料生産能力が、シュテルが八幡の頃だった前世日本と異なり低下している後世日本にとって、食料生産の大役を担う重要な海上施設であり、そのプラントに居る技師たちも重要な人材‥‥

 

プラントと優秀な人材を失うのは今の日本にとって将来の食糧事情にも関わる話だ。

 

「それだけじゃないの」

 

ただ、事態はこのプラントが占拠されただけではなかった。

 

「南シナ海でモスボールされていた海上要塞も同じ組織とみられる海賊に奪取されて、動き出しているのよ」

 

「何ですって?」

 

「アメリカからの情報だと海上要塞の武装は破壊してあるから使えないらしいわ。但し、プラントと合流したら人質に無理やり修理させるでしょうね」

 

真霜はアメリカ側から提供された情報を信じて、海上要塞は現在非武装で、プラントとのドッキング後にプラントにて人質にしている技術者たちに海上要塞を再武装させると考えていた。

 

「国土保全委員会の方針は?」

 

真雪が日本政府側の反応を訊ねる。

 

「人質救出が最優先。主力をプラントに向けて、海上要塞は余剰戦力でマークする事になりそうよ」

 

日本政府も真霜同様、アメリカ側からの情報を信じて、日本の将来の食糧事情を改善する機能と優秀な人材が人質にされているプラントの奪還を第一目標に設定している。

 

そして、非武装とされる海上要塞は予備兵力でも十分に鎮圧できると考えている。

 

ただし、それはアメリカ側の情報通り海上要塞が非武装だったらの話だ。

 

日本政府もブルーマーメイドもアメリカから提供された現状における海上要塞の情報を完全に信じ切っており、海上要塞が武装されているという可能性を持っていなかった。

 

「この装甲厚ではブルーマーメイドやホワイトドルフィンの艦艇で足止めするのは困難ね‥‥」

 

真霜の隣に表示されている海上要塞の映像から通常のブルーマーメイドの艦船、インディペンデンス級沿海域戦闘艦、ホワイトドルフィンのあきづき型護衛艦の主砲では海上要塞の外部装甲に歯が立たないと予測する。

 

「数で囲んで、乗り込んで止めるしかないわ。向こうに撃てる砲がない間にね」

 

真霜はプラント奪還作戦と同じく、多数の艦艇で海上要塞の針路を妨害し、海上要塞内に隊員を送り込んで白兵戦によって内部から制圧する作戦を検討していた。

 

もし、この世界に航空機が存在していれば機動部隊による航空攻撃で空から爆撃し、海上要塞の足を止める作戦が練られていたかもしれない。

 

「万一、プラントと海上要塞が合流すれば難攻不落なうえ、自給自足が可能になる‥‥」

 

「移動できる海賊行為の拠点‥想定しうる最悪の結末よ」

 

「‥‥」

 

事態はまだプラントと海上要塞のドッキングが完了していないため、真霜の言う最悪の事態は起きていないし、海上要塞と言えど、非武装ならば、ただの動く装甲の塊なので、現時点ではブルーマーメイド、ホワイトドルフィンで十分に対処できると真雪は考えていた。

 

 

真雪が会議室で真霜と海上で起きた事件について現状を確認している中、大講堂では真白と明乃の試合は続いていた。

 

明乃の駆逐艦の雷撃が真白の巡洋艦を撃沈する。

 

「あやつ!さっきから事も無げに低い確率の成功判定を引き当てよる」

 

二人の対戦試合を見ながら、ミーナが明乃は先程から成功確率が低い攻撃コマンドを選んでいる事に気づく。

 

しかし、本来ならば成功確率が低い筈なのに、明乃のコマンドは成功が続いている。

 

「艦長のラッキーとシロちゃんの不運の相乗効果ですかね?」

 

成功確率が低い明乃のコマンドが成功しているのは明乃本人の持ち前の運の強さと真白の不幸体質が合わさっての相乗効果なのではないかと納沙は予測する。

 

「しかし、宗谷もただ、やられている訳ではない」

 

「「えっ?」」

 

「先程撃沈されたのは、今までの攻撃で、既に中破していた艦だった‥宗谷は岬が何処を狙ってくるか読んで、継戦能力の落ちた艦を其処に配置し、被害担当艦としていた」

 

真白は戦闘能力、航行能力がこれまでの攻撃を受け、低下してしまった艦を被害担当艦にして十分な戦力を温存し、明乃の艦隊の砲弾、魚雷を消費させている。

 

そして、再び艦隊から落伍した駆逐艦に攻撃が命中し撃沈される。

 

しかし、この駆逐艦もこれまでの戦闘で中破判定を受けていた艦であった。

 

真白の戦術は昔、みほが雪ノ下と行ったシミュレーションバトルと似た戦術であるが、あの時、雪ノ下は味方にいくら被害が出ようとも、みほの艦隊を殲滅する無意味な突撃だけを繰り返して無駄に艦隊の数を消耗して負けたが、真白は明乃の艦隊の消耗を狙い、回避と後退行動をとり、明乃の艦隊が行動の限界と弾薬の消耗がピークになった時に反転し反撃に転ずるような動きをとっている。

 

「名勝負っス!漫画にしたいくらいの!」

 

「これ、もうどっちが勝つか分んないわ」

 

「口八手八丁ってやつだね!」

 

「それ全然、使いどころ違うから‥‥」

 

駿河の言葉の間違いに対してツッコミを入れる広田。

 

「うぅ~どっちも頑張れ!」

 

鈴は涙声になりながらも真白と明乃両方を応援した。

 

「いや~やられちゃったねぇ~」

 

横須賀女子以外の海洋学校の観客席では、千葉が自分たちの試合を振り返っていた。

 

「ですね~」

 

「まさか、三人そろって、晴風の副長にやられるなんて‥‥」

 

宮里、千葉、阿部の三人は真白と戦い敗北した様だ。

 

第一試合で優勝候補の宮里に当たったのもそうだが、立て続けに宮里以外の優勝候補者たちと対戦対手となった真白の不運は相当なモノであるが、その時の真白は第一試合の宮里を相手にした時と同じく自身の不幸を呪うことなく、明乃を相手にするまで負けられないと言う静かな闘争心を燃やし、優勝候補の先輩方を次々と破っていった。

 

「でも、うちの千葉さんは惜しかったですよぉ~」

 

野際は千葉と真白の試合はギリギリのせめぎ合いで僅かな差で千葉が負けたが、善戦したとフォローする。

 

「いや、私だけじゃないんだ。宮里も阿部もギリギリの所で逆転負けしている。つまりそれがあの子の勝ちパターンなんだ」

 

「千葉先輩のおっしゃるとおりです。終盤の入り口まで、常に優位に運んでいたので、私とした事がつい緩んでしまいました。そして、其処からの驚異的な粘りにやられました」

 

宮里も自分と真白の試合を振り返り、終盤ちょい手前まで自軍が優位に事を運んでいたことに油断して真白に負けたと反省している。

 

「みやさんが珍しく油断したのも無理ないだら。あの子本当についてなかったし、こりゃ勝てると誰でも思うんじゃんね」

 

宮里と真白の試合を見ていた能村自身もあの試合はあのまま宮里がぶっちぎりの圧倒的な差で勝つと踏んでいた。

 

恐らく能村自身も真白と試合をしていたらそう思っていた。

 

自分の攻撃は面白いくらい当たり、真白の艦隊の数は簡単に減っていくのだから当然の結果だと思っていた。

 

しかし、最後の最後で大どんでん返しをくらい、逆転負け‥‥

 

「それにしても悔しいなぁ~」

 

「私も悔しくはありますが、彼女は勝つべくして勝ったと言うべきでしょう」

 

一年生だと侮っていた慢心があったとは言え、逆転負けをしたことに宮里も阿部も悔しがっていた。

 

「何処までも敗北を受け入れない者は、何時か勝利を手にするってヤツか?」

 

「はい。我々も見習うべき感じが有りました」

 

いつまでの敗北を引きづっておらず、この敗北から学ぶこともあると宮里は言う。

 

「で?決勝戦は、晴風の艦長、副長対決と‥‥」

 

「ちょっと、異様な雰囲気ですね。二人とも何か心に期するモノがあるような‥‥」

 

「馴れ合い抜きの真剣勝負が見られるって事だな‥‥歓迎だ!」

 

「図上演習は結果が出なかったけど、クラス総合だと近江はいいところまでいっているよね?専務」

 

「はい、社長。総合二位です。障害物航走、艦砲弾入れ、スキッパーリレー、手漕ぎボート綱引き、水上無差別合戦、全てにおいて五位以内に食い込んでいますから」

 

河野が午前中における競技結果を振り返る。

 

「昨日、皆でリハーサルしたかいがあったねぇ~」

 

どうやら、近江クラスは歓迎祭の後、今日の競技の練習をしていたみたいだ。

 

「私が止めなかったら、徹夜で練習させる勢いでしたからね‥‥」

 

河野が昨日の事を振り返ると、その内容はまさに本物の軍隊並みだったみたいだ。

 

「でも、総合一位は私ら尾張クラスですからね」

 

能村がドヤ顔で現在の成績を阿部に言う。

 

「むぅ~」

 

能村の言葉に阿部は頬を膨らませる。

 

「副長、口を慎みなさい」

 

宮里は能村を嗜める。

 

「いいの!いいのよ!」

 

しかし、河野は構わない様子。

 

「ブラックな人使いだけじゃあ、一位は取れないってことをあず社長に分かってもらわないと」

 

今回の成績結果から、詰め込み過ぎの行動では確かに上位な成績は出せるが、首席‥‥一位は取れないという事を阿部に学んでほしい河野だった。

 

「私たち三河は総合四位ですけど、かっこよさではウチの千葉さんが一位ですから、フフフ‥‥」

 

野際は、成績は現在四位ながらも、もっとも活躍した生徒は千葉であると誇らしげに言う。

 

「ありがとう、啓子さん。しかし、大したものだな、駿河クラスは‥‥まだ一年生だというに、三位につけているのだから‥‥」

 

一位が呉の尾張、二位が舞鶴の近江、四位が佐世保の三河‥‥そして三位は横須賀の駿河だった。

 

「思い出しますねぇ~去年の宮里さんたちを‥‥」

 

「恐縮です」

 

野際は去年の遊戯祭の事を思い出す。

 

現在、二年生の宮里は去年、一年生であり、その時の宮里たちの尾張クラスは二年生、三年生の先輩方相手に奮戦していた。

 

今年のもえか率いる駿河クラスは去年の宮里を彷彿させる活躍を見せていたのだった。

 

 

大講堂で図上演習競技が続けられている中、会議室では、

 

「直ちに競闘遊戯会を中断して、横須賀港内のブルーマーメイド艦を全て出港させる様、来賓に伝えて!」

 

真雪は大事を取って、に競闘遊戯会を中断し、港内に停泊するブルーマーメイド全艦を出撃させる決断を下す。

 

「了解しました」

 

秘書の老松は直ちに真雪の指示を伝えるべく、会議室を後にした。

 

「ふぅ‥‥」

 

真雪が緊張から解放され一息つく。

 

その直後、

 

ビィー!!ビィー!!

 

テレビ電話の着信を知らせる着信音が会議室に鳴り響く。

 

モニターにはブルーマーメイドの隊員が映し出され、

 

「校長、廃棄フロートが動いているのですが‥‥」

 

午前中の競技に使用した廃棄フロートが動いている事を真雪に伝える。

 

「日没後、移動する予定だった筈よ?至急、確認して」

 

「はい」

 

夜に撤去するはずだった廃棄フロートが動いている。

 

潮流にでも流されたのか?

 

いや、あの大きさのフロートがこの辺りの潮流ごときで流されるなんて考えられない。

 

「何故、こんな時に‥‥」

 

海上で起きているプラントと海上要塞の占拠事件に予定時刻よりも早く動いている廃棄フロート‥‥

 

(何か嫌な予感がするわ‥‥)

 

一連の出来事から真雪に猛烈な不安感が襲い掛かった。

 

しかし、真雪の不安はこの後、的中することになり、同時にシュテルがもえかと共に立てた作戦は、立案者自身はこの作戦が実行されることが無い事を祈っていたが、その願いもかなわないことになる。

 

 

その日没後に移動させる予定の廃棄フロートを曳航しているタグボートのブリッジではスーがタグボートを操船しており、その行き先は港内の出入口である港口であり、もう間もなく予定地点に到着するところだった。

 

「Just a little more (あと少しね)」

 

スーはタグボートを操船しながら誰かと無線でやり取りをしている。

 

「slow speed as turn by my signal (私が合図したら微速後進にして)」

 

『‥‥』

 

「?」

 

しかし、ついさっきまで無線でやり取りしていた相手からはうんともすんとも応答がない。

 

「Did you hear me?(聞こえている?)」

 

相手の無線の故障なのかと思い、もう一度、無線で応答を求めるスー。

 

しかし、相手からの応答が返ってくる事はなかった。

 

 

講堂における図上演習の決勝戦は真白、明乃の艦隊の艦艇が入り乱れる乱戦となっていた。

 

「これはもう、どんな不運が起きてもシロちゃんの勝ち‥‥」

 

納沙がモニターを見ながら乱戦状況になっている中でも弾薬や残存艦艇の数と艦種から真白が絶対的に有利だと判断する。

 

「ですね‥‥」

 

「見事じゃ‥‥」

 

「このターンで決着ですね‥‥」

 

真白もこのターンで勝敗が‥‥自分の勝利が確定することを読んでいるみたいだ。

 

「うん、シロちゃん、やっぱり凄いよ!私なんかより、ずっと立派な‥‥」

 

明乃も自身の敗北を認めながらも最後まで戦うことを止めず、最終ターンのコマンドを入力しようとした時、

 

ドゴーン!!

 

ガガガガ‥‥

 

突如、大講堂に大きな衝突音と衝撃が襲い掛かった。

 

「わっ、うわっ!?」

 

「はっ!?」

 

衝突音と衝撃のすぐ後に爆発音もした。

 

あの廃棄フロートが港の港口で座礁し、爆発、着底した。

 

その時の衝撃で周辺の海は大波が発生し、廃棄フロートを曳航していたタグボートは木の葉のように揉まれ、タグボートに乗っていたスーは海へと放り出されてしまった。

 

廃棄フロートが港口で爆沈し着底してしまったせいで港内に停泊していた艦船は出港不能となってしまった。

 

当然この廃棄フロートの衝突音と爆発音は校舎内でも確認でき、シュテルたちが居たコンピューター室でもその轟音は聞き取れた。

 

「な、なんだ!?」

 

「一体何が‥‥」

 

三人が急いでコンピューター室から出て海が見る桟橋近くまでいくと、爆発により屑鉄となったフロートが港の出入り口を塞ぐ形で着底している。

 

「や、やられた‥‥」

 

シュテルは着底しているフロートを見て、苦虫を嚙み潰したように顔を歪める。

 

「どういうことでしょう?」

 

「あれはアイツらの仕業だ‥‥今、プラントと海上要塞を占拠しているテロリストどもの‥‥」

 

「「えっ?」」

 

「完全にやられた‥‥連中の足止めは潜水艦か機雷かと思ったが、まさかブルーマーメイドの艦艇が出撃する前にその動きを封じ込めるなんて‥‥」

 

シュテルの当初の予測では海上においてプラントと海上要塞に向かってくるブルーマーメイドとホワイトドルフィンの艦艇を潜水艦と機雷で足止めするかと思われたが、テロリストたちの方が一枚上手で出撃前のブルーマーメイドの艦艇の動きを封じ込めてきた。

 

 

かつて、アメリカとスペインとの戦争、米西戦争におけるサンチャゴ・デ・キューバ海戦にて、アメリカがスペインの艦隊の動きを封じ込めるため、スペイン艦隊が停泊しているサンチャゴ・デ・クーバ港の出入り口に汽船を沈めて艦隊が出て来れなくする作戦をとったことがある。

 

日本もこのアメリカ軍の作戦を参考にして、日露戦争の折、旅順港に引きこもっているロシア東洋艦隊を封じ込めようと広瀬武夫少佐らの決死隊が閉塞船団を組んで、旅順港の閉塞作戦を実行した。

 

アメリカ、日本いずれの閉塞作戦は陸上に設置された砲台からの砲撃で失敗に終わったが、今回のテロでは港の出入り口に砲台なんて設置されておらず、接近する廃棄フロートに気づいた時には、既に時遅く着底するには絶好のポイントまで来ていた。

 

「‥‥もかちゃん」

 

「ん?」

 

「残念だけど、あの作戦‥実行しないといけないみたいだ」

 

シュテルはもえかに自嘲するような笑みを浮かべながら自分たちが立てた作戦を実行に移さなければならない事態になったことを伝える。

 

「メイリン」

 

「はい」

 

「ジークに連絡‥‥急ぎ、機関科のメンバーを集めてボイラーに火を入れ、出航準備を整えるように伝えて」

 

「は、はい」

 

シュテルからの指示を受け、メイリンはヒンデンブルク機関長のジークに連絡をいれる。

 

同様にもえかも駿河の機関長に連絡を入れている。

 

「さて、次は先輩方に作戦の説明をしないとな‥‥もかちゃん、面倒かもしれないけど頼めるかい?」

 

シュテルはもえかに自分たちが立てた作戦内容が書かれた紙の束を見せる。

 

「はい」

 

もえかは迷うことなくシュテルから作戦書を受け取り、他校の尾張級の艦長である先輩方の下へと向かった。

 

シュテルたちとはちょっと離れた桟橋にて、明乃たち晴風クラスのメンバーもこの轟音の正体を確認しに桟橋に来ていた。

 

山下が双眼鏡で着底した廃棄フロート周辺の様子を見ている。

 

「ん?あれは‥‥」

 

明乃はフロートではなく、その近くのタグボートの周辺を目を細めて見るが、何分距離があり、よく見えない。

 

「ちょっと貸して」

 

明乃は山下から双眼鏡を借りて海を見る。

 

そこにはブルーマーメイドのスキッパー隊により救助されたスーの姿が見えた。

 

「スーちゃん!?」

 

「えっ?艦長!!」

 

明乃は救助されたのがスーだと知ると、踵を返して走り出し、真白もその後を追いかけた。

 

 

廃棄フロートの爆沈着底を見に桟橋に来たのは横須賀女子の生徒だけではなく、遊戯祭に招待されている他校の先輩方も来ていた。

 

「こりゃ一体‥‥」

 

「どういう事やて?」

 

「廃棄フロートが爆沈している」

 

港の出入り口で爆沈、着底している廃棄フロートの姿を見て先輩方も唖然としている。

 

「フロートに人はいない様だが‥‥」

 

「あれは!?港の出入り口を塞ぐ形になっていますね!」

 

「嫌な予感がする‥‥港内のブルーマーメイド艦が外に出られなくなっている」

 

ただの事故には見えず、まるでブルーマーメイドの艦を外に出さないように港の出入り口を塞ぐ形で着底している廃棄フロートの姿を見て先輩方も胸騒ぎを覚える。

 

「阿部先輩のおっしゃる通り、危険な状況です」

 

その時、背後から声がして先輩方は振り返る。

 

『あっ!?』

 

そこには紙の束を抱えたもえかが立っていた。

 

「君は駿河艦長の‥‥?」

 

「はい、知名もえかです。みなさんに相談したい事が有って来ました」

 

「いきなりだなぁ~‥‥って言うか、この騒ぎの中で良く見つけられたね、私たちを」

 

桟橋は横須賀、呉、舞鶴、佐世保の生徒でごった返してしる中、もえかはピンポイントで自分たちを見つけ出している。

 

「状況が一番よく確認できるのはこの地点ですから、先輩たちは此処に居るんじゃないかな?って思って‥‥」

 

「なるほど‥で?相談って言うのは?」

 

「協力していただきたいんです。私たち尾張級四隻の力が必要になります」

 

「話がデカいなぁ~君は」

 

阿部はもえかの話のスケールに大げさだと若干呆れている。

 

いくら嫌な予感がしても何も尾張級の全てを使う事態なのかと思っているのだ。

 

「ちょっと、待って‥さっき貴女が言った危険な状況とは?具体的には何なの?」

 

この時点で学生らにはまだ海上プラントと海上要塞がテロリストたちの手によって占領されたことは知らされておらず、今目の前で起きている廃棄フロートの爆沈も事故ではないかと思われているレベルだった。

 

しかし、宮里はもえかの話と眼前の廃棄フロートの現状を見る限り、何かが起きている事は確信めいていた。

 

「ブルーマーメイド艦を港に封じ込める形で大規模な海洋テロが行われようとしています。具体的には海水淡水化装置と植物生成機能を搭載したプラントと移動式海上要塞を合流させて自給自足が可能なテロ行為の拠点を建設することが目的だと見積もります」

 

「あんた、ソレ、何を根拠に言っとるの?」

 

「ずいぶん突拍子もない話に聞こえますけど‥‥」

 

あまりにもスケールがデカすぎる話でその話が本当なのか疑いたくなる。

 

能村がもえかにちゃんとした確証があるのかを訊ねる。

 

野際ももえかの話には懐疑的だ。

 

「根拠はあります‥‥コンピューターに強い方が海上安全整備局のコンピューターにハッキングをかけて掴んだ情報です」

 

「海上安全整備局のコンピューターにハッキング!?」

 

「ほぅ~まさか、海上安全整備局のコンピューターにハッキングをするなんて、その人、なかなかのスキルだね」

 

もえかはメイリンの名前は出さずにどうやって情報を掴んだのかを先輩方に伝える。

 

「これがその情報をプリントアウトしたものです」

 

もえかは先輩方に海上安全整備局のコンピューターをハッキングし、現在起きている海洋テロの情報が書かれたページのコピーを手渡す。

 

「確かに‥‥」

 

「これは危険な状況ね‥‥」

 

海上安全整備局が正式にブルーマーメイドとホワイトドルフィンに通達した情報なので誤報や演習内容という訳ではなく、実際に起きている海洋テロだ。

 

「主張も根拠も明白になった」

 

「っていうか、君もハッキングした子も無茶苦茶するなぁ~」

 

「ウチの社長に無茶苦茶呼ばわりされる人を私、初めて見ましたよ」

 

「と言うか、何で海上安全整備局のコンピューターをハッキングしようと思ったんだ?」

 

理由もなく、海上安全整備局のコンピューターにハッキングをかけるなんてそれこそ、サイバーテロだと思われかねない。

 

何かしらの確証がなければそんなことはしない。

 

「昼休み、来賓でいらっしゃっているブルーマーメイドの皆さんの様子がちょっと‥‥雰囲気に違和感があったので‥‥」

 

「それだけの理由で海上安全整備局のコンピューターにハッキングをかけるのか?君は!?」

 

「結果的に当たっている訳だけど‥‥自分の直感に純粋るためには手段を選ばないのね、貴女」

 

「ブルーマーメイド艦で出動できるのは宗谷真冬さんのべんてんのみ‥‥あとはホワイトドルフィン艦隊‥‥これらは全て人質がいるプラントに回されます」

 

ここまでの情報でシュテルともえかの立てた作戦の内、不幸中の幸いと言えるのが、真冬が艦長を務めるべんてんが廃棄フロートの閉塞を免れたことだった。

 

「海上要塞の足止めには学生艦で対処するしかありません」

 

「でも、情報では武装はついとらんと言っとっただら」

 

「その確証は無いと思料します」

 

もえかはアメリカから提供された情報は信用できず、海上要塞は武装されていると見た方が良いことを伝える。

 

「そこで、尾張級の出番か‥‥なるほど」

 

「はい‥本来ならばブルーマーメイドの大和級を使えればいいのですが‥‥」

 

「肝心の大和級が閉塞されて港の外に出れない‥‥」

 

「専務、ウチの艦に人を送り込んで、機関科最優先で」

 

「はい、社長」

 

「副長、ウチも罐に火を入れておきましょう」

 

「了解」

 

「啓子さん」

 

「指示を出しておきました」

 

「ありがとう」

 

「ご理解できありがとうございます。尾張級の他にドイツのヒンデンブルクも協力してもらえるみたいで、既に出航準備を行っています。そして、これが今回の作戦計画書です。現状、多少異なる点が起きましたが、おおむねこの作戦の通りにです」

 

もえかは次に先輩方にシュテルと共に立案した作戦書を手渡す。

 

「予定航路‥‥接触設定日時‥‥よく練られているわね」

 

「艦隊編成は‥‥ん?旗艦が駿河になっているが‥‥」

 

「いや、いや、いや、いや、この非常時に一年生が旗艦とかないから」

 

「そうだな、此処は我々、三河が旗艦をやろう。テロリストが接舷し乗り込んできた時、もっともよく戦えるのはウチの艦だ」

 

「失礼ながら申し上げますと、今回の任務において統制射撃を行うのは旗艦が合理的ではないでしょうか?主砲の命中率は私たちの方が先輩方よりも優秀です」

 

「ウチの砲術員なら二十四時間撃ち続けられるよ」

 

「非常時だからこそ、ホントそう言うは止めてください、社長」

 

やはり、シュテルの読み通り、旗艦について先輩方は異議を申し上げてきた。

 

(シューちゃんの読み通りの展開になってきたね)

 

「でも、おそらく駿河が旗艦になりますから」

 

『はぁっ!?』

 

「どういうことなの?」

 

「まず、多分ですけど‥‥ウチの校長先生が自ら駿河に乗り込んで指揮を執ろうとします」

 

「そうか、お宅の校長、来島の巴御前だもんな」

 

「ありえるわね」

 

「ですが、多分、国土保全委員会から横やりが入ります」

 

「どんな横やりだて?」

 

「プラントと海上要塞の二正面作戦となるので、『宗谷校長は陸上に残り統合作戦参謀をやってほしい』と言う要請が来るのではないかと‥‥海上治安維持法第十一条にブルーマーメイド関係者を一時的、強制的に引用する条文がありますから」

 

「国土保全委員会がやりそうなことではあるけど‥‥どうかな?」

 

「そして多分、校長先生は自分が陸上に残る代わりにブルーマーメイドの宗谷真霜さんを駿河に乗せて現場の指揮官に据える‥‥このようにして駿河が艦隊旗艦になると思います」

 

「多分、多分って言っている割にはまるで見てきたように話すね、君は」

 

「でも、多分、こうなりますよ」

 

(シューちゃんの読み通りならね)

 

(でも、ここまでシューちゃんの読み通りだから、多分そうなるかな)

 

「仮定の話をされてもねぇ~」

 

「‥‥よし、分かった。じゃあ、君の言う通りの展開になったら我々は、一切異論は唱えず、駿河を旗艦とし、統制射撃も駿河に従うよ」

 

千葉はもえかの作戦どおりの展開となったら黙って従う事を誓う。

 

「ウチもそれでいいよ。だって物事がそこまでうまく都合よくなれば経営者は誰も苦労しないよ」

 

千葉に続き、阿部もそれで良いと言う。

 

「私たちも異論はありません」

 

宮里も千葉、阿部同様、もし今後の展開がもえかの言う通りの展開となれば従うと言う。

 

「じゃあ、この子の予想が外れた時にどこが旗艦になるかじゃんけんでもして決めておくか」

 

千葉が阿部と宮里にもえかの予想外の展開となった場合の旗艦を決めるためにじゃんけんでもして旗艦を決めようと提案する。

 

「千葉さん、グットアイディアですよぉ~」

 

「だろう?」

 

じゃんけんを始めた先輩方を尻目にもえかは出撃準備を整えるためにその場を後にした。

 

真雪、そしてブルーマーメイド隊員が知らぬ間に学生たちは自分たちに出来る事をやり始めたのであった。

 

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