やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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138話

ヒンデンブルク 艦橋

 

 

「あ”ぁ”~朝日が目に染みる~」

 

艦橋から入る朝日の光にシュテルが目を細める。

 

横須賀女子で行われた遊戯祭の最中に起きた二つの海上テロ事件‥‥

 

日本が建造した海上プラントは宗谷真冬率いるブルーマーメイドがプラントを奪還し、アメリカのモスボールとなった海上要塞は、横須賀女子の航洋艦、晴風が要塞内部に突入し、動力部を破壊して、要塞を止め、要塞から脱出したテロリストたちはホワイトドルフィンの手によって逮捕された。

 

要塞が停止し、テロリストたちが逮捕された時には水平線から朝日が昇り始めていた。

 

「結局、完徹になっちゃいましたね」

 

舵輪を握りながら苦笑するレヴィ。

 

横須賀を出たのが昨日の夕方であり、半日海の上でドンパチしていた訳である。

 

「みんなもご苦労様。各自、交代で休んで」

 

シュテルは艦橋に居たクラスメイトたちに声をかけて、交代で休むように伝える。

 

 

海上要塞は動力部を破壊されているので、自走不可能な状態となっているので、ホワイトドルフィン艦隊が曳航準備をしている。

 

要塞に関してはホワイトドルフィンに任せ、武装されていた事に関しては外務省と真雪に任せて、混成艦隊は横須賀へと帰還行動に入る。

 

晴風もそんな艦隊の一隻であり、艦橋では要塞を止めたと言う高揚感で満ち溢れていた。

 

そんな中、

 

「艦長‥‥」

 

「ん?」

 

真白が明乃に声をかけた。

 

「艦長‥私もようやく、オールウェイズオンザデッキの意味が理解できた気がします」

 

「えっ?」

 

これまでの航海の経験から真白は一皮剥けた様で、

 

「決めました」

 

遊戯祭の中で古庄教官から提案された話について結論を出した。

 

真白の様子を明乃は唖然とした様子で見ている。

 

果たして真白は比叡クラスに移籍してしまうのか?

 

それとも、晴風クラスに残留するのか?

 

明乃はドキドキしながら真白の答えを待つ。

 

「私‥艦長になります!」

 

「っ!?」

 

真白の答えを聞いて、明乃は目を見開く。

 

真白は確かに『艦長になる』と言った。

 

艦長になる‥‥それは比叡クラスへ移籍するという事だ。

 

「シロちゃん」

 

真白の答えを聞いて明乃は、俯き寂しげな顔をする。

 

真白の結論は比叡クラスへの移籍であり、それは晴風クラスから真白が出て行ってしまうという事だ。

 

正直に言えば、明乃は真白に晴風クラスから出て行ってほしくは無かった。

 

自分は立派な艦長と言えるのか絶対の自信はない。

 

自分の足りない部分を真白が補ってくれた。

 

その真白が自分の下から去ってしまう。

 

しかし、真白が出した結論は彼女が悩んで悩みぬいた結論であり、自分が引きとめるなんておこがましい事だ。

 

真白は入学当初、艦長になりたがっていた。

 

その彼女の願いが叶ったのだから、本来ならば喜んであげる筈なのに素直に喜べない。

 

学校を卒業したら、クラスメイトの進路はバラバラになるだろうけど、せめて高校生活の三年の間は一緒に過ごしたかった‥‥

 

このまま別れてしまうのか?

 

明乃の不安をよそに真白は水平線を見ながら、

 

「でも、それは今じゃないんです」

 

と、言葉を追加した。

 

「えっ?」

 

真白の言葉を聞いて、明乃はバッと顔を上げる。

 

「晴風にいれば、この後も間違いなく、色々とんでもない事に巻き込まれるに決まっています。私が艦長になる為には、もっともっと経験が必要です。それに艦長は私が居ないと、無茶ばかりしますからね。誰かが艦長の暴走を止める防波堤が必要でしょう?」

 

「えっと‥それって‥‥」

 

「だから、私は晴風に残ります!」

 

真白は晴風クラスの残留を選んだ。

 

「ありがとうシロちゃん!」

 

明乃は余りの嬉しさに真白に抱き付く。

 

彼女が晴風に残ってくれることが‥‥

 

これからも一緒に航海をすることが出来る事を‥‥

 

様々な出来事があったが、こうして学生たちの海上テロ事件は幕を下ろしたのだった。

 

 

ヒンデンブルク 艦橋

 

「おつかれ、クリス、メイリン」

 

作戦が終了し、ヒンデンブルクへ帰還したクリスとメイリンは学生服ではなく、飛行服のまま艦橋へと戻った。

 

そんな二人にシュテルは労いの言葉をかける。

 

「ただいま、帰還しました。艦長」

 

クリスとメイリンの二人はシュテルに敬礼し帰還報告をした。

 

「二人共、疲れたでしょう?夜、ずっと空を飛んでいて‥横須賀に着くまで、シャワーを浴びて、ゆっくり休んで」

 

「はい」

 

「では、失礼します」

 

夜間、燃料のある限りずっと空を飛んでいたのだから、夏の季節とは言え、キャノピーの無いメーヴェでは風に吹かれ続け、身体も冷えただろうし、アルミ箔を撒き、常に弾着観測をしていたのだから疲労も困憊だろう。

 

その為、シュテルは二人にシャワーを浴び、休むように伝えた。

 

帰路では、テロリストの襲撃もなく平和な航海であったが、学生たちは完徹だったため、眠そうだった。

 

 

横須賀女子海洋学校の校舎船の桟橋近くでは、一つのテントがあり、そのテントの近くでは、みほが双眼鏡で水平線の彼方を見ていた。

 

「西住殿、おはようございます。早いですね」

 

「うん‥‥」

 

テントの中から秋山が寝ぼけ眼のまま出てきた。

 

寝ぐせのため、ただでさえモジャモジャしていた髪がさらに爆発しており、すごいことになっていた。

 

しかし、みほはそんな秋山の惨状には興味ない様子で、ただジッと海を見ている。

 

みほと秋山が何故この場にテントを張っているのか?

 

それは昨日の夕方、プラント及び海上要塞奪還のため、混成艦隊が出撃する際、みほはその混成艦隊の一隻であるヒンデンブルクの艦長であるシュテルを見送りに来た時、シュテルから艦長帽を預かった。

 

混成艦隊にはホワイトドルフィン艦隊や他の戦艦もいるので、多少の苦戦はあるだろうが、撃沈されると言う事態は起こらない筈だ。

 

なにせ、奪還予定の海上要塞は非武装なのだから‥‥

 

しかし、非武装の要塞相手にもかかわらず、混成艦隊の帰りは遅く、夜の九時を過ぎても艦隊は戻ってこなかった。

 

この時、みほは非武装とされた要塞がテロリストたちの手によって再武装化されていた事を知らなかった。

 

あまりにも帰りが遅いヒンデンブルク‥シュテルの身を案じるみほ。

 

混成艦隊の戦況情報など、一学生であるみほの下には知る由もなく心配になるみほだった。

 

そんなみほの様子を見て、秋山は、

 

「西住殿、もう遅いですし、寮に戻りませんか?」

 

秋山はみほに寮へ戻らないかと提案するがみほは、

 

「うん‥‥私はもう少し待っている‥‥優花里さんは先に戻っていていいよ」

 

みほは、ヒンデンブルクが戻ってくるまでこの場で待っているみたいだった。

 

ヒンデンブルクがいつ戻ってくるのか、不明なためみほにこの場で野宿をさせる訳にはいかないと思った秋山は、

 

「ならば、西住殿。テントや寝袋を用意いたしますので、今日はここでキャンプしませんか?」

 

「うん‥‥ありがとう、優花里さん」

 

「いえいえ。では、私はキャンプに必要なモノを急いで取ってきますね!!」

 

「うん、お願い」

 

秋山は急いで寮の自室へ戻り、キャンプに必要な道具を取りに戻る。

 

(西住殿とキャンプ‥‥ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!)

 

理由はどうあれ、秋山はみほと二人っきりでキャンプ出来ることに秋山のテンションは異常なほど高かった。

 

急いで寮の部屋からキャンプ道具を取ってきた秋山は手慣れた様子でテントを設営していく。

 

「優花里さん、手伝おうか?」

 

テントを設営している秋山にみほは自分もテントの設営を手伝おうかと声をかけると、

 

「いえいえ、西住殿の手を煩わす必要はありません!」

 

秋山は自分一人で出来ると言ってそのままテキパキとテントを設営していき、あっという間にテントが出来た。

 

とは言え、夕食は学校の敷地内なので、焚火をする訳にもいかないので、カセットコンロでお湯を沸かして作るカップ麵だけとなったが、それでもキャンプで食べるカップ麺は普段から食べ慣れているカップ麺とひと味違うように感じる。

 

「西住殿。どうぞ、コーヒーです」

 

「ありがとう」

 

夕飯のカップ麵を食べ終えると、秋山は金属製のマグカップにインスタントコーヒーを淹れ、みほに手渡す。

 

流石にずっと立っているのも疲れるだろうと秋山はちゃんとキャンプチェアも用意しており、みほと秋山の二人はキャンプチェアに座り、海を見ながらコーヒーをチビチビと飲む。

 

「戻ってきませんね‥‥」

 

「うん‥‥」

 

校舎の桟橋付近から見える夜景は普段と変わらない夜景でこの海の向こうで大規模な海上テロ事件が起きているなんて信じられなかった。

 

「‥‥あ、あの、西住殿‥‥」

 

秋山はこのキャンプが始まってから気になっていた事をみほに聞いてみることにした。

 

「ん?何?」

 

「あの‥‥その艦長帽は一体‥‥?」

 

そう、みほの頭にはシュテルが彼女に預けたキール校の艦長帽を被っていたのだ。

 

シュテルがみほに艦長帽を預けた時、その場に秋山は居なかったので、横須賀女子の艦長帽と異なるデザインの艦長帽を被っているみほに違和感を覚えていたのだ。

 

「見たところ、我が校の艦長帽と異なる校章が着いているみたいですが‥‥」

 

「あっ、これ?」

 

みほはまるで壊れ物を扱うかのようにゆっくりと頭に被っていた艦長帽を脱ぐ。

 

「ヒンデンブルクの碇艦長が出撃前、私に預けてくれたの‥‥碇艦長は必ず私の下にこの帽子を取りに来るって‥‥」

 

「‥‥」

 

みほは自身が被っていた艦長帽を持っていた経緯を秋山に語る。

 

その時のみほは同性でも見惚れてしまうくらい、ほんのりと頬を赤らめて微笑む顔がまぶしかった。

 

しかし、その理由にシュテルが関係していると思うと素直に喜べない秋山だった。

 

その後、二人は交代で寝起きをしながら混成艦隊の帰還を待った。

 

やがて、水平線から朝日が昇り始め、徐々に太陽が昇ってきた頃、

 

 

ボォォォォォ~!!

 

 

水平線の彼方から船の汽笛が聴こえてきた。

 

その時、みほはテントの中で寝袋にくるまっていたが、船の汽笛音を聴くと、反射的にバッと起き上がり、テントの外に出ると双眼鏡で海の方を見る。

 

「あっ、西住殿。おはようございます」

 

「‥‥」

 

秋山がみほに声をかけてもみほはジッと双眼鏡で海を見ている。

 

「に、西住殿ぉ~」

 

みほに相手にされなかった秋山は涙声を出して項垂れる。

 

「帰ってきた!!」

 

双眼鏡を覗くみほの視線には海上テロ事件を解決し、横須賀に戻ってきた混成艦隊の姿があった。

 

その艦隊の中には当然、ヒンデンブルクの姿もあった。

 

みほはシュテルの艦長帽を被り、桟橋へと走って行った。

 

 

ヒンデンブルク 艦橋

 

「やっと着いた‥‥」

 

クリスがヒンデンブルクに帰還した後、休んでいたのでシュテルは海上要塞との海域から横須賀までの航路の間、休むことなく艦を指揮していた。

 

「あぁ~眠い‥‥これで、この後、戦況報告書を提出しろなんて言わないよな‥‥」

 

Rat事件の時のように今回の海上要塞との戦闘報告書の提出が求められた。

 

当然、今回の海上要塞との戦闘報告書も提出を求められるだろうが、流石に今日中の提出はないだろう。

 

シュテルとしては今すぐにでもベッドに飛び込みたい気分だった。

 

「あっ、ベッドに行く前に西住さんの所に行って艦長帽を返してもらいに行かないと‥‥」

 

出撃前にみほに艦長帽を預けていた事を思い出したシュテルはベッドに入る前にみほから艦長帽を返してもらわなければならないことを思い出した。

 

「投錨地点に接近、入港準備」

 

「入港準備!!総員配置に着け!!」

 

ヒンデンブルクの艦内に入港を知らせる放送と鐘の音が鳴り響く。

 

休んでいたクラスメイトたちも入港準備となり、ベッドから飛び起きる。

 

「機関、微速前進‥‥機関停止‥‥Let go anchor!!」

 

「Let go anchor」

 

投錨海域に到着したヒンデンブルクは錨を海へと投錨する。

 

鎖の轟音と錨が海へと落ちる水音が甲板に響く。

 

「投錨完了」

 

「はぁ~‥‥やっと終わった‥‥」

 

完全に停船し、ようやく終わったと一息するシュテル。

 

「では、順次、内火艇で退艦」

 

ボイラーの火を落とし、クラスメイトたちは順次、内火艇でヒンデンブルクから下りていく。

 

シュテルは艦長職なので、一番最後の内火艇でヒンデンブルクを下りた。

 

「艦長、お疲れ様です」

 

「お疲れ様です」

 

「うん、お疲れ様~」

 

シュテルと共に最後の内火艇に乗っていたクラスメイトたちと別れて、みほから艦長帽を受け取りに行こうとした時、

 

「シュテルンお疲れ~」

 

「お疲れ~」

 

「ああ、クリス、ユーリ、お疲れ~」

 

「シュテルン疲れたでしょう?早く帰ろう」

 

「うん、でも、その前にちょっと寄る所があるから、二人は先に寮に戻っていて」

 

「寄る所?」

 

「まさか、駿河か晴風の艦長の所?」

 

ジト目でシュテルとみてくるクリスとユーリ。

 

「違うよ、西住さんの所に行って預けていた艦長帽を受け取りに行くんだよ」

 

シュテルは要件を二人に伝え、足早にその場から去った。

 

「さてと、西住さんは何処にいるのかな?」

 

みほと待ち合わせ場所を決めていなかったので、みほを探そうとしたが、意外にもみほはすんなりと見つかった。

 

「碇艦長!!」

 

「あっ、西住さん」

 

帰還したヒンデンブルクを見つけ、みほはすぐにキャンプしていた場所から急いで内火艇が到着するであろう港湾地区まで来たのだ。

 

「碇艦長、お帰りなさい」

 

「‥シュテル・H(八幡)・ラングレー・碇。ただいま帰還しました」

 

シュテルはみほに敬礼し、自身が無事に帰還した事を告げる。

 

「お疲れ様でした。碇艦長」

 

みほもシュテルに返礼する。

 

「お預かりしていた帽子です」

 

みほはシュテルにキール校の艦長帽を差し出す。

 

「確かに、受け取りました」

 

みほから艦長帽を受け取り頭に被るシュテル。

 

「遅かったから心配しちゃった。無事に戻ってきてよかったよ」

 

「約束したからね‥‥ふあぁ~」

 

眠気を我慢していたシュテルであったが、みほの前であくびが漏れる。

 

「あっ、ゴメン‥‥」

 

「碇艦長、目の下に隈があるけど、寝ていないの?」

 

「うん‥‥昨日の出撃から今まで一睡もすることなく完徹で、今ベッドに倒れこんだら、速攻で寝られる自信がある」

 

シュテルの目の下にはくっきりと隈が浮かび上がっており、瞼はもう閉じそうであった。

 

「あっ、それなら、昨日この近くでテント張ったから、そこで休む?」

 

「‥‥うん‥そうする」

 

シュテルは寮まで持ちそうになかったので、みほの提案を受け入れ、みほが昨夜泊まったとされるテントで仮眠をとることにした。

 

「あっ、もしもし、優花里さん?そう‥それで、碇艦長が徹夜だったみたいで、かなり眠そうなの。それで、テントで休ませたいの」

 

みほはスマホで秋山に連絡をとり、テントでシュテルを休ませる旨を伝えた。

 

テントにつくと秋山の姿はなかった。

 

きっと、みほが秋山にしばらくの間、時間を潰す様に頼んだのだろう。

 

「さっ、ゆっくり休んで」

 

「うん‥ありがとう‥‥ごめんね‥‥」

 

「あっ、制服がしわになっちゃうから、脱いで」

 

「ああ、そうだね」

 

シュテルは艦長帽を脱ぎ、次いで上着のジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを緩める。

 

しかし、そこでシュテルは力尽き、テント内の寝袋の上に倒れ、そのまま死んだように眠ってしまう。

 

「碇艦長‥もう、寝ちゃったんだ‥‥それほど疲れていたんだね」

 

眠っているシュテルを見て、相当疲れていた事が窺える。

 

しかし、

 

「あっ、碇艦長‥下も脱がないとしわになっちゃう‥‥」

 

シュテルはズボンはそのまま穿いた状態のまま眠っている。

 

「‥‥」

 

みほは周囲を確認し、テントの中に入ると、シュテルの穿いているズボンのベルトを緩め、次いでズボンのチャックに手をかけた。

 

「せ、制服をシワシワにしちゃいけないし、そ、それに、お、女の人同士だし、だ、大丈夫だよね?」

 

シュテルの制服のズボンを脱がしたみほは、顔を赤らめながらシュテルのズボンがシワにならないように丁寧に折りたたんだ。

 

疲れ切っていたシュテルはみほがズボンを脱がしていた事に気づかずに眠っている。

 

「‥‥」

 

シュテルの眠っている姿を見て、みほもなんだか眠くなってきた。

 

昨夜、秋山と交代しながら仮眠をとっていたとはいえ、やはり完全に眠気が無い訳ではなく、眼前で眠っているシュテルを見ていると、なんだか自分も眠くなってきたのだ。

 

「私も少し寝ようかな」

 

みほもシュテルの隣で横になる。

 

すると、

 

「うーん‥‥」

 

ギュっ

 

「ふぇっ!?」

 

シュテルがみほに抱き着いてきた。

 

突然のシュテルの行動に度肝を抜かれるみほ。

 

しかし、シュテルの行動はまったくの無意識の行動なので、決して意図があった訳ではない。

 

「はわわわわ‥‥」

 

眼前にシュテルの寝顔がある。

 

ちょっとクセがある茶色の髪に、長いまつげ、桜色の唇からは静かな寝息が聞こえる。

 

シュテルはギュッとみほを抱きしめて起きる気配がない。

 

シュテルの寝顔を見て、抱きしめられているこの状況下でみほの思考回路がグルグルと混乱していき、それと同時に眠気が襲い掛かり、瞼が段々と重くなってきた。

 

そして、いつの間にかみほの意識はブラックアウトした。

 

 

「う、うーん‥‥えっ!?」

 

重い瞼をシュテルが開けると、眼前にはみほの寝顔が映し出される。

 

「に、西住さん!?」

 

シュテルは当然、驚くがさらに、

 

「えっ?下‥ズボン穿いてない‥‥」

 

ここで下に違和感を覚え、自分がズボンを穿いていない事に気づく。

 

「えっ?寝る前、ズボン脱いだっけ?」

 

帽子と上着、ネクタイを脱いだ記憶はあるがズボンを脱いだ記憶はない。

 

困惑する中、みほが寝ているので声を上げる訳にはいかない。

 

時間が経てばみほも目が覚めるだろうから、シュテルはただジッとその時を待った。

 

そして、目覚めたみほが驚いたのは言うまでもなかった‥‥

 

「そ、その‥‥ごめんなさい」

 

「ん?」

 

仮眠をとり、シュテルが制服を着ている時、みほがシュテルに謝ってきた。

 

「いや、互いに疲れていたし、ズボンに関しても西住さんがシワにならないようにやってくれた行為だから、怒る理由はないから大丈夫だよ。気にしないで」

 

「あっ、う、うん‥‥」

 

その後、シュテルはみほからコーヒーを一杯ごちそうになり、寮へ戻った。

 

寮への帰り道の途中で、

 

「あっ、シューちゃん」

 

「もかちゃん」

 

もえかに出会った。

 

「シューちゃん、もうお昼は食べた?」

 

「まだ‥‥っていうか、さっきまで寝ていたよ。あれから、完徹だったから、港に着いた時はもう、フラフラだったからね‥‥もかちゃんは平気だったの?」

 

「うん、私は帰りに休むことが出来たから」

 

シュテルは完徹であったが、もえかは横須賀への帰路の中、仮眠する時間があったので、特に眠そうな様子はない。

 

完徹だったシュテルは泥のようにみほのテントで仮眠したが、みほと別れてから時間を確認しなかったが、時計を見てみると、時刻はもうすぐ十二時になろうとしていた。

 

「シューちゃん、もしよければお昼ご飯、私と一緒に食べない?」

 

「うん、いいよ」

 

特に今日の昼ごはんの予定を決めていなかったので、シュテルはもえかとお昼ご飯を食べることにした。

 

 

「ズルズル‥‥ムシャムシャ‥‥ゴクン‥‥うん、美味しい。蕎麦どくとくの香りと風味があって、コシもしっかりとしている」

 

シュテルはもえかが打った蕎麦を食べていた。

 

クラスの親睦会、そして歓迎祭の時、もえかは蕎麦を打っていた。

 

その為、今日のお昼はもえかの誘いを受けて駿河クラスが展示していた蕎麦屋の屋台で摂っていたのだ。

 

長野出身のもえかが打った蕎麦は美味しかった。

 

原料はかなり凝っており、長野県産100%の引きぐるみの蕎麦粉を使用し、高温のお湯で茹でた後、水道水ではなく、井戸水を使って蕎麦を洗う徹底ぶり‥‥

 

「それにこのそば汁との相性もいい‥‥十割そばだと、味が強いから、そば汁が薄かったりすると、蕎麦の味が強調しすぎて風味を壊してしまうけど、このそば汁は蕎麦の味に負けない濃さと味を持っている。お蕎麦屋さんでも食べていけるんじゃあないかな?」

 

「ふふ、ありがとう」

 

もえかが打った蕎麦を堪能し、再び寮への帰路につくと今度は、

 

「い、碇艦長」

 

「ん?」

 

シュテルは今度、真白に声をかけられた。

 

二人は海が見える桟橋近くのベンチに座る。

 

「要塞戦の時はお疲れ様。大変だったでしょう?」

 

まずは海上要塞との戦闘における晴風の活躍を労うシュテル。

 

要塞から出てきた時、晴風はメインマストの見張り台を無くした状態で、船体には銃痕や擦ったような傷が無数にあり、ドックへと曳航されていった。

 

「いえ、駿河艦長や碇艦長たち先輩方の協力があってこその戦果です。それに最後は碇艦長に助けていただきましたし‥‥」

 

「そう言えば、スーちゃんはあれからどうなったの?ミケちゃ‥岬艦長と一緒に居るの?」

 

「スーは、今回の事件でテロリストと行動を共にした時があったので、ブルーマーメイドで事情聴取を受けることになりました」

 

「‥‥」

 

ブルーマーメイドからの事情聴取と聞き、スーが逮捕されてしまうのかと心配になるシュテル。

 

「あっ、でも、スーはテロリストたちに利用されていた事が判明しているので、情状酌量の余地があるので、逮捕までとはいかないと思います」

 

「そ、そう‥よかった‥‥」

 

スー自身もテロリストたちに利用された被害者と言う立ち位置だったので、あくまでも事情を聞くだけであり、逮捕もしくは祖国へ強制送還に至らなかった。

 

「あ、あの碇艦長」

 

「ん?」

 

スーの現状を伝えた後、真白がシュテルに何やら真剣な表情で、

 

「碇艦長、貴女にとって艦長とは何ですか?」

 

昨日の午前中に行われた競技祭の最中にもえかに訊ねた質問をシュテルにも聞く真白。

 

「何かあったの?」

 

「は、はい実は‥‥」

 

真白は一昨日の夕方、古庄教官から比叡クラスへの移籍の話が出た事をシュテルに伝える。

 

「それで、宗谷さんは比叡クラスへ移籍するの?」

 

「いえ、学生中は晴風の副長としての職務を全うすることに決めました。それでも、学校を卒業し、ブルーマーメイドになりましたら、いつかは艦の指揮官を目指すので‥‥」

 

「なるほど‥‥実は昨日、もかちゃん‥駿河の知名艦長から、宗谷さんから艦長としての心構えを聞かれたと聞いてね‥‥その時の事だけど、知名艦長は私の事を艦のお母さんみたいだと言っていたよ‥まぁ、当たらずとも遠からずな表現だと思ったよ」

 

「お母さん‥ですか‥‥?」

 

「うん」

 

「知名艦長曰く、ウチの艦長はお父さんで、知名艦長自身はお姉さんになりたいと言っていましたが‥‥そうですか、お母さんか‥‥」

 

「ん?」

 

真白は一人で何だか納得している様子。

 

それから、二人は遊戯祭での世間話をした。

 

「へぇ~あの図上演習の決勝戦で岬艦長と‥‥」

 

「はい。今思えば、よく決勝戦まで行けたと自分でも驚いています」

 

「途中で、席を抜けて観戦できずにゴメンね」

 

「いえ、碇艦長と知名艦長の早期対策があったからこそ、事件を早期解決できたのだと思っていますから‥‥あっ、あと、私、夏休み中にスキッパーの免許も取ったんです」

 

「そう言えば、練習していたもんね」

 

「そ、それで、練習に付き合ってもらったり、今回の件で碇艦長には色々とお世話になったので、そのお礼も兼ねて、その‥‥こ、今度一緒に出かけませんか?」

 

「えっ?」

 

真白からのお出かけのお誘いを受け、一瞬唖然とするシュテルであるが、

 

「あっ、うん。構わないよ」

 

シュテルは真白とのお出かけを了承した。

 

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!」

 

真白はシュテルと一緒に出かけることを知り、華が咲いたような輝いた笑顔を浮かべ嬉しそうだった。

 

真白とのお出かけの約束をした後、寮に戻ったシュテルはクリスとユーリから一体何をしてこんなにも時間がかかったのか詰問されたのは言うまでもなかった‥‥

 

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