やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
真白と共に茨城の大洗へ遠出した帰り、明乃たちは他のクラスのクラスメイトたちとの間で肝試しを企画しており、大洗から戻ってきた真白とシュテルはその肝試しに飛び入り参加する形になった。
「という訳で、肝試しでーす!!」
肝試し会場には天津風クラスの榊原と長澤、時津風クラスの高橋と山辺、晴風クラスでは明乃と真白、そして飛び入り参加となったシュテル。
今回の肝試しを企画した長澤は肝試しにもかかわらず、ノリノリな様子で肝試しの開催を宣言する。
「やるからには勝つわよ!!」
「肝試しの勝敗ってあるのかしら?」
「当たり前じゃない!!勝負には常に勝者と敗者が存在するのよ!!」
勝負ごとが好きな高橋は肝試しなのだが、気合十分。
「そもそも肝試しは勝負事ではない気がするが‥‥」
そんな高橋に対して、真白はボソッとツッコミを入れる。
「私、肝試しは初めてかも。シューちゃんとシロちゃんはやったことある?」
「肝試しは‥‥昔、真冬姉さんに何度か付き合わされたことがあります」
(肝試しも付き合わされたのか‥‥)
水族館で職員の人が水槽で魚たちに餌をやっている時、ダイビングの話となり、その時シュテルが真白にダイビングの経験があるかと訊ねると、真白は真冬に付き合わされたことがあると答えていたが、ダイビングの他に肝試しも真白は真冬に付き合わされた経験があるみたいだ。
「真冬さん、何か好きそうだよね、こういうこと」
「えぇ‥‥今回のように予め探索側と脅かし役を決めて行う事もありました。正直、私はやりたくなかったのですが‥‥」
真白は真冬に肝試しに付き合わされた時の事を思い出す。
あれは真白が中学生の頃‥‥
「船乗りたる者、一に根性、二に根性!!三・四も根性!!五も根性だ!!」
真冬は肝試しの前に真白や同級生たちの前に船乗りとしての心得を説く。
「今時、根性論なんて流行らないよ」
しかし、真白は冷静に真冬の根性論を否定する。
「おっ、言うようになったなシロ。だが、肝試しは根性論じゃない。いいか?まず、探索側は精神を鍛えられ、脅かす側は人知れず行動する。それは潜入・隠密行動の鍛錬になる。ブルーマーメイドになるには必要なスキルだ。肝試しどころかホラー映画にもビビっている様な奴は立派な船乗りにはなれねぇぞ」
真冬は肝試しの利点を真白に説く。
「むっ、昔の話でしょう!?」
「‥‥と、言う具合に‥‥まぁ、あの姉の事ですからやりたいことを実行するためにそれらしい理由を並べただけかもしれませんが‥‥」
「でも、確かにそう言う考え方もあるよね。どんなことも訓練として考えられるなんて凄いよ!!」
「そうでしょうか?」
明乃は真冬のポジティブ思考を褒める。
意外と明乃と真冬は気が合うのではないかと思う。
「明乃ちゃんは?小学校の林間学校とかで肝試しはやらなかったの?」
「うーん‥‥林間学校じゃなくて、私の時は臨海学校で、肝試しをやれるような場所はなかったから、肝試しはやっぱり今回が初めてかな?シューちゃんは?」
「私?私は‥‥まぁ、肝試しはオバケ役としてやったかな」
シュテルは前世で最後の夏休みの時に無理矢理参加させられた千葉村での林間学校の時の事を思い出す。
「それはそうと、参加者は私たちだけなの?」
高橋が企画者の長澤に探索役は自分たちだけなのかと訊ねる。
この場に居るのは時津風クラスの榊原、長澤、天津風クラスの高橋と山辺、そして明乃、真白、シュテルの計七人‥‥
肝試しの参加者にしてはやや少ない気がする。
「他の皆さんは脅かす側として参加されています。誰がお化け役かは分からない方が面白いと思うので秘密です」
長澤は他の自分のクラスメイトや天津風クラス、晴風クラスのクラスメイトがお化け役をしているのだが、その内、誰が今回の肝試しに参加しているのかは秘密だと言う。
「明乃ちゃんは誰が参加しているのか、知っている?」
「私も誰が参加しているのかは分からない」
晴風クラスの参加者も明乃は誰が参加しているのかは分からないみたいだ。
「では、ルールを説明します!まず、皆さんにはこちらを渡します」
長澤はコンビニのビニール袋から使い捨てカメラを取り出し配る。
「何よ?コレ?」
「使い捨てカメラみたいですね」
高橋は配られた使い捨てカメラヲ見て首を傾げる。
「これから皆さんには決められたルートを進むわけですが、もし道中、お化けが出たらそれで写真を撮ってください」
使い捨てカメラを配り終えた長澤がルール説明をする。
配った使い捨てカメラにて、道中遭遇するであろうオバケ役の同級生たちをこのカメラで撮れと言う。
「『もし』って、オバケ役がいるのだから、確実に出るんだろう?」
「最初から出るなんて言ったらつまらないじゃないですか。オバケ役は居ますけど、もしかしたら、全くでないかもしれませんよ?いるのに出ないって面白くないですか?」
「そういうことか‥‥」
つまり、オバケ役の気まぐれで出るか出ないかが分かれるみたいだ。
「‥‥えっと‥どこまで話しましたっけ?」
真白の質問に答えている間にどこまでルール説明をしたのかを忘れた長澤。
「お化けが出たら写真を撮るってところまで」
榊原が長澤にどこまで説明したのかを教える。
(なんか、お化けの写真を撮るシチュエーションって確かそんな内容のホラーゲームであったよな‥‥)
シュテルはこの肝試しのルールが某ホラーゲームを彷彿させるルールだと思った。
「はい、はい、そうでした。で、お化けには予め決まった点数があります。上手く写真に撮れればその点数が加算され、最終的にはその合計点で勝敗を決めましょう」
「本当に勝敗があるのか‥‥」
「はい。高橋艦長の意向を組んで勝負方式を採用しました」
勝負事が好きな高橋が参加sることから、このルールを設けたのだろう。
「オバケ役以外にも小ネタを用意してあります。これらもオバケと同じで点数は最後に発表しますので一か八か撮ってみるのもアリですね」
オバケ役以外にも探索者たちを驚かす仕掛けがあるみたいで、その仕掛けを写真に収めて点数に影響を与えるのも一つの手だと言う。
しかし、正確な点数は終わった後での発表なので、もしかしたら減点対象なのかもしれない。
「小ネタって何よ?」
「それも秘密です」
高橋が長澤に小ネタの正体を訊ねるもそれも秘密だと言う。
まぁ、確かに最初に正体をバラしては面白みが半減される。
「では、ルール説明はこれにて終了です」
ルール説明が終わり、後は肝試しを始めるだけとなる。
「ふむ、では‥‥肝試しを盛り上げるため、始める前に怖い話でもしますか‥‥」
シュテルが肝試しを盛り上げるため、探索へ行く前に怖い話をすると言う。
「いいですね!!ソレ!!」
長澤はシュテルの提案に賛成の様子。
「何か怖い話知っているの?」
「まぁ、それなりには‥‥ただ、こういう怖い話や肝試しをやっていると本物の幽霊とかが誘い出されるってこともあるから、安全だとしても気をつけてね。私は見ていないけど、実際に去年、文化祭でお化け屋敷を展示したクラスで出たみたいだから」
『えっ?』
シュテルのさりげない一言でその場が凍り付く。
「で、出たんですか?幽霊‥‥」
「うん‥‥用務員さんの話では、昔、文化祭前日に踏切事故で死んだ学生が居たみたいで、その事故の後、その学生の頭部が見つからなかったみたい‥‥そして、去年の文化祭でのお化け屋敷で頭部が無い学生の幽霊が出たって‥‥」
『‥‥』
シュテルの様子から嘘を言っているようには見えなかったので、その様子を見て高橋や真白はもちろんの事、明乃や長澤、榊原さえも顔色を悪くしている。
「それじゃあ、まず、肝試しの前座に怖い話でもしようか‥‥」
シュテルは改めて肝試しの前座として怖い話をすると言う。
「えっ?今のが怖い話じゃなかったんですか!?」
真白が確認するかのように言うが、
「あれはあくまでも注意点だよ。それじゃあ‥‥」
シュテルは真白に先程の話は決して怖い話ではなく、あくまでも注意事項であると言って、怖い話を話し始めた‥‥
その年は記録的な不漁が続いていた。
何処の海でも漁師たちが生活をかけた出漁を続けていた。
それは、この漁船も同じだった‥‥
『そーれい!!そーれい!!そーれい!!そーれい!!』
「こら新米!!しっかり網を引かんかい!!」
「は、はい!!」
とある海で一隻の漁船の甲板では漁師たちが声を上げながら底引き網を船の上にあげていた。
しかし、海での漁にもかかわらず奇妙なことに網には魚が一匹もかかっていなかった。
通常ならば、食べられない魚であっても網にかかっている筈なのに‥‥
「だめだ‥‥全くかかっていない」
「このままでは港に帰る訳にはいかんぞ!!」
魚一匹も捕まえることなく、ただ無駄に燃料を消費させただけで帰っては地元の漁師仲間に笑われてしまう。
「しかし、時化が来そうですぜ、頭」
「ちっ、ついてねぇなぁ」
魚が捕れないどころか天候も悪くなり始めた。
やがて低気圧が接近しているのか、海は荒れ始めた。
「こう時化ちゃあ、どうしようもない。引き返しましょうぜ、頭」
「そうだな‥しかし、だいぶ沖に出ちまったな」
天候が荒れては漁などできる筈もなく、その漁船の船長は港に帰ることにした。
船室では新人の漁師が項垂れながら口元を手で抑えていた。
今回、初めての漁を経験し、さらにこの悪天候‥‥
新人は船酔いをしてしまったのだ。
「おい、大丈夫か?新米」
そこへ先輩の漁師が声をかける。
「あ‥‥はい‥‥」
「初めての漁だし、この時化じゃあ、無理もない。まぁ、気分が悪けりゃ横になっていな」
「は、はい」
船室に居る他の漁師たちは先輩同様、酔っている気配はない。
やはり、海での経験なのだろうか?
漁船が港を目指していると‥‥
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
「何の音だ?」
海の彼方から風や波の音とは異なる変な音が聴こえてきた。
「サイレンの音の様だな‥‥」
「サイレン‥‥?こんな海のど真ん中でサイレンなんて‥‥」
「しかも沖の方から聞こえますぜ‥‥」
海のど真ん中でサイレンが鳴るなんてどう考えてもおかしい。
近くに他の船が居てサイレンを鳴らしているのかと思ったが、漁船のレーダーには近くに他の船舶が居ない事も確認できている。
ならば、このサイレンは一体何処から聞こえてくるのだろうか?
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
サイレンの音が鳴り止むことなく、ずっと鳴り続け、漁師たちを苦しめた。
ただ、一人‥新人の漁師は船酔いのため横になり、そのまま眠っていたのでサイレンの音には気付かなかった‥‥
『そーれい!!そーれい!!そーれい!!そーれい!!』
それから一体何時間経っただろうか?
新人の漁師が目を覚ますと仲間の漁師たちが甲板で網を引っ張っていた。
(なんだ‥‥港に帰ったんじゃなかったのか‥‥?)
眠る前、魚も捕れず、海は時化てきたので港に戻る話を耳にしたので、てっきり港に戻ったと思ったのだが、船は港に戻らずに引き続き海で漁をしていた。
「凄い手ごたえだ!!こりゃあ久々の大漁だぞ!!」
「おい、新米!!なにぼさっとしている!?早く手伝え!!」
「は、はい!!」
先輩の漁師に言われ、新人は慌てて網を引っ張る作業を手伝う。
確かに頭の言う通り、引っ張る網は前に引っ張った時と比べて重いことから網には何かがかかっている事が窺える。
『そーれい!!そーれい!!そーれい!!そーれい!!』
網を引っ張っていると、
「そーら魚が上がって来た!!」
やがて、網にかかったモノが水面から姿を現す。
誰もが魚だと思っていると‥‥
「っ!?」
水面から網に引っかかっていたモノは人の手であり、網が引き上げると、そこには何体もの人の腐乱死体が網に引っ掛かっていた。
「うわぁっ!!」
当然、人の死体を見た新人は悲鳴を上げる。
しかし‥‥
『そーれい!!そーれい!!そーれい!!そーれい!!』
頭や他の先輩の漁師たちは人の死体を見ても悲鳴を上げることなく、次々と死体を甲板の上に乗せている。
しかも‥‥
「見ろ!!見事なマグロだ!!」
「これで港に大手を振って帰れるぞ!!」
『ハハハハハ!!』
人の死体をマグロと言って喜び、笑いあっている。
「あ、あの‥先輩」
「なんだ?」
「これ、どうみても人の死体じゃないですか?」
新人は自分の頭が変なのか、一応、今あげたのがマグロではなく人の死体ではないかと先輩に訊ねる。
「何をバカなことを言っている。これは‥‥」
新人から指摘された先輩は甲板に上げられたモノを見る。
「‥‥」
すると、先輩は目を見開いて甲板上のものを見る。
「こっ、これは!?人間の死体だ!!頭!!」
そして慌てて頭に自分たちが引き上げたのがマグロではなく人の死体であることを頭に言う。
どうやら新人の見間違えではなかったみたいだ。
「えっ?何をバカなことを‥こ、これは‥‥っ!?」
やがて頭や他の漁師たちも引き上げたのがマグロではなく人の死体であることに気づく。
「ほ、本当に人の死体だ‥‥」
「なんでマグロに見えたんだ?」
そもそも、なんでこの海域にこんなにもたくさんの人の死体があるのかも謎であるが、問題はこの死体についてだ。
「ど、どうする?頭?」
「どうするって‥‥こんな腐乱死体、船においておけるか‥‥す、捨てちまえ」
人の死体とはいえ、腐乱しており、港までまだ距離があったので、船に置いておくわけにもいかず、死体は全て海に戻された。
その後、船は天候が回復していたので港に戻らず漁を続けたが、やはりこの日も空振りに終わった。
日が沈み船室にて、漁師たちは今朝の事を振り返る。
「いいか、今日の事は誰にも言うんじゃねぇぞ」
「わかっている」
流石に人の死体を海へ捨てたとしたら死体遺棄で警察に捕まるかもしれない。
しかし、目撃者はこの船に居た漁師仲間のみ‥‥
全員が今日の出来事を黙っていれば今回の死体遺棄が世間にバレることもない。
漁師たちは自分たちの保身のために今朝の出来事を黙っていることにした。
「しかし俺たちどうかしていたな‥‥魚と死体を見間違えるなんて‥‥」
「俺は朝から変だった…起きた時、海を見ると海水が赤く見えたんだ‥‥まるで血みたいに‥‥」
「えっ?お前もか?実は俺もそうだったんだ‥‥」
「どうもみんな感覚がおかしくなっているみたいだな。一体どうなっているんだ?あまりの不漁で頭が変になっちまったのか?」
「俺は昨夜のサイレンの音を聴いてからだ‥‥あの耳障りな音が‥‥ちょうど、昨夜の今頃の時間だ‥‥」
不漁のストレスと焦りから変になったのだと言う意見と昨日の夜に聞いたサイレンの音を聴いてから変になったと言う意見が出た。
そして、昨日、サイレンの音が鳴った時間‥‥
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
再び海の彼方からあのサイレンの音が聴こえてきた。
「うわぁぁっ!!」
「まただ!!またあのサイレンだ!!」
漁師たちは両手で耳を塞ぐ。
「せ、先輩、あのサイレンは一体‥‥」
「あ‥‥ああ‥‥妙に神経に触る音だ‥‥まるで俺たちを惑わせようとしているみたいだ‥‥もしかすると‥‥」
「もしかすると?」
「う、海には船乗りを惑わせる魔物が居て‥‥恐ろしい声で叫ぶと言う‥‥その声を聞いた者はみな頭が変になって海の中に引きずり込まれる‥‥新人!!絶対にあの音を聴くな!!耳を塞ぐんだ!!」
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
外では相変わらず海の彼方からサイレンのような音が鳴り続けている。
やがて、サイレン音以外にも音が聴こえてきた‥‥
バシャ‥‥バシャ‥‥バシャ‥‥
ウウウウウウウウウウウウウウ~
バシャ‥‥バシャ‥‥バシャ‥‥
ウウウウウウウウウウウウウウ~
バシャ‥‥バシャ‥‥バシャ‥‥
ウウウウウウウウウウウウウウ~
バシャ‥‥バシャ‥‥バシャ‥‥
ウウウウウウウウウウウウウウ~
バシャ‥‥バシャ‥‥バシャ‥‥
ウウウウウウウウウウウウウウ~
バシャ‥‥バシャ‥‥バシャ‥‥
サイレン音に交じって水音が聴こえてきた。
「おい、お前たち魚だ‥‥魚が跳ねているぞ‥‥網だ‥網を仕掛けろ」
『へーい』
サイレン音に交じって聴こえる水音は確かに漁師たちでは久しぶりに聞いた魚が跳ねる水音だった。
頭を始めとする数人の漁師たちは耳を塞ぐのを忘れ、船室から出て行くと海で跳ねているであろう魚を獲るために網の準備をする。
新人の漁師とこのサイレンの音を聴くなと注意した先輩の漁師は最後まで耳を塞いで船室に籠もっていたのだが、
「‥‥」
「せ、先輩‥‥」
等々、先輩の漁師もまるで何かに誘い出されるかのようにフラフラと船室を出て行ってしまった。
『そーれい!!そーれい!!そーれい!!そーれい!!』
サイレン音と水音が鳴り響く中、漁師たちは海に沈めた網を引き揚げている。
やがて、網が引き上げられると網に引っ掛かっていたのは魚ではなく今朝引き上げた人間の腐乱死体たちだった。
『そーれい!!そーれい!!そーれい!!そーれい!!』
「見ろ!!イキのいいマグロだ!!」
やはり、漁師たちは今朝の時と同じく腐乱死体がマグロに見えているみたいで、腐乱死体を次々と甲板に上げていく。
すると、腐乱死体たちはこのサイレンの音の中、まるで生き返ったかのように顔を上げ、立ち上がり始める。
「し、死体が‥‥死体が‥‥」
先輩漁師を追って船室から出てきた新人は腐乱死体が動き始めた事に息を呑む。
腐乱死体たちが動き始めた時、漁師たちも自分らが引き上げたのがマグロではなく腐乱死体であることに気づくが、腐乱死体たちは漁師たちを船の縁へと追い詰めていく。
「ひぃぃぃぃー!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
やがて、腐乱死体たちは漁師たちを次々に海へと突き落としていく。
船の周りにも腐乱死体たちが居り、海に落ちた漁師たちを海の中へと引きずり込んでいく。
漁師たちを海へ落とした腐乱死体たちは船室に近くの新人に気づき、迫ってくる。
新人は慌てて船室に逃げ込む。
しかし、腐乱死体たちは船室の扉にあるガラスを叩き割り、扉を壊し船室になだれ込んできた‥‥
翌朝‥‥
周囲の海は波一つ立たず、空は快晴で平穏な海だった‥‥
そんな平穏な海を一隻の漁船が漂流しているかのように浮いていた。
そして、漁船の甲板から海に垂れ下がった網には漁師たちの死体がまるで網にかかった魚のように絡まっていた‥‥
「‥‥はい、おしまい」
『‥‥』
シュテルが肝試しの前座として語った怖い話を締め、参加者を見渡すと参加者全員が顔を青くしていた。
しかし、シュテルが話した怖い話は当然、フィクションである。
そもそも生存者が居ないのになぜ、漁師たちがサイレンの音を聴いた事をシュテルが知っているのか?
何故、その海に沢山の腐乱死体があったのか?
何故、腐乱死体がゾンビのように蘇生したのか?
これらの要素から作り話であることは少し考えればわかることなのだが、肝試しの前と言うこのシチュエーションにてシュテル以外誰もその事に気づく者は居なかった。
冷静でツッコミ気質な真白さえも気づかなかった。
このシチュエーションでなければ、真白は気づいていたのかもしれない。
「どうだった?」
フィクションであるが、怖い話を終えたシュテルが感想を皆に訊ねる。
「こ、怖すぎですよ!!」
長澤は肝試し開始前のテンションとは180度異なり顔を青くして震えている。
「ま、まぁ、怪談話としては及第点かしら?」
高橋は強がっているが足はガクガクと震えていた。
「艦長、足が震えていますよ」
山辺が高橋にツッコミを入れる。
「うるさいわね!!」
「でも、怖かったけど、なかなか面白かったよ」
明乃は顔色が若干悪いが参加者の中では一番マシな様子。
「でも、あまり縁起がいい話ではなかったですね‥‥」
「怖い話なんだから当然だよ」
フィクションであることに気づかない真白は船乗りとしては決して縁起が悪いと言う。
しかし、シュテルは怖い話なのだから当然、縁起がいい訳ではないと返す。
「‥‥」
榊原は笑みを浮かべたまま失神している。
「か、艦長?艦長?‥‥し、失神している!!艦長!!艦長!!」
長澤が榊原を揺さぶり彼女を起こす。
「ハッ、わ、私は‥一体‥‥」
「失神していたんですよ。さて、前座も終わったことですし、肝試しを始めましょう」
「この空気の中でやるの!?」
高橋はこの重い空気の中で肝試しをやるのかと訊ねる。
「当然でしょう。折角企画したんですから」
長澤はここまで根回しをして企画したのだから、此処まで来て中止なんて勿体無いので肝試しはこのまま予定通り行うと言う。
「さっ、最初は天津風クラスのお二人からです」
「えっ?私たちから!?」
一番最初という事で高橋の声は震えている。
「大丈夫ですって、セキュリティ面の方は我々の方でビシッと」
安全対策は大丈夫だと長澤は言うが、
「我々がビシッとじゃないわよ!!アンタに何ができるっつってんのよ!?何ができるのよ!?私たちをどう守るの!?アンタがどうビシッとできるの!?聞きたいよ!何をキミがビシッとセキュリティできるのよ!?守れっこないわよ!!アンタには!!」
高橋はそんな長澤に対してツッコミを入れる。
「まぁ、まぁ、艦長、このままでは逃げたと皆に思われますよ」
「べ、別に逃げる訳じゃあ‥‥」
「だったら行きますよ。ほら」
山辺は高橋の扱いに慣れているのか彼女の手を引いて森の中へと歩いて行く。
その肝試しの会場である森の中のとある地点では‥‥
「ボスから探索組スタートの報告だ」
「遅い、遅い!待ちくたびれたよー」
「さぁ‥‥子猫ちゃんたちを震え上がらせるぜ、ハードボイルドにな」
オバケ役の方もやる気満々な様子だった‥‥
「ん?」
その頃、寮に居たクリスも何かを感じ取っていた。
それは決してシュテルが何処かの誰かとフラグを立てたのではないかと言う予感ではなかった。
(何か嫌な予感がする‥‥)
クリスが感じ取った予感は決して縁起が良いモノではなく、心配になったクリスは寮の部屋を出た‥‥