やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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ようやく肝試しが今回で終了となります。

次回は日常的な話に戻ります。


145話

 

 

肝試しの最中、突然の雨によって森の中にひっそりとたたずむ廃墟へとやってきたシュテル、明乃、真白の三人。

 

三人はもしかしたら自分たち以外にも肝試しでお化け役を務めた学生たちも自分たち同様、この廃墟で雨宿りしているかもしれないと思い廃墟の中に入る。

 

この廃墟は窓には鉄格子がはめ込まれていた特殊な造りとなっており、その事からこの廃墟が昔は精神病院だとシュテルは予測した。

 

そして、三人はまず、地下の階へと赴きそこにお化け役の学生たちが居ないか探索した。

 

その地下にある焼却室では入院患者が書いたとされる手紙が二通落ちていた。

 

手紙の内容は家族に当てた内容ではなく、自分をこの精神病院から助けてくれ、出してくれと助けを求める内容だった‥‥それも二通ともだ。

 

焼却室から出た後、三人が見た光景は地下の暗闇の中に病院とは似つかわしくない鉄格子の扉の部屋‥‥牢屋だった‥‥

 

焼却室に落ちていた手紙には『この病院』と書いてあったことからこの廃墟が決して刑務所の類ではないことは確認済みだ。

 

牢屋や手紙の内容から、この病院がまともな経営、患者に対する治療が適切に行われているようには思えなかった。

 

牢屋が続く地下の通路を歩いて行くと手術室、資料室があった。

 

手術室は意外と何もなく、資料室では数多くの医学書、図鑑、カルテの他に奇形児のホルマリン漬けがあった。

 

しかし、地下の階にはお化け役の学生たちは居なかった。

 

そこで、三人は残る二階へと向かう。

 

二階は地下の階と異なり普通の病室だった。

 

まさにこの病院の光と闇を垣間見たような感じだった。

 

ナースセンターにはカルテや医療器具の他に勤務していた看護師の日記があった。

 

ナースセンターを出て二階の探索を続ける中、シュテルに異変が起きた。

 

明乃と真白の二人はシュテルが立ち止まった場所がトイレの前だったことから、シュテルがトイレに行きたいと思い、二人はシュテルの異変に気づかなかった。

 

二人が少し目を離した一瞬の隙にシュテルはトレイに引き釣り込まれてしまった‥‥

 

この廃墟の本当の恐怖が明乃と真白の二人に牙を向け始めた事に当然、二人は気づく筈もなかった‥‥

 

 

シュテルがトイレに行った事を考慮してゆっくりな足取りで二階の通路を歩いていた。

 

すると、背後にはいつの間にかシュテルが戻っていた。

 

「うわっ、シューちゃんいつの間に!?」

 

「気配なんて感じなかったですよ!!」

 

「‥‥」

 

いつの間にか戻ってきたシュテルは黙ったまま突っ立っているが、目は無機質で何だか人形のような、生気が感じられないようにも見えたが、明乃と真白の二人はその訳を‥‥

 

(艦長、碇艦長の様子‥なんか変じゃありませんか?)

 

(もしかして、トイレ‥大変だったのかも‥‥)

 

廃墟における女子のトイレ事情を何となく察してシュテルが沈んだ顔をしているのだろうと判断したのだ。

 

「あ、あの‥碇艦長。大丈夫ですか?」

 

「‥‥ダイジョウブ」

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

口では大丈夫と言うが、表情と口調から決して大丈夫ではなかったと察する二人。

 

そして、二人はそれ以上の事は踏み込まないようにした。

 

二階の通路を歩いて探索をするがお化け役の学生たちも居なければ、地下の階と異なり、病院の闇要素はなく、何事もなく終わった。

 

「結局、居ませんでしたね」

 

「そうだね‥もしかしたら雨が降る前にみんな、開始地点まで戻ったのかな?」

 

「しかし、折り返し地点に居た塩崎さんと西郷さんは少なくともこの雨に打たれたと思いますけど‥‥」

 

折り返し地点までの道中で出会ったお化け役の学生たちは兎も角、折り返し地点に居た塩崎と西郷は自分たちよりも後から開始地点を目指している筈なのでこの雨に遭遇している筈だ。

 

「じゃあ、かやちゃんとりのちゃんが此処に来るかもね」

 

「そうですね‥‥二人が来て入れ違いになると面倒ですから、ロビーで待ちましょう」

 

当初の予定通り、他のお化け役の学生が来ても直ぐに合流できるようにロビーで雨が止むのを待つことにした。

 

階段を下り一階に着いた‥‥と、思ったら、階数を示す表示は『1』ではなく、『2』と表示されていた。

 

「あれ?階数が『2』になっている‥‥」

 

「変ですね」

 

一階に着いたと思ったのだが、表示されていたのは下りてきた筈の『2』‥‥

 

その階を見てみると、そこは二階と同じく病室とナースセンターの光景‥‥

 

まさかと思い、ナースセンターへ行くと、そこには看護師が書いた日記が置いてあった。

 

その日記はまぎれもなく、最初にナースセンターに来た時に見つけて中を見た日記だった。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

背筋に寒気を感じた明乃と真白の二人は急いで階段へと向かい階段を下る。

 

しかし、下りた筈の階数表示は『2』‥‥

 

そのまま階段を下りても変わらず『2』のまま‥‥

 

「い、一体、どうなっているの?」

 

「なんで、一階に着かない!?」

 

流石の明乃もこの異常事態には焦っている。

 

そんな中、

 

「あれ?シューちゃんは?」

 

一緒に階段を下りてきたと思ったらいつの間にかシュテルの姿が消えていた。

 

「い、いつの間に‥‥い、碇艦長は何処に‥‥?」

 

周囲を見渡してもシュテルの姿は無い。

 

延々と続く同じ階‥‥

 

そこにシュテルが消えたこの事態‥‥

 

先輩であり頼れる筈のシュテルが消えた事で二人の不安は更に増す。

 

どうすれば一階に着くのか?

 

シュテルは何処に消えたのか?

 

このまま階段を下り続けて一階を目指すか?

 

それともシュテルを探すか?

 

二人が不安になっていると、

 

コッ‥コッ‥コッ‥‥

 

階段の上から靴音が聴こえてきた。

 

「靴音‥‥?」

 

「きっと、シューちゃんだよ」

 

二人はシュテルが階段を下りてきたのだと思って階段を見ると、

 

階段を誰かが下りてきた‥‥

 

しかし、それはシュテルではなかった。

 

階段を下りてきた人物は肝試しで山下が着ていたような白いワンピースを見に纏った背が異常に高い人物がゆっくりと悠々に階段を下りてきた。

 

「あれ?もしかしてしゅうちゃん?」

 

「えっ?山下さん?」

 

明乃は着ていた衣装から山下なのかと思い声をかけるが、その人物は返事をすることなく、不気味なうめき声をあげながらゆっくりと階段を下りてくる。

 

明乃と真白の二人が階段に光源を当てると、階段から下りてきた人物には頭部が無かった。

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁー!!」」

 

その姿を見た二人は驚き、二階の通路を走り、別方向にあった階段から下に下りる。

 

「な、何あれ!?か、顔!!顔!!顔がなかったんだけど!?」

 

「わ、わかりません!!」

 

「もしかして、しゅうちゃんたちが肩車していたのかな?」

 

明乃は逃げながらさっき見たあの頭の無い人物は山下たちが肩車していたのかと思ったのだが、

 

「そんな訳ないでしょう!!」

 

しかし、真白はあっさりとそれを否定する。

 

どうみてもあの人物は人間ではないと本能的に直感できた。

 

階段を下りた二人であるが、やはり階数表示は『1』ではなく、『2』であった。

 

下りても、下りても延々と続く『2』の表示‥‥

 

恐怖とパニックで気が狂いそうになる。

 

「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥」

 

「い、いくらなんでも‥‥もう、追いかけて‥‥こないみたいですね‥‥」

 

後ろを振り返るとあの頭の無い人物は追いかけてくる様子はない。

 

滅茶苦茶に走った二人はその場にへたり込む。

 

「そう言えば肝試しの前にシューちゃんが言っていたよね‥‥去年の文化祭で首の無いお化けが出たって‥‥」

 

明乃はシュテルが肝試し前に話していた去年のキール校の文化祭で本物の幽霊が出た事を思い出す。

 

「ですが、それはドイツの話ですよ。此処はドイツから遠く離れた日本ですよ」

 

真白はシュテルの話はドイツでの出来事なので、さっきみたあの頭部の無い人物はドイツのキール校で出た幽霊とは無関係だと言い切る。

 

「それより、これからどうしましょう‥‥?」

 

幽霊のことよりも今はこの現状の打破を最優先にすることだと真白は言う。

 

「うん、そうだね‥‥はぁ~こんな時、シューちゃんが居てくれれば‥‥」

 

この事態の中でもシュテルが居てくれれば何か知恵を貸してくれるかもしれないと明乃はそう思ったのだが、その肝心のシュテルが未だに行方不明であり、まだ一階に辿り着けない。

 

あまりにも非科学的かつ非日常的で八方塞がりなこの現状‥‥

 

どうしたらいいのか二人には打開策が思い浮かばない。

 

声を上げて泣き叫びたいが、泣いたところでこの事態が解決する訳が無い。

 

その事実を分かっているからこそ、彼女たちは泣き叫ぶことはなかった。

 

だが、二人の空気が重いことは変わりない。

 

二人がどうすればいいのか悩んでいると、

 

コッ‥‥カララ‥‥コッ‥‥カララ‥‥

 

コッ‥‥カララ‥‥コッ‥‥カララ‥‥

 

通路の奥から靴音と金属がこすれるような事がする。

 

「「っ!?」」

 

また何か異形なモノが自分たちの前に現れたのかと思い、ゴクッと生唾を飲み恐る恐る光源を靴音と金属がこすれる音がする方向へと向ける。

 

すると、そこには異形なモノではなく、鉄パイプを手に持ち、ソレを引きずりながら自分たち近づいてくるシュテルの姿があった。

 

「シューちゃん!!」

 

「碇艦長!!」

 

行方不明となっていたシュテルの姿を見て、安堵しシュテルの下に駆け寄る。

 

しかし、相変わらずシュテルの目は無機質であったが、そんな中シュテルの目が髪を下ろしている真白の姿を見て、シュテルは目を見開く。

 

すると、先程まで無機質だった筈のシュテルの目は次第に怒りに満ちた目をして顔を歪めると、

 

「‥し‥た‥‥下‥‥雪‥‥下‥‥雪ノ下ぁぁぁぁぁぁー!!」

 

シュテルは突然、怒号を発する。

 

「「っ!?」」

 

突然のシュテルの怒号に二人はビクッと身体を震わせる。

 

「フゥー‥‥フゥー‥‥どいつもこいつも身勝手に!!俺を利用しておきながら!!俺が解決するのは当然で、俺が何もしなければ失望する!!やり方が気に食わなければ他に方法があっただろうと非難する!!ふざけるな!!俺はお前らの都合の良い道具じゃない!!」

 

「しゅ、シューちゃん?」

 

「な、何を言って‥‥」

 

「殺してやる‥‥ぶっ殺してやる!!」

 

怒りに満ちた顔で二人‥‥正確に言うと真白を見て、怒りを越え、もはや殺意に近い感覚だ。

 

「死ねぇ!!」

 

シュテルは鉄パイプを振りかざし、真白に襲い掛かる。

 

「ひぃっ!!」

 

間一髪、真白はシュテルが振り下ろした鉄パイプを避ける。

 

「い、碇艦長‥‥ひぃっ‥‥」

 

ギロッと殺意に満ちた目で睨まれ思わず悲鳴をあげる。

 

しかも自分は誰かと間違われているみたいだ。

 

「い、碇艦長!!落ち着いてください!!私は雪ノ下ではありません!!宗谷です!!」

 

「死ねぇ!!雪ノ下!!」

 

シュテルは真白の言い分も聞かず、再び鉄パイプを振りかざしてくる。

 

「シロちゃん!!」

 

明乃が真白の手を引いてまた階段を下りる。

 

「まてぇ!!雪ノ下!!」

 

シュテルは鉄パイプを振り回しながら追いかけてくる。

 

その様子からシュテルが決して悪ふざけで追いかけている様子ではなく、ガチで真白を殺しに来ている感じだ。

 

シュテルの怒号と鉄パイプがコンクリートに当たるカラ、カラ、カラと言う金属音が後ろから迫ってくる。

 

いくらおりても『2』の表示は変わらないが、シュテルが自分たちの前に現れることはなく、後ろから追いかけてくる。

 

二人はいくら階段を下りても『2』であるならば、階段を下りるのを止め、通路を逃げる。

 

すると、ある病室を通った時、病室から出てきた手が二人を掴み病室の中に引きずり込むと、二人の口を手で塞ぐ。

 

「「むぐっ‥‥んんんー!!」」

 

「しっ、静かに‥‥」

 

突然の出来事に二人は混乱し、声を上げようとするが何者かの手が口を塞ぎ声が出せない。

 

自分たちの口を塞いだ人物は二人に黙るように耳元でささやく。

 

その声は聞き慣れた声だった。

 

「どこだぁー!!雪ノ下!!出てこい!!」

 

病室の前をシュテルが通り過ぎて行くと、口を塞いでいた人物はようやく口から手を退ける。

 

「大丈夫?二人とも」

 

「えっ?ヒンデンブルクの副長さん!?」

 

「クリスさん!?どうしてここに!?」

 

意外にもそこに居たのは肝試しに参加していない筈のクリスだった。

 

「何か嫌な予感がして来てみたら、この建物を見つけてね。するとこの建物から邪悪な気配を感じて中に入ってみたら案の定だったみたいね」

 

「クリスさん、碇艦長はどうしちゃったんですか?私の事を雪ノ下って人と間違えているみたいですし‥‥」

 

「ふざけているようにも思えなかったよ‥‥」

 

「それに、階段を下りても、下りても、一階に辿り着けないんです。一体どうなっているの!?」

 

クリスに出会えた事から二人は彼女にこれまでの経緯を一気に話し、クリスに質問する。

 

「まずは落ち着いて、ほら、深呼吸して」

 

クリスは二人にまずは落ち着くように促す。

 

「さて、質問を一つずつ答えて行こう‥‥最初にこの廃墟は本来此処には無い廃墟なんだよ」

 

「此処には‥‥」

 

「ある筈がない?それはどういうことなですか?」

 

「この話はあまりにも荒唐無稽で信じられない話だろうけど、全て事実であり現実の出来事なのは信じてね」

 

「は、はい」

 

「うん」

 

「この精神病院は本来ならば、横須賀ではなく、××県三隅郡にあった筈の廃墟‥‥もっともその廃墟も異界に呑まれて異次元を彷徨っている筈だったのが、今回の肝試しで一時的に現世に転移してしまったんだ‥‥そして、この廃墟は廃墟になる前‥沢山の人たちを閉じ込め、拷問したり、新薬の効き目の人体実験にしてきた‥‥この廃墟にはそこで殺された人々の怨念が蠢いているの」

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

クリスの話を聞き、この廃墟の正体を知った明乃と真白であるが、俄かには信じられないが、地下牢や手紙などの証拠品からあながちクリスの言っている事が荒唐無稽な出鱈目な話とは思えない。

 

「それで、シュテルンの豹変した理由‥‥それは‥‥」

 

「「それは‥‥」」

 

「‥‥シュテルンはこの廃墟に巣食う怨霊に憑依されている」

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

シュテルの豹変した様子もクリスは二人に話す。

 

「そ、それで、碇艦長は元に戻るんですか?」

 

「シュテルンに憑依している怨霊を引きはがすことが出来れば‥‥それに一階に戻れない理由は、シュテルンに憑依している怨霊のせい‥だからその怨霊を何とかすれば、無事に一階に戻れる筈‥‥」

 

クリスはシュテルに憑依している悪霊をシュテルから引き剥がすことが出来ればシュテルは元に戻り、延々と続く二階の怪異も元に戻り、この廃墟を出ることが出来るらしい。

 

「まずはシュテルンの動きを止めないといけないな‥‥あっ、追加で言うと、シュテルンは憑依されている時の記憶は多分無いだろうから、後で責めないであげて」

 

「は、はい」

 

「わかりました」

 

シュテルを戻すにしてもまずはシュテルの動きを止めなければならない。

 

「怨霊に憑依されていると言いますが、姿が見えないのであれば、碇艦長から離れた後、私たちの誰かにまた憑依されませんか?」

 

真白は怨霊の姿が見えないのであれば、シュテルの身体から離れても自分や明乃、クリスの誰かに再び憑依されてしまう危険性があるのではないかと指摘する。

 

「ここは今、異界に近い状態‥だからここに居る貴女たちにも今は異能力が一時的に宿っているの‥‥強く意識して見てみると、その姿を見る事が出来ると思うわ」

 

「強く‥‥」

 

「意識‥‥」

 

クリスからのアドバイスを受け、憑依状態のシュテルの姿を強くジッと見てみることにした。

 

シュテルの様子が変だと思った時はトイレ事情に苦労したと思いシュテルの事を思い、シュテルの事をあまり見ていなかった。

 

そして、シュテルに追いかけられている時は、パニックと逃げる事で精一杯だった為、シュテルの事をジッと注意深く見る余裕などなかったので気づかなかった。

 

シュテルは相変わらず、鉄パイプで病室の窓ガラスを叩き割り、扉を蹴り飛ばしながら雪ノ下(真白)を探している。

 

そんなシュテルの姿を二人はジッと注意深く見てみると、最初はぼんやりとだが、次第とシュテルに憑依している者の正体が見えてきた。

 

「「っ!?」」

 

シュテルに憑依している者の正体を見て、二人は思わず声が出そうになり、慌てて自分の手で自分の口を塞ぐ。

 

シュテルの背後には巨大な体躯に何本もの太い腕や足、沢山の人の顔がまとわりついた異形な怨霊で、手や足はシュテルの身体にまるで寄生するように絡みついている。

 

「どうやら、二人とも見えたみたいね」

 

クリスの問いに二人は肯く。

 

「あれはこの病院で殺された人たちの怨念の集合体‥‥それがシュテルンに憑依している‥‥そして、理不尽に殺された無念・不満・怒りの負の念とシュテルンのある事情が同調してああなっているんだよ」

 

「ある事情?」

 

「それってどんな‥‥?」

 

「それは言えない‥‥人には誰しも口に出せない秘密の一つや二つはあるでしょう?」

 

「「‥‥」」

 

クリスの口ぶりから、シュテルのある事情をクリスは知っているようにも思える。

 

他の人には言えない秘密をシュテルはクリスだけには話したのだろうかと思うと、自分はシュテルからの絶大な信頼を得ていないのかと思うと寂しい。

 

「シュテルンの事情は私もシュテルンの口から直接聞いた訳じゃなくて、偶然にも知ってしまった事‥‥これまでのシュテルンとの付き合いの中でシュテルンがその事情を話したことはなかった‥‥きっと、この事情はシュテルンにとって他の人に知られたくない、話したくない事情なんだろうと思って私はこれまでの生活の中で事情を知らないフリをしている‥‥だからシュテルンが二人の事を信頼していない、信用していないとか、そんな事情じゃないから‥‥だから、シュテルンの事を見捨てないでほしい‥‥このとおり‥‥」

 

クリスは後輩にもかかわらず、明乃と真白に頭を下げて頼む。

 

「そうだったんですか‥‥」

 

「もちろん、私はそんなことでシューちゃんの事を嫌いに何かならないよ」

 

「私もです。それに碇艦長は私の命の恩人ですから」

 

明乃と真白はシュテルが抱える事情については分からないが、それを差し引いてもシュテルを救う事には変わりない。

 

それにシュテルを救わなければここから出られないのも事実だ。

 

「あ、あの‥クリスさん」

 

「ん?」

 

「碇艦長が私の事を雪ノ下と叫んでいましたが、碇艦長の事情にその雪ノ下って人が関係しているんですか?」

 

「‥‥」

 

「あっ、もし、話すのが無理ならば結構ですけど‥‥」

 

「‥‥詳しい事は言えませんが、関係しているかと言われると、関係しています」

 

「そう‥‥なんですか‥‥」

 

「ええ‥‥今の宗谷さんの姿と一番上のお姉さんが似ているので‥‥」

 

「その雪ノ下って人は、碇艦長に何をしたんですか?いくら怨霊に憑依されているとはいえ、あそこまでの殺意を抱くなんて異常ですよ。それに碇艦長が叫んでいた内容‥あれは入院患者のセリフとは思えませんでした」

 

「シュテルンはどんな事を叫んでいたんですか?」

 

「えっと‥確か‥‥身勝手にとか、利用しておきながらや、俺はお前らの都合の良い道具じゃない‥とか、言っていました」

 

「そうですか‥‥シュテルンがそんなことを‥‥」

 

やはり、クリスは何かを知っている様子だった。

 

「一つ言えることは、シュテルンは人との交流に臆病な所があるけど、人との交流に飢えながらも物凄く重んじているの‥‥だから私もユーリもシュテルンを裏切り、利用する奴は絶対に許さない‥‥」

 

「‥‥」

 

クリスの真剣な表情と声に真白は息を呑む。

 

「さて、シュテルンを元に戻さないとね」

 

「はい」

 

「それで、どうやって碇艦長を正気に戻しましょう?」

 

「うーん‥‥シュテルンに腹部に強い霊撃をくわえられたらその衝撃で引き剥がせるかもしれないけど‥‥今のシュテルン、鉄パイプ持っているからうまく近づけるか‥‥なるべく、シュテルン本人の身体には傷を付けたくないし‥‥」

 

「‥‥クリスさんなら元に戻せるんですか?」

 

「これはシュテルンにもユーリにも内緒にしていることだけど、私結構霊感が強い方なんだよ。まぁ、だからこそ、今回、此処に来れたんだよ」

 

「‥‥それなら、私が囮になります」

 

「「えっ!?」」

 

真白の提案にギョッとした表情で真白を見る明乃とクリス。

 

「今の碇艦長が狙っているのは私です。私が囮になり、気を惹き付けますから、その隙にクリスさんは碇艦長を正気に戻してください」

 

「それはいいけど‥‥でも、方法はどうする?流石に丸腰で、鉄パイプで武装しているシュテルン相手に真正面相手にするのは‥‥」

 

「じゃあ、こんなのはどうかな?」

 

すると、明乃が作戦を立案した。

 

「病院とは言え、それぐらいはあるかもしれないね」

 

「まずはシュテルンに見つからないようにソレを探しに行こう。それで、準備が整ったら作戦を決行しよう」

 

「「はい」」

 

こうして、シュテルを元に戻す為、三人は行動を開始した。

 

三人はまず、シュテルに見つからないように病室を出るとあるモノを探しに行った。

 

そして、準備が整うと‥‥

 

 

「どこだぁ!!雪ノ下!!出てこい!!」

 

シュテルを見つけると、

 

「私はここだ!!」

 

シュテルの居る通路で真白が声を張り上げる。

 

「見つけたぞ!!雪ノ下ぁ!!」

 

鉄パイプを振りかざし真白へと迫ってくる。

 

真白は踵を返し逃げる。

 

「まてぇ!!雪ノ下ぁ!!」

 

真白を追いかけるシュテル。

 

やがて、真白を追い詰めるシュテル。

 

「きひ‥‥ヒヒヒヒ‥‥覚悟しろ‥雪ノ下ぁ‥‥」

 

憑依されているとは言え、凶器と殺意に満ちているシュテルの顔は真白からは考えられないほど、禍々しく感じる。

 

(碇艦長、もう少しの辛抱です‥‥必ず貴女を救って見せますから!!)

 

真白は心の中でシュテルを救う事を決心する。

 

シュテルは鉄パイプを大きく振り上げると、一気に真白へと振り下ろす。

 

すると‥‥

 

ガシャーン!!

 

真白の姿が砕けた‥‥

 

正確に言うと真白の姿を写した鏡が砕けたのだ。

 

「クリスさん!!今です!!」

 

シュテルが鏡を砕いたことにより、一瞬だが唖然とした。

 

しかし、その僅かな時間さえもクリスにとっては十分すぎる時間だった。

 

「シュテルン!!」

 

本物の真白の背後からクリスが飛び出すと、シュテルの腹部に掌底打ちをすると、

 

『ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁあー!!』

 

手負いの獣の悲鳴のような声をシュテルが上げると、シュテルに寄生していた怨霊が勢いよくシュテルから弾き飛ばされる。

 

「岬ちゃん、宗谷さん、今の内にシュテルンを!!」

 

クリスは怨霊が引き剥がし、意識を失っているシュテルを再び怨霊に憑依されないように二人にシュテルを遠ざけるように指示を出す。

 

「は、はい!!」

 

「うん!!」

 

明乃と真白はぐったりしているシュテルを両サイドから肩を抱いて離れる。

 

『うぅぅぅ~‥‥コムスメ、ジャマヲするな!!そのムスメ、そのムスメの肉体をヨコセ!!』

 

怨霊は再びシュテルを狙うが、

 

「おっと、そうはさせないよ。お前の相手は私だ」

 

怨霊の前にクリスが立ち塞がり不敵な笑みを浮かべる。

 

『ぬぅ~ならば、貴様ノカラダをヨコセぇ~!!』

 

すると、怨霊はクリスに憑依しようとする。

 

迫りくる怨霊に対してクリスが手をかざすと、

 

『ぐぉっ!?う、ウゴケヌ‥‥こ、コムスメ‥貴様、何者だ!?』

 

怨霊は時間が止まったかのように固まる。

 

「哀れな魂の集合体よ‥‥今こそ、その長年の苦しみから解放しよう‥‥」

 

クリスの手が輝きだすと、怨霊本体も輝きだす。

 

『ぐっ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁー!!』

 

輝きだした怨霊は光の粒子となり消えていく。

 

「終わったよ、二人とも」

 

怨霊を消し去り、脅威が去ったことを物陰に隠れていた二人に伝えながら二人の下に向かう。

 

「終わったんですか?」

 

「うん、終わった。さっ、早くこの廃墟を出よう。ヤツを倒したから、此処がいつ異次元へまた転移するか分からない」

 

クリスはシュテルを背負い、明乃、真白と共に廃墟を脱出する。

 

「他のみんなは此処に来ていないかな?」

 

明乃はお化け役の学生がこの廃墟に来ていないか心配になる。

 

「大丈夫、今この廃墟に居るのは私たちだけだから」

 

「そうなんだなぁ~良かった」

 

クリスはこの廃墟に居る人間は自分たちだけなので、大丈夫だと明乃に言うと明乃はホッと胸をなでおろす。

 

階段を下りるとそこは『2』ではなく、『1』と表記されていた事から、クリスの言う通り怨霊は倒されたのだと認識した二人。

 

外の雨はいつの間にか止んでおり、それには月と星が輝いて、当りは虫の声が囀っていた。

 

「さて、私はシュテルンを寮に連れて行くから、二人は他の参加者の人たちに上手く誤魔化してもらえるかな?」

 

「わかりました」

 

「それじゃあ」

 

クリスはシュテルを背負い学生寮へと戻って行く。

 

「なんだか、不思議な人でしたね‥クリスさんって‥‥」

 

真白はシュテルを背負い遠ざかって行くクリスの背中を見ながら呟く。

 

クリスとはあの航海で何度か出会った事があるがこうして直に話すことは思えば初めだったかもしれない。

 

不思議な出来事を体験した事と、クリスとあまり行動を共にした事が無い故か、二人はクリスがミステリアスな人に思えた。

 

「そうだね。あの廃墟に来た事やシューちゃんを怨霊から助けた事なんか、どうやったんだろうって思った」

 

物影に隠れていた事から二人はどうやってあの怨霊を倒したのか見ていないので、クリスがどうやって怨霊を倒したのか色々気になったが、クリスに聞いたところで恐らくその真相は話してはくれないだろう。

 

そもそも、今回の自分たちの体験でさえ、他の人が信じはしないだろう。

 

「‥‥戻りますか?」

 

「そうだね」

 

スマホを見ると、圏外だった筈のスマホの電波はちゃんと入っており、明乃は長澤と連絡をとり、二人は開始地点まで戻ることが出来た。

 

「遅かったですね。どうしました?」

 

「それにドイツの先輩が居ませんね」

 

長澤と榊原が戻るのに遅かった事とシュテルが一緒で無い事を聞いてくる。

 

「シューちゃんは途中で気分が悪くなっちゃって、クラスの人に迎えに来てもらったの」

 

「なるほど、それで遅れたんですね?」

 

「あっ、後、途中で雨に降られちゃって」

 

「雨?」

 

「はい。戻る最中でかなり勢いが強い雨に降られてしまって‥‥」

 

「雨なんて降っていませんよ」

 

「「えっ?」」

 

長澤曰く、雨は降っていないと返してきた。

 

「それに、お二人とも雨に降られたと言いますが、服が一切濡れていない様に思えますが?」

 

「あれ?ホントだ」

 

「えっ?でも、確かにあの時‥‥」

 

木の下に避難した時、確かに自分たちの服は塗れていた筈だった。

 

それが今では、服は塗れた気配はなく、長澤に言われた通り、雨なんかに降られていない感じだった。

 

もしかしたら、あの雨も怪異の一つだったのかもしれない。

 

 

「うっ‥‥うーん‥‥」

 

クリスに背負われて学生寮のベットで横になっていたのだがようやく目を覚ました。

 

「こ、ここは‥‥?」

 

「学生寮‥シュテルンの部屋だよ」

 

「学生寮?あれ?私、肝試しをしていた筈じゃあ‥‥あれ?でも、記憶が曖昧でよく覚えていないんだけど‥‥」

 

「シュテルン、途中で体調を壊して倒れたんだよ。それで、晴風の艦長さんが私を呼んで、迎えに行って、寮まで運んだんだよ」

 

「‥‥そうなんだ」

 

寝起きのせいか、まだ寝ぼけ眼のシュテル。

 

「でも、何だか嫌な夢を見ていたような気がする‥‥」

 

「シュテルン、所詮夢だよ‥‥覚えていないならそのまま記憶の彼方に追いやって忘れちゃいな」

 

「‥‥そう‥だね‥‥」

 

「‥‥」

 

ボォっとしながら天井を見ているシュテル。

 

そんなシュテルを心配そうに見るクリス。

 

「‥‥シュテルン」

 

「ん?」

 

「今日、一緒に寝てあげようか?」

 

シュテルの不安を取り除くため、クリスは今夜、一緒に居てあげようと提案する。

 

「うん‥‥」

 

普段のシュテルならば断わりそうだが、やはり不安なのかシュテルは即答した。

 

この日、シュテルはクリスと寝床を共にした。

 

寝ている時、シュテルはクリスに抱き着く。

 

その姿はまるで、幼児が母親に甘えるようなしぐさで、クリスは声を出すのを我慢して布団の中で悶絶していた。

 

そのせいかクリスは寝不足となってしまった。

 

 

翌日‥‥

 

「さて、昨日行った肝試しの写真が現像できたのでこれから結果を発表したいと思います」

 

昨夜行われた肝試しの結果が発表された。

 

「楽しみだね」

 

「私が勝っているに決まっているわ!!」

 

明乃はどんな写真が写されているのかを楽しみにして、高橋は自分たちがぶっちぎりの得点で優勝していると確信しているようだった。

 

「まずは天津風チームの得点はこちら!!」

 

榊原が天津風クラスの得点が書かれているボードを参加者たちに見せる。

 

そこには210と書かれていた。

 

「いくつかマイナスポイントのお化けを撮ってしまいましたが、見つけにくい小ネタのビックリ箱などでそれなりに挽回した結果となりました」

 

長澤が得点配分を説明する。

 

「頑張って探してよかったね」

 

「当然よ!!」

 

「続いて晴風チームの得点はこちらです」

 

次に晴風チームの得点が書かれたボードが表示される。

 

そこには250と書かれていた。

 

「いきなり負けているじゃない!?」

 

この時点で天津風クラスの敗北が決定した。

 

それに対して高橋が声を上げる。

 

「実はギリギリまで天津風が勝っていたのですが最後の一枚がこの猫!!」

 

勝敗を決した写真を見せると、そこには五十六の姿が写しだされていた。

 

「これが隠しボーナスの50点だったので、一気に逆転しました」

 

「やった!!」

 

「五十六か‥‥」

 

「まさか、最後に取ったあの写真が決め手になるなんて‥‥」

 

真白は五十六の写真が決定打となるなんて意外そうだった。

 

「肝試しの写真で何で猫なのよ!?納得いかなわ!!」

 

高橋は納得できず、長澤にクレームを入れる。

 

「そんな高橋艦長に朗報があります」

 

「えっ?」

 

「私はポイントを決めるために予めすべてのお化けと小ネタを把握していたのですが‥‥実は高橋艦長が撮った写真の一つに私にも覚えのないモノが写っていまして‥‥」

 

「えっ!?」

 

長澤の告白に高橋は思わずドキッとする。

 

「つまり、本物の心霊写真という事か?」

 

真白が顔色を悪くして高橋が撮った写真は心霊写真なのかと問う。

 

「真相は定かではありませんが一応考えて実は万が一、本物の心霊写真が撮れた時のポイントも決めてあるんです」

 

「きみちゃん、そんなことまで決めていたの?」

 

「撮れたら撮れたで面白いと思いまして」

 

「そ、それでその写真は何点なの?」

 

「マイナス100点でした」

 

「ちょっと!!」

 

本物の心霊写真のポイントがまさかのマイナス点であることにまたもや高橋は声をあげる。

 

「あんた、さっき朗報って言ったのに何でマイナスなのよ!?悲報じゃない!!」

 

「まぁ、まぁ、こちらで決めていた本物の心霊写真の得点はですね、プラス100点かマイナス100点のチャンスボーナスだったんです」

 

心霊写真のポイント説明をする長澤。

 

「だから、プラスで逆転の可能性もあったんですけど、今二択のクジを引いてみたらマイナスだったので‥‥ざんねん」

 

「だったら、私に引かせなさいよ!!」

 

「心霊写真が足を引っ張る形になりましたね。幽霊だけに」

 

「何よ!?それ!!」

 

マイナスポイントの真相を知り、高橋は終始キレっぱなしだった。

 

しかし、心霊写真かと思われた高橋の写真であるが、後日解析を行ったところ、その正体は多聞丸がジャンプした瞬間の写真だった。

 

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