やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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体調不良のため、更新できずにすみません。

夏風邪は意外と長引きます。

皆様も体調管理にはお気を付けください。


テアの苦手教科が音楽という設定なので、楽器を吹けばおそらく万里小路みたいになり、歌えばジャイアンみたいな酷い歌声になると思い、今回は音痴つながりで某高校生の恋愛漫画ネタと絡ませてみました。


146 話

 

 

あまりにも非現実的な出来事が起こった肝試し‥‥

 

あれから真白が個人的に会場となった例の森を調べてみたところ、確かにクリスの言う通り、あの森には精神病院の廃墟なんて存在していなかった。

 

直接確かめに行った方が早かったのだが、やはりあの様な体験をした後なので、怖くて現場に行く勇気はなかった。

 

しかし、本来あの森に存在していない廃病院だったので、おそらくもう一度あの森に行っても例の廃病院は存在していないだろう。

 

 

学校に関してはまだあの海上テロ事件の余波が続いており、授業は自習となっており、スーは学生寮とブルーマーメイドの庁舎を行ったり来たりする生活を送っていた。

 

そんな中、ある日の放課後‥‥

 

~♪~~♪~~~♪ (←スコットランド民謡 故郷の空)

 

横須賀女子の校庭の一角からオカリナの音色が聴こえてきた。

 

「ん?」

 

そのオカリナの音をテアが聞きつけ、オカリナの音がする方向へと歩いて行く。

 

オカリナの音の先にはシュテルが居り、校庭の一角にあるテーブルに楽譜を置き、ベンチに座りオカリナを吹いている。

 

「シュテル」

 

「ん?ああ、テアか」

 

「オカリナの綺麗な音がしてな‥‥シュテルはオカリナもやるのか?」

 

「ううん、オカリナは最近やり始めたばかりなんだ。ゲームの影響を受けてね」

 

苦笑しながらオカリナを始めた理由をテアに語るシュテル。

 

「そうか‥‥いいなぁ‥‥」

 

「えっ?何?」

 

テアが何か呟いたがシュテルには聞こえなかったので、何を言ったのかを聞いてみるが、

 

「あっ、いや、何でもない」

 

テアは何でもないと言う。

 

「良ければ、このまま聴いていてもいいだろうか?」

 

「あ、うん‥いいよ」

 

テアはシュテルの真向かいのベンチに座り、耳を澄ます。

 

シュテルはオカリナに口をつけ、

 

~♪~~♪~~~♪ (← テルーの唄)

 

オカリナを奏で始める。

 

何曲かオカリナを吹いていると、いつの間にか太陽は水平線に沈みかけていた。

 

「やはり、シュテルが奏でる音楽はいいなぁ~」

 

「でも、私の音楽はアマに毛が生えた感じだし、やっぱり父や楽団の人の音楽とくらべるとね‥‥」

 

転生する際の特典としてシュテルは性別を前世と違う性別にしてくれと言う願いにしたが、転生後、音楽家の父親が居る為か、シュテルには演奏家としての才能も備わっていた。

 

しかし、テアの方はシュテルと同じ音楽家の家系なのだが、テアにはその才能は受け継がれなかった。

 

代わりに両親の海洋関係の手腕は十分に受け継ぐことが出来た。

 

シュテルの演奏家としての才能をこうして間近で見ていると、テアとしてはどうして自分には音楽家としての才能が受け継がれなかったのかとコンプレックスみたいなのを抱いた。

 

テアの苦手科目は音楽であるが、小等部、中等部、そして高等部でも音楽はブルーマーメイドを目指す中、必要ないモノだと判断し、これまで改善しようとすることはなかった。

 

だが、こうしてシュテルの演奏を聴いている内にもし、自分に音楽の才能があったら、シュテルと共にセッション出来たのかもしれない‥‥

 

 

現在、横須賀女子では先の海洋テロ事件の余波を受け、校長である真雪を含め教官たちは事件の事後処理に追われており、授業は自習期間が続いていたが朝礼はだけは行われていた。

 

大講堂では各クラスの学生たちが集まり、まずは横須賀女子の校歌斉唱から始まる。

 

それはドイツからの留学組も例外ではなく、朝礼に参加して横須賀女子の校歌を斉唱している。

 

留学生たちは日本語も話せるので横須賀女子の校歌も問題なく歌える。

 

シュテルの隣にはテアたちシュペークラスが並んでおり、先頭は艦長であるテアが立っている。

 

校歌を歌っている中、シュテルは隣に居るテアに違和感を覚える。

 

(ん?)

 

注意深くテアの様子を見てみると‥‥

 

(テア、口パクだ!!)

 

テアは校歌を歌わず口パクだった。

 

朝礼後‥‥

 

「テア、ちょっと聞きたい事があるんだけど‥‥」

 

「ん?なんだろうか?」

 

シュテルはテアを呼び止め、先程の朝礼での口パクについて聞いてみた。

 

「あの‥‥テア、さっきの朝礼で校歌を口パクで歌っていたよね?」

 

「っ!?」

 

シュテルの指摘にテアはドキッとし、気まずそうにシュテルから視線を逸らす。

 

「‥‥」

 

シュテル自身、これまで何度か朝礼があったはずなのに、今日初めてテアが校歌を口パクで歌っていた事に気づいた。

 

それほど、テアの口パクは完璧だったのだ。

 

「テア、日本語はペラペラだし、読み書きも出来るんだから校歌が歌えないなんて思えないんだけど‥‥」

 

シュテルとしては何故、テアが校歌を歌わなかったのか疑問だった。

 

学校が違うことからシュテルはテアが、音楽が苦手な事を知らなかった。

 

「い、いや‥歌詞は完璧に覚えているし、別に歌いたくないわけじゃないんだ‥‥」

 

テアは逸らしていた視線をシュテルに向け、横須賀女子の校歌は歌詞もちゃんと覚えているので、歌おうと思えば歌えるのだが、何か訳があるみたいだった。

 

「じゃあどうして……?」

 

シュテルが訳を訊ねるとテアはまた気まずそうに視線を逸らす。

 

「……ん…ち……だからなんだ‥‥」

 

「えっ?何?」

 

テアは歌わなかった訳を言うが、またもや声が小さくて良く聞き取れない。

 

「……ん…ち……なんだ‥‥」

 

「えっ?ウ〇チ?」

 

テアの口からまさかの汚物の単語が出て来るとは思えなかったが、聞き取れる文字がその単語に聞こえてしまったのだ。

 

「ちょっと音痴なんだ!!女子がそんな汚い言葉を口にしない!!」

 

「えっ?あ、うん‥‥」

 

テアは今度、大きく聞こえる声で自身が音痴であることを告白する。

 

ちょうどその時にミーナが通りかかった。

 

ミーナからの視点ではテアがシュテルに対して怒鳴っているように見えたので、何かただ事ではないと思いテアに声をかけた。

 

「艦長、どうしました!?」

 

「あっ、副長か‥‥いや、何でもない」

 

「でも、声を荒げているように思えましたが‥‥?」

 

「いや、シュテルに私が、音楽が苦手な事を話したんだ‥‥朝礼で此処の校歌を口パクしていた事に気づかれてな‥‥」

 

「あぁ~‥‥なるほど‥‥」

 

シュテルと違い、中等部からの付き合いがあるミーナは当然テアが、音楽が苦手な事を知っている。

 

なので、納得するミーナ。

 

「でも、ちょっとの音痴なら、練習次第では直るんじゃないかな?」

 

「そ、そうか?」

 

「うん。それに艦長が留学先の校歌を歌わないなんて知れたら‥‥」

 

「むぅ~‥‥」

 

テアの頭の中では、晴風クラスのクラスメイトから、

 

 

「テアちゃんって音痴なんだって」

 

「えぇー嘘!?」

 

「恥ずかしい~」

 

「姐さん、音痴なんですかい?」

 

と、笑われる姿を想像した。

 

 

「シュテル‥‥直せるんだな?此処の校歌を歌えるんだな?」

 

「ま、まぁ、ちょっとの音痴なら‥‥」

 

「それなら、是非直してくれ!!」

 

「う、うん分かった」

 

「で、ではワシも協力しよう!!」

 

シュテルだけでなく、ミーナもテアの音痴を直す事に協力すると言う。

 

しかし、中等部からの付き合いでテアが音痴であることを知っていながら今日までそれを放置してきた事にシュテルは気づいていなかった。

 

元々、ミーナが今回協力すると言ったのはテアとシュテルを二人っきりにしたくはないと言う理由が大きな要因だった。

 

そして、三人は音楽室へと行き、まずはテアの音痴具合を調べた。

 

その結果‥‥

 

「ボォォォエエエェェェェ~ボォォォエエエェェェェ~ボォォォエエエェェェェ~」

 

「「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア” ア”ア”ア”ア”~‥‥ギャァァァァァァァー!!グェェェェェー!!」」

 

シュテルとミーナは両耳を手で塞ぐが、テアの絶望的な歌声が軽々と突き破ってくるので、耳を手で塞いでもなんの意味はなかった。

 

「いやあああぁぁーっ!!助けてカマクラーっ!!」

 

「‥‥」

 

何故かカマクラに助けを求めるシュテル。

 

一方、ミーナに至っては立ったまま、白目を剥いて失神していた。

 

心なしか音楽室の壁に飾ってあるベートーヴェンやバッハなどの音楽家の肖像画も顔を歪めているように見えた。

 

テアの音痴に関してシュテルは『ちょっと』と言う言葉を信じた自身の甘い判断を呪い、ミーナに関しては分かっていたにもかかわらず、止めなかったり、付いてきたと言う自ら地獄へと突き進む愚行だった。

 

そして、テアが歌を止めると‥‥

 

「ど、どうだろうか?」

 

歌の感想を聞いてきた。

 

「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥う、うん‥‥ごめん、『ちょっと』のレベルではないかな‥‥ん?ミーナさん?ミーナさん?」

 

シュテルがテアの音痴度を指摘した後、ミーナに声をかけるが、彼女は無言のまま立っている‥‥

 

「ん?ミーナさん?‥‥っ!?し、失神している!?」

 

立ったまま失神しているミーナの姿を見て驚くシュテル。

 

「全く、副長も大袈裟だな」

 

テアは呆れるように言うが、

 

「‥‥一応、テアの歌声を録音していたんだけど、聴いてみる?」

 

シュテルはテアの先程の歌を録音していた。

 

「うむ、聴いておこう」

 

テアはイヤホンを付けて、シュテルが録音した自分の歌声を聴き始める。

 

すると‥‥

 

「な、何だ?これは‥‥?う、嘘だろう‥‥こ、こんなゴミみたいな歌声が私の歌声なのか‥‥?」

 

テアは自分の歌声を聴いて酷くショックを受ける。

 

「さ、最初は歌じゃなくてハミングで声帯を上手にコントロールしよう」

 

「ハミング?」

 

「ハミングはいわゆる鼻歌の事だよ。口を閉じた状態で鼻腔に響かせて歌うんだ。ハミングで歌うと、自分の歌っている音の響きが骨を伝わって耳に直に届くから、それで音程をとれるように練習しよう」

 

「わ、わかった」

 

シュテルがリズムを取りながら鼻歌を歌い、テアもそれに習って鼻歌を歌い始める。

 

「じゃあ、次は単音で正しい音を出してみよう。喉を締め付けずに声帯を使うことを意識して、声を出してみよう」

 

「う、うむ‥‥」

 

「まずはこんな感じで‥‥ソ~♪‥はい、テアも」

 

「う、うむ‥‥ソ(レ)~♪」

 

(き、気のせいか?ソがレの音で聴こえる)

 

シュテルが耳を澄ませて注意深くテアの声を聴いてみると、

 

「ソ(レ)~♪」

 

やはり、ソがレに聴こえた。

 

「て、テア、ちょっと待って、ソはこっち、レはこっち」

 

シュテルはピアノの鍵盤を叩いてソとレの違いを指摘する。

 

「う、うむ‥‥」

 

「じゃあ、私がソの音を出すから、よく聴いて同じ音を出して」

 

「同じ音?」

 

「そう‥ソ~♪」

 

「そ、そ~‥‥」

 

シュテルに習って、テアもソの音を出す。

 

そして、シュテルはソの音を奏でながら、黒板に「もっと高く」と書いてテアにアドバイスを送る。

 

テアもそのアドバイスに従って、徐々に高い音を出し始める。

 

やがて二人の出しているソの音がシンクロする。

 

ミーナが失神するほどのテアの歌声が今では嘘のように今ではハーモニーを奏でている。

 

「ま、まさか‥こんな事になるとは‥‥」

 

テア自身、歌えた事に驚いている。

 

「これが音を聴いて歌うってことなんだよ」

 

「あ、ありがとう。私は今日初めて、音楽を理解した気がするぞ」

 

「じゃあ、次は校歌を歌ってみようか?」

 

自信を持ったテアを見て、次は横須賀女子の校歌をピアノで弾くシュテルであったが、

 

「ホォォゲェェェー……ホォゲェェェ……」

 

「うっ‥‥音に酔った‥‥」

 

さっきはちゃんと音を出せたのに、歌を歌い出したら、テアの歌声は生半可に音を拾っている分、感覚を酔わせる歌声になる。

 

「ちょ、ちょっと、待って、テア」

 

シュテルはテアに歌を止めるように頼む。

 

「ん?なんだ?」

 

「さっきのは一周してなまこの内臓みたいな美しさはあったんだけど、今のは生半可に音を拾っている分普通にジャ〇アンって感じで音に酔った」

 

「‥‥やはり、私は口パクのままでいい‥‥私が歌うと周りに迷惑かかる」

 

テアはもう諦めた様子でがっくりと項垂れながら言う。

 

「い、いや、そんなことは‥‥」

 

シュテルとしてはテアを慰めようとするのだが、

 

「いや、そんなことあるんだ‥‥小等部の時は普通に音楽の授業があったのだが、その際、教師からは、"無理して歌わなくていいからね"って言われた」

 

「‥‥」

 

「合唱コンクールの時は、クラスメイトに、"お願いだから本番は口パクで"って‥‥それ以降、私は音楽の科目は選択せず、歌うときは口パクでやってきた‥‥今回はシュテルにはばれてしまったが、この学校の生徒にはバレていない‥‥シュペーの者たちには私が音痴であることは知っている‥‥何も恥ずべきことはない」

 

「テア‥‥」

 

テアは音楽が苦手で音痴であることは事実であり、それは今でも変わっていない。

 

しかし、テアの性格から当初はきっと音楽が苦手なのを克服しようと努力していたはずだ。

 

その努力を周りが否定し、テアはその努力を止めてしまった。

 

テアの同級生も教師もテアの努力を否定し、彼女一人を犠牲にしたのだ。

 

「私とて、本当は何も気負わずみんなと歌いたい。だけど、みんなに迷惑かかるなら‥‥」

 

「そのために今、私がここにいるんでしょう?」

 

「えっ?シュテル?」

 

「テアの音痴を直して、気持ちよく歌を歌う‥‥その依頼を受けたからにはきっちりとこなすよ」

 

シュテルはテアの手をぎゅっと握り、彼女が横須賀女子の校歌を歌えるようにすると言い、テアの音痴を直すために自分の知る限りの知識と方法を駆使した。

 

それから次の朝礼にて、テアは横須賀女子の校歌を歌うことが出来た‥‥

 

テアが声を出して歌を歌っていることにミーナをはじめシュペークラスの学生たちは全員驚いていた。

 

シュテルはテアが無事に歌えた事実に密かに歓喜の涙を流した。

 

 

朝礼後、テアはシュテルに横須賀女子の校歌を歌えたことに関して礼を言った。

 

「シュテル、おかげで校歌を歌うことが出来た‥‥ありがとう」

 

「ううん、テアが歌えたのはテア自身の努力の賜物だよ。此処の校歌が歌えたのだから、これからもいろんな歌が歌えるかもしれないね」

 

「う、うむ。そうだな」

 

今回、横須賀女子の校歌を歌えたことで音楽に少し自信がついたテアであった。

 

「あっ、そういえば‥‥」

 

「ん?なんだ?」

 

「この前の競闘遊戯祭の時の競技でソフトソードを使った競技があったでしょう?」

 

「うむ‥リーゼロッテには不運な事だったがな」

 

競技上の事とは言え、相手のソフトソードがリーゼロッテのビキニ水着の胸の部分をめくってしまうというアクシデントが起き、彼女は自ら海に飛び込みリタイアとなる結果となってしまい、リーゼロッテには黒歴史となった。

 

「それで、ウチの砲雷長と話していたんだけど、今度ヒンデンブルクとシュペーの乗員で白兵戦訓練をやらないか?って話が出たんだけどどうかな?」

 

「白兵戦訓練?」

 

「うん。あの海上テロ事件の余波でここしばらくは自習続きだし、いつまたあの事件みたいな出来事が起こるかわからないから、感覚を鈍らせないためにもどうかな?」

 

「ふむ‥‥」

 

テアはシュテルの提案を聞き、あごに手を当てて考える。

 

しばし、思案した後、

 

「ふむ、分かった。今夜にでもクラスの皆に話してみよう」

 

「うん。わかった」

 

まだ確定ではないが、シュテルからの提案でヒンデンブルククラスとシュペークラスとの間に白兵戦訓練の予定が組まれることになった。

 

放課後‥‥

 

テアの限定的とはいえ、音痴を直したシュテルはまたオカリナの練習をしていた。

 

~♪~~♪~~~♪ (←コンドルは飛んで行く)

 

そんな中、

 

「碇艦長‥‥」

 

「ん?」

 

オカリナを練習していると、シュテルはまたもや背後から声をかけられた。

 

声をかけてきたのは真白だった。

 

「あっ、宗谷さん。どうしたの?」

 

「いえ‥オカリナの音がしたので‥‥」

 

テアの時と同じくオカリナの音色を聞いてもしやと思い、真白は来たみたいだ。

 

「ああ、オカリナの練習をしていたんだ」

 

「サークルか部活動ですか?」

 

「いや、個人的趣味」

 

「あ、あの‥もし、お邪魔でなければここで聞いていてもいいですか?」

 

「あ、うん」

 

真白はシュテルの傍で、シュテルが奏でるオカリナの音色に耳を傾けた。

 

あれから何曲か演奏したころには太陽も水平線に沈みかけているいい時間帯になり、シュテルはオカリナの演奏を止めた。

 

真白は演奏を終えたシュテルに拍手を送る。

 

「とても素敵な演奏でした」

 

「どうもありがとう」

 

このまま寮に戻るのもなんだか勿体ない気分だった二人は近くのベンチに腰掛けた。

 

「そういえば、宗谷さん」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「この前の肝試しの事なんだけど‥‥」

 

「あっ‥‥」

 

「その‥‥よく、覚えていないんだけど、なんか迷惑をかけちゃったみたいでごめんね」

 

クリスが言っていたようにシュテルは怨霊に憑依されていた時のことは覚えていないので、突然の体調不良で肝試しを途中でリタイアしたことになっていた。

 

シュテルとしては当然、よく覚えておらず体調不良と言うがその時のこともよく覚えておらず、なぜ体調不良になったのかも覚えていなかった。

 

しかし、途中でリタイアしたことにより真白と明乃に迷惑をかけたことは変わりないので、真白にこうして謝ったのだ。

 

「あっ、いえ‥突然の体調不良では仕方ありませんよ」

 

真白としてはあの時、シュテルが口走った『雪ノ下』という人物について聞きたいと言う思いがあったが、あの時のシュテルの様子からシュテルにとって『雪ノ下』と言う人物はシュテルにとって決して友好的な人物ではないことは容易に分かるので、シュテルに『雪ノ下』の事を訊ねるのは傷口に塩を塗る行為だと思い敢えて聞かなかった。

 

「ミケちゃ‥‥あっ、いや、明乃ちゃんにも迷惑をかけちゃったからあとで謝らないとな」

 

「艦長は特に気にした様子はありませんでした。それに後日、写真の結果発表で私たちが勝ったことで満足そうな様子でした」

 

真白は肝試し勝負の結果をシュテル伝えると同時にシュテルが明乃の事を渾名+名前で呼んでいたことにちょっとモヤっとした思いがあった。

 

考えてみればシュテルが自分の事を呼ぶとき、後輩にもかかわらず『宗谷さん』と呼んでくる。

 

一方、明乃は渾名か名前呼び‥‥

 

そりゃあ、自分と明乃とでは付き合った時間の長さが違うが、クラスメイト‥‥特に明乃からは入学当時、自分の事を『副長』か『宗谷さん』と呼んでもらいたかったが、なんだか疎外感を感じる。

 

そこで真白は、

 

「あ、あの。碇艦長」

 

「ん?」

 

「‥‥私の事も『真白』と呼んでもらえませんか?」

 

「えっ?」

 

突然の真白の頼みにポカンとするシュテル。

 

「ウチの艦長は名前呼びなのに、私は苗字とさん付けだとなんだかよそよそしくて‥‥それに私は後輩ですし‥‥」

 

真白は意を決してシュテルに名前呼びをしてくれと頼む。

 

「えっ?あっ、うん‥‥宗谷さ‥‥あっ、いや真白さんがそれでいいなら‥‥」

 

「『さん』付けでなくてもいいです」

 

「‥‥わかったよ。真白ちゃん」

 

「はい」

 

「じゃあ、私も『碇艦長』ではなく、シュテルって呼んでほしいかな」

 

テアの時みたいに名前呼びをするのであれば、自分も名前呼びをしてほしいと頼むシュテル。

 

「わかりました」

 

互いに名前呼びの関係になった真白とシュテル。

 

その日の夜、真白は物凄く機嫌がよかった。

 

明乃が、

 

「シロちゃん、なんか良いことでもあったの?」

 

と、訊ねるが、

 

「いえ、なんでもありません」

 

と、言って誤魔化していた。

 

しかし、やはりうれしいことには変わりなく、寮の部屋に戻った真白は枕に顔をうずめながらも顔はまるで恋する乙女みたいだった。

 

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