やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

151 / 161
今年も残りわずかですね。

一年早いものです。

この150話が今年最後の投稿となります。

来年もよろしくお願いします。


150話

宗谷真冬をはじめとするべんてんの乗員たちとドイツからの留学生組との間で行われた白兵戦訓練。

 

当初の予想では学校側も見学に来たブルーマーメイドの幹部たちもべんてんの乗員たちの圧勝で終わるものだと思っていた。

 

それは実際に白兵戦訓練を行うべんてんの乗員たちも同じ思いを抱いていただろう。

 

しかし、戦況は予想に反して留学生組は奇策を駆使してべんてんの乗員たちを翻弄して次々と撃ち取っていく。

 

べんてんの乗員たちは学生相手の筈なのにまるで密林に潜むゲリラを相手にしているかのような錯覚に陥っていた。

 

 

「仕込み組に状況連絡」

 

「はい‥‥繋がりました」

 

「そちらの状況はどう?」

 

シュテルは人質役の学生たちの中に紛れ込ませた同級生に連絡を取る。

 

「先ほど、救助に来たブルーマーメイドの方々を始末しました」

 

「了解‥‥では、第二段階‥‥例の策を実行して」

 

「分かりました」

 

人質役の中に紛れ込んでいた留学生組は人質役の学生たちを閉じ込めていた倉庫から出る。

 

もちろん、本格的な訓練なので倉庫の扉を閉めることも忘れない。

 

「いくよ」

 

「うん」

 

ドレス姿の留学生たちは船内を駆け抜け、

 

「た、助けてください!!」

 

ブルーマーメイドの隊員を見つけると駆け寄る。

 

「人質を発見!!‥大丈夫ですか?」

 

ブルーマーメイドの隊員は当然、人質役の学生に近づく。

 

すると、人質役の学生はブルーマーメイドの隊員に抱き着く。

 

「どうしてここに?それになんで一人なの‥‥?」

 

「見張り役の隙をついて逃げてきたんです。他の皆はまだ監禁されていて‥‥」

 

隊員に抱き着きながら訳を話す人質役の学生。

 

しかし、その背後から

 

ガチャっ

 

ライフルを構えるテロリスト役学生‥‥かと思いきやドレス姿の学生がいた。

 

「なっ‥ど、どうして‥‥?」

 

隊員はドレス姿なのだから人質役の学生だと思った。

 

それが何故、自分に銃器を突きつけているのか困惑する。

 

「残~念~こういう事なんですよ~」

 

すると、抱き着いてきた人質役の学生も隊員から離れると彼女の手には銃が握られていた。

 

 

「もう一人、追加で捕獲しました!!」

 

テロリスト‥もとい、留学生組が拠点としているレストランに連れてこられたブルーマーメイドの隊員とドレス姿の留学生。

 

「じゃあ、さっそく準備して」

 

「はーい!!」

 

そして奥の厨房へと隊員を連れていく。

 

「「あっ‥‥」」

 

そこにはなぜかジャージ姿の同僚が居た。

 

「貴女も捕まったんだ‥‥」

 

「‥‥う、うん‥‥でも、貴女どうしてジャージ姿なの?」

 

捕まったばかりの隊員は先に捕まった同僚がどうして白兵戦装備の隊服でないのか不思議に思った。

 

「じゃあ、これに着替えて下さい」

 

「えっ?」

 

そう言って留学生が渡してきたのは同僚が着ているタイプと色違いのジャージだった。

 

言われるままジャージに着替える隊員。

 

すると、隊員が着ていた隊服を今度は留学生が着始める。

 

「では、行ってきます」

 

「ええ、気を付けて」

 

留学生組が隊員をなるべく生きて捕獲していたのは隊服を奪い、スパイとして相手チームに潜り込ませるためだった。

 

ブルーマーメイドの隊員に化けた留学生は嘘の情報をブルーマーメイド側へと送り、仲間が待ち構えている場所へ誘い込み討ち減らしていくゲリラ戦法をとっていた。

 

しかし、そんなゲリラ戦法をもってしてもブルーマーメイドの淫獣‥‥もとい、暴走機関車ともいえる真冬の進撃を止めるには不十分だった。

 

真冬は一気にテロリストの拠点を叩こうと、まさに特攻ともいえる突撃を敢行し、仲間の隊員の屍を乗り越えながら拠点である客船のレストランへと迫ってくる。

 

通路に設置されたバリケードも人間離れした真冬の身体能力の前に次々と突破されていく。

 

真冬の防衛網突破の知らせは当然、シュテルたちにも伝わる。

 

「宗谷真冬がついにきたか‥‥」

 

「今までの戦法がどうやら彼女の闘争本能に火をつけてしまったみたいで‥‥」

 

「仲間の犠牲も顧みずにこちらへ迫ってきているみたいです」

 

「彼女がここに来るのも時間の問題かと‥‥」

 

「どうしますか?艦長」

 

「‥‥」

 

「シュテルン」

 

「ん?」

 

シュテルとクリスが目を合わす。

 

「‥‥クリス‥行ってくれる?」

 

「ご要望とあらば‥‥」

 

「ならば、命ずる。クリス、宗谷真冬を見事討ち取ってみせよ」

 

「承知しました」

 

クリスはシュテルに敬礼し、その場を後にした。

 

「大丈夫でしょうか?副長一人で‥‥」

 

「下手に大人数で行くとフレンドリーファイヤーを誘発するかもしれないし、二人の戦いの邪魔になってしまうしね」

 

「でも、副長が負けたら‥‥」

 

「その時は、頭をかいてごまかすさ」

 

シュテルはあっけらかんとした様子で言うが内心ではクリスのことを心配していた。

 

自分でもあの宗谷真冬を討ち取れなんて無茶な命令だと自覚していたからだ。

 

 

その頃、真冬はレストラン前の最終防衛ラインを突破して留学生たちが拠点としているレストランまで目前まで来ていた。

 

ここまでの戦闘で彼女のトレードマークでもある黒マントは既に失われていたが、それでもテロリスト役の留学生らを鎮圧できる自信が真冬にはあった。

 

だが、レストラン前のロビーにて真冬の前に立ちはだかる者が居た。

 

「お、お前は‥‥」

 

真冬の前に立ちふさがったのはクリスだった。

 

「‥‥」

 

クリスは手に銃などの武器は持たず、ギュっと革手袋を装着する。

 

「へぇ~そういう事か‥‥」

 

真冬はクリスのその行為を見てすぐに察する。

 

クリスは武器など使わず拳だけで戦おうと真冬に口ではなく態度で示す。

 

「いいだろう。その誘い乗ってやるぜ。お前さんとは拳でやりたかったからな‥‥あの時の借り、ここできっちり返してもらうぜ!!」

 

真冬は不敵な笑みを浮かべ、ファイティングポーズをとる。

 

彼女としてはあの時のリベンジマッチをするいい機会だった。

 

この白兵戦訓練の目的の一つとしてクリスと再戦し、彼女を打ち破ることが含まれていた。

 

互いに戦いの準備が出来たと同時に二人はダッと駆け出し、距離を詰める。

 

クリスは真冬にまずはジャブ程度の拳を繰り出すが、真冬はひらりと躱すが、その直後に真冬のボディにクリスの蹴りが繰り出される。

 

「ぐっ‥‥」

 

突然の蹴りに真冬は思わず顔をしかめる。

 

クリスは追撃を止めず、肘打ちともう一度ジャブを繰り出すが、真冬はこの二連撃を掌で防御する。

 

真冬もこのまま一方的にやられるわけにはいかず、クリスにジャブを繰り出すが、クリスは手でジャブの軌道を逸らす。

 

その後は互いに拳と蹴りの激しいラッシュが続く。

 

しかし、拳と蹴りを繰り出しながらも互いに顔面には入れないあたり二人のレベルの高さを物語っている。

 

「へへへへっ、年を取ったな、てめぇは老いぼれだ。やあぁっ!」

 

「ふんっ!」

 

「やぁぁ!」

 

「気分いいぜぇ。昔を思い出すぁっ、はははっ」

 

「ふざけやがってぇぇぇ!!」

 

「フンッ! フンッ! フンンッ!」

 

「テメェの仲間を殺ったときの悲鳴を聞かせたかったぜ!」

 

戦いが続くにつれて互いに興奮状態になっているのか結構物騒なセリフを吐く。

 

真冬がクリスの背後にまわり、羽交い締めにしようとするが、クリスは肘打ちで逃れ真冬の片腕を掴みそのまま一本背負いで投げ飛ばし、倒れた真冬に腕ひしぎ十字固めを決める。

 

「うっ‥‥ぐぐぐ‥‥」

 

真冬は苦痛で声を漏らしながらも十字固めを決められている腕を持ち上げ、クリスの後頭部を床にたたきつける。

 

「ぐはっ‥‥」

 

クリスはその痛みと衝撃で真冬から手を放してしまう。

 

この隙を真冬は見逃さずに立ち上がり、

 

「はぁ‥‥はぁ‥‥ち、ちくしょおぉぉっ! 眉間なんか撃ってやるものかぃ! ボールを吹っ飛ばしてやるぅぅ!!」

 

懐から9㎜拳銃を取り出し、クリスにその銃口を向ける。

 

とはいえ、装填されているのは模擬弾なのでくらっても死にはしないがリタイアとなってしまう。

 

「くっ‥‥」

 

クリスは反射的に真冬の手に蹴りをいれると、真冬はその痛みと衝撃で拳銃を弾き飛ばしてしまう。

 

床に落ちた真冬の銃を拾いにかかるクリス。

 

だが、真冬も弾き飛ばされた拳銃を拾おうとするが、クリスが悪あがきのように蹴りで牽制し真冬よりも先に拳銃を拾い真冬に銃口を向ける。

 

しかも拳銃を拾いにかかっていた勢いで銃口は真冬の胸部に密着するかたちとなる。

 

「うぅ~‥‥」

 

下手に先へ進むことも引くことも出来ずに苦悩した声を出す。

 

「‥‥ぱんっ!!」

 

さすがにゼロ距離で撃つと模擬弾とはいえ、ろっ骨を折るかもしれないので、クリスは銃声を口で言う。

 

例え、模擬弾で被弾しなくともこれはルールで死亡扱いとなり、ブルーマーメイド側の切り札とも言える宗谷真冬を撃破することに成功した。

 

「うぅ~くそぉぉ~!!」

 

真冬は悔しそうな声を出して床に大の字に倒れる。

 

真冬の撃破によってブルーマーメイド側の士気は大きく落ちた。

 

それでも一部は『真冬姐さんの仇だ!!』と最後まで戦う隊員たちもいたがブルーマーメイド側に変装・潜入した留学生たちの手により攪乱されてとうとう最後の隊員が留学生側に討ち取られてしまった。

 

ブルーマーメイド側が全滅し、訓練が終わったことを報告するためにシュテルが客船のタラップに出ると、

 

「すみませーん‥‥勝っちゃいました‥‥」

 

ちょっと気まずそうに今回の訓練をテントで見学していた真雪、横須賀女子の教官ら、真霜たちブルーマーメイド幹部に報告する。

 

「「ええええっー!!」」

 

平賀と福内はまさか学生たちが真冬たちべんてんの乗員が負けるなんて信じられずに思わず声をあげる。

 

「まさか、あの子が負けるなんて‥‥」

 

真霜も大きな声はあげずともやはり福内や平賀同様、真冬が学生相手に負けるなんて信じられない様子だった。

 

 

勝敗がつき、訓練が終わったので、はい解散‥‥なんてことはなく、訓練終了後は客船のあちこちに散らばっている模擬弾の掃除となる。

 

「白兵戦訓練の後のこの掃除が結構めんどいんだよなぁ~」

 

「いい気になって銃弾をばら撒かなきゃよかった」

 

「ほんとにね‥‥」

 

「撃っている時はハイになっているから後の掃除のことを考えずに撃っていたからね」

 

訓練中に打っている時は訓練とはいえ戦闘による興奮状態で西崎や立石みたいにトリガーハッピー状態となっていたのだが、こうして掃除時間になると冷静になり、後々の掃除で大変な目に遭うことは分かっているのになんであんなに銃弾をばら撒いたのだろうと後悔する。

 

「なんで?貴女たちジャージなの?」

 

「き、聞かないで‥‥」

 

捕虜となった隊員たちは当然、同僚からジャージ姿なのかと訊ねられるが、まさか学生相手に捕虜になったなんて恥ずかしくて言えない。

 

箒と塵取りで模擬弾を掃除するべんてんの乗員たちと留学生組。

 

人質役の学生たちはレストランにて訓練冒頭で行っていたお茶会が開かれていた。

 

ブルーマーメイドや留学生組たちが船内の掃除をしている中、自分たちはお茶会なんてしていても良いのか?とちょっとした罪悪感があったが、折角用意したスイーツや軽食を無駄にするのもこれらの食べ物を作った料理人にも申し訳がない。

 

そして、ようやく船内の清掃が終わり、べんてんの乗員たちと留学生組がレストランへと戻ってくる。

 

レストランには人質役の学生たちの他に真雪たち横須賀女子の教官や今回の訓練を見学しに来た真霜たちブルーマーメイドの幹部らの姿もあった。

 

訓練が終わり、ブルーマーメイドと学生たちは交流の機会となった。

 

「まさか、貴女が負けるなんて意外だったわ」

 

「ええ、私も真冬姐さんが負けるなんて信じられませんでした」

 

「まぁ~真冬姐さんも人の子だったってことですね」

 

一つのテーブルには真霜、真冬の宗谷姉妹に平賀、福内が座っており、先ほどの訓練で真冬が負けたことが今でも信じられない様子だった。

 

「むぐっ‥‥モグモグ‥‥アタシだってドイツの学生があそこまでやるとは思ってもみなかったんだよ」

 

真冬は負けたのが悔しかったのかケーキをやけ食いしている。

 

「でも、今回は訓練だったからよかったけど、相手が本物の海賊やテロリストだったら、貴女たちは殺されていたか人質に取られていたかもしれないのよ」

 

「わかっているよ」

 

「それに貴女、前回のテロ事件でも今回の訓練でもヘルメットや防弾チョッキを着ていないでしょう?」

 

真霜は白兵戦での真冬の装備について指摘をする。

 

「あんな、重たいものを着けていたら機敏な動きが出来ないんだよ」

 

「それでも、今度からは訓練でもちゃんと着けなさい。それが嫌なら艦に残って指揮を執りなさい」

 

「で、でも‥‥」

 

「でもじゃないでしょう。私は貴女のことを思って言っているのよ」

 

「は、はい‥‥」

 

宗谷姉妹のこのやりとりを見ていたシュテルは、

 

「あの宗谷真冬をぐぅの音が出ないくらいに叱るとは‥‥やっぱりあの人は魔王だ‥‥」

 

陽乃と同じ声をもつ真霜に対して真冬以上に警戒心を抱くシュテル。

 

「それにしても、碇艦長。よく、真冬姉さんに勝てましたね」

 

真霜たち同様、真白もシュテルたち留学生組が真冬たちに勝てたことを意外に感じていた。

 

「まぁ、実際に真冬さんを討ち取ったのはウチの副長だし、勝てたのは運の要素があったからね‥‥次にもう一回やれと言われたら負ける可能性が高いよ」

 

シュテルはそう言ってミルフィーユをフォークで刺し、口へと運ぶ。

 

「それで、どんな作戦をしたの?」

 

もえかは一体どんな作戦でシュテルたち留学生組が真冬たちブルーマーメイドの隊員たちに勝てたのかを訊ねる。

 

「白兵戦としては外道な部類にはいるけど、あの真冬さんを相手にする以上正攻法では勝てなかったからね。まずは‥‥」

 

シュテルはもえかや真白たちに今回の訓練で自分たちがとった作戦を教えた。

 

「そ、それは‥‥」

 

「確かに奇策というか‥‥」

 

シュテルから今回の作戦を聞いて、真白ももえかも若干顔を引き攣らせる。

 

「それに今回はテロリスト役としてその役に徹したつもりだったからね。あの海上テロ事件でも、奴らはスーを利用したように手段を選ばないし、日本に来る途中で南シナ海でも海賊に襲われた商船と出会った‥‥船内に入った同級生の話ではまさに地獄絵図のような光景だったらしい」

 

「「‥‥」」

 

シュテルの話を聞いてもえかも真白も思わず生唾を飲み込む。

 

「ブルーマーメイドは確かに華やかに見えるけど、海に出て救助の他に治安維持活動をするのであれば、命の危険や惨い惨状の現場も見ることになるだろう‥‥ブルーマーメイドを目指すのであればそれを覚悟した方がいい」

 

「は、はい」

 

「そうだね」

 

もえかとしてはかつて、母を亡くし、真白もゴールデンウイークにて誘拐事件に遭遇したことからシュテルの言葉には重みと現実味を帯びていた。

 

「あぁ~いいなぁ~留学生組はぁ~」

 

「うぃ」

 

別のテーブルでは西崎がぐてぇ~と両手をテーブルに伸ばしており、立石はジュースが入ったコップをストローでチビチビと飲んでいた。

 

「私たちも思いっきり銃器でドンパチやりたかったなぁ~」

 

「うぃ」

 

西崎と立石は今回の訓練では人質役であったが、本音を言えばテロリスト役でもブルーマーメイド側でもいいから船内で思いっきりドンパチをやりたがっていた。

 

 

お茶会が進んでいく中でふと、もえかが、

 

「ねぇ、シューちゃんはヴァイオリンが上手だって聞いたけど、ピアノは出来ないの?」

 

と、質問してきた。

 

「ん?ピアノは従兄弟が専門だけど、全くできないわけじゃないよ」

 

小さい頃、シュテルはカナデとピアノを弾きあうこともあった。

 

今はカナデはピアノ専門に進んでいるが、シュテルは器用貧乏に二流の腕前で様々な楽器に手を出している。

 

その中でヴァイオリンが一番手にしっくりくるのだ。

 

「じゃあ、一曲聞かせてくれる?ちょうど、ピアノもあるし‥‥」

 

もえかはレストランの片隅にあるグランドピアノをチラッと見る。

 

「‥‥」

 

真白も口にはしないが、なんだか期待する目でシュテルを見ている。

 

「‥‥ぬぅ~‥‥従兄弟と違ってあまり、人に聴かせるほどの腕前じゃないんだけどな‥‥」

 

もえかと真白の二人だけならば良いが、今ここでピアノを弾けばレストランに居る全員に聴かせることになる。

 

「余興ってことで受け流してくれるよ。コンテストじゃないんだから」

 

「わ、私も聴いてみたいです。碇艦長のピアノ」

 

もえかと真白にせがまれて折れたシュテル。

 

八幡の頃からどうも押しに弱いのは直らないのかもしれない。

 

渋々ながらシュテルはグランドピアの下へと近づく。

 

「あれ?シューちゃん。ピアノ弾くの?」

 

明乃が気づいてシュテルに声をかける。

 

「う、うん‥もえちゃんと真白ちゃんに頼まれて‥‥」

 

「へぇ~‥‥」

 

シュテルはグランドピアノの椅子に座り高さを調節し、蓋を開ける。

 

そして鍵盤に指を滑らせて音を確かめる。

 

レストランに突然、鳴り響くピアノの音色にレストランに居た皆の目がシュテルに集まる。

 

(ふむ、ちゃんと調律はされているな)

 

客船に設置されているピアノだけあってちゃんと調律はされていた。

 

(では‥‥いくか‥‥)

 

調律されていることを確認したシュテルは鍵盤に指を走らせる。

 

「~♪~~♪~~~♪」 (← さよならの夏~コクリコ坂から~)

 

カナデとはよく語り弾きをしていたので、癖なのか語り弾きをするシュテル。

 

一曲を語り弾き終えるとレストランには拍手で包まれる。

 

シュテルとしてはこの一曲で終わらせるつもりだったのだが、その後もアンコールをもらい、幾つかの曲を語り弾きすることになった。

 

だが、楽しい時間と言うはあっという間に終わってしまい、そろそろお開きの時間が迫っていた。

 

「‥‥では、この曲で最後にしようと思います。今日の出来事をこの後何年か先に『あの時、ああいう事があったね』と、懐かしい思い出となるように‥‥」

 

シュテルはそう言うが、真冬や捕虜にされたブルーマーメイドの隊員たちにしてみれば、黒歴史になった今回の訓練だったかもしれない。

 

そんな真冬たちの心境を知る由もなくシュテルは鍵盤を弾き始める。

 

「~♪~~♪~~~♪」 (← 時には昔の話を)

 

シュテルがラストに語り弾きした曲は平成生まれ組にはただの曲であったが、激動の昭和という時代に生まれ、経験した真雪には刺さったのか昔を懐かしむかのように目を閉じ聞き入っていた。

 

 

 

 

「‥‥っと、言うことが先日ありました」

 

「へぇ~さすがは留学生組の先輩。すごいですね」

 

真白の姿は今、横須賀のとある総合病院にある病室の一室にあった。

 

そして病室のベッドには比叡艦長‥‥いや、正確には元艦長である前田聖理 (まえだ ひじり)が居た。

 

競闘遊戯会の時、前田が学校を病気により休学するため、真白に比叡艦長の移籍話がきた。

 

競闘遊戯会の最中で起きた海上テロ事件の中で真白は自分なりに考え、未来の艦長像のビジョンを思い浮かべ、最終的に出した結論が今回の移籍話を断り、晴風の副長の道を選んだ。

 

事件後、真白は前田に移籍話の件で彼女が入院している病院へ報告兼見舞いへと赴いた。

 

その時に前田になぜ、自分を比叡の艦長へ推薦したのか?

 

繰り上げで比叡の副長を艦長にするのではダメなのかと前田に訊ねた。

 

前田曰く、比叡の副長は前田も認める優秀な学生であり、通常通り彼女を自分に代わって比叡の艦長職を継がせても良かったのだが、その副長自身がラット事件により自信喪失をしてしまったので、ヒンデンブルクと共にラット事件の解決に一役買った晴風の№2である真白に白羽の矢が立ったのだ。

 

真白は元々、艦長職を望んでおり、家柄もブルーマーメイドの中でも名門である宗谷家の出身であったことも推薦の一因であった。

 

真白は比叡の副長の気持ちを理解するとともに前田と話し、彼女に比叡の副長に腹を割って話してみることを勧めた。

 

前田は真白の勧めで早速、比叡の副長に電話を入れた。

 

その後、比叡の副長は前田との話し合いで比叡の副長は、比叡艦長へ就任する決心がついた。

 

真白と前田はそれからもこうして交流をしていた。

 

前田本人はそこまで重病ではないと言うが、真白としてはやはり、気がかりであったのだ。

 

そして、今日は留学生組と自身の姉が艦長を務めるべんてんの乗員との間で先日行われた白兵戦訓練の話を土産話として前田の下を訪れたのだ。

 

「それで、碇艦長にピアノを演奏してもらいました」

 

「碇艦長ってドイツからの留学生の?」

 

「はい。碇艦長は最初、ピアノ演奏はあまり自信がないように言っていましたが、歌も演奏もなかなかのモノでした」

 

「へぇ~私もいつか聴いてみたいな」

 

真白は面会時間が許す限り、前田と交流の時間を過ごした。

 

 

 

真白が前田の病室を訪れている頃、横須賀女子の校長室では‥‥

 

「校長、ドック入りしていた赤城、山城をはじめとする艦艇がドック明けいたしました」

 

教頭が真雪にドック入りしていた横須賀女子の主要艦艇がドック明けしたことを報告する。

 

「予定より少し早かったわね」

 

ラット事件の際、ドック入りしていた艦艇はどんなに急いでも半年‥‥つまり、来月にドック明けの予定だった。

 

それが一ヶ月程、ドック明けが早くなっている。

 

「はい。ラット事件及び例の海上テロ事件の影響で、学生艦‥特に戦艦クラスの必要性が重視されたということでドック作業を急ピッチで行ったそうです。もちろん、安全性は保障されています」

 

ドック明けが予定より早く終わったからと言ってドックの整備士たちが手を抜いて整備をしたわけではなく、休日返上をしてまでもドックでの整備期間を短くしてくれたのだ。

 

「ドックの方々には感謝してもしきれないわね‥‥教頭先生」

 

「はい」

 

「実は、千葉の高校からこれが送られてきたの」

 

真雪は机の引き出しを開け、教頭に一枚の手紙を見せる。

 

「拝見します」

 

手紙を受け取り、その内容に目を通す教頭。

 

「校長先生、これは‥‥」

 

「ドック明けした艦のクラスには丁度いいと思うの?どうかしら?それにラット事件の際には周辺の学校には迷惑をかけてしまったし‥‥」

 

「そうですね。私も賛成です」

 

「では、この話を受けるとして、後日、生徒たちには説明しましょう。先方には私から了承の連絡をいれておきます」

 

真雪が引き出しから取り出した手紙には横須賀女子と千葉にある海洋科の高校との合同演習の提案が描かれていた。

 

参加する千葉の高校の名前には、

 

海浜総合高校 海洋科

 

総武高校 海洋科

 

と、書かれていた。

 




クリスと真冬のガチバトル‥二人ともまだ理性があったので、大事にはなりませんでしたが、理性をなくしたらおそらくブラックラグーンのロベルタVSレヴィみたいな殴り合いに発展していた事でしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。