やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

千葉での合同演習の前に思いついたネタがあったので、合同演習前に描くことにしました。


151話

「えっ?」

 

「人魚?」

 

「は、はい‥‥」

 

ある日の昼食時、横須賀女子の食堂で鈴は明乃と真白の二人に対して人魚についての意見を求めてきた。

 

「えっと、鈴ちゃん‥‥人魚ってあの人魚?」

 

「は、はい。ブルーマーメイドのロゴにもなっているあの人魚です」

 

「それで、人魚がどうかしたのか?」

 

「その‥‥人魚は実在するでしょうか?」

 

「「えっ?」」

 

鈴は明乃と真白に人魚がこの世界に存在するのかと聞いてきた。

 

彼女の突拍子のない疑問に明乃と真白は一瞬唖然とする。

 

「えっと‥‥」

 

明乃は返答に口ごもるが現実主義な真白は、

 

「知床さん。現実的に考えて人魚は存在しないと思うけど‥‥」

 

真白は鈴に人魚なんて存在しないときっぱりと言う。

 

「で、ですよね‥‥」

 

真白の回答を聞き、鈴も内心『当たり前じゃないか』と思う表情で肩を落とす。

 

「あっ、でも、シューちゃんなら何か知っているかも」

 

すると明乃がシュテルなら人魚について何か知っているんじゃないかと鈴に言う。

 

「えっ?碇艦長が‥ですか?」

 

「うん。ほら、シロちゃん。シューちゃん肝試しの時に色々と怖い話を知っていたじゃない?それなら人魚についても何か知っているんじゃないかな?」

 

「ですが人魚と怖い話は別物のような気もしますが‥‥うーん‥‥でも碇艦長ならまぁ、何かしらの情報は知っていそうですね」

 

真白は人魚の存在に否定的であるが、それでもあのシュテルなら‥‥と言う思いから一応、シュテルに人魚について何らかの情報をもっているかもと思った。

 

「じゃあ、放課後に会えるかちょっと聞いてみるね」

 

明乃はスカートのポケットからスマホを取り出して早速シュテルに今日の放課後に会えないかとメールを送る。

 

すると、すぐに『大丈夫』と言う返信があり、明乃は放課後、図書室で待ち合わせをすることにした。

 

「シューちゃん、大丈夫だって。放課後に図書室で待ち合わせをしよう」

 

「なぜ、図書室なんですか?」

 

「図書室なら本がたくさんあるからそこにも人魚の本があるかもしれないよ」

 

「は、はぁ‥‥」

 

放課後にシュテルと会う約束をとりつけ、昼食を済ませた三人。

 

そして、午後の授業が終わると三人は放課後に図書室へと向かう。

 

「やあ、お待たせ」

 

三人が図書室の出入り口でシュテルを待っていると、待ち人であるシュテルもやってきて三人に合流する。

 

「それで、話ってなにかな?」

 

図書室にある椅子に座り、シュテルは三人に要件を訊ねる。

 

「シューちゃんは人魚って信じる?」

 

「えっ?人魚?」

 

「うん」

 

明乃はシュテルに放課後、待ち合わせた要件を訊ねる。

 

「人魚ってあの上半身が人間で下半身が魚のあの人魚?ブルーマーメイドの人じゃなくて?」

 

「そう、ブルーマーメイドの人じゃなくて、魚の方の人魚」

 

「どうして人魚について知りたいの?人魚に会いたいの?」

 

「鈴ちゃんが、『人魚が存在するのか?』って聞いてきて‥‥シューちゃんは何か人魚について知っていないかな?って思ったの」

 

「人魚ね‥‥」

 

人魚‥‥それは、ブルーマーメイドのロゴに描かれている上半身が人間で下半身が魚の姿をし、水中に生息すると考えられた伝説の生物である。

 

しかし、人魚は架空の生物とされながらも世界各地に類似の生き物の伝承がある。

 

「有名なのはドイツのライン川に住むとされるローレライだね」

 

「「「ローレライ?」」」

 

「うん。セイレーンとも言われる人魚で、ライン川を通行する舟に綺麗な歌声を聴かせて、船乗りを惑わせ舟を遭難させる魔物とされ、救急車やパトカーとかに取り付けられているサイレンの語源とされているんだよ」

 

「「「へぇ~」」」

 

(サイレンの語源‥‥)

 

明乃と真白の思った通り、人魚についての雑学も知っているシュテル。

 

そして、その話を聞いて鈴は一人、神妙な面持ちとなる。

 

「日本にも有名な人魚伝説がある筈だよ」

 

「えっ?日本にも!?」

 

「うん」

 

「それは一体どんな話なんですか?」

 

「八百比丘尼伝説って言うんだけど‥‥」

 

「「「やおびくに?」」」

 

三人は『八百比丘尼』について知らないみたいだ。

 

「昔、とある漁村に住む若い娘が浜辺を歩いていると漁網に引っかかった人魚を見つけて助けるんだ」

 

「ふむふむ‥‥」

 

「それで?」

 

「助けてもらった人魚はお礼にその娘に自分の肉の一部を差し出してこう言うんだ。『助けていただいたお礼に私の肉をあげます。食べれば貴女は不老不死になれます』と‥‥若い娘は人魚の言葉に懐疑的だったけど、当時はお肉なんて滅多に食べられるものじゃなかったから若い娘はよろこんで人魚の肉を食べたんだ」

 

「人魚のお肉‥‥」

 

「ど、どんな味だったんだろう?」

 

「魚肉ソーセージみたいな味なのかな?」

 

真白は人魚の肉と聞いて顔をしかめるが、明乃と鈴は人魚の肉が一体どんな味なのか気になる様子。

 

「味は分からないけど、人魚が言う通り、その肉には不老不死の力があって、娘は何十年経っても年を取らず、肉を食べた時と変わらない姿のままだった。娘は年を取らないが周りの人たちは年を取り、次々と天寿を迎え死んでいく‥それはその娘の両親や恋人も例外ではなかった‥‥」

 

「「「‥‥」」」

 

三人は無言のままシュテルの話を聞き入っている。

 

「娘は肉親や恋人を失い、周囲の人からも奇異の目で見られ、人里を離れて女の僧‥尼さんになって八百年も生きたと言う話さ」

 

「「「‥‥」」」

 

八百比丘尼伝説を聞いて話のオチ聞いて神妙な顔つきの三人。

 

「人魚のお肉にそんな力があるなんて‥‥」

 

「不老不死って聞こえはいいですけど、考えさせられる話でもありますね」

 

「う、うん‥‥」

 

人間ならば誰しも夢見る不老不死。

 

しかし、自分だけが生き残り、周りの家族や親友が死んでいく孤独に自分たちは耐えられるだろうか?

 

明乃自身、海難事故で両親を失い自分だけ生き残ってしまった辛さを既に経験している。

 

「で、でもこれはあくまでも伝説‥‥昔話だから‥‥」

 

しんみりした空気となりシュテルは三人にフォローを入れる。

 

「他にも各地には人魚のミイラとされる奇形生物のミイラが残されている」

 

「に、人魚の‥‥」

 

「ミイラ‥‥」

 

「それ本物の人魚のミイラなんですか?」

 

人魚の肉を食べた人物の伝説の他に人魚本体のミイラの存在にやはり真白は懐疑的だ。

 

「いや、大半が猿の上半身に鮭などの大型魚の下半身をくっつけて日干しにした偽物だよ。主に長崎の出島に来ていたオランダ人相手に売っていた日本土産とされている」

 

「そんな偽物とは言えミイラをお土産にするなんて‥‥」

 

「趣味が悪いですね」

 

「ヨーロッパでも人魚の肉や骨は貴重な薬とされていたからね。でも、偽物のミイラが多くある中、もしかして本物の人魚のミイラじゃないか?って思われるミイラも存在しているんだよ。だから、一概に人魚が存在していないとは言い切れないかもしれない」

 

「それはどういうことでしょう?」

 

「恐竜のような古代生物みたいに昔はこの地球上に存在していたが、環境の変化や他の生物との生存競争に敗れて絶滅してしまったって言うケースがあるかもしれない。実際に人魚と間違われてジュゴンやマナティーと言った海洋哺乳類が乱獲された歴史もあるしね」

 

シュテルが自分の知っている人魚の情報を三人に教える。

 

「それで、碇艦長は人魚が存在していると思いますか?」

 

「私は信じているよ」

 

「えっ?どうしてですか?」

 

「見たことあるの?」

 

「いや、見たことはないけど、だからと言って人魚がいないとは言い切れないし、実際に人魚と思われるミイラも存在しているし‥‥人魚が居た‥もしくは居るって考えた方がなんかロマンがない?」

 

シュテルは人魚の存在に関しては肯定派みたいだ。

 

「知床さんはそれで、なんで人魚の存在について二人に訊ねたの?」

 

そして、シュテルは鈴になぜ人魚の話を持ち出したのかを訊ねる。

 

「そ、それは‥‥」

 

すると、鈴は気まずそうな顔をして俯く。

 

(何か訳ありだな、こりゃ‥‥)

 

鈴の表情を察して彼女が人魚の話を持ち出したのはただ単に人魚を見てみたいなんて簡単な理由ではなさそうで、あまり人には言えない理由がありそうだ。

 

「‥何か訳がありそうだね」

 

「そうなの?鈴ちゃん」

 

「い、いえ、そんなことは‥‥」

 

この時、鈴はシュテルたちに訳を話さず口ごもってその場を切り上げたが、シュテルとしては気になった。

 

そしてその日の夜、寮にて鈴に声をかけた。

 

「知床さん」

 

「あっ、碇艦長」

 

「ちょっといいかな?」

 

「‥‥」

 

シュテルの誘いに鈴は無言で頷き付いてきた。

 

「どうぞ」

 

シュテルは学生寮にある自室に鈴を招待して、彼女に持て成しの為のマッ缶を差し出す。

 

「ど、どうも」

 

シュテルからもらったマッ缶に口をつける鈴。

 

(あ、甘い‥‥)

 

鈴は初めて飲んだマッ缶の甘さに驚いた。

 

しかし、マッ缶を飲みなれているシュテルは平然とした様子でマッ缶のコーヒーを飲んでいる。

 

「それで、昼間のことだけど‥‥」

 

「‥‥」

 

シュテルが早速、鈴に昼間の件について訊ねる。

 

すると鈴としてはやはり気まずいのか顔を俯かせる。

 

「‥‥やっぱり、何か訳があるんだね」

 

「は、はい‥‥」

 

「‥もし、よければ何があったのか、訳を聞いてもいいかな?」

 

「‥じ、実は‥‥」

 

そして鈴はようやく重い口を開いた。

 

「従兄のお兄さんが‥‥?」

 

「は、はい‥‥」

 

鈴の話では彼女の従兄が先日、突然失踪してしまったのだと言う。

 

もちろん、失踪ということで置手紙もなければ、連絡も今日までない。

 

鈴としてはなぜ、従兄が失踪してしまったのか見当がつかなかった。

 

「その従兄の人は学生?」

 

「いえ、学校は卒業しています」

 

(ふむ、となると学校で虐められていたわけではなさそうだが‥‥)

 

シュテルは前世の自分のように学校で虐められ、失踪した後、自殺したわけではなさそうだが、社会に出てもパワハラ・セクハラ、職場での人間関係など様々な理由がある。

 

(もう少し、話を聞いてみるか‥‥)

 

「その従兄のお兄さんが失踪する前にお兄さん自身やお兄さんの周りで何か変わったことはなかった?」

 

「変わったこと‥ですか‥‥?」

 

「そう‥学校を卒業したってことは社会人なんでしょう?職場での人間関係に悩んでいたとか、どこかに旅行へ行くとか言っていなかった?」

 

「うーん‥‥」

 

シュテルの指摘に鈴は行方不明になった従兄について何かなかったかと従兄の様子について思い出す。

 

「お兄さんの失踪について関係があるかわかりませんけど、そのお兄さんには昔、お姉さんも居たみたいなんです」

 

「居たみたい?」

 

まるで、過去形みたいな表現をする鈴。

 

「私が生まれる前にそのお姉さんは病気で亡くなったみたいですけど、小学生の時、お正月に会った際にお兄さんはそのお姉さんについて病気で亡くなったんじゃなくて人魚になった‥‥って、言っていたことがあって‥‥」

 

「人魚になった‥‥?」

 

「はい」

 

「お兄さんのお母さん‥‥親戚の叔母さんはあくまでも『お姉さんは病気で亡くなった』の一点張りで、なんかその話題に触れてほしくなかった印象を受けました」

 

「まぁ、自分の娘が亡くなった訳だし、その叔母さんの言うことも分からなくはないけど‥‥他には何か変わった様子はなかった?」

 

「実はお兄さん、高校を卒業した後で大学へは行かず、工場に就職したんですけど、三ヶ月くらいでその工場を辞めてしまって‥‥」

 

「たった三ヶ月で?」

 

「はい」

 

「それはリストラや工場での人間関係が原因で?」

 

「いえ、そうじゃないと思います。その後も色んな会社や工場に入ったんですけど、すぐに辞めてしまって‥‥」

 

(おいおい、いくらなんでもすぐに入ってすぐに辞めるなんて、その人はガラスのハートなの?豆腐メンタルなのか?)

 

「最後に会った時は鬱病になってしまったみたいで精神科でお医者さんのカウンセリングを受けていたみたいです」

 

「鬱病ね‥‥」

 

(やっぱり、豆腐メンタルな人だったのか‥‥それに鬱病となると‥‥多分その人はもう‥‥)

 

鈴の話を聞いてその従兄はおそらく前世の自分同様、既に自殺しているのではないかと思った。

 

「私が小さい頃は、そのお兄さんにはよく遊んでもらって学校でもすぐに人と仲良くなれる‥‥岬さんみたいな人で‥‥そのお兄さんが鬱病になって、ましてや失踪するなんて私にはちょっと信じられなくて‥‥」

 

(まぁ、確かにミケちゃんが鬱病や失踪なんて考えられないよな‥‥)

 

鈴曰く、失踪した従兄は男版明乃みたいな性格の人物だったらしい。

 

「知床さんは従兄のお兄さんの話を聞いて人魚の存在が気になったの?」

 

「は、はい。もしかしてお兄さんの失踪に人魚が関係しているんじゃないかと思って‥‥」

 

自身の姉の失踪に人魚が関わっていたと思っていた鈴の従兄。

 

その話を聞いて鈴も従兄の失踪には人魚が関係しているのではないかと思い今日、明乃と真白に人魚について訊ねたのだ。

 

「‥‥」

 

シュテルは鈴の話を聞いて顎に手を当てて考える。

 

「鬱病って言うけど、その鬱病になったのも何かきっかけがあるの?」

 

「うーん‥‥これも関係があるのかわかりませんけど、強いてあげるならサイレンが関係あるのかもしれません」

 

「えっ?」

 

「お兄さん、初めて務めた工場でお昼休憩や仕事の終わりに鳴るサイレンの音を聴くと気分が悪くなっていたみたいで、最後に会った時は救急車のサイレンの音にも過敏に反応していました‥‥」

 

「サイレンの音‥‥」

 

「はい。今日の放課後、サイレンの語源が人魚のセイレーンって碇艦長の話を聞いて、やっぱり、お兄さんの失踪は人魚が関係しているとますますそう思えてきて‥‥」

 

「なるほど‥‥」

 

「それで、夕食前に親戚の叔母さんに電話をしてみたんですけど‥‥」

 

「冷たくあしらわれた?」

 

「はい。お兄さんの行方に関して『知らない』って言うばかりで‥‥」

 

「警察には捜索届けは出したの?」

 

「それが叔母さんの話では警察にも届けは出していないみたいなんです」

 

「届けを出していない?」

 

「はい」

 

「変だな‥自分の子供が失踪したのに捜索届けを出さないなんて‥‥その従兄と叔母さんを含め家族仲が悪かったの?」

 

「叔父さんもお兄さんが小さい頃に亡くなっていたので、お兄さんと叔母さんの二人暮らしだったんですけど、仲が悪いようには見えませんでした。ただ‥‥」

 

「お姉さんの死について、その叔母さんは何か隠している‥と‥‥」

 

「はい。それに今回のお兄さんの失踪にも‥‥」

 

「‥‥もしかして、その叔母さんがお兄さんの失踪に何か関係があるのかもしれないね‥‥」

 

「私もそう思います」

 

「とは言え、素直に教えてくれそうにないし、手がかりも無しか‥‥うーん‥‥」

 

日本では毎年約七万人‥‥一日当たり200件以上の失踪届けが出ている。

 

手がかりがない中で鈴の従兄を捜すのはあまりにも困難なことだ。

 

ましてや自分たちは警察の人間ではなくごくごく普通の学生。

 

身体は子供、頭脳は大人などこぞの高校生探偵や祖父が名探偵の孫でも見つけられるのは難しい案件だろう。

 

しかしそれでも鈴は従兄の行方を知りたがっている。

 

「うーん‥‥とりあえず人魚に関係していそうな場所、調べてみるか‥‥」

 

シュテルはノートパソコンを起動させ、インターネットを駆使して日本における人魚伝説がある都道府県を調べてみる。

 

人魚の肉を食べたとされる八百比丘尼が生まれたとされる新潟県佐渡市、愛知県春日井市、栃木県栃木市に同じく八百比丘尼の終焉の地とされる福井県小浜市。

 

広瀬川の“龍宮”という所から持ち帰った魚を食べ不老不死の力を得た村人が居たとされる群馬県前橋市。

 

ほかにも京都府京丹後市にも人魚の肉を食べたとされる娘の記録もあった。

 

「こうしても見ると日本のあちこちに人魚に関係した場所があるんですね」

 

改めて日本の人魚や八百比丘尼について調べてみると各地に人魚に関連する記録や八百比丘尼の生誕の地とされる場所があることに鈴は意外性を感じる。

 

「でも、どれもこれもかなり昔の記録だから知床さんの従兄とは無関係っぽいね」

 

「はい」

 

記録の信憑性は兎も角、あまりにも残されている記録が古すぎて鈴の従兄の失踪にはどう考えても無関係そうなものばかりだ。

 

「従兄のお兄さんは海外旅行へ行ったことはある?」

 

「いえ、私の知る限り海外に行ったことはないはずです」

 

「じゃあ、ドイツのライン川も無関係か‥‥」

 

念のため、日本国外にも目を向けてみたが、鈴の話では従兄は海外渡航の経験がなさそうなので、少なくとも海外に出た形跡はなさそうだ。

 

「その叔母さん以外に従兄の事をよく知っている人は他に誰かいる?」

 

「私のお母さんなら、詳しいかもしれません」

 

鈴は叔母に冷たくあしらわれた後、自分の母に従兄について訊ねようと思っていた時にシュテルに声をかけられたので、まだ母親に確認を取っていなかったのだ。

 

「じゃあ、聞いてみてもらえるかな?」

 

「は、はい」

 

鈴は早速、スマホで実家へと電話を入れる。

 

『はい、知床です』

 

「あっ、お母さん。私、鈴」

 

『あら?鈴、どうしたの?』

 

「あの‥従兄のお兄さんの件で‥‥」

 

『‥‥』

 

鈴が従兄の件を話すと鈴の母親はしばし無言となる。

 

「ねぇ、お兄さんはどこに行っちゃったの?さっき、叔母さんに電話をしてみても『知らない』の一言だし‥‥」

 

『鈴、お兄さんのことはもう諦めなさい‥‥多分、あの人はもう‥‥』

 

鈴の母親もシュテルの予測同様、従兄は既に死んでいるだろうから忘れろと言う。

 

「それでも、私は知りたい‥‥お兄さんが失踪した理由を‥‥」

 

鈴にしては珍しく自分の意思を突き通そうとしている。

 

「ねぇ、お母さん。何か知らない?どんな些細なことでもいいから」

 

『‥‥』

 

「お兄さん‥サイレンや人魚で苦しんでいたんだよ‥‥私は例えお兄さんがもう亡くなっていても真実を知りたいの‥‥お願い!!」

 

『‥‥わかったわ。私の知っていることは教えてあげるけど、絶対に危ないことはしちゃダメよ』

 

「ありがとう。お母さん」

 

鈴の母親としても内気で辛い出来事から逃げてばかりだった娘がこうして意思を貫こうとしているのが嬉しかった。

 

とは言え、危ないことはしてほしくはなかったのだが、話したところで恐らく徒労に終わるだろうと思い自分が知っていることを娘の鈴に話した。

 

失踪した従兄には確かに姉が居た。

 

しかし、その姉も実は弟同様、失踪していた。

 

だが、それは鈴が生まれる前の出来事であり、鈴の母親も詳しいことは知らず、なぜ失踪したのか理由はわからなかった。

 

鈴の叔母が娘の失踪を病死と偽ったのは世間体を考えての事だと思ったらしい。

 

警察に捜索届けを出さなかったのもどうせ見つからないだろうと判断して届けを出さなかった。

 

「それで、お兄さんが行きそうな場所にどこか心当たりはある?」

 

『‥‥もしかしたら、昔住んでいたあの村に行ったのかもしれないわね』

 

「あの村?」

 

鈴の母親の話では従兄の一家は昔、とある地方の漁村に住んでおり、鈴の叔父はその漁村で漁師をやっていた。

 

しかし、叔父が漁の最中に事故で亡くなり、娘が失踪してから従兄と叔母はその漁村を出て東京へ引っ越したらしい。

 

従兄が行くとしたらその漁村くらいしか心当たりがないと鈴の母親は言う。

 

「わかった。ありがとう」

 

『いい、くれぐれも危ないことをしてはダメよ』

 

従兄が行きそうな場所を教えてもらい鈴は電話を切った。

 

そして、鈴はシュテルに従兄が行ったかもしれないその漁村について話す。

 

「瓜生ヶ村(うりゅうがむら)?」

 

「はい。お母さんが言うにはお兄さんは昔、その村に住んでいたみたいで、行くとしたらその村じゃないかって‥‥」

 

「瓜生ヶ村ね‥‥」

 

鈴から聞いた話でシュテルはネットで早速、その村について調べてみる。

 

「何かわかりましたか?」

 

「‥‥うーん‥かなりの田舎だね。山と海に囲まれた村で名産もなく目玉となる観光資源もないみたい。近々近隣の市か町に統廃合されるか過疎化で廃村になりそうな村だな」

 

ネットに表示された写真から村の印象を口にするシュテル。

 

「た、確かに…」

 

鈴もパソコンの画面を見てみるが、シュテルの言う通り寂れた村だった。

 

「でも、この村にお兄さんが‥‥」

 

「行ったかもしれないって言う可能性であり、この村にお兄さんが確実にいるとは限らないよ」

 

「はい」

 

「それで行くの?この村に‥‥」

 

「はい。今度の休みに行くつもりです」

 

「そう‥‥分かった。じゃあその時は私も一緒に行くよ」

 

「えっ?」

 

「この村で従兄のお兄さんが失踪したかもしれないんでしょう?ただ単に家出をしてこの村で普通に生活しているならいいけど、もし、村ぐるみでお兄さんの失踪に関係しているとなると一人で行くのは危ないよ。閉鎖的な村は余所者には冷たいか攻撃的らしいからね」

 

「わ、分かりました」

 

従兄の行方を捜す為、今度の休みに鈴と共にこの寂れた漁村へ行くことにしたシュテル。

 

「ただ、この村に行く前に装備を整えていこう。こういう時の悪い予感って当たるんだよね‥‥これまでの経験上」

 

取り越し苦労だと思って用意したことがこれまでの経験上すべて無駄になったことがなく、シュテル本人としては取り越し苦労、無駄になってほしかった。

 

「装備‥ですか?」

 

「うん。経費はこっちで持つから、知床さんは使い方を覚えて」

 

「つ、使い方って‥まさか、拳銃‥ですか?」

 

鈴はラット事件の最中、四国沖の海上ショッピングモールにてクリスとユーリが本物の拳銃を装備していたことを思い出す。

 

「いや、さすがに拳銃じゃないよ」

 

シュテルが拳銃でないと言うと鈴はホッとした様子。

 

翌日の放課後、シュテルは鈴を連れて東京の秋葉原へと向かった。

 

「ほぇ~‥‥」

 

鈴はこの年で初めて秋葉原へ来たみたいでカラフルな看板だらけのビルを見て呆然とする。

 

(前世では材木座に連れられて来たが、やはり地盤陥没しているだけあって地形が違うな)

 

異なる歴史を辿っているためか前世の秋葉原と後世の秋葉原とは地形も店舗も異なっていた。

 

それでも、売っているモノは大して変わりはなく、同人誌、フィギュア、ゲーム、カードなどの他にパソコン、家電製品等の電化製品が売っている。

 

「い、碇艦長。ここで何を買うんですか?」

 

そんな中、二人は防犯グッズを販売している店に来ていた。

 

「ん?これだよ」

 

「これは‥‥なんですか?」

 

「これはね‥‥」

 

シュテルはこの店で購入したモノについて鈴に教える。

 

「へぇ~‥これが‥‥」

 

「拳銃より頼りないけど、まぁ、万が一のための護身用にね」

 

シュテルはこの店で一番強力なある護身グッズを購入し使い方を鈴に説明した後、彼女に持たせた。

 

だが、シュテルの予測通り、この時に買ったこの護身グッズが後々に二人の危機を救うことになった。

 

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