やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

153 / 161
後半にとある生徒会役員たちがゲスト出演しています。


152話

 

 

晴風航海長である知床鈴の従兄が突然失踪した。

 

そして、彼の姉も鈴が生まれる前に失踪していた。

 

鈴が失踪した従兄と最後に会った時、彼は鬱病を発症しており、何故かサイレンの音に過敏になっていた。

 

更に彼は鈴が小学生の時に周囲の親戚たちが自分の姉が病死したと言われる中で、鈴に『姉は人魚になった』と呟いていた。

 

ただ、鈴は鬱病になる前の従兄の人柄をよく知っていた。

 

鈴にとって従兄が鬱病となった事が信じられず、ましてや失踪するなんてとても信じられなかった。

 

鈴は従兄の失踪に人魚が関係しているのではないかと思い、彼女は同級生の明乃と真白に人魚についての意見を求めた。

 

明乃と真白の二人は人魚の存在についてやや懐疑的だった。

 

女子にとってあこがれの職業であるブルーマーメイドのロゴにも採用されている人魚は一般的に考えても人間が思い描いた架空の生物であり、この地球上に存在するのか?と言われると確かに人魚なんて存在しないと思うのが普通である。

 

しかし、ドイツからの留学生で上級生であるヒンデンブルク艦長のシュテルは意外にも人魚の存在に関して肯定的だった。

 

そして、シュテルは自身の観察眼で鈴が何か悩んでいると見抜き、鈴から訳を聞いて、彼女の従兄捜しに協力した。

 

鈴の母から失踪した従兄の手がかりとして、彼が生まれ故郷である漁村にもしかしたら従兄が居るか、何かしらの手掛かりがあるかもしれないということで休日に鈴とその漁村へ向かうことになった。

 

ただ、二人は現地に行く前に事前準備をした。

 

秋葉原の防犯グッズ店でとある防犯グッズを買い、目的地である漁村についてもネットで情報を集めた。

 

しかし‥‥

 

「観光地じゃないから情報があまりないな‥‥」

 

ネットの検索サイトで目的地の漁村である瓜生ヶ村についての情報を集めたのだが、どうもその村は特に目立つような特産品も観光の目玉となるようなスポットもない寂れた漁村だったので情報が中々無い。

 

偶然、その漁村の駅でぶらり途中下車した観光客が暇つぶしに写真を撮り、自分のTwitterやSNSにその写真をあげているぐらいだ。

 

「情報が少なすぎるのはやや不安が残るな‥‥」

 

「で、でも、この写真を撮った人はこの村から無事に帰ってきているみたいですし、そこまで警戒することはないんじゃないでしょうか?」

 

「‥‥」

 

一抹の不安を抱きつつもやがて、週末となり鈴はシュテルと共に従兄の生まれ故郷である瓜生ヶ村へと向かった。

 

ただ、その村に従兄が居ると言う保証も失踪の手掛かりが絶対にあると言う保証はない。

 

でも、現状その瓜生ヶ村以外に手掛かりがないのでどうしようもなく鈴にとっては居ても立っても居られなかったのだ。

 

連絡船と陸路の鉄道を乗り継いでやってきた瓜生ヶ村。

 

「やっぱり無人駅か‥‥」

 

改札を出る際、駅舎は屋根と待合室があったが、駅構内や改札口に駅員の姿はなかった。

 

「電車の本数もすごく少ないですね」

 

鈴が駅構内にある時刻表を見て呟く。

 

シュテルも時刻表を見てみると上りも下りも電車の本数が少なく、数時間に一本で最終は午後五時代だ。

 

「宿もとっていないし、最終電車が出る前に調査を終わらせよう。この様子じゃあ、村に宿なんて無さそうだし」

 

「そうですね」

 

こんな寂れた漁村では宿なんて無さそうだし、最終の電車を乗り遅れたらこの村で野宿になりそうだった。

 

流石に野宿は勘弁なので、シュテルと鈴は早速、従兄の手掛かりを求めて村人に聴きまわることにした。

 

「そういえば、従兄のお兄さんの名前はなんて言うの?」

 

「三上修一です」

 

「その人の写真や画像はある?」

 

「ちょっと昔の頃の写真ですけど‥‥」

 

鈴は以前撮った従兄の写真をショルダーバッグから取り出す。

 

「この人です」

 

ショルダーバッグから取り出した写真はお正月の時に親戚みんなで撮った写真で、鈴はその中から一人の男性を指さす。

 

(可もなく不可もなく、いたって普通の人だな)

 

鈴の従兄である三上は葉山のようなイケメンではなく、逆に前世の自分のように腐った目をした様な男でもなく、どこにでもいそうな平均的レベルな顔つきの男が写っていた。

 

「じゃあ、早速聞いて回ろう」

 

「はい」

 

村を回り、そこにいた村人に『この人、知りませんか?』 『見ていませんか?』と聞いて回るが、『知らない』 『見たことない』 の返答ばかりで、中には無視する村人も居た。

 

鈴の母親から聞いた従兄の生家も訪ねてみたが、そこは空き家で長い間人が住んでいた形跡がなく、当然従兄の姿もなかった。

 

「浦島太郎じゃあるまいし、三上さん一家の事をすんなりと忘れるモノだろうか?」

 

「え、ええ‥‥叔母やお母さんの話では、叔父さんはこの村で漁をしていた時に事故で亡くなったって聞いたんですけど、その事故の事さえも忘れるなんてちょっと妙です」

 

鈴の言う通り、こんな辺鄙な村で、十六年以上前のこととは言え、人が死ぬほどの事故が起きれば人々の記憶に残りそうなものである。

 

「村八分にでもあっていたのかな?」

 

「いえ、そのようなことは‥‥」

 

三上一家がこの村で村八分状態であったら、村人が三上一家について『知らない』と答えるのも分かるが、鈴の話では決して三上一家は村八分にあっていた様子はなかったと答える。

 

瓜生ヶ村には裏側に山もあるが、従兄が人魚について口走っていたので、山には従兄の手掛かりはないだろうと判断し、海側を捜した。

 

そして、二人は海岸へとたどり着く。

 

テトラポットや防波堤、岸壁が整備された漁港とは違い波が打ち寄せる砂浜だけの海岸であるが、サーフィンや潮干狩りをしているような人はおらず、人っ子一人いない寂しい海岸であり、真夏でもきっと海水浴場として機能はしていないだろう。

 

「やっぱり、手掛かりがないね‥‥」

 

「はい‥‥」

 

海岸にあった岩に座り、海を見ながら従兄本人はもとより、従兄の行方を知る手がかりも見つからないことに鈴は落胆の色が窺える。

 

わかっていたことなのだが、やはり現実を直視すると落胆もする。

 

しばらく、波音とカモメの鳴き声を聴きながら海を見ていると、

 

「ん?」

 

シュテルは砂浜で何かを見つけ、岩から立ち上がる。

 

「碇艦長?」

 

突然立ち上がったシュテルに鈴は怪訝な顔をする。

 

しかし、シュテルはそんな鈴の様子に気づかず浜辺に打ち上げられたソレに近づく。

 

人は居ないがゴミもない綺麗な砂浜だったので、打ち上げソレが目立ったのだ。

 

そして、鈴も一足遅れてシュテルの後をついてくる。

 

「‥‥これ‥‥男物のジャケットだ‥‥」

 

浜辺に打ち上げられたのは一着の男物のジャケットだった。

 

「どうしたんですか?」

 

「これが打ち上げられていた」

 

シュテルは一足遅れて来た鈴にジャケットを見せる。

 

「上着‥‥ですか‥‥?」

 

「ああ‥‥でも、全体的に所々が破れているし、血みたいなシミもある」

 

打ち上げられたジャケットは腕の部分をはじめ所々が強い力で引きちぎられた様に破れており、さらにその近くには赤黒いシミがある。

 

ジャケットの破れ方を見て赤黒いシミは血液によるシミだとわかった。

 

「さ、サメにでも襲われた人の服でしょうか?」

 

鈴はサメにでも襲われた人が着ていた服ではないかと言う。

 

確かに状況的に鈴が言うように船から落ちた人が海でサメに襲われその人が着ていたジャケットが偶然この村の浜辺に漂流したとも言い切れる。

 

「ん?これはっ!?」

 

ジャケットを調べていたシュテルはジャケットの持ち主を調べるためにポケットを調べていたが、その最中で裏地に刺繡されていた持ち主の名前を見て思わず声をだす。

 

「ど、どうしました?」

 

「‥‥これ」

 

シュテルは鈴にジャケットの裏地に刺繍された名前を見せる。

 

「っ!?こ、これ‥‥」

 

ジャケットの裏地には『三上』と刺繡されていた。

 

「み、三上って‥‥も、もしかしてこのジャケットの持ち主は‥‥」

 

「‥‥」

 

失踪した従兄と同じ苗字が刺繡されていたジャケットが破れ、しかも血が付いた状態でこの浜に打ち上げられていた。

 

しかもこの浜は従兄の生まれ故郷の漁村の浜辺‥‥

 

ジャケットに刺繡されていた名前と地理的な要因からこのジャケットの持ち主が鈴の失踪した従兄じゃないかとシュテルも鈴もそう思えてくる。

 

いや、それ以外に考えられなかった。

 

「「‥‥」」

 

シュテルはジャケットを持ったまま、そして鈴はジャケットを見たまま固まる。

 

そんな中、

 

〈鈴‥‥〉

 

鈴の耳に一人の男の声が聞こえた。

 

「っ!?お兄さん!?」

 

鈴の耳に聞こえてきた男の声は捜し人である従兄の声によく似ていた。

 

「どうしたの?」

 

しかし、シュテルには先ほど聞こえた従兄の声が聞こえてはいない様子。

 

「い、今、男の人の声が‥‥お兄さんの声が聞こえたんです!!」

 

「えっ?」

 

鈴は周囲を見ながらシュテルに捜し人である従兄の声がしたことを伝える。

 

シュテルも鈴に習い、周囲を見渡すが辺りには人の姿は見えない。

 

「すみません、気のせいだったのかもしれません」

 

鈴は気のせいだと判断し、とりあえずシュテルはこのジャケットは失踪した従兄の手掛かりでもあるし、もしかしたら彼の遺品になるので、小さく折りたたんで背中に背負っていたリュックに入れた。

 

その後、二人は浜辺を歩いていくと、海岸線の崖下に洞窟のような洞穴があった。

 

しかもその洞窟の手前には鳥居と頑丈そうな柵がある。

 

「あんなところに洞窟がある」

 

「それに鳥居も‥‥」

 

「鳥居ってことは洞窟の中で何かを祀っているのかな?」

 

「でも、手前には頑丈そうな柵もありますよ」

 

「普段は立ち入り禁止ってことかな?」

 

二人が柵に近づき、奥にある洞窟を見ていると、

 

「おい、そこで何をしている!?」

 

「「っ!?」」

 

不意に怒鳴り声が辺りに響いた。

 

「そこに近づいちゃいかん!!」

 

二人は声がした方を振り向くと、そこには袴姿の男が一人立っていた。

 

身なりからして神職関係の人物だと一目で分かった。

 

「あっ、すみません。あの洞窟は何かな?と思って‥‥」

 

「あそこは奥宮だ。君たち、この土地の者じゃないな?」

 

「は、はい。横須賀から来ました」

 

「なるほど、この土地の者ならばあそこには近づかないからな。観光かね?」

 

「えっ、ええ‥まぁ‥‥」

 

「あ、あの奥宮というと神社なんですか?」

 

「そうだよ。あそこにある蛭ノ塚神社の奥宮だ。私はあの神社の宮司を務めている」

 

宮司の視線の先には小高い丘に建てられた鳥居と神社らしき建造物の屋根が見えた。

 

「普通柵があれば近づこうとしない。一体何をしていたんだね?」

 

「あっ、いや、本当にただ気になっただけです」

 

宮司の質問にシュテルは事実を話すが、宮司の目つきを見る限りあまり信用されていない。

 

「あ、あの‥‥」

 

「ん?なんだね?」

 

そんな中、鈴は恐る恐る宮司に声をかける。

 

「宮司さんはこの村でずっと宮司を務めてきたんですか?」

 

「そうだが?」

 

「それじゃあ、三上修一って方を知っていますか?」

 

「三上修一?」

 

「は、はい。この人で、十六年以上前にこの村に住んでいた三上って家に居た男の人なんですけど‥‥」

 

鈴は宮司に従兄の写真を見せながら行方を知らないか訊ねる。

 

「三上?‥‥三上‥‥?」

 

宮司は顎に手を当てて思い出そうとする仕草をとる。

 

「その三上さんのお父さんはこの村で漁の最中、事故で亡くなり、お姉さんは失踪したみたいなんです」

 

シュテルは三上家の内、一人が亡くなり、一人が失踪していることを宮司に伝える。

 

「何か知りませんか?失踪したお姉さんの名前は三上百合江って言う名前なんですけど‥‥?」

 

鈴は従兄の姉の名前を宮司に伝える。

 

「いや、覚えていないな‥‥なにせ十年以上前のことなんだろう?」

 

「は、はい」

 

「失踪と言うが、もしかしたら波にさらわれたのかもしれないな」

 

「波に?」

 

「うむ。その娘さんもこの村に住んでいたのだろう?」

 

「はい」

 

「となると、彼女もこの海岸に来たかもしれないな。ただ、この海岸はけっこう危険な場所でね。見てみなさい」

 

宮司は崖下の近くを指さす。

 

「今は上の方に道が通っているが、この村はかつて陸の孤島でね、その断崖の下を磯伝いに行くのが唯一の道であとは船以外に村を出入りする道がなかった。あの道も引き潮の時だけ通れるだけで、満ち潮になると海に沈んでしまう。だから、歩いている途中で満ち潮になり波にさらわれた人もいたらしい」

 

「「‥‥」」

 

二人が宮司の説明を聞き、崖下を見ていると、

 

 

ウウウウウウウウウウウウウウ~

 

ウウウウウウウウウウウウウウ~

 

 

サイレンの音が聴こえてきた。

 

「サイレン?」

 

「ああ、満ち潮を知らせるためのものだ。今話した通り、満ち潮になると通れなくなるからね。昔は櫓を立てて見張り役を置き、満ち潮の時には半鐘を鳴らして知らせていたんだ。その後、サイレンが使用され、交通網が整備されあの道は使われなくなったが、数少ない村の習慣として今でも満ち潮の時にはサイレンを鳴らしているんだ」

 

どこからともなく流れてくるサイレンの音は昼間なのだが少し不気味に感じる。

 

「それじゃあ、私は用があるから失礼するが、くれぐれもあの洞窟に近づいちゃいかんよ」

 

そう言い残して宮司は去っていく。

 

宮司の説明に若干の疑問を感じたが、満ち潮となり、あの洞窟への道が閉ざされては物理的に行くのは不可能なので、二人は宮司が務めている神社へ行ってみることにした。

 

「ここが、蛭ノ塚神社‥‥」

 

「祀っている神様は恵比須様と神社姫か‥‥」

 

シュテルは神社の境内に設置されている看板を見て、この神社に祀られている神を知った。

 

「普通神社って一人の神様を祀るんじゃないの?」

 

「いえ、二人の神様を祀る二柱神社もありますよ」

 

「へぇ~‥‥」

 

蛭ノ塚神社に祀られている神は二人居り、一人は恵比須。

 

七福神の一柱であり、狩衣姿で右手には釣り竿を持ち、左脇に鯛を抱える姿が一般的に知られており、古くから漁業の神として知られていたので、漁村の神社として祀られる神としては不思議ではない。

 

そして、もう一人祀られている神、神社姫。

 

神社姫は江戸時代から日本に伝わる妖怪で、その見た目は長髪で人のような顔にニ本の角、細長い胴体に三股の尾ビレがついた人魚のような姿をしているが、これは人魚というよりは人面魚に近い姿をしている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

神社姫は『予言獣』という妖怪の一種で、豊作や疫病の流行など未来の出来事を予言し、厄除けの方法を伝えたと言われている。

 

神社姫の他にも件(くだん)と呼ばれる人面牛も同じく『予言獣』の一種である。

 

(さっきの宮司が居ないな‥‥さっき用があると言っていたが、まだ戻っていないのか‥‥)

 

境内を見渡すが先ほどの宮司の姿はなかった。

 

「恵比須さまは漁業の神様だから、漁村であるこの村の神社に祀られる神様として分かるけど、神社姫は‥‥」

 

「なんか祀られる神としては変わっていますよね」

 

社務所の室内に飾られている神社姫の絵を見て、祀る神としては疑問を感じる。

 

「しかも、恵比須さまよりも神社姫の方をなんか贔屓してない?」

 

「確かに‥‥」

 

社務所には神社姫の絵ばかりで恵比須の絵は小さいお札サイズの絵が数枚あるだけだった。

 

いくら神社姫が予言獣であるとはいえ、この村は漁村なのだから漁業の神である恵比須の方を優遇すると思った。

 

あの宮司はその後も戻ってこなかったが、特にこの神社には怪しい所はないので、二人は神社を一回りして海岸へと戻った。

 

「そろそろ潮が引く時間だけど‥‥むっ!?」

 

「どうしました?」

 

「しぃっ‥‥」

 

シュテルは鈴に静かにするようにジェスチャーをとると、岩陰からこっそりと洞窟を窺う。

 

すると、洞窟前に設置されている柵の近くに作業着姿の男が座っている。

 

「どうやら見張りがついたみたいだ‥‥」

 

「えっ?」

 

「ほら、あそこ‥‥」

 

「あっ‥‥で、でも、どうして奥宮の洞窟に見張りなんて‥‥さっきまでいなかったのに‥‥」

 

「よほど、余所者に見られたくない秘密があるんだろう‥‥あの宮司が言ってた用事は多分、私たちの事を村中に知らせるためだったんだろうな」

 

「ど、どうします?」

 

「あの洞窟に近づかなければ、これ以上警戒されることはないだろうけど‥‥知床さんはどうしたい?」

 

「えっ?」

 

「従兄のお兄さんのジャケットは見つけることが出来た。そして、そのジャケットの状態から多分、生存している可能性は非常に低い‥‥お兄さんの生死を確かめたいというのであれば、調査はこれで終わり。でも、なんでお兄さんが失踪し、亡くなったのか?その過程と真実はこのまま闇に葬られる」

 

「‥‥」

 

「あそこまで警戒するんだ。お兄さんの死の真相はあの洞窟が関係しているかもしれない。ここで止めるか、それともあの洞窟の中を見るか?その判断は知床さん次第だよ」

 

「わ、私の‥‥」

 

見つけたジャケットの状態から確かにシュテルの言う通り、従兄が生存している確率は低そうだ。

 

従兄がもうこの世に居ない事は分かった。

 

遺体もおそらく見つかることはないだろう。

 

シュテルの言う通り、生死の確認だけならば、調査はもうこの時点で打ち切った方が危険はないだろう。

 

だが、どうして従兄は失踪し、死ななければならなかったのか?

 

その真相はまだわかっていない。

 

ここで止めて横須賀に戻る?

 

それとも調査を続けて従兄の死の真相を解き明かすか?

 

これは自分の問題であり、シュテルの問題ではない。

 

「わ、私は‥‥知りたい‥です‥‥どうして、お兄さんが‥‥こ、こんな目に遭わなければならなかったのかを‥‥」

 

鈴自身、正直に言えば怖いし逃げ出したい。

 

でも、以前シュテルに言われた『人生の中にはどうしても逃げてはダメな時もある』という言葉。

 

鈴には今がその逃げてはダメな時なのだと確信した。

 

鈴は自分にそう言い聞かせて、調査の続行をシュテルに言ったのだ。

 

「わかった。知床さんがそう言うなら、付き合うよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ただ、休日は明日までだから、明日中には何とかあの洞窟の中に入る算段をつけよう」

 

「はい」

 

「それと、さすがに横須賀からまたこの村に来るルートでは時間がかかりすぎるから、この村から一番近い宿を取ろう」

 

シュテルは洞窟から少し離れ、スマホでこの村から一番近くにある宿を探して今日はその宿に泊まることにした。

 

もちろん、寮の管理人には外泊する旨を伝えた。

 

理由は『日帰りで観光に言ったら、最終電車を逃して帰れなくなった』‥‥である。

 

 

駅に向かっている最中、あちこちからこちらを窺う視線のようなものを感じる。

 

そして、駅舎にて電車を待つ間も一人の男が時折チラチラと二人の様子を窺う仕草をとっていた。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

(やっぱり、村ぐるみで何かを隠しているな)

 

(一体あの洞窟にはどんな秘密があるんだ‥‥?)

 

これらの村人の様子や仕草から鈴の従兄の失踪と死亡の原因にはやはりあの洞窟が関係している可能性が高いとシュテルはそうにらんだ。

 

男の視線に気づきながらも下手に騒動を起こさないように敢えて無視を決め込む。

 

やがて、電車がやってきて車両に乗るが、駅舎に居たあの男は電車には乗らず、電車が出発すると同時に駅舎から出て行った。

 

(バレバレだ‥‥尾行や監視をするならもう少し上手くやれよな)

 

男の様子から、どうみてもあの男が海岸の作業着姿の男同様、自分たちを監視していたのがまる分かりであり、シュテルは内心呆れた。

 

村から一番近くにある宿の町の駅についたシュテルはまず、宿に向かう前に本屋へと向かうことにした。

 

「知床さん」

 

「はい」

 

「宿につく前に本屋によってもいいかな?」

 

「えっ?本屋にですか?」

 

「うん。この周辺の地図を手に入れたい」

 

「地図を?」

 

「あの洞窟へのルートが他にないか調べるためにね」

 

「あぁ~なるほど」

 

シュテルは鈴に本屋へ寄る理由を話すと彼女も納得し、二人は駅前にあった本屋に向かった。

 

「えっと‥‥地図‥‥地図‥‥地図‥‥」

 

地図の本が売っている棚でこの地域の地図を探す。

 

「あっ、これじゃないですか?」

 

「ん?」

 

鈴がそれらしき地図の本を見つけ、パラパラとページを捲ると確かに鈴の言う通り、その本はここ周辺の地図を表示していた。

 

「うん、間違いない」

 

地図の本を購入し、二人は今度こそ、予約した宿へと向かった。

 

宿のロビーにてチェックインをしようとした時、フロントには先客がいた。

 

四人の女性に一人の男性客で、その内二人の女性と男性は自分たちと変わらない年齢であり、男性は眠っている女性を背中に背負っていた。

 

「お部屋は三階の白梅の間です」

 

「お姉ちゃん、お風呂二十四時間使えるって」

 

「そうか」

 

女子二人の会話が聞こえたのだが、

 

(姉って‥‥あまり、変わらない年齢に見えるし、姉妹にしてはなんか似てないように思えるが‥‥)

 

シュテルはこの二人の会話にやや疑問を感じた。

 

「ほんと、一部屋とは言え、取れてよかったわね。お・に・い・ちゃ・ん。フフフフ‥‥」

 

最後の一人の女性‥‥というか小学生くらいの子は不機嫌そうにジト目で口元を怪しげに歪ませながら男の人に言い放つ。

 

「ごめんね。お兄ちゃんで、ごめんね」

 

男性はなんだか申し訳なさそうに小学生の女の子に謝っている。

 

(本当にあの人たちは家族なのか?)

 

あまり似ていない姉妹に不仲に見える兄妹‥‥

 

これらの様子から本当に目の前の先客が家族なのかとますます疑問が深まるが、

 

(まぁ、色々事情がある家族なんだろう)

 

あの人たちが『家族』だと言うのだから、家族なのだろう。

 

特に事件性もなさそうだし、他人の家庭環境や問題に首を突っ込むのは野暮なので、シュテルはスルーした。

 

チェックインを済ませ、夕食と明日のルート確認の前にまずは温泉で今日の疲れを癒すことにした。

 

シュテルは身体に残る銃痕を気にして周囲に人が居ない事を確かめ手早く身体にバスタオルを巻きつける。

 

「ふぅ~‥‥」

 

先に湯船につかっていると、

 

「お、おまたせしました」

 

自分と同じく身体にバスタオルを巻いた鈴もやって来た。

 

(知床さん、結構胸があるんだ‥‥)

 

鈴が隠れ巨乳であることは晴風クラスでは結構知られているのだが、シュテルは今日初めて鈴の胸を見て、彼女が隠れ巨乳であることを知った。

 

(ユーリっぽい声の人はみんな胸がでかいのか?)

 

ユーリと鈴は声が似ていることから、声が似ていると胸もでかくなるのかと思うシュテルであった。

 

湯船につかっていると先ほどの先客の女性たちも温泉に入ってきた。

 

ただ、男性の背中に居た女の人は居ない。

 

恐らく部屋で寝ているのだろう。

 

「いい気持ちだねぇ~そう、そう、ここの旅館、混浴もあるらしいよ」

 

「らしいですね」

 

「男の人と入浴なんてドキドキするね」

 

「ならば混浴に行くか」

 

「えええー!!い、いや、待ってください。心の準備が‥‥」

 

小学生の女子が狼狽えている。

 

「そうか‥‥ならば、私が偵察に行こう」

 

すると、提案した女性が混浴の湯へと偵察に向かう。

 

しかし、すぐに戻ってくる。

 

「どうしたの?」

 

「いや‥‥その‥‥お取込み中だったようで‥‥」

 

「「っ!?」」

 

偵察の報告を聞き、待機していた二人の女性は興味津々な様子で混浴の湯へと向かう。

 

(小学生なのにませているな)

 

高校生くらいの女子の他にさっきまで混浴の湯へ行くことに狼狽えていた小学生の女子も混浴の湯へ覗きに行く。

 

そして、偵察をした女性もやはり気になるのかもう一度混浴の湯へと向かって行った。

 

(風呂場でナニやっているんだか‥‥)

 

(リア充め、爆ぜろ)

 

彼女たちの会話が聞こえたシュテルは混浴の湯でいちゃついている男女に対してツッコミを入れた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。