やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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159話

 

 

総武高校で行われている合同演習で、シュテルのクラスは葉山・由比ヶ浜とのクラスとシミュレーション演習を行う事になった。

 

序盤ではクリスが操る軽巡洋艦が疑似突出をして相手クラスの艦を吊り上げる作戦を取った。

 

その結果、戸部と大岡の艦が罠だと気づかずにクロスファイアポイントまで引きずりだされた。

 

当初、二人を助けようと葉山は駆逐艦群を送り、クリスの軽巡洋艦に魚雷攻撃を仕掛けるも全魚雷は外れ、戸部と大岡の艦は集中砲火を浴びて撃沈判定となった。

 

葉山と由比ヶ浜のクラスは二隻の艦と魚雷全てをうちつく結果となった。

 

だが、これで疑似突出の戦法はもう相手には通じず、シュテルは次の策を打ち出す。

 

(同戦力の艦隊を二組作り、交代で対処‥‥)

 

(うまくいけば相手を挟み撃ちにすることが出来るが‥‥)

 

(先鋒を務める私たちは相手の砲撃の雨を通る事になる‥‥)

 

(どれだけ被害を抑える事が出来るか‥‥)

 

(これは賭けだな)

 

シュテルたち第一戦隊は相手との距離を詰める。

 

「来た‥‥」

 

「どうする?隼人君」

 

「距離3000までギリギリ引き付ける。それから砲撃開始だ」

 

葉山たちはシュテルたちを待ち受ける体制をとる。

 

「このままいけば予定通り、相手の針路を第一戦隊が斜めに遮る形になる」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そうすると、こちらは主砲と左舷側の全砲門が使えるけど、相手は正面の主砲しか使えない」

 

「すれ違うと同時に相手の主力艦へ攻撃する。当然相手の反撃は予測される。そしてそれは先頭を走る私の艦だけど、逆に考えれば第一戦隊の中で攻撃力・防御力が一番高いのは私の艦だ。私の艦が相手の攻撃を引き受けるから皆はその隙を突いて相手を攻撃して」

 

「う、うん」

 

「分かった」

 

「よし、このまま突っ切るぞ!!全艦、全速前進!!」

 

シュテルたち第一戦隊は葉山・由比ヶ浜のクラスの艦隊との距離を詰める。

 

「来たぞ‥先頭艦は有効射程に入り次第砲撃、後続艦はギリギリまでひきつけて確実に狙って撃て」

 

「わ、分かった」

 

(先頭はあの泥棒猫‥‥)

 

(私の手であの泥棒猫の艦を絶対に沈めてやる!!)

 

迎え撃つ葉山たち‥特に由比ヶ浜に関してはやる気満々であった。

 

「葉山君、相手の先頭艦が有効射程に入ったよ!!」

 

「よし、撃て!!」

 

シュテルの艦が有効射程に入った途端、葉山クラスの艦は一斉に攻撃を開始する。

 

すると、初弾が命中判定となる。

 

その後も後続艦は発砲し、シュテルの艦は次々とダメージを負うが、シュテルたちも反撃をする。

 

「撃て!!撃て!!」

 

葉山たちは後続艦よりも先頭を進むシュテルの艦に対して集中砲火を浴びて来る。

 

これはシュテルの艦が戦艦である事だけではなく、先頭艦を潰せば後続艦は衝突するか、沈んだシュテルの艦を回避しようとして陣形が乱れ混乱する事を予測しての行動であった。

 

「沈め!!沈め!!沈んでしまえ!!」

 

若干一名は私怨が交じっているようだ。

 

「凄い砲撃だ‥‥しかも命中率も高い‥‥」

 

「そりゃあ、集中砲火をしているんだから命中率だって上がる‥‥」

 

「でも、こちらの砲撃だって相手に当たっている。向こうだって無傷じゃない筈だ」

 

「で、でも‥‥艦長の艦がボロボロだ‥‥」

 

「‥‥」

 

シュテルの艦は中破状態となり、ギリギリ航行と戦闘は可能となっているが、やはり損傷の為に能力は低下している。

 

「大丈夫!!此処までは概ね作戦通りだ‥‥私たちにはユーリたち第二戦隊が居る!!何も私たちだけで相手を全て殲滅する必要はない!!それにダメージを受けていても私はまだ戦える!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

シュテルは士気が落ちそうな中、クラスメイトを鼓舞する。

 

「針路変更、面舵一杯!!」

 

シュテルたち第一戦隊は砲撃をしつつ右側へ針路を転進する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

その様子に葉山たちは、

 

「あっ‥‥」

 

「相手は針路を右に転進した」

 

「逃げ出したのか?」

 

「そりゃあ、あの砲撃をくらったらな」

 

「意外とだらしないな」

 

「どうする?隼人君。追撃する?」

 

クラスメイトたちはシュテルたち第一戦隊の動きを見て、逃走したのだと判断するが、

 

「ん?あれ?ちょっと待って‥相手の艦隊‥数が少なくないか?」

 

此処に来て葉山は対戦相手の艦隊数が少ない事に気づく。

 

「あっ、確かに‥‥」

 

「半分くらいか?」

 

「じゃあ、残る半分は何処に?」

 

葉山の指摘を受けてクラスメイトたちも相手の艦隊数が少ない事に気づく。

 

すると、先ほどの第一戦隊が通って来た後ろから無傷の艦隊が出現する。

 

これは、ユーリが率いる第二戦隊であり、第二戦隊は葉山たちの針路を塞ぐ針路をとっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ユーリ、バトンタッチだ。こっちは相手の尻に食らいつく、頭は任せたよ」

 

「了解、シュテルン。シュテルンの仇は私たちが取るよ」

 

「まだ沈んでないって‥‥針路を中央に‥‥その後、相手艦隊の後方へ回り込む。私の艦は速力が低下しているから途中で落伍するかもしれないが、気にせずに進め」

 

シュテルたち第一戦隊は針路を中央に戻し、その後左に針路を変更し、葉山たちの後背を突く。

 

その間、ユーリたち第二戦隊は葉山たちの頭を抑えにかかる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ちょ、葉山君、これは不味いよ!!」

 

「こっちはさっき一戦交えたばかりで、砲弾も少なくなっているし、被害だって受けているんだよ?」

 

「それにさっきの艦隊は後ろから迫ってきている」

 

「これじゃあ挟み撃ちにされちゃうよ!?」

 

「まともに戦り合ったら消耗戦になる‥‥」

 

「どうする!?隼人君」

 

「こうなれば強行突破だ。なんとかこの陣形を突破してその後で陣形を立て直す。速力が速い艦を先頭にしてこの包囲網から離脱する!!」

 

完全な包囲網が敷かれる前に葉山たちは離脱を試みる。

 

 

「相手は逃げにかかったか‥‥」

 

「ユーリ」

 

「分かっている。一隻も逃がさないよ」

 

相手が追えば退き、相手が退けば追いの行動をとり更に挟撃状態となっている葉山たちは混乱し、どの方向へ逃げればいいのか判断がつかず、着実に味方の数を減らしていく。

 

そして‥‥

 

ビィー!!

 

『演習終了。勝者、ドイツ・キール校』

 

葉山たちのクラスで無事だったのは僅か三隻だけであり、その他の艦は撃沈・大破判定を受けて戦闘続行は不可能となり演習は終了した。

 

「く、くそっ‥‥」

 

「あ、あんな泥棒猫なんかにぃ~‥‥」

 

演習が終了し、葉山と由比ヶ浜は当然悔しがった。

 

「ふぅ~何とか勝てたな‥‥ユーリたちもありがとう。ナイスアシストだったよ」

 

「でも、シュテルンも際どい作戦をとったね。シミュレーションとは言え、シュテルンの艦の乗員には多数の死傷者が出たんじゃない?」

 

「そうだね‥‥シミュレーションだから実際の身体には何の問題もないけど、実際の戦闘を考慮すると私は今回の演習で大勢の乗員たちを殺した事になる‥‥そう言った点も反省すべき点だね」

 

勝負にかったとしてもちゃんとその勝利の中にある反省点も考慮して次の演習に生かさなければならない。

 

そうでないと演習の意味がない。

 

シミュレーション演習が終わり、次なる演習項目は艦長と副長の指揮能力を図る目的として総武高校に通う一年生が漕ぐカッター演習である。

 

とは言え、他校生との顔合わせや練習の関係上からカッター競技は数日後となる。

 

その間に総武高校海洋科の教師たちは今日の演習結果を基に他校の艦長・副長の生徒をどのクラスに当てはめるかの選定も行う。

 

まぁ、男子に関しては総武と海浜総合だけなので、割とすぐに選定は出来そうだが、女子に関しては人数が多いので、選定をする教師も大変だ。

 

カッター演習が行われるまで、海浜総合、横須賀女子、キール校、ヴィルヘルムスハーフェン校の生徒たちは総武高校の校舎で授業を行い、学生艦で食事、寝泊まりをする事になる。

 

 

シミュレーション演習が行われた放課後‥‥

 

奉仕部の部室にて、雪ノ下、由比ヶ浜、葉山たち奉仕部メンバーが集まり今日の演習について愚痴っていた。

 

「もう!!あの時もう少し弾が当たっていれば、あの泥棒猫の艦を沈める事が出来ていた筈だったのに‥‥」

 

「ああ、確かにあれはもう少しだったな」

 

「そもそも戸部っちと大岡君が撃沈判定されていなければ、魚雷だって撃ち尽くさなかったんじゃない?それにあの二人の艦が居れば、絶対に勝敗は違っていたよ!!」

 

「それは‥確かに結衣の言う通りだな」

 

「あの時、隼人くんが『追いかけるのは止めろ』って言っていたのに、それを無視して追いかけて皆に迷惑をかけてホント、マジあり得ない!!マジキモイ!!」

 

由比ヶ浜は自分たちのクラスが負けた原因は戸部と大岡の二人のせいだと決めつけて悔しがる。

 

葉山も本人たちが居ない事を良いことに否定はしていなかったので、彼自身も今日の演習の敗因はやはり戸部と大岡の二人が自分の命令を無視した挙句、突出して返り討ちにあったせいだと思っていた。

 

「ゆきのんだってそうじゃない?ゆきのん以外のクラスの人が、ゆきのんの足を引っ張ったせいで負けちゃったんでしょう?」

 

「そうだな。ゆきのんちゃんがあんな無様に負ける訳がないもんな」

 

「そうね。全く使えないクラスメイトを持つと苦労するわ」

 

「この世界の総武高校のレベルは前の世界よりも下なんじゃないか?」

 

「ええ、全くもってそのとおりね。こんなレベルで進学校を謳うなんて、教員レベルさえも疑わしいわね」

 

葉山も雪ノ下もこの後世世界と前世を比べると前世の頃に通っていた総武高校の方が、レベルが高いと思っているようだが、それは間違いである。

 

そもそも今、自分たちが在籍している学科は前世では存在しなかった学科であり、その学科自体も専門の海洋学校の言わば滑り止めであり、普通学科、国際教養科は前世同様、レベルは進学校並みに高いのだ。

 

「それで、次の演習は確か一年生と一緒にボートに乗るんでしょう?」

 

由比ヶ浜が次の演習項目を確認するかのように雪ノ下と葉山に訊ねる。

 

「ええ。私と葉山君は艦長だからその演習に参加することになるわね」

 

「へぇ~それで、どのクラスの人たちと一緒に乗るの?」

 

「それはまだ分からないわ。明日の朝一には発表されるんじゃないかしら?」

 

「でも一年生との交流はまだないし、もしも今回の様に不良品のクラスと組まされたら‥‥」

 

「確かにそれはちょっと不味いわね」

 

プライドの塊ともいえる雪ノ下からしてみれば、これ以上他校の生徒たちに負ける姿を見せたくはない。

 

ましてや今度のカッター演習にはあの西住みほも参加するのだから、これ以上の敗北は自分のプライドが許さない。

 

「そうと決まれば手を打っておきましょう」

 

「えっ?手を打つって?」

 

「どうやって?」

 

「多分、今頃職員室では平塚先生あたりが組み合わせを考えている筈よ。だから意見を言いに行くのよ」

 

雪ノ下はそう言い残して職員室へと向かった。

 

気になった葉山と由比ヶ浜は慌てて雪ノ下を追いかけた。

 

その頃、雪ノ下たちが向かっている職員室では、雪ノ下の予想通り教職員がカッター演習における総武高校の二年生と他校の生徒たちの組み合わせを行っていた。

 

「うーん、それにしても我が校の成績はあまり芳しくないな‥‥」

 

平塚先生は今日の演習結果を見て、総武高校の結果は負けが多かった。

 

「ドイツの留学生組は二組しかないが、どちらも勝っている‥‥しかも雪ノ下のクラスに勝つとは‥‥それに葉山のクラスまでもがドイツからの留学組に負けている」

 

平塚先生としては横須賀女子、ドイツからの留学組に勝つことで総武高校の海洋科の名前を世間に知らしめようと言う思いがあった。

 

横須賀女子、そしてドイツからの留学組を倒したと言う実績があれば、世間で思われている『海洋学校の滑り止め』と言う総武高校海洋科の印象も拭える。

 

そうなれば、来年の受験人数は増えて自分の功績となれば、教師としても有名になれる。

 

まだ演習項目はあり、演習は続く。

 

と言う事はまだ挽回は出来る筈だ。

 

(残る演習で、何とか総武高が勝てば‥‥)

 

平塚先生は残る演習項目で総武高校が勝つ方法を考える。

 

そんな中、

 

「失礼します」

 

雪ノ下たちが職員室へとやって来た。

 

「平塚先生はいらっしゃいますか?」

 

「平塚先生ならデスクに居るよ」

 

「ありがとうございます。平塚先生」

 

「なんだ?雪ノ下たちか‥‥見ての通り今は、仕事で忙しいのだが?」

 

平塚先生は若干顔を歪めて雪ノ下たちを出迎える。

 

そんな平塚先生のデスクの上にあるパソコンの画面には雪ノ下の予測通り、カッター演習についての選定をしている所だった。

 

雪ノ下は自分の予測通りだった事態にほくそ笑む。

 

「先生。見た所、次のカッター演習についての組み合わせをしているみたいですけど?」

 

「分かっているなら、つまらない要件で時間を無駄にしないでくれ」

 

「それについてですが、カッター演習の組み合わせについて少々意見を言わせて下さい」

 

「なに?意見だと?」

 

「はい」

 

平塚先生は雪ノ下の言葉に眉をひそめる。

 

「今日の演習結果ですが、残念ながら私と葉山君はクラスメイトに恵まれていなかった為に他校相手に敗北しました」

 

「うむ、それは分かっている」

 

「それでしたら、私と葉山君の担当する一年生のクラスを優秀なクラスに割り当てて下さい」

 

「は?それはつまり、私に梃入れをしろと言うのか?」

 

「優秀なクラスの指揮は優秀な人物が指揮を執るべきだと思いますが?」

 

「‥‥」

 

「それに、今日の演習結果では総武高校は大した結果を残せませんでした」

 

「うむ、そうだな」

 

「残る演習項目も決して多くはありません。となると、残る演習で総武高校は結果を残さなければなりません」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「であるならば、平塚先生には総武高校が勝てる采配をしなければならない義務があると思うのですが?」

 

「だ、だが‥‥」

 

雪ノ下の提案はまさに不正に近い行為だ。

 

しかし、その反面雪ノ下が言う事は最もだ。

 

「先生は権力を持っているんですから、その権力を行使しなければ勿体ないと思いませんか?」

 

「そうですよ、平塚先生」

 

「僕たちは勝ちたいです」

 

「‥‥」

 

「平塚先生、もしも総武高校がこの後の演習で結果を残せれば、総武高校の名前も有名になれますよ。『演習にてあの横須賀女子を圧倒した高校』と‥‥」

 

雪ノ下のささやきはまさに平塚先生が思っていた事を言い当てていた。

 

「例え先生が私の意見を基にチームを作成したとしてもそれは教師の仕事なんですし、私の意見を採用した何てバレはしませんよ」

 

「そ、そうか‥‥それもそうだな」

 

平塚先生は雪ノ下のささやきを納得したかのように雪ノ下と葉山が指揮する一年生のチームは一年生でも優秀なクラスに配置することにした。

 

「あっ、平塚先生‥‥」

 

すると、由比ヶ浜は何かを思い出すかのように平塚先生へ声をかける。

 

「なんだね?」

 

「ドイツ人のチームはなるべく弱いクラスにしてください」

 

由比ヶ浜はシュテルとテアが担当する一年生のクラスは実力が低いクラスへ配置するように頼んだ。

 

「ん?何故ドイツの留学生限定にしているのかね?」

 

「それは‥‥えっと‥‥」

 

まさか、シュテルに恥をかかせたいからとは言えず、口ごもる由比ヶ浜。

 

「ドイツからの留学たちは今日の演習では好成績を残しました。これでカッター演習でも好成績を出されでもしたら、総武高校どころか日本の海洋高校の立つ瀬がなくなります。総武高校の名を世間に知らしめたいと言うなら、総武側だけでなく、他校の生徒の配置に対しても考慮しなければなりませんよ」

 

「そ、そうか‥‥そうだな」

 

「では、よろしくお願いします」

 

「ああ、任せておけ」

 

雪ノ下たちは平塚先生に忖度を任せて職員室を出る。

 

 

職員室から奉仕部の部室に戻る中で、由比ヶ浜は機嫌よく雪ノ下に声をかける。

 

「これで、次のカッター演習は勝ったも同然だね」

 

「ええ、そうね」

 

「よかったね。ゆきのん」

 

「でも、私と葉山君の二人が勝っても他のクラスが勝たないと意味はないかもしれないわね」

 

「いや、確かに雪乃ちゃんの言う通り、僕と雪乃ちゃんの二人が勝っても他のクラスが負ければ意味がない。しかし、二年生の主席である雪乃ちゃんが勝てばそれだけでも総武高校と雪乃ちゃんの名は知れ渡ることになるんじゃないか?」

 

「そうだね、隼人君の言う通りだよ、ゆきのん」

 

「そう‥なるのかしらね」

 

「そうだよ。私は次の演習には参加できないけど、ゆきのんたちを応援しているからね」

 

「ありがとう。由比ヶ浜さん」

 

こうして、総武側は平塚先生が雪ノ下の意見を採用して若干総武側に有利な割り当てになる事となった。

 

翌日の朝には掲示板にカッター演習に参加する生徒の割り当て表が掲示された。

 

そして雪ノ下と葉山は一年生の主席クラスの男女を担当する割り当てになっていた。

 

一方でシュテルは‥‥

 

(ん?一色いろは‥‥ああ、私とクリスは一色のクラスを担当か‥‥)

 

いろはが在籍する女子を担当する事になった。

 

掲示板にはカッター演習に参加する二年生の学生以外に上級生から指揮を受ける一年生たちも集まって、誰が自分たちを指揮するのかを確かめに来ていた。

 

「あっ、碇先輩」

 

シュテルが掲示板を見ていると同じくいろはも掲示板を見に来ていたみたいで、シュテルを見つけて声をかけてきた。

 

「ん?ああ、一色か‥‥掲示板を見に来たのか?」

 

「はい。それで先輩はどのクラスを担当する事になったんですか?」

 

どうやらいろははまだ掲示板をよく見ていないようだ。

 

「私は一色のクラス担当になったよ」

 

「えっ?マジですか?」

 

「うん。マジ」

 

「‥‥」

 

いろははソレを聞き、顔を引き攣らせる。

 

「ん?どうしたの?」

 

「あぁ~‥‥先輩、運がなかったですね」

 

「えっ?それはどういう事?」

 

「ウチのクラス、カッター演習に関してはマジで弱いですよ」

 

「えっ?そうなの!?」

 

「はい。一年生同士でのカッター演習では毎回ビリですし‥‥」

 

「そ、そうなんだ‥‥でも、演習まで時間はあるから、ひとまず今日の放課後、一色のクラスの実力をみたい」

 

「わ、分かりました。でも、本当に期待しないでくださいよ」

 

「そこまで言う?」

 

「いや、冗談抜きで弱いですから‥‥それじゃあ、放課後に‥‥」

 

「あ、ああ‥‥」

 

いろはの言葉に不安を抱きつつも彼女のクラスの実力に関しても興味を持ったシュテルであった。

 

 

そして放課後‥‥

 

 

カッターが泊めてある桟橋には一年生と総武高校、他校の艦長・副長を務める生徒たちが集まり、カッターの練習をしていた。

 

『『『イチッ、ニッ、サンッ、シィッ!』』』

 

『『『イチッ、ニッ、サンッ、シィッ!』』』

 

一年生たちは声をあげ櫂を漕ぎ、艦長の生徒は同じく声をあげながら針路を選定し、副長はカッターの舵を取る。

 

「さて、それでは私たちも練習をやろうか?」

 

『は~い』

 

シュテルとクリスもいろはのクラスの女子たちと共にカッターの練習を行うが、一年生のクラスはどうもやる気が感じられない。

 

おそらくこれまでずっとカッター演習でビリばかりの成績を叩き出していた事から既に諦めモードに入っていた。

 

『イチッ、ニッ、サンッ、シィッ~』

 

「‥‥」

 

一年生たちは櫂を漕ぐが、皆バラバラに漕いでいる為、うまく進まない。

 

このチームワークの無さがこのクラスをビリにしている原因の一つだろう。

 

「ねぇ、シュテルン。このクラス大丈夫かな?」

 

舵を操りながらクリスがシュテルに話しかけてくる。

 

「ん?」

 

「やる気もそうだけど、リズム感もバラバラだからカッターが進んで無いよ」

 

「一色が自分のクラスが弱いって言っていた理由がよく分かったよ」

 

「どうする?このままだと本番もビリになるかも‥‥」

 

「とは言え、彼女たちの弱さが技術以前の問題だからな‥‥」

 

リズム感は何とかなる。

 

実際にシュテルはテアの音痴を矯正した事がある。

 

しかし、やる気に関しては彼女たち自身の問題だ。

 

(平塚先生の采配通り、どうやらあのクラスはかなりの落ちこぼれのクラスみたいね)

 

雪ノ下は自身が担当する事になった一年生の主席が漕ぐカッターの上からシュテルたちの様子を窺いながほくそ笑む。

 

シュテルは今日の練習についてはいろは以外のクラスメイトとの顔合わせとそのクラスの実力を見る為であり、その二つは果たしたが、更なる問題が浮上した。

 

「だから言ったでしょう?先輩。私のクラス、カッター演習はめちゃくちゃ弱いって‥‥」

 

「ああ、そうみたいだ。リズム感とやる気が問題だな」

 

練習後、いろはが自分のクラスの実力をシュテルに改めて説明する。

 

「まぁ、これまでずっとビリでしたからね。今更って感じなんですよ」

 

「でも、このままだと今後もずっとビリなんじゃないの?」

 

「半ば諦めていますから‥‥」

 

シュテルといろはが呆然としながら海を眺めていると、

 

「あら?そこに居るのは人間性が底辺の劣等種じゃない。此処は学校と言う知性の場よ。野生動物はさっさとジャングルに還りなさい。迷惑だわ」

 

雪ノ下が来て、息を吐くかのように毒を吐く。

 

(ん?そこに居るのはもしかして、一色さん?となると、あの不良品のクラスには一色さんが在籍しているのかしら?)

 

(まぁ、前世では私が生徒会長になるための踏み台になってもらったけど、不良品ばかりのごみ溜めに居ると言うのなら、今回も私の為の踏み台になってもらうわね)

 

「おい、劣等種だってよ。一色」

 

「えっ!?今の罵倒、私に言われたんですか!?」

 

「そうじゃないか?私はこれでも母校では主席だし、昨日の演習では、総武高校の生徒に勝っているからな。仮に私に向けて言った場合、私に負けた総武高校の生徒は劣等種以下の存在になってしまうからな」

 

「ちょっと最後に致命的な欠陥が聞こえたのだけれど……そんなことを自信満々に言えるなんてある意味すごいわね。変な人。もはや気持ち悪いわ。だいたい成績だの表層的な部分に自信を持っているところが気に入らないわ。はたから見ればあなたの人間性は余人に比べていちじるしく劣っていると思うのだけれど?」

 

「えっ?もしかして、私に言っていたの?」

 

「それに気づかないなんて‥人の言語が理解できないのかしら?気づかなくてごめんなさいね。あなたの様な劣等種生態系に詳しくないものだから、ついつい類人猿の威嚇と同じものにカテゴライズしてしまったわ」

 

「先輩、この人になにしたんですか?ここまで言われるなんて、相当酷い事をしたんじゃないですか?」

 

いろはは、他校の生徒であるシュテルが何故此処まで罵倒されるのかその理由を訊ねる。

 

「私の知り合いがこの毒舌まな板に完膚なきまでに叩きのめされたみたいで、ついでにこのまな板の友達?も私の従弟のストーカーで、敵視しているから、その繋がりで私の事も敵視しているんだよ」

 

「ストーカーってその従弟の人、大丈夫なんですか?」

 

「一応、警告はしてある」

 

「ちょっと、人を無視して話を進めないでくれない?」

 

「ん?まだ居たの?別に私たちは貴女に用はないから、貴女の言う私たちに負けた優等種サマの所にでも行ったら?」

 

「‥‥」

 

完全にシュテルから相手にされずにあしらわれた雪ノ下はシュテルを睨みつける。

 

「ちょっと、先輩。この人睨んでいますよ」

 

「睨みつけるはこの毒舌まな板の得意技だ。ただの負け犬の睨みつけだ。気にする事は無い」

 

「ふん、せいぜい今のうちイキっていなさい。カッター演習では無様な姿を晒すが良いわ」

 

そう言い残して雪ノ下は去って行った。

 

「何か、厄介な事になりましたね」

 

「ああ‥‥ただ、この後のカッター演習‥アイツには負けたくはないな‥‥」

 

「そうですね。私も同じです」

 

雪ノ下が挑発をした事でシュテルといろははカッター演習で雪ノ下だけには負けたくないと言う思いが込み上げた。

 

雪ノ下は自らの行為で眠れる獅子を叩き起こした事をこの後のカッター演習で知る事になるのであった。

 

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