やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
週末の休日に同級生のウルスラ・ハルトマンの実家にお邪魔したシュテル。
初めて行ったハルトマン家は事前にウルスラ本人から大掃除があると言われていたが、実際に行ってみると、外からの外見は普通なのだが、家の中は半ばゴミ屋敷化していた。
しかもそれを行ったのはウルスラの姉であり、現役のブルーマーメイドで艦長を務めているエーリカ・ハルトマンで、彼女は僅か一週間の間で普通の家をゴミ屋敷に変えていた。
ハルトマン家の大掃除は半日かかり、ようやく終わった。
そしてハルトマン姉妹と共に食事の席を一緒にした時、エーリカがミーナ教官の教え子である事実も知った。
その際、エーリカはミーナ教官の事を行き遅れみたいな感じで言っていたが、その直後、エーリカにミーナ教官から電話がかかって来た。
電話に出た後のエーリカの顔色は物凄く悪く、何かに怯えている様だった。
昼食後、ミーナ教官からの電話の為か、エーリカは早々に自室へと戻って行った。
夕食後、シュテルはエーリカにブルーマーメイドについての話を聞くことが出来た。
私生活では、自堕落な生活を送っているエーリカでもやはり、ウルスラの言う通り、海上では常に戦場であり、仕事場なので、エーリカは私生活と仕事場での雰囲気はまるで違う印象を彼女の話を聞いているだけでも理解出来た。
しかし、エーリカが艦長を務めている艦の彼女の部屋は、やはり汚部屋になっているらしいので、主計科の人が常に清掃をしているらしい。
週明け、真っ白いブルーマーメイドの制服に身を包んだエーリカの姿は、これまで見て来た自堕落な姿ではなく、ビシッとした姿でまさにブルーマーメイドのエリートの姿だった。
ウルスラもそんな姉の事を誇りに思っているのだろう。
学校へ戻るとシュテルはクリスとユーリから、ハルトマン家での出来事を聞かれた。
シュテルはウルスラと一緒にハルトマン家の大掃除をした事を話し、次にエーリカから聞いたブルーマーメイドについての話をした。
シュテルはてっきり、ブルーマーメイドの話を聞きたがっていたのかと思っていたのだが、ユーリとクリスはあまり関心が無い様に見えた。
それから、座学と学生艦を使用しての海洋実習を交互にこなしていく日常を過ごしていった。
そして再び、シュテル達は海へと乗り出した。
ヒンデンブルグの艦内では警報が鳴り、学生たちが慌ただしく走り回り、時折、通路の物陰に隠れる。
学生たちの手にはモーゼルkar98kやMP40が握られていた。
頭にはヘルメットを被り、目の部分にはゴーグルをかけて、手には手袋をつけている。
学生たちの反対側には同じ格好の学生たちが現れると、艦内でドンパチが始まる。
だがこれは決して彼女らが艦内でサバゲーをしている訳でも、反乱が起きた訳でもなく、艦内における白兵戦闘の訓練をしていたのだ。
編成はクラス全体を半数に分けて行っており、使用している弾は殺傷能力の無いゴム製の特殊訓練弾を使用している。
クラス分けはシュテル達艦長チームとクリス達副長チームに分かれて訓練をしており、クリス達副長チームが攻め、シュテル達艦長チームがこれを防衛・迎撃する。
味方識別はそれぞれのチームメンバーは、色の違う鉢巻きに腕章をしており、そのどちらかが外れた者もリタイアとなるし、倒した相手から鉢巻き、腕章をとってそれを着けて相手チームメンバーのフリをするのもルール違反となっている。
「くっ、このままじゃ埒が明かない‥‥総員、着剣!!」
クリスが声を上げながら、ゴム製の銃剣をモーゼルkar98kの銃口に取り付ける。
「突撃する!!MP40装備の人は突撃隊を援護!!‥‥いくぞ!!突撃!!」
「「「わぁぁぁぁぁぁー!!」」」
「うわっ!!副長がこっちに突っ込んで来る!!」
「撃て!!撃て!!これ以上、敵チームを先に進ませるな!!」
クリスが先陣をきって突破を図り、 艦長チームの学生を銃剣で斬りつける。
斬りつけられた学生は制服の上から着たセンサースーツで戦死または負傷判定を受け、リタイアとなる。
「急げ!艦橋をこのまま制圧しろ!!」
通路を制圧したクリスは声をあげ、自分のチームの学生たちを鼓舞する。
一方、シュテルは艦橋に居り、通信兵役のチームメイトから艦橋へ敵チームの情報が逐次報告されている。
「敵部隊、第五防衛ラインを突破!まもなく上層部に到達します!!」
「くっ、艦橋要員も白兵戦用意!!敵部隊の突入を許すな!!」
「急げ!!」
「こっちだ!!」
「グズグズするな!!」
「何をしているの!?急いで!!」
シュテルが艦橋要員に指示を出し、艦橋要員は慌ただしく白兵戦闘の用意をする。
ヘルメットを被り、目を保護するゴーグルを装着し、手には手袋を装着してモーゼルkar98kやMP40を手にすると、弾倉に訓練弾を込め、モーゼルkar98kの銃口には銃剣を取り付ける。
シュテルは腰にあるホルスターからルガーP08 8インチモデル を取り出し、マガジンを取り出し、中身を確認した後、訓練弾が入ったマガジンを弾倉へと込める。
このルガーP08 8インチはシュテルが個人で買い求めたモノである。
中等部での最後の航海の時、イタリアのナポリで起きたイタリアマフィアに誘拐された経験からシュテルの両親がシュテルの身を案じて護身用の為、購入したのだ。
(この後世でも俺って『八』に色々と縁があるな‥‥)
ルガーP08 8インチをいつでも撃てる状態にしながら、手の中のルガーP08を見ながら自分には『八』という数字に縁があると思っているシュテル。
前世でもこの後世でも自分の名前には『八』が入っているし、今、自分が手にしている銃もルガーP08の8インチ‥‥シュテルが『八』に縁があると思うのも不思議ではなかった。
「ラッセル航海長はそのまま操艦に専念!!」
「りょ、了解」
舵を握っているレヴィは一応、ヘルメットを被り、ゴーグルを被るが、武器は持たず、そのまま舵を握り続ける。
その頃、艦橋を目指しているクリスは艦橋前に構えられた最終防衛線を破ろうとしていた。
「テリャ!!」
「ぐえぇ!!」
敵チームのクラスメイトを倒すと、その隙をついてもう一人、別の敵チームのクラスメイトが銃剣の着いたモーゼルkar98kを振り上げて来るが、クリスは手に持っていたモーゼルkar98kをグルっと反転させ、銃床で受け止めそのまま相手を弾き飛ばす。
弾き飛ばされたクラスメイトは思わず尻餅をつく。
その隙をクリスは見逃さず、尻餅をついたクラスメイトの腹を銃剣で刺し、刺されたクラスメイトはリタイアとなる。
クリスの強さの前に前方の敵チームのクラスメイト達は思わず後退る。
彼女はまるで幸運の女神の加護があるかのように弾が何故か当たらない。
そしてクリスは勢いを殺さず声を上げ、銃剣付きのモーゼルkar98kを構えながら相手チームの防衛網を突破していく。
相手チームの防衛網の真っただ中へ突入すると、勇敢にも一人の敵チームのクラスメイトがクリスに襲いかかる。
クリスと敵チームのクラスメイト二人の銃剣付きのモーゼルkar98kがカチャカチャと競り合うが、クリスは突如、力を弱め、横へ飛ぶ、すると支えを失った敵チームのクラスメイトは床に倒れ込む。
床に倒れた敵チームのクラスメイトにクリスはまたもや容赦なく銃剣付きのモーゼルkar98kを振り下ろす。
今度は敵チームのクラスメイトが二人がかりでクリスに襲いかかる。
クリスは冷静に対処し、一人の敵チームのクラスメイトの腹に銃剣を突き刺し、残るもう一人にはしゃがみこみ、自分の足を相手の足に引っ掛け転倒させ、そのまま銃剣で突き刺す。
クリス達はとうとう最終防衛戦を突破し、残るは艦橋のみとなった。
「最終防衛線、突破されました!!まもなく敵がやって来ます!!」
「くっ、入口を固めろ!!」
報告を聞き、シュテルは艦橋要因に出入り口を固める様に指示をする。
艦橋にはイスやテーブル、木箱で構築されたバリケードが設置されている。
艦橋要員が銃を構え出入口の扉を睨んでいると、扉が少し開き、そこから発煙筒が投げ込まれる。
これが海賊・テロリストの制圧ならば、スタングレネードか催涙弾を使用する所であるが、流石に学生同士の模擬戦でスタングレネードや催涙弾はやり過ぎなので、煙幕だけの発煙筒は使用されている。
「なっ!」
「うわぁぁー!!」
「煙幕だ!!」
「撃つな!!同士討ちになるぞ!!」
突然の煙幕に扉付近にいた艦橋要員が怯む。
その隙をついてクリス達が艦橋内に突入してくる。
「うわぁぁぁぁ!!」
「ぎゃぁぁぁ-!!」
「ぐはっ!!」
艦橋はたちまち混戦状態となった。
「一人で相手に向かうな!!二人以上の組みを作って当たれ!!」
戦闘をしながらクリスは味方に指示をする。
「本来なら、艦橋への突入を許した時点で負けだね‥‥」
シュテルが腰のベルトから鞘の入ったままのサーベルを取り、片手にはサーベル、もう片方の手にはルガーP08を構えると、相手チームのクラスメイトがシュテルを取り囲む。
「艦長殿、失礼致しますよ。はぁぁぁー!!」
相手チームのクラスメイトの一人が銃剣付きのモーゼルkar98kを振り上げながら突っ込んでくる。
シュテルはサーベルで受け止め、ルガーP08で撃つ。
「気を抜く者は容赦なく叩き潰す!!私を殺す気でかかってきなさい!!」
凛として気迫を込めた声でシュテルは敵兵に宣言する。
「くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」
「はぁ!」
シュテルは取り囲んでいた相手チームのクラスメイトをあっという間になぎ払った。
そこに間髪いれずにクリスが襲いかかる。
「クリス‥‥」
「シュテルン、今日は勝たせてもらうよ。はぁぁぁー!!」
クリスが銃剣付きのモーゼルkar98kを振りかざしながらシュテルの間合いに踏み込む。
対するシュテルもサーベルとルガーP08を構えクリスを迎え撃つ。
その時、クリスの手をユーリが狙撃する。
「くっ…」
「シュテルンはやらせないよ、クリス」
「隙あり!!」
シュテルはサーベルを横一文字で斬り、クリスの腹へ切込みを入れる。
これにより、クリスは戦死判定を受け、リタイアとなる。
クリスの敗因はユーリの狙撃の他にクリスは艦橋にたどり着くまで移動と戦闘により体力を消耗していたことが影響した。
チームの主力であり、リーダーだったクリスが倒された事、クリス同様、此処まで来るのに体力を消耗していた為、クリスのチームはシュテル達艦長チームの反撃にあい、あと一歩届かず全滅した。
『敵部隊全滅。演習終了』
演習終了の放送が流れ艦内に響いていた警戒用のサイレンが鳴り止んだ。
「医療部は負傷者の確認と手当を急げ、各部損傷の有無を確認!!」
「演習終了、負傷者は医療部に申告せよ。繰り返す‥‥」
「うぅ~悔しい~あと一歩だったのにぃ~」
「この次は負けないよ」
白兵戦闘が終わり、片づけをしながら負けたチームメイトは悔しそうに、勝ったチームメイトは次も勝つと言いながら互いの健闘を称え合う。
艦内白兵戦訓練が終わり、今はヒンデンブルクの食堂にて食事を摂っているシュテル達。
「もう、次のチーム戦、今度は私とシュテルン、一緒のチームにしてよ」
「いや、それだとチームの戦力バランスが崩れるでしょう」
「むぅ~‥‥」
食堂で食事をしながらクリスは白兵戦闘のチーム編成に不満がある様子。
シュテルは自分とクリスが組むとバランスが崩れるのでそれは難しいと言う。
そこへ、
「艦長、お食事中、申し訳ございません」
通信員のクラスメイトがシュテルに話しかける。
「ん?いいよ、何かな?」
「学校より、通信です」
「ん?」
通信員の生徒から学校からの電文が書かれた紙を受け取り、電文に目を通すシュテル。
「‥‥」
「何かあったの?」
クリスが学校からの電文内容を聞いてくる。
「いや、潜水科の学生艦に補給任務をしてくれだってさ」
「補給任務?そう言うのは普通、給量支援教育艦か工作支援教育艦の仕事じゃないの?」
「二隻とも他の艦の補給任務があるから、補給物資を搭載できて、尚且つその補給予定の艦に近い、ヒンデンブルグが代わりにやってくれ ってさ」
「成程」
説明を聞いて納得するクリス。
ヒンデンブルグは潜水艦に渡す補給物資をキール海洋学校所属の給量支援教育艦、コルモランから受け取る。
その後、コルモランは別の艦の補給へと向かう予定になっている。
洋上でヒンデンブルグとコルモランは接続し、クレーンを使用して潜水艦へ渡す予定の補給物資を受け取る。
「では、お願いします」
「はい。補給物資、確かに受け取りました。」
「あぁ、それと‥‥」
「はい?」
「えっと‥‥潜水科の人と会ったら、それなりに覚悟したほうがいいかも‥‥」
「えっ?」
(それなりに覚悟‥‥それってどう言う意味なんだろう?)
シュテルとコルモランの艦長との間で補給物資の受け取りを確認した書類にサインし、受領書と引き渡し書を交換し、コルモランは次の補給予定の艦へと向かう。
その際、コルモランの艦長はシュテルに意味し気な言葉を残していった。
「補給予定の潜水艦は‥‥U-862か‥‥艦長は‥ゲルトルート・バルクホルン‥‥二年生‥先輩か‥‥」
シュテルは物資を渡す艦とその引き渡し場所を確認し、針路を潜水艦との邂逅点へと向ける。
通常の海洋学校では、潜水艦は主に男子が乗艦する艦種であるが、女子の中には潜水艦勤務を希望する者もおり、そうした女子の為にキール海洋学校高等部では女子ながら潜水艦に乗艦する潜水科が存在する。
また、キール海洋学校高等部の他にアメリカのパールハーバー海洋学校高等部でも潜水科があり、潜水艦への乗艦を希望する女子はキールかパールハーバーの潜水科を目指す。
潜水科の一年の実習では艦長は二年か三年の先輩が務める。
こうして先輩から潜水艦乗員としての心得や操艦方法を聞いた一年生は次の年の後輩たちへと受け継がれていく。
そうした潜水科を卒業した者は女子の潜水艦乗りと言う貴重な人材なので、このまま学校の潜水科の教官になる者、潜水艦乗りの経験からサルベージ会社へ勤務する者、トレジャーハンターになる者、ダイビング関係の仕事に就く者などが居る。
ブルーマーメイドも各国の海軍も未だに女性のみの潜水艦と言うのが登場していないが、この先、ブルーマーメイドでも各国の海軍にも乗員が女性のみの潜水艦が登場する日もそう遠くないのかもしれない。
「予定邂逅点までは四日程で着くな‥‥」
海図に記されているヒンデンブルグの位置と予定邂逅点を見ながら潜水艦との邂逅は四日程の航海となる。
それから四日間、ヒンデンブルグは潜水艦との邂逅点に向けて航海をしたが、天候も良好で特にトラブルらしいトラブルは起きず、安定した航海だった。
「あぁ~朝日が目に染みるぅ~‥‥そろそろ、艦長を起こしてきて」
クリスが水平線から登り始めた朝日を見ながら同じく艦橋当直していたクラスメイトに声をかける。
「わかりました」
クリスからシュテルを起こしに行く様言われたクラスメイトは艦長室へと向かい、シュテルを起こし、艦橋へと戻って行った。
「シュテルン、遅い!!」
一応、寝起きなので、洗面や歯磨き、着替えなどがあったが、それでもシュテルは結構早めに準備をして艦橋へ上がって来たのだが、クリスは何かイライラしている様子で声を荒げる。
「遅いって‥まだ、当直三十分前に上がって来たんだよ。何か、イライラしている様子だけど、なんかあったの?」
「何もないからイライラしているの!!」
「えっ?」
「暗い艦橋で、特にトラブルらしいトラブルは起きず、退屈だし、眠いし、眠いし、ねむい‥‥ああ、もう限界!!寝る!!起こした奴は反逆罪で銃殺!!」
「あぁ~かなり荒れているね‥‥クリス、キャラ崩壊しているよ」
「副長、ここ最近夜勤が続きましたからね」
書記のメイリンがタブレット端末でクリスのシフトを確認しながら呟く。
確かにここ最近、クリスは夜勤当直続きで昼夜逆転の生活となっているので、生活リズムが乱れて荒れるのも無理はなかった。
「三時方向に潜水艦の潜望鏡を発見!!」
その時、見張りのクラスメイトが潜水艦の潜望鏡を発見した。
「っ!?対潜水艦戦用意!!」
シュテルは即座に戦闘用意の命令を下す。
「えっ?邂逅予定の潜水艦じゃないんですか?」
シュテルのオーダーを聞いてメイリンは確認する様に訊ねるが、
「九分九厘そうかもしれないけど、世の中には絶対なんてないからね‥‥あの潜水艦がキール海洋校の潜水艦とは100%言い切れない‥‥あの潜水艦が海賊・テロリストの潜水艦の可能性だってあるかもしれないでしょう?」
「は、はぁ~」
メイリンは流石にそこまではないんじゃないかと思いながらシュテルの事を見ていた。
ヒンデンブルグの魚雷発射管が潜水艦の潜望鏡がある位置へ魚雷を向け、主砲、副砲の高角は限界まで引き下げる。
駆逐艦や軽巡洋艦ならば、対潜水艦装備があるのだが、ヒンデンブルグは戦艦故、対潜水艦装備に関しては魚雷ぐらいしかない。
それでもある程度の深度ならば、主砲でも対応できる。
ヒンデンブルグのその対応に潜望鏡越しに覗いていた潜水艦、U-862では‥‥
「ほぉ~すぐに戦闘態勢をとったか‥‥なかなかの機転だ。このまま何もせず、我々を受け入れていれば、一喝してやったところだ‥‥メンタンブロー、浮上する」
「メンタンブロー」
U-862の艦長はヒンデンブルグの行動を評価していた。
そして潜水艦、U-862は海面へと浮上する。
「海面から潜水艦浮上!!」
「確認急げ!!」
「艦橋に艦名を確認!!間違いありません、邂逅予定のU-862です!!」
浮上した潜水艦が邂逅予定の潜水艦であることにちょっとホッとするシュテル。
その後、すぐに潜水艦の乗員が乗り込めるようにタラップを下ろす。
やがて、U-862の艦長と書記の生徒がゴムボートで潜水艦からヒンデンブルグのタラップへと乗り移り、乗艦して来る。
「ようこそ、ヒンデンブルグへ‥艦長のシュテル・H・ラングレー・碇です」
「U-862艦長、ゲルトルート・バルクホルンだ」
互いに敬礼をしつつ自己紹介をしていると、
モワワワ~ン
バルクホルンから異臭がした。
まぁ、流石に掃除をしていないハルトマン家程の臭いではなかったが、それでも顔を顰める程の臭いだ。
「で、では、書類や物資の確認をしてもらいたいので、こちらへ‥‥」
(うっ、スゲェ臭い‥コルモランの艦長が言っていたのはこの事だったのか‥‥)
シュテルは必死に平然を保とうとした。
相手は先輩なので、例え臭くても失礼な態度は取れない。
すると、
「君は潜水艦乗りに会うのは初めてかな?」
「えっ?は、はい」
「ひどい臭いだろう?狭い艦内に30人の乗員が押し込められて艦内は常に蒸し風呂状態‥一度実習で出航したら実習が終わるまでお風呂はお預け状態になるからな」
シュテルの態度を察したバルクホルンは何故、こんな臭いになっているのかを説明する。
海上艦と違い狭いUボートには当然、入浴施設なんてない。
体を洗う機会があるとすれば、航海中に降る雨ぐらいである。
「あ、あの‥でしたら、本艦のお風呂を使って下さい」
「いや、折角だが遠慮させてもらう。他の乗員が辛い思いをしているのに艦長の私だけが良い思いをするわけにはいかん」
「す、すみません、先輩‥‥私ったら」
「先輩だなんて、堅苦しい‥‥海の仲間は皆、家族だ。私の事はトゥルーデと呼んで構わんぞ」
「は、はぁ~‥‥」
バルクホルンがシュテルの両手を包み込みながら自分の事は仇名で呼んでくれと言う。
すると、バルクホルンは殺気の籠った視線を感じた。
バルクホルンがその視線を辿って見ると、そこには死んだ魚の様な目をしたユーリがジッとバルクホルンの事を睨んでいた。
「‥‥」
「‥‥」
ユーリとバルクホルンとの間で見えない激しい攻防戦が繰り広げられていると、
「人が気持ちよく寝ていたらぁ~‥‥」
バルクホルンの背後からクリスが亡霊の様なオーラを纏いながら、バルクホルンの肩をガシッと掴む。
「なんだ!?この悪臭は!?」
クリスはバルクホルンの後ろ襟を掴み、士官用の風呂へと連行し、制服を剥ぎ取ると湯船の中にぶち込む。
もはや、バルクホルンが先輩だろうとおかまいなしだ。
「ユーリ!!コイツの制服を洗濯しろ!!臭いが取れなければ海へ投棄!!」
「や、ヤー!!」
ユーリにバルクホルンの制服の洗濯を命じ、クリスはボディーブラシでバルクホルンの身体を擦る。
「ちょ、ちょっと、クリス、止めなよ。トゥルーデ先輩は他のクラスメイトをおいてお風呂に入るのは気が引けるって‥‥クラスメイト想いな人なんだよ」
流石に先輩に対する態度があまりにもひどいのでシュテルがクリスを止めに入る。
すると、
「あぁ?だったら、全員風呂にぶち込めばいいじゃん」
「ちょっ、何を勝手な事を‥‥おぶっ‥‥」
「テメェは黙っていろ!!トイプードルが!!お前の髪からは濡れた犬の臭いがすんだよ!!この獣フレンズがぁ!!」
キャラ崩壊したクリスはボディーブラシでバルクホルンを湯船の中へと沈め、彼女の身体を洗う。
「全員って言ってもどうする?潜水艦クラス全員をお風呂に入れるとかなり時間がかかるよ」
浴槽、シャワーの数は限りあるので、その限られた数で一クラス全員を入れていては時間がかかる。
この後、U-862には物資の搬送もある。
「うーん‥‥あっ、そうだ!!」
シュテルは応急処置用の防水シートと木材で簡易的な大風呂を甲板上に作り、U-862の乗員をその大風呂に入れた。
勿論、布を使っての更衣室も忘れずに作った。
「石鹸、シャンプーをケチるな!!ガンガン使え!!」
クリスが主体でU-862の乗員の入浴を指揮していた。
「トゥルーデ先輩すみません。あっ、これ私の制服です。先輩の制服が乾くまで、着てください」
「ああ、すまないな、碇艦長」
シュテルはバルクホルンの制服が洗濯中の間、自分の予備の制服を貸した。
この他にもU-862の乗員にはヒンデンブルグの乗員の予備の制服やジャージが貸し出された。
そして、これ以降、ヒンデンブルグが潜水科の補給が行われるたびに潜水艦の乗員の為のお風呂が提供され、潜水科のクラスメイトからはいつしか「カマクラの湯」と呼ばれ親しまれる様になった。
その名前の由来はヒンデンブルグで飼っている猫のカマクラからとったものだった。
今回のゲストはストライクウィッチーズのバルクホルン大尉です。
規律に厳し彼女は当初、教官役にしようかと思ったのですが、バルクホルンにはもう一つ、お姉ちゃんの面もあったので、「お姉様な先輩」と言う事で先輩役としました。
アニメ本編ではシュペー、武蔵の艦内でドンパチをして、小説版ではケーキをかけて艦内で水鉄砲大会をしていましたが、体育の授業の中で作中に記したような艦内戦闘の内容もありそうですね、あの世界では‥‥
各校の所属学生艦でアメリカの学校の学生艦を追加しました。