やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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22話

 

 

ヴィルヘルムスハーフェン校とキール校との交換留学で、ヴィルヘルムスハーフェン校所有の海上フロート基地へとやって来たシュテル達、ヒンデンブルク。

到着後は各科に分かれての講義であったが、艦長のみ艦橋要員とは完全行動となり、学長の特別講義を受ける事となった。

そしてヴィルヘルムスハーフェン校学長のケルシュティンが集まった艦長達に今回の航海の感想を訊ねている時、艦長クラスが講義を受けている教室の近くのトイレから顔を真っ青にしたミーナが出てきた。

 

ジャー

 

「うぅ~やっとおさまった‥‥」

 

(たぶん、昼にレターナと食べた激辛ブルストのせいか‥‥?)

 

ミーナは先程までお腹を下し、トイレに籠っていたのだ。

お腹の不調の原因は昼食に級友と共に食べた激辛ブルストのせいではないかと推測するミーナ。

シュペーで朝食を食べた後、午前中の講義中、お腹は全然問題なかったので、腹痛の原因は昼食に悪いモノを食べたとしか考えられなかったからだ。

その原因で真っ先に思い当たったのが、激辛ブルストだった。

 

(しかし、何故レターナは無事なんだ?)

 

自分はこうしてお腹を下したのに、あの時、同じ激辛ブルストを食べたレターナはお腹を壊した様子はなかった。

彼女の胃が自分よりも鋼の如く強かったのか、それとも何か別のモノに原因があったのか?

それは分からないが、今は何とかお腹の具合が治った事にホッとするミーナであった。

そこへ、

 

「あっ、もしかして其処に居るのは、シュペーの副長さん?」

 

ミーナは背後から声をかけられた。

 

「ん?」

 

ミーナが振り返ると其処にはユーリが居た。

 

「ああ、君は確かキール校のエーベルバッハさんか‥‥」

 

「おぉ、やっぱり、シュペーの副長さんの‥‥えっと‥‥確か‥‥ブラウンシュガー・インゲン豆さんだっけ?」

 

「何じゃ!?その名前は!?全然違う!!ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクだ!!」

 

「何、その長い名前‥‥うーん‥‥メンドイからミー君でいい?」

 

「私は猫でも、がっこうでくらしている女子高生でもないぞ!!『ミーナ』でいい。皆はそう呼んでいるからな」

 

「うーん、でもウチの学校の教官にミーナって名前の教官が居るから、その名前では気軽に呼べないんだよね‥‥キールに戻った時、はずみで教官の事も呼んじゃいそうで‥‥」

 

「そ、そうか‥‥しかし、『君』はないだろう?私は女子なんだから」

 

「じゃあ、ミーちゃんで‥‥」

 

「ま、まあ、それでかまわん‥‥」

 

ミーちゃん呼びで妥協したミーナ。

 

「それで、エーベルバッハさんは‥‥」

 

「あっ、私の事はユーリでいいよ」

 

「う、うむ‥それでユーリは何故此処に?貴女もトイレか何か?」

 

ミーナはユーリもトイレに来たのかと訊ねると、

 

「いや、ちょっとシュテルンの様子を見に来たの」

 

「シュテルン?‥‥ああ、ヒンデンブルクの艦長か‥‥」

 

「そう、シュテルン、少し人見知りな所があるから一人で他校の生徒の中に放り込まれて大丈夫かちょっと心配でね」

 

幼馴染みだからこそ、シュテルのそう言った部分を心配したユーリ。

すると、近くの教室から、

 

「いいか、海とは怖いモノだ。大人しいようで牙を持ち、美しい様で底なしの闇を持つ‥‥舐めた行動をとれば命を失う。艦長は海の怖さを一番に理解しなければ失格だ」

 

学長のケルシュティンの声が聞こえてきた。

 

「艦長クラスの講義か‥‥」

 

「海の怖さか‥‥そう言えばシュテルンは高等部の初めての航海の時、かなり緊張していたね」

 

「そうなのか?」

 

「うん。平穏な海でも常に警戒していたよ。あと、この前ウチの学校の潜水艦のクラスに補給物資を届ける時も確認が取れるまで相手は敵だと言う認識を持てって言って主砲や魚雷を潜水艦に向けたからね」

 

「同じ学校の艦に砲を向けたのか!?」

 

ユーリの話を聞いて驚くミーナ。

 

「浮上して来る潜水艦が必ずしも味方の潜水艦とは限らない。味方識別が確認できてそこでようやく警戒を解除するって言ってた」

 

「‥‥それで、潜水艦の艦長からはなにか言われなかったのか?突然、砲を向けられたのだから‥‥」

 

もし、ミーナがその潜水艦の艦長だったらきっとシュテルに「どういうつもりだ!?」と問いただしていただろう。

 

「うーん‥‥逆に褒めていたよ」

 

「えっ!?褒めていた!?」

 

自分達に武器を向けた相手を褒めるなんて、その潜水艦の艦長が何を考えているのか分からないミーナだった。

そんなミーナを尻目にユーリは説明を続ける。

 

「うん‥‥向こうの艦長さんもシュテルと同じだったらしく、味方識別が出来ていない中で無警戒に自分達を受け入れていたら、一喝する所だったって話しているのを聞いたし‥‥」

 

「そ、そうか‥‥」

 

そう言う見方もあるのかとちょっと勉強になったミーナ。

その間もケルシュティンの演説は続いており、

 

「だが、安心したまえ‥‥君達は此処で貴重な体験を得る事ができるだろう‥‥」

 

そして、ミーナとユーリが図らずも立ち聞きして居る中、二人はケルシュティンの次の言葉を聞いて驚愕する。

 

「君達、艦長のミスで一ヶ月間、大西洋状で遭難しなさい。そしてそれをその他の乗員に決して口外しない事‥‥それが次の課題だ!!」

 

「「そ、遭難!?」」

 

なんと、ケルシュティンは次の航海で艦長達にわざと艦を遭難させろという課題を出して来た。

しかもその事実を艦長はクラスメイトの誰にも悟らないようにと言うおまけつきで‥‥

 

「‥‥此処の学校の学長、頭がイカレているんじゃないの?」

 

ユーリはケルシュティンが出した課題について呆れるように言う。

 

「た、確かに‥‥学長は何を考えているんだ?」

 

ケルシュティンの考えはヴィルヘルムスハーフェン校の生徒であるミーナでさえ計り知れなかった。

 

「手順は学校側で考えてある。君たち艦長はそれに従って自艦を遭難させるのだ。簡単だろう?まぁ、多少の罪悪感はあると思うがね。当然、キールの君もこの課題は受けてもらうぞ」

 

例外はなく、本来、ヴィルヘルムスハーフェン校の生徒ではないシュテル達、ヒンデンブルクも今回の遭難の課題は受けなくてはならない様だ。

 

「は、はい」

 

(罪悪感どころではないぞ‥‥下手したら暴動が起きるかもしれないし、疑似の遭難がガチの遭難事にもなりかねないぞ‥‥もし、そうなったらどうするつもりだ?)

 

シュテルは艦内で暴動が発生したり、本当に遭難したらどうしようと不安になる。

 

(これが、クローナが言った関門‥そして地獄か‥‥)

 

一方、テアの方は先程、クローナが言った『最初の課題で地獄を見る。』 『地獄を見て艦を降りる』の意味を理解した。

シュテルやテアの他にケルシュティンの出した課題に此処に集まった艦長達は皆、不安そうな顔をしている。

学校であらかじめ設定された遭難とは言え、実際に大西洋をあてもなく彷徨のだから不安にならない訳がない。

 

「連絡方法は暗号通信を使用します。用紙を予め確認しておいてください」

 

教官が遭難方法や万が一の事を踏まえて暗号が書かれた通信方法が書かれたしおりを各艦長達に配る。

 

「さあ、話はこれまでだ。行きたまえ」

 

しおりを受け取った艦長達は席を立ち、次々と教室から退出する。

 

「げっ、マズい」

 

「隠れろ」

 

このまま通路に居ては艦長達に見つかってしまうので、ミーナとユーリは咄嗟に扉の影に隠れる。

 

「テア・クロイツエル、シュテル・H・ラングレー・碇の二人は少し残りたまえ」

 

教室を退出しよとしたテアとシュテルをケルシュティンが呼び止める。

 

「あら?なにかしたのかしら?あなた達」

 

「「‥‥」」

 

(むしろ、シュペーに煽り運転をしたアンタが呼び止められない事の方が不思議だよ)

 

クローナは嘲笑した笑みと小馬鹿にした目で二人を見ながら教室を出てく。

シュテルはむしろこの場合、何かしたのはクローナの方ではないかとさえ思う。

朝のあのシュペーとビスマルクとのあのやりとり‥‥テアとクローナが呼び止められるのであれば、分かるのだがシュテルもテアも思い当たる節はなく、何故自分が呼び止められるのか不思議に思うシュテルだった。

 

「なんでしょうか?」

 

「なんでしょう?」

 

「まず、テア・クロイツェル‥‥君の母親は元気か?」

 

ケルシュティンはテアの母親について訊ねてきた。

 

「元気‥‥だと思います」

 

「だと思う?」

 

「最後に会ったのは二年前なので‥‥」

 

「なるほど、相変わらず世界中の海を航海しているのか」

 

「?」

 

ケルシュティンの言葉に首をかしげるテア。

 

「私は君の母親の元担任でな、当時の問題児の娘が入学していると聞いて気になっていたのだよ」

 

(確かテアのお母さんってブルーマーメイド‥‥教え子って事か‥‥)

 

教室の外の扉の影からケルシュティンの話を聞いていたミーナはテアの母親がブルーマーメイドである事を以前聞いていたのだが、その母親の学生時代の担任がケルシュティンだとしったのはテアを含めて今知った事実だった。

 

(問題児って、クロイツェル艦長の母親って昔はヤンキーだったのか?)

 

大人しそうなテアを見る限り、その母親が問題児だったのが想像できないシュテル。

 

「次にシュテル・H・ラングレー・碇」

 

「は、はい」

 

「君は今回の交換留学の件がどう言った経緯なのかをアンネから聞いていると思うが?」

 

「はい。此方のクロイツェル艦長と共に半ば貴女とウチの学長の生徒自慢に巻き込まれた様な感じです‥‥」

 

ジト目でケルシュティンを見るシュテル。

 

「まぁ、そう言うな。実際にあのアンネが自慢する生徒を私もこの目で直接見たかったからな」

 

「はぁ~」

 

「先程の質問も他の生徒と異なり、艦長の本質を理解している様だ。流石、アンネからそのサーベルを贈られるだけの事はある」

 

ケルシュティンはシュテルの腰にぶら下がっているサーベルを見て小さく口元を緩める。

 

「きょ、恐縮です‥‥」

 

「では、二人とも、次の課題も頑張ってくれたまえ」

 

ケルシュティンはそう言い残し去って行った。

 

「やあ、学長となに話していたの?」

 

そこへ、教室を出たと思ったクローナがまた絡んできた。

 

((またコイツか‥‥))

 

シュテルとミーナはまたもや絡んできたクローナに呆れる。

先に講義室を出て行った筈のクローナは態々テアが出てくるのを待っていたみたいだ。

暇人なのか、それともよほどテアにかまってもらいたいのか?

 

「別に‥‥」

 

テアも相変わらずクローナを適当にあしらう。

 

「ふーん、まぁいいけど、それにしても面倒な課題が出されたわね。まぁ、向こうが見たいのは大失態した場合の立ち振る舞いや艦長としての器なんでしょうけど、艦長が信頼を失うってのは想像以上に命取りになる‥‥あっ、でも他人に無関心なあなたには元から信頼何てないか」

 

(なっ!?アイツ、テアになんてことを!!)

 

ミーナがクローナの話を聞いて思わずその場から出て行き、言い返したい衝動を必死に抑える。

今この場から出ていっては立ち聞きしていたことがバレてしまう。

 

(うへぇ~嫌な奴‥‥)

 

ユーリもクローナの言動を見てやっぱり彼女は嫌な奴だと改めて認識する。

 

(おい、アンタ。その言葉、ブーメランかフラグだぞ)

 

シュテルはクローナの言っている事がテアよりもクローナ自身に帰ってきている言葉に様に思えた。

 

「それじゃあ、一ヶ月後が楽しみだわ~ハハハハ‥‥」

 

クローナは高笑いと捨て台詞を吐きながら去って行った。

 

(アイツの性格上、一番で脱落しそうな気がするのだが、何故あそこまで自信たっぷりなんだ?そう言う所が雪ノ下そっくりだな)

 

シュテルはクローナの性格を考えてビスマルクが今回の課題で最初の脱落艦になりそうな予感がしたのに、当の本人は妙に変な自信があるのが不思議であり、根拠の無い自信を振りかざすその姿が雪ノ下と被って見えた。

 

(クロイツェル艦長はアイツを適当にあしらっているけど、反論し、正論をぶつけられたら、雪ノ下みたいにただ睨みつけるだけなのかな?)

 

ちょっと、反撃し正論をぶつけて論破した時のクローナの様子が見てみたいシュテルだった。

 

「‥‥」

 

「‥‥今回の課題‥‥クロイツェル艦長はどう思います?」

 

シュテルはテアに今回の課題についての意見を訊ねる。

 

「‥‥学長の言う海の怖さ、クローナの言う失態したた時の立ち振る舞い‥‥どれも当たっていると思う‥‥」

 

「‥そうですか‥‥確かにベロナ艦長の言っている事は的を射ていますね‥‥故意に遭難させ、乗員達に余計な不安を煽らせ、海の怖さを教える‥‥ただ、その反面、艦長には艦を遭難させたという乗員からの悪意が集中する事になる‥‥」

 

あなたのやり方、嫌いだわ。

 

人の気持ち、もっと考えてよ。

 

だから、お兄ちゃんはいつまでもごみぃちゃんなんだよ!!

 

最低

 

死ねばいいのに

 

お前みたいな根暗野郎が調子乗ってんじゃねぇよ!

 

マジサイテーだな

 

「‥‥」

 

シュテルの脳裏に前世で信頼していた人達からの罵倒や同級生からリンチに遭っている時の罵倒が脳裏を過ぎる。

 

「クロイツェル艦長」

 

シュテルは真剣な顔でテアと向き合う。

 

「ん?」

 

「今回の課題は艦長を含め、乗員に海の怖さを教えると言う事が第一目標かもしれませんが、もし‥‥もし、実習の継続と友情や人間関係を天秤にかける様な事態になったら、友情を取りなさい」

 

「えっ?」

 

シュテルの言葉にテアはキョトンとした。

 

「艦長一人では艦は動かせない‥‥艦を動かすにはクラスメイトの力が必要であることは分かるよね?」

 

シュテルの問いにテアは頷く。

 

「そのクラスメイト達の信頼を失っては、艦は動かせない‥‥それに‥‥」

 

「それに?」

 

「それに、一度失った信頼を取り戻すのはなかなか難しい‥‥親友だと思っていた人、信じていた人から裏切られ拒絶されるのはその身を引き裂かれるほど、心が痛む」

 

何故かシュテルの言葉はテアの心に何故かグッとくるほどの説得力がある。

中等部、ミーナと知り合ったばかりの頃、彼女は正直しつこいぐらい、自分に付きまとった。

しかし、クローナからミーナまでもが嫌がらせを受ける事を恐れたテアはミーナを拒絶した。

そして、初めてのシミュレーション実技の時、自分の班のメンバーはクローナの息がかかった生徒ばかりで、しかも自分の一つ前にシミュレーションを行ったクローナはシミュレーション室を出る際、海図を破いて出て行った。

海図もなく、信頼できる人間も居ない中でシミュレーションを行わなければならない時、ミーナは本来の班員のメンバーに成り代わり、変装で被っていた帽子の中に海図を隠し持って自分に手を貸してくれた。

自分と深く関わればクローナから嫌がらせを受けるかもしれないのに‥‥

そのシミュレーションの授業以降、テアはミーナに対して絶大な信頼を置くようになった。

シミュレーションの後、倒れた自分を保健室へと運んでくれた。

そして、其処で互いに夢を語り合った。

ミーナはテアが艦長を務める艦に乗る事、

テアはミーナが副長を務める艦の艦長になる事、

高等部に入り、ようやくその願いは叶った。

その他にも、ミーナ経由でレターナやローザ、シュペーの皆と友達になれた気がする。

自分はもう一人ではない。

そんな確証がテアの心の中にあった。

だが、今回の課題は艦長である自分の手でわざと遭難し、乗員に不安と危険を強いる。

その過程でシュテルの言う通り、もし、ミーナから拒絶されたらと思うと大きな不安がテアを襲う。

中等部時代のシミュレーションの時と今回の課題とではスケールが異なるのだ。

一歩間違えれば本当に遭難し、命の危険もあるかもしれないのだから‥‥

そして、テアにアドバイスをしたシュテルも自分自身に先程の言葉を言い聞かせていた。

テアにミーナ達が居るように、今の自分にはユーリとクリスが居る。

あの奉仕部の二人とは半年の付き合いだったが、ユーリとクリスとはもう十年以上の付き合いだ。

きっと自分の事を信じてくれると言う思いの反面、前世で信じていた者に裏切ら続けた経験から今回の課題でまたその辛い経験をするのではないかと言う不安があった。

シュテルがチラッとテアを見ると、テアも自分と同じく不安を感じている様で俯いている。

身長差で同い年である筈のテアが何だか年下のように見えたシュテル。

すると自然とシュテルの手が帽子を被っていないテアの頭へと伸び、彼女の頭を優しく撫でた。

 

(クロイツェル艦長の髪の毛、柔らかいな‥‥)

 

テアの髪の毛の触り心地はまるで上質な絹糸のようで柔らかかった。

 

(そう言えばガキの頃、親父やお袋が仕事で夜遅いと小町の奴が不安になってよく、俺の部屋に来ていたっけ‥‥?あの頃はよかったなぁ‥‥小町も素直でいい子だった‥‥)

 

そして、彼女の頭を撫でていると、まだ妹の小町が小さく純粋無垢で自分にとって天使だった頃の前世の記憶が蘇ってくる。

 

一方、突然頭を撫でられたテアの方はちょっと驚きつつも、

 

(あっ、なんだか、こうして撫でられていると‥‥不思議と落ち着く‥‥副長とは違う‥‥この温もりはまるで‥‥)

 

テアの方もミーナとは異なるシュテルの手の温もりはかつてまだ自分が物心つく寸前、普段は仕事で家を留守にしがちの母‥‥でも、自分の体は覚えていた。

母の手を‥‥母の温もりを‥‥

 

「母様‥‥」

 

シュテルの手が母と被ってしまった為か、テアは一言呟く。

 

「えっ?」

 

テアがポツリと何かを呟いたため、シュテルはテアの頭を撫でる手を止める。

もしかしたら、「子供扱いするな」と怒ったのかもしれないと思ったのだ。

 

「あっ‥‥」

 

しかし、テアはシュテルが頭から手を退けてしまうとなんだか残念そうな顔をする。

 

「あっ、失礼‥‥その‥昔、知り合いの子にこうしてあげるとその子は元気と言うか、落ち着くと言うか‥‥クロイツェル艦長が不安そうな様子だったので、つい‥その‥‥癖と言うか‥‥すまない」

 

シュテル自身、下手な言い訳だと思ったが、

 

「い、いや、その‥‥何というか‥‥なかなかの心地よさだった‥‥」

 

頬をほんのりと赤らめ、再び俯くテア。

しかし、今度のは不安ではなく、羞恥で俯いた様子だった。

 

「だから、その‥‥もっと撫でて欲しい‥‥」

 

と、シュテルにもっと頭を撫でて欲しいと頼み、シュテルは

 

「わかりました」

 

とクスっと微笑みながら返答し、テアの頭を撫で続けた。

そんな二人の様子を見ていたミーナとユーリは、

 

(あ、アイツ、テアに馴れ馴れしく‥‥それにテアもテアだ!!何故、そんな奴の撫で撫で顔を赤くする!?う、羨ましい!!)

 

と、テアの頭を撫でたシュテルに嫉妬し、

 

(あのちびっ子、シュテルンに頭を撫でてもらうなんて‥‥私だって最近は撫でてもらっていないのにぃ~!!う、羨ましい~!!)

 

と、シュテルに撫でてもらったテアに嫉妬していた。

そこへ、

 

「あれ?ミーナさん?それにキールの方も‥‥」

 

「わっ!ろ、ローザ!?」

 

ローザが声をかけてきた。

 

「あっ、すみません。ミーナちゃん遅いから薬を貰ってきたんだけど‥‥」

 

「えっ?ああ、そっか‥‥でも、そんなことより実は‥‥」

 

ミーナが今回の課題をローザに言おうとした時、

 

「ミーちゃん、ストップ」

 

ユーリがミーナの口を手で塞ぐ。

 

「ふぁにをふる(何をする)」

 

「あの学長が言っていたでしょう、『口外しない事』って‥‥」

 

「っ!?」

 

ユーリが耳元で囁いて気づくミーナ。

 

「そ、それじゃあ、またね。ミーちゃん」

 

「あ、ああ、またな、ユーリ」

 

「ミーちゃん?」

 

「あっ、いや‥‥その‥‥先程、ユーリとは仲良くなってな、ハハハハ‥‥」

 

ローザが『ミーちゃん』と言う部分に反応し、ミーナは乾いた笑みを浮かべ、咄嗟に取り繕う。

 

(そうだった、これは秘密の話だった。広がりでもしたら困るのはテアだ)

 

(私が副長としてテアを支えなければ‥‥)

 

一方、ユーリも、

 

(シュテルンの友として、私が頑張らないと‥‥)

 

と、ミーナと同じ決意を固めていた。

さまざまな思惑がうごめく中、各艦は出航して行った。

 




シュテルがナデポでテアを落としました。
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