やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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23話

 

 

ヴィルヘルムスハーフェン校とキール校との交換留学でシュテルはヴィルヘルムスハーフェン校の学長、ケルシュティンから次の航海では自艦をわざと遭難させろ、ただし他の乗員には決して口外をしない事、と何とも無茶苦茶な課題を出された。

勿論その課題にはシュテル達、ヒンデンブルクも参加しなければならない。

課題をだされた艦長達は不安を抱き海上フロート基地を出航していく。

 

「‥‥」

 

艦橋のウィングに出て海を眺めるシュテル。

そんなシュテルの様子をユーリはジッと見る。

ユーリとヴィルヘルムスハーフェン校所属のアドミラル・グラーフ・シュペー副長のヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクこと、ミーナは図らずも今回の課題内容を立ち聞きしており、これから起きる事も知っていた。

 

「ん?どうした?砲雷長」

 

ユーリの視線に気づいたシュテルがユーリに声をかけてきた。

 

「あっ、いや、なんでもないよ」

 

「そう?気分が悪い様なら遠慮なく医務室へ行ってきなよ」

 

「う、うん‥大丈夫だよ」

 

ユーリは乾いた笑みを浮かべながら誤魔化す。

 

(今の所、シュテルンに変化はない‥‥でも、これからわざと失態を犯して遭難するわけだから、シュテルンの精神的疲労はかなりの筈‥‥些細な事でも親友の私が気づいてあげないと‥‥今回の事は口外禁止だから、クリスにも相談できない‥‥私が何とかシュテルンを支えなければ!!)

 

ユーリは握り拳を作り、今回の課題に取り組むシュテルを影ながら支える決意をした。

 

「なんか、今日のユーリちゃん、ちょっと変じゃない?」

 

「そうかな?」

 

メイリンがそんな意気込んでいるユーリの姿を見て、舵を握るレヴィに訊ねる。

しかし、レヴィにはユーリの変化が分からない様で首を傾げていた。

シュテルはその後、海図台へと行き、チャートの海図と電子海図を見比べた後、

 

「航海長」

 

「は、はい」

 

「針路変更、今から私が航路を指定する。その航路に従って艦を動かせ」

 

「えっ!?」

 

「沿岸沿いを外れ、このまま直進し、目的地へと向かう」

 

「で、ですが、艦長、そのコースですと、嵐の発生地帯へと向かってしまいます。危険ではありませんか?」

 

メイリンがタブレットの気象・海象ページを調べ、ヒンデンブルクが向かう先は嵐の発生地帯なので、このままでは嵐に突っ込む事になるので、危険だと進言する。

 

「大丈夫だ。私の言う通りに進めば問題ない」

 

(来たっ‥‥シュテルンが言う針路は間違いなく、遭難コースだ‥‥)

 

ユーリはシュテルが言うコースは間違いなく、今回の課題である故意の遭難の第一歩であると確信した。

 

(この針路をとれば、ヒンデンブルクは間違いなく遭難し、シュテルンは非難されるかもしれない‥‥課題だと分かっていても絶対辛い筈だ‥‥)

 

「しかし、艦長、態々嵐の中へ突っ込まなくても‥‥」

 

メイリンは針路に嵐が来るのが分かっているのに態々嵐の中へ突っ込む必要性がないと意見する。

通常であれば、嵐は回避して進むのが当たり前なので、メイリンの意見は至極当然であった。

 

「艦長は私だ。書記の君はこの艦の針路を決める権利は無い筈だぞ」

 

シュテルはギロッとメイリンを睨みつける。

 

「は、はい‥すみません‥‥」

 

「‥‥」

 

クリスはシュテルとメイリンのやりとりを見て違和感を覚える。

 

「副長」

 

「は、はい」

 

すると突然、クリスはシュテルに声をかけられる。

 

「コーヒーが飲みたい‥‥持ってきてくれ。ミルクと砂糖、クリームをたっぷり入れた甘いヤツをな」

 

「は、はい」

 

シュテルにコーヒーを頼まれクリスは厨房へコーヒーを取りに行った。

 

その日の夜、クリスはユーリの部屋を訪れていた。

 

「ねぇ、ユーリ」

 

「ん?なに?」

 

「今日のシュテル、何か変じゃなかった?」

 

「えっ!?」

 

クリスの言葉にドキッとするユーリ。

 

「ど、何処が変だったの?」

 

「う~ん‥‥なんて言うか、無理に強がっているというか、変に周囲と壁を作っているみたいに見えたんだけど‥‥」

 

「た、多分緊張しているんじゃないのかな?ほら、交換留学して他校の生徒に舐められない様にと気張っているんだよ」

 

と、ユーリは課題について何とかクリスに悟られまいと必死で誤魔化していた。

 

(流石、クリス‥‥私と同じくシュテルンとの付き合いが長いだけあってシュテルンの違和感に気づいたか‥‥)

 

ユーリ自身、今回の課題を立ち聞きしていなければ今日のシュテルの行動に違和感を覚えていただろう。

 

「そうかな?」

 

ユーリは誤魔化したが、それでもクリスの中のシュテルンへの違和感は払拭できなかった。

 

ヴィルヘルムスハーフェン校の海上フロートの基地を出航してから三日が経った頃、

 

「やっぱり‥‥大変です艦長!前方に嵐を確認、迂回を‥‥!」

 

メイリンがタブレットで気象・海象情報を確認すると、やはりヒンデンブルクの針路上に嵐がある事が確認でき、このまま進めばヒンデンブルクは嵐の中へと突っ込む事になる。

メイリンは嵐を回避する為、迂回しようと意見する。

しかし、

 

「いや、このまま直進だ」

 

「えっ!?」

 

シュテルはあくまでも針路を変更せず、このまま嵐へと突っ込む指示を下す。

 

「あの程度の嵐ならば沈む事はない筈だ」

 

「た、確かにそうですけど‥‥」

 

「ならば、このまま突入する。荒天航行の訓練にはもってこいでじゃないか‥‥非直の者も総員艦内配置に‥時化に備えよ」

 

「で、ですが‥‥」

 

「二度も言わせるな!!君は艦長の指示に従えないのか!?」

 

「わ、分かりました。艦長‥‥」

 

(シュテルン、口調、口調が変わっているよ‥‥)

 

数時間後、ヒンデンブルクは嵐の中へと突っ込んだ。

ビスマルク以上の大きさを誇るヒンデンブルクでも嵐の中では荒波と風に揉まれる。

そんな嵐の中をヒンデンブルクは全速で突っ切っている。

 

「艦長、エンジンに異常負荷がかかっとる!!このままじゃ、エンジンが壊れてまう!!今すぐ、荒天を出てくれへんか!?」

 

機関室からエレミアが艦橋に‥シュテルに艦内電話を入れてエンジンの現状を伝える。

すると、シュテルは、

 

「泣き言は聞きたくない。そっちで何とかしろ」

 

その一言で電話をきった。

 

「‥‥」

 

シュテルから冷たくあしらわれたエレミアは受話器を持ったまま固まる。

 

「機関長、艦長は何て‥‥?」

 

「ウチらで何とかせぇ、ゆうとる」

 

「そんな無茶な!?」

 

「まぁ、艦長が何とかせぇ言うなら、エンジニアとしてのウチらの腕の見せ所やで!!何としてもこのじゃじゃ馬を黙らせるで!!」

 

エレミアが機関員の乗員を鼓舞してこのエンジントラブルは何とか対処できた。

その他にも嵐のせいで船酔いするクラスメイトが続出した。

そして何とか嵐を乗り切った後、食堂では、

 

「何なんだ!?艦長は!?自分のミスで嵐に遭遇したのに、嵐に突っ込めだなんてバカにしているの!?」

 

航路を独自の判断で外れ、嵐に遭遇し、その嵐も回避することなく、逆に嵐の中へ突っ込んだシュテルに対して不満がチラホラ出始めた。

 

「まぁまぁ、落ち着いて」

 

そんなクラスメイトをクリスは宥める。

 

「うぅ~酔った~」

 

「気持ち悪い~」

 

無理に荒天を航行したせいで船酔いしたクラスメイトは顔色が青く、食事も喉を通らないみたいだ。

 

「全く、何を考えているんだ!?艦長は!?」

 

「まぁまぁ、艦長も交換留学できっと緊張しているんだろうし、今回の行動だってきっと何か考えがあるんだよ」

 

ユーリがシュテルを弁護するが、

 

「でも、被害は甚大ですよ。レーダーも故障したみたいですし‥‥」

 

メイリンがあの嵐を強行突破したせいでヒンデンブルクのレーダーが故障した事を伝える。

 

「レーダーが故障って‥‥それってヤバいんじゃない?」

 

レヴィが、レーダーが故障した事態はちょっとヤバい事態じゃないかとポツリと呟く。

 

「それってもしかして‥‥私達遭難したんじゃない‥‥?」

 

一人のクラスメイトの発言で船酔いとは別の意味で顔色を青くする。

 

「もう我慢ならない!!副長からも艦長にガツンと言ってやってよ!!」

 

「そうだ、そうだ」

 

「副長と砲雷長は艦長と昔からの知り合いなんでしょう?艦長が何を考えているか、聞いてみてよ」

 

「そうだよ」

 

「もしかして二人は艦長の事で何か知っているんじゃない?」

 

「い、いや知らないよ」

 

「う、うん‥‥」

 

(や、ヤバい‥‥此処は何とかやり過ごさないと‥‥)

 

このままでは、シュテルに直談判し、あの行動の意味を正そうと言う動きがみられる。

もし、このままシュテルに直談判でもされれば、課題が此処で終わってしまう。

ユーリは何とかこの場を切り抜けようと必死に頭を働かせる。

 

「ま、まぁ、シュテルンは昔っから気まぐれな所があったからね。いくら昔からの付き合いがある私でもシュテルンが何を考えているのか全く分かんない。此処まで行動が異質だとちょっとドン引きだよ。主席だの艦長だの引き立たれてちょっと調子に乗っているんだよ。シュテルンももう少し人の気持ちも考えて欲しいよね」

 

「ちょっ、ユーリ」

 

クリスはユーリに言い過ぎだと注意しようとした時、

 

「それはすまなかったな‥‥人の気持ちも考えられなくて‥‥」

 

カマクラを抱っこしたシュテルがユーリの後ろに立っていた。

 

「しゅ、シュテルン‥‥」

 

まさか、自分の背後に自分が守ろうとしていたシュテル本人がおり、さっきの上辺だけの言葉を聞かれてしまった。

ユーリは顔を青くして震える。

 

「しゅ、シュテルン、今のは‥‥」

 

ユーリが取り繕うとしたが、

 

「皆も今日の嵐で疲れただろう。私も疲れた‥‥明日は、当直時間以外は皆好きに過ごしていい‥‥」

 

シュテルはカマクラの頭を撫でながら食堂を後にした。

 

「‥‥」

 

ユーリは力なく椅子に座るが未だにその顔色は悪い。

 

(人の気持ちも考えて‥‥それはシュテルにとってはNGワードだよ、ユーリ‥‥でも、ユーリはその事を知らないから仕方がないけど‥‥シュテル大丈夫かな?でも、ユーリもあんなことを言うなんてやっぱり変だ‥‥シュテルもユーリも何かを隠している‥‥)

 

シュテル、ユーリの態度のますます違和感を覚えるクリスだった。

 

(このままだとシュテルとユーリ、互いに変な誤解を抱いたままになっちゃう‥‥)

 

(よ、よし、此処は私が何とかしないと‥‥)

 

シュテルの様子が気になったクリスは艦長室へと向かった。

その頃、艦長室ではシュテルがベッドの上でカマクラの頭を撫でていた。

カマクラはシュテルに頭を撫でられて、気持ちよさそうに目を細めている。

 

分かっていた‥‥

 

今回の課題をクリアーするにはどうしても自分に悪意を集中しなければならない事だって‥‥

 

前世で汚れ役はこなして来たから慣れているモノだと思っていた‥‥

 

でも、この世界に転生して自分でも知らない内に自分は弱くなっていたのかもしれない。

 

仲間達に随分と酷い事を言って罪悪感に苛まれている。

 

それと同時に自分はユーリとクリスを信じていた。

 

でも、先程のユーリの言葉‥‥

 

もっと人の気持ちも考えてよ!!

 

前世で由比ヶ浜から言われた拒絶の言葉と同じ言葉‥‥

 

やっぱり、この世界でも自分は裏切られるのだろうか?

 

シュテルの心に絶望と言う暗雲が漂い始めた時、

 

コン、コン

 

扉がノックされた。

 

「ど、どうぞ‥‥」

 

シュテルが入室を許可するとクリスが入って来た。

 

「こんばんは」

 

「クリスか‥‥」

 

「ねぇ、シュテル」

 

「何?」

 

「‥‥単刀直入に言うけど‥‥何か変だよ‥‥今回の航海中のシュテル。それにユーリもだけど‥‥」

 

「‥‥」

 

「ねぇ、シュテルもユーリも私に何を隠しているの?」

 

「何も隠していない」

 

「だったら‥‥」

 

「副長の役割は艦長の補佐の筈だろう?クリスもユーリも私の命令しに従っていればいい。艦とは縦社会の組織だろう?これ以上、無駄話をするつもりはない」

 

シュテルはまるでクリスを拒絶する様な態度を取る。

 

「そう言う所が変なんだよ!!今回の航海じゃあ、シュテルはまるで別人みたいだよ!?」

 

しかし、クリスはシュテルにしつこく噛みつく。

 

「目覚めたんだよ、現実にな‥‥」

 

「えっ?」

 

「兵士は道具だ、使い捨ての道具に過ぎない。だから私は職務のためにそれをしているだけにすぎない。話は以上だ‥‥帰って」

 

「‥‥」

 

(やっぱり、変だ‥‥)

 

シュテルは強引にクリスを部屋から叩き出したが、クリスの違和感はますます強くなる‥‥と言うか、シュテルが何かを隠している事を確信した。

 

 

遭難から三日目‥‥

ヒンデンブルクの甲板には釣り竿を手にしたクラスメイト達の姿があった。

元々今回の航海は短い航海だと思っていた為、食糧がそこまで余分に積まれていなかった。

この遭難がいつまで続くのか分からないので、もしもの為に自給自足態勢を取る事になった。

水に関してはヒンデンブルクには海水を蒸留して真水に変える機械があったので、風呂、洗濯、トイレ等の生活水に関してはその蒸留水を使用し、清水タンクの清水は飲料水専用にした。

 

「よぉーし、暇人たち!!釣り竿は持ったか?」

 

クリスが暇人‥もとい、手空きのクラスメイト達に釣り竿を渡し、釣りを指揮する。

クラスメイト達が釣り竿を垂らしている中、ユーリはボォ~っとしながら釣り糸を見ていた。

 

(はぁ~いくら課題の事がバレないようにとは言え、あんなシュテルが傷つく様な嘘をついて‥‥最低だよ、私‥‥なにが親友としてだ‥‥シュテルンを支えるどころか、傷つけているじゃないか‥‥ミーちゃんは今頃、上手くやっているのかな‥‥?)

 

海を見ながら今頃、同じ課題に取り組んでいるシュペーの副長のミーナは上手く立ち回っているのだろうか?

そんな事を思っていると、クリスがユーリの頭を釣り竿で小突く。

 

「あんまり辛気臭い顔をしていると、魚が逃げるし、ユーリらしくないよ」

 

「‥クリスか‥‥はぁ~」

 

「どうしたの?溜息なんてついて‥‥?」

 

「泣きたくもなる‥自分がなんか情けなくて‥‥」

 

「あれ以来シュテルとは話してないの?」

 

「普通に必要最低限の会話ぐらいしかしていないけど、シュテルンが目を合わせてくれない‥‥あの時の自分を狙撃したい‥‥」

 

「‥‥ったく、そんな事で悩んでいるの?」

 

「そんな事って‥‥」

 

「あのねぇ~相手を傷つけたら謝る。そんな事、幼稚園の子供だって分かるでしょう。謝ってきなよ。成長したのは胸だけじゃないでしょう?」

 

「まぁ、クリスの方はあんまり成長してないみたいだけどね」

 

ユーリがクリスの胸をジッと見ると、

 

ゴン!!

 

クリスの鉄拳がユーリに炸裂する。

 

「何で私がこんな目に遭うんだよ、いてぇ~!」

 

「余計な事はいいからさっさと謝ってきなさい」

 

「は、はい‥‥うぅ~イテェ‥‥」

 

クリスの拳骨を喰らった後、シュテルの下へと急いだ。

そのシュテルは艦橋のウィングにて呆然としながら海を眺めていた。

 

「シュテルン!!」

 

「っ!?」

 

いきなり大声で呼ばれ驚くシュテル。

 

「ど、どうしたの?砲雷長」

 

ついでにシュテルと一緒に居たメイリンも驚いていた。

 

「シュテルン、マイク借りるよ!!」

 

「えっ?」

 

「砲雷長のユーリだ。皆、遭難生活三日で不安だと思うけど、大丈夫だ!!必ずみんなで帰ろう!!私達は艦に乗ってまだ三カ月も経っていないけど、中等部からの付き合いのある人も居て、仲間だ。だからこそ、私は胸を張って言える‥‥ウチの艦長は最高だ!!だから艦長を最後まで信じて欲しい!!十年以上の付き合いがある私が言うんだから間違いない!!」

 

「無茶苦茶な‥‥」

 

聞いているシュテルでもあまりにもユーリの根拠は弱い。

ユーリの放送は機関室でもスピーカーから流れており、

 

「まぁ、ウチは最初からシュテルの事は信頼しとるからな‥‥」

 

エレミアは中等部の卒業航海でイタリアマフィアから自分を凶弾から守ってくれたシュテルを信頼していた。

 

「シュテルン‥いえ、艦長、先日のあの発言は撤回します。すみませんでした」

 

普段のユーリからは信じられない程の真剣さが伝わって来る。

 

「そして、皆で帰ろうね、シュテルン」

 

「‥‥ああ、そうだな」

 

それから四日間、ヒンデンブルクは大西洋を彷徨い、運よくアイルランドへ到着し、港で食糧を補給した後、海上フロートの基地を出航してから二十二日目に戻る事が出来た。

 

「艦長、前方にアドミラル・グラーフ・シュペーを確認」

 

(クロイツェル艦長も苦労したみたいだが、何とか今回の課題をやり通したみたいだな‥‥)

 

前方を航行するシュペーの姿を見て、テアの方も何とか課題を頑張ったのだと思わずほっこりするシュテルだった。

海上フロートの基地に到着すると、二人が学長室へと呼ばれた。

 

「おめでとう。君達が最後だ」

 

「「?」」

 

学長室に入ると同時にシュテルとテアはいきなりケルシュティンから賛辞を述べられた。

 

「それはどう言う事ですか?」

 

「既に他の艦は帰って来ていたのですか?」

 

「ああ、殆どの艦は開始早々にリタイアしたよ。艦長の求心力の低下による内部分裂でね。ビスマルクなんて、僅か三日しか持たなかった‥‥」

 

(やっぱりな‥‥)

 

シュテルはクローナの性格上長くは持たないと思っていた。

むしろ、三日もよく持ったのだと思っていた。

 

「元々我々は、君達学生は十日も持たないと思っていた。そういう意味では君達は長い遭難生活の中で結束を固め、帰還した事は優秀と言える。喜びなさい」

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

「だが、それだけではこの課題の合格とはならない‥‥さて、改めて聞こう。本当に怖いものはなんだと思う?」

 

「孤独ですね」

 

まずはシュテルが答えた。

 

「食糧、水、そして現在位置さえも分からない‥‥船乗りとしてそれらの要素は十分に恐怖に値しますが、本当の恐怖は信じていた者から裏切られる事です」

 

「私も碇艦長と同意見です。一人で居る事には慣れている筈でしたが、本当に一人になると何も力が湧いてこない、絶望感に体が蝕われていく‥‥」

 

チラッとシュテルとテアは目を合わせ、

 

「「私達はそう思います」」

 

声を揃えて今回の航海での恐怖を口にする。

 

「それでいい。今回の課題の真意は実際の窮地で何が自分の真に怖いモノかを知る事だ。それを知るだけで海では長生きできる。二人とも下がってよろしい」

 

「あの‥‥一つ聞きたいのですが‥‥」

 

テアが退室前にケルシュティンへ質問をする。

 

「なんだね?」

 

「母がこの課題を受けた時、何と答えたのですか?」

 

「君と同じだ」

 

「っ!?」

 

「こんな想いを海の上で誰にもしてほしくないと言っていた。だからこそ今でも、ブルーマーメイドとして海で人々を救っているのだろう」

 

「‥‥そうですか‥ありがとうございます。では、失礼します」

 

質問に答えてもらい、テアとシュテルは学長室を退室した。

 

「お互いにいい仲間を持ちましたね。クロイツェル艦長」

 

「ああ‥‥でも‥‥その‥‥」

 

学長室を出た後、シュテルはテアに話しかけた。

すると、テアは何故か俯き顔をほんのりと赤らめ、もじもじする。

 

「?」

 

「その‥‥頑張ったご褒美としてまた頭を撫でて欲しい‥‥」

 

「…ええ、いいですよ」

 

テアの頼みをきいてやるシュテル。

そんな二人の背後の物陰では、

 

「ぐぬぬぬ‥‥あの余所者め、私のテアを‥‥」

 

「シュテルン、またあのちびっ子に‥‥」

 

互いの親友がそれぞれの親友を敵視していた。

 

 

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