やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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24話

 

 

ヴィルヘルムスハーフェン校との交換留学にて、自艦をわざと遭難させろと言う無茶苦茶な課題を何とか無事にクリアしたシュテルとテアは所属する学生艦の中で最長記録を叩き出した。

シュテルとテアはヴィルヘルムスハーフェン校の海上フロート基地へと戻ると、学長のケルシュティンから呼びだされ、今回の航海にて本当に怖かったモノは何かと言う質問を受け、それに答えた。

シュテルとテアの答えにケルシュティンは満足そうな様子で要件が済んだ後、二人を部屋から退室させた。

 

「どうかね?マイヤー君。あの二人は?‥‥特にクロイツェルに関しては君の同期の娘だ」

 

ケルシュティンは隣に立つ秘書にシュテルとテアの印象を訊ねる。

その内、テアの母親はどうやら、このマイヤーと言う秘書とは学生時代は同期生だった。

つまり、マイヤーもこのケルシュティンの教え子の一人なのだ。

 

「母親に似て寂しがり屋ですね」

 

マイヤーはポツリとテアの印象を答える。

 

「では、キールのあの娘はどう思う?」

 

「彼女もクロイツェル艦長同様、寂しがり屋の印象を受けますが、彼女の家庭環境はクロイツェル艦長とちょっと異なるので、その点に関してはいささかリサーチ不足と言いますか、何と言うか‥‥ちょっと異質なモノを感じました」

 

「そう言えば、あの子の父親は世界的に有名なチェリストだったな‥‥母親の方は確か‥‥」

 

「式波・アスカ・ラングレー・碇教授です。なお、父方の祖父母は碇ゲンドウ、碇ユイ、母方の方は、祖父は居りませんが、祖母は式波・キョウコ・ツェッペリン博士と学者肌の家系ですね」

 

「ああ、聞いた事のある名前かと思ったが、そうか、あの碇家と式波家の家系か‥‥」

 

「学長、知っているのですか?」

 

「おい、おい、これでも教育者であるからな、それなりに有名な学者の名前ぐらいは知っているさ」

 

「はぁ‥‥」

 

「アンネの奴はクロイツェルの娘をウチにとられたと言っておったが、そっちこそ、なかなかの人材を確保しておるではないか‥‥ククク‥‥さて、第一関門は共に引き分けと行ったところだ‥‥さて、次はどうなるかな‥‥?」

 

そう言ってケルシュティンは机の引き出しから一通の封筒を取り出した。

 

「マイヤー君。この手紙を向こうに送ってくれ」

 

「これは?」

 

「今度の合同合宿の相手、イギリスのダートマス校宛ての手紙だ‥‥」

 

ケルシュティンはこの後のイギリスとの合同合宿では面白いモノが見る事が出来そうな予感がしたのか、思わず口元を緩め、秘書のマイヤーに手紙を手渡した。

 

その頃、学長室の前の通路にて、シュテルはテアのリクエストを受けて彼女の頭を撫でていた。

ただ背後から得体のしれない殺気を感じていた。

 

(な、なんだ?背後から殺気が籠った視線を感じる‥‥一体誰だ?ベロナ艦長か?)

 

テアの頭を撫でていたシュテルは思わず冷や汗が流れるが、テアは何も感じていない様子で、まるで猫のように目を閉じて気持ちよさそうにシュテルに撫でられていた。

シュテルは背後から殺気の籠った視線を感じていたのだが、テアは感じていないのか、まったく気にする様子はない。

勘違いかもしれないとは言え、いつまでも学長室前に居る訳にもいかないので、シュテルとテアは食堂へと移動した。

シュテルとテアの背後から二人の様子を窺っていたミーナとユーリも当然二人の後をついて行こうとしたら、

 

「あれ?ミーナさん、こんな所で何をしているの?」

 

「砲雷長もどないしたん?」

 

そこへ、ローザとエレミアが通りがかり、二人に声をかけてきた。

 

「あっ、ミーナさん。ちょっと報告書の件で聞きたい事が‥‥」

 

「砲雷長、さっき副長が呼んでおったで」

 

と、ミーナはローザに捉まり、ユーリはエレミアの手でクリスの下まで連れて行かれ、シュテルとテアを追いかける事は出来なかった。

 

ミーナとユーリの追撃の手を逃れた事を知る由もないシュテルとテアの姿は海上フロート基地の食堂にあった。

コーヒーとドーナツを前に二人は今回の航海における互いの体験談を話していた。

お互いに大変な課題だったみたいで、苦労話やいくら他の乗員に悟られないようにする為とは言え、乗員に心無い台詞を吐くのは心苦しい気持ちで一杯だった。

話の区切りがついた時、シュテルはコーヒーにミルクと砂糖、クリームをこれでもかと言う量をドバドバ入れる。

 

(ドイツじゃ、マッカンが買えないから不便なんだよな‥‥)

 

前世における自らのソウルドリンクが此処ドイツでは手に入らないので、こうしてコーヒーにミルクと砂糖、クリームをドバドバ入れるのだが、やはり前世で愛したあのマックスコーヒーの味にはかなわない。

 

「‥‥」

 

テアはそんなシュテルのコーヒーをやや引き攣った顔で見ていた。

 

「そ、そんなにミルクや砂糖、クリームを入れて大丈夫なのか?」

 

「これは、これはで、美味しいんですよ。ただ日本の千葉にあるマックスコーヒーって名前の缶コーヒーにはかないませんよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「ええ、もし日本へ行く機会があればぜひ飲んでみて下さい」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「はい、あーん」

 

「あーん‥はむっ‥‥むぐむぐ‥‥」

 

マドラーでかき混ぜ、一口コーヒーを飲んだ後、シュテルはドーナツをテアに食べさせる。

 

(やっぱり、クロイツェル艦長の食べている姿は可愛い‥‥)

 

テアがドーナツを食べている姿を見て思わず顔がにやけるシュテル。

もし、前世の姿でこんな事をして、雪ノ下や由比ヶ浜が見たら、きっと「キモい」 「誘拐は犯罪よ、犯罪谷君」とか言って罵倒していただろう。

ドーナツを食べ終えた後、シュテルは気になった事をテアに訊ねた。

 

「あの、クロイツェル艦長。一つ聞きたい事があるんですが‥‥」

 

「ん?なんだ?」

 

「‥‥あのビスマルクのベロナ艦長とはどう言った関係なのでしょう?」

 

「‥‥」

 

「その‥彼女のあまりにも露骨な態度がちょっと気になりまして‥‥」

 

「ベロナとは家が近所で、彼女の家は代々海軍軍人の家系で、エリート軍人を輩出している名門家だ‥‥」

 

「へぇ~‥‥」

 

「私の父も海軍軍人なのだが、階級で彼女の父親よりも上回ってな‥‥それが彼女にとって許せなかったのだろう‥‥」

 

「なるほど‥‥でも、彼女のあの態度がクロイツェル艦長に対するひがみなのか‥‥それともあの態度はベロナ艦長なりの照れ隠し‥って事はないかな?」

 

「照れ隠し?」

 

「ええ、本当はクロイツェル艦長と友達になりたいんだけど、素直になれなくて、あんな態度を取ってしまうとか?」

 

「それはないな」

 

テアはあっさりとシュテルの推測を否定する。

 

「そ、そうですか‥‥ただ、適当にあしらうのもいいですが、今後もあからさまな悪意ある態度をとってくるのであれば、今の内に明確な態度で拒絶した方がいいですよ。そうでないといずれ、取り返しのつかない事態を招きかねないかもしれませんし、貴女が何も言わないのを良い事にますます調子づくかもしれませんから‥‥」

 

「取り返しのつかない事態?」

 

「自分のした失態をクロイツェル艦長か貴女の艦の乗員‥貴女の大切な人に罪を着せる‥‥学校である事ない事を吹聴する‥‥とかね‥‥これはある知り合いの実体験ですから心の隅にでも覚えておいてください」

 

シュテルは前世での実体験をテアに伝えると同時に警告をする。

 

「あ、ああ‥‥そうしよう‥‥」

 

シュテルの言葉は何故か物凄く現実味を帯びており、テアは思わず身震いした。

 

 

それから時間が経ち、太陽が西の水平線に沈みかけた頃‥‥

 

 

このヴィルヘルムスハーフェン校の海上フロート基地には学生艦が乗り入れする港湾施設、講義を受講する教室、学長室、職員室、体育館、食堂、教職員と学生が寝泊まりする寮の他に運動場、公園も完備されていた。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

その公園でユーリは息を切らしながら走っていたのだが、途中で止まり、辺りを見回す。

 

「くそっ、何処に行った‥‥?クリス‥‥っ!?」

 

ユーリは背後から自分に向かって飛んでくる飛来物の気配を感じ、咄嗟に右へ避ける。

すると、先程までユーリが立っていた場所には木の枝が突き刺さる。

 

「クリスの奴、完全に潰しに来ている‥‥くそっ」

 

ユーリが再び辺りを見回すと、彼女の目の前に見慣れたコートと帽子を被った人物が横切る。

 

「あれはシュテルン‥‥ねぇ、シュテルン。クリスを見なかった?」

 

ユーリはシュテルに近づき、彼女にクリスを見掛けなかったと問う。

 

「いや‥‥別に‥‥見てないねぇ~」

 

シュテルはゆっくりと帽子を取る。

すると、コートを羽織り、帽子を被っていたのはシュテルではなくユーリが探していたクリスだった。

 

「っ!?」

 

帽子を取ったクリスはユーリへ手刀で突いてくる。

ユーリは姿勢を低くしながら咄嗟に左へ躱し、クリスへ足蹴りを見舞うが、クリスは後方へジャンプし、そのまま公園の茂みの中へと隠れる。

 

「くそっ、化け物め!!此処にいるのはマズい!!」

 

ユーリは茂みの無い見通しの良い所へと移動する。

しかし、階段を降りようとした時、階段近くの茂みから手が伸び、ユーリの足をガシッと掴む。

突然足を掴まれたユーリはバランスを崩し、階段から落ちそうになるが、

 

「くっ‥‥」

 

階段の踊り場で手をつき、その反動を利用して空中で一回転、無事に階段下に着地した。

 

「出てこい!!クリス!!決着をつけてやる!!」

 

階段上に叫ぶユーリ。

すると、階段近くの茂みからクリスが現れる。

クリスは士官服の上着を脱ぎながらゆっくりと階段を降りてくる。

 

「ユーリ!!」

 

「クリス!!」

 

二人は互いの名前を言い合い、駆け出す。

ユーリがクリスを掴もうとした時、クリスは自分の上着をユーリの顔にかぶせる。

 

「ぬぶっ‥し、しまった!!」

 

「もらった!!」

 

ユーリの顔に自分の上着をかぶせたクリスはユーリの横をすり抜け一気に駆ける。

クリスの目の前の地面には一つの空き缶が立てられており、

 

「よっしゃぁぁぁー!!」

 

「あぁぁぁ~!!」

 

クリスは立てられていた空き缶を思いっきり蹴飛ばす。

缶が蹴られ、ユーリが残念そうな声をあげる。

 

「いきなり、帽子とコートを貸してくれって言うから、何をするのかと思えば‥‥」

 

そんなユーリとクリスの様子を高台からシュテルとテアが見ていた。

 

「‥‥これは‥‥戦闘訓練‥なのか?」

 

「いえ、ただの缶蹴りです」

 

シュテルはテアにクリスとユーリが何をしているのかを説明した。

クリスとユーリが公園でやっていたのは戦闘訓練でも喧嘩でもなく、缶蹴りだった。

 

「缶蹴りとは、どんなものなのだ?」

 

すると、テアがシュテルに缶蹴りについて説明を求めてきた。

 

「えっと‥缶蹴りとは‥‥」

 

そこで、シュテルはテアに缶蹴りについての説明をしたのだった。

 

(ふむ、缶蹴りか‥‥これは使えるかもしれん)

 

シュテルから缶蹴りを聞いたテアは何か決断した様な表情をした。

 

 

夕食とお風呂が終わり、シュテルが海上フロート基地にある生徒が使用する寮の部屋へと戻ろうとした時、ユーリに声をかけられ、今日は一緒に寝たいと言う。

まぁ、課題の航海時、シュテルはユーリに世話になったので、シュテルはユーリの頼みを聞いてあげ、この日はユーリと一緒に寝た。

 

「じゃあ、私は壁際で寝るから」

 

と、シュテルは同じベッドでも壁際で寝ると言う。

 

「いいけど、どうして壁際?」

 

「ユーリ、寝相が悪いから、私が蹴られてベッドから落とされるから」

 

「ぬぅー‥‥」

 

そして、シュテルは一つのベッドでユーリと共に眠った。

 

 

 

 

「ん‥‥?」

 

シュテルが目を覚ますと、下はどこまでも広がる海で、自分は不安定な石で積み上げられた岩場の上に立っていた。

 

「うわっ、な、なんだ!?此処はっ!?」

 

昨夜は確かにベッドで寝た筈なのに何故自分がこんな場所に居るのか分からない。

 

「シュテルン‥‥」

 

すると、何処からともなくユーリの声がする。

 

「ユーリ?」

 

シュテルがユーリの下方を見ると、其処には巨人化したユーリが立っていた。

その大きさは今、自分が立って居る岩場よりもデカい。

 

「大丈夫?」

 

「‥‥デカいな」

 

シュテルがポツリと呟くとユーリが岩場に近づいてくる。

すると、波が発生し、その波が岩場に打ちつけ、岩場がグラグラと揺れる。

 

「うわぁ…ば、バカ、動くな!!」

 

両手でバランスを取り、何とか落ちずに済む。

 

「いいか、ユーリ、揺れると私が海へ落ちてしまうから‥‥」

 

「ふぅ~」

 

「うわっ‥‥おっ‥おっ‥おっ‥‥」

 

するとユーリはシュテルが居る岩場に息を吹きかける。

息を吹きかけられた事で岩場がまた揺れ、シュテルは両手両足でバランスを取り、何とか落ちないようにする。

 

「シュテルン、なんで踊っているの?」

 

「て、てめぇ‥‥いいか、よく聞け、揺れないように私をお前の手の掌に‥‥」

 

「ふぅ~」

 

シュテルが巨人化したユーリに、ユーリの手の平に避難させるように頼むと、ユーリはまた岩場に息を吹きかける。

 

「ハハハハ‥‥ウケる」

 

「ウケねぇよ!!うわっ!?」

 

シュテルは立っていた岩場と共に海へと落ちた。

 

「覚えていろよぉ~」

 

ザップーン!!

 

海に落ちたシュテルは大きな魚に助けられ、その魚の背中に乗っていると、

 

「シュテルン~!!」

 

今度はクジラのように大きな人面魚となったユーリが海から出現した。

 

「ゆ、ユーリ!?」

 

「そうだよぉ~」

 

「‥‥デカいな」

 

「‥‥ねぇ、シュテルン」

 

「な、なんだ?」

 

「遭難した時、魚を釣って食べたじゃん」

 

「あ、ああ‥そうだな。あの時は食糧が不足していたからな」

 

「魚‥‥美味しかったなぁ~」

 

ユーリの口からは滝のようにヨダレが滴り落ちる。

 

「今のお前も魚だろう?」

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

巨大人面魚のユーリとシュテルが向き合う。

しかし、シュテルはユーリの口から滴り落ちるヨダレを見て何か嫌な予感がした。

 

「シュテルンも美味しそう‥‥」

 

「お前に理性はないのか!?理性は!?」

 

「だって、今の私は魚だし‥‥シュテルンだって、どうせ食べられるなら私が良いでしょう?」

 

「い、いや、いくらお前でも食べられるのは嫌なのだが‥‥ちょっ、待て!!やめろ!!」

 

ユーリは大きく口を開け、海水と共にシュテルが乗った魚諸共、シュテルを食べようとする。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!た、食べられる!!」

 

魚も必死に泳ぐがユーリの吸い込む海水の量が多く、等々ユーリの口の中へと吸い込まれた。

シュテルはこのままユーリに食べられて彼女の胃液で消化されるのかと目を閉じた。

 

 

 

 

「っ!?」

 

シュテルがバッと目を開けると、其処はユーリの体内ではなく、ベッドの中だった。

 

「ハァ…ハァ‥‥ハァ‥‥い、嫌な夢だった‥‥ん?」

 

あまりいい内容な夢では無かったので、息が荒い。

段々意識が覚醒していくとシュテルは手に何か違和感を覚える。

ふと隣を見てみると、

 

「むぐむぐ‥‥あむあむ‥‥チュー‥‥チュー‥‥」

 

「‥‥」

 

シュテルは夢で見た通り、ユーリに食われていた。

正確にはシュテルの手はユーリの口の中にあり、ユーリはシュテルの手を口に含みしゃぶっていた。

 

「ぬぅー‥‥」

 

シュテルは手を引っこ抜こうとするが、思った以上にユーリの吸着力が強く引っこ抜けない。

そこで、シュテルはユーリの顔をもう片方の手で固定し、力いっぱい腕を引くと手はユーリの口から抜けた。

 

「‥‥」

 

ユーリにしゃぶられていた為、シュテルの手はもとより、寝間着の袖までユーリのヨダレでべっとりだった。

 

 

 

 

海洋実習が終わったばかりなので、当分は座学であり、この日も海上フロート基地の教室で午前、午後、共に講義を受け、この日の講義が全部終わった頃、

 

「あ、あの‥すみません」

 

「ん?」

 

シュテルはローザから声をかけられた。

 

 

 

 

太陽が西の水平線に沈みかけた頃、先日、ユーリとクリスが缶蹴りをした公園に、テア、ミーナ、ローザ、レターナの姿があった。

 

「艦長、突然呼び出してどうしたんですか?」

 

「実は先日、ヒンデンブルクの乗員が缶蹴りなる遊びをしていて、ルールを聞いて面白そうだから、皆でやってみたいと思ってな」

 

「へぇ~それはどんなものなんですか?」

 

「ふむ、缶蹴りとはな‥‥」

 

テアはミーナ達にシュテルから聞いた缶蹴りのルールを説明する。

 

「なるほど、面白そうですね」

 

「では、鬼は副長がやってくれ」

 

「はい」

 

「ルールは目つぶしと殺傷能力のある道具の使用の禁止だ。それ以外は何をしてもいい」

 

「えっ?な、なんですか?それは‥‥?そんな、ルール、さっきの説明ではなかったですよね?」

 

テアのルール説明を聞き、何やら嫌な予感がするミーナ。

 

「缶が無かったので、缶の代わりにこれを使う」

 

そう言ってテアはミーナの意見をスルーして地面に一隻の軍艦のプラモデルを置く。

 

「そ、それは、私の宝物、小学四年生の時、初めて一人で完成させたプラモデルじゃないですか!?シュペーの私の部屋に置いてあった筈なのに!?」

 

「ああ、ソレ、私が持って来た」

 

「レターナ!!貴様!!」

 

「それじゃあ、スタート!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!艦長!!」

 

ミーナの悲痛な叫びも虚しく、缶蹴り‥もとい、プラモ蹴りが始まった。

テア、ローザ、レターナの三人はまるで蜘蛛の子を散らす様に公園の彼方此方へと散る。

大事なプラモデルを蹴られて壊されてしまうかもしれないので、ミーナとしてはこのままプラモデルを持ってこの場から去りたかった。

しかし、テアも参加している事から逃げる訳にもいかない。

プラモデルを守るには三人を捕まえるしかなかった。

すると、公園を艦長帽、コートを羽織った人物が横切る。

コートの襟の色は青い事からヴィルヘルムスハーフェン校の生徒ではなく、キール校‥‥ヒンデンブルク艦長のシュテルみたいだった。

 

「碇艦長、すまない、ウチの艦長、書記、航海長を見なかっただろうか?」

 

ミーナはシュテルにテア達の行方を訊ねる。

 

「いや‥‥別に‥‥見てないねぇ!!」

 

シュテルが徐に艦長帽をとると、其処に居たのはシュテルではなく、シュテルの艦長帽とコートを羽織ったローザだった。

 

「っ!?」

 

「ふん!!」

 

ローザはミーナの鳩尾に拳を叩きつけ、逃げようとする。

 

「待て!!」

 

ミーナはローザにタックルをして、彼女の身柄を確保しようとする。

そこへ、

 

「隙だらけだぞ!!副長!!」

 

テアがプラモデルへ一直線に駆けてくる。

 

「くっ‥‥」

 

ミーナはポケットに入っていたスーパーボールをテアに向かって投げる。

テアは一度足を止め、後方へジャンプしてスーパーボールを躱す。

 

「なかなかやるではないか、副長」

 

テアは一度態勢を立て直すつもりなのか、プラモデルから離れ茂みへと隠れる。

すると、今度は高台からミーナに向かってスーパーボールが飛んでくる。

ミーナはそのスーパーボールを紙一重で躱し、スーパーボールが飛んできた方向を見る。

其処にはパチンコでスーパーボールを撃とうとしているレターナの姿があった。

 

「レターナ‥‥このっ!!」

 

ミーナは先程、自分に撃ち込まれたスーパーボールを拾い、レターナの方へと投擲する。

 

「うっ‥‥」

 

ミーナの投げたスーパーボールはレターナの腹部に直撃し、レターナは倒れる。

 

「もらった!!」

 

その隙にテアが再びプラモデルに迫る。

 

「させません!!」

 

ミーナはテアにタックルをしてプラモデルの破壊を阻止する。

テアは何とかミーナの拘束から逃れ、再び逃走する。

そこへ、艦長帽を被り、青い襟のコートを羽織った人物‥シュテルが横切る。

 

「い、碇艦長、すまない、ちょっと手伝ってくれ」

 

「‥‥」

 

ミーナはシュテルに声をかけると、それはシュテルではなく、先程と同じ、シュテルの艦長帽とコートを身に纏ったローザだった。

 

「なんで同じ手に二度も引っかかっているんですか!?貴女は!?バカですか!?」

 

ローザはミーナに思いっきり腹パンをする。

その隙にテアが三度プラモデルに接近し、

 

「てりゃぁー!!」

 

プラモデルを思いっ切り蹴飛ばした。

テアに蹴られた軍艦のプラモデルは粉々となる。

 

「あぁぁぁぁぁー!!」

 

粉々になったプラモを見てミーナは思わず叫ぶ。

 

「ど、どうしてこんな酷い事を‥‥」

 

壊されたプラモデルを前に涙目になり、膝をつくミーナ。

知らぬ間に自分はテアの機嫌を損なう事でもしたのか?

しかし、いくら自問自答して思い当たらない。

 

「これを受け取ってくれ、副長」

 

すると、テアはミーナに一つのプラモデルの箱を手渡す。

 

「日頃から副長には世話になっているからな、何かプレゼントを贈ろうと思い、レターナに相談した所、副長が軍艦のプラモデルが好きだと知ってな‥‥実習前に密かに購入したんだが、既に同じプラモデルを持っている事を知って‥だから古い物は破壊することにしたんだ」

 

「か、艦長‥‥そ、そんな気を使わなくても‥‥」

 

ミーナが涙目になりながら貰ったプラモデルの箱を見ると、

 

(これ、違う艦だ‥‥)

 

壊された艦とプレゼントされた艦は別の艦だった。

しかし、満足そうにしているテアを前にミーナはその事実を伝える事は出来なかった。

 

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