やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
前世において八幡と初邂逅した時とほぼ同じ様なシチュエーションにてある邂逅をした由比ヶ浜。
彼女は前世同様、自分の愛犬を助けてくれた青年に恋をした‥‥
その日の由比ヶ浜は他の事が耳に入らず、授業では凡ミスを連発する始末だった。
だが、
「ゆきのん!!」
由比ヶ浜が自身の運命の出会いを感じた翌日、彼女は昨日とはうってかわって輝いていた。
「どうしたの?由比ヶ浜さん」
「それがね‥‥」
由比ヶ浜は昨日、自分の家の愛犬を助けてくれた青年の名前が判明した事を雪ノ下に話した。
「そう‥良かったわね。身元がわかって」
「うん」
(やっぱり、あのクズではなかったのね‥‥)
雪ノ下はもしかして‥と思ったが、やはり八幡はこの世界には存在して居なかった。
そもそも、由比ヶ浜に見せてもらった画像に写っている青年の容姿は、前世で知る比企谷八幡とは雲泥の差で、爽やかな好青年の容姿をしていた。
由比ヶ浜と雪ノ下の話を偶然聞いた葉山は、
(いい事を聞いたぞ‥‥このまま結衣とソイツをくっつける事ができれば、雪乃ちゃんは前世と同じくフリーになる‥‥そうすれば、雪乃ちゃんはまた俺と婚約者になれるぞ!!)
(大体、結衣は邪魔なんだよ、いつもいつも雪乃ちゃんにべったりとして、そのくせ、バカで空気を読まない。ヒキタニの奴が居ればあのバカを押し付けてやりたかったが、この世界じゃ、そのヒキタニを消しちまったからな‥‥でも、いい代わりが居た様で何よりだ‥‥)
葉山は由比ヶ浜と彼女が恋したその青年をくっつけてしまえば、自分は前世の様に雪ノ下と婚約関係に戻り、由比ヶ浜を雪ノ下から遠ざけることが出来るのではないかと思い始めた。
「なんの話をしているんだい?」
葉山は話を盗み聞きしていたにもかかわらず、何食わぬ顔で由比ヶ浜と雪ノ下の会話に入って来る。
「あっ、聞いて、隼人君。実はね‥‥」
由比ヶ浜はまさか、葉山が自分と雪ノ下の話を盗み聞きしていたとは知らず、渚カナデとの出会いを満面の笑みを浮かべて話した。
「へぇ~それはよかったじゃないか」
「うん。サブレは助かったし、あたしはまさに運命の出会いをしたんだよ。ヒッキーなんかより、ずっとカッコイイ人とね」
「応援するからね、結衣」
「私もよ、由比ヶ浜さん」
「ありがとう!!ゆきのん、隼人君!!」
雪ノ下は純粋に由比ヶ浜の恋を応援しようと思っているのだが、葉山の場合、自分と雪ノ下と交際する為、由比ヶ浜が邪魔なので、彼女をその青年とくっつけようと画策しようとしているとは知る由もなかった。
その由比ヶ浜に知らぬ間に好意を抱かれた渚カナデ本人はと言うと‥‥
放課後の15時頃に国際電話である場所へと電話をかけた。
呼び出しコールが何度か鳴り、
「はぁい‥‥」
通話口からはなんだか眠そうな声がしてきた。
「あっ、シュテルかい?久しぶり」
「ん?その声は、渚か?こんな朝っぱらからなんだ?」
「朝って‥‥ああ、そうか日本とドイツじゃ8時間の時差があるんだっけ?」
カナデは日本とドイツでは8時間の時差があり、日本では15時でもドイツではまだ朝の7時だった。
その為、電話の向こうのシュテルの声が眠そうなのも頷ける。
「それで、なんだ?」
「あ、ああ‥実は‥‥」
カナデは先日行われたピアノコンクールで優勝した事をシュテルに話した。
「へぇ~そうか、おめでとう。そう言えば、昔から渚はピアノが上手かったからな‥‥じゃあ、今度お祝いのドイツ土産をそっちへ贈るよ」
「あ、ああ‥‥ありがとう‥それで、シュテル」
「ん?」
「その‥‥実習の方は大変かい?夏休みは日本に来れそう?」
カナデもシュテルがキール海洋学校へ入学している事を知っていた。
その為、シュテルが実習で海に出ている事も当然知っている。
「まぁ、色々大変と言えば大変だけど、でもそれなりに楽しいよ‥‥いい友達も出来て、毎日が充実している。夏休みはイギリスの海洋学校に行く予定だから、今年は日本には行けないかな?」
「そうか‥‥今年は会えないのか‥‥」
通話口からはカナデのがっかりした声がした。
「今年は無理でもいずれ日本に行く機会はあるから。それで、そっちはどう?音楽活動は?」
シュテルはカナデと互いの高校生活を語り合う。
「シュテルン、起きている?もうすぐ朝ご飯だよ」
そこへ、クリスがシュテルの部屋を訪れた。
「あれ?電話中だったの?」
「あっ‥‥ああ、ゴメン。そろそろ朝ご飯だから、うん。それじゃあ、またね」
クリスが来た事で、シュテルはカナデとの電話を切った。
カナデとの電話を切り、急いで身支度をするシュテル。
寝間着を着替え、キール海洋学校の士官服に着替えている時、
「ねぇ、シュテルン」
「ん?」
「さっきの電話、誰からだったの?」
こんな朝っぱらからシュテルの下にかかって来た電話の主に興味があるクリス。
「えっ?」
一方、シュテルはクリスが何故自分の電話相手を聞くのかちょっと疑問に思った。
「電話をして居た時のシュテルン、ちょっと嬉しそうな顔をしていたし、何か男の気配を感じたんだけど‥‥?」
「い、嫌だな、渚は日本に居る親戚だよ。親戚」
「ふぅ~ん‥‥それで、その日本の親戚が何で朝一にシュテルンに電話を?」
「ああ、その親戚‥‥渚カナデって言うんだけど、ピアニストの卵でね‥‥この前、地元で行われたピアノコンクールに優勝したんだって‥‥」
シュテルは鏡を見ながらネクタイを結びながらクリスに朝一に日本の親戚から電話が来た事を話す。
「‥‥シュテルン‥まさかと思うけど、そのカナデって人の事、好きなの?」
クリスがジト目で訊ねてきた。
「えっ?私が渚を!?」
クリスの質問にシュテルは驚くが、
「ハハ、ないない。渚はあくまでも親戚の一人だよ。それに私が好きなのは戸塚‥‥あっ、いや、何でもない」
シュテルはカナデに対して恋愛感情はなく、あくまでも戸塚狙いだと言いそうになった所で誤魔化す。
(今の八幡さんが戸塚さんに前世と同じく‥‥いえ、今では女性となっているので、戸塚さんに恋愛感情を持っているのは知っているけど‥‥)
クリスはシュテルが戸塚に対して恋愛感情を抱いている事は知っている。
でも、流石のクリスもこの世界の戸塚が三浦と既に彼氏彼女の仲になっている事は知らなかった。
それでも、シュテルがその戸塚にとられてしまうのではないかと言う不安があった。
「ああ、そうだ。クリス」
「ん?なにかな?」
「今度、その親戚にコンクールの優勝を祝って何かドイツ土産を贈ろうと思うんだけど、一緒に付き合ってくれないかな?」
「う、うん‥いいよ‥‥」
クリスは若干顔を引き攣らせながらもシュテルのお誘いを承諾した。
(全く、八幡さんは恋愛に関しては前世でもこの後世でも鈍感ですよ‥‥)
(カナデさんって方も随分と厄介な人に惚れてしまったのかもしれませんね)
クリスは内心でシュテルの恋愛に関する意識の鈍感さに呆れる。
そして、日本に居るカナデがシュテルに対して恋愛感情を持っているのだと思った。
幾ら親戚であり、コンクールで優勝したからと言ってわざわざ電話で知らせてくると言う事はそのカナデはシュテルに対して恋愛感情を持っているのだろうと言うのがクリスの見解だった。
ヴィルヘルムスハーフェン校への交換留学期間も終わりが近づいており、今回の交換留学でシュテルと知己を得たシュペー艦長のテアはシュテルがヴィルヘルムスハーフェン校への転校を考えていないとの事で、この交換留学が終わればシュテルと離れ離れになってしまうので、テアとしてはシュテルの手の温もりをもっと感じたいのか、休み時間や放課後にはシュテルと共にする事が多く、二人の後ろにはミーナとユーリが黒いオーラを纏って、ミーナはシュテルを‥‥ユーリはテアを睨んでいた。
そんなミーナとユーリの姿をローザは苦笑していた。
クリスとしてはシュテルに新たな友達が出来た事に嬉しさを感じると共にテアにシュテルがとられてしまうかもしれないと言う不安も抱いていた。
この後世に転生して、八幡からシュテルに変わってから、彼女の人生は前世同様、人が寄って来る。
しかし、前世との違いは、前世では彼を利用して責任を逃れつつも自分の願いを叶えてもらおうと言う恩知らずな人ばかりで、彼自身も人をあまり信用していない節、自己犠牲を平然と行う所があったが、この後世では純粋にシュテルを慕っている人ばかりだ‥‥
その為、シュテルは前世と異なり、自己犠牲をする部分は極端に減った。
だからと言って前世で八幡を利用して責任逃れをするような卑怯者に成り下がったりはしていない。
女子校なので当然シュテルに近くに居るのは女子なのだが、同性愛でもやはりシュテルが誰かに取られてしまうのはクリスとしては複雑だったのだ。
そして交換留学期間が終わり、シュテル達、ヒンデンブルクが母校、キールへと戻る日が来た。
「それじゃあ、テア‥‥元気でね」
桟橋でヒンデンブルクを見送りに来たテアにシュテルは暫しの別れの挨拶をする。
「あ、ああ‥‥シュテルもな‥‥」
「‥‥」
これが今生の別れではないとはいえ、別れは別れ‥‥やはり悲しいモノだ。
シュテルもテアも何だか気まずい様子だ。
一応、テアとは連絡先を交換したので、いつでも連絡を取る事は出来る。
「‥‥シュテル」
「ん?なに?」
「少しかがんでくれるか?」
「えっ?‥‥んっと‥‥こう?」
テアの身長が高校一年生ながらも140cmとあまりにも小柄な為、シュテルはかがんでテアと目線を合わせる。
すると、テアはシュテルの頭部の後ろに両手を回して、シュテルの顔を近づけると、自らの顔もシュテルの顔に近づけて‥‥
「「んっ‥‥」」
自らの唇をシュテルの唇に重ねた。
あまりにも一瞬の出来事の為、シュテルは自分が一体何をされたのか理解出来なかった。
ただ、自分の唇に柔らかくそして甘い温かなモノが押し付けられた感覚はあった。
テアとシュテルの接吻を目撃したミーナはシュテルに対して何かを言いたい様子だったが、ローザに手で口を塞がれ、レターナから羽交い絞めをされており、シュテルに近づけず、文句も言えなかった。
ヒンデンブルクの方でもユーリがどこから取り出したのか分からないが、狙撃銃でテアを狙いそうだったので、艦橋要員が全員でユーリを取り押さえた。
短い様で長いテアとのキス‥‥
次第にシュテルも自分がテアに何をされているのかを理解する。
テアはゆっくりとシュテルの唇から自分の唇を離す。
「て、テアっ!?」
いきなり、テアからのキスをされたシュテルは驚きながらも彼女に何故、自分なんかにキスをしたのかを訊ねる。
「わ、私の初めてをシュテルに捧げたのだ‥‥私の事を忘れたら、承知しない‥ぞ‥‥」
「テア‥‥ええ、忘れません」
シュテルはテアににっこりと微笑みを浮かべてテアの事を忘れないと言う。
「ふぁ、ふぁんほう!!(か、艦長!!)」
ローザの手によって口を塞がれているミーナはもう号泣しそうな勢いだ。
テアのファーストキスをシュテルに奪われた事にかなりのショックを抱いた様だ。
まぁ、彼女のショックも分からないわけでは無い。
中等部からの付き合いのある自分がいきなりポンと現れた余所者のシュテルにテアがあっという間に懐かれ、その上キスまで自分より先に越されてしまったのだ。
彼女のショックはまさに失恋と同じレベルであった。
「ミーナさん」
そしてシュテルはミーナに声をかける。
「な、なんだ?」
流石に会話をするのに口を塞いでは話せないので、ローザはミーナの口から手を離す。
「あのチェスの試合‥まだ終わっていませんでしたからね。また会った時、決着をつけましょう」
「あっ‥‥ああ!!その時は碇艦長!!貴女には絶対に負けないからな!!」
テアとの中を決して自慢することなく、シュテルはミーナにあの時、時間がなく、決着がつかなかったあのチェスの勝負の続きをしようと言う。
シュテルの言葉にミーナも彼女に対する嫉妬を引っ込めて、今度会った時はあの時のチェスの決着をつけようと高々に言う。
「それじゃあ、また‥‥」
色々な事があった交換留学であったが、シュテル達にとって有意義な交換留学となった。
ヒンデンブルクはヴィルヘルムスハーフェン校のフロート基地を後にして一路、母校のキールへと戻って行った‥‥。
キールへと戻ったヒンデンブルクを大勢の生徒や教官らが出迎えてくれた。
「おかえり!!」
「おかえりなさい!!」
ヒンデンブルクを降り、桟橋で整列したヒンデンブルクの乗員らは学長を前に敬礼し、皆が無事に帰って来た事を報告する。
シュテルの制服にはイギリスとの交流戦で獲得した勲章が輝いていた。
その勲章を見たアンネローゼは満足そうに微笑んでいた。
それから暫くしてシュテルの下に交換留学中に交流戦をしたイギリスのダートマス校から夏の体験入学の案内の知らせが届いた。
カレンがダートマス校に戻った後、教官らにシュテルの事を話して夏休みのゲストとして招待してくれたのだ。
これでシュテルの夏休みの予定はある程度決まった。
交換留学後、シュテル、ユーリ、クリスの三人はある休日、カナデにコンクール優勝の祝の品を買う為にショッピングモールへと来ていた。
とは言え、ドイツから日本へ品物を輸送するのは船を利用しての海路か飛行船による空輸、大陸横断鉄道でロシア、中国を経由して再び日本海を海路か空路を利用して日本へ運ぶルートがある。
その中で飛行船は前世で当たり前に存在している飛行機と異なり、日数がかかる。
しかし、船や鉄道よりは早いが、食べ物はあまり適さないだろう。
「ねぇ、クリス」
「ん?何?ユーリ」
「シュテルン、誰に贈り物を贈るの?まさか、あのシュペーのちびっ子艦長じゃないよね?」
「日本に居る親戚みたい」
「なんでまた、日本の親戚に?」
「その人が、日本で行われたピアノコンクールで優勝したんだって」
「ふぅ~ん‥‥って、その親戚の人って、まさか、男!?」
「シュテルンのリアクションを見る限り、多分‥‥」
「だ、大丈夫かな?シュテルンがソイツに取られないかな?」
「う~ん‥‥シュテルン本人は特に意識していなかったみたいだけど、相手は多分、シュテルンに惚れている可能性が大だね」
「そ、そんなぁ~しゅ、シュテルンがピンチっ!?」
「まぁ、まぁ、落ち着いてユーリ」
「で、でも‥‥」
「シュテルン本人が興味ないみたいだし、それに相手は日本に居るんだから大丈夫だよ」
「そ、そうかな‥‥?」
ユーリはそのシュテルの親戚がシュテルに恋愛感情を持っている事に危惧するが、クリス本人はシュテルン本人がその親戚相手に恋愛感情を持っていない事、そしてその親戚が遠い日本の地に居るので心配ないと言う。
しかし、クリスにはその親戚よりも厄介だと思っているのが、もう一人‥‥。
前世で八幡が友達以上の感情を持っていた女の子の様な男子‥戸塚彩加‥‥。
彼はこの後世にもちゃんと存在している事をクリスは知っている。
戸塚が同じく日本に居るが、シュテルン本人がその戸塚と会いたがっている。
クリスの心配としてはシュテルがその好意を寄せている親戚よりも戸塚に奪われてしまうのではないかと心配している。
前世では同性同士だったので、当然恋愛に発展する事はないが、この後世では八幡は女性となっている。
十分に恋愛に発展する可能性が高い。
シュテルはテアからの誘い‥ヴィルヘルムスハーフェン校への転校は見送ったが、恋は人を盲目にさせる‥‥もし、シュテルが戸塚との仲が恋愛に発展したら、シュテルは日本の学校に転校してしまうかもしれない。
彼女の祖父母は日本に居る訳だし‥‥
せめてシュテルが学生の内は日本に行く機会がない事を祈るしかないクリスだった。
クリスとユーリがそんな事を心配しているとは思ってもみないシュテルはカナデの為に土産品を見ていた。
シュテルはまず、ドイツ、ケルン産のオーデコロンを選んだ。
ケルン産のオーデコロンは、今や世界中の人々に愛されているコスメとして有名なコロンで、爽やかな柑橘系の香りは性別関係なく愛用でき、コンサートなど人前で演奏するのであれば、それぐらいのお洒落には必要なアイテムだと思った。
次に選んだのはカナデも学生と言う事で文房具を選んだ。
ドイツでは有名な文具メーカーであるFABER-CASTELL(ファーバーカステル)の万年筆とボールペンを選んだ。
カナデへのお祝いの品を買って、ショッピングモールにある宅配便サービスにて飛行船での空輸を指定してお祝い品を送ってもらった後、三人はフードコートにて食事をして、休日を過ごした。