やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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34話

ヴィルヘルムスハーフェン校での交換留学を終え、キールへと戻って来たシュテルたち、ヒンデンブルクのクラスメイトは交換留学前の生活へと戻る。

そして夏休み前の期末試験も無事にクリアーしたシュテルはいよいよ、交換留学の際に親善試合を通して知り合った九条カレンの薦めから、イギリスのダートマス校への体験入学へ行く事となった。

シュテルが夏休みにイギリスのダートマス校へ体験入学する話しを聞いて、クリスもユーリも羨ましがった‥‥というよりもシュテルの身を案じている様だった。

イギリスは日本同様、島国なので、向かうには飛行船か船のどちらかである。

他にもフランスのドーバー海峡の海底‥英仏海峡トンネルにはイギリスのフォークストンとフランスのカレーを結ぶ海底鉄道もある。

シュテルはドイツからイギリスへ直接、船や飛行船ではなく、フランスのカレーまで行き、そこから船でイギリスへ行くことにした。

ドイツからフランスのカレーまでケッテンクラートでは時間がかかるので、シュテルは父親のシンジが所有しているサイドカー付きのバイクで向かうことにした。

サイドカーに着替えや勉強道具が入ったトランク、サーベルなどを積み込んでシュテルはフランスのカレーを目指した。

ダートマス校での体験入学日まで間に合うように計算しての行程‥‥途中の街のビジネスホテルに泊まりながら、フランスのカレーを目指すちょっとした小旅行である。

ドイツからフランス領内に入り、とあるレストランで昼食を摂った。

そのレストランで昼食を食べていると、自分と同じく旅行者なのか一人の男の人がやってきた。

その男の人はこのレストランの内装に目が奪われているようで、小型ビデオカメラでお店の内部を撮影していた。

確かにこのレストランは豪華で天井には大きな壁画が描かれており、観光客ならば、目が映りがちになるのも頷ける。

その後、男の人は自撮りをする為、テーブルの上にカメラを固定しようとしたら、上手く固定出来なかったようで、テーブルの上にあったパンをカメラの下に置いて、固定した。

その後、男の人が注文した料理が来たのだが、その男の人が注文したのは、大きなお皿に氷の山があり、その上に生牡蠣と茹でたあと冷水で冷やしたエビが乗っかっている料理だった。

 

(変わった料理を頼んだな、あの人‥‥)

 

シュテルはそう思ったのだが、

男の人はその料理を見て目を見開いて驚いていた。

あの男の人はフランス人ではなかったので、メニューを見ても文字が分からなかったので適当に頼んでしまったのだろう。

エビを手に取り、震えて、皿に戻し、次に生牡蠣を手に取ると、牡蠣をジッと見つめている。

すると、ウェイターがやってきた。

ウェイターは男の人が牡蠣の食べ方が分からないのだろうと思い、食べ方を教えていた。

男の人は牡蠣を口の中に流し込むと、痙攣したように身体を震わせる。

そして、どうにかして生牡蠣を無理矢理、胃の中へと流し込む。

あまりおいしそうにしている様には見えない事から、あの人は牡蠣が嫌いなのか、口に合わなかったのだろう。

胃に流し込んだ後も顔を歪めているし‥‥

すると、先程のウェイターと目が合うと、顔を引き攣らせながらも笑みを浮かべ投げキッスをする。

ウェイターも笑みを浮かべて満足そうな様子。

しかし、男の人の料理はまだ沢山ある。

男の人は生牡蠣を次々と口の中に放り込むが、それはそう見えているだけであり、実際は口の中に流し込む様に見せて、首から下げているナプキンの中に入れていた。

そして、ウェイターが他のウェイターに指示を出しているのを見ると、ナイフを態と落とし、隣の席の女性のバックの中に生牡蠣を放り込んだ。

 

(おいおい‥‥)

 

その様子を見ていたシュテルは男の人の行動に呆れていた。

次にウェイターはエビの食べ方を男の人に教えていた。

男の人はエビを手に持つと‥‥

 

ガリっ‥‥バリバリバリ‥‥

 

エビを殻のまま食べた。

 

(いや、エビの皮ぐらい剥きなさいよ‥‥)

 

見ていて面白かったので、シュテルはその男の人の行動を見ていた。

 

「‥‥」

 

ウェイターも殻ごとエビを食べた男の人の行動に驚いている。

尻尾の部分だけなら兎も角、男の人は頭やハサミの部分‥‥エビの全部を殻ごと食べた。

 

「‥‥」

 

隣の席の女性も驚いている。

すると、女性のバックの中にある携帯が鳴り始める。

バックの中には男の人が捨てた生牡蠣が大量に入っている。

今、バックの中に手を突っ込めば生牡蠣をダイレクトに掴む事になる。

男の人は焦っていたが、女性がバックの中に手を入れる前に携帯は鳴りやむ。

間違い電話だったみたいだ。

男の人はホッと胸をなでおろしていた。

しかし、このままではいつ、バレてもおかしくはない。

男の人は急いで立ち上がると、カメラを持ち、料金をはらって店を出て行った。

男の人が店を出たすぐ後、女性の携帯がふたたび鳴り始める。

女性がバックの中に手を入れると、ヌチャっという手触りを感じ、

 

「きゃぁぁぁぁぁー!!」

 

女性は悲鳴をあげる。

ウェイターが急いで女性の下へと走って行った。

まるで、コントの様な一面を見たシュテルは苦笑していた。

 

 

レストランを出たシュテルはその後もカレーを目指す。

 

「カレーまであと20キロか‥‥」

 

幹線道路よりも田舎道の方が空いていると思い、田舎道をバイクで走っていると、

 

「ん?」

 

前を一台の高級車が走っていた。

 

「こんな田舎道に高級車?」

 

幹線道路なら兎も角、こんな田舎道に高級車だなんてあまりにもミスマッチだった。

ミスマッチながらもシュテルはそのまま走っていると、高級車は徐々にスピードを落とし始めた。

 

「ん?なんだ?」

 

田舎道だから高級車では走りにくかったからスピードを落としたのだろうか?

それにしてはあまりにも遅い。

車間距離の関係で徐々に高級車とシュテルのバイクの距離が近づく。

しかし、高級車はスピードを上げる気配はない。

仕方がないのでシュテルは高級車を追い抜こうと右へと移ると、高級車はまるでシュテルの行き先を妨害するかのように右へと移る。

 

「なっ!?」

 

今度は左へ行くと高級車は左へと車線変更してくる。

 

「コイツ‥‥煽っているのか?」

 

前を行く高級車はシュテルを行かせまいという行動をとる。

その行動を見てシュテルはこの高級車が自分を煽っているのかと思った。

そこでシュテルはフェイントをかけて高級車を追い抜こうとしたが、反対車線から軽トラが来ると、慌てて車線に戻る。

もう一度、フェイントをかけて追い抜こうとたら、野うさぎが飛び出して来た。

あわよく轢きそうになった。

 

「ふぅ~危なかった‥‥」

 

そして三度目でその高級車を追い抜いた。

すれ違い様にどんな人が乗っているのかと思い、チラッと高級車を見ると、後ろの座席には自分と同い年か少し上の女性が乗っていた。

しかし、女性はカーテンを直ぐに閉めてしまった。

高級車はその後、シュテルを追い越す事もなく、シュテルは無事にカレーの港町へと到着した。

 

「サイドカー付のバイクが一台ですね」

 

「はい、お願いします」

 

連絡船の受付でチケットを買い、バイクを運んでもらう手筈を整えて貰っていると、

あの田舎道で煽り運転?をした高級車の姿が見えた。

車からは先程、見た女性の他にもう一人、ひげを生やし、フロックコートを身に纏い、帽子を目深に被った男が降りて来た。

年齢から察するに男の人は恐らく女の人の父親なのだろう。

まぁ、金持ちの男が若い女の人と再婚したとも見えなくもない。

ただ、男の人も女の人も何だか挙動不審で周囲を見渡している。

男女はまるで逃げるかのように連絡船のタラップを上がる。

 

「‥‥」

 

シュテルは訝しむ様に男女の姿を見ていると、

 

「ヘーイ!!シュテルン!!」

 

シュテルは後ろから抱き付かれた。

 

「く、九条さん!?」

 

後ろから抱き付いてきたのはシュテルの目的地であるイギリス、ダートマス海洋高校の生徒であり、先日のヴィルヘルムスハーフェン校での親善試合に参加したフッドの艦長、九条カレンだった。

 

「九条さん、どうしてここに?」

 

ここはイギリスのダートマスではなく、フランスのカレーである。

 

「旅行デース!!」

 

「そうなんだ」

 

カレンは母校で行われる体験入学前の休みにフランスへ旅行に来ていた。

シュテルはカレンと共に連絡船へと乗り込む。

連絡船の甲板には船の出航を待っている人でごった返していた。

その中で、先程の親子?はボーイに荷物を持たせ、船室へと向かおうとしていた。

そんな中、ボーイの少年が転んでしまい、男の人のトランクの中身をぶちまけてします。

男は慌てた様子で荷物の中から小さな黒い宝石箱を拾って懐へとしまう。

 

「シュテルン、どうかしました?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

やがて、出航時間となり、連絡船は出航する。

海上の気象は段々と霧が濃くなってきた。

シュテルは荷物の中から双眼鏡を取り出し、周辺の様子を窺う。

見張りはシュテルの仕事ではないが、どうも海洋学校に通っていると癖になっているようだ。

 

「何か見えますか?」

 

「うーん‥‥凄い霧でなにも見えないなぁ‥‥」

 

霧の為、何も見えないかと思われたその時、

 

「ん?」

 

後ろから一隻の船らしきモノが近づいてくるのが見えた。

 

「どうかしました?」

 

「船が居る‥‥」

 

「船ですか?」

 

「ええ‥‥ただ‥ちょっと物騒な船かも‥‥」

 

そう言ってシュテルはカレンに双眼鏡を手渡す。

カレンは双眼鏡を受け取ると、早速後ろを見て見る。

すると、艦首に竜の紋章を着けた戦艦が近づいてきた。

 

「戦艦デス!!」

 

「ええ‥‥アメリカのワイオミング級の戦艦みたいに見えますが‥‥あの型の戦艦はアメリカ海軍でもブルーマーメイドも海洋学校でも使用していない型の艦‥‥それに艦首の趣味の悪いあの紋章‥‥どうやらあの艦はまともな艦じゃなさそうだ」

 

「もしかして海賊ですか!?」

 

「恐らく‥‥歴史の授業で習った‥‥あの紋章はベンガルの海賊だ」

 

「や、やっぱり海賊ですか‥‥」

 

「でも、妙だと思わない?」

 

「妙‥ですか?」

 

「ええ‥‥ここはインド洋から4000マイルも離れたドーバー海峡‥こんな所までベンガルの海賊が一体何をしに来たと思う?態々、獲物を求めて遠征をして北上してきたとは思えない‥‥何か明確な目的があって来たと思う」

 

「目的?」

 

「ええ‥‥その目的に心当たりがあるので、ちょっと確かめに行ってみようか」

 

シュテルは甲板から船室へと向かう。

カレンもシュテルの後ろからついて来た。

 

二人が向かっている船室では、一人の男がベッドの中で震えていた。

海賊船が連絡船に迫っているのは周囲の乗客らが騒いでいたのを聞いてこの男の耳にも届いていた。

 

「奴等だ‥‥奴等が来たんだ‥‥殺される‥‥わしは‥‥わしは殺される‥‥」

 

頭を抱え、ベッドのシーツの中でガタガタと震えている男を心配そうに見る女性。

すると、船室をノックする音が聞えた。

 

「「っ!?」」

 

ノックの音を聞いてビクッと震える二人。

 

「すみません。怪しい者ではありません。海洋学校の者です‥‥事情を聴きたいので開けてもらえますか?」

 

「‥‥」

 

シュテルの声に海洋学校の者と聞いて女性は恐る恐る船室の扉をあける。

すると、そこには二人の女学生が居た。

海洋学校の者というのは嘘ではない様だ。

 

「すみません。キール海洋学校の者です」

 

「私はダートマス校の生徒ネ!!」

 

シュテルとカレンは互いの学校の生徒手帳を見せて身分を証明する。

 

「それで、海洋学校の生徒さんが何の用でしょう?」

 

「今、こちらに近づいている海賊船の事は知っていますよね?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「その海賊はベンガルの‥‥インド洋を縄張りにしている海賊‥‥その海賊がドーバー海峡に現れるなんてあまりにも不自然です‥‥それにいくら海賊が襲って来たと言っても貴方の怯え方が尋常じゃない。それに船に乗る前から貴方は挙動不審で何かに怯えている様子でした」

 

「よく知っていますね、シュテルン」

 

「これでも人間観察は得意な方だからね」

 

「‥‥」

 

「それで、ベンガルの海賊が態々ドーバー海峡まで来た目的‥‥それは先程、貴方が懐にしまい込んだ小箱の中身か貴方の命か‥‥それとも両方か‥‥」

 

「うぅ~‥‥」

 

「実は半年前、父宛にこの様な手紙が届いたんです」

 

シュテルの指摘を受けて女性‥この男の娘はハンドバッグの中から一通の手紙を差し出す。

 

「父はその手紙を受け取ってから何かに怯えた様子で突然、イギリスに帰ろうと言い出したんです」

 

「‥‥」

 

シュテルが封筒の中から手紙を取り出すと、手紙の他に封筒の中には何か石の様な物も一緒に入っていた。

シュテルはまず手紙に目を通すと、下の方には署名なのか四人の人物の名前が書かれていた。

 

「‥‥この四人の人物の名前に何か心当たりはありませんか?」

 

「‥‥一つだけ‥‥一つだけ、若い頃、父が使っていた偽名があります‥‥父は昔、ベンガルの海賊の会計士を務めていたんです」

 

「なるほど、では残りの名前の人物は海賊の幹部の名前と言う事ですね?そして追ってきているのはその連中‥‥」

 

「は、はい」

 

次にシュテルは封筒に入っていた石の様な物を調べる。

 

「何デスカ?それは石デスカ?」

 

「うーん‥‥これは鮫の歯だね」

 

「鮫の歯?」

 

「うん‥‥ベンガルの海賊は裏切り者を殺す時、事前にその相手に鮫の歯を送りつけて死を宣告するという風習があると歴史の先生が教えてくれた」

 

「じゃあ、やっぱり海賊はこの人を殺すつもりデスカ?」

 

「恐らくは‥‥」

 

シュテルたちが事情を聴いている間にも海賊船は連絡船へと迫り、警告なのか砲撃してきた。

その砲撃は救助を呼べないように通信マストを狙った。

 

「船長、通信マストがやられました!!」

 

「なに!?」

 

「くっ、全速前進!!機関室速力を上げろ!!」

 

船長は通信マストがやられ、救助を呼べることができなくなったので、機関室へ速度を上げるように指示する。

しかし、機関士たちは速力を上げる事無く、逆に船の機関を壊して機関室から出て行った。

 

「奴等の恐ろしさは十分知っている‥‥奴等は手加減と言うモノを知らない‥‥」

 

「この船には沢山の乗客が乗っています。貴方がたの為に巻きぞいにする訳にはいきません。だからと言って貴方がたを見殺しにも出来ません。だから、懐の小箱の秘密を教えて下さい。一体その中には何が入っているんです?」

 

「わ、わかった‥‥」

 

男は懐から小箱を取り出して箱を開けた。

 

「わしは連中を裏切り、逃げる時、この箱を持ち去ったのだ‥‥」

 

(こんな時、葉山だったら、確実にこの親子を海賊に差し出していたな‥‥アイツは『みんな』とか言いながらも小を切捨てる男だったからな‥‥)

 

その間も海賊は警告射撃を続ける。

砲弾が連絡船の近くに着弾して船が揺れる。

 

男が持っていた小箱には宝石がぎっしりと詰められていた。

 

「退職金代わりに連中の宝を持って逃げた訳ですね」

 

「あ、ああ‥‥」

 

(やれやれ、めんどうなことに巻き込まれたな‥‥)

 

体験入学するために向かっていたのにいきなり海賊の襲撃と言う波乱な展開にシュテルは心の中で溜息をついた。

 

その頃ブリッジでは船長や航海士が海賊から逃げようと必死だった。

 

「全速だ!!この船の速力には奴等は追いつけん!!」

 

非武装の連絡船とは言え、速力は海賊船よりは上で、しかも辺りはこの霧‥‥

通信機が使用不能となっても距離を稼げば逃げることが十分に可能だった。

だが、船は突如、停船した。

 

「ん?船が止まった‥‥」

 

「機関室どうした!?」

 

船長が機関室に連絡をいれるが、機関室からはうんともすんとも応答がない。

 

「おい機関室!!どうした!?返事をしろ!!機関室!!」

 

不審を抱いた船長と航海士が機関室へ行ってみると、機関室は滅茶苦茶に破壊されていた。

 

「こ、これは!?」

 

「海賊の仕業か!?」

 

船長と航海士が破壊された機関室を唖然として見ている中、機関室を滅茶苦茶にした二人の機関士は救命ボートで連絡船から脱出していった。

船室の窓からは逃げていく機関士たちの姿が見えた。

 

「おそらくあの機関士たちが船のエンジンを壊したのでしょう」

 

「じゃあ、あの二人も海賊デスカ?」

 

「多分」

 

船は止まり、海賊船はどんどん近づいてくる。

 

「シュテルン、どうするデス?」

 

「まぁ、なんとかしてみるさ‥‥」

 

そう言ってシュテルは中の宝石を取り出し、

 

「これはお返しします。ただこの箱だけはお借りしますね」

 

「は、はい」

 

宝石を娘に返して空の箱を借りた。

 

「さてと、カレン手伝って」

 

「何をするデスカ?」

 

「小さくて光るモノを集めて‥例えばビー玉やガラス片なんかを沢山」

 

「ワカリマシタ!!」

 

シュテルとカレンは二手に分かれて、連絡船の中からガラス片などの小さく光るモノを集めソレを小箱に詰めた。

そして、機関室へと行き、

 

「修理には時間がかかりますか?」

 

「あ、ああ‥‥奴等、機関室を滅茶苦茶に壊していきおった」

 

「多少の時間を稼ぎます。なるべく急いでください」

 

「あ、ああ」

 

シュテルは小箱と拡声器を持って船尾へと行き、

 

「それ以上近づくのであれば、宝石は海へ捨てる」

 

海賊船に警告する。

しかし、海賊船はハッタリだと思いなおも近づいてくる。

 

「嘘じゃないぞ!!」

 

そう言ってシュテルは小箱からガラス片を一つまみ手に持つとそれを海へとばら撒いた。

 

「もっと捨てても良いんだぞ!!」

 

そう言ってもう一つまみ手に取ると、海へと投げ捨てる。

 

海賊側もシュテルの行動を見て、慌てて船を止めた。

 

「わ、分かった!!お宝とアーチボルト卿を渡せば他のモンには手を出さねぇ!!約束する!!」

 

海賊船から拡声器で海賊が要求と約束をしてくる。

しかし、海賊が言っている事がどこまで信用できるかわからない。

 

(まだか‥‥まだ、エンジンは直らないのか‥‥)

 

シュテルの顔色の焦りは出てくる。

 

「どうした?渡すのか!?渡さないのか!?」

 

「わ、分かった。今渡す!!」

 

(まだか‥‥)

 

海賊船の主砲がゆっくりと旋回し、この船に狙いを定めようとしている。

しかし、間一髪のところでエンジンの修理が終わり、船は再び走り出す。

放たれた砲弾はついさっきまで連絡船が止まっていた海域へ着弾する。

 

「危なかったデス!!まさに危機一髪でしたネ!!」

 

「いや、まだ安心するのは早い‥‥次の手を打とう」

 

「次の手‥‥デスカ?」

 

「ああ‥ちょっと危険だけど‥‥どうする?手伝ってくれる?」

 

「勿論デス!!」

 

海賊は砲撃をしながら近づいてくる。

シュテルはもう一度、海賊の元会計士‥‥アーチボルト卿の船室へと向かうと、彼の帽子とフロックコートを借りた。

それと船に乗り合わせていた旅芸人からカツラと付け髭を借りた。

それらを身に纏ったシュテルはカレンが運転する救命艇に乗り、海賊船へと向かう。

二人が時間を稼いでいる間に連絡船を逃がすつもりだった。

海賊の目的が宝石とアーチボルト卿の命であるのなら、その目当て物が来れば連絡船にはもう攻撃しない筈だ。

 

「アーチボルトを連れて来たネ!!」

 

「お宝を見せろ!!」

 

「ちゃんと持って来たネ!!コレデス!!」

 

カレンが小箱を開けて海賊に見せる。

 

「いいだろう。次はアーチボルト卿だ」

 

シュテルとアーチボルトでは身長差があったので、靴を厚底にしてそれを補った。

シュテルはゆっくりと時間をかけるように歩く。

厚底の靴なので歩き慣れていないし、帽子とカツラ、付け髭で顔はよく分からないが、身に纏っていた帽子とフロックコートから海賊はシュテルの変装とは思わず、アーチボルト卿だと思っていた。

 

「久しぶりだな、アーチボルト。テメェには忘れた海賊のしきたりをたっぷりとその身で思い出させてやるぜ!!」

 

海賊たちは薄ら笑いを浮かべながら縄梯子を下ろす。

しかし、シュテルは当然その縄梯子を上がる訳もなく、

 

「シュテルン、船はだいぶ遠ざかりましたヨ」

 

「よし、出して!!」

 

「了解!!」

 

カレンは救命艇のエンジンを始動させてこの場から逃げる。

 

「あっ、待ちやがれ!!」

 

海賊船も機関を始動させて慌てて救命艇を追いかける。

 

「カレン、海賊は食いついたぞ!!このままもっと連絡船から突き放すんだ!!」

 

「了解デス!!」

 

速力を上げながら海賊船を引きつける。

 

「確かこの先に‥‥」

 

イギリス近海を何度も航海したカレンは障害物のある海域へと海賊を誘い込む。

しかし、海賊は障害物をものともせず、砲撃しながら突き進んで来る。

 

「ちょっとヤバいかもしれないネ‥‥」

 

砲撃と障害物で思うように進めない。

速力、旋回性は海賊船よりも勝っているが、それでも非武装艇と戦艦とではあまりにも戦力が有り過ぎる。

しかも海賊船は救助艇の進行方向の障害物へ砲撃を行い、その瓦礫を救命艇に降らせて針路を妨害して来る。

シュテルも冷や汗をかいている。

徐々に砲撃の幅も狭まっている。

このままではいつ、海賊船の砲弾を浴びるかは時間の問題である。

救命艇など、戦艦の主砲の前ではあまりにも無力で一撃で粉砕されてしまう。

その時、前方から砲撃音が聞こえると、海賊船に着弾する。

 

「あれはっ!?」

 

救命艇の前方にはブルーマーメイド、イギリス艦隊の総旗艦、キング・ジョージ・五世以下、現在のイギリス海軍が使用している45型駆逐艦、23型フリゲート艦、ブルーマーメイドのインディペンデンス級戦闘艦の姿があった。

 

「ブルーマーメイドにロイヤル・ネイビー(イギリス海軍)!!」

 

「助かった‥‥みたいだな‥‥」

 

キング・ジョージ・五世を先頭にブルーマーメイドとイギリス海軍は海賊船に砲撃を加え、同船を無力化させた。

危機一髪のところでシュテルとカレンはイギリスのブルーマーメイとイギリス海軍の手によって助け出された。

 

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