やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
夏休みにイギリスのダートマス校の体験入学に参加したシュテルであるが、その道中、ドーバー海峡では海賊が来るわ、ダートマスの街では切り裂きジャックと類似した連続殺人事件が起きているわで、波乱な夏休みとなった。
当初は、例え連続殺人事件が起きていても自分には関係ないし、巻き込まれることもないだろうと思っていた。
しかし、地元警察の懸命な捜査にもかかわらず、事件の被害者は増加する一方で、とうとうダートマス校の生徒が被害者となってしまった。
被害にあった生徒はダートマス校所属の一年生で巡洋戦艦レパルスの生徒だった。
レパルス艦長のグレニアは殺された同級生の仇だと言わんばかりに件の連続殺人犯を見つけて、警察に捕まる前にボコボコにしてやると息巻いていた。
そんなグレニアの態度に危機感を覚えたシュテルは、関わりたくない連続殺人事件に自ら首を突っ込むこととなった。
別に放っておいてもいいのだが、グレニアは退学覚悟で犯人を捕まえるつもりだった。
このまま学校を退学させられてもグレニアは犯人を捜し、そのまま犯人に返り討ちにされてしまうのは目に見えている。
そこで、シュテルはグレニアに協力することにしたのだ。
そして、殺人鬼が殺人を起こしているとされる夜、シュテルはグレニアとダートマスの街へと出て殺人鬼を探したが、見つからなかった。
ダートマスの校の生徒が事件の被害にあったと言うことで、体験入学は一時停止となり、生徒たちの外出は制限された。
深夜、連続殺人犯を求めて、夜のダートマスの街を歩き回り、寝不足となったシュテルはせっかくなので、朝食を食べたら眠ろうとしていたら、グレニアは殺人鬼に関する情報を集めると言って、シュテルを強引に連れ出す。
眠たいのを我慢して、図書館のパソコンを駆使して、これまでの事件の情報をあつめるが、マスコミや素人のネット住民からの情報では殺人鬼を知る情報なんて載っている筈もなかった。
パソコンに犯人の情報が載っていたら、警察がとっくに犯人を捕まえている筈だ。
シュテルはダートマス校のフッド副長、セラス・ヴィクトリアの父親が警察官で、この事件の捜査をしている事をグレニアについ、こぼしてしまうと、彼女はセラスから父親に警察しか知らない情報を聞き出そうとして、セラスの下へと向かった。
(いくら、なんでもそう簡単には教えてくれないだろう‥‥)
シュテルはいくら娘の通う学校で事件が起きたからといって、警察官が第三者にそう簡単に捜査情報を教える筈はないと思った。
案の定‥‥
「えぇぇーっ!!そんなの無理、無理、無理だよぉ~!!」
セラスはグレニアの頼みに関して、無理だと言う。
「ホルスタイン、お前は同期が殺されたのに悔しくねぇのかよ!?」
グレニアはセラスに詰め寄る。
「わ、私だって悲しいし、悔しいよ‥‥でも、私たちは警察じゃなくて、ただの学生なんだよ。凶悪な殺人鬼相手に敵う訳ないじゃん。碇さんだって、殺されそうになったんだし‥‥」
「くっ‥‥それでもあたしは、諦めねぇからな」
「まさか、自分であの殺人鬼を捕まえるつもりなの!?」
「あん?ただ捕まえるんじゃねぇ、ボコボコにして男の大事な玉を踏み砕いてやる!!それぐらいじゃなきゃ、あたしのこの怒りは収まらねぇ!!」
(大事な玉って‥‥)
(想像するだけで痛いどころの痛さじゃねぇぞ‥‥)
セラスは一応、女子なのだから、その女の子が『男の大事な玉』とか言うのはいかがなものか‥‥とちょっと引いている。
一方、前世では男だったシュテルにしてみれば、睾丸を潰される痛みを想像しただけで悶絶しそうだ。
「協力しねぇならそれでいい‥‥だがな、ホルスタイン!!もし、このことを教官や警官のお前の親父にチクってみろ!!その時には、お前のその無駄にでかいその脂肪の塊をむしり取るからな!!」
グレニアはビシッとセラスに人差し指を指して宣言してその場から去っていく。
「‥‥どうしよう‥‥碇さんからも何とか言ってリオンさんを止められないかな?」
セラスはシュテルにグレニアを止めてくれというが、
「うーん‥‥あそこまで暴走機関車状態になった彼女を止めるのはほぼ不可能なんじゃないかな?あの人、退学覚悟で犯人を捕まえるつもりだし‥‥なるべく、暴走しないようにお目つき役として頑張るよ‥‥できれば早めに警察があの殺人鬼を捕まえてくれるようになってくれればいいんだけどね‥‥だから、このことは教官たちには内緒にしてくれないかな?」
「う、うん‥‥でも、気を付けてね」
「まぁ、一応、銃は渡してあるから何とかなると思うんだけど‥‥」
(一途なひたむきな姿勢はいいんだけど、それをもっと別のところに向けて欲しかったな‥‥)
そう言い残し、シュテルはグレニアを追いかけた。
そのグレニアは、不機嫌な様子で廊下を歩いており、周りの生徒たちは彼女の不機嫌な顔を見てドン引きしている。
「それで、これからどうするの?」
周りの生徒たちはドン引きしているが、シュテルは平然とした様子でグレニアに駆け寄り、声をかける。
「あん?何かだ?」
「警察からの協力はこれで事実上不可能‥‥まっ、最初からあまり期待はしていなかったけどね‥‥それで、次の手はどうする?」
「次の手ねぇ‥‥次の手‥‥うーん‥‥あんた、何か思い当たらないか?」
「えっ!?私っ!?」
「あんたはあのサイコ野郎と斬り合ったんだろう?それに、キール校の首席なんだし、何か次の手ぐらいは考えてあるだろう?」
「首席は関係ないよ‥‥うーん‥‥そうだな‥‥とりあえず、犯人の特徴を洗い出してみよう。もしかしたら、そこから犯人像が分かるかもしれない」
シュテルとグレニアはもう一度図書室へと戻ると、シュテルは心理学の本やホームページを開く。
「心理学の本なんてどうするんだ?」
「これを使って、犯人像を描いてみるんだよ。まぁ、警察も当然やっているだろうけど‥‥情報を提供してもらえないのであれば、自分たちでやるしかないでしょう」
シュテルは心理学の本、ホームページを見ながら、これまでの殺人鬼の被害者の情報などを集めた。
そして、あらかた情報を集めた後、シュテルは今回の事件の犯人をプロファイリングする。
「まず、犯人が男であるのは間違いない‥‥あの時の犯人が、これまでの事件の模倣犯でなければね‥‥それにあの体つきと力からして、年齢は30代後半から40代前半‥‥あの腕力から仕事は力や体を使う仕事‥‥そう、建築現場の作業員とか‥‥次に、犯人の動機だけど‥‥」
「動機?」
シュテルはこれまでの事件の被害者の名前と年齢が書かれた紙を並べる。
「犯人がもし、私の予想年齢だとしたら、動機は多分、犯人は学生時代に女性に対してトラウマかコンプレックスを抱くようなことがあったんじゃないかな?」
「ん?どういうことだ?」
「これまでの事件の被害者の性別はみんな女性に限定されているけど、年齢はバラバラの様に見えて、みんな、10代後半~20代前半なんだよ‥‥」
「た、確かに‥‥」
「10代後半~20代前半っていうと高校生~大学生の年頃でしょう?」
「ん?ああ、そうだな」
「犯人の予想年齢からみんな年下の女性ばかりを狙っている‥‥そのことから、この犯人は学生時代に異性から何かひどい目にあったんじゃないかな?」
(前世の俺なんて罵倒や暴力なんて日常茶飯事だったからな‥‥)
「その恨みをずっと抱いたまま成長し、大人になって力をつけた時、当時自分の事をひどく扱っていた女性に対して憎しみと殺意を抱くようになって、何かのきっかけで今回の事件を起こした‥‥」
「じゃあ、あいつや殺された女たちには恨みはなく、ただ昔、女からひどいめにあったからって‥それだけのくだらない理由でこんな事件を起こしたって言うのかよ!?」
「落ち着いて、これはあくまでも私の推測だから‥‥本当の理由は犯人だけしかしらないから、その辺は捕まった後でヴィクトリアさんにでも改めて聞こう‥‥」
「あ、ああ‥‥それじゃあ、この事件のサイコ野郎は、女にはモテない様なブ男ってことだな?」
「ブ男かどうかは分からないよ。でも、少なくともこの事件の犯人は、昼間の間は普通の人の中に混じって周りの人と同じ様に仕事をしていると思う‥‥それと‥‥」
「それと‥‥?」
「被害者の中で、死後、時間が経っている被害者も居た‥‥死体は派手に引き裂かれていて、これはどうみても短時間の犯行じゃない‥‥」
「どこか別の場所で殺して死体を捨てたってことか?」
「だろうね‥‥でも、そう言うケースがあると警察は車とかも調べる筈なんだけど、犯人は未だに捕まらず、犯行は行われている‥‥でも、犯人も警察が車も調べ始めていることは知っているだろうから、ここ最近の事件では、ナイフで一突き‥‥って言う短時間の殺人になっている‥‥ただ、単に快楽殺人をしているわけではなさそうだ」
「どっちにしろ、サイコなのは変わりねぇだろう?」
「サイコはサイコでも、十分に知能を持ったサイコだからこそ、この犯人が恐ろしいんだよ。それで、今日の夜も行くの?」
「あたりめぇだろう」
グレニアは今日の夜も犯人を捜しに行くと言う。
「それなら、夜に備えて寝た方がいいよ‥‥さすがに私も眠い‥‥」
シュテルは本を閉じ、犯人像を描いたプロファイリングの紙をシュレッダーにかける。
本を棚に戻し、パソコンの電源をきり、部屋に戻って寝ようとする。
しかし、結構限界がきていたのか、廊下を歩くシュテルの足取りはフラフラ。
同じ時間帯を起きていたグレニアがこうも平然としているのが不思議なシュテルだった。
「おっ、おいおい大丈夫か?‥‥危なっかしいな‥‥」
フラフラと歩くシュテルをグレニアが支えるが、それがきっかけとなり、シュテルはそのまま寝てしまう。
「スー‥‥スー‥‥」
「お、おい‥ここで寝るなよ‥‥しかも立ったままで‥‥」
「スー‥‥スー‥‥」
グレニアはシュテルに声をかけるが、彼女は起きる気配がない。
「‥‥あぁ~もう、しゃーねぇなぁ~‥‥」
グレニアはやれやれと溜息をはいた後、自らの肩を貸してシュテルを自分の部屋に連れて行った。
シュテルの部屋よりもここからなら自分の部屋の方が近かったからだ。
「スー‥‥スー‥‥ん?‥‥んぅ?‥‥」
シュテルが目を開けると、そこはダートマス校で用意された寮の部屋とちょっと違う印象を受けた。
「あ、あれ‥‥?」
そもそも自分が部屋に戻り、ベッドに横になった記憶がない。
しかも自分の今の格好は上着とズボンを身に着けておらず、Yシャツもネクタイが外され、袖のボタンは外されており、ボタンも第三ボタンまで外されていた。
「ん?‥‥っ!?」
シュテルがふと、横を見ると、そこには今の自分と似たような姿のグレニアが眠っていた。
「な、なんで‥‥?」
シュテルが混乱していると、
「スー‥‥スー‥‥ん?‥‥ん?‥‥あっ、あんたも起きたのか‥‥」
グレニアも瞼をあけ、目をこすりながら上半身を起こす。
「な、なんで‥‥えっ?ここは、もしかして‥‥」
「ん?覚えていないのか?あんた、廊下で寝ちまったから、あたしが肩を貸して部屋に運んだんだ‥‥まぁ、あたしの部屋だけどな」
「それがなんでYシャツ一枚なの?」
「そのままだと制服がシワだらけになるだろう‥‥あんたの制服はちゃんとハンガーにかかっているから、シワはついてないぜ。Yシャツなら替えがあるから平気だろう?」
グレニアが言っていることは最もなのだが‥‥
「‥‥私が寝ていることをいいことに何か変なことをしてないよね?」
「ん?何言ってんだ?」
グレニアは首を傾げる。
彼女はどうもそう言ったことの知識は疎いようだ。
「いや、なんでもない‥‥お世話になったね‥‥じゃあ、また夜に‥‥」
「ああ」
シュテルは制服を着て、グレニアの部屋を後にした。
それから、深夜再びシュテルはグレニアと合流し、夜のダートマスの街へと出て、犯人を捜した。
「やれやれ、街中ポリスだらけにしちゃって‥‥」
ダートマスの街に出てからこれで何人の警官やパトカーとすれ違ったのか分からない。
「結構マスコミにも叩かれているからな、この街の警察署は‥‥まぁ、これだけの被害をだしてもなお、犯人を捕まえることが出来ていねぇんだ‥‥無能扱いされても文句はいえねぇだろう」
街中を巡回する警官やパトカーを見て、警察がこの事件にかなりの気合を入れていることが窺えたが、気合だけで犯人が捕まればこの事件の犯人はとっくに捕まっている。
しかし、警察同様、シュテルとグレニアも犯人を見つけることが出来ず、この日も空振りに終わった。
だが、二人が犯人を捜している地区とは異なる地区にて‥‥
「おい、今は厳戒警戒中だ。すぐに家に帰れ!!」
巡回中の警官が酒に酔っている若いOLに注意喚起を促す。
「うるさいわねぇ~どうせなにも起きやしないわよ~」
このOL、酒に酔っているせいか、態度がでかい。
もし、素面なら、警官の言う通り、急いで家に帰っていただろう。
「ったく、殺されてもしらんぞ」
警官はOLの態度にあきれながら、巡回コースへと戻り、OLも千鳥足で自宅へと向かう。
しかし‥‥
「むぐっ‥‥」
路地裏から出てきた手がOLの口を塞ぎ、彼女をそのまま裏路地の暗闇へと引きずり込んだ‥‥
翌日のニュースにて犠牲者がまた一人増えたと言う報道が流された。
ニュースを見て、グレニアは昨夜、自分たちがあの地区へと向かっていれば犯人を見つけることが出来たのにと、悔しがり、
反対にシュテルは、もし、自分たちがあの地区を探していたら、殺されていたのは自分たちの方だったのではないかと冷や汗を流しつつも、グレニア同様、あの地区を探していれば、今回の犠牲者はもしかしたら、救えたのかもしれないと言う思いもあった。
朝食の後、シュテルとグレニアの姿は昨日と同じく図書室にあった。
「昨夜の事件の被害者は、殺されてから遺棄されるまで、結構時間があったみたい‥‥」
「となると、奴は街中で女を攫ってどこか別の場所で、バラした後、死体をまた街中に捨てたってことか?」
「おそらくね」
「ってことは、奴は車を使用したってことだよな?」
「だろうね‥‥でも、警察は車だって調べている‥‥何か盲点があるはずだ‥‥死体を隠せる車とか‥‥」
「盲点ねぇ‥‥」
犯人がどんなトリックを使ったのか、二人が頭を捻っていると、
「あっ、見つけた!!碇さん、キール校の学長から電話が入っています」
「あっ、はい」
シュテルは事務員の人からアンネローゼから電話が来たと言われ、事務室へと向かった。
その頃、食堂ではダートマス校に出入りしている精肉業者が肉を卸しにやってきた。
「どうも‥‥」
「あっ、いつもごくろうさん」
精肉業者の女性は食堂の職員に声をかけ、肉の入った箱を食堂へと運び込む。
「そういえば、気をつけなよ。例の殺人鬼‥美人の女ばかり切り裂かれているっていうからよ」
「あら?私の事を心配してくれているの?」
「ああ、もちろんさ」
食堂の職員は頬を赤らめている。
この職員、この肉業者の女性に気があるみたいだ。
「早く捕まるといいのにね、その犯人」
「そうだな、昨日の夜も一人、殺られたみたいだからな‥‥」
物騒な世間話をしながらも肉業者の女性は仕事をこなしていった。
シュテルがアンネローゼからの電話の対応に出るため、事務室へと向かった後、グレニアは図書室を後にして、寮の敷地内を散歩しながら、犯人について考えていた。
すると、寮の裏手にある出入りの肉業者のトラックを見つける。
「トラック‥‥」
何気なく、グレニアはそのトラックに近づく。
(昼間の間は普通の人の中に混じって仕事をしている)
(警察は車だって調べている)
(何か盲点があるはずだ)
(車だって‥‥)
(車だって‥‥)
グレニアの脳裏にシュテルの言葉が何度もリピートする。
「車‥‥トラック‥‥冷蔵‥‥仕事‥‥っ!?ま、まさかっ!?」
グレニアが何かに気づいた時、
「むぐっ‥‥」
グレニアの口にハンカチのような布が押し当てられた。
とっさにグレニアはシュテルから借りた銃を抜こうとするが、その布には薬が染み込まされていたのか、その薬のにおいを嗅いでいると意識が遠のく感覚がして、グレニアの意識は暗転した。
しかし、グレニアはなんとか手掛かりを残そうとして銃のマガジンを落とした。
落ちた衝撃でマガジンに装填されていた弾が辺りに散らばった。
事務室でアンネローゼとの電話を終えたシュテルが図書室に戻ると、そこにはグレニアの姿はなかった。
「あれ?どこに行ったんだろう?」
シュテルはグレニアを探し、寮や校内を歩きまわる。
「リオンさん?そういえば、さっき寮の裏手に行くのを見たよ」
そこでようやく、グレニアの姿を見たと言う生徒からの証言を聞いて、寮の裏手に行く。
しかし、そこにグレニアの姿はなかった。
(時間も経っているし、当然だよな‥‥ん?)
そう思っていると、地面に何かが落ちていた。
シュテルがそれを拾うとそれは‥‥
「特殊弾の弾丸‥‥なんでこんなところに‥‥っ!?」
それは、自分が普段から使っていたルガーP08の特殊弾だった。
しかし、今はグレニアに貸している。
その弾がなぜか一発だけ、ここに落ちていた。
ここは射撃場ではなく、寮の裏手。
「ま、まさか、彼女の身に何かあったんじゃあ‥‥」
シュテルの脳裏に最悪の事態が過ぎる。
(何か‥‥他に何か手掛かりは‥‥?)
辺りを見回し何か弾の他にも手掛かりがないかを探すと、地面に真新しいタイヤ痕が残っていた。
「タイヤの痕‥‥ここに何か車が留まっていたのか‥‥」
ここに車が留まっていたのは間違いない。
しかし、タイヤ痕だけでは何の車が留まっていたのか分からない。
だが、悠長に考えている暇はない。
こうしている間にもグレニアの身に危機が迫っているかもしれない。
そこへ、
「よいしょっ‥と‥‥」
食堂の職員がゴミ出しに出てきた。
「すみません!!」
「ん?なんだい?」
「ここに車が留まっていたと思うんですけど、何か知っていますか?」
「そこかい?確かウチに出入りしている肉屋の冷蔵トラックがついさっきまで留まっていたよ」
「肉屋のトラック?」
「ああ、そこの肉屋の女将がこれまたべっぴんな人でねぇ~」
食堂の職員は聞いても居ない情報をベラベラと喋っている。
(肉屋のトラック‥‥冷蔵‥‥っ!?)
シュテルはグレニア同様、あることに気づいた。
「その業者の名前と場所は分かりますか!?」
「ん?あ、ああ‥‥知っているけど‥‥」
「教えてください!!」
「うん?まぁ、別にいいけど‥‥」
「それと‥‥」
シュテルは手帳を出し、そこに詳細を書いたのち、そのページを破り、
「これをセラス・ヴィクトリアという生徒に渡してください!!」
メモを職員に渡した後、タクシーに乗り、出入り業者の会社へと向かった。
裏口の扉を開けると、カギはかかっておらず、シュテルはサーベルの柄を握り、周囲を警戒しながら、奥へと進む。
そこは肉の保存と解体現場なので、外よりもひんやりと冷気が満ちた空間なのだが、従業員はいない様子でシーンと静まりかえり、冷気と相まって不気味な空間だった。
そんな中、シュテルは物陰で一人の女性が蹲り震えているのを見つけた。
「大丈夫ですか!?」
女性に駆け寄り声をかけるシュテル。
「貴女も攫われて来たの?」
そう訊ねると女性は小さく頷き、震える指で奥を指さす。
「も、もう一人‥‥奥に‥‥」
女性の言うもう一人がおそらくグレニアだろう。
「じゃあ、急いでその人を助けて、早くここを逃げ‥‥」
シュテルが逃げようと言う前に、彼女の頭に強い衝撃が走り、シュテルはその場に倒れる。
シュテルの背後にいる女性の手にはこん棒が握られていた。
女性は倒れているシュテルを不気味な笑みを浮かべて見下ろしていた。