やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
シュテルがイギリス、ダートマスの街で、ダートマス校の生徒、グレニア・リオンと共に連続殺人鬼を捜し、捕まえた頃、極東の地、日本では、この世界における雪ノ下の親戚である西住家が主催するパーティーが行われていた。
そのパーティーの余興で西住家のご令嬢、西住みほと雪ノ下がシミュレーションにて、対戦することになった。
しかし、結果は雪ノ下の惨敗となった。
プライドだけは人一倍高い、雪ノ下はみほに負けたことがどうしても許せなかった。
それから数回、雪ノ下はみほに戦いを挑むも黒星を増やす結果となった。
雪ノ下の両親も口では、「西住さんのお嬢さんに花を持たせた」と言っているが、内心ではとても悔しい思いをしたに違いない。
しかし、雪ノ下家よりも権力が上である西住家を敵に回すことはできない。
雪ノ下の両親は大人な対応をとったが、雪ノ下は怒りを抑えることが出来ず、一人、会場を後にして、トイレに入ると‥‥
ガンっ!!
思いっきり、トイレの壁を叩く。
「この私に恥をかかせるなんて、許さない‥‥絶対に許されない!!‥‥西住みほ‥‥いつの日か必ず、叩きのめしてやる‥‥!!」
今は流石に両親や周囲の目があるので、みほを叩きのめすことはできない。
しかし今後、学年を重ねていくごとに実習の機会も増え、他校との演習もある。
その時、今日受けた屈辱を何倍にして返してやると意気込む雪ノ下だった。
トイレの壁をさんざん叩いてむしゃくしゃした気持ちをなんとか抑えた雪ノ下がトイレから出ると、
「大丈夫かい?雪乃ちゃん」
葉山が声をかけてきた。
「ええ‥‥もう大丈夫よ‥‥」
「それならいいけど‥‥」
一物の不安を抱えつつ、雪ノ下と葉山は会場へと戻る。
会場では既に先程の雪ノ下とみほのシミュレーションの対戦の話など既に過去のものとなり、互いに腹の内を探る社交辞令の言葉が飛び交っていた。
そんな中、
「おお‥雪乃、隼人君。きたまえ」
雪ノ下の父親が、雪ノ下と葉山を呼び寄せる。
「なんでしょう?」
「‥‥」
葉山は社交辞令という笑みを浮かべ、近づき、雪ノ下は不機嫌オーラを纏いながら親の元に戻る。
「紹介しよう、こちら、横須賀女子海洋学校の校長の‥‥」
「宗谷真雪です。そして、私の娘の‥‥」
「宗谷真霜です。よろしく」
「「っ!?」」
日本におけるブルーマーメイド育成学校の中で、呉女子海洋学校、舞鶴女子海洋学校、佐世保女子海洋学校を抜いてトップレベルである横須賀女子海洋学校の校長である宗谷真雪と名乗る女性と彼女の娘である宗谷真霜が雪ノ下と葉山に自己紹介をする。
この時、雪ノ下と葉山は真霜の声を聞いて、心臓を鷲掴みされたような感覚に陥る。
(ね、姉さんっ!?‥‥い、いいえ‥‥そんな筈ないわ!!雪ノ下陽乃はこの世界には存在しないはずだもの‥‥!!)
(は、陽乃さんっ!?で、でも、陽乃さんは確か、雪乃ちゃんがこの世界に転生する際、ヒキタニ同様、居ないことになっている筈じゃあ‥‥)
真霜の声は雪ノ下と葉山が前世において苦手とした人物‥‥
八幡でさえ、『魔王』と称した、雪ノ下陽乃の声そっくりだったのだ。
最も陽乃も八幡の事を『理性の化け物』と口にしていた。
そして、なんだかんだ言って陽乃は八幡の事を気に入っている節があった。
もし、彼女が八幡の状況を理解していたら、彼の自殺は防げたのかもしれない‥‥
前世では雪ノ下にとっては苦手‥‥と言うか、生涯乗り越えるべき壁として存在していた陽乃‥‥
葉山にとって、苦手意識を抱きつつ、彼女の仮面ぶりと周囲の人間を自分に同調させるカリスマ性に憧れたあの雪ノ下陽乃と同じ声をもつ人物が今、こうして自分たちの目の前に存在しているのだから、二人が困惑と混乱するのも無理はない。
「えっと‥‥どうかしましたか?」
真霜は自分が自己紹介をしたら、まるでメドゥーサを見て固まったかのようなリアクションをとった雪ノ下と葉山を見て、困惑する。
「雪乃、隼人君‥自己紹介を‥‥」
雪ノ下の父親に促され、雪ノ下と葉山は、ハッと現実へと戻り、真霜と真雪に自己紹介をする。
「ゆ、雪ノ下雪乃です」
「は、葉山隼人です‥‥」
雪ノ下は混乱しつつもややぶっきらぼうな表情で、葉山は笑みを浮かべていた仮面がほころびぎこちない笑みを浮かべている。
それから、真雪、真霜、雪ノ下の両親が世間話をしている中、雪ノ下と葉山は真霜が雪ノ下陽乃で、前世において自分たちと同じように事故か自殺をして、エリスの力によってこの世界に転生してきた転生者なのではないかと思い始める。
前世では、陽乃は自分たちよりも年上だったし、胸も雪ノ下より大きい女性だった‥‥と言うよりも、雪ノ下が同年代の女子の平均値以下の胸の大きさだった。
それはこの後世においても変わらず、残念ながら彼女は周囲の女子よりも小さい。
そして今、自分たちの目の前にいる真霜も、声、年齢、胸の大きさ‥‥それらの特徴が、陽乃と一致する。
転生の特典‥‥もしくは雪ノ下が陽乃の存在を消したことで、この後世においては、陽乃は雪ノ下家ではなく、宗谷家に転生したのではないだろうか?
そんな思いが二人の中に過ぎる。
元々陽乃は、雪ノ下と違い、実家である雪ノ下建設も県議会議員である父の後も継ぐつもりはなかった節があった。
彼女自身、転生の特典で、雪ノ下家に転生しないと言うことを願ったことも十分に考えられる。
二人は何とも言えない表情で真霜を見ている。
(ねぇ、雪乃ちゃん‥‥)
(何かしら?)
(まさかと思うけど、あの人、陽乃さんってことはないよね?)
(否定は出来ないわね‥‥あの声、そしてあの胸‥‥)
雪ノ下は真霜の胸を凝視する。
(なんか、妙な視線を感じる‥‥)
雪ノ下と葉山から凝視された真霜は背後から二人の視線にさらされ、チラッと周囲を見渡す。
「そう言えば、雪ノ下さんと葉山君は総武の海洋科にご通学とか?」
「ええ」
「では、将来はブルーマーメイドを目指しているんですか?」
「できれば、家の家業を継いでもらいたいと思っておりますが、まだ高校に入学したばかりなので、その先の事は‥‥」
「宗谷さんの娘さんは皆、ブルーマーメイドの仕事についているとか‥‥」
「ええ、真霜と次女の真冬が‥‥三女の真白も今は中学三年生ですが、将来はブルーマーメイドになりたいと日々勉強に勤しんでいます」
「流石、名門宗谷家‥‥真雪さんもそうですが、真霜さんもその若さでブルーマーメイドのトップですからなぁ‥‥」
「っ!?」
両親と真雪の話を聞いた雪ノ下は衝撃が走る。
(この人がブルーマーメイドのトップ!?)
(‥‥姉さんはこの世界でも私の前に立ちはだかるのね‥‥いいわ‥‥西住みほ同様、貴女も私の前に跪かせてやるわ!!)
雪ノ下は真霜がこの世界に転生した陽乃だと勝手に決めつけ、みほ同様、真霜も自分に立ちはだかる壁と認識して、真霜が座っているポジションを将来奪ってやると意気込んだ。
「雪ノ下さんは、将来はブルーマーメイドになりたい?」
そこへ、真霜が雪ノ下に声をかけてきた。
「そ、そうですね‥‥せっかく、総武の海洋科に通っているので、目指そうとは思っています」
「雪乃ちゃ‥‥いえ、雪ノ下さんは、僕たちの学年の首席なんです」
葉山が補足として雪ノ下の成績を真霜に教える。
「そうなんだ‥‥でも、さっきのシミュレーションで‥‥」
真霜が先程の雪ノ下とみほとのシミュレーションの話を持ち出すと、雪ノ下はあからさまに不機嫌な顔をする。
「たかが、ゲームで負けた人には向いていないと言うんですか?」
「勝敗は関係ないわ‥‥私が問題視したのは、貴女の戦術よ」
「私の戦術?」
「そうよ、貴女は味方の艦を平気で犠牲にするような戦い方をした‥‥反対に西住さんは、味方に被害が出ない様な戦い方をした‥‥味方の戦力を無駄に消耗する様な戦い方をした貴女が負けるのは当然でしょう」
「何を言うかと思えば‥‥所詮あれはシミュレーションじゃないですか」
そのシミュレーションでみほを相手にボロクソ負けたにもかかわらず、雪ノ下は手のひらを返し、たかがシミュレーションの戦術でなにをそこまで熱くなっているのかと、やや呆れる感じで言う。
「仮想の出来事で、味方が何人死のうが、撃沈されようが、実際に人的被害はないじゃないですか。最終的に勝てばいいんです。それが結果なんですから」
「仮想の空間だからこそ、私たちは本番に備えて常日頃から訓練をしているの‥‥本番では一刻一秒も現場に到着しなければならない、味方の損害をゼロか極小にしなければならない‥‥そのことを考慮して、訓練をするの!!そして、上の立場の人間には責任がつき纏うことも意識しているのよ」
真霜はブルーマーメイドの隊員の訓練の心意気と上に立つ者として、その者の責任の重さを雪ノ下に説くが、
「何を言っているんですか?上に立つ有能な人間が無能な下の人間を使ってこそ、社会がうまく回っているんじゃないの‥‥下の人間はただ黙って上の人間の言うことを聞いていればいいのよ。その過程で替えの利く無能な人間が何人死のうが、傷つこうが、社会には大した損失じゃないわ。むしろ、そうした人間なんて存在する意味がない。有能な人の駒になってこそ、初めて無能な人間の価値がほんのわずかに上がると言うものでしょう?」
「貴女、それ本気で言っているの?」
「もちろんです。そして、私自身はその上に立つべき人間だと自負しているわ」
雪ノ下は自らの学業の成績と家柄から、自分は常に上に立つべき人間であると宣言する。
「その誇りと自信だけは賞賛するわ。でも、学業の成績だけで、世の中を渡ることは無理よ‥‥人を使うって言うことは、ゲームと違ってとても難しいことなのよ。いざって時にはすべての責任を負うぐらいの覚悟が必要なの。それが上に立つ人の権利なのよ」
「現場の責任はその現場の人間が負うものでしょう。無関係の人間が負う必要なんてないじゃない。上に立つ有能な人間が生き残ってこそ、世のためになるのよ」
「‥‥」
真霜はこの場でこれ以上、雪ノ下に何を言っても無駄だと判断した。
(‥‥実際に人を指揮した経験もないうちから下につく人間をまるでゲームの駒みたいに扱うなんて間違っている‥‥家柄や学業の成績だけで、判断されかねないこともあるから、この子が高校に通っている間に考えが変わるといいんだけど‥‥)
それと同時に真霜は雪ノ下の人間性について、彼女の将来を危惧した。
このまま大人になり、彼女が下に大勢の人間を使うことになった時、彼女の下につく人間が哀れに思った。
雪ノ下はまだ高校一年生‥‥残りの高校生活の間に何とか彼女の考えが変わってほしい‥‥最初から立派な人間なんていない。
教師は子供や生徒の適正だけを判別するだけが仕事ではない。
生徒が間違った道へと突き進まないように‥‥世の中に恥じない人にならないように教育しなければならない。
真霜自身は母や横須賀女子の教官からそれらを教わってきた。
願わくば、彼女の学校の教官もそうした素晴らしい教官であることを願い、雪ノ下の性格の更生を願った。
一方、雪ノ下の方は、転生しても陽乃から説教されなければならないのかと思うと、イライラが募る。
自分は選ばれた人間であり、自分の言動は常に正しく、この世の摂理であり、自分と異なる意見は全て間違いで、それを唱える人間は悪なのだと言う認識を抱いていた。
今回のパーティーで、雪ノ下は自身の将来を脅かす障害が存在することを知った。
雪ノ下が自分の障害となるべく人間の存在を知った頃、イギリスのダートマスでは‥‥
「まったく、貴女は外国に行くと、大けがを負うのかしら?」
「す、すみません」
シュテルが入院している病院にはミーナ教官の姿があった。
ダートマス校からキール校へと連絡がいき、ミーナ教官が急いでドイツのキールからイギリスのダートマスまでやってきて、入院したシュテルの見舞いに来たのだ。
中等部の卒業遠洋航海の時、シュテルはイタリアマフィアの凶弾で倒れて、一時生死の境をさまようほどの大けがを負った。
そして、今回もダートマスの街を騒がせた連続殺人鬼のアジトに単身で乗り込んで、その連続殺人鬼と戦い負傷したのだ。
一歩間違えれば殺されてもおかしくない状況だった。
結果的にシュテルは生きていたが、またもや大けがを負った。
ミーナ教官の言う通り、シュテルは外国へと出かけると大けがを負うのかもしれない。
「まぁ、それでも無事だったのはよかったわ‥‥ダートマス校では生徒も例の連続殺人事件で被害にあったって‥‥」
「はい‥‥私は目の前であの人を救うことが出来なかった‥‥すぐそばにいたのに‥‥」
「碇さん‥‥気にするなとは言わないわ‥‥でも、海に出れば似たようなことは今後も経験するわ‥‥『あと一時間はやく現場に到着していれば、もっと大勢の人を救えた』ってこととか‥‥」
「‥‥」
「今は治療に専念しなさい。その後で、ダートマス校で学んだことを今後の海洋生活に活かしなさい」
「はい‥‥」
「それじゃあ、また二学期に学校でね」
ミーナ教官はそう言ってシュテルの病室から出ていった。
「ん?さっきの人は?」
そこへグレニアが戻ってきた。
「私の学校の教官」
「そうなのか‥‥ただ、あの人、ただ者じゃねぇな‥‥ちょっとすれ違っただけなのに、あの人には逆らったらまずいって感覚がヒシヒシと伝わってきたぜ‥‥」
グレニアはその持ち前の本能からミーナ教官の凄さをほんのちょっとすれ違っただけで予見したのだ。
「まっ、あながち間違いじゃないね‥‥」
以前、ハルトマンの家に行った時、彼女の姉、エーリカ・ハルトマンがミーナ教官の結婚話の際、タイミングよく、彼女の下に電話をかけてきた。
それもう、千里眼かハルトマン家に盗聴器でも仕掛けていないと出来ない所業であった。
その日の夜‥‥
「うっ‥‥うぅ~‥‥」
シュテルはベッドの上でうなされていた。
眠り、夢を見る時は、ここ最近あの加工室でリチャードに襲われる夢を見る。
「っ!?‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」
バッとシュテルが目を開けると、そこはあの加工室ではなく、自分が入院している病院の病室だった。
「大丈夫か?」
そんなシュテルに同室のグレニアが声をかける。
「あっ、ごめん。もしかして、起こしちゃった?」
グレニアを自分の呻き声で起こしてしまったのかと思った。
「いや、私も夢見が悪くてな‥‥」
あの犯人に拉致されたグレニアの方だって、自分と同じぐらいきっと怖かったはずだ。
「あんたもか?」
「う、うん‥‥」
「じゃあ‥‥」
グレニアは一言そう呟いて、シュテルのベッドに入る。
「えっ?ちょっ、リオンさん!?」
突然自分のベッドに入ってきたグレニアに戸惑うシュテル。
そんなシュテルを尻目にグレニアはシュテルに抱き着く。
「こうして寝れば、互いに生きているって実感もわくだろう」
「‥‥う、うん‥そうだね」
シュテルも恐る恐るだが、グレニアの身体を抱き、
「‥‥リオンさん‥‥温かい‥‥」
「お前もな‥‥」
この日はシュテルとグレニアは互いの温もりを感じながら眠った。
翌日、二人は無事に退院し、それから数日後のこと‥‥
この日、朝から校内では粛々とある行事の準備が行われていた。
校内の国旗・校章旗掲揚の柱にはイギリスの国旗とダートマス校の校章旗がマストの中間の位置に揚げられている。
そして、ダートマス校所属の艦もすべてマストにイギリス国旗とダートマス校の校章旗がマストの中間の地点に掲げられている。
これは決して中途半端に旗を掲げているのではなく、これは『半旗(はんき)』と呼ばれるもので、弔意を表すために旗竿の半分程度の位置に旗を掲げる習慣であった。
かつて船上においては、国旗に喪章を付けて弔意を示す弔旗という慣習があった。
しかし、洋上では視認しにくいことから、国旗を半下する方法に変化したものである。
現在は洋上に限らず実施されており、弔意を示すためには原則として半旗を掲げ、半旗の掲揚ができない場合は弔旗とするのが一般的な習慣となった。
しかし、イギリス王室には半旗の伝統は無かった。
そもそも国王の旗である王室旗は国王が宮殿にいる事を示すものであり、国王が宮殿にいなければ下ろされ、国王が滞在中は掲げられるものであったこと、そして国王が崩御しても、即座に新たな君主が即位することになるため、“王位に空位はなく、常に国王は健在である”ということであるため、王室旗を半旗にして喪に服す必要はないという考えがあった。
しかし、とある元王太子妃が死去した際には、国民の間から「王室はバッキンガム宮殿に半旗を掲げるべきだ」との世論が起こった。
死去当時、既に英国王室とは無関係となっていたが、世論の反発をやわらげるため、女王がそのとある元王太子妃の葬儀のために宮殿を出たところで、王室旗が下げられてユニオンジャックの半旗が掲げられた。
これ以後は、国王不在の際は王室旗の代わりにユニオンジャックを掲揚し、必要に応じてそれを半旗にするという慣習が誕生したが、王室旗による半旗は今のところない。
今日、ダートマス校では、先の連続殺人事件における被害者の一人‥‥ダートマス校に所属する生徒の葬儀がダートマス校の校内にある礼拝堂で執り行われることになった。
ダートマス校に通ったがためにこの生徒は命を落とす結果になってしまった。
そんな学校の礼拝堂で、彼女の葬儀を執り行うものなのかと思ったが、被害にあった生徒の親が、
「娘はこの学校に通うためにこれまで必死に頑張ってきた‥‥」
「この学校に通わなければ、娘は死なずに済んだかもしれないが、この学校を目指したのは娘の意思であり、その頑張りを今更むげにはしたくない」
「その娘が愛した学校‥‥そして、級友の皆さんに送ってほしい」
と、被害にあった生徒の親がダートマス校での葬儀を頼んだのだ。
学校側としても親御さんから預かった大事な生徒をむざむざと殺してしまう結果となったので、生徒の親の頼みを聞いたのだ。
祭壇の前には棺が安置されており、その棺の中には沢山の花とダートマス校の制服を身に纏った生徒の亡骸、そしてその上からはダートマス校の校章旗がかけられている。
弔辞には一年生の首席であるブリジット‥‥ではなく、グレニアが述べた。
その訳は棺で眠る彼女がレパルスクラスの生徒でグレニアがそのレパルスの艦長だからだった。
グレニアの弔辞は形式美のような言葉だけではなく、たった一言‥‥
「仇は討った‥‥」
の一言だった。
グレニアはこの連続殺人事件の犯人であるリチャードが警察に連行される直前、彼の股間にきつい一撃をくわえていた。
それがあの時、グレニアに出来た精一杯の事だった。
神父が葬祭の儀を執り行い、賛美歌を歌う場面となり、礼拝堂に集まった一同は席から立つ。
賛美歌の演奏はダートマス校の吹奏楽部のメンバーが行ったのだが、その中にシュテルの姿があった。
シュテルはヴァイオリンで賛美歌320番、「主よ御許に近づかん (Nearer My God to Thee)」をダートマス校の吹奏楽部のメンバーと共に演奏した。
礼拝堂にて葬儀の儀が終わり、棺が運び出されると、ダートマス校の生徒らが敬礼し、棺を見送り、教官らは弔砲として、リー・エンフィールド小銃を空に向け、空砲を放つ。
棺は霊柩車に乗せられ、墓地へと向かう。
墓地にて予め掘られた穴に棺が埋葬され、その上から土か被せられる。
棺に土が被せられる度、生徒から嗚咽の声がする。
グレニアも泣きわめくことはしなかったが、目に涙を浮かべ、グッと唇をかんで悲しみをこらえていた。
やがて、埋葬の儀が終わり、参列者がポツポツと解散の動きを見せる中、シュテルとグレニアは今回被害にあった生徒の親の元へと向かう。
そこで、シュテルは、目の前で子供を助けることが出来なかったことを詫びた。
しかし、その生徒の親はシュテルを責めることはしなかった。
シュテルが現場に駆け付けた時、彼女はすでに息絶えていた。
だが、シュテルは諦めることなく、ハンカチとネクタイで失血をし、寮からAEDを持ってくるようにと、自分が授業の中で学んだ応急処置の知識をフルに活かして、救おうとしたことを事前に聞いていた。
逆にシュテルは生徒の親から、
「娘のために死力を尽くし、涙を流してくれたことに感謝します」
と言われた。
今回のダートマスでの出来事は知識のほかに人としてシュテルを大きく成長させる出来事となった。