やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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42話

 

 

夏休み、シュテルがイギリスのダートマス校の体験入学に参加している頃、ユーリは取得したばかりの自動車の免許で、レンタカーを借りて、一人旅をしていた。

その最中、ユーリが宿泊していた貸し別荘に大きな木箱が送られてきた。

ユーリがその木箱を開けてみると、そこには自分よりも年下の男の子が入っていた‥‥

しかも物騒なおまけつきで‥‥

物騒なおまけ‥‥手榴弾のせいで、ユーリが泊まっていた貸し別荘は半壊し、とても泊まれる状態ではなくなる。

ユーリが宿泊場所を別の所へ変えようとしたら、なぜか木箱に入っていた男の子もついてきた。

そして、ユーリに行きたい場所を伝える。

ユーリとしては、初対面の子‥‥しかもあきらかに厄介ごとが絡んでいそうな、子と行動を共にする義理はないのだが、厄介ごとが絡んでいそうだからこそ、ユーリはこの子を見捨てることが出来なかった。

ユーリは彼が行きたがっている街へ向かうことにした。

しかし、現在位置から彼が行きたがっている街まではかなりの距離があり、この日はとある田舎町の安宿に泊まった。

その町にて、ユーリはその日の夕刊で、同行者である男の子の正体が、夕刊に乗っている殺された弁護士夫妻の行方不明になっている一人息子に似ていることに気づいた。

しかし、写真に乗っている男の子と同行している男の子の目の色が違っていた。

他人の空似かと思ったが、よくよく見ると、彼はカラーコンタクトをしていた。

ユーリは、今、自分に同行している彼は夕刊に乗っていた殺された弁護士夫妻の息子ではないかと思った。

そして、その日の夜、ユーリたちが泊まっている安ホテルの部屋の前にいる警察の武装隊は突入の時期を待っていた。

突入する瞬間は二人がベッドに入り、寝静まった時‥‥

二人が最も無防備な状態になったその時こそ突入を行う絶好の機会だった‥‥。

息を殺して突入する機会を待っている武装隊員たちの耳に部屋の中にいるユーリの声が聞こえる。

 

「どうしたの?そんなところにいて、ホラ、来なよ」

 

「えっ?でも‥‥」

 

「しかたないでしょう。ベッドは一つしかないんだし‥‥えっ?だって服を着たままだと窮屈でしょう。ホラ、キミも、全部脱いで‥‥もぉー世話の焼けるねぇキミは‥‥ん?どうしたの?恥ずかしいの?‥‥あっ、ココもこんなに大きくして可愛い♪~」

 

ユーリの妙に艶っぽい声を聞き、武装隊員たちは顔を赤くする。

 

「さぁ、電気消すよ。明日も早いんだし‥‥」

 

「電気を消す」という言葉を聞き、武装隊員たちは突入するのは今だと判断し、部屋へと突入する。

 

部屋の電気をつけ、

 

「警察だ!!」

 

「大人しくしろ!!」

 

銃を構えて、一気にユーリたちの部屋へと雪崩込む。

一人の武装隊員がベッドの上の毛布を取ると、そこにユーリも連れの男の子の姿もなく、変わりにビニール製のアカンベーをした人形があった。

 

「な、なんだ?これは!?」

 

「くそっ、部屋を探せ!!まだ居るはずだ!!」

 

武装隊員たちが部屋の中を捜索しようとした矢先に人形からプシューという音と共にガスが噴射され始めた。

 

「が、ガスだ!!」

 

「全員、退避!!急げ!!」

 

ガスを見た武装隊員たちは急ぎ部屋から逃げ、部屋のドアを閉める。

 

「まったく、いきなり突入してくるなんて、無粋な連中‥‥」

 

(この人はなんで、あんなガスが詰まっていた人形を持っていたんだろう‥‥?)

 

武装隊員たちが探していたユーリたちは突入される少し前、窓の縁にロープを結び、そのロープにぶら下がっていた。

慌てふためいている武装隊員たちをユーリはコンパクトの鏡越しに窓の外から見ていた。

そんなユーリに対して、男の子は何故、あんな小道具を持っていたのか不思議に思った。

二人はそのままロープを伝ながらホテルから脱出した。

 

 

「何!?逃げられただと!?このバカ者共!!すぐに探せ!!」

 

武装隊のホテル襲撃失敗の報を聞き、声を上げるのはこの町の警察署長だった。

 

「たかが、女子供に何を手間取っている!!いいか?必ず捜し出し身柄を確保しろ!!抵抗する場合は骨の一本や二本を折り、手足の一本でもちぎってかまわん!!いいな!?必ず確保するんだぞ!!」

 

乱暴に受話器を叩きつける警察署長。

そんな警察署長の様子をニヤニヤした顔で眺める無精髭を生やした男が署長室にさも当然のようにいた。

 

「大変そうだな?署長さん?」

 

「なにぃ!?元はといえば、お前たちが回りくどい手を使った挙句にミスをしたのがいけないのだろう!?」

 

無精髭の男の態度に警察署長は不快感を現し、男を指さしながら怒鳴る。

 

「貴様らのミスのおかげで、我々警察が尻拭いする羽目になったのだぞ!!この際、いっそ、貴様らも纏めて‥‥」

 

「『纏めて』何です?ぜひ、その続きを聞かせてもらいたいものだね?警察署長殿?」

 

「くっ‥‥」

 

無精髭の男の言葉に苦虫を嚙み潰したように顔を歪める警察署長。

 

「結局、奴の家からはあんたたち、警察と俺たちマフィアの関係を示す闇献金リストは出てこなかった。アレが永遠に表に出てこなければそれはそれで良い‥‥だが、気になるのは、あいつのガキの方だ。あのガキが何かを知っているか、証拠の品を持っているかもしれない」

 

「だからこそ、早くあの子供の身柄を確保しなればいかんのだ!!‥‥元々あいつら家族がこの街に赴任してきたのだって、元をただせば、貴様たちマフィアとの関係がどこからか情報が漏れて疑われていたせいなのだからな‥‥」

 

「そりゃ、そうだろうさ、この町の警察幹部連中の半数以上が本来取り締まるはずの我々マフィアとお友達なのだからな‥‥綺麗事や薄っぺらい正義感だけでやっていけるほど、世の中は出来ているってわけじゃないってことだ」

 

無精髭の男はそう言うと、ソファから立ち上がり、出口へと歩を進める。

 

「ど、どうするつもりなのだ?」

 

「たかがニ、三人の人間の命でお互いに今の平穏が保てるんだ。なんとかするさ‥‥」

 

そう言いし、無精髭の男は署長室を出ていった。

 

 

その頃、ホテルから脱出したユーリたちは‥‥。

町外れの森に車を停めそこに潜伏していた。

 

「こ、これは‥‥!?」

 

ユーリはもしかしてと思い、車の中で先程買った夕刊を男の子に見せた。

 

「パパ‥‥ママ‥‥」

 

「‥‥」

 

夕刊の記事を見ていた男の子の腕は小さく震えていた。

彼のリアクションからどうやら、彼は両親が殺されたことを今知ったみたいだ。

 

「成程、だいたいの事情は分かった‥‥つまりキミは両親の家と間違えられて私が居た別荘に送られてきたんだね‥‥見て、番地の数字は同じだけど、私が泊まっていた別荘とあなたの家があった場所の名前がそっくり‥‥宛先の字が汚すぎて、配送業者が読み間違えたみたいだね。でも、その間違いのおかげでキミは助かったみたいだね‥‥」

 

ユーリが泊まっていた貸し別荘地と彼の家の住所が似ていたのだが、宛先を書いた者の字が汚く、配達員は間違えてユーリの下に送ったみたいだ。

本来ならば、彼は両親のもとに送りつけられ、そのまま両親と共に爆殺される運命だった。

しかし、運よく、配達員の間違いでユーリの下に送られ、一命を取り留めた。

だが、何者かの手によって、彼の両親は殺されてしまった。

 

「‥‥」

 

男の子は両親を失った悲しみと、一歩間違えれば自分も命を落としていたこと、そして今も命を狙われているという悲しみと恐怖で何も言えなかった。

 

「それで、キミはこれからどうする?」

 

「えっ?」

 

「両親を失い、この次は自分の命も失う?それとも助かりたい?」

 

「‥‥全部‥‥話すよ‥‥」

 

男の子は全ての事情をユーリに話した。

 

「コンタクトレンズの中に特殊マイクロフィルムを入れるなんて、無茶をするねぇ‥‥」

 

男の子がしていた翠のコンタクトレンズの中には彼の言う通り、ただのカラーコンタクトではなく、小さなマイクロフィルムが入っていた。

 

「これじゃあ中に何が記録されているのか分からないね‥‥キミはコレをお父さんの知り合いのジャーナリストに届ける途中だったのね?」

 

手持ちの道具にはこのマイクロフィルムを再生させる機械がないので、このマイクロフィルムに何が記録されているのか分からない。

 

「うん‥‥パパもママもマフィアの人や警察の人たちにマークされているだろうから、それで僕が‥‥」

 

彼は両親に代わって、このマイクロフィルムを知り合いのジャーナリストに届けるつもりだった。

しかし、その途中で彼は悪人に捕まってしまった。

だが、まさかカラーコンタクトの中に自分たちが狙っているマイクロフィルムがあるとは、気付かなかった。

 

「その人の連絡先は知っているの?」

 

「う、うん」

 

「‥‥まっ、何にしても動くのは朝になるまで待とう‥‥キミはもう寝なさい」

 

ユーリは車に積んであった毛布を取り出し、男の子に渡した。

そして、男の子は後部座席で毛布にくるまると、すぐに眠ってしまった。

よっぽど疲れていたのだろう。

 

「もしもし‥‥」

 

ユーリはそんな男の子の寝顔を見た後、あるところ電話を入れた。

 

 

 

翌朝、ユーリは近くの町のカフェの公衆電話を入れた。

しかし、電話の先の主は一向に出る気配がない。

 

「うーん‥‥全然出ないな‥‥しょうがない‥‥」

 

ユーリは仕方なく別の所へ電話を入れた。

そんな中、電話をかけているユーリの背後からユーリに忍び寄る人影があった。

 

「いくらかけても、死人じゃ、電話に出れねぇぜ、お嬢ちゃん」

 

突然、背後から声をかけられ、ハッとして背後を振り向く。

そこには、無精髭を生やした男が一人立っていた。

 

「‥‥あんたは?」

 

ユーリは焦ることなく、無精髭を生やした男に誰なのかを問う。

 

「これから死ぬ人間が知っても意味がないだろう?」

 

「自分の名前ぐらいのリップサービスはいいじゃん」

 

「まぁ、挨拶もなしに死ぬは可哀そうだからな、いいだろう。ドミニクだ‥‥ドミニク・アンドロシュだ。よろしく、お嬢ちゃん」

 

無精髭の男こと、ドミニクは不敵な笑みを浮かべてユーリに自分の名前を言う。

そしてドミニクの目つきはまさに血に飢えた獣の目つきをしていた。

 

「まさかと思うけど、あの弁護士の夫婦を殺したのもあの爆破もみんなあんたの仕業?」

 

「まあな」

 

「そう‥‥それで?私以外にもあの子も殺すつもり?」

 

「子供ってのは親のそばにいるのが一番だ。そうは思わねぇか?」

 

ニヤつきながらユーリに訊ねるドミニク。

そんなドミニクに対し、ユーリは呆れたように言い放つ。

 

「下らない‥‥確かにあんたみたいに体は大人でも頭は子供のような奴には十歳児の相手がピッタリだね」

 

ユーリのこの言葉にドミニクがキレ、拳銃をユーリに突き付ける。

 

「いいか、お嬢ちゃん。俺たちはなぁ、この町のおまわりさんと、とっても仲良しなんだよ。おとなしくガキを渡せ、ガキを渡すのであれば、おまえの命ぐらいは勘弁してやる」

 

声を低くし決して、ただの脅しではないことをチラつかせるドミニク。

 

「いや、結構‥‥それにそんなに仲の良いお友達なら、刑務所にいっても一緒になれるね‥‥」

 

「何を訳の分からないことを言っていやがる!?」

 

ところがユーリはドミニクの脅しにも屈することはなかった。

 

「気が強い女は嫌いじゃねぇ。だが、この街を支配しているのは俺たちだって事を忘れるなよ。いずれはこの町の議会や検察だって、俺たちの言いなりになる日がくる」

 

「まぁ、怖い‥でも貴方たちが支配しているのはこの街の警察だけであって、ここのあくまでのドイツの田舎地方の町だって事を忘れていない?」

 

「ふん、何を言っている?」

 

「さっきあんたが言ったじゃん、この町の議会や検察はまだあんたたちの言いなりじゃないんでしょう?」

 

そう言って、ユーリはドミニクに受話器を見せつける。

ユーリにそこまで言われ、ドミニクは気が付いた。

 

「ま、まさかその電話先は‥‥!?」

 

「ジャーナリストもこの世に一人じゃないってことだよ。つまりこの後、例の弁護しの息子が重要な機密を持って、この町の議会へ向かう‥ってことだよ‥‥残念だったね~」

 

「くっ、ガキが‥‥」

 

ユーリは受話器をチラつかせる様に振り、余裕の笑を零す。

携帯を持っていたユーリが敢えてカフェの公衆電話を使用したのもこうして下手人を炙りだすための囮行為だったのだ。

一方、ドミニクの方は苦虫を潰したような表情をした。

 

突然カフェで小規模な爆発が起こったと思ったら、店から一人の少女とその少女を追いかける無精髭の男が店から飛び出していった。

それから暫くして、この町の議会庁舎の前には沢山の報道陣が集まっていた。

 

「くそ、うちだけのスクープじゃなかったのかよ?」

 

「無駄だって、タレ込みって言うのは広まりやすいから」

 

「しょーがねー こうなりゃ、一番取材しやすい場所でも確保するか‥‥」

 

「そうだな‥‥おっ?来たぞ!!」

 

報道陣の前にはボロボロになりながらも物凄いスピードでこちらへ向かってくる一台の車が見えた。

車は議会場前に止まると、エンジンからシューという音と共に白い煙を吐き、完全に壊れた。

壊れた車からはユーリと一人の男の子が出てきた。

報道陣の記者たちが二人に群がっている中、二人は議会場へと足を進める。

しかし、そんな二人を議会場の向かいのビル屋上から狙う一人の男が居た。

 

「ガキ共が‥‥お前の思うようにはさせんぞ‥‥」

 

ドミニクは狙撃銃を構え、その狙いをユーリの隣を歩いている男の子に照準を合わせた。

あとは引き金を引くだけなのだが、途端にドミニクの動きがピタッと止まる。

 

「っ!?い、一体いつからそこに居た‥‥」

 

ドミニクは背後に話しかける。

彼は自分の背後から人の気配を感じ取った。

 

「あんたが気づく少し前から‥‥」

 

ドミニクの背後にはユーリから電話を貰い急いでこの街に飛んできたクリスがいた。

ドミニクは冷や汗と震えが止まらなかった背後から伝わってくる狂気に満ちた殺気は長年マフィアをやって来た自分以上のものだ。

背後を振り向けばその瞬間にやられる。

このまま標的を撃とうとすれば撃つ前にやられる。

ドミニクはまさに絶対絶命のピンチであった。

その間にもクリスはどんどんドミニクとの距離を詰めていく。

やがてドミニクのすぐ後ろに着いたクリスは‥‥

 

「親友をいじめる奴は私が許しません」

 

ゴン!!

 

クリスはそう言って、ドミニクの頭に強烈な一撃を加え、彼をノックアウトさせた。

 

(はぁ~、人間が神相手に勝てる筈がないでしょう‥‥)

 

ノックアウトしたドミニクを見下ろしながら、クリスはやれやれといった仕草をする。

そして、議会庁舎へと入っていくユーリと男の子を見下ろしていた。

 

その後、男の子の持っていたマイクロフィルムからこの町の警察とマフィアとの関係が暴露され、監察官がこの町の警察署に対して、強制捜査を行い、警察署長をはじめ、汚職に関わっていた警察の幹部全員とドミニクをはじめとする大勢のマフィアが逮捕された。

地方の田舎町とはいえ、警察とマフィアが癒着していたことはドイツ司法ではかなりの問題で騒がれることになった。

 

この田舎町で起きた蜂の巣を突っついたような騒ぎから三日後、ユーリは検察からの事情聴取を終え、今回の騒動の発端となった男の子と共にある大きな家の前にいた。

 

「ここがキミのお母さんの妹さんの家?」

 

「うん‥‥あ、あの‥‥もう、あなたと会えないの?」

 

男の子は寂しそうにユーリに問う。

 

「うーん‥どうだろう‥‥でも、キミが大人になって素敵なジェントルマンになれば私から会いに行っちゃうかもねぇ~♪」

 

「なる!絶対になるから‥‥約束だよ‥‥」

 

男の子は思わず、ユーリに抱きつく。

 

「ほ、ホラ、早く行きなよ」

 

ユーリは頬赤く染め、玄関先で待っている彼の叔母の下に行くように言う。

 

「そう言えばキミの名前まだ聞いてなかったね‥‥それに私もキミに名前を言っていなかった」

 

ここで、ユーリは彼の名前を聞いていなかったことと、自分の名前を教えていなかったことを思い出す。

 

「クラウス‥‥クラウスっていうの!!」

 

彼は自分の名前をユーリに伝える。

 

「そう。さよならクラウス‥‥また会う日までね‥‥私の名前はユーリ‥‥ユーリ・エーベルバッハ‥‥」

 

ユーリは自分の名前を言うと、クラウスの額にキスをして、クリスが待っている車に乗り込んだ。

なお、ボロボロになったレンタカーの保証は、今回の騒動を鑑みて、この街の検察がユーリの代わりに保証してくれた。

クラウスはユーリの乗った車が見えなくなるまで手を降り続け別れを惜しんだ。

 

 

「~♪~♪」

 

助手席に座っているクリスの機嫌はなぜか良かった。

そんなクリスをチラッと見て、運転していたユーリは、

 

「どうしたのさ、クリス。なんかご機嫌みたいだけど?」

 

何故、クリスの機嫌がいいのかを訊ねるユーリ。

しかし、そんなユーリに対しクリスは何故ニヤニヤしているのか理由を話す。

 

「いやぁ~、ユーリさんにもようやく春がきたと思いましてなぁ~友人としては嬉しい訳よ」

 

ニヤニヤ顔でユーリに言うクリス。

 

「なっ!?」

 

反面ユーリは顔を真っ赤にし、鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を見開く。

そして‥‥

 

「な、何!!バカな事いっているのさ!!わ、私はシュテルン一筋だよ!!」

 

照れ隠しなのか、思いっきりクリスの頭をポカポカとたたき出した。

 

「こ、こら!運転中に殴るな!!ちょっと前!!前!!前、見て!!」

 

クリスを殴っているユーリの顔は照れ隠しをしながらもどこか嬉しそうであった。

そんなユーリに対して、運転手なのだから、ちゃんと前を見て運転しろと焦るクリスだった。

 

 

ユーリがまさかのドイツ司法の汚職事件の騒動に巻き込まれた頃、日本では‥‥

 

パチパチパチパチ‥‥

 

会場を観客からの拍手が包み込む。

やがて、舞台の袖からは、フォーマルスーツに身を包んだカナデが出てきた。

夏休み中でも、カナデは音楽活動を行っており、高校生のピアノコンクールや演奏会に出ていた。

カナデは舞台袖から舞台上にあるピアノへと歩みを進める。

その中で、チラッと観客席を見る。

 

(うわぁ、また来ている‥‥)

 

カナデは観客席の最前列にこれまでのコンクールや演奏会で見た顔が今回のコンクールでも来ていることを認識した。

最前列の観客席に居たのは、由比ヶ浜だった。

彼女は前世の八幡の様に愛犬、サブレを助け出したカナデにご執心で、これまで、カナデが出場したり、参加しているコンクールや演奏会には毎回来ていた。

そして、コンクール・演奏会が終わると決まって、プレゼントを手渡しに来るのだが、その箱に入っているのはなぜか黒い木炭だった。

何故、プレゼントに木炭を送りつけてくるのか、カナデには意味不明だった。

同級生に相談したら、

 

「気味が悪いようなら捨てちまえ」

 

と、言われたので、カナデは由比ヶ浜からのプレゼントは捨てている。

最近では木炭の他になぜか女性モノの下着まで送ってくる。

しかも、新品ではなく、明らかに使用した形跡があるモノだ。

正直に言って気持ち悪い。

しかし、ストーカーほどの被害は受けていないので、警察には相談していない。

更にカナデは由比ヶ浜の学校を知らないので、無視している。

 

(今日もなんか、変なモノを送りつけてくるつもりだろうか?)

 

そんな事があり、彼はコンクールに優勝した際、自分の家などの情報は言わないし、マスコミにも言わないようにしてもらっていた。

由比ヶ浜の姿を見て、やや憂鬱になりながらも椅子に座り、楽譜を見たカナデは、目の前のピアノに集中することにして、鍵盤に自らの手を踊らせた。

 

一方、カナデに半ストーカーじみている行動をしている由比ヶ浜は、正直音楽何て興味はない。

他の演奏者、そしてカナデ本人が奏でているピアノの曲が何て言う曲名なのか知らないし、興味がない。

由比ヶ浜が興味あるのはあくまでもカナデ本人だった。

 

(はぁ~やっぱり、カナカナ、カッコイイ~‥‥)

 

由比ヶ浜は、カナデが奏でるピアノではなく、ピアノを弾いているカナデの姿をうっとりした目で見ていた。

 

そして、演奏を終えて、楽屋へと戻ると、スタッフの人が由比ヶ浜から預かったとされるプレゼントをカナデに渡してきた。

 

「‥‥」

 

恐る恐る箱を開けると中には例のごとく、木炭が入っていた‥‥。

 

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