やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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49話

此処で視点はドイツのキールから日本の千葉へと移る。

 

二学期にドイツのキール校で文化祭が行われたように日本の総武高校でも二学期の頭に文化祭が行われる予定となっていた。

その日、朝のHRで文化祭実行委員を決めることになった。

文化祭実行委員は各クラスから男女一名ずつの計二名が選出される。

担任の教師はまず、立候補する者が居ないかを訊ねると、誰も手を上げない。

文化祭実行委員なんて、雑用よりもみんなでクラスの出し物を準備して当日も他のクラスの出し物を見て回りたい。

しかし、実行委員は文化祭当日も巡回や文化祭の記録、運営など、満足に文化祭を見て回る余裕が少ない。

ましてや、自分たちは高校一年生‥‥高校生活初めての文化祭なのだから、雑用なんかせず、思う存分に文化祭を見て回りたいと思っていた。

そのため、実行委員に立候補する者はいなかったのだ。

転生者である葉山と由比ヶ浜も二度目の高校生活の文化祭を楽しみたいのか実行委員に立候補はしなかった。

誰も立候補しないので、担任の教師は少し困った顔をする。

海洋科だからと言ってクラスから実行委員を出さないと言うわけにはいかない。

文化祭の実行委員は科を問わず、必ずクラスから男女一名ずつが絶対の条件なのだ。

 

「ゆ、雪ノ下、やってみないか?文化祭の実行委員を‥‥」

 

担任は雪ノ下に文化祭の実行委員をやってみないかと訊ねる。

 

「私ですか?」

 

「あ、ああ。雪ノ下は一学年の首席で優秀だし、どうだ?」

 

「‥‥わかりました。私で良ければやりましょう」

 

雪ノ下は担任から推薦されて文化祭の実行委員をやることにした。

 

「それじゃあ、女子は雪ノ下として、男子の方は‥‥」

 

「先生、男子は俺がやります!!」

 

と、先程、立候補しなかった葉山であったが、女子の実行委員を雪ノ下が務めると知った途端、自ら立候補した。

 

「そうか‥‥それじゃあ、男子は葉山‥っと‥‥」

 

こうして、雪ノ下と葉山は文化祭の実行委員を務めることになった。

 

「文化祭の実行委員は、今日の放課後、早速会議室で会議をやるみたいだから、忘れずに出席してくれ」

 

担任は今日の予定を伝え、朝のHRは終わり、一限目の授業まで短い休憩時間となる。

 

「いいの?ゆきのん。せっかくの文化祭なのに‥‥」

 

休み時間となり、由比ヶ浜が雪ノ下に声をかける。

 

「ええ、かまわないわ。元々クラスの出し物にも文化祭にもあまり興味はないし、それにこれは来年、奉仕部を設立するのにいい実績になるからちょうどいいわ」

 

雪ノ下は前世では高校一年生の時、八幡同様、文化祭の実行委員にはなっておらず、クラスの隅っこで文化祭を眺めていた。

しかし、この後世では来年、奉仕部を設立するにあたって、実績をつんでおけば、設立しやすい。

文化祭の実行委員で実績を立てれば、自分の名も知れ渡り、設立と設立後もなにかと都合がいいと言う打算があった。

一方、葉山としては文化祭を見て回りたいと思いつつ、雪ノ下と共に過ごせる時間が増えるので、実行委員に立候補したのだ。

 

(前世、最後の文化祭では、陽乃さんがきて、あの低能女、相模が暴走したけど、この世界では陽乃さんは存在しないし、あの真霜って言う人もこの学校のOGじゃないから、来ることはないだろう)

 

(それに高校一年生の文化祭は何の問題もなく終わったからこの世界の文化祭も問題なく終わるはずだ‥‥ここで、雪乃ちゃんに俺の有能さをアピールすれば‥‥)

 

(来年はあの低能女と同じクラスにならなければいいし、仮になったとしても、もう同じ轍は踏まないようにあの女は推薦しなければいい)

 

葉山は前世の最後の文化祭では、準備中に陽乃が来て、彼女の言葉を相模が鵜呑みにした結果、一時は文化祭の開催が危ぶまれ、雪ノ下が過労で倒れ、文化祭の最終日も相模は集計結果を持ち出してエンディングセレモニーから逃げ出した。

あの時は自分たちがライブで時間を稼ぎ、その間に八幡が相模を見つけ、自らが悪役となることで、相模のやる気を引き出し、自分が優しく諭して彼女は会場へと戻った。

その後、八幡の悪評がつき始めた。

彼のやり方を間近で見て、八幡は自己犠牲で解決する方法を何のためらいもなく実行する奴だと認識した。

だからこそ、自分は修学旅行で戸部と海老名の矛盾した相談を奉仕部に‥‥あの男に押し付けたのだ。

そして、彼は自分の思惑通り、嘘告白と言う自己犠牲なやり方で、依頼を解決してくれた。

しかもおあつらえ向きに奉仕部の二人は彼の事を拒絶した。

葉山としてはあんな腐り目の冴えないボッチ男が放課後、雪ノ下と同じ教室に居ることが許せなかった。

だからこそ、文化祭の彼のやり方を見て、八幡を自然に排除する方法を模索していたのだ。

 

集団を一つにまとめる方法‥‥みんな仲良くする方法は、共通の敵を作ることだ。

葉山はその『みんな』の中から八幡を除外して、彼を共通の『敵』に仕立て上げることに成功したのだ。

勿論、彼に八幡に対する罪悪感なんて一欠けらも存在していない。

むしろ積極的に彼を排除したかったのだから‥‥

 

前世では、高校一年生の文化祭では、自分が覚えている限りトラブルらしいトラブルはなく、問題なく文化祭は終わった。

なので、今年の文化祭は問題なく終わるだろうと思っていた。

そして、来年の文化祭では、例え相模と同じクラスになっても、彼女の無能ぶりは前世で知っているので、彼女を推薦することはしないと心に決めた。

まぁ、それ以前にこの世界には雪ノ下陽乃というOGが居ないので、前世の様な事もないだろうと思っていた。

この後世には比企谷八幡と言う生贄となる『敵』が存在しないのだから、来年の文化祭と修学旅行は慎重に事を運ばなければならない。

しかし、今は眼前の雪ノ下と過ごせる時間を楽しもうと決めた葉山であった。

 

放課後、葉山と雪ノ下は文化祭の実行委員の会議が行われる会議室へと向かう。

会議室では普通科、国際教養科、そして自分たちと同じ海洋科のクラスから選抜された実行委員たちが集まる。

その中にやはり、相模の姿は見えなかった。

高校一年では相模と違うクラスだったので、万が一彼女が実行委員に来るかもしれないと警戒したが取り越し苦労だったようだ。

そもそも相模が前世で文化祭の実行委員になったのは高二で、葉山が強く彼女を推薦したからだ。

最初は戸部が相模を推薦したが、彼女は当初はやる気がなかった。

しかし、密かに好意を寄せていた葉山が自分に期待してくれたので、彼女が実行委員になったのだ。

もし、葉山が戸部に便乗して相模を推薦しなければ、彼女は文化祭の実行委員になることはなかっただろう。

 

会議室には文化祭の実行委員の他に生徒会役員も来ていた。

この時の生徒会長はまだ城廻めぐりではなく、前世の記憶を引き出しても自分たちの印象に残らないモブかエキストラの様な人物だった。

 

「では、これから文化祭実行委員、第一回目の会議を行います」

 

生徒会長が会議の開催を宣言する。

 

「まずは、今回の実行委員の委員長と副委員長を決めたいと思います。誰か立候補する人は居ませんか?」

 

前世の時同様、まずは文化祭実行委員会の委員長と副委員長を決めることになった。

しかし、誰も立候補する者はいない。

雪ノ下はここで実行委員委員長になって、実績を稼いでもいいと思ったが、基本的に雪ノ下は自ら立候補をすることはない。

前世において、生徒会選挙に出馬したのも依頼人、一色いろはの頼みがあったからこそ、生徒会選挙に出馬したのだ。

それに前世と今回の文化祭の実行委員にしても教師から頼まれたから実行委員になったのだ。

雪ノ下は他の誰かが自分の力を求めている。

自分は優秀な人間だから、周りの人間が自分の力を借りたがっていると言う優越感を感じ、自分の優秀さを改めて実感するため、自らは立候補をすることはないのだ。

高校一年生では、まだ生徒の間では雪ノ下の名はそこまで知れ渡ってはいないため、誰も雪ノ下を推薦する者は居なかった。

葉山も雪ノ下が優秀なことを知っているので、彼女を推薦してもいいと思ったが、自分もまだ高校一年の新入生‥‥

ここで自分と同じ一年生の雪ノ下を推薦して、二年、三年の先輩に変に睨まれるのも嫌なので、雪ノ下を推薦しなかったのだ。

雪ノ下も元々葉山が自分を推薦することは期待していなかったので、葉山を煽るようなことはしなかった。

結局、委員長も副委員長も立候補する者が居なかったため、二年生全員がじゃんけんすることになり、委員長と副委員長が決まった。

雪ノ下はじゃんけんで責任者を決める光景を見て、

 

(文化祭の運営責任者をじゃんけんで決めるなんて、低俗ね‥‥私なら、無駄に生きているだけの無能な貴方たちをちゃんと使いこなせるのに‥‥)

 

前世での年齢を含めれば、既に平塚先生と同じ年齢な雪ノ下たち転生組。

だからこそ、なのかじゃんけんで委員長と副委員長を決めている先輩たちを人ではなく、道具‥‥しかも、不良品か粗悪品の様に思っていた。

第一回目の会議は委員長と副委員長を含め、役職を決めることで終わった。

次回から本格的に書類仕事となった。

クラスでは文化祭の準備が進められ、会議室では書類仕事が行われている。

前世で相模がしたような発言を提案した者こそはいないが、日を増して会議室は凄くピリピリしている。

その理由が‥‥

 

「こんな簡単な事に時間が掛かりすぎよ」

 

「もっとしっかり予定と進行状況を報告してください。そんな当たり前のことが出来ないんですか?」

 

「もっといいやり方があるでしょう。まったく、手際が悪い」

 

雪ノ下の存在だった。

彼女は、実行委員長の事も無視して完全に会議を牛耳って居た。

確かに雪ノ下は一年生ながら優秀だ。

そして、それは完全にワンマン、独裁に近く、効率性ばかりを望むばかりに誰もが雪ノ下ついていけない。

それは実行委員長、副委員長、生徒会長の三人も例外ではない。

これでは誰が文化祭の実行委員長なのか分からない。

 

前世と似た状況だが、この年の実行委員で逃げる者はいなかった。

一応、自分たちは曲がりなりにも進学校の生徒であり、今年入学したばかりの新入生に負けてたまるかと言う気概で、罵倒に近い指示ばかりを行う雪ノ下にストレスを抱えながらも何とか作業を行っていた。

陰にて雪ノ下に対する愚痴を漏らす一方、早くこの文化祭から解放されたい気分が周りを覆っていた。

雪ノ下と葉山を除く、誰もが文化祭の成否はどうでも良くなって来ていた。

葉山は戸惑いつつも雪ノ下に自重するように言うこともなく、黙々と書類仕事をするだけであった。

日和見主義、長い物には巻かれろ、小を殺して大を生かす を具現化したような男であるが、前世での小学校の失敗から少しは学んだようで、雪ノ下に口を出さなかったのだ。

それと同時に先輩たちから睨まれることを恐れ、雪ノ下に加勢することもなかった。

文化祭の準備からサボったり、逃げる者が居なかったこと、雪ノ下が態度はともかく、仕事に関しては優秀なことで、この年の文化祭は何の問題もなく、終わった。

 

雪ノ下はこれで上の学年の生徒にも自分の優秀さと名前を認識できたと満足であったが、彼女の予想とは180度異なり、上級生からの雪ノ下の認識は、

 

優秀であるが、口の悪い生意気な後輩。

 

性格が歪んでいる。

 

人間性に問題のある奴。

 

 

同級生からは、

 

一緒に仕事をしたくない同期。

 

海洋科の生徒‥特に、今後雪ノ下と同じ艦に乗る生徒には同情する。

 

とまで、言われていた。

勿論、雪ノ下からの罵倒の報復を恐れた生徒たちはそのことを雪ノ下本人の前で言うものは居なかった。

言ったところで、負け犬の遠吠えであり、暴力で訴えれば、退学処分になる可能性が高かったからだ。

前世と異なり、雪ノ下建設の名は千葉では有名な企業。

その企業の令嬢に暴力を振るったら、家族にも迷惑がかかるのを重々承知していたからだ。

 

そして、生徒からの受けは悪かった雪ノ下であるが、教師からの受けは良かった。

雪ノ下は今回の文化祭の実行委員で十分な手ごたえを感じた。

 

 

此処で視点を日本の千葉からドイツのキールへと戻す。

 

シャルンホルストにて本物の幽霊騒動が起きる前‥‥

キール校の校門の前に一人の少年が居た。

 

「キール海洋学校‥‥ここにあの人が‥‥ユーリさんが‥‥」

 

少年はキール校の校門を見上げた後、文化祭中のキール校へと入っていった。

 

少年がキール校の校舎に入ってから、少しして、シュテルのクラスの出入り口で受付係をしていたユーリは、

 

「ユーリ、交代の時間だよ」

 

クラスメイトから交代を告げられる。

 

「ん、それじゃあ、後をお願いね」

 

「了解」

 

クラスメイトと受付を交代して文化祭を見て回ろうとした時、

 

「ユーリさん!!」

 

「ぬうぉ!!」

 

ユーリは突如、誰かに抱き着かれた。

 

「ぬ?」

 

ユーリは自分に抱き着いた者の正体を探ろうと視線を下げる。

そこには、

 

「えっ?もしかして、クラウス!?」

 

自分に抱き着いてきたのは、夏休み中、田舎マフィアと腐敗していた地元警察から追われていた少年だった。

 

「はい!!お久しぶりです!!」

 

教室の出入り口で少年が抱き着いてきた光景を見たクラスメイトは当然、ユーリに少年が誰なのかを聞いてくる。

 

「エーベルバッハさん、その子誰!?」

 

「かわいい!!」

 

「親戚の子?」

 

「えっ?ちょっ‥‥」

 

突然、クラスメイトから囲まれ、ユーリはたじたじ。

そこへ、

 

「どうしたの?何があった?」

 

シュテルがやってきた。

 

「あっ、碇さん。見て、見て、エーベルバッハさんの知り合いの子!!」

 

クラスメイトの一人がクラウスをシュテルに見せる。

 

「ん?ユーリの知り合い‥‥?」

 

これまでユーリの家とは家族ぐるみでの付き合いだったが、自分が知る限り、ユーリの親戚に眼前に居る少年は知らない。

 

「あっ、いや、この子は夏休みに知り合った子で‥‥」

 

「へぇー‥‥」

 

(そういえば、ユーリも夏休みの時に色々あったって言っていな‥‥)

 

夏休み明けにシュテルは自分同様、ユーリも夏休み中に色々と大変な事があったと言っていたことを思い出した。

 

「もしかして、わざわざユーリに会いに来たの?」

 

「はい。ユーリさんにはお世話になったので‥‥」

 

「なるほど」

 

「それじゃあ、わざわざ来てくれたんだから、ユーリには目一杯、その子を案内してあげて」

 

「えっ?ちょっ、クリス!?」

 

クリスはユーリにクラウスとのホステス役を提案する。

 

「そうだね。その子、ユーリの事を慕っている様だし‥‥」

 

そう言って、シュテルは、

 

「ユーリは私の親友で、とってもいい人だよ。きっと今日の文化祭を思い出に残る日にしてくれるよ」

 

「しゅ、シュテルまで‥‥」

 

「それじゃあ、ユーリ、その子と一緒に楽しんできてね」

 

「ぬ、ぬぅ~‥‥」

 

ユーリはクラウスと共に文化祭を回ることになった。

クラウスの年齢がまだ十代前半のためなのか、特に嫉妬する者はいなかった。

逆にみんなはクラウスの事を可愛い弟を見るような目で見ていた。

 

(ユーリにも年下だが、春が来たってことか‥‥これも青春の一ページなんだろうな‥‥やべっ、なんか考えがあの独神と同じ感じになってきた‥‥)

 

(そういえば、前世の年齢を含めれば、今の俺ってアラサーじゃん!!)

 

外見は高校一年生でも精神年齢は前世を含めて三十路を超えており、平塚先生と同世代なことに気づくシュテルは人知れず、ショックを受けていた。

 

(だ、大丈夫だ‥‥俺には天使が‥‥戸塚が日本で待っているんだ‥‥だから、独神じゃない‥‥)

 

前世では同性同士で恋仲になることはあり得なかったが、今は異性同士‥‥

それに戸塚が前世において、自分が自殺するまで彼女を作ってはいない。

シュテルは少なくとも、来年の年末まで戸塚はフリーだと思っていた。

だからこそ、来年には日本への留学を決めたいと思っていた。

しかし、ミーナ教官に関しては、シュテルは海外へ行くと怪我をするので、あまり彼女を海外へ出したくはないと思っていたりもしていた。

 

ユーリがクラウスと文化祭を見て回り、シュテルが実行委員として、会場内を巡回していると、シャルンホルストにて何やらトラブルが起きたみたいなので、シュテルはシャルンホルストへと向かった。

話を聞くと、シャルンホルストで行われているイベントに参加したダートマス校の生徒がお化け役の生徒に首を絞められたと言う。

しかし、来場者やシャルンホルストのクラスメイトに事情を聞いてもダートマス校の生徒の首を絞めたお化け‥‥話を聞くと、首がないお化けらしいのだが、そんなお化けは元々配置されていなかった。

シャルンホルストの内部に不審者が居たのかもしれないが、来場して出ていない者はいなかった。

そんな中、昔からキール校で働いている用務員が来た。

事情を説明するとその用務員は首のないお化けに心当たりがあるようで、事情を聞いてみると、昔、文化祭前日に踏切事故で命を落とした生徒の話をした。

用務員の話と状況から、ダートマス校の生徒の首を絞めたお化けはもしかしたら、本物の幽霊である可能性が出た。

それを聞いたダートマス校の生徒は気を失って、医務室へと運ばれた。

 

 

「うっ‥‥うーん‥‥」

 

医務室に運ばれたダートマス校の生徒、マリアはそれからしばらくして、意識を取り戻した。

瞼を開けて彼女が最初に見たのは白い天井だった。

 

「知らない天井だ‥‥」

 

そして、お決まりのセリフをはくマリア。

 

「あっ、目が覚めた?」

 

「えっ?」

 

白い天井を呆然と見ていると、マリアは声をかけられた。

声がした方を見ると、そこにはグレニアが慕ったキール校の生徒‥シュテルが居た。

 

「えっと‥‥碇‥さん?」

 

「お水‥飲みます?」

 

「は、はい。いただきます」

 

シュテルはベッドわきのテーブルに置かれていたミネラルウォーターのボトルの蓋を開け、紙コップへと注ぎ、マリアに手渡す。

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ミネラルウォーターを飲みながらマリアは辺りを見渡すと隣のベッドにはグレニアが眠っていた。

 

「えっ?グレニア!?」

 

「ああ、彼女もあの話を聞いて、貴女と同じく気を失って倒れてね」

 

シュテルはグレニアがどうして医務室で眠っているのか訳を話した。

 

「そっか‥グレニアはホラーが苦手だからね」

 

マリアは苦笑しながら言う。

 

「でも、友人のためならば、危険を顧みない勇敢なところもありますよ‥‥ちょっと、無謀で無茶が過ぎる所もありますけど‥‥」

 

夏休みでの体験入学を思い出し、グレニアの長所を述べる。

 

「うん。それは私も知っている‥‥グレニアにはいつも助けられてばかりだから‥‥」

 

(この子にとってグレニアは俺にとってのユーリやクリスみたいな存在なんだろうな‥‥)

 

グレニアの事を語るマリアの表所を見てシュテルはそう思った。

一方、マリアの方はちょうどいい機会なので、シュテルと語り合ってみようと思った。

 

「あ、あの‥碇さん」

 

「ん?」

 

「碇さんはその‥‥名前から察するに日本人の血が混じっていると思うんですけど‥‥」

 

「ええ、父が日本人です」

 

「‥‥碇さんはそれで、周囲の人から、混血であることについて、何か言われたことってありませんか?」

 

マリアは同じ、日系の混血と言うことで、シュテルに今まで差別みたいなことがなかったかを訊ねた。

 

「うーん‥‥特に今までの人生ではそう言ったことは言われたことはなかったですね」

 

まぁ、シュテルにとって混血以上の事を前世では言われてきた。

 

「カレンさんも確か同じ、日系でしたね?彼女は?」

 

「カレンは私と違って髪が金色で、あの明るい性格ですから、そう言ったことはなかったみたいです」

 

同じ日系イギリス人でもカレンは金髪、マリアは黒髪と言うことで、カレンはシュテル同様、これまで差別的な扱いは受けていなかったみたいだ。

 

「貴女はその黒髪が嫌なの?」

 

「‥‥」

 

マリアとしては、家族は好きだ。

でも、混血と証明している日本人特有のこの黒髪を憎いと思ったことはこれまでの人生で何度かある。

マリアが俯いていると、

 

ポフッ

 

「えっ?」

 

マリアの頭にシュテルの手が乗っけられる。

 

「黒髪だって悪いもんじゃないぞ‥‥知的で大人っぽい印象があるからな‥‥」

 

(綺麗な長い黒髪‥‥雪ノ下と同じだ‥‥アイツも人間性に問題はあるが、成績は優秀な奴だったからな‥‥)

 

(あわわわわ‥‥い、碇さんの手、なんだかとっても温かく、落ち着く‥‥)

 

シュテルがマリアの髪を撫でていると、背後から視線を感じる。

振り向いてみると、そこにはいつ起きたのか、グレニアがベッドから上半身を起こして、シュテルとマリアの事をジッと睨んでいた。

 

「ぐ、グレニア‥‥」

 

「お、起きていたんだ‥‥」

 

「むぅ~‥‥ずるいぞ!!マリア!!シュテル!!あたしにもかまってくれよ!!折角、キールまで来たんだから!!」

 

グレニアはまるで拗ねる子猫の様に言ってきた。

そんな彼女の様子にもシュテルもマリアも思わず笑みがこぼれ、グレニアを交えて談笑した。

 

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