やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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シュテルたちが映画 二百三高地を見ました。


53話

 

地中海にて、海賊の出現で足止めをくらいつつも、シュテルの実績により特別に制限海域を航行でき、日本へ向かうことが出来たが、寄港予定地のリビアのトリポリの手前でブルーマーメイドが捜していた海賊と遭遇。

しかも情報では、相手の海賊は商船改造の海賊船だったが、突如情報にはなかった強奪潜水艦の雷撃もあった。

だが、シュテルの機転により、その危機を脱し、逆に敵潜を捕縛するに至った。

地中海で海賊騒動に巻き込まれたヒンデンブルクであったが、無事にトリポリに到着し、補給を行い、スエズ運河を通り、日本を目指す。

そんな航海中に、書記のメイリンがシュテルに日本映画の上映の許可を求めてきた。

その映画の内容はどうも日本の歴史に関係あるモノらしい。

これから向かう日本語と日本の歴史を知るためにもシュテルはその映画の上映を許可した。

上映会は寄港地であるセイロン島に到着してから行われた。

航海中では当直勤務でクラスメイトが全員そろうことがないからだ。

 

ヒンデンブルクの講義室にて、上映会は行われた。

講義室の明かりを消し、窓には暗幕が敷かれ、スクリーンを下ろして、プロジェクターに連動しているパソコンにディスクを入れると、スクリーンに映画が上映される。

 

(おいおい開始冒頭から、いきなり日本人の処刑から始まったぞ‥‥)

 

DVDのジャケットから戦争映画であると思っていたが、いきなり衝撃的な内容から始まる。

日本のスパイであった横川省三と沖禎介の処刑場面から始まった。

 

 

大陸の利権をめぐり、日本とロシアとの間の緊張が高まり、国交断絶、戦争一歩手前となる。

 

「閣下、今がご決断の時です。不肖、この児玉も一兵卒として血を流す覚悟です。場合によりましては、陛下御自ら台頭を進め、陣頭指揮を仰がなければなりますまい‥‥閣下も死んでいただきます」

 

「児玉君‥‥」

 

 

 

「決議通りで良い」

 

明治天皇がロシアとの戦争を了承し、とうとう日本はロシアとの戦争へと突入する。

開戦三ヶ月と少しで、日本軍は東洋一の軍港、旅順と言う難関に直面した。

此処には40隻からなるロシア東洋艦隊が駐屯し、日本軍の大陸への輸送路を脅かす。

連合艦隊は広瀬武夫中佐らの決死隊が三回にわたり、老朽化した汽船を港湾出口に沈める閉塞作戦を実施するもいずれも失敗に終わった。

日本軍の動きを見て、ロシアは本国バルト海に展開しているバルチック艦隊の極東回航を決めた。

日本としてはバルチック艦隊が日本近海に着く前にこの旅順艦隊の殲滅を余儀なくされた。

大本営は海上からではなく陸上から旅順を攻略することに決めた。

そして、旅順攻略に関して第三軍を組織して、軍司令官に乃木希典を任命した。

第三軍の編成は、東京第一師団、金沢第九師団、四国第十一師団の三つの師団から組織された。

正規の軍人だけでは足りないのか、金沢で小学校の教員をしていた若い教師、豆腐屋で働いていた青年、妻を亡くし、子供たちを内地に残して戦地へと赴くことになった父親など、予備役の男たちも戦争に駆り出された。

 

(そういえば、この時代にはまだ徴兵制が日本であったな‥‥)

 

映画を見ながらシュテルは前世の日本史の授業で明治の日本には徴兵制があったことを思い出す。

更に場面が進み、豆腐屋で働いていた青年の場面にて戦地へ赴く息子のために母親が腹巻にお金を入れていたが、父親が酒代に使ってしまった事で夫婦喧嘩に発展する。

そこへ息子が帰ってくると父親は、「名誉の戦死をしてこい、生きて帰ってこられても恩給が安いからな」とあまりにも父親らしくないことを言う。

 

(前世で、この時代に生まれていたら、あの親父と同じことを言っただろうな‥‥)

 

もし、八幡として生を受けた時代がこの日露戦争の時代で両親も前世の親と同じだったら、自分の父親もスクリーンに映し出されている親父と同じことを言うだろうと思うシュテルだった。

 

やがて、舞台は大陸の旅順となる‥‥

ロシア軍は旅順にて、当時としては超近代化した要塞を築き上げていた。

いくつもの塹壕に鉄条網、機関銃、新型の手榴弾、大砲、更には船舶用の機雷まで用意していた。

堡塁も例え一つを占領しても上から銃撃を加えることが出来るような作りになっていた。

堡塁網の向こうには深い堀があり、その下には木の串があり、落ちた日本兵は串刺しになるか、要塞陣地に備えてある機関砲の餌食になるかのどちらかであった。

この要塞を突破するには気球や飛行船などで、空からでなければ突破できない。

日露戦争当時ではまだ飛行船はなく、また陸上兵器においては戦車もない。

そのため、日本軍は後方から砲兵隊の援護射撃を受けながら歩兵を突入させる。

しかし、鉄条網と機関銃が日本兵の行く手を遮る。

第三軍より先発していた第二軍は、五月二十六日、金州南山を占領するも予想外の死傷者を出した。

この時の戦闘で乃木希典の長男、乃木勝典が戦死した。

 

六月一日、第三軍司令部は広島の宇品を出港、旅順を目指した。

 

第三軍は遼東半島上陸後、旅順を目指し進撃を続け旅順要塞手前の堡塁に布陣。

第一師団は、大頂子山、水師営方面、

第十一師団は、東鶏冠山

第九師団は、二龍山を攻撃目標とした。

 

八月十日、第三軍の旅順包囲を知ったロシア東洋艦隊は、旅順港を脱出してウラジオストクへと向かうが、待ち構えていた連合艦隊に捕捉され、黄海で一大海戦をしたのち、生き残った艦は旅順港へと逃げ帰った。

バルチック艦隊到着前に東洋艦隊殲滅と言う戦果は成しえなかった。

大本営は連合艦隊からの要請を受けて、一度は正面陣地を攻撃するのでなく、二百三高地を攻撃目標とし、占領、そこから湾内の敵艦に対して砲撃してはどうかと言う作戦を提案するも、第三軍司令部はあくまでも正面攻撃にこだわった。

 

八月十九日、第三軍はいよいよ、旅順要塞へと総攻撃に移った。

しかし、相手はコンクリートと機関銃、大砲、鉄条網、深い堀で守られた要塞。

 

「突撃!!」

 

『わぁぁぁぁぁー!!』

 

「進め!!進め!!」

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

突撃ラッパと共に要塞へと突撃する日本兵。

身を隠すモノがない野戦では、機関銃と大砲相手に日本兵はバタバタと斃れていく。

 

第一師団右翼隊 大頂子山攻撃失敗 第二中隊全滅

 

第九師団右翼隊 竜眼北堡塁攻撃失敗 歩兵第三十六連隊死傷大

 

第一師団左翼隊 水師営南方堡塁突入失敗 第一、第三大隊 全滅

 

八月二十一日

 

第九師団 第七連隊、第三十五連隊 盤竜山前哨堡塁に突入失敗 第七連隊ほぼ全滅

 

第十一師団 東鶏冠山永久堡塁に突入失敗 第二十二連隊ほぼ全滅

 

乃木はあまりに甚大な被害を受けたため、総攻撃の中止を下令。

第一次総攻撃で第三軍は五つの連隊が壊滅。

その他の部隊も半数以上の将兵を失う大損害を出した。

戦果は第九師団、第七連隊が占領した堡塁一つであった。

その第七連隊も全体の90%の将兵たちが戦死した。

 

「飯です!!飯が届きました!!」

 

一人の兵士が、飯が入った防水布を持ってくる。

生き残った兵士たちは雨に濡れて冷めた飯に群がる。

自分たちの手が土埃や血で汚れていても構わず手掴みで米を口へと運ぶ。

 

「この赤いのはなんだ?」

 

米を食べながら、米についた赤いモノが気になった様子。

 

「五目飯じゃないか?」

 

米の具だと思って食べていると、

 

「血だ!!」

 

「うぇぇぇ」

 

「おぇぇ」

 

「ぺっぺっ‥‥」

 

米の上についていた赤いモノは具でなく、人の血だった。

赤いモノが血だと分かった兵士たちは口に入れていた米を吐き出す。

 

 

「旅順要塞は‥‥お化け屋敷だ‥‥だれも生きて帰れん‥‥だれも‥‥生きて帰れんぞ‥‥」

 

 

『‥‥』

 

映画だと分かっているが、戦闘描写があまりにもリアルだったので、ヒンデンブルクのクラスメイトたちは唖然としたり、顔色を悪くする者も居た。

 

「‥‥後半の第二部‥‥見ますか?」

 

「これ、二部構成なの?」

 

「はい」

 

メイリンが恐る恐る後編も見るかと訊ねる。

 

「‥‥見るのは希望者だけでいいんじゃないかな?」

 

「そ、そうですね」

 

前編の戦闘場面のショックから、後編は希望者だけが見ることになった。

 

「シュテルンはどうするの?続き見る?」

 

「う、うん‥‥ここまで見たら、続きが気になるし‥‥ユーリとクリスは?」

 

「わ、私も付き合うよ」

 

「私も‥‥」

 

「無理することはないよ」

 

「へ、平気だよ」

 

「うん‥‥」

 

(あまり大丈夫そうには見えないけどな‥‥)

 

しばしの休憩の後、後編の上映が始まった。

 

第一次総攻撃の失敗から第三軍は内地より、とっておきの強力な兵器を搬入した。

それは口径28cmの榴弾砲で、東京湾や大阪湾に防衛のため設置されていたモノの内、18門をこの旅順攻略戦の為に持ってきた。

そしてわずか九日間で前線に設置された。

この榴弾砲の砲弾は一発、300キロの重さがあった。

十月一日、この28cm榴弾砲が初めて旅順要塞に向けて火を吹いた。

しかし、この強力な榴弾砲の砲撃でも要塞の攻略は難しかった。

 

物語の中で、第七連隊の兵士たちの中で、妻を亡くし子供を内地に残してきた一人の兵士が、自分と同じ徴兵されたヤクザの兵士に人気のない森に連れだされ、

 

「お前、金沢に帰りたいだろう?」

 

そう言って、銃に弾を込める。

 

「お前‥‥まさか、ワシを‥‥」

 

「引き金引く指がなければ兵隊は出来ん。内地に帰れるがや、敵の流れ弾に当たったと言えばいい」

 

「バレたら、お前が軍法会議じゃぞ」

 

「覚悟はガキの頃からできちょる。まぁ、辛抱せいや、指一本無くなったって、子供は抱けるさかい」

 

そう言って仲間の兵士の指を撃とうとするが、

 

「待て‥‥待ってくれ!!」

 

「辛抱せい!!」

 

「ちごう‥‥ワシはみんなと一緒に帰りたい‥‥なっ?一緒にやろう?死ぬ時はみんなで一緒に死のう‥‥ワシはその方が良い‥‥」

 

「この阿呆が‥‥ド阿呆が‥‥」

 

生死を共にしただけの赤の他人同士なのに、彼らの中には強い仲間意識が生まれていた。

 

(俺も戦場では、あんな風になれたのだろうか‥‥?)

 

(いや、前世の人間関係じゃ無理だな‥‥それどころか、背中から撃たれていたな‥‥)

 

シュテルはもし、前世で戦争が起きた時、クラスメイトと共に徴兵され戦地へ送られた時、他のクラスメイトと共に協力できただろうかと自問する。

だが、結果は無理だと思った。

 

豆腐屋で働いていた青年は戦死したラッパ手の代わりに念願のラッパ手になっていた。

しかし、軍はもう突撃ラッパは吹かないと知らされ、ちょっと残念そうだった。

 

十月十六日、バルト海に展開するバルチック艦隊は極東を目指し、大航海の途に就いた。

しかし、スエズ運河をイギリスが抑えていたので、バルチック艦隊はスエズ運河を使えず、アフリカの喜望峰経由で極東を目指した。

 

第三軍の参謀が満州軍総司令部へと赴き、大砲の弾の調達を頼むが満州軍の方でも砲弾が不足している様子で第三軍に回せない。

児玉は、弾がなければ突撃してでも第二次総攻撃を始めろと言う。

しかし、参謀は兵士の犠牲を懸念して渋る。

第一次総攻撃にて第三軍の死傷者があまりにも多すぎて慎重に事を進めていたのだが、他の軍からすれば、『なにをノロノロしている?』 と思われていた。

 

「言い訳をするな!!」

 

「言い訳ではありません!!‥‥総参謀長は、我が軍の戦死者の数をご存知ないのですか?」

 

「なぁに~‥‥主はワシに喧嘩ぁ売る気かぁ!?」

 

満州軍に急かされる形で乃木は、第二次総攻撃の命令を下した。

十月二十六日、第二次総攻撃が始める。

しかし、結果的に失敗した。

 

「旅順か‥‥あんな軍港一つが日本の命とりになるのか!?」

 

第二次総攻撃後、日本とロシアとの間で24時間の休戦時間が設けられ、戦死者の遺体収容が行われた。

敵同士なのに、この時間だけは互いに缶詰め、タバコ、酒を交換したりしていた。

第二次世界大戦では考えられない時間と光景であった。

 

日本では乃木邸に戦死した将兵たちの遺族が詰め寄り、投石や暴言を吐きかける。

 

(集団ヒステリーって怖いねぇ~‥‥まっ、それは前世で経験済みだけどな‥‥)

 

前世では敢えて自分にヘイトが集まるように自己犠牲をして依頼を解決してきたが、噂を聞いて、噂を信じて依頼とは全く関係ない奴までもが噂に便乗して暴力に訴えてききた。

人って言うのは、本当に幽霊やお化けよりも怖い生き物なのかもしれない。

 

「幾千の人命を命令一つで殺して、将たるものに、名将など一人もおらん」

 

第三軍司令部にやってきた次男の乃木保典に軍人としての自分をどう思うかと言う質問に対して、保典は「名将として尊敬します」と答えるが、乃木は「名将などというモノは存在しない」と答える。

 

名将とはいかにして、自軍の兵をうまく殺して、敵に大損害を与えるかが仕事なのだろう。

葉山隼人の様に「みんな仲良く」が実現すれば、戦争やテロなんて起きない。

もし、それを実行できる者が居たら、その者こそ、真の英雄であり、名将なのかもしれない。

 

 

十一月七日、バルチック艦隊は寄港地の一つ、モロッコ、タンジェールを出港した。

 

海軍は旅順の戦況が好転しない場合、海上封鎖を解いて、バルチック艦隊との決戦に備えて内地に帰るとまで言い出した。

政府はこの際、援軍として旭川第七師団の増援と司令部の人事転換を提案した。

しかし、明治天皇は、旭川第七師団の援軍は許可したが、乃木の更迭は却下した。

 

十一月二十六日、第三次総攻撃が下令された。

 

第三次総攻撃は白襷隊の決死突撃から始められた。

これは各師団選抜の混成部隊。

正面要塞陣地を突破分断して、旅順市街へ一気に切り込もうとする暴挙に等しい奇襲戦法であった。

白襷隊は松樹山堡塁の突破を試みるも、最初の戦闘で隊員の半数を失い、一歩も進めないまま壊滅に等しい被害を受けた。

白襷隊に呼応して、本防御陣地への攻撃が三度行われ、第十一師団は、歩兵第二十二連隊が主力となり、東鶏冠山へ突入。

第九師団は、歩兵第十九連隊が主力となり、二竜山へ突入した。

しかし、結果的にこの第三次総攻撃も失敗した。

此処に至り、第三軍は正面突破を一時中止し、二百三高地を攻撃し、湾内のロシア艦隊への砲撃作戦へと移行した。

主力は第一師団、第七師団となった。

 

そんな中で、物語が進んで行くと、妻を亡くし子供を残した父親の兵士が戦死した。

その後、二百三高地の攻略にあたって金沢の小学校の教師だった青年が捕虜の尋問にあたる。

彼は、ロシア語に堪能だった。

しかし、捕虜は情報を喋らず逆に挑発してきた。

それに対して切れた青年士官は捕虜を射殺しようとする。

だが、周りに居た他の士官たちに取り押さえられる。

 

(戦争に行く前は、ロシア大好きな先生が、今じゃ、180度変わってアンチ・ロシアに‥‥戦争はここまで人格を変えるモノなのか‥‥とはいえ、目の前で大勢の部下を失ったら、そうなるのも頷けるな‥‥)

 

青年士官の性格の変貌にシュテルは艦長として分かる気がした。

 

青年士官は何故捕虜を殺そうとしたのかと尋問する士官たちに対して、

 

「最前線の兵には、対面も規約もありません。あるんは、生きるか死ぬか。それだけです。兵達は‥死んでいく兵達には、国家も軍司令官も命令も軍規も、そんなものは一切無縁です!灼熱地獄の底で鬼となって焼かれていく、苦痛があるだけがです!その苦痛を、部下たちの苦痛を、乃木式の軍事精神で救えるがですか!?それなのに、部下やご令息を死地に駆り立てながら、敵兵に対して、人道を守れと命ずる軍司令官のお考えは!自分には理解できんがです!!」

 

勝手に捕虜を殺そうとした青年士官であるが、乃木はこの件を不問にした。

 

十一月二十八日、二百三高地を巡る日露両軍の戦闘は激化した。

二百三高地にも当然機関銃の銃座が設けられていた。

迫りくるロシア兵は機銃斉射をして日本兵はバタバタと斃れていく。

二百三高地を巡る攻防戦の中、乃木の次男、保典も戦死した。

兄・勝典の死から半年後のことだった。

 

二百三高地での攻防でも苦戦する中、満州軍総参謀長の児玉が来た。

乃木と児玉が二百三高地での作戦会議にて、

 

「ここはな、黙ってワシが投げる石になってくれ」

 

「児玉! ワシは木石じゃないぞ!」

 

「乃木!貴様の苦衷など斟酌している暇はわしにはない! ワシが考えていることはのう、ただこの戦争に勝つこと!‥‥それだけじゃ!」

 

二人の息子を失い、半ば自暴自棄になっていた乃木に対して、児玉は怒鳴りつける。

 

その夜、司令部では二百三高地攻略戦についての作戦会議にて、児玉は重砲隊の配置転換を命令。

後方から重砲の援護射撃にて二百三高地の攻略では、突入部隊にも砲弾を浴びせる危険があると指摘されたが、児玉は少々流れ弾を被るのはやむを得ないと、同士討ちも辞さないと言う。

参謀たちは最後まで反対したが、

 

「陛下の赤子を今日まで無駄に殺してきたのは誰じゃ?貴様たちじゃないんか!?戦は気合じゃぞ! 尻込みする前に実行せい!」

 

これまでの作戦の失敗と犠牲者の数、バルチック艦隊の到着と言う時間の問題から、軍は同士討ちの危険を承知で二百三高地の攻略に踏み切った。

これまでの戦闘でロシア軍も弾薬が不足し、海路、陸路ともに日本軍が包囲しているので補給が出来ない。

ロシア軍が誇るマキシム機関銃も弾がなければただの鉄の塊‥‥

投石と銃剣同士の戦闘、肉弾戦が展開され、ロシア軍の兵士は徐々にその数を減らしていく。

やがて、

 

第二十七連隊集成第三中隊 二百三高地西南山頂占領

 

第二十八連隊集成第一中隊 二百三高地東北山頂占領

 

集成第二十五連隊 二百三高地中央山頂占領

 

日本軍は二百三高地の占領に成功した。

二百三高地占領と同時に重砲隊は山越しに旅順湾内のロシア艦隊を砲撃。

主力艦十数隻を撃沈し、開戦以来宿願であったロシア東洋艦隊撃滅の目標を達成した。

その後、第三軍は正面要塞陣地へ総攻撃を敢行した。

 

十二月十五日 第十一師団 東鶏冠山永久堡塁占領

 

十二月二十八日 第九師団 ニ竜山永久堡塁占領

 

この二竜山占領は旅順のロシア軍降伏を決定づける結果となった。

 

(‥‥先生‥死んじゃったよ‥‥)

 

こうして旅順の戦いは終わった。

しかし、金沢に婚約者を残したあの教師だった青年士官は戦死してしまった。

 

明治三十八年 三月。

日露陸軍最後の戦いは奉天で行われ、日本軍が圧倒的勝利を収めた。

しかし、ロシア軍は数十万の戦力を長春に配置し、両軍は膠着状態となる。

日露両国の勝敗は、連合艦隊とバルチック艦隊の海上決戦に賭けられた。

この日本海海戦では、旗艦三笠の敵前回頭‥丁字戦法で勝敗の大勢は決し、二日間にわたる戦闘でバルチック艦隊は壊滅した。

 

金沢では、青年士官の戦死報告が入り、教壇には花と遺影が飾られていた。

彼の帰りを待ちながら、臨時教員をしていた婚約者は、黒板に彼が戦地へ赴く前に書いた「美しい日本 美しいロシア」と書こうとした時、ロシアの文字が書けなかった。

やはり、大切な人を奪った国の名前は書けなかったのだ。

 

それから、日本へ帰国した乃木希典は宮中の明治天皇を前に戦勝報告をする。

 

「つつしんで復命ス。臣希典。乏しきヲもって明治三十七年五月第三軍司令官たるの大命を拝し 旅順要塞の攻略に任じ、六月絢爛を抜き、七月敵の逆襲を撃退し、次いでその前進陣地を交換し、もって敵を本防御線内に圧迫し、我が海軍の有力なる協同動作とあいなして旅順要塞の攻囲を確実にせり、事後 正攻法をもって攻撃を続行し、逐次要塞内部に砲撃し、十一月下旬より十二月上旬には、二百三高地を激攻して、ついにこれを奪取し、港内に詰伏せる敵艦を撃沈せり、まさに要塞内部に突入せんとするにあたり、三十八年一月一日 敵将 降を請い、ここに攻城作戦の終局‥‥‥‥攻城作戦の終局をつげたり‥‥これを擁するに本軍の作戦目的を達成するヲ得たるは陛下の御稜威と上級統帥部の指導ならびに友軍の協力とによる‥‥ちこうして作戦十六ヶ月間、我が将卒の常に敬敵と健闘し、忠勇熾烈 死をみることきするがごとく‥‥」

 

乃木の手は震え、脳裏には機関銃でバタバタと斃れていく将兵たちの姿がよみがえる。

そして、ある青年士官の言葉も聞こえてきた。

 

兵達には 死んでいく兵達には国家も軍司令官も命令も軍規もそんなものは一切無縁です。

灼熱地獄の底で鬼となってやられていく苦痛があるがだけです!!

その苦痛を、部下達の苦痛を、乃木式の軍人精神で救えられるですかぁ!?

 

「剣に倒れ、弾に倒れる者‥皆、陛下の万歳を歓呼し、欣然と瞑目したるは‥‥真にこれを複想すえざらんと欲するもあとわず‥‥しかるにかくの如き 忠勇の将卒をもってして、旅順の保場には半歳の長日月を要し、 多大の犠牲をきょうじたるは臣‥‥臣が終生の遺憾にして‥‥」

 

乃木は等々その場に泣き崩れる。

すると明治天皇陛下がゆっくりと玉座から立ち上がり 乃木に歩み寄って、彼を労った。

 

明治三十九年 七月 児玉源太郎 急死

 

明治四十二年 十月 伊藤博文 暗殺サル

 

明治四十五年 七月 明治天皇 崩御

 

同年 九月   乃木希典 静子夫妻 自決

 

その字幕を最後にエンディングが流れた。

 

(人間って随分と勝手だねぇ~‥‥戦争中は乃木邸に投石までしたのに、戦争が終われば乃木大将万歳だなんて‥‥)

 

(この映画のエンディングでも『海は死にますか』の部分‥汚染されて生き物が死滅した海は死んだも同然だし、山も切り崩されたら死ぬし、愛も死んだから離婚や破局しているじゃないか‥‥心だって死ねば、精神を患うし‥‥)

 

何故か、エンディングの歌詞に対してもツッコミを入れるシュテルだった。

 

前世では文系の成績が良かったシュテル(八幡)であったが、ここまで詳しく歴史を見ることはなく、当然戦争映画なんて見たことはなかった。

しかし、こうしてみてみると、映画とはいえ近代化し始めた日露戦争で、これだけの悲惨な戦場だったのだから、第二次世界大戦の戦場なんてもっと地獄の様な戦場だったのだろう。

そう思うと、前世でも戦争の時代に生まれなかったこと、

この後世で第二次世界大戦がなかったこと鑑みて、改めて平和の尊さを実感したシュテルだった。

 

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