やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

58 / 161
57話

四月七日、一日遅れで横須賀女子を出航したヒンデンブルク。

 

当日、合流地点である西之島新島でシュペーを始めとする横須賀女子の新入生たちの学生艦で異変が起きているのを知る由もない、ヒンデンブルクは、第二目的地である鳥島を目指して航行していた。

 

その日の夕方、海上安全整備局から衝撃的な内容の放送が流され、ヒンデンブルクもその放送を傍受していた。

 

「‥‥ザー‥‥学生艦が叛乱。猿島を攻撃。猿島は沈没、艦長以下乗員は全員無事‥‥ザー‥‥なお、この事件の首謀者は‥‥横須賀女子海洋高校所属、航洋直接教育艦、晴風とし、海上安全整備局は同艦を叛乱者とみなし、行方を追っている‥‥」

 

「学生艦が叛乱!?」

 

「それに横須賀女子って、私たちの演習相手じゃない!?」

 

「新入生が叛乱を起こしたってこと!?」

 

ヒンデンブルクの艦橋員たちも海上安全整備局からのこの放送をきいてどよめく。

 

「艦長はどう思います?」

 

メイリンがシュテルに意見を求めてくる。

 

「完全には鵜呑みにできないな」

 

シュテル本人は海上安全整備局の言い分にやや否定的だった。

 

「なぜです?」

 

「まず、晴風に乗っていたのは横須賀女子の新入生たちだ。高校に入りたての学生が僅か一日で、テロ行為を起こすのはあまりにも妙だ‥‥それに、あの場にはテアたちのシュペーを始めとして他の学生艦も居たはずだ。仮に晴風一隻が叛乱をしたとしてもあっという間に鎮圧されて終わる。他の艦についての情報が一切ないのも妙だ‥‥」

 

叛乱容疑をかけられた晴風は旧日本海軍の陽炎級駆逐艦。

 

一方、教員艦である猿島はブルーマーメイドでも正式採用しているインディペンデンス級沿海域戦闘艦。

 

しかも晴風が搭載している魚雷は模擬弾の魚雷が一発だけ‥‥

 

どう考えても猿島を沈めるのは難しい。

 

それにあの場にはテアが艦長を務めるシュペーも居た。

 

猿島とシュペーの二隻だけでも晴風を鎮圧することは十分に可能だ。

 

そもそもテアならば、なにかあれば自分たちに連絡をよこすはずだ。

 

しかし、シュペーからは未だに何の連絡もない。

 

何かあったとしたら、テアの事だ、必ず自分に連絡をよこすはずだ。

 

「どうします?横須賀女子に連絡をして、引き返しますか?」

 

「うーん‥‥いや、シュペーの事も気になる。何かわかるまで、このまま予定通りの航路をとる」

 

シュテルはシュペー‥テアの事も心配なので、引き返さず、予定の航路をとり、横須賀女子の学生艦との合流を目指すことにした。

 

四月八日、シュペーの艦橋上部で一夜を過ごしたテアとミーナ。

 

ここが四月、日本の小笠原諸島~伊豆諸島の海域であったことが幸いした。

 

これが北大西洋であったら‥‥タイタニックが沈んだ海域だったら、風邪を引いているか下手したら凍死していたかもしれない。

 

無線が使用不可能で、乗員であるクラスメイトたちもゾンビの様になっており、意思疎通が出来ず、逆に自分たちに襲い掛かってくる。

 

これから先、自分たちはどうなってしまうのか?

 

助けは来るのだろうか?

 

お先真っ暗な未来に絶望しているのか、二人とも顔色が暗かった。

 

 

小笠原諸島~伊豆諸島の海域では、シュペーの他に彷徨うかのように航行している一隻の学生艦がいた。

 

それは、海上安全整備局から叛乱の容疑をかけられた横須賀女子所属の航洋直接教育艦、晴風だった。

 

 

晴風は一昨日の六日の夜に、エンジン故障で一度、エンジンを停め、更に航路を間違えた為に、待ち合わせ場所である西之島新島に遅れる形で到着した。

 

しかし、到着したばかりの晴風に対して、教員艦である猿島がいきなり発砲してきた。

 

 

しかも模擬弾ではなく実弾をだ‥‥

 

晴風艦長の明乃は乗員の安全を最優先として、猿島に模擬弾の魚雷を撃ちこみ、退避した。

 

その後、猿島はなぜか沈没し、他の学生艦は横須賀女子に連絡を入れることもなく、また、学校へ戻ることもなく、何処かへ去っていった。

 

逃げることで精一杯だった晴風は他の学生艦がどこに向かったかなど、確認する暇などなかった。

 

少なくとも、第二目的地の鳥島にも向かっている形跡はない。

 

なぜならば、今、晴風が向かっているのが、鳥島であり、周囲に他の学生艦の姿が全く見えないからだ。

 

そんな晴風では、昨日の海上安全整備局からの放送を聞いていた。

 

だが、叛乱容疑をかけられながらも晴風は第二目的地の鳥島にも向かっている。

 

その訳は、此処までの航海でブルーマーメイドも学校側の接触も無く、合流地点の鳥島沖では、ブルーマーメイドか学校の艦艇もいるかもしれない。

 

艦橋組で話し合った結果、事情を説明して、保護して貰おうと言う意見で一致した。

 

晴風は順調に鳥島を目指して航行していた。

 

「学校側からの連絡は?」

 

「未だにありません」

 

「私達見捨てられたんじゃないの?」

 

晴風が叛乱容疑をかけられたことは当然、学校側も認識している筈だ。

 

ならば、学校も晴風に事情を聞くために通信を送ってくるはずなのだが、未だに学校からの通信もなく、晴風のクラスメイトたちは不安がっている。

 

「大丈夫だよ、きっと事実確認中なのかも」

 

艦長として明乃が不安がっている皆を励ます。

 

「こ、このまま鳥島沖10マイルまで退避で良いんだよね?」

 

晴風航海長の知床鈴が明乃に行き先の確認をとる。

 

「うん。私達が猿島を攻撃して沈めたみたいに言われているけど、ちゃんと説明して誤解を解かないと」

 

「合流地点に着いた途端、捕まっちゃわないかな?」

 

鈴は、やはり不安なのか涙目で不安を吐露する。

 

「『おまえらーなぜ猿島を攻撃した?』 『ちがうんです!さきに攻撃したのは猿島のほうで…』 『うそをいうな!』」

 

晴風の記録係、納紗幸子が一人芝居を始める。

 

彼女はよく、一人芝居をするのが癖なちょっと、変わった子だった。

 

「やっぱり、信じて貰えないって事?」

 

納紗の一人芝居を見て、晴風水雷長の西崎芽衣が、ブルーマーメイドも学校も、海上安全整備局も自分たちの言い分を聞いてもらえないのかと不安になる。

 

 

「だが、我々に叛乱の意思などない、このまま逃げ続けられないのだから速やかに近くの港に入りましょう、艦長」

 

晴風副長の宗谷真白は、今は一刻も早くどこかの港に入港し、保護してもらうことを具申する。

 

このまま海上を彷徨い続けることは不可能であり、他の学生艦と遭遇したらまた戦闘になるかもしれないからだ。

 

「うん、そうだね。港に入れば攻撃されることもないだろうし‥‥」

 

流石に港内でいきなり発砲はしてくることはないと明乃はそう判断し、今は一刻も早くどこかの港に入ることを念頭に置く。

 

「全く、こんなクラスになったばっかりに‥‥ついてない」

 

真白は晴風クラスになった事への不満を愚痴る。

 

彼女の実家、宗谷家は代々ブルーマーメイドのエリートを輩出してきた名門家であり、真白の上の姉二人もブルーマーメイドであり、一番上の姉は一等監察官であり、二番目姉は現役の艦長。

 

しかも二人とも横須賀女子のOGで、在学中はもえかと同じ駿河の艦長を務めた成績優秀者であった。

 

しかし、三女の自分は駿河の艦長どころか、航洋直接教育艦の副長‥‥

 

一番の落ちこぼれとなってしまった。

 

さらに知らず知らずのうちに反逆者の濡れ衣まで着せられてしまった。

 

愚痴りたくなるのも分かる。

 

真白の愚痴を聞いた西崎がムッとした表情をして、

 

「何よ、こんなクラスって・・そりゃ晴風は、合格した生徒の中でも最底辺が配属される艦かも知れないけど!それは、あんたも一緒でしょう!」

 

と、真白に現実を叩きつける。

 

「一緒にするな!私は、入学試験は全問正解していたはずなのに・・解答欄を一つずらして回答したから‥‥」

 

真白は入学試験で大ポカをしたせいで、本来ならば、もっと成績が良かったのに、航洋直接教育艦のクラスになってしまったのだと言う。

 

しかし、どんなに成績が良かったとしても本番でミスをすれば、それが結果となる。

 

真白が自らの黒歴史ともいえる入試でのポカを暴露すると、艦橋にいる。全員が口を開いた。

 

「ついてないんですね~」

 

「うるさい!」

 

納紗から同情の様な、哀れみな視線を受ける。

 

一方、艦長である明乃は、

 

「そっかー、私なんて受かっただけでも奇跡なんだけどね~、たまたま勉強していた所が出て、ましてや艦長何て~」

 

明乃は、手を頭の後ろに回し少し照れたようにそう言う。

 

彼女の場合、試験勉強でヤマを張り、幸運にもそのヤマが的中したらしい。

 

「こちらは、強運の持ち主ですか~」

 

「うぃ」

 

納紗と晴風砲術長の立石志摩が、驚いたというか羨ましそうな表情をしていた。

 

真白の黒歴史の暴露と明乃の入試での隠された秘話で、艦橋に少し和やかな空気が流れる。

 

すると、納紗が晴風の近くを飛んでいる海鳥を見てつぶやく。

 

「こんな時、あんな風に学校に、戻れたらいいんですけど‥‥水素やヘリウムを使わない空飛ぶ船って、作れないですかね?」

 

「あんなもの空想の産物だ、馬鹿馬鹿しい」

 

真白は水素やヘリウムを使わない空飛ぶものなど空想の産物だと言うが、異なる歴史をたどった別の地球では存在している。

 

しかし、それを知っているのはこの世界でも五人しかいない。

 

やがて時刻も昼食時となる。

 

「みなさーん、食事の用意ができました~!」

 

烹炊室から食事の用意ができたと言う放送が流れる。

 

「本日のメニューはカレーです!」

 

今日の昼ごはんのメニューを聞き、

 

「カレー‥‥」

 

立石が真っ先に反応した。

 

この時の彼女の目は普段の眠そうなボォ~っとした目ではなく輝いていた。

 

「そう言えば、今日は金曜でしたね」

 

「カレー!!」

 

旧海軍時代からの伝統、長い船乗り生活の中で曜日間隔を失わない為に、毎週金曜日にカレーを食べる習慣はこの世界の今でも続いていた。

 

「じゃあ、交代で食べに行こうか?」

 

「うぃ」

 

「ウチの艦のカレーどんなのかな?」

 

艦橋では、カレーの話で盛り上がっていた。

 

カレーは学生の中でも好物のメニューであり、特にカレーが好物な立石のテンションは普段の彼女からは考えられないぐらい高かった。

 

それは機関室でも、

 

「お風呂とカレーどっち先にする?」

 

晴風の機関員の駿河留奈が同じ機関科のクラスメイトに食事を先にするか?

 

それとも一汗流してから食事にするかを訊ねる。

 

現代の艦と異なり、旧海軍の改装艦である学生艦の機関室は蒸気で蒸し風呂状態となる。

 

特に晴風は、スピードを上げるため高圧ボイラーを使用しているので、温度も高い。

 

汗臭いままで食事をするか?

 

それともさっぱりとしたあとで食事にするか?

 

一応、年相応な乙女なので、これは意外と死活問題かと思われたが、

 

「カレーじゃない?」

 

「カレー」

 

「カレーでしょう」

 

同じ機関科の若狭麗緒、広田空、伊勢桜良はシャワーより食事を優先とした。

花より団子なのだろうか?

 

「宗谷さん一緒にカレー食べに行かない?」

 

機関長補佐の黒木洋美が真白を誘おうとした時、

 

「むぅ~‥‥クロちゃんは、マロンと一緒に行くんでぇ!!」

 

晴風機関長の榊原麻侖が黒木にヤキモチをやいてしまう。

 

晴風の彼方此方で、お昼のカレーで盛り上がっている時、

 

晴風のメインマストに設置された見張り台では、見張り員の野間マチコが見張りをしていた。

そして、彼女は晴風の近くに艦船を見つけた。

 

「右60度。距離30000。接近中の艦艇はアドミラル・シュペーです!」

 

「えっ!?」

 

見張り台からの報告が艦橋に響く。

 

「アドミラル・シュペー!?」

 

ドイツ艦の艦名がマチコから報告され、驚く艦橋員。

 

「ドイツからの留学生艦です」

 

納紗がタブレットを使用して何故、日本の領海にドイツ艦が居るのかを報告する。

 

「とりあえず総員配置に!」

 

明乃は、驚愕しながらクラスメイトたちに配置につくように指示を出す。

 

「総員配置につけ!!」

 

まさかのシュペーの出現にクラスメイトたちは楽しみにしていた昼ご飯(カレー)がお預けとなった。

 

「速度20ノットで接近中」

 

「見つかっちゃいました!!」

 

「その様だな」

 

シュペーのわずかな動きの報告から、完全に向こうに捕捉された事を真白は、認識した。

 

「シュペー、主砲を旋回しています!!」

 

見張り台のマチコからは、シュペーの主砲である28cm砲が晴風に向けたと言う報告が入る。

 

「えっ!?」

 

「撃ってくる」

 

「問答無用ですね」

 

主砲旋回の報告を聞いて、一気に緊張した空気へと変わった。

 

シュペーも猿島同様、通信を送ることなく、いきなりこちらに攻撃を仕掛けてくる気満々だった。

 

おそらくシュペーにも海上安全整備局からの放送が届いているのかもしれないが、それでも普通は停船命令を送ってくる。

 

シュテルも地中海でリンチェを停める時、リンチェに最初は停船命令を出しており、威嚇射撃はその停船命令にも従わない最後の手段として用いた。

 

それが停船命令もなく、砲を向けてきた。

 

「野間さん、白旗を!!」

 

明乃は、直ぐにマチコに白旗を上げるよう指示する。

 

白旗を掲げれば、シュペーも攻撃して来ないと思ったのだ。

 

マチコは、マストの上に立ち白旗を上げる。

しかし、

 

ドーン!!

 

「シュペー主砲発砲!?」

 

白旗をあげてもシュペーは主砲を発砲してきた。

 

「何で!?」

 

「エンジンも止めないとダメだ!!」

 

「確かに白旗だけじゃ、降伏になりませんね」

 

白旗を上げてもエンジンを停めなければ逃走の恐れありと判断され、正式な降伏と見なされない。

 

「でも、逃げるんだよね?」

 

鈴がこのままエンジンを停めて降伏するのではなく、この場から逃げるのだろうと確認する。

 

「うん、180度反転する、面舵いっぱい!前進いっぱい!」

 

明乃は、降伏を諦めて逃走を決意する。

 

このままエンジンを停めてもシュペーが砲撃を止めるとは限らない。

 

もし、そうなれば晴風は射撃の的になるだけだ。

 

「面舵いっぱ~い」

 

鈴は、舵を右側に切る。

 

「着弾!!」

 

シュペーから放たれた砲弾が晴風の左側に着弾した。

 

晴風はシュペーの砲撃を回避しながら、海域からの離脱を図る。

 

「シュペーも速度を上げました!!」

 

「追ってきた!!」

 

「早く逃げよう~よ!!」

 

逃走する晴風に対してシュペーは、追撃してきた。

 

「シュペーは基準排水量12100t、最大速力 28.5ノット、28cm主砲6門、15cm砲8門、魚雷発射管8門、最大装甲160mmと小型直教艦と呼ばれるだけあって巡洋艦並のサイズに直教艦並の砲力を積んでいます」

 

納紗はタブレット端末でシュペーのスペック情報を調べ上げ、報告する。

 

「着弾!!」

 

納紗がシュペーのスペックを話している間にもシュペーからの砲弾がまたもや晴風の周囲に着弾する。

 

「しゅ、主砲の最大射程は約36000m、重さ300kgの砲弾を毎分2.5発発射可能で!一発でも当たれば、一瞬で轟沈です。‥‥まぁ、15cm砲副砲でもうちの主砲よりも強いんですけど‥‥」

 

「防護と装甲は、向こうが遥かに上‥‥」

 

納紗が追加スペックを報告する。

 

真白はシュペーのスペックと晴風のスペックでは、攻守においては相手が上であることを改めて自覚する。

 

「うちが勝っているのは、速度と敏捷さだけ‥‥」

 

明乃はシュペーと晴風のスペックで勝っているのは、速力のみ‥‥

 

ならば、何とか逃げ切ることも可能かもしれない。

 

しかし、

 

「このまま、機関全開にし続けたら完全に壊れちゃうよ~」

 

猿島との戦闘と逃亡で晴風のエンジンはあまり調子が良くない。

 

その為、出せる速力も限られていた。

 

「魚雷撃って足止める?」

 

西崎が猿島の時の様に魚雷を撃ってシュペーの足を鈍らせるかと提案するが、

 

「もうない」

 

「そうだった~!!」

 

元々、晴風に搭載されていた模擬弾の魚雷は一発のみで、猿島に使ってしまったので、もうない。

 

模擬弾の魚雷を使い果たした事を真白に指摘され、西崎は頭を抱え叫んだ。

 

「こっちの砲力は?」

 

「70で5‥‥」

 

「7000で50mm‥シュペーの舷側装甲は?」

 

「80mmです」

 

「30‥‥」

 

「30まで寄れば抜けるのね」

 

「ちゃんと会話が成立している」

 

無口で口数が少ない立石と明乃が普通に会話していることに驚く。

 

「これが艦長の器って、やつですか‥‥」

 

「そんな訳ないだろう」

 

納紗の言葉を真白は否定する。

 

「マロンちゃん!!出し続けられる速度は?」

 

「第4戦速まで、でぇい!」

 

「第4戦速‥‥27ノットか‥‥」

 

「向こうの最大戦速とほぼ同じです」

 

「どうしたら‥‥」

 

晴風が勝っていた筈の速力も機関の不調でシュペーよりも劣っている。

 

明乃は、如何したら、この危機を乗り越えられるのか必死に考える。

 

このままではいずれシュペーに追いつかれてしまう。

 

そんな時、

 

「ぐるぐる」

 

立石が何かを呟く。

 

「ん?」

 

「ぐるぐる」

 

「はっ!?‥‥鈴ちゃん!!取り舵いっぱい!!」

 

立石の言葉から明乃は、何か思いついたようで、鈴に左に舵を切る様を命じる。

 

「取り舵いっぱ~い!!‥‥取り舵30度!!」

 

鈴は明乃の指示に従い左に舵を切る。

 

「何をする気ですか!?」

 

「煙の中に逃げ込むの!!」

 

明乃は晴風を旋回させて煙幕を展開させ、その中に逃げ込む事を思いつく。

 

「戻~せ、面舵いっぱ~い!!」

 

「戻せ、面舵いっぱ~い!!面舵30度」

 

「一発でも当たればやられる。速度と小回りが効くのを生かして、逃げ回れるしかない!!‥‥マロンちゃん燃料を不完全燃焼させて!!」

 

「合点承知!!」

 

晴風の煙突からは黒煙が噴き出る。

 

「黒煙が煙幕代わりだな~」

 

「それから逃げ回るんで、機関には負担をかけるけど、よろしくね」

 

「よろしくって‥‥」

 

麻侖は明乃の作戦を理解するが、黒木はエンジンに負荷をかけるやり方に呆れる。

 

「やるしかねーんだい!!」

 

エンジンに負荷をかけるのは、不安というか呆れたが、逃げるには致し方ないと機関科のクラスメイトたちは割り切った。

 

(はぁ~‥‥後で、総点検ね‥‥)

 

黒木はシュペーから無事に逃げ切ったら、エンジンは総点検だと唸りを上げるエンジンをチラッと見た。

 

「鈴ちゃん不規則に進路を変えて。できたら速度も。ただしできるだけ速度を落とさないように」

 

「う、うん」

 

明乃は、鈴に速度を落とさず、不規則な進路を取って、回避運動するよう命じる。

 

「艦長、止めるには実弾を使うしかないよ」

 

ジグザグ運動と煙幕で逃げる作戦をとる晴風であるが、それでも心もとない。

 

シュペーの砲撃で煙幕が晴れてしまうかもしれない。

 

西崎が実弾を使用し、シュペーの足を鈍らせようと提案する。

 

その間にもシュペーの砲撃は続き、晴風の至近に着弾する。

 

「戦闘‥左砲戦30度、同行のシュペー‥‥」

 

ここにきて、明乃は西崎の提案を受け入れ、実弾による攻撃を指示する。

 

「何を言っている。猿島の時と同じになるぞ!!これ以上やたら、本当に叛乱になる!!」

 

真白は今ここでシュペーに対して実弾攻撃をすれば、今度こそ、晴風は、叛乱艦として、無実が証明できなくなると言って、砲戦に断固反対する。

 

彼女の言い分としても正しい。

 

相手は日本の学生艦ではなく、ドイツの‥他国の学生艦である。

 

晴風の砲撃で日本とドイツの国際問題に発展する恐れもある。

 

しかし、

 

「でも、このままだと怪我人が出る!!」

 

明乃は、このままシュペーの砲撃が続けば、いずれ負傷者が出ると乗員の安全を優先させる。

 

「し、しかし、実弾で攻撃なんてしたら‥‥」

 

「シュペーのスクリューシャフトを狙い撃って、速度を落とさせる‥‥副長」

 

明乃はジッと真白を見る。

 

そして、その間にもシュペーの砲弾はまたも晴風の至近に着弾する。

 

「わ、わかりました‥‥」

 

真白もここにきて、このままではシュペーを振り切れないと悟り、実弾装填キーを取り出す。

 

そして、二人は実弾装填のキーをさして、同時に回す。

 

「実弾‥‥揚弾始め‥‥」

 

実弾装填キーが回され、晴風の主砲に実弾が装填される。

 

「まる」

 

志摩が、砲撃準備が完了した事を明乃に伝える。

 

「装填良し‥‥射撃用意良し」

 

発射準備が完了し、あとは明乃の発射命令を待つだけとなった。

 

「スクリュー撃つには、どれだけ距離を詰めれば良いかな?」

 

「水中だと急激に弾の速度が低下するから無理だって」

 

「水中弾てのがあったでしょう?」

 

「それは、巡洋艦以上でうちには、積んでないから‥‥」

 

真白が水中弾は晴風には積んでいないことを明乃に伝える。

 

「通常形状でも、水中は、進むって聞いたよ」

 

「理論上は、12.7cm砲弾の水中直進距離は約10m。舷側装甲を抜くことを考えれば‥‥30以下まで近寄ってください」

 

納紗がタブレットで計算してシュペーのスクリューシャフトを撃ち抜くのに必要な距離を伝える。

 

「8の字航行のまま、距離を30まで詰めて!!」

 

「近づくの?怖いよ~」

 

シュペーに近づくことに怖がる鈴。

 

「何を言っている!!」

 

真白がこの期に及んで近づくことを怖がっている鈴を叱咤する。

 

「だから怖いって言って」

 

「じゃあ、分かりました!!」

 

納差が怖がっている鈴に近づき、

 

「何するの?」

 

両手で彼女の両目を隠した。

 

「近づいてください!!」

 

「前が見えないよ~暗いよ~」

 

手で隠されて、砲撃してくるシュペーの姿が見えなくなり、舵をきる鈴。

 

シュペーと晴風の距離が徐々に縮まる。

 

その頃、シュペーの艦橋上部では、

 

テアとミーナが救助を待っていた。

 

(もう丸一日経ったか、夢なら醒めて欲しかったが‥‥)

 

シュペーの異変から一日‥‥あの出来事が夢であったらと思うミーナ。

 

すると、突然、砲撃音が響く。

 

「砲撃しているのか!?何を狙って‥‥」

 

突然の砲撃音で目が覚め、辺りを見回すと自分の艦が何かを砲撃していた。

 

それは旧日本海軍の陽炎型駆逐艦(晴風)であり、日本の艦であることが判明した。

 

「艦長見てください!艦です!日本の艦のようですが‥‥これで助けを‥‥!!」

 

ミーナは晴風を見て、これで救援が呼べるとテアに知らせるが、

 

「艦長?大丈夫ですか?」

 

テアの様子が変だった。

 

彼女は震える手をグッと抑え、息遣いも荒く、汗をかいている。

 

この時、テアも周りのクラスメイト同様、異変の兆候が表れていたのかもしれない。

 

「副長、今から私の言うことをよく聞くんだ」

 

「はい」

 

「お前はこの現状を外に伝えるために‥‥シュペーから下船しろ」

 

テアはミーナに退艦命令を出した。

 

「えっ?艦長は‥‥?」

 

「私はここに残る艦長が船を置いて逃げるわけにはいかないからな」

 

テアはそう言うが、艦長としての責務の他に、異変の兆候が出ている自分もシュペーから降りて、晴風に行けば、今度は晴風の乗員に異変をうつしかねないと判断したのだ。

 

「そんなこと‥‥!できるわけありません!!」

 

当然、ミーナは拒否する。

 

「これは、艦長命令だ」

 

「命令でもそれだけは、嫌です!!一緒じゃないと私は‥‥」

 

「副長‥‥私は命を捨てる訳ではない。この事態をシュテルに知らせてくれ‥‥シュテルなら、お前の力になってくれるはずだ。私はお前とシュテルが助けを呼んでくるのをここで待っている」

 

「‥‥」

 

シュテルの名前が出たことに面白くないもの感じるが、確かにテアの言う通り、いつまでも此処にいて救助が来るかわからない。

 

ならば、今はあの日本の学生艦へ赴き、シュペーの現状を知らせるのが一番ベストだ。

 

「これをお前に預ける」

 

テアは艦長帽を脱ぎ、ミーナに手渡す。

 

「私がこの艦、シュペーの艦長である証だ。必ずここに戻って私に返してくれ」

 

テアから艦長帽を受け取ったミーナは後髪を引かれる思いで、小型艇収納庫へと向かった。

 

途中、クラスメイトたちからの妨害もあったが、火事場の馬鹿力で、なんとか乗り切り、小型艇でシュペーを脱出した。

 

(逃げるんじゃない‥‥ワシは逃げるんじゃないぞ! 必ず帰ってくるからな‥‥テア‥‥みんな‥‥)

 

離れていくシュペーを見ながら、必ず戻ってくる決意を固め、ミーナは晴風に向かって、小型艇を操船し続けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。