やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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晴風と邂逅です。


58話

横須賀女子との合同演習に参加したシュペーは突如、レーダーと無線の異常から始まり、シュペーの乗員にも異常が出始め、一日経って正気を保っていたのは艦長のテアと副長のミーナだけだった。

そのシュペーは、あてもなく海を彷徨い始め、伊豆諸島の鳥島付近にて、横須賀女子所属の航洋直接教育艦、晴風に砲を向けた。

その晴風は、集合地点である西之島新島に遅れる形で到着したら、突如、教員艦、猿島からいきなり実弾攻撃を受けた。

晴風艦長の岬明乃は、乗員を守るため、搭載されていた模擬弾の魚雷を猿島に撃ちこみ、その場から退避した。

しかし、猿島はその後、沈没し、猿島を撃沈したのは晴風の仕業と言うことになり、晴風は海上安全整備局から叛乱容疑をかけられた。

晴風は第二目的地の鳥島を目指しながら、保護してもらおうということになった。

その最中、晴風は猿島の時と同じく、シュペーから問答無用の砲撃を受けた。

最初は白旗を上げるも、シュペーは砲撃を続ける。

そこで、晴風は煙幕を張り、ジグザグ運動でシュペーから逃げようとするも、エンジンが不調のため、このままでは振り切れないと判断し、実弾でシュペーのスクリューシャフトを撃ち抜くことにした。

そんな中、シュペー副長のミーナは艦長のテアから艦長帽を託され、シュペーから脱出した。

 

「アドミラル・シュペーから小型艇が向かってきます!」

 

ミーナの脱出は晴風からも確認できた。

見張り員の野間マチコは艦橋に報告する。

 

「えっ!?」

 

シュペーから、何故か小型艇が一隻、こちらに向かってくると、見張り台から報告が入り、明乃は驚く。

シュペーは脱出したミーナに対して副砲で砲撃する。

そのうちの一発が小型艇の至近距離で炸裂し、その衝撃を受けてミーナが乗っていた小型艇は吹き飛び、彼女は海に投げ出される。

 

「小型艇の乗員が海に落ちました!」

 

それをマチコは、逐一報告する。

 

「味方を攻撃している?」

 

「なんで?」 

 

マチコからの報告を聞き、何故、味方を平気で砲撃するのか晴風の艦橋員たちは理解でずに驚愕する。

すると、

 

『わたしは艦長の指示に従えません!晴風を攻撃するなんてあまりにも!!』『なんだとー艦長に逆らう気か!?』『ええ~い!こんな船脱出してやる~』」

 

納紗が恒例の一人芝居を始めた。

 

「想像でものを言うな‥‥!!」

 

そこへ、真白がツッコミを入れる。

 

「私にとってはノンフィクションよりフィクションが真実です!」

 

すると、納紗が現実逃避の様なツッコミ返しをする。

納紗と真白が漫才みたいなことをしていると、

 

「シロちゃん‥‥」

 

明乃が真白に声をかける。

ただし、仇名で‥‥

 

「『宗谷さん』もしくは、『副長』と呼んでください」

 

真白は『シロちゃん』という仇名が気に入らなかった様子。

 

「ここ、任せていい?」

 

「は?」

 

明乃の頼みに真白は思わず拍子抜けしたような声を出す。

 

「ドイツ艦を引きつけっておいてね、ココちゃん、甲板に保険委員の美波さんを呼んでおいて!!」

 

「何を‥‥?っ!?まさかっ!!」

 

真白は明乃の言葉から彼女はこれから何をしようとしているのか察しがついた。

 

「何で、敵なのに助ける!?」

 

「敵じゃないよ」

 

「えっ?」

 

「海の仲間は‥家族だから‥‥」

 

「‥‥」

 

「じゃあ、行って来るね」

 

そう言って明乃は真白に被っていた艦長帽を渡して、艦橋を出ていく。

そして、スキッパーで砲弾を回避しながら、小型艇から落ちたミーナを救出に向かった。

 

「距離30まで近づけ」

 

真白はシュペーを振り切るためと、艦長である明乃を援護しなければならないので、晴風をシュペーに近づける。

 

「大丈夫しっかりして!!」

 

晴風がシュペーをひきつけている間、明乃は漂流しているミーナを救助する。

ミーナは小型艇の残骸に引っ掛かるような状態で漂流しており、その手には、テアから預かった艦長帽が握られた状態で意識を失っていた。

明乃は海からミーナを引き上げ、スキッパーの羽部分に乗せる。

そして、ジャケットを脱がせ、胸に耳を当て、心臓の鼓動を確かめる。

ミーナの胸からは確かに心臓の鼓動が聞こえた。

 

「大丈夫‥‥あなた、生きているよ‥‥」

 

ミーナが生きていたことに安堵する明乃だった。

 

 

その頃、晴風はシュペーとの距離が目標である30まで達した。

 

「撃っちゃえ!!撃っちゃえ!!撃っちゃえ!!」

 

30まで達し、晴風の第二砲塔が砲身を下げて、シュペーの推進機に照準を定める。

 

「ニ番砲右、攻撃始め!!」

 

シュペーが晴風の軸線に乗り、真白が射撃指揮所に発射命令を出す。

真白の命令を受けて、晴風の第二主砲が火を吹く。

放たれた砲弾の一発シュペーの左舷スクリューに命中した。

片舷の推進機を失ったアドミラル・グラフ・シュペーは急激に速度が低下した。

明乃の作戦は、見事に成功した。

 

「目標に命中!シュペー速力落ちています!」

 

『やった!!』

 

マチコからの報告で艦橋、機関室をはじめとして彼方此方で歓喜の声が上がる。

 

「取舵いっぱい!第四戦速ヨーソロー!!」

 

この機を逃さず、真白は晴風が今出せる最大速力で、この海域からの離脱を図る。

 

「取舵いっぱい!」

 

真白の離脱命令に、鈴は嬉々として舵を切る。

そんな鈴を見て、納紗は、

 

「逃げる時はてきぱきしていますね‥‥」

 

と呟く。

しかし、晴風にとって、さらなる事態が生じる。

 

「前方から大型艦接近!!」

 

「えっ?」

 

喜びも束の間、マチコからの報告で艦橋は再び緊張が走った。

真白が双眼鏡で確認すると、晴風の前からはドイツのビスマルク級に似た戦艦が接近してきた。

 

「び、ビスマルク級!?」

 

「な、なんでこんなところに、ビスマルク級が居るのさ!?」

 

「うぃ~‥‥」

 

「に、逃げようよぉ~」

 

艦橋はもはや大混乱となる。

 

「ま、待ってください」

 

そこへ、納紗が声を張り上げる。

しかし、それは更なる絶望を真白たちに与える。

 

「あれは、ビスマルク級ではありません‥‥」

 

タブレットを持つ納紗の手が少し震えている。

 

「あ、あれは‥‥」

 

「あれは?」

 

「あれは‥‥キール校のH級戦艦です!!」

 

「H級?」

 

「ビスマルク級じゃないの?」

 

「ビスマルク級よりも厄介です!!」

 

『?』

 

納沙を除くみんなはビスマルク級とH級の違いが分からないのか、首を傾げている。

 

「H級は、ビスマルク級よりも大きい、全長266m、全幅37m、47口径40.6cm連装砲4基8門で最大射程は3万6800mを誇ります。副砲・高角砲はビスマルク級と同じですが、15cm55口径砲連装6基12門、10.5cm65口径高角砲連装8基16門、55.3cm 4連装魚雷発射管を両舷に1基ずつ備え、速力もシュペーより早い、最大速力は30ノットです!!」

 

納紗がH級のスペックを伝えると、艦橋には絶望した空気が流れる。

 

「な、なんでそんな化物みたいな戦艦がこんなところに居るの!?」

 

西崎が叫ぶ。

 

「H級もシュペー同様、ドイツからの留学艦です」

 

「もうダメだ‥‥お終いだ‥‥」

 

「うぃ~‥‥」

 

「あ、諦めるな!!まだ手は‥‥」

 

真白はみんなを鼓舞するが、

 

「砲撃して勝てる相手だと思いますか?」

 

「‥‥」

 

納紗の質問に真白は顔を引き攣らせ、答えることが出来なかった。

 

一方、接近中のH級、ヒンデンブルクの艦橋では、

 

「前方にシュペーと陽炎型駆逐艦を確認!!」

 

クリスが双眼鏡で、前方にシュペーと陽炎型駆逐艦の姿を視認し、報告する。

 

「艦首の番号から、所属を確認」

 

シュテルは陽炎型駆逐艦の所属を調べさせる。

 

「了解‥‥照合完了、横須賀女子所属の航洋直接教育艦、晴風です!!」

 

メイリンが艦首に書いてある番号から所属を割り出す。

 

「晴風‥‥あれが‥‥」

 

今、海上安全整備局から叛乱容疑をかけられた学生艦が目の前に居る。

 

「シュペーが近くに居るってことは、晴風の臨検の準備でもしているのか?」

 

「それにしてはなんか、シュペーから逃げているようにも見えるけど‥‥」

 

「停船信号を送りますか?」

 

遅れてきたので、事態が把握できていないが、ともかく、晴風の乗員からは事情を聞かなければならない。

ここはシュペーと協力して晴風を停船させようと思った矢先、

 

「シュペー主砲を旋回!!本艦を狙っています!!」

 

「なにっ!?」

 

クリスからの報告を聞いて、何かの間違いではないかと思ったが、

 

ドーン!!

 

「シュペー発砲!!」

 

シュペーはいきなりヒンデンブルクめがけて主砲を撃ってきた。

砲弾が着弾すると、ヒンデンブルクの周り海に水柱が立つ。

 

「くっ‥‥テア、一体何を考えている!?シュペーに通信を送れ!!」

 

「は、はい」

 

通信員がシュペーに砲撃停止の旨を通信で送るが、

 

「ダメです!!シュペー、応答ありません!!」

 

「呼び続けろ!!」

 

シュテルは引き続き、シュペーに通信を送るが、一向に返信はなく、逆にシュペーはまたもや砲撃してきた。

 

「ちょっ、シュテルン、これはマジでシャレにならないって‥‥あのちびっ子艦長にこっちも本気だって所を見せないと!!」

 

ユーリがこちらもシュペーに対して砲撃しようと具申する。

 

「‥‥」

 

シュテルは即決で判断を下せなかった。

 

「シュテルン!!」

 

「くっ‥‥砲撃用意‥‥ただし弾頭は模擬弾だ」

 

「了解」

 

シュテルも明乃同様、乗員の安全のため、大切な友人が乗る艦に砲を向けた。

ヒンデンブルクの第一、第二、主砲が火を吹く。

ただし、威嚇射撃なので、シュペー周辺に着弾するように撃った。

 

 

まさかのドイツ艦同士の撃ち合いを見物することになった晴風の乗員は唖然とする。

シュペーが同じ国の学生艦に対して問答無用で砲撃し、ヒンデンブルクも応戦するかのように砲撃する。

てっきり、二隻のドイツ艦の挟まれて沈められるかと思いきや、同じ国の学生艦同士が撃ち合っている。

晴風よりも巨大な砲から奏でられる砲撃音はまさに空気を揺さぶる。

 

「ドイツ艦同士が撃ち合っている‥‥」

 

「ど、どうなっているの?」

 

「わ、わからん‥‥」

 

「でも、私たち助かったのかな?」

 

「ともかく、巻き込まれないように操艦は慎重にな」

 

「よ、ヨーソロー‥‥」

 

ヒンデンブルクの威嚇射撃を受け、シュペーは逃げるかのような針路をとり、やがてその姿は水平線へと消えていく。

 

「シュペー、逃走‥‥」

 

「追撃しますか?」

 

「‥‥いや、ここは晴風に事情を聞きたい」

 

シュペーからいきなり砲撃され、友人の乗る艦に対して、演習でもないのに砲撃した事にシュテルはショックを受けていた。

しかし、艦長としてそれを表に出すわけにはいかなかった。

今はシュペーを追いかけるよりも晴風に事情を聞きたく、シュペーの追撃を断念した。

 

「シュペー、現海域から撤退していきます」

 

ヒンデンブルクとの砲撃戦にて、シュペーはヒンデンブルクと遭遇する前に晴風からの攻撃でスクリューシャフトを損傷し、速度は出ず、攻撃力でも劣ることを悟ったのかシュペーは遠ざかっていく。

しかし、自分たちの前にはそのシュペーを追い払ったもう一隻のドイツ艦が居る。

相手がどう出るのか?

猿島やシュペーのようにいきなり砲を向けてくるのか?

ドキドキしながら、相手の出方を窺う晴風の乗員たち。

すると、

 

「副長、相手から発光信号です」

 

マチコがヒンデンブルクからの発光信号を確認する。

 

「‥‥何と言ってきている?」

 

「停船信号です」

 

「これまでは問答無用で砲撃してきましたけど、今回はちゃんと信号を送ってきたと言うことで、ちょっとは信じていいんじゃないんですか?」

 

納紗の言う通り、これまではいきなり砲撃をされ、通信も手旗信号も無視されてきた。

しかし、今回は向こうの方からコンタクトをとってきた。

それならば、猿島やシュペーのようにはならないだろうし、こちらの話を聞いてくれるかもしれない。

そもそも自分たちは濡れ衣を着せられたのだから‥‥

艦長の明乃は今、漂流者の救助に向かっているので、現在は真白がこの艦の最高責任者となる。

 

「‥‥機関停止」

 

真白はヒンデンブルクの停船信号を受け入れエンジンを停める。

 

その頃、明乃はミーナをスキッパーに乗せて晴風に戻っていく最中、晴風に近づいてくる大きな戦艦を視認した。

 

「あの艦は‥‥」

 

気にはなったが、今は救助者がいるので、明乃はスキッパーの速度を上げて晴風に戻った。

そして、晴風へと戻り、救助したミーナを上甲板で待っていた医務長の鏑木美波と応急長・美化委員長の和住媛萌と同じく応急長・美化委員の青木百々に引き渡す。

 

「うぅ~」

 

「重いッス‥‥」

 

救助したミーナを担架に乗せ、媛萌、百々が愚痴を零しながら医務室へと運んで行く。

 

「お願いね」

 

「うむ」

 

美波も頷いた後、医務室へと向かった。

そして、明乃は接近する戦艦の事も含めて、艦橋へと戻る。

 

「シロちゃん!!」

 

「ん?」

 

「‥‥ありがとう」

 

「‥‥適切な指示をしたまでだ」

 

真白は照れ隠しなのかプイっと顔を明乃から背ける。

 

「それで、近づいているあの戦艦は?」

 

そして、もう一つ気になっていたこと、晴風に接近中の戦艦について訊ねる。

 

「ドイツの留学艦です」

 

納紗が真白に代わって明乃に説明する。

 

「留学艦?シュペー以外にも居たの?」

 

「はい。ドイツのキール校の艦です」

 

「それで、向こうの艦は何って言っているの?」

 

「海上安全整備局の内容について事情を聞きたいそうです。今から晴風に乗員を送ってくるそうです」

 

「わかった」

 

晴風はヒンデンブルクからの使者を受け入れることした。

 

そのヒンデンブルクでは、

 

「えっ?シュテルンが一人で行くの!?」

 

「向こうの艦長を呼び出せばいいじゃん!!」

 

「事情を訊ねるのだから、こっちから聞きに行くのが礼儀だよ」

 

「で、でも‥‥」

 

「大丈夫‥‥何かあったら知らせるから」

 

「「‥‥」」

 

シュテルの決断にユーリもクリスも渋々と言った様子だった。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

そして、シュテルはスキッパーで晴風へと向かった。

 

 

「ドイツ艦より、スキッパー一機、接近」

 

マチコの報告を聞いて、艦橋員は見張り員を残して、主だった者は出迎えの為に甲板へと向かう。

タラップを下ろすと、手すりにもやい綱でスキッパーを固定して、ドイツ艦の乗員が晴風の甲板に上がってくる。

 

「刀!?」

 

「あれはサーベルですよ」

 

「そ、そんなことぐらい知っている!!」

 

真白はシュテルが腰からぶら下げているサーベルを見て、思わず声をあげる。

そんな真白に対して納紗はすかさずツッコミを入れる。

 

「でも、なんであの人、サーベルなんてぶら下げているのさ?海賊のコスプレ?」

 

「いえ、あれはキール校の伝統みたいで、キール校でもあのサーベルを下げられるのは三人しかいないみたいですよ」

 

「三人?」

 

「はい、高等部のそれぞれの学年の首席のみだそうです」

 

納紗がタブレット端末でキール校の事を調べ、西崎たちに説明する。

 

「じゃあ、あの人は首席なんだ‥‥」

 

やがて、タラップを上り終え、甲板にきたドイツ艦の乗員。

黒いロングコートに、キール校の校章が描かれた艦長帽、黒地に八つの金色のダブルボタンのジャケットに黒いズボン、そして腰には金色のサーベルをぶら下げている。

 

「ドイツ、キール校所属、ヒンデンブルク艦長のシュテル・H(八幡)・ラングレー・碇です」

 

敬礼しながら、所属と役職、姓名を言うシュテル。

 

「横須賀女子所属、航洋直接教育艦、晴風艦長の岬明乃です」

 

「同じく副長の宗谷真白です」

 

「水雷長の西崎芽衣です」

 

「記録係の納紗幸子です」

 

晴風の乗員もシュテルにならって、敬礼しながら所属と役職、姓名を伝える。

ただその中で、心に思った事は一つ。

 

(この人、日本語が喋れてよかった‥‥)

 

である。

流石にドイツ語を理解できる面子はこの中に居なかったから‥‥

 

そして、口下手な立石と人見知りな鈴は艦橋でお留守番となっている。

 

(やっぱり、ミケちゃんか‥‥)

 

シュテルは明乃の名前と容姿を見て、もえかが言っていた通り、明乃が横須賀女子に入学し、まさか、晴風の艦長になっているとは予想外だった。

シュテルの方はもえかから聞いていた為、明乃の事を思い出していたが、明乃の方はシュテルの事をまだ思い出していない様だ。

まぁ、艦長帽を被っているせいもあるが、せめて名前を聞いた時に思い出してほしかった。

 

「えっと‥‥岬艦長。その‥‥服が濡れているようですが‥‥」

 

シュテルはここで明乃の制服が濡れていることに気づく。

 

「あっ、はい。さきほど、シュペーの乗員を救助して、その時に‥‥」

 

「シュペーの乗員が居るんですか!?」

 

シュテルは晴風にシュペーの乗員が居ることに驚く。

 

「は、はい」

 

「その人は今どこに!?」

 

「医務室です‥‥救助した時、意識を失っていたので‥‥」

 

「あっ‥‥そう‥ですか‥‥」

 

意識を失っているのでは事情を聞けない。

 

「と、とりあえず、何故、晴風が叛乱容疑をかけられたのかその事情を伺いたいのですが、岬艦長」

 

「はい」

 

「岬艦長。一度、着替えてきてください。そのままですと、風邪をひいてしまうので‥‥」

 

「あっ、はい」

 

シュテルは濡れたままでは風邪をひいてしまうので、明乃に着替えてくるように促す。

 

「では、艦長が戻られるまで、食堂でお待ちください」

 

真白がシュテルを晴風の食堂まで案内する。

食堂では、炊飯員の伊良子美甘、杵崎ほまれ、あかね の三人が興味ありげでシュテルを見ていた。

 

「どうぞ‥‥」

 

伊良子がもてなしのコーヒーをシュテルに差し出す。

 

「ありがとう」

 

「砂糖とミルクは使いますか?」

 

「あっ、できれば練乳があれば、それをください」

 

「練乳‥ですか?」

 

「はい」

 

コーヒーに練乳を入れるなんて変わった人だと思っていると、

 

「あの‥それってもしかして、マックスコーヒーですか?」

 

あかねが、恐る恐るシュテルに訊ねる。

 

「えっ?マッ缶を知っているんですか?」

 

「は、はい。私も千葉出身ですから‥‥」

 

「わぁっ、嬉しいな~マッ缶を知っている人が居てくれて~」

 

「えっ?でも、ドイツの方ですよね?」

 

「私は、半分は日本人だから」

 

そして、晴風になぜかあった練乳をコーヒーにドバドバ入れる。

伊良子とほまれは、ちょっと引いていた。

コーヒーを飲み終えた時に明乃が戻った。

 

「それで、早速だけど、海上安全整備局が言っている晴風が叛乱を起こしたという件について、聞きたい」

 

「は、はい」

 

明乃はシュテルに西ノ島新島の件について話した。

遅刻して合流地点に来たら、いきなり猿島に実弾で発砲された。

明乃はこの時、乗員の安全と生命を優先し、猿島のスクリューシャフトに模擬弾の魚雷を撃ちこみ、退避した。

しかし、その後、猿島は沈没し、晴風が撃沈したとされ、叛乱容疑をかけられた。

 

「証拠はありませんけど、私たちは猿島を撃沈なんてしていません」

 

「なるほど‥‥では、先程、遭遇したシュペーに関しては?」

 

次にシュテルはシュペーについて訊ねる。

 

「シュペーも猿島同様、遭遇した後、いきなり発砲してきました」

 

「いきなり?停船信号や命令もなしに?」

 

「はい」

 

(いきなり、ヒンデンブルクに発砲したことと言い、あまりにも妙だ‥‥テアがテロ行為をするはずがないし‥‥シュペーの艦内で何か起きたのか?)

 

明乃の話と先程、シュペーが警告なしに発砲してきたこと、テアの性格から、シュペーで何か異変が起きたのだと察するシュテル。

 

(まさか、海賊やテロリストに艦を乗っ取られたのか?)

 

南シナ海での一件から、シュペーが海賊やテロリストに乗っ取られている可能性も示唆する。

 

「それで、救助したというシュペーの乗員は?」

 

「まだ意識が戻っていません」

 

意識が戻っていなければ、シュペーで何が起きたのか話せない。

 

「それで、晴風は今後、どうするつもりですか?」

 

「鳥島を経由して近くの港に戻るつもりです」

 

「わかりました‥‥では、本艦も晴風に同行しましょう」

 

「いいんですか?」

 

「ええ‥‥どのみち、話を聞く限り、演習どころではなさそうですからね」

 

「ありがとうございます」

 

「それで、戻る前に一目、シュペーの乗員を看てから戻りたいのですが‥‥よろしいでしょうか?シュペーの乗員とはドイツに居た頃、交換留学で顔見知りなので」

 

「はい」

 

シュテルは明乃と共にシュペーの乗員が居るとされる医務室へと向かう。

その最中、明乃はチラッとシュテルを見る。

話し合っていた時、シュテルは艦長帽を脱いでいたその時から明乃は妙な感覚を覚えていた。

 

(この人、どこかで見たような‥‥)

 

ここにきて、明乃はシュテルとどこかで出会ったような感覚を覚えたのだ。

 

「美波さん」

 

明乃は ドアをノックして医務室に入る。

 

「艦長に‥‥誰だ?」

 

「あっ、この人は、ドイツ艦の艦長さん」

 

「ドイツ?‥‥シュペーの艦長か?」

 

「いえ、別の艦です」

 

「そうか」

 

「それで、どう?あの人の様子は?」

 

「外傷はない。脳波も正常‥‥後は、意識が戻るのを待つしかない」

 

「そっか‥ありがとう」

 

シュテルがシュペーの乗員が眠っているベッドへと向かうと、そのベッドで眠っていたのは、

 

(ミーナさん!?)

 

「それで、知っている人ですか?」

 

「ええ、この人はシュペーの副長です」

 

「シュペーの副長さん‥‥」

 

「はい‥‥医務員の人が言うように、まだ話を聞ける状態じゃありませんね‥‥彼女の意識が戻りましたら、連絡をください。私もシュペーで何が起きたのか、知りたいので」

 

「わかりました」

 

ミーナの状態を確認した後、シュテルはスキッパーでヒンデンブルクに戻っていった。

 

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