やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
晴風にて、ミーナの歓迎会が始まる少し前‥‥
晴風の医務室にて、美波とウルスラはラットウィルスに対抗するワクチンの制作にあたっていた。
ウルスラがこれまで、集めたラットのデータと美波が個人的に晴風へ持ち込んだ試薬や研究機器、そして二人の頭脳のおかげでワクチンの精製は短期間で出来た。
しかし、このワクチンに効力があるのかはまだ不明で、また何らかの副作用があるのかも不明。
「一応、抗体らしきものはできたな」
「ええ‥‥しかし、ワクチンの抗力と副作用の有無はまだ不明なので、後はその点の解明ですね‥‥」
「‥‥ああ‥それを証明するには‥‥やるしかないか‥‥」
「‥‥ええ、やるしかないですね」
美波とウルスラは完成させた対ラット用のワクチンをジッと見て、一度医務室から出ると、美波は通路で出会った青木と和住に声をかける。
「二人ともすまないが‥‥」
「ん?美波さん?」
「どうしたっすか?」
「ちょっと、二人に協力してもらいたいことがあるのだが‥‥」
「えっ?まぁ、いいですけど‥‥」
「何っすか?」
美波は和住と青木を連れて医務室に戻る。
すると、医務室ではウルスラが先に戻っており、彼女は水鉄砲と椅子、そして手錠と結束バンドを用意して待っていた。
「えっと‥‥」
「これは、一体‥‥」
ウルスラが用意したモノを見て、ドン引きする青木と和住。
二人とも本能的になにかヤバいことがこれから行われるのだろうと思った。
さらに、
ガチャっ
「「っ!?」」
美波が医務室の扉を閉める。
「では‥‥」
「始めましょうか‥‥」
「「ひぃっ~‥‥」」
美波とウルスラが互いに怪しげな笑みを浮かべると、青木と和住は互いに抱き合い怖がる。
そして、ウルスラの手には例のラット、美波の手には何かの薬品が入った注射器が握られている。
「み、美波さん‥‥」
「お、落ち着くっす。二人とも‥‥」
これから自分たちが眼前のマッドたちに何をされるのか?
それを想像するだけでも恐ろしい。
ジワリ、ジワリとにじり寄ってくる美波とウルスラ。
それに比例するかのように後ずさる青木と和住。
「では、これより、新薬の実験を行います‥‥」
「何かあった時の為、抑えるのを手伝ってくれ」
すると、ウルスラは、手に持っていたラットに自らの腕を噛ませた。
「ちょっ!!」
「何をしているっすか!?」
ウルスラの行動に驚く青木と和住。
「そんなことをしたら、貴女もウィルスに感染しちゃうんじゃあ‥‥」
「いえ、敢えて感染しました」
「「は?」」
そう言ってウルスラは素早くラットをプラケースに戻し、椅子に座る。
一方、青木と和住は、ウルスラの行動が理解できずにいる。
そして、ウルスラは椅子の腰掛の部分に後ろに手を回す。
「さあ早く、私の両手を手錠で拘束して下さい。そして両足も椅子に縛り付けて‥‥」
「「えっ?」」
ウルスラの頼みに困惑する二人。
「早く!!私が凶暴化する前に!!」
「は、はい!!」
「分かったっす!!」
ウルスラの勢いに負けて、青木と和住は急いで、ウルスラの手に手錠をかけ、足も結束バンドで縛り付ける。
「ハァ‥‥ハァ‥‥」
椅子に後ろ手に手錠をかけ、しばらくすると息を荒げ始めるウルスラ。
段々とウィルスが身体に巡り始めたみたいだ。
「美波さん、これは一体‥‥?」
和住は美波とウルスラの行動が分からず、一体何をしているのかを訊ねる。
「新薬の‥‥例のラットウィルスに対抗するワクチンの実験だ‥‥その他に、ウィルスに感染してから発症までの時間を計るのも目的としている」
美波の首にはストップウォッチがかけられてあり、ウルスラが自らの腕をラットに噛ませて、ウィルス感染させてから、時間を計測している。
「でも、その新薬が効かなかったらどうするつもり何っすか?」
青木がもし、美波とウルスラの作ったワクチンが効かない場合、ウィルスに感染したウルスラをどうするのかを訊ねる。
「その点も問題ない。初期感染の場合、海水をかければ問題ないからな‥‥もし、ワクチンが効いていないと判断すれば、すぐに海水をかけるのだぞ」
美波は青木と和住にもし、ワクチンの効果がないと判断した場合、水鉄砲に入っている海水をウルスラにかけるように指示を出す。
「わ、分かった‥‥」
「了解っす‥‥」
青木と和住は神妙な顔つきでウルスラの様子を窺う。
「ハァ‥‥ハァ‥‥」
ウルスラは相変わらず、息を荒げている。
「‥‥」
そんなウルスラの様子をジッと見ている美波と青木。
和住は心配そうに彼女を見ている。
後ろ手に手錠をかけられ、足を結束バンドで縛られ、息を荒げている金髪の少女‥‥
今のウルスラの様子はまさに監禁されている少女‥‥
しかも見方によっては、薬物で悶え苦しんでいる、喘いでいる様にも見える。
青木は今この場で、スケッチブックやカメラを忘れたことを悔やんだ。
息を荒げていたウルスラであったが、
やがて‥‥
「うぅ~‥‥」
呼吸が整ったと思うと、ウルスラは唸り声をあげだす。
「むっ?」
(どうやら、ウィルスが体全体に行き渡り、症状が出てきたみたいだな‥‥)
「うがーっ!!うっ‥がぁぁぁー!!」
美波の推測通り、ウルスラの身体全体にウィルスが行き渡り、ウィルス独特の症状が出る。
正気を無くし、暴れるウルスラ。
しかし、事前に手錠と結束バンドで身体を拘束していたので、椅子に座って暴れるレベルでウルスラが美波たちに襲い掛かることはなかった。
「さて、感染までの時間は計れた‥次はいよいよこの新薬の効果の実証検証だ‥‥二人とも、彼女の身体を抑えてくれ」
「う、うん‥‥」
「了解っす‥‥」
青木と和住がウルスラの両肩を抑えつける。
「うがーっ!!うぅ~!!」
「くっ‥‥」
「凄い力っす‥‥」
ウィルス感染しているウルスラは普段の様子から考えられないくらいの力で暴れている。
しかし、いくら凶暴化しても手錠と結束バンドからの拘束からは逃れられないのだが、ウルスラはその拘束から逃れようと必死にもがいている。
「美波さん、早く!!」
「う、うむ」
美波はウルスラの腕に注射器をさし、ワクチンをウルスラの身体に注入する。
ウルスラはしばらくの間は唸り声あげて、暴れていたが、やがてワクチンが効いてきたのかガクッと項垂れ声を上げる事もなく大人しくなった。
「大人しくなったっす‥‥」
「これは成功なの?美波さん‥‥」
「うむ‥‥」
美波は大人しくなったウルスラの様子を確認する。
「うっ‥‥うぅ‥‥」
やがて、ウルスラが意識を取り戻す。
ウルスラの様子を見る限り、ワクチンにはラットウィルスに対する効力があることが証明された。
「実験の成果は‥‥?」
ウルスラは美波に実験の成果を訊ねる。
しかし、自分が海水に濡れていないことから、実験は成功したことが伺える。
「成功だ‥‥時間の計測に関しても個人差はあるだろうが、感染時間とワクチンが効くまでの時間‥共に計測はできた」
「では、急ぎ症例報告をまとめ、ワクチンの精製に移りましょう」
「うむ、そうだな‥‥」
「でも、その前に‥‥」
「「「ん?」」」
ワクチンの症例報告と生産を始める前にウルスラは何かを頼もうとしている。
「‥‥手錠と結束バンドを外してください」
「「「あっ‥‥」」」
今現在、ウルスラは手錠と結束バンドで繋がれている状態なので動けない。
症例報告、ワクチンの精製の前に手錠を外してほしいと言う。
ウルスラの身体を拘束していた手錠と結束バンドを外し、二人は症例報告とワクチンの精製作業に入る。
青木と和住は二人の様子を見て、
((この二人、絶対にマッドだ!!))
美波とウルスラが危ない人だと判断した。
「そ、それじゃあ‥‥美波さん」
「私たちはもう、行くっす‥‥」
これ以上この二人と関わるのは御免だと言わんばかりに青木と和住は医務室を出る。
「ああ、協力ありがとう」
「ありがとうございました」
美波とウルスラは二人に礼を言うが、青木と和住はそそくさと退散し、
((航海中、怪我や病気にならないようにしよう‥‥))
と、航海中、怪我や病気で美波の世話にならないよう注意するのであった。
それから、明乃からミーナの歓迎会を行う旨の放送がして、二人はミーナの歓迎会に参加した。
歓迎会の終盤、八木が学校からの緊急通信が入ったとの知らせが届いた。
「艦長!!学校から緊急電です!!」
「どうしたの?」
「何事だ!?」
「現在、アスンシオン島沖にて、東舞鶴海洋高校の教員艦が駿河と接触!!」
「駿河‥‥」
もえかが艦長をしている艦名を聞き、動揺する明乃。
「接触を試みた東舞鶴海洋高校の教員艦に対し、駿河は発砲、交戦状態にあるみたいです!!『周辺で最も近い位置にある晴風は現地に向かい状況を報告せよ。なお戦闘は禁止。自らの安全を最優先する事』‥‥以上です!!」
「駿河がこの近くに‥‥」
捜していた駿河がまさか、自分たちの近くに居るとは予想外であった。
しかし、これは嬉しい予想外だ。
しかも学校側からは戦闘行為は禁止されているが、駿河の下へ向かうことが出来る許可が下りている。
「艦長、命令はあくまでも状況報告だぞ」
真白は駿河の救助、ないし、駿河との戦闘ではなく、現状の確認であることを明乃に言い聞かせる。
「そうだね‥出航用意!!錨を上げ!!」
明乃が出航準備を命じる。
(本当に大丈夫だろうか?)
しかし、真白には一抹の不安がつきまとった。
それは、普段の自分の不運だけではなく、これまでの航海の中で、明乃が駿河の事を物凄く気にかけていた。
その明乃が駿河を前にして果たして冷静でいられるだろうか?
そんな不安があった。
駿河発見の報を受けて、シュテルもウルスラと共に自艦へと戻る。
その際、ウルスラはスーツケースを大事そうに持っていた。
「ハルトマンさん、それは何?」
シュテルはウルスラにそのスーツケースについて訊ねる。
「これですか?これは、完成したばかりの対ラット用のワクチンです」
「えっ?もう、出来たの?」
この短期間にあのラットウィルスに対抗できるワクチンが出来たことに驚くシュテル。
「はい‥カブラギさんのおかげで‥‥既に感染者にも有効なのは証明されています」
「‥‥一応、聞くけど、どうやって証明したの?」
シュテルは効力の証明方法を訊ねる。
「まぁ、ギリギリの線を渡った‥‥ってことにしてください」
「そ、そう‥‥」
(まさか、人体実験をしたんじゃあ‥‥)
ウルスラの発言から、ワクチンの効力を証明するために人体実験を行ったのではないかと思うシュテルだった。
「艦長、おかえりなさい」
「おかえり」
シュテルはヒンデンブルクの艦橋へと戻り、艦内に一斉放送を流す。
「皆も知っているだろうが、先程、横須賀女子から緊急電があり、現在、東舞鶴海洋高校の教員艦と横須賀女子の駿河が交戦状態となっている。晴風は現状確認のため、現場に急行する事となった。本艦も晴風に同行する‥‥その際、駿河との交戦も予想される‥‥総員、戦闘配置のまま現場に向かう‥以上」
「出航用意!!」
晴風とヒンデンブルクは急ぎ、駿河と東舞鶴海洋高校の教員艦がドンパチしている海域へと向かう。
急ぎの出航の為と元々戦闘行為をするわけではないので、晴風のクラスメイトたちの中には水着姿のままの者も居るが、ヒンデンブルクの方は、東舞鶴海洋高校の教員艦と交戦状態と言うことで、駿河と一戦交えることも考慮して、戦闘可能な服装に交代で着替えながら現場に向かった。
その東舞鶴海洋高校の教員艦と駿河がドンパチしている海域では‥‥
「増援の八隻到着、陣形、整いました!!」
駿河と東舞鶴海洋高校の教員艦との戦闘は、教員艦の圧倒的な不利な状況が続き、教員艦は近くで捜索に当たっていた別の教員艦を呼び寄せた。
教員艦隊は、増援八隻を得て、残存艦の六隻合わせて、その数は十四隻になり、駿河を取り囲む様に陣形を整える。
一隻ずつではなく、数で勝負をしかける教員艦。
「何としても足だけでも止めなければ‥‥噴進魚雷攻撃始め!」
船体構造物を傷つける訳にはいかないので、せめて行き足だけでも止めようと教員艦は、噴進魚雷を駿河のスクリューめがけて撃ちこもうとする。
しかし、
「なにっ!?」
発射された噴進魚雷は誘導装置が故障したせいか、その殆んどが、作動不良を起こし、駿河の船体に命中することなく、空中をフラフラ飛び海上に着弾した。
「教頭!?増援艦隊との通信が途絶しました!!データリンクも止まっています!!」
「そんなバカなっ!?」
突然の誘導兵器の誤作動が発生した事態に教頭たちは驚愕する。
「駿河発砲!!着弾します!!」
駿河からの砲弾が旗艦、あおつきに命中し、航行不能になる。
旗艦が被弾し、艦の通信機器、僚艦との艦隊ネットワークが機能停止している為、教員艦隊は連携が取れなくなり、大混乱に陥る。
そして、降り注ぐ駿河の砲弾に次々と教員艦は被弾していく。
駿河の砲撃の前に全く歯が立たず苦戦した教員艦隊は、晴風とヒンデンブルクが到着した頃には既に壊滅状態になっていた。
駿河は40㎝連装砲とはいえ、前部に二基、後部に三基、計十本の砲身を備えている強力な戦艦で、その数はヒンデンブルクよりも主砲の数が多い。
周りを取り囲んでも巡洋艦並みの防御しかもたない教員艦では、両舷の副砲と主砲であっという間にいなされてしまう。
しかも教員艦の方は、駿河の乗員の救助を目的としており、下手に船体へ武器を向けられない。
反対に駿河は遠慮なしに発砲してくる。
まさに、ワンサイドゲームな状態である。
「凄い!?‥‥凄すぎます!?」
納沙が震える声で目の前の光景の感想を口にする。
駿河と東舞鶴海洋高校の教員艦との戦闘を見て、艦橋に居る者は息を呑む。
「夾叉も無しに行き成り命中させる何て‥‥あんなのに狙われたら‥‥」
西崎が夾叉もしないで、日本が誇る最大級の46㎝搭載艦ではないとはいえ、40㎝砲十門をほぼワンショットで目標に命中させる駿河の砲術の凄さに驚いていた。
「操艦もあんなに大きな艦があっという間に針路を変えている‥‥」
鈴も駿河の巧みな操艦能力には脱帽みたいだ。
やはり、横須賀女子海洋学校の中でも成績優秀者を乗せているだけの事はある。
「如何して!?‥‥何でこんな事に‥‥」
明乃は何故、こんな事になっているのか驚愕しながら双眼鏡を見る。
眼前では信じられない光景が広がっている。
駿河が東舞鶴海洋高校の教員艦を一方的に砲撃している。
まさか、これは艦長であるもえかが指示していることなのだろうか?
そんな不安が明乃の脳裏に過ぎる。
「新入生ながら、砲術、操艦術、共に凄いですね」
「ああ、さすが、横須賀女子のエリートだけを集めた艦なだけある‥‥」
一方、ヒンデンブルクの艦橋でも駿河の砲術、操艦に対して、クリスとシュテルは舌を巻いている。
(しかし、あれはどう見ても、もかちゃんが命令して行っているとは思えない‥‥となると、やはり駿河の乗員たちもウィルスに感染していると見て間違いないだろう‥‥)
「通信長」
「はい」
「横須賀女子から送られてきた緊急電の電文‥見せてくれ」
「は、はい」
シュテルは横須賀女子からの電文に目を通す。
そして、何かに気づき、口元を緩める。
「通信長」
「は、はい」
「横須賀女子に電文‥『駿河との交戦許可を求む』と打ってくれ‥‥それと晴風にも通信、『駿河は本艦(ヒンデンブルク)が対処ス、晴風は東舞鶴海洋高校の教員艦の救助を求む』と送ってくれ」
「はい」
「しかし、艦長。戦闘行為は‥‥」
メイリンが横須賀女子からは戦闘行為は禁止であくまでも現状確認の筈であると言うが、
「この電文を見てごらん」
シュテルはメイリンに横須賀女子からの電文が書かれた紙を見せる。
「?」
「戦闘行為が禁止されているのは、晴風だけ‥‥その電文に本艦の名前は記されていない」
「あっ‥‥」
メイリンは横須賀女子からの電文を見て、確かにシュテルの言う通り、ヒンデンブルクの名前は書かれていない。
横須賀女子の教員がヒンデンブルクの存在を忘れていたのか?
それとも、付け足すのを忘れたのか?
いずれにしてもヒンデンブルクは駿河との戦闘行為は禁止されていなかった。
だが、他校‥しかも他国の学校の艦と一戦交えるのだ。
その許可だけは駿河が所属する学校に取っておかなければならない。
横須賀女子からの返答を待つ間にシュテルは医務室に内線電話を入れ、
「医務長」
「はい」
「駿河の乗員も例のウィルスに感染して可能性がある‥もしかしたら、早速あのワクチンを使用するかもしれないが、大丈夫か?」
「はい。一クラス分はなんとか用意できていますから」
「副作用とかの問題は?」
「そちらの方も大丈夫です」
「わかった」
シュテルは内線電話を切り、横須賀女子からの返答を待つ。
ヒンデンブルクから駿河との交戦許可を求められた横須賀女子では、
「ドイツのヒンデンブルクが!?」
「はい。駿河との交戦許可を求めています」
ヒンデンブルクからの通信内容に真雪は思わず声をあげる。
真雪の下にはヒンデンブルクから、駿河が東舞鶴海洋高校の教員艦へ攻撃を仕掛けている旨も伝えられていた。
なるべくなら生徒、学生艦を傷つけたくはなかった。
しかし、現状は最悪で、駿河は東舞鶴海洋高校の教員艦を一方的に砲撃し、多数航行不能にしている。
これ以上、駿河を放置すれば、民間船舶にも被害が出る恐れがある。
それを止めるには駿河をここで何としてでも捕捉しなければならない。
「校長‥いかがいたしましょう?」
教頭が神妙な面持ちで真雪に指示を請う。
「‥‥やむを得ません‥‥ヒンデンブルクに駿河との交戦許可を‥‥」
真雪はヒンデンブルクに駿河との交戦許可を出した。
「艦長、横須賀女子から返信です」
「内容は?」
「駿河との交戦許可が出ました」
「よし‥‥」
横須賀女子から交戦許可が出たことで、シュテルは艦内に一斉放送を流す。
「総員に告ぐ、横須賀女子より、駿河との交戦許可が出た‥‥本艦はこれより駿河との交戦に入る‥‥駿河はなんとしてでもここで捕捉し、乗員を救助する!!」
シュテルは駿河との戦闘を決意する。
その頃、晴風の艦橋では‥‥
「もかちゃん‥‥シロちゃん‥悪いけど、後は任せて良い?‥‥私、行ってくる‥‥」
突然、明乃は、真白に艦を任せ、何処かへ行くと言い出した。
「ちょっと待て!!『行く』ってどこに行く気だ!?」
この逼迫した事態に艦長としての職務を放棄してどこへ行くのかを問う真白。
「駿河のところ」
明乃は迷うことなく東舞鶴海洋高校の教員艦と駿河がドンパチしている海域へ単身で乗り込もうと言うのだ。
「ば、馬鹿を言うな!!状況は、既に把握した!!現状で確認したことを学校に報告することが最優先の筈だ!!」
真白は、駿河に向かう明乃を止めようとするが、明乃は、真白の言葉を聞かずに行こうとする。
すでに明乃の意識は駿河‥‥もえかしか見えていないようで、パニックを起こしているみたいに見える。
それに対して、思わず真白は、明乃の肩を掴み、
「い、いい加減にしろ!!毎度毎度、自分の艦をほったらかしにして飛び出す艦長が何所の世界に居る!?」
これまでの明乃の行動に対して不満を抱いていた真白が等々爆発する。
そこへ、
「艦長!!ヒンデンブルクから通信です!!」
八木がヒンデンブルクからの通信内容を艦橋に居る全員に伝える。
それによると、駿河の相手はヒンデンブルクが行うので、晴風は遭難した東舞鶴海洋高校の教員艦乗員の救助を頼むモノだった。
「対処って‥‥」
「駿河相手に戦う気か!?」
「じゃ、じゃあ‥私も‥‥」
明乃はあくまでも駿河に行こうとする。
その時、
「か、艦長!!」
晴風の艦橋に鈴の大声が響く。
「艦長、ここは碇艦長を信じましょう!!」
「で、でも‥もかちゃんが‥‥私の幼馴染があそこに居るの‥大事な親友なの‥‥」
「それは分かります。でも、今、晴風には晴風にしか出来ないことがあるはずです!!」
鈴だって、本音を言えばこんなドンパチが行われている海域からさっさと逃げたい。
でも、先程、甲板でシュテルから言われた言葉が鈴の脳裏を過ぎる‥‥
『人生の中にはどうしても逃げてはダメな時もある』
(うぅ~‥逃げたい‥‥でも、今は、逃げちゃダメな時なんだ‥‥碇艦長だってあの駿河相手に戦おうとしているんだ‥‥わ、私だって‥‥)
鈴は自身を奮い立たせる。
こうして声を上げ、艦長である明乃に意見するだけでも、鈴にとっては勇気がいることなのだが、鈴は意見を続ける。
「艦長が、駿河の艦長の事を大切にしているのは、分かります!!でも、今は海で救助を求めている人が居るんです!!ブルーマーメイドの主任務は海難救助です!!海で救助を求めている人を見捨てるのが、艦長が目指すブルーマーメイドの姿なんですか!?海の仲間は家族じゃないんですか!?」
「鈴ちゃん‥‥」
「知床さん‥‥」
普段のなよなよした姿から考えられない鈴の姿がそこにあった。
「‥‥」
鈴のその言葉と姿に明乃もようやく冷静さを取り戻した。
明乃は海難事故で家族を失い、その時、救助をしてくれたブルーマーメイドの姿、そして、施設で出会ったもえかとの約束で、自分もブルーマーメイドを目指した‥‥
しかし、今の自分の姿はあまりにも将来、目指しているブルーマーメイドの姿からかけ離れていることに気づく。
艦長としての職務放棄、そして、友人と海で救助を求めている大勢の人が乗る天秤で、本来優先すべき遭難者たちではなく、友人へ傾けてしまった事‥‥
それが、ブルーマーメイドの姿とかけ離れていることに気づいた。
「ご、ごめん‥鈴ちゃん‥‥私‥‥」
「いえ、私の方こそ、ごめんなさい‥‥艦長が駿河の艦長と仲が良いことは知っているのに生意気な事を言って‥‥」
「ううん、私は駿河の姿を見て、冷静を無くしていたよ‥‥これじゃあ、本当に艦長失格だよ‥‥」
「艦長、汚名はそそぎましょう!!海で私たちの助けを待っている人が居るんです!!」
落ち込んでいる明乃に納沙が助け船を出して励ます。
「う、うん、そうだね‥‥針路を変更‥これより本艦は東舞鶴海洋高校の教員艦乗員の救助を行う!!救助準備!!」
明乃も本来の調子を取り戻したようで、駿河の事をヒンデンブルクに任せ、自分たちは遭難した東舞鶴海洋高校の教員艦の乗員の救助を行う為に遭難海域へと向かう。
そして、駿河との戦闘をこれより開始しようとするヒンデンブルクは、
「弾種、徹甲模擬弾装填!!機関全速!!」
「弾種、徹甲模擬弾装填!!」
「機関全速!!」
一個下の後輩相手とはいえ、相手は戦艦同士と言うことで、緊張した面持ちで駿河との距離を詰めていく。
(噴進弾を全て使用してでも、駿河はここで止める‥‥)
次第に距離が縮まり、姿が大きくなってくる駿河を見て、シュテルは決意に満ちた目をしていた。
ヒンデンブルク‥シュテルとっては親友を取り戻す大事な一戦であり、駿河にとっては東舞鶴海洋高校の教員艦に次ぐ、第二ラウンドが始まろうとしていた。