やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
後世における奉仕部の最初の依頼とされる戸塚のテニス部の強化の依頼‥‥
雪ノ下は由比ヶ浜に全てを任せる形にしたが、それがそもそもの間違いだった。
この後世では、自分たちが知る前世の歴史と異なる歴史を辿っていた。
前世では、奉仕部がテニス部の強化中に活動していると、葉山グループの一人、三浦がテニスをやらせろと乱入して、滅茶苦茶にした。
雪ノ下はこの後世でも三浦が邪魔するのではないかと懸念したが、由比ヶ浜と葉山からの情報でそれはないと言われ、後世では、三浦に邪魔されず、依頼をこなせると思っていた。
しかし、実際にテニス場に行ってみると、そこには一年生にテニスを指導している三浦の姿があった‥‥
雪ノ下は自分たちが来る前に三浦が単独でテニス場に来て、テニス部員たちを脅して勝手にテニスをしているのだと思い込んでいた。
だが、話を聞くと、後世では三浦はテニス部のマネージャーであり、テニス部の関係者だった。
そして、テニス場の使用許可を由比ヶ浜がとり忘れたことにより、三浦と雪ノ下が口論となると、葉山が前世と同じ様に自らの信条、「みんな仲良く」で、この場を何とか解決しようとするも、それは却ってテニス部員からの反感を買い、更に葉山グループの相模までもがこの場に乱入し、事態は収まるどころか、ますます混乱していく。
このカオスと化した現場はテニス部の顧問が現れこの場を収めた。
だが、奉仕部+相模は無許可でテニス場に入り、テニス部の備品を使用しようとしていたのだ。
前世で八幡が裏方として色々したことを由比ヶ浜はそれを知らず、そしてそれをやらず、雪ノ下はその確認を怠った。
相模はただ、葉山と一緒にテニスをしたいと言う理由から、前世の三浦の様にテニス場に乱入しようとし、雪ノ下たち奉仕部も三浦と口論になりテニス部の昼練を妨害した。
奉仕部の三人+葉山グループの相模はその罰として放課後、校内の清掃活動として、別の意味で学校の美化に奉仕することになった。
最初の依頼、そして今日の分の罰掃除を終えた奉仕部の部室はお通夜の様に空気が重かった。
「ごめん、ゆきのん‥‥まさか、許可が必要だなんて知らなくて‥‥」
由比ヶ浜が雪ノ下に今回の依頼失敗について、素直に謝罪する。
この場には八幡は居ないので、彼に責任をなすりつけることが出来ない。
それ以前に八幡ならば、こんなミスはしない。
(全くだ、バカなお前のせいで俺も雪乃ちゃんも処罰されたんだぞ!!)
葉山は心の中で、由比ヶ浜を罵倒する。
しかし、実際に口で言わない所あたり、この男の度量の小ささが伺える。
それに今、彼女をグループから追放すれば、きっと由比ヶ浜は雪ノ下に泣きつくだろう。
そうなれば、自分が奉仕部から追放されるので、それを恐れた葉山は自分のグループから由比ヶ浜を追放したい気持ちを必死に抑え込んだ。
「いいえ、今回の件については、確認を怠った私にも責任はあるわ‥‥」
雪ノ下は今回の件については、自らの行いに反省の色を示した。
これがもし、由比ヶ浜ではなく、八幡だったら、きっと自らの過ちを認めず、ボロクソに彼を罵倒し、責任をなすりつけていただろう。
「それで、葉山君、貴方からは何か言うことがないのかしら?」
次に雪ノ下は葉山に声をかける。
「な、何の事かな?」
「とぼけないで、元々は貴方が相模さんと一緒にあんな提案をしなければ、こんな大事にはならなかったのよ。それについて、貴方はどう思っているのかしら?」
「そ、それは‥‥」
「貴方があんな提案をしたせいで、私たちは引き際を見誤り、こんなことになったのよ」
「お、俺はみんなが仲良くなればと思って‥‥」
「その結果がこれ?」
「‥‥」
「まったく、バカは死ななきゃ治らないって言うけど、どうやら一度死んでも、貴方のその性格は治らなかったみたいね」
(くそっ、なんで俺がこんな目に‥‥こういう役目はヒキタニの役割だろう)
葉山は自らが存在を消してしまった八幡のせいにしながら、雪ノ下の罵倒に耐えていた。
この後世における彼のミスとして、八幡が存在していないこと、
由比ヶ浜が自らと同じ転生者であり、雪ノ下と深く関わりを持ってしまったこと、
そして、由比ヶ浜自身が特典で前世よりも知能が上がっている筈なのに、努力を一切せず、知能が段々と前世の様に落ち始めており、それに由比ヶ浜自身が気づいていないこと、
それらの前世と異なる要素がこの先、葉山を‥‥奉仕部を苦しめることになる。
罰掃除の姿は、放課後何人もの生徒に見られ、クラスでは、何故葉山や由比ヶ浜、そして学年首席とされる雪ノ下が放課後掃除しているのか不思議がられたが、その実情がテニス部の部員から伝わりクラスでもヒソヒソと噂されるようになった。
しかし、人の噂も七十五日と言うが、常に新しい情報に飢えている高校生たち‥‥七十五日も経たず、数週間もするとその噂は消えた。
苦いスタートで出発した後世奉仕部であった。
奉仕部が最初の依頼で大失敗した頃、南洋では、ヒンデンブルクと晴風が行方不明になった学生艦の捜索活動をしていた。
その晴風の浴室では、砲雷科のクラスメイトたちが気持ち良さそうに入浴をしている。そんな中、万里小路が何かに気づき立ち上がる。
小笠原は、どうしたのかと訊ねと、
「お亡くなりになります」
と呟くと、浴室のシャワーの水が全て止まる。
まるで、予言していたかのように‥‥
彼女には予知能力でもあるのだろうか?
「ま、まさか‥‥」
小笠原がもしかしてと思った通り、晴風は船上生活において死活問題である、水不足に陥った。
その頃、晴風艦橋では、艦橋組+晴風に赴いていたシュテルが海図を開いて何かを確認していた。
海図の上には何かの目印が幾つか置かれていた。
「マークされてあるのが、行方不明になった学生艦が目撃された位置です」
海図に描かれているマークは商船、漁船が目撃した行方不明になった学生艦が目撃された箇所となっている。
「なんだか海を彷徨っているみたいだ‥‥」
「陸地を目指している事は間違いないと思うんだけど‥‥」
「学校側からは『行方不明になった学生艦を見つけろ』って言われているんでしょう?」
「現在、確実に連絡が取れて、直ぐに動ける艦は少ないみたいで、他校にも捜索協力を打診したみたいです」
納沙がタブレットに受信した、メール画面を見せる。
そこには横須賀女子以外の海洋高校が捜索協力をしてくれる旨の内容が書かれており、その中には佐世保女子海洋学校、総武高校の名前が含まれていた。
(佐世保もあるんだ‥‥リンチェのアンネッタの奴、暴走していないといいけど‥‥)
佐世保女子海洋学校があると言うことは地中海で出会ったタラント校の駆逐艦リンチェの艦長、アンネッタの留学先であり、彼女の事だからきっと捜索に参加するだろうけど、そこで地中海の時の様に暴走して、佐世保女子の生徒たちに迷惑をかけないか心配だ。
そして、総武高校の方だが、
「ねぇ、納沙さん」
「はい?」
「総武高校は二年生が乗っているの?」
流石に一年生が乗っているとは思えず、乗っているとすれば、二年生か三年生のどちらかだと判断したシュテル。
「いえ、総武高校は三年生が乗艦しているみたいです」
「へぇ~‥‥」
(まぁ、あの雪ノ下が、集団生活が当たり前の海洋科に行く訳がないな‥‥)
シュテルは前世同様、雪ノ下は海洋科ではなく、国際教養科であると思っていた。
「あぁ~あ。美波さんが言っていたと通り、みんなあのネズミっぽいのにどうにかされちゃったのかな?」
西崎が行方不明になった学生艦の乗員は例のネズミのウィルスに感染しているのではないかと言う。
(テア、無事ならいいけど‥‥)
明乃、ミーナの話を聞く限り、駿河同様、シュペーもウィルス感染した可能性が高い。
しかし、もえかの様に一部の正常なクラスメイトたちと共に艦橋に立て籠もって、救助が来るのを待っているかもしれない。
まだテアがウィルス感染していない可能性も捨てきれない。
一刻も早くシュペーを‥‥テアを助け出したいと言う気持ちはミーナもシュテルも変わらなかった。
「‥‥その可能性は高いだろうな‥‥問題は、そのウィルス感染した学生艦が商船を相手に攻撃をしていないか?と、ウィルス感染者が他の商船、または陸地に上陸してウィルスを拡散させていないか‥だ‥‥」
シュテルは約三十人規模とはいえ、あのネズミのウィルスの拡散が風邪などのウィルスと違い爆発的に早いことから、ウィルス感染者が陸地に上がり、そこから陸の人にウィルスが感染することを危惧した。
大人しかった立石をあそこまで凶暴化させるウィルスだ‥‥何千、何万と暴徒が量産されればそれこそ、荒廃した世紀末世界みたいな惨状となる。
「取り敢えず、この海域を捜索してみるしかないですね」
そんな中、艦橋にある報告が来た。
それは、浴室のシャワーが止まったと言う報告だった。
(シャワーの不具合ならいいけど、水不足となると厄介だぞ‥‥)
報告を聞いてシュテルはシャワーだけの不具合ならば、マシだと思う。
去年、ヴィルヘルムスハーフェン校での交換留学の際、最初の航海でわざと遭難した時の遭難生活時、いつ戻れるか分からなかったため、ヒンデンブルクでは徹底した節約生活が行われ、水に関しては命のかかわる問題なので、節水も当然行われた。
一応、ヒンデンブルクには海水を蒸留して真水にする機械もあるのだが、その機械を動かすにも電気を使い、電気を使うとなると、燃料を消費する‥‥
疑似とは言え遭難中は補給がいつ出来るか分からない状況下だったので、生活水には海水を使用することもあった。
そんな海水生活が晴風にも待ち構えている可能性が出てきたのだ。
(髪の毛や皮膚が弱い子には厳しい生活になるな‥‥)
(だが、これも一つの経験だな‥‥潜水艦クラス‥‥トゥルーデ先輩たちはもっと過酷な環境下で航海していたからな‥‥)
海上艦は兎も角、潜水艦クラスは最初から湯船もなければ、シャワーもない環境で何日間も航海するのだから‥‥それに比べると海水とは言え、シャワーも湯船もある海上艦は贅沢な方だ。
清水タンクの様子を見に、明乃と真白が艦橋を降りていく。
(まぁ、いざとなれば、こっちの生活水を分ければいいか‥‥蒸留装置はしばらくフル稼働だな)
そう思っていると、シュテルの携帯が鳴る。
Prrrrr‥‥
「ん?ジークからか‥‥」
ディスプレイを見ると、それは機関長のジークからだった。
「もしもし、どうしたの?ジーク」
「艦長、大変や!!」
「えっ?何かあったの?」
「蒸留装置が故障してしもうた!!」
「えっ?」
「せやから、次の補給まで節水生活になりそうや‥‥」
「節水‥‥それって‥‥」
「‥‥海水‥生活やな‥‥」
「‥‥修理はできないの?」
「修理に必要な応急用の部品も足りひん」
「‥‥」
まさか、晴風よりも先にヒンデンブルクの方が海水生活決定となってしまった。
「あれ?碇艦長、顔色が悪いけどどうしたんですか?」
鈴がシュテルの顔色が悪くなっているのに気づき、声をかける。
「あ、ああ‥‥艦内の蒸留装置が故障して‥‥こっちは当分、節水‥‥海水生活になった‥‥」
「あぁ~‥‥それは‥‥何というか‥‥」
「ご愁傷様です」
鈴が気まずそうに言い、西崎は、はっきり言った。
その頃、艦底部にある清水タンクを見に来た明乃、真白、納沙、応急委員の和住と青木の五人。
タンクのメーターをみると、水量は残り僅かだった。
「異常は見当たりません。タンクの修理はしたはずなんだけど‥‥」
「何処からか漏れていたみたいっす」
タンクの修理はしたものの、何処かで水が漏れていたようだ。
「艦長、ヒンデンブルクから水を分けてもらえませんか?」
和住が明乃に水をヒンデンブルクから分けてもらえないかと訊ねる。
「分かった。シューちゃんに聞いてみるね」
明乃は内線電話で艦橋に電話を入れる。
そして、そこで鈴からヒンデンブルクでも水不足である事実を知る。
「‥‥そう、分かった。ありがとう」
「どうでした?」
「‥‥残念だけど、ヒンデンブルクの方でも蒸留装置が故障して水を提供する程の量の余裕がないみたい」
「補給を要請するしかないですね」
「うん、そうだね」
「補給が来るまで節水だな」
「ココちゃん、天気図見てくれる?」
「はい」
節水生活が始まると言うことで、雨水を溜める必要があるので、この近くの降雨海域へ赴くことにした。
「はぁ~海水生活か‥‥」
海水生活をするのも船乗り生活ではある意味経験なので、この機会に彼女たちにはその経験を積んでもらおうと思うシュテルだった。
ただ、自分たちも晴風クラスと同じく節水、海水生活となったが‥‥
その後、明石、間宮に連絡を入れると、補給が来るのにあと五日後の予定となった。
シュテルはその後、晴風クラスに節水生活のやり方を教授した。
五日間の節水生活が始まったヒンデンブルクと晴風‥‥
節水生活三日目、晴風の医務室では‥‥
「あぁ~喉渇いた~」
勝田が医務室のベッドで横になりながら愚痴る。
「ラムネを飲めばよかろう」
「もぉ~飽きたぞな~!」
「そうか」
「太るしね~」
美波はパソコンを打ちながら、勝田にラムネを飲めばいいだろうと返すが、勝田は、ラムネはもう飽きたと言い、宇田は太ると言う。
年頃の女子はどこの世界でも体重を気にするものだ。
「お水を使わないメニューって何かあったかな~?」
教室では、伊良子、杵崎姉妹、和住、青木の五人が節水を呼び掛けるポスターなどを制作していた。
その過程で、伊良子、杵崎姉妹の三人は水をあまり使用しない献立を考えている。
「トイレ、どうするっす~?」
「えぇ、嘘!?トイレ禁止なの!?」
「トイレを流すのは海水を使うから大丈夫だよ」
「ああ、そっか~」
杵崎姉妹は、トイレが禁止になるのかと心配するが、和住は、問題ないと言う。
どうやらトイレは問題なく使えるようだ。
しかし、この時、彼女たちはトイレの水を海水にすることのリスクを知らなかった。
「あんなにトイレットペーパー買い込んだのに‥‥」
オーシャンモールで、あんなに苦労して買い込んだトイレットペーパーが無駄になった気分になる。
節水を呼び掛けるポスターや貼り紙が完成し、それを貼りに行った。
その頃、トイレでは‥‥
「ヒイィィィー!!誰だ!塩水使ったのは!出てこい!!」
まだ海水を使うと言う知らせが行き届いておらず、それを知らないでトイレに入った黒木が、ウォシュレットを使うと、ウォシュレットからは真水ではなく海水が飛び出てきた。
海水は黒木のデリケートゾーンには合わなかったみたいで、黒木は海水が使用されていることを知らないので、艦内でドッキリ企画でもしていると思い、大声をあげる。
トイレで黒木が叫んでいる中、トイレの外に居て、彼女の怒声を聞いた和住たちは、やってしまったと言った表情をする。
そして、もしも自分たちのデリケートゾーンが海水と肌が合わなかったら、黒木と同じ運命を辿ることを今になって気づいた。
初めての海水生活は、トイレを使用した黒木以外にも、
「クロちゃんの話、聞いた?」
「うぃ」
晴風の浴室の脱衣所では、立石と西崎が入浴をしようと制服を脱いでいた。
そして、身体にバスタオルを巻き、シャンプー、リンス、ボディーソープが入った防水バッグを手に浴室に入ろうとしたら、扉には、『本日より浴槽とシャワー。海水を使用』と書かれた貼り紙が貼られていた。
「あっちゃ~」
「うぅぅ~‥‥」
「三日ぶりなのに‥‥洗うべきか!?それとも洗わざるべきか!?」
水が無くなる時、浴室には砲雷科のクラスメイトらが居たのだが、当時、当直時間であった西崎と立石はお風呂に入れなかった。
そして、やっとやってきた入浴時間‥‥
しかし、使用されている水は真水ではなく、海水‥‥
三日ぶりに入れる風呂‥‥だが使用されているのは海水‥‥ここは諦めて、補給が来るまでお風呂を我慢するか、それとも海水でも我慢して入るか‥‥二人は悩みに悩んだ末、海水風呂に入ることにした。
やはり年頃の乙女‥‥体重もそうだが、体臭だって気になるのだ。
その結果‥‥
「なんじゃ?その頭は?」
入浴を終えた二人は、食堂で納沙、ミーナと共にラムネを飲んでいた。
二人の頭は、バスタオルで拭き、ドライヤーをかけたにも関わらず、爆発し、髪の毛がボサボサの状態だった。
ミーナは、二人の頭について訝しむような表情で訊ねる。
「見事に爆発しちゃったね」
「うん‥‥」
髪の毛がボサボサになったことがショックだったのか、二人とも目が死んだ魚みたいになっており、沈んでいる。
そんな二人の傍を、
「髪は女の子の命ですのに‥‥」
万里小路が通り過ぎる。
彼女も二人と一緒に海水風呂に入ったにもかかわらず、万里小路の髪は全く痛んでおらず、むしろサラサラしていた。
「キラキラ‥‥」
「あれ?なんで?」
「知るか!」
同じ海水風呂に入ったのに髪が痛んでいない万里小路を見て、立石と西崎は信じられないと言った表情をする。
「鯖の水煮にトマトの水煮~」
「ミックスベジタブルに乾パン‥‥」
「見事な缶詰料理だな~おい」
「贅沢言わない」
「まっ、しょうがないよ、食べよ」
「一雨降らねぇかな~」
別の席では機関科のクラスメイトたちが昼食を摂っていたが、節水の為、食事の内容は専ら缶詰めと乾パンだった。
しかし、もう三日目、三食とも缶詰め、乾パンでは飽きる。
食事に関しても不満が募りだしてきた。
洗濯室では航海科のクラスメイトたちが自分たちの洗濯物をジッと見ていた。
「どうしよう‥‥」
「パンツが潮の香りって嫌だよねぇ~」
「なんかねぇ~‥‥」
飲み水以外の生活水全てが今は海水を使用している。
当然、洗濯に使用する水も海水だ。
洗剤と柔軟剤を使用してもすすぎは海水なので、塩の匂いがどうしても残る。
その為、海水で衣類を洗うことに躊躇したり嫌がったりする生徒は少なくない。
特に下着類を海水で洗う事に関しては、多くの生徒が嫌がっていた。
その頃、ヒンデンブルの艦橋では‥‥
「おぉ~今日もシュテルンの髪の毛は鳥の巣みたいになっているねぇ~」
シュテルの今の髪の毛を見て、ユーリが笑いながら言う。
シュテルの髪の毛も西崎や立石と同じく海水で髪の毛を洗い、爆発した状態だった。
一方、ユーリは元々くせ毛なので、海水で髪の毛を洗って爆発しても大して変わらない。
「別に晴風とヒンデンブル以外の人に見せる訳じゃないからいいんだよ。海じゃあ格好を気にしていたら生きていけないのは経験済みな筈だ」
「まぁ~それはそうだけどさぁ~‥‥ぷっ、やっぱり、今のシュテルンの髪の毛を見るとね‥‥」
ユーリはクルっと向きを変え、腹を抱えて笑う。
「ちょっと、ユーリ、失礼だよ」
クリスがユーリを嗜める。
「いや、ごめんね、シュテルン‥‥けど、実際笑っちゃうだろう?もしも立場が逆だったらシュテルンだって腹抱えて笑いこけているよ」
「‥‥」
爆発ヘアーのシュテルを見て笑っているユーリをシュテルはジト目で見ていた。
「艦長、気になるようでしたら、私が髪をとかしますけど?」
メイリンが櫛を手にシュテルの髪の毛を梳かしてくれると言う。
「それじゃあ、よろしく」
「はい」
シュテルは椅子に座り、メイリンは後ろから櫛でシュテルの髪の毛を梳く。
その光景を見て、クリスとユーリは、
((おのれ、メイリン!!美味しいところをもっていったな‥‥))
シュテルの髪の毛を梳くメイリンを背後から睨むクリスとユーリだった。
「はい、出来ました」
「ありがとう、メイリン」
「いえいえ」
髪の毛を梳いてもらったシュテルの髪は鳥の巣から元通りになっていた。
(でも、また海水シャワーを浴びたら鳥の巣に戻るんだけどね‥‥)
しかし、真水の補給が出来るまで入浴は海水シャワーを浴びる訳なので、それを浴びたら再びシュテルの髪の毛はまた鳥の巣に戻るので、焼け石に水だった。
「艦長、前方に濃霧!」
「航海長、針路そのまま。晴風と共に霧の中に突入する。操艦には慎重にな」
「了解しました」
雨水を求め、ヒンデンブルと晴風は濃霧の中に入る。
「航海灯及び探照灯を点灯」
濃霧内の航行なので、他船との衝突を防ぐために明かりを点け、自艦の存在をアピールする。
同じく晴風も明乃の指示で勝田が探照灯で辺りを照す。
「霧笛を鳴らせ」
ボォォォォォー!!
濃霧の中、ヒンデンブルの汽笛が不気味に響く。
真っ白な空間を進んでいると、
ポタ‥‥ポタ‥‥
甲板に空から雫が落ちてくる。
「艦長、雨が降ってきたみたいです」
「よし、手空きの者はバケツにタライ、洗面器を持って甲板に集合!!水を溜めつつ、天然のシャワータイムだ!!」
ヒンデンブル、晴風のクラスメイトたちにとっては恵みの雨が降り、手空きのクラスメイトたちは雨水を貯めるバケツや洗面具を持ち、甲板に出ると、久しぶりに真水で頭を洗ったり、顔を洗い、そして雨水を貯める。
だが、しばらくすると。海は荒れ始め、雷が鳴りはじめる。
「もう少し、水をためたかったけどな‥‥」
荒れている海を見ながら呟くシュテル。
荒天下で下手に甲板に出ると、波に攫われる危険がある為、ヒンデンブルでも晴風でも荒天を脱出するまで上甲板の立ち入りは禁止された。
一方、晴風では、
「荒天につき上甲板の通行を禁止します」
八木が艦内に放送を流し、宇田とマチコが洗濯籠を持ち、通路を歩いていた。
すると、反対側から若狭と伊勢がやってきた。
宇田とマチコは壁側により、若狭と伊勢が通り過ぎるのを待つ。
若狭は宇田とマチコの前をすんなりと通り過ぎることが出来たのだが、胸が大きい伊勢と背が低い宇田‥‥伊勢の胸は宇田の顔面とちょうど同じ位置にあり、伊勢の胸が宇田の顔面を押し付けてしまう形となった。
「あっ、ごめん、うーん‥‥」
「ぷはっ‥‥」
何とか、通り抜けた伊勢は宇田に謝罪した後、通路を歩いていった。
(こりゃあいい‥‥癖になりそうだ‥‥)
伊勢はすまなそうにしていたが、宇田の中で何かが目覚め、これ以降、何故か彼女は狭い通路をやたらと通るようになった。