やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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はいふりの映画見てきました。

伏線と思えるような場面もあったので、二期がやってくれたらと思います。


77話

清水貯蔵タンクからの水漏れで晴風は水不足となり、ヒンデンブルクは蒸留装置が故障して、節水生活となった。

そこで、両艦は真水を確保するため、降雨海域へと針路をとる。

甲板上に沢山のバケツ、タライなどの水を溜められる容器をズラッと並べ雨水を確保し、ここ数日海水シャワー、海水風呂ばかりだったヒンデンブルク、晴風のクラスメイトたちは空から降る雨を利用して久しぶりに真水の天然シャワーを堪能する。

しかし、時間が経つにつれ、雨の量は増え、勢いも強くなり、海の方も波が荒れ始めた。

これ以上、甲板で雨水を貯めるのは危険だと判断され、クラスメイトたちは早々に撤収した。

 

「降雨帯に入ったと思ったら、低気圧の中に入り込んだみたいだ‥‥」

 

荒天下の中、ヒンデンブルクの艦橋で呟くシュテル。

雨水を貯めるために入り込んだ降雨帯はスコールではなく、低気圧から発生した降雨帯だったみたいだ。

外は雨も激しく、波も高くなり、しまいには雷まで鳴り響く。

荒天を抜けるまで上甲板の通行が禁止になるぐらいの激しい嵐となる。

 

(海上生活に慣れていないと、確実に船酔いするな‥‥)

 

この波の強さから、いきなり船乗り生活をした者であるならば、船酔いで潰れるだろうと思うシュテル。

 

「雷まで鳴ってきたよ‥‥アンテナに落ちないといいけど‥‥」

 

レヴィが舵を握りながら不安そうに呟く。

 

「それもあるけど、艦の操艦には十分に注意して‥‥艦の安定を保つように‥‥大きな横波を受けると、戦艦とは言え、危険だからね」

 

「了解」

 

シュテルはレヴィに指示を出したのち、荒れている海をジッと見る。

 

(そう言えば、ミケちゃんは雷が苦手だった筈だけど、大丈夫かな?)

 

(‥‥とは言え、最後にあったのは互いに小学生低学年の頃だったし‥‥もう高校生だから、さすがに克服したかな?)

 

昔、広島の呉で明乃ともえかと出会った時、明乃は雷が苦手な事を聞いていたシュテルは、雷鳴が轟くこの現状で、明乃の精神が大丈夫なのか心配になった。

でも、あの時は互いに小学生低学年であり、今の明乃は高校生なのだから、雷ぐらいは既に克服しているだろうと思うシュテルだった。

 

その頃、晴風の艦橋では‥‥

 

「す、凄い‥‥」

 

鈴が舵を握りながら、外の荒天を見て呟く。

しかし、怖がっている様子はないので、嵐は鈴の恐怖の対象外の様だ。

一方、鈴とは裏腹に彼女と共に当直に当たっていた明乃の方が、顔色が悪い。

 

「岬さんどうかしたの?具合でも悪いの?」

 

双眼鏡を持つ手がカタカタと小さく震えており、明乃は何かに怯えている様子だった。

心配になった鈴が明乃に声をかける。

 

「う、うん、ちょっと‥‥」

 

ピシャア!!ゴロゴロ‥‥!!

 

明乃が答えた瞬間、雷が鳴った。

 

「いやぁぁぁぁぁー!!」

 

すると、明乃は悲鳴を上げしゃがみ込む。

 

「み、岬さん?」

 

明乃のこれまで見たことのないぐらいの怯え方に戸惑う鈴。

 

「ご、ごめん、私‥もう‥‥当直代わってもらってくる!!」

 

「えっ!?ちょっ、岬さん!?」

 

明乃は逃げるように艦橋から出ていく。

鈴は追いかけたくても舵を握っているので、今この場からは動けない。

 

「ど、どうしよぉ~」

 

一人、艦橋に取り残された鈴は明乃を追いかけることもできないし、操艦中なので、内線電話をかけることもできない。

彼女の声が空しく艦橋に響いた。

 

艦橋を後にした明乃は雷鳴が鳴るたびに悲鳴を上げながら階段を下りて行く。

まるで雷から逃げるかのように‥‥

上甲板に出なかったあたり、まだ冷静さは若干、残っているみたいだ。

明乃が走るその先では、洗面所で歯を磨いているマチコと等松、伊良子の三人がいた。

 

「いやーん、マッチカッコイイ~!!」

 

歯を磨いているマチコの姿を見て、悶える等松。

その瞬間、再び雷が鳴る。

 

ピシャア!!ゴロゴロ‥‥!!

 

「きゃああああー!!」

 

明乃は悲鳴を上げながらマチコに抱きつく。

 

「ああぁ~!!私のマッチがぁ~!おのれ~!!そこになおれ!!」

 

「まぁ、まぁ、ミミちゃん落ち着いて‥‥」

 

等松がマチコに抱き着いている明乃に文句を言いながら、明乃を引きはがそうとするが、伊良子に羽交い締めにされた。

 

「ふぁ、ふぁんちょう?(か、艦長?)」

 

歯ブラシを口に咥えながら、いきなり自分に抱き着いてきた明乃に戸惑うマチコ。

 

その頃、真白の部屋では、

 

「まゆげ抜くんも」

 

「同じことなんでぇい!」

 

納沙とミーナが真白の部屋にあるテレビで任侠映画のDVDを見ていた。

 

「ここえぇよなぁ~」

 

「激しく同意であります!」

 

「どうして私の部屋で見るんだ?」

 

「私の部屋にテレビがないんで」

 

どうやら晴風ではテレビがある部屋は限られているようで、納沙の部屋にはテレビが無いため、テレビがある真白の部屋で見るしか手がなかったみたいだ。

 

「見るか?」

 

「いい!」

 

自主勉をしていた真白にとって、興味のない任侠映画なんて見る気がない。

しかし、BGMがヤクザ口調のセリフと銃声、殺陣の効果音と言うことで、なかなか集中出来ないのも事実だ。

更にそこへ、

 

コンコン‥‥

 

新たな来訪者が来た。

 

「‥‥なんです?」

 

やや不機嫌そうな顔で来訪者を迎える真白。

すると、其処に居たのは当直中の筈の明乃だった。

 

「あっ、副長、悪いんだけど‥当直代わってもらえる‥‥?」

 

明乃は真白に恐る恐る当直を代わってもらえないかと頼む。

 

「どうしたん?」

 

「ゆうてみぃ」

 

二人は任侠映画を見ていたせいか、口調もヤクザ口調になっている。

 

「‥‥ちょっと凄くて‥‥」

 

「なにがじゃ?」

 

「ゆうてみぃ!」

 

「‥‥雷」

 

「ほうか、わかった」

 

納沙は立ち上げると、

 

「ほいじぁ、行ってくるけぇのぉ~風下には立たんけぇ」

 

と言ってジャージの上着を肩にかけると部屋を後にする。

どうやら明乃に代わり、彼女が当直を代わってくれるようだ。

明乃は落ち着くまで、真白の部屋にいる事にした。

ミーナは納沙がさっきまで座っていたベッドの脇に明乃を座らせる。

そして、気持ちを落ち着けるようにホットミルクを用意して、明乃に飲ませる。

 

「そろそろ寝たいんだが‥‥」

 

真白はこの状況下では自主勉なんて無理だと思い、二段ベッドの上段‥‥自分のベッドで本を読んでいたが、そろそろ眠くなってきたので、寝ようとしたいのだが、明乃が部屋を出ていく様子はなく、ミーナは明乃に構っている。

 

「そんなに雷が怖いのか?雷はヘソをとったりせんぞ~」

 

「雷が怖いって言うか‥‥ただ‥‥思い出すの‥‥あの日の事を‥‥」

 

明乃はポケットから懐中時計を取り出し、蓋を開けると、蓋の裏側にはまだ小さい頃の明乃と彼女の両親が写った家族写真が貼り付けられていた。

そして、ポツリ、ポツリと何故、自分は雷が苦手なのかを話し始めた。

 

まだ明乃が幼い頃、ある日家族全員で、豪華客船のクルーズ旅行に出掛けた。

しかし、その豪華客船が嵐に巻き込まれて遭難した。

乗客たちは救命胴衣を着て、デッキに避難し、救命ボートに乗ろうとする。

だが、デッキは大混乱となっており、船も大きく左に傾きますます混乱に拍車がかかる。

両親はこのまま救命ボートに乗る順番を待っていては、間に合わないかもしれない。

船の近くには救命ボートが居る。

今から海に飛び込めば、その救命ボートに救助してもらえると判断した。

 

「明乃、早く飛び込むんだ」

 

「で、でも‥‥」

 

「早く」

 

両親は明乃に救命胴衣を着せ、海に飛び込むように促す。

しかし、いくら沈み始めているとはいえ、ボートデッキから海面までまだ高さがあり、明乃が躊躇している。

そんな中、船がまた大きく傾き、明乃は自分の意志とは異なり、デッキから海に放り出される。

明乃の他にも大勢の人が海に放り出される。

その中には彼女の両親も居た。

気がつくと明乃は救命ボートに乗っていた。

明乃はブルーマーメイドに救助されたようだった。

彼女の眼前には雷が鳴り響く嵐の中、海へと沈んで行く豪華客船の姿‥‥

すると、明乃は両親が近くに居ないことに気づく。

両親の姿は明乃が乗っている救命ボートにはなかった。

 

「お父さん‥‥?‥お母さんは‥‥?ねぇ、どこ?どこにいるの?」

 

明乃は隣に居たブルーマーメイドの隊員に両親の行方を訊ねる。

 

「‥‥」

 

ブルーマーメイドの隊員は気まずそうな顔をする。

思えばデッキにいる時、両親はまだ救命胴衣を身に着けていなかった。

救命胴衣を身に着けていれば、海に浮くので救助されるはずだ。

この海域はタイタニック号が沈没した海域と異なり、海に落ちても凍死するほどの温度ではない。

救命ボートに救助されていないとなると、両親は‥‥

 

「私がもっと早く飛び込んでいたら、お父さんも、お母さんも‥‥」

 

両親を亡くした時の嵐が‥雷がトラウマとなり、明乃は雷が苦手になった。

また、両親が亡くなったのは、自分のせいだと未だに思っている。

あの時、両親の言う通り、海に飛び込んでいれば、両親は救命胴衣を身に着ける時間が出来た筈だ。

救命胴衣を身に着けていれば両親は助かったかもしれない。

自分が怖がって、海に飛び込むのを躊躇したせいで、両親は救命胴衣を身に着ける時間がなかった。

そのせいで、両親は海で溺れ死んでしまった‥‥

そんな後悔と罪悪感が幼いながらも明乃の心に傷をつけた。

その後、呉の児童養護施設に入り、そこで同じく親を亡くしたもえかに出会った。

施設暮らしをしていく中、明乃はもえかと親友となり、互いにブルーマーメイドを目指すようになった。

明乃ともえかが一緒に過ごしていく中、京都の祖父母の家に遊びに来たシュテルは、広島の呉に大和が入港することを聞いて、大和を見に行った。

何しろ、前世では戦争で東シナ海に撃沈された大和がこの後世では動いているとのことで、興味があったからだ。

シュテルは同じく大和を見に来た明乃ともえかと出会い、そこで知己を得た。

僅か数日間と言う短い時間であったが、明乃にとっては楽しい思い出だった。

ただ、あまりにも昔の事で、シュテルと再会しても直ぐに分からなかったのは、彼女の不徳の致すところであった。

 

明乃の事情を知り、真白とミーナはいたたまれない気持ちになる。

すると、部屋の伝声管から、

 

「艦長!救難信号です!」

 

納沙からの報告を聞き、明乃たちは急ぎ艦橋へと向かう。

 

救難信号は当然、ヒンデンブルクの方でも受信していた。

シュテルは総員起こしをかけ、配置につかせた。

 

「救難信号はどこから?」

 

「新橋商店街船です全長135m、総トン数14000。現在左に傾斜し、船内に浸水している模様!」

 

「乗員は無事?」

 

「全乗員552名、現在避難中とのことです」

 

「近くの船は?」

 

「私たちが一番近いみたいです」

 

「ブルーマーメイドに通報、晴風もこの救難信号は受信している筈だ。これより、本艦と晴風は新橋の救助に向かう!!」

 

ヒンデンブルクと晴風は急ぎ、遭難した新橋の下へと赴く。

 

「通信長」

 

「はい」

 

「新橋とはまだ連絡が取れる?」

 

「やってみます」

 

シュテルは遭難した新橋とまだ連絡がとれるかコンタクトを試みる。

遭難状況を一番知っているのは新橋の乗員なのだから‥‥

 

「‥‥でました!!新橋はまだ、どうにか通信可能な状態みたいです」

 

「代わって」

 

「はい」

 

シュテルは無線電話の受話器をとり、新橋商店街船の船長と連絡を取る。

 

「こちら、ドイツ・キール校所属、ヒンデンブルク、艦長の碇です」

 

「こちらは、新橋。ウルシー環礁、ファラロップ南東13マイル地点で暗礁に乗り上げました。座礁時刻は15分前、現在も船体中央部に亀裂が出来、そこから浸水しています」

 

「怪我人は?」

 

「確認できた状況で軽傷者が十数名ほど‥‥」

 

「浸水はどのくらいですか?」

 

「左舷側の下部は浸水し、機関は停止‥‥通信も照明の維持もいつ限界が来るかわかりません」

 

「艦内及び船外で火災は発生していますか?」

 

「まだ確認していません」

 

「了解。全速で救助に向かいます。ただし、そちらまでの到達時間は約五十分程かかります。それまで船長は乗員の避難誘導を続けてください。決してパニックをおこさないように‥‥それと無暗に海へ飛び込まないようにも伝えてください。」

 

「わかりました」

 

「艦長」

 

「ん?」

 

「新橋の遭難場所が分かったのですが‥‥」

 

航海科のクラスメイトが海図に新橋の遭難箇所に印をつけるが、何やら困った表情をしている。

 

「どうしたの?」

 

「新橋が遭難している場所に問題が‥‥これを見てください」

 

「ん?」

 

シュテルが海図を見ると、新橋の遭難した海域は暗礁に囲まれていた。

だからこそ、新橋は遭難したわけなのだが‥‥

 

「これは‥‥船体が大きい、ヒンデンブルクは途中までしか行けない‥‥新橋と同じ運命を辿れば二重遭難してしまう」

 

暗礁だらけの海域には、船体が大きなヒンデンブルクが無暗に近づいては、新橋と同じ運命を辿り、ブルーマーメイドに二度手間をかけることになる。

 

「‥‥晴風にこちらの現状を伝える。内火艇とスキッパーは全部投入」

 

「全部‥ですか?」

 

「そう、予備も含めて全部。現場に近づけないのであれば、すこしでも内火艇を出して、晴風クラスの手助けもする」

 

「わかりました」

 

シュテルは新橋の遭難状況について、晴風に連絡をして、ヒンデンブルクが遭難現場まで行けないことを伝えた。

その代わり、ヒンデンブルクに搭載されている内火艇とスキッパーを全て投入する旨を伝える。

 

遭難現場に向かっている最中、嵐はおさまった。

 

「低気圧は西に進んだことで嵐は収まったようです」

 

「それはなによりだ‥‥嵐の中での救助作業何て学生じゃあとても無理だ。新橋の状況は?」

 

「最後の通信ですと、船体は左舷側に大きく傾いています。傾きは、推測ですが約四十度ぐらいかと‥‥」

 

「かなり危険な状況だな」

 

「ええ、傾斜が五十度を越えると転覆する可能性がありますからね」

 

「ああ、救助を急がないと‥‥現場の指揮は‥‥」

 

「あっ、それは私が執ります」

 

救助現場での指揮については、クリスが立候補した。

 

「‥‥で、では、副長に頼む」

 

「はい、了解しました」

 

「艦長、航行可能海域、ギリギリです‥‥これ以上進むと暗礁に乗り上げる危険があります」

 

「わかった‥‥機関停止」

 

「機関停止」

 

「錨を下ろせ!!Let go anchor!!」

 

「Let go anchor」

 

嵐は西へ去ったが、まだ海流の流れが早く流されれば、暗礁に乗り上げてしまう恐れがあるので、錨を下ろして、船体を固定する。

 

 

「これより、救助活動に入る。内火艇とスキッパーを全部降ろせ」

 

「了解」

 

救助活動が始まると言うことで、ヒンデンブルクの上甲板はクラスメイトたちが内火艇、スキッパーを降ろすと言うことで、ざわつき始める。

晴風は駆逐艦と言うことで、その船体の小ささを利用して新橋までギリギリ近づき、救助活動を始める。

救助隊の指揮は、ヒンデンブルク同様、副長の真白が指揮を執っていた。

そして、その中には何故かミーナの姿もあった。

新橋まで近づくと、甲板は避難を待つ人たちでごった返しており、中には海へ飛び込む人もいた。

 

「内火艇二号は海へ落ちた人の救助、その他の艇は新橋まで行き、乗員の避難誘導!!いい、ヒンデンブルクの内火艇は定員一杯まで、乗せるのよ!!」

 

「了解!!」

 

晴風のダイバー隊は、海中に潜り新橋の船底部の損傷状況を確認し、クリス、ミーナ、真白の三人は船橋まであがり、船長に直接事情を聞いていた。

 

「晴風副長、宗谷真白です」

 

「ヒンデンブルク副長のクリス・フォン・エブナーです。それで、乗員の避難状況は?」

 

「機関部、船底部の避難は完了し、居住区の方も九割完了しています。損害状況は未だに正確なところは掴めておりません」

 

新橋の船員は船の損害確認よりも乗員の避難を優先していた。

 

「分かりました。引き続き、避難活動を続行します」

 

甲板では和住、青木らが内火艇、スキッパーへの避難誘導を行い、クリス、真白、ミーナ、砲術委員の小笠原、日置、武田たちで、船内の捜索を行う。

 

「スプリンクラーが作動していない‥‥故障か?」

 

「非常用システムがやられちゃったってこと!?」

 

スプリンクラーの他に非常灯も点いていない。

新橋のライフラインがかなりヤバいことを物語っている。

 

「ってことは‥‥」

 

「この船って‥‥」

 

「火災が起きてからでは遅いかもね‥‥早く、避難誘導をしちゃおう」

 

クリスたちはまだ居住区に残っているかもしれない人たちの捜索と避難誘導を始めた。

 

ヒンデンブルクの艦橋には救助隊から続々と報告が入る。

 

「船体は左舷中央部から亀裂が入っており、既に三区画は浸水している模様で、今後も破口からの浸水規模は大きくなるでしょう」

 

「火災の方は?」

 

「現在までに火災は確認されていませんが、非常用システムが動作不良を起こしています」

 

「晴風は新橋と接舷し、救助者をそのまま晴風に収容する模様です」

 

「わかった。晴風にはくれぐれも暗礁に気を付けるように伝えて」

 

「了解」

 

「‥‥ふぅ~」

 

「なんだか、自分も行きたいって顔をしていますね」

 

通信を終えたシュテルにメイリンが声をかける。

 

「そう見える?」

 

「はい」

 

「‥‥そうかもね‥‥みんながあそこで頑張っている中、自分は安全なところで見ているだけ‥‥それはとても悔しく、そして、クラスメイトたちを危険な場所へ送り込まないといけないことが辛い‥‥艦長って一体何なんだろうね‥‥?」

 

シュテルは腰からぶら下げているサーベルに目をやる。

 

「艦長‥‥」

 

(ミケちゃんも今、こんな気持ちなんだろうな‥‥)

 

明乃の性格上、自分同様にあの現場に行きたいと言う気持ちがあるだろう。

しかし、真白にでも言われたのだろう、明乃は晴風の艦橋で指揮を執っている。

晴風は現場に近いから、新橋の状態がより鮮明に分かる。

そんな所へクラスメイトたちを送りだしたのだから、心配にもなるだろう。

 

(みんな、無事に帰ってきてくれ‥‥)

 

シュテルは祈るように前を‥‥新橋が遭難している現場を見つめた。

 

「乗員。まもなく避難が終わります」

 

居住区を見て、もう人が居ない事を確認し、今階段を登っている人たちが甲板に出れば船内の避難誘導が終わる。

そんな中、

 

「あの‥多聞丸がいないんです」

 

「えっ?」

 

「気がついたら傍にいなくて‥‥」

 

一組の若夫婦が自分たちの家族が居ないと進言してきた。

この様子から見ると、夫婦の子供だろうか?

 

「小さい子ですか?」

 

「「はい」」

 

「捜索していないのは第五区画‥‥飲食店地区だ」

 

「よし!行こう!」

 

真白は若夫婦の言っていた子を探しに飲食店区域へと走っていた。

 

「多聞丸ちゃんは任せて!お二人は避難を!」

 

ミーナとクリスは真白を追いかけ、多聞丸を捜しに行く。

 

「乗員の避難、完了しました」

 

「晴風のタイバー隊も既に引き上げています」

 

「そうか‥‥後はブルーマーメイドの到着を待つだけだな‥‥厨房長、避難してきた人たちに温かい飲み物と軽食を配ってあげて」

 

「はい」

 

シュテルはヒンデンブルクに収容した避難民に食事と飲み物を提供するように伝える。

そんな中、

 

「艦長、追加報告で、晴風の副長、シュペーの副長、そしてウチの副長が船尾方向の捜索に向かったと報告が入りました」

 

「えっ?」

 

「どうやら、お子さんが一人、行方不明だそうです」

 

「なっ!?」

 

追加の報告を受け、シュテルは目を見開いて固まった。

その頃、今にも沈みそうな新橋では、三人の副長が多聞丸を捜していた。

三人一緒に探すよりも分かれて捜した方が効率的だと三人は飲食店区画をくまなく探す。

すると、真白が船内コンビニの出入り口に一匹の子猫を見つけた。

首にはローマ字で「TAMONMARU」と彫られた首輪をつけていた。

夫婦の子とはこの子猫だった。

真白はミーナとクリスに多聞丸が見つかった事をトランシーバーで伝えると、多聞丸を連れて、甲板に避難しようとする。

すると、通風孔から浸水した海水が溢れ、真白に迫ってきた。

 

「っ!?」

 

真白はとっさに目の前の船内コンビニの中に逃げ込んだ。

 

「艦長!新橋が沈みはじめています!」

 

「晴風は!?」

 

「曳航綱を切り、脱出しました!!」

 

「副長たちは!?」

 

「何とか脱出した模様です‥‥しかし‥‥」

 

「しかし?」

 

「‥‥しかし、まだ晴風の副長が‥‥」

 

「‥‥」

 

ミーナ、クリスの脱出は確認できたが、真白の脱出は確認できなかった。

新橋は中央から真っ二つにへし折れ、沈んで行く。

救助隊はその様子を唖然とした表情で見ていることしかできなかった。

そんな中、ようやくブルーマーメイドが現場に到着した。

現状を小笠原から聞き、隊員たちは真白の救助へと赴いた。

その頃、真白は多聞丸と共にコンビニの商品棚の上に逃げ込み、そこから、天井の通風孔のダクトを通り、上を目指していた。

 

「やっぱりついてない‥‥うっ‥‥クソッ!!」

 

だが、唯一の光源である懐中電灯の明かりが消え、やはり自分はついていない‥‥そんな人生に対して怒りが湧いてきたのか、懐中電灯を思いっきり天井にたたきつける。

 

「っ!?叩くものはない!?ハンマーでも何でもいい!急げ!!」

 

すると、新橋の船体の上から聴音装置で真白を捜していた隊員がその音を聞きつけた。

ハンマーで自分たちの存在を真白に伝えると、真白もそれに気づき、懐中電灯で天井を叩く。

そして、バーナーで船体を焼き切り、真白と多聞丸は無事に救助された。

 

「晴風の副長、無事に救出されたみたいです」

 

「そうか‥‥よかった‥‥」

 

(ミケちゃんもきっと、生きた心地がしなかっただろうけど、これで安心できたな)

 

真白の生還を聞いて、ホッと胸をなでおろすシュテル。

 

「副長!!」

 

「怪我はない?」

 

「大丈夫?」

 

「よう行きとったの、我」

 

晴風に戻った真白は明乃たちから声をかけられる。

 

「ニャー」

 

「助かったにゃ~、よかったにゃ~」

 

「なんで、猫言葉になっとる?」

 

短い時間ながらも生死を共にした真白は多聞丸と共に生還を喜ぶ。

すると、何故か彼女の口調が猫語になっていた。

 

「多聞丸。無事救助しました」

 

「ありがとうございます」

 

「どうぞ!」

 

真白は夫婦に多聞丸を差し出すが、

 

「ニャー」

 

「多聞丸‥‥」

 

多聞丸は真白の足元に擦り寄る。

 

「あの‥‥よかったら‥‥」

 

「面倒‥みてもらえますか?」

 

「艦長‥‥」

 

「いいんじゃないかな?」

 

真白は明乃に訊ねると、明乃はあっさりと了承する。

 

「‥‥わかりました、引き取らせて頂きます」

 

多聞丸は無事に夫婦の下に返されたのだが、何故か真白に懐き、夫婦はもしよければ、面倒をみてくれと言い、真白は多聞丸を引き取った。

こうして晴風に新しい仲間が加わったのであった。

水に関しても、ブルーマーメイドから分けて持ったので、間宮の補給日まで持つことから、ようやく海水生活も終わることが出来たヒンデンブルクと晴風だった。

 




各校の所属学生艦にイタリア校の学生艦を追加しました。
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