やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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81話

 

千葉の総武高校にて、チェーンメール騒動が起こり、前世と異なる顛末が起き、2-Fのクラスメイト一人が不登校になっているとは知らず、南洋で行方不明になった横須賀女子の学生艦を捜索しているヒンデンブルクと晴風。

トラック諸島沖合を捜索中、行方不明になっていた比叡と遭遇した。

しかも比叡の乗員は例のウィルスに感染して、比叡もトラック諸島へと向かっていた。

ウィルス感染した比叡がトラック諸島に辿り着けば、周辺の民間船舶に無差別に砲撃し、しかもウィルス感染した乗員がトラック諸島に上陸でもすれば、そこからウィルスが世界中に拡散する。

頼みのブルーマーメイドは比叡がトラック諸島に到着するまでには間に合わない。

そこで、晴風とヒンデンブルクは、比叡のトラック諸島への侵入を阻止すると共に、比叡を座礁させ無力化させることに成功した。

その後、真白の姉の一人である宗谷真冬たち、ブルーマーメイドの手によって、比叡の乗員にはワクチンが投与され、比叡は横須賀へと曳航されることなった。

 

「比叡は横須賀に曳航する。でだ、我々は、引き続き、不明艦捜索を続ける。お前たちは如何する?」

 

シュテルの尻を触ろうとして、一時命の危険に晒された真冬であるが、シュテルたちが艦に戻った後、今後、どうするかを明乃に訊ねる。

 

「如何しますか、艦長?」

 

真白が今後の方針を明乃に聞くと、

 

「学校からの指示は、行方不明になっている学生艦の探索です。クラスメイトたちの異存が無ければ、私たちは引き続き、捜索を続行します」

 

明乃はこのまま、ヒンデンブルクと共に行方不明になっている学生艦の捜索を続けると言う。

 

「よ~し、よく言った!ただ無理はしない様なぁ、無理だと思ったら、すぐに連絡を入れて避難しろ。本来これは、私たちブルーマーメイドの仕事だからな」

 

「はい」

 

今後の方針も決まり、再び行方不明になっている学生艦を捜索に行こうとした時、

 

「艦長!!」

 

八木が電文を書いた紙を手に明乃に声をかける。

 

「広域通信に行方不明になっている学生艦らしき艦船の目撃情報が複数入っています!!」

 

八木から渡された通信文の紙を明乃と真白、真冬の三人は見る。

 

「南方200マイル、アドミラルティ諸島と北東300マイル、トラック諸島方面か‥‥」

 

行方不明になっている学生艦らしき艦船の目撃情報は二つ。

一つは、此処から南の位置にあるアドミラルティ諸島ともう一つは、此処から北東のトラック諸島付近からだった。

反応が二つある中、晴風、ヒンデンブルク、べんてん‥‥さすがに三隻で、一つずつ向かえば、効率が悪い。

ならば、片方にヒンデンブルク&晴風、もう片方に、べんてんが向かった方が効率的だ。

 

「よし!我々は、トラックへと向かう!すまないが、近場のアドミラルティ諸島を確認して貰えるか?」

 

「分かりました!」

 

真冬たち、べんてんは、トラック方面へ、そしてヒンデンブルク&晴風は、アドミラルティ諸島へ向かうことになった。

 

 

その頃、横須賀にあるブルーマーメイドの本部では、例のウィルスに対する対抗術に関する会議が行われていた。

 

「検査の結果、ウィルスに感染した生徒は正常に戻ったわ‥‥ヒンデンブルクの乗員が駿河に対して行った強襲、そして先日、宗谷真冬艦長による比叡への摘発は成功。鏑木美波、ウルスラ・ハルトマン、両名が開発したワクチンも例のウィルスに効力があることが実証されたわ」

 

スクリーンにはヒンデンブルクが駿河に対して行った救出作戦の映像が流され、更に救出作戦後、横須賀の病院に検査入院と共に精密検査を受けた生徒達が異常なしだった事を真霜は、報告する。

 

「凄いですね!」

 

「表彰ものです!」

 

「さぁ、私たちも学生達に負けていられないわよ。まだ行方不明になっている学生艦は残っている‥‥ワクチンの量産が済み次第、パーシアス作戦を展開するわ」

 

真霜は行方不明になっている学生艦に対し、その制圧と救出を目的とした作戦「パーシアス作戦」を実施すると告げる。

 

「現在、行方不明になっている学生艦は鳥海、摩耶、五十鈴、天津風、磯風、時津風、そして、ドイツからの留学生艦、アドミラル・グラーフ・シュペー」

 

スクリーンには行方不明になっている学生艦の写真が表示される。

 

「これら、行方不明になっている学生艦の最終確認地点は、南洋に集中している。現在は、宗谷真冬艦長のべんてんが、トラック諸島近海を捜索中‥各艦は、出航準備を少しでも早めてもらいたい。以上」

 

続いて、行方不明になっている学生艦の目撃情報が表示される。

行方不明になっている学生艦の殆どがトラック諸島、フィリピン近海の南洋に集中していた。

 

ブルーマーメイドからの応援要請は引き続き、各海洋学校へ伝えられていた。

 

「今後はブルーマーメイド主導で作戦を展開するとの事ですが、学生艦にも協力の要請が来ています」

 

とは言え、相手は武装している艦なので、作戦は、あくまでブルーマーメイドの主導の下で行う事になった。

 

「生徒に負担はかけたくないけど、感染の拡大は何としても防がなければ‥‥艦の現況は?」

 

「浜風、舞風は、既に学校へ戻って来ております。長良、浦風、萩風、谷風、明石、間宮、そして晴風とドイツからの留学生艦、ヒンデンブルクは依然、行方不明の学生艦を捜索中です」

 

「生徒たちの様子は?」

 

「今のところ、問題はなく、ウィルスに感染している様子もありません。定時連絡、ビーコンの位置情報は、共に行なっております。それと先日、学校へ殺鼠作業に入った業者から、校内における例のネズミは完全に駆除したと連絡がありました」

 

「そう、分かったわ。ありがとう‥‥捜索に出ている学生艦には引き続き、行方不明になっている学生艦の捜索をたのんで頂戴」

 

「分かりました」

 

「ふぅ~‥‥」

 

教頭が校長室から出て行くと、真雪は深いため息を吐く。

二週間で終わるはずだった新入生の海洋実習がまさか、此処までの大事な事態になるなんて、入学式の日に誰が予想していただろうか?

しかし、今の真雪にはどうすることもできない。

自分が出来るのは、学生たちが無事に帰ってくる事を祈ることしか出来ない。

そんな無力な自分に対して、嫌気がさす真雪であった。

 

 

べんてんと別れたヒンデンブルクと晴風は目撃情報から、アドミラルティ諸島へと針路をとる。

 

「よーし!やるぞ~!」

 

「単位よーけ貰えるぞな!」

 

「ねぇねぇ!ひょっとして、私達って結構やるんじゃない?」

 

「そうそう!比叡って、すっごい艦なんだよね。それを止めたって凄くない?」

 

「下剋上…」

 

比叡のトラック進行を無事に阻止した事で、晴風の生徒たちは、自信に溢れているせいか浮かれていた。

 

「浮かれるのもいいが、慢心はいかんぞ」

 

真白が浮かれているクラスメイトたちを嗜める。

 

 

「アドミラルティ諸島か‥‥」

 

「現在位置と速力ならば、明日の昼頃には到着しますね」

 

「それまで、相手がその場に居てくれれば良いのだけれどね」

 

ヒンデンブルクの艦橋にある海図台でシュテル、メイリン、レヴィらが航路を確認している。

 

(アドミラルティ諸島で目撃された学生艦‥‥もしかしたらテアのシュペーかもしれない‥‥)

 

アドミラルティ諸島に行けばその海域を航行している学生艦の情報ももっと入ってくるだろう。

それはテアが艦長を務めているシュペーかもしれない。

 

「‥‥」

 

シュテルの手に無意識に力がこもる。

 

その日の夜‥‥

 

シュテルは艦長室に備え付けの机の前に座り、何かを書いていた。

すると、

 

コン、コン、コン

 

と、ノックが聞こえた。

 

「どうぞ」

 

シュテルが入室を許可すると、クリスが入ってきた。

 

「こんばんは」

 

「あっ、クリス‥何かあったの?」

 

「ううん、ちょっと、シュテルンの事が気になったから‥‥ん?何を書いているの?」

 

「ああ、これは、もしアドミラルティ諸島に居るのがシュペーで、ブルーマーメイドの到着が遅くなる場合の事を想定した作戦案だよ」

 

「見てもいい?」

 

「いいよ」

 

シュテルから手渡された作戦案が書かれた紙を見るクリス。

 

「やっぱり、駿河の時みたく、シュペーに直接乗り込んでの乗員の制圧とワクチン投与‥‥」

 

「ウルスラの話じゃあ、ウィルスに感染した後、時間の経過と共にワクチンも効きにくくなるみたいだからね。もし、ブルーマーメイドの到着が遅くなるようなら、危険だけど、こちらで対処しなければ、シュペーの乗員にワクチンが効きにくくなる可能性が高いから」

 

シュテルが危険を承知で駿河の時みたいに接舷・強襲するのは、ウィルス感染したシュペーの乗員たちがワクチンの効力が失われる前に一分一秒でも早くワクチンを投与しなければならない緊急性を有しているからだ。

 

「‥‥なんか妬けちゃうな」

 

「えっ?」

 

「シュテルンが、急いでいるのは勿論、シュペーの乗員を心配しての事だろうけど、その中に、シュペーの艦長に対する私情みたいなものもあるんじゃない?」

 

「‥‥」

 

クリスにテアの事を言われ、気まずそうに視線を逸らすシュテル。

 

「やっぱりね」

 

「‥‥ごめん‥でも、私以上に、ミーナさんは不安だと思う‥‥テアとミーナさんの付き合いは私以上だから‥‥」

 

「ミーナさんがシュペーの艦長を心配しているように、私やユーリだって、シュテルンの事を思っているんだよ」

 

「それは分かっているよ。私だって、クリスたちヒンデンブルクの乗員のみんなは大切だからね」

 

(とは言え、シュペーの相手は、駿河の時よりも厄介かもしれないな‥‥)

 

駿河とシュペー、どちらが強力な艦といえば、主砲の大きさから言えば、駿河だろう。

しかし、あの時の乗員は横須賀女子の入試で優秀な成績を叩き出した成績上位者とは言え、経験がまだまだ浅い、海へ駆け出したばかりの新入生たち。

だが、シュペーは駿河よりも攻撃力は劣るものの、駿河の乗員よりも経験豊富なテア率いる乗員たちだ。

ヴィルヘルムスハーフェン校校長、ケルシュティン・ロッテンベルクの自艦をわざと遭難させろと言う無茶苦茶な課題を達成させたぐらいの実力者たち‥‥

艦の攻撃力が駿河より劣っていても、乗員がウィルス感染しても恐らく駿河よりも手強い相手になるのではないだろうか?

晴風がシュペーと初めて邂逅し、戦った時‥あの時は、まだ乗員がウィルスに感染したばかりの頃だったから、うまく逃げ切ることができたのかもしれない。

ただ、晴風が一矢報いるかのように、シュペーの左舷側のスクリューを撃ち抜いてくれたことはシュペーとの戦いで大きな要因となる。

ウィルス感染した事から、シュペーは横須賀出航から、補給・補修を受けていない。

本来ならば、乾ドックで修理する破損したスクリューを補給なしで、しかも海上で修理することは不可能だろうから、シュペーのスクリューは破損したままで、速力は半減している筈だ。

速力の差を突いて、シュペーに接舷出来ればテアたちを救うことは十分に可能だ。

しかし、行方不明になっている学生艦にはシュペーの他にも重巡洋艦、軽巡洋艦の他に晴風と同型の駆逐艦も居る。

アドミラルティ諸島で目撃された学生艦が現時点で必ずしもシュペーであると確定された訳ではない。

 

(もし、アドミラルティ諸島に居る学生艦がシュペーで、ブルーマーメイドの到着が遅い場合、晴風には荷が重い‥‥ならば、私たちがシュペーの相手をしなければならないが、果たしてミケちゃんは応じてくれるだろうか?)

 

自信を持った後輩たちにはすまないが、もし、アドミラルティ諸島にいるのがシュペーで、ブルーマーメイドの到着が遅くなるようであれば、シュペーの相手はヒンデンブルクで対処し、晴風には後方で待機して貰うつもりでいるシュテルだった。

 

(明日の朝、一番で晴風に赴いて、話をするか‥‥)

 

明日の昼頃にはアドミラルティ諸島に到着する。

その前に晴風の乗員には、話をつけておいた方がいい。

特に晴風にはシュペー副長のミーナが居る。

シュペー艦内の構造はここにいる誰よりも詳しい。

接舷し、強襲する場合、彼女のナビが最短でシュペーの乗員を救う要因となる。

シュテルの予想通りの展開となった場合、少なくともミーナはヒンデンブルクに移した方がいいだろう。

それに、彼女自身もシュテル同様、テアの事を心配しているだろうから‥‥

 

翌朝、シュテルは、朝食後に晴風を訪れる旨を伝えた後、晴風に赴いた。

そこで、当直者以外の乗員を教室に集めてもらった。

 

「朝早く、わざわざ集まってもらって申し訳ない」

 

教壇でシュテルはまず、朝食後すぐに集まってもらった晴風の乗員に礼を言う。

 

「広域通信で、まもなく到着するアドミラルティ諸島に、行方不明となっている学生艦が居る事はすでに知って居ると思う。しかし、行方不明になったどの学生艦が居るのかはまだ不明だ‥‥故にもし、その学生艦が、ドイツのアドミラル・グラーフ・シュペーの場合、晴風には後方で待機してもらいたい」

 

「ええーっ!!」

 

シュテルの提案に晴風のクラスメイトたちからは声が上がる。

中には不満そうな表情の者も居る。

 

「一つ言っておきたい事として、これは決して、君たちから手柄を横取りすると言うことではない」

 

不満そうにして居る者は、ヒンデンブルクが‥シュテルが手柄を横取りしようと画策しているのではないかと思っていたのかもしれないが、シュテルはそれを否定する。

 

「一度、邂逅している君たちは知っているが、シュペーは、ドイツからの留学生艦であり、乗艦しているのは私と同学年‥つまり、君たちの一つ年上の先輩だ」

 

「えっ!?」

 

「ミーちゃん、私たちより年上なの!?」

 

「てっきり、同学年かと思っていた‥‥」

 

「えっ?それじゃあ、碇艦長も年上!?」

 

晴風のクラスメイトたちは意外そうな顔でミーナを見ている。

ミーナは晴風のクラスメイトに自己紹介をした時、学年までは伝えていなかった。

それに、新入生が参加する海洋実習に参加するのだから、留学生とは言え学年は同じ一年生かと思っていたのだ。

ついでに言うと、シュテルも晴風のクラスメイトたちからの大半からは同い年だと思われていた。

 

「それに私自身、昨年ミーナさんの学校に交換留学をしたが、シュペーの結束、チームワークは素晴らしい」

 

シュペーのクラスメイトが褒められ、ミーナも満更ではない顔をする。

 

「スペック上では、駿河、比叡よりもシュペーは、劣るかもしれないが、それはあくまでもカタログ上のことで、シュペー艦長、テア・クロイツェルが指揮するシュペーは今回、行方不明になった学生艦の中で一番の強敵だと私はそう思っている」

 

「そんなに凄い人なんですか?」

 

明乃はまだ会ったことのないシュペーの艦長について訊ねる。

 

「ああ‥クロイツェル艦長に関しては私よりもミーナさんの方が詳しいだろう。ミーナさんよろしいだろうか?」

 

「ん?あ、ああ。構わないぞ」

 

テアについて話してもらいたいとシュテルから言われ、ミーナは席から立ち上がり、教壇まで移動する。

 

「あっ、話すのはあくまでも、テアの指揮能力であって、容姿とかはいいからね」

 

シュテルはミーナにテアの事を話す内容に関して、あくまでの彼女の能力だけであって、容姿は説明不要と言う。

 

(ミーナさんにテアの事を語らせたら、長々と語りそうだからな‥‥その間にアドミラルティ諸島に着いちゃうよ)

 

ミーナにテア全ての事を語らせると、延々と語り続け、現場であるアドミラルティ諸島に着いてしまうと思った。

 

シュテルに促され、テアについて語るミーナ。

とりあえず、シュテルからテアの能力だけを話せと言われ、少々不満ながらもミーナはテアについて話す。

 

中等部の頃、シミュレーションのタイムアタックで、クローナが次の番であったテアに嫌がらせをした際、海図を破くという卑怯な真似をしたが、ミーナが機転を利かせ、本来、テアと共にシミュレーションをする班員に化け、帽子の中に海図を隠し持って、テアと共にシミュレーションに参加した事、

そのシミュレーションで、テアは少しでも早く現場に着くため、障害物を避けるのではなく、主砲や魚雷で障害物を破壊して、進むという突拍子もない方法でクリアーし、同学年の中で最短記録を記録した事、

 

主砲や魚雷で障害物を吹っ飛ばした話を聞いて、西崎と立石は目を輝かせていた。

後のシミュレーションの授業で、二人がテアの真似をきっとするだろう。

 

高等部に進学した時、学校の校長から初めての海洋実習の時、艦をわざと遭難させると言う無茶苦茶な課題を出された事、

しかも、その事実を他の乗員に知られてはならないという条件付きで‥‥

テアはその課題を一ヶ月と言う長期間、大西洋で遭難生活をした事、

その他に交換留学が終わり、シュテルがキールに戻った後、シュテルが知らないテアの事をミーナは色々語った。

ミーナの話からもテアの優秀さが分かる。

 

「‥‥」

 

ミーナの話を聞き、シュテルの言っていたことを理解した明乃。

真白も明乃と同じリアクションだ。

ウィルスに感染しているとはいえ、もし、アドミラルティ諸島にいる学生艦が、シュペーだった場合、テアと戦わなければならない。

やはり、不安になるのは当然のリアクションだった。

 

「アドミラルティ諸島にいる学生艦がシュペーである確証はまだない。しかし、シュペーである可能性もあるため、ミーナさんは一時、ヒンデンブルクへ来てもらうがそれでもかまわないかな?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

気まずい空気ながらも、もし、アドミラルティ諸島にいる学生艦がシュペーの場合、ミーナにはシュペーについての詳しく知っているので、ミーナにはヒンデンブルクに来てもらった。

 

「すまない、ミケちゃん。困っている人を助けたいというミケちゃんの気持ちは分かるけど、シュペーは駿河同様、やはり厄介な相手なんだ」

 

ヒンデンブルクに戻る前、シュテルは晴風の通路で明乃に今回の件について詫びを入れる。

 

「ううん、シューちゃんが私たち、晴風の皆の事を思ってくれているって分かるよ‥‥シュペーの皆も助けたいって気持ちはあるけど、艦長として晴風の皆を危険に晒すこともできないし‥‥」

 

「‥‥」

 

(さっさとこの事態を収拾しないとな‥‥)

 

折角、行方不明の学生艦の捜索を買って出てくれたのに、協力させることができないことにシュテルはすまない気持ちで一杯だったし、明乃自身も協力できないことにきっと無力感に苛まれているだろう。

シュテルはこの事態を早急に解決し、後日、明乃やもえか、テアと気分転換に何処かに出かけるかなと思った。

 

先頭をヒンデンブルク、後方に晴風が付き、二隻は、アドミラルティ諸島海域に入った。

アドミラルティ諸島に入ると、ヒンデンブルクは早速学生艦の捜索をしながら、情報を集めた。

すると、

 

「目標が分かりました!識別帯は白と黒。ドイツのドイッチュラント級直教艦アドミラルシュペーです!」

 

「っ!?」

 

周辺の船舶からの情報で、やはりアドミラルティ諸島にいた学生艦は、ミーナが副長を務めているシュペーで間違いなかった。

シュペー発見の知らせを聞いて、ミーナの身体は強張る。

 

「やはり、シュペーか‥‥」

 

(ミーナさんを連れてきて正解だったな‥‥)

 

「周辺にブルーマーメイドの艦艇は居る?」

 

「そ、それが‥‥」

 

「ん?」

 

「ブルーマーメイドの艦艇はどうやら、トラック諸島やフィリピン近海に展開しているみたいで、この近海には居ません」

 

「それでも、一応、横須賀女子とブルーマーメイドに連絡」

 

「了解」

 

「それと後方の晴風にも通達、本艦とシュペーの戦闘に巻き込まれないように‥と‥‥」

 

「はい」

 

シュテルは後方の位置する晴風にはこの後、予想されるであろうヒンデンブルクとシュペーとの戦闘に巻き込まれないように注意喚起する。

 

「ミーナさん、シュペーの足止めをする方法を聞いても?」

 

この海域には前回、比叡を座礁させたような場所はない。

その為、駿河の時の様に海上での砲撃戦が予測される。

そこで、シュペーにどこか弱点は無いのかとクリスがミーナに訊ねる。

 

「本気なのか?ド本気なのか?ブルーマーメイドの到着を待たんのか!?」

 

「時間の経過と共にワクチンの効力は薄れていく‥‥ブルーマーメイドの到着を待っている間にもこうしてウィルスはテアたちの身体を蝕んでいるんだよ」

 

「むぅ~‥‥わ、分かった。テアの為ならば‥‥」

 

ミーナとしては乗艦がこの後、ヒンデンブルクとのドンパチをして損傷するかもしれないが、親友であるテアを救うためにやむを得なかった。

 

「燃料中間タンクを加熱するための蒸気パイプが甲板上に露出しておる。それを壊せば足止めできる筈じゃが‥‥」

 

「かなりのピンポイントだな‥‥少しでもずれたら、燃料タンクを撃ち抜いてしまうかも‥‥」

 

「もし、模擬弾とは言え、間違って燃料タンクに砲弾が直撃すれば‥‥」

 

「シュペーは大爆発を起こす可能性があるな‥‥」

 

「‥‥やはり、駿河の時の様に海上戦でドンパチするしかないか‥‥」

 

「しかし、本当にいいのか?」

 

ミーナは最終確認をするかのように訊ねる。

 

「ん?」

 

「我が艦、アドミラルシュペーの乗員のみんなを…そして艦長を、テアを助けてほしいが、そのためにこの艦の皆を危険に晒すことになってしまう‥‥」

 

やはり、ミーナはヒンデンブルクの乗員を危険な目に遭わせることに対して負い目を感じていた。

 

「この任務を請け負った時点で危険は承知だよ。それにミーナさん同様、テアは私にとっても大切な友人だからね。友人を見捨てることは出来ないさ」

 

「艦長の言う通りです!!」

 

「大丈夫!!やってみましょう!!」

 

「やろう!!やろう!!」

 

例え危険であっても友達の為、多少の危険が伴ってもやろうとヒンデンブルクの乗員の士気は高かった。

 

「‥‥すまぬ」

 

ミーナは深々と頭を下げる。

 

「‥‥本艦はこれより、アドミラルシュペー救出に向かう!!総員戦闘配置!!」

 

シュテルの号令と共に皆は戦闘配置につき、ヒンデンブルクはシュペーの下へと向かった。

 


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