やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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83話

アドミラルティ諸島で、見つかったドイツ、ヴィルヘルムスハーフェン校からの留学生艦、アドミラル・グラーフ・シュペー‥‥

シュペーも行方不明になった横須賀女子の新入生たちの学生艦同様、例のウィルスに感染していた。

アドミラルティ諸島にて、ドイツ艦同士のドンパチが行われ、ヒンデンブルクはシュペーのスクリューに魚雷を叩き込み、シュペーの足を止めた。

ドイツ艦同士のドンパチが行われている頃、晴風は流れ弾が当たらない距離で待機していた。

明乃は友人のシュテルが戦っている中、何もできない自分に無力感を感じ、何かしたいと思っていた。

そして、シュペーの足を止めた後、シュペーに接舷・強襲し、ウィルスに感染した乗員にワクチンを投与する。

その際、明乃はシュペーの強襲に関して、晴風からも強襲の援軍を送った。

そして、艦長のテアを始めとするウィルスに感染したシュペーの乗員を倒し、艦の主要部分を占領、乗員にワクチンを投与して、シュペーを救うことが出来た。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥マッチ‥‥私‥役にたったかな?」

 

艦橋下部の階段付近で、息を切らしながら等松がシュテルから貸してもらったルガーP08を手にしながら、呟く。

彼女の眼前には、等松の手によって撃たれたシュペーの乗員が倒れている。

美波が艦橋から降りてくると、彼女は倒れているシュペーの乗員にワクチンを打っていく。

 

「お疲れ、等松さん」

 

美波と共に艦橋から降りてきた野間が等松に声をかける。

 

「あ、ありがとう‥‥マッチ‥‥」

 

野間から声をかけられ、等松は感激しつつ、その場に倒れる。

 

「おっと‥‥」

 

倒れる等松を床に倒れる前に野間がキャッチする。

もし、等松の意識があれば、もう鼻血を出すほどのシチュエーションなのだが、残念ながら彼女は意識を無くしていた。

 

駿河の時の様に、甲板にはヒンデンブルクの突入員の手によって倒されたシュペーの乗員らが運ばれ、美波、ウルスラがワクチンを投与していく。

なお、シュテルのルガーP08は、美波が拾い、シュテルの手に戻った。

 

「ハルトマンさん、抗体の接種。終わった?」

 

「はい、この人が最後です」

 

そう言ってウルスラは、最後のシュペーの乗員にワクチンを投与する。

やがて、時間の経過と共に正気に戻ったシュペーの乗員たちが目を覚ます。

その中には艦長のテアも含まれていた。

 

「うっ‥うぅ~‥‥」

 

テアがゆっくりと瞼を開ける。

 

「テア?」

 

「艦長?」

 

「ここは‥‥?」

 

「シュペーの艦長室‥‥テアの部屋だよ」

 

「‥‥副長?それに、シュテル?」

 

「よかった、気が付いたみたいだね」

 

「私は‥‥一体‥‥?」

 

「それも含めて、これまでの事を話すよ」

 

それから、ミーナとシュテルは、西ノ島新島から今日までの事をテアに話した。

 

「そうか、まさかそんなことがあったなんて‥‥副長にもシュテルにも迷惑をかけた‥‥すまない」

 

テアはペコっとミーナとシュテルの前に一礼する。

 

「そんなっ、テアのせいじゃないよ!!」

 

「そうですよ!!艦長。そ、そうだ、艦長に私が世話になった学生艦の艦長たちを紹介したいのですが‥‥」

 

「分かった、行こう」

 

ミーナはテアに明乃たちを紹介するため、甲板に向かった。

 

「明乃、真白」

 

「ミーちゃん!?」

 

「ミーちゃん?」

 

ミーナの事を『ミーちゃん』と呼ばれている事にテアは、不思議に思った。

これまでの学生生活やシュペーでも、ミーナの事は「副長」 「ミーナさん」 と呼ばれていたので、仇名で呼ばれているのを初めて見るので、無理もなかった。

ユーリがミーナの事をミーちゃんと呼んでいる時もテアは不在であったからだ。

 

「紹介する。此方が‥‥」

 

ミーナが前へと手を出すとテアは一歩前に出て、

 

「艦長のテア・クロイツェルだ。話は聞いた。我々を救ってくれて感謝する。それに副長も随分と世話になったみたいで、その点に関しても晴風には感謝する」

 

そう言ってテアは、明乃に手を出して明乃もそれに応えると、

 

「晴風艦長の岬 明乃です。此方が‥‥」

 

明乃も自己紹介をして、

 

「副長の宗谷真白です」

 

真白も明乃にならい、テアに自己紹介をする。

 

(この人がシュペーの艦長‥‥そして、シューちゃんの友人‥‥)

 

明乃はドイツで知己を得たと言うシュテルの友人をジッと見つめた。

 

「全員無事でしたか?」

 

「現状は‥これからゼーアドラー基地に戻って補給と補修だ」

 

シュペーは現在、スクリューが全損している状態‥しかも横須賀を出航してから補給をしていない。

補給と補修は必須だ。

 

「それじゃあ、ミーナさんも‥‥」

 

「ああ。当然我々と行く」

 

「えっ!?」

 

シュペーの乗員がこうして正常に戻ったからにはシュペーの副長であるミーナは、当然、自艦に戻らなければならない。

ミーナがシュペーに戻ることに一番ショックを受けたのは、晴風でミーナと共通の趣味で馬が合った納沙だった。

納沙にとって、ミーナとの別れはまさに衝撃な現実であった。

それは、ミーナが晴風の乗員ではなかったことを今ここで自覚するぐらいに‥‥

彼女はテアの言葉を聞いて、目に涙を浮かべると人知れず何処かへと行ってしまった。

 

「基地に戻ったら、念の為、精密検査を受けて欲しい」

 

美波は、テアにゼーアドラー基地に寄港したら、後遺症がないか精密検査を受けるように伝える。

 

「分かった」

 

テアは、それを了承する。

暫くして、

 

「ご飯ができました~」

 

「できました~!!」

 

杵﨑姉妹がパーティーの準備が出来た事を知らせてきた。

初めての海洋実習でお互い色々あったが、改めて、異文化交流しようと言うことになり、夕食を含めて交流パーティーをする事になった。

パーティーの会場に関して、ヒンデンブルクはシュペーとの戦闘でボロボロなので、見栄えが悪い。

シュペーも同じ理由だったので、ちょっと狭いが、全員が乗れない訳ではなかったので会場は晴風の後部甲板となった。

 

「これは、ラックスフィレだな?」

 

様々な料理の中でテアは、中央に置いてあった寿司桶に入っている寿司に注目する。

 

「そうです艦長!寿司とも言います!」

 

「日本食の定番だけど、シャリと呼ばれるご飯とネタの間に挟む、ワサビには好みがあるから気をつけてね。直接、ワサビそのものを食べると大変なことになるから」

 

ミーナとシュテルはテアに寿司について説明する。

 

「「我々も手伝いました!!」」

 

この寿司作りに関してはレオナとアウレリアも一緒に参加したみたいだ。

レオナは元々新日家なところがあり、ミーナに任侠映画を勧めたのも彼女である。

 

「‥‥」

 

すると、テアはジッと寿司を見ている。

 

「ん?もしかして、テアは寿司を見るのは初めて?」

 

「い、いや、日本に来る前、一通り、日本についての文化は学んだつもりだ」

 

ヨーロッパなどでは魚を生で食べる風習はほぼなく、いくら寿司の存在を知っていてもこうしていざ、寿司を目の当たりにすると、思う所があるのだろう。

 

「艦長」

 

「ん?」

 

「生魚がダメなら、クネーデルやマチェスも乗せてみました」

 

レオナがそう言って、クネーデルやマチェスを乗せた寿司を出す。

 

(クネーデルは炭水化物と炭水化物‥‥)

 

(マチェスは‥まぁ、同じ魚だけど味には独特の風味があるから、苦手に思うかもな‥‥)

 

レオナの作ったドイツ風寿司に関しては、好き嫌いが分かれそうだと思うシュテルだった。

 

「ああ、スシ、サシミ、カロウシってヤツか?」

 

「か、カロウシ?」

 

「最後のは、何か違う」

 

テアが最後に言った「カロウシ」は寿司にも刺身にも一切関係ない。

そもそもカロウシは食べ物ですらない。

何故、そこでカロウシが出てきたのか不思議に思うシュテルとあかねだった。

 

「これはアイントプフだな?」

 

続いてテアはおでんに興味を持った。

 

「そうです艦長。おでんとも言います」

 

「お、おでん?」

 

「ん?」

 

レオナとアウレリアも、おでんを見るのは今回が初めての様子で、興味ありげにおでんが入った鍋を見ている。

確かにおでんの見た目は日本風アイントプフにも見える。

 

「では艦長、そろそろ挨拶を‥‥」

 

「うむ」

 

ミーナに促されて、テアは皆の前に立つ。

 

「我々の不断の努力により、艦と自らの制御を取り戻した。このめでたい日に感謝してヒンデンブルクの艦長から乾杯の音頭を頂きたい」

 

「えっ!?わ、私!?」

 

突然、今回の夕食会の乾杯の音頭をテアから促され、びっくりするシュテル。

 

「え、えっと‥‥」

 

シュテルはテアの隣に立ち、

 

「で、では‥‥皆さん、乾杯!!」

 

『乾杯!』

 

『Prosit!!(プロ―ジット!!)』

 

晴風、ヒンデンブルク、シュペーの乗員たちは手に持ったジュースの入ったグラスで乾杯をして、食事をする。

日本の晴風とドイツのヒンデンブルク、シュペーなので、夕食会に出された料理は日本とドイツの二国の料理。

そんな中で、山盛りのザワークラウトに美波はドン引きしたが、その山盛りのザワークラウトはテアが全て片付け、レオナとアウレリアの二人が作った寿司ネタのクネーデル寿司やアチェス寿司はシュテルの思惑通り、日本人である晴風のクラスメイトには口に合う者と合わない者に分かれた。

野間はシュペーの前部甲板で戦ったアレクサンドラ、エルフリーデ、マリーア、エリーザに囲まれ、彼女たちの方が一個上なのに、何故かお姉様の扱いされており、等松は艦橋下部での単独ながらも善戦をしたことで、それを称えられてローザが賞状を送っていた。

 

「はい、艦長。あ~ん」

 

「はむっ、ムグムグ‥‥」

 

ミーナはテアにソーセージを食べさせていた。

そもそも二人の交流の切っ掛けが、二人が十歳の頃、テアと一緒に入ったホットドッグ店でミーナがテアに餌付けをしたことが切っ掛けであった。

ウィルスに感染していた時の食事に関しては当然、当人には記憶がなし、どんな食生活をしていたのか分からないが、ウィルスから解放された今は満面の笑みでヴルストを食べているテア。

 

「それ、ソーセージ?」

 

明乃はミーナがテアに食べさせた料理を訊ねる。

 

「我が船特製のヴルストじゃ。これがずっと食べたくてなぁ~ヒンデンブルクのモノもなかなかのモノじゃったが、やはり食べ慣れているヴルストが一番じゃ」

 

「はむっ、モグモグ‥‥なかなかいけますね」

 

皿に残った二本のヴルストの内一本を食べた万里小路はうっとりしながらヴルストを食べる。

よほど美味しいのだろう。

それは彼女の顔をみれば、一目瞭然だ。

万里小路の様子を見て、真白もヴルストを取ろうとした時、

 

「ぬぅ~パクッ!!」

 

五十六が最後のヴルストをかすめ取っていく。

 

「あっ‥‥」

 

真白はここでも不幸体質を発揮させた。

 

「えっと‥‥シュペーのじゃないけど、ウチのヴルスト食べる?」

 

シュテルは落ち込んでいる真白に声をかけ、ヒンデンブルクの厨房で作られたヴルストを真白に勧める。

 

「は、はい。すみません」

 

「いいよ。気にしないで」

 

シュテルは真白の取り皿にヒンデンブルクで作られたヴルストを乗せた。

 

真白にヴルストをあげた後、シュテルは寿司を食べる。

 

「う~ん‥‥久しぶりの日本食‥‥しかも寿司‥‥あぁ~美味しい~‥‥」

 

シュテルは久しぶりに食べる寿司に舌鼓を打つ。

 

「‥‥」

 

その様子をテアはジッと見ていた。

 

「ん?」

 

「テアも一つどう?寿司」

 

「えっ?いや、でも‥‥」

 

「美味しいですよ」

 

そう言って、もう一つシュテルは寿司を食べる。

テアはシュテルや周囲を見渡す。

晴風の乗員は兎も角、ヒンデンブルクやシュペーの乗員も寿司を食べている。

艦長として、他の乗員が食べているのだからここで逃げる訳にはいかない。

 

「い、いた‥頂こう‥‥」

 

やや震えながら、寿司を食べることにしたテア。

 

「では、何を食べますか?やはり、食べ慣れているクネーデルかマチェスにしますか?」

 

「うーん‥‥シュテルのお勧めはなんだ?」

 

「私の?うーん‥‥まぁ、定番はマグロにエビ、イカってところですかね?」

 

(タコはヨーロッパでも生食はあまりされていないからな、寿司でも勧められないな)

 

シュテルはタコを除き、定番の寿司ネタをテアに勧める。

 

「で、では‥‥マグロとやらを貰おう」

 

「ええ」

 

シュテルはマグロの握り寿司を少量の醤油につけて、

 

「はい、あーん」

 

「あ、あーん」

 

テアに食べさせた。

緊張しているのか、テアの顔は少し表情が固い。

 

「もぐもぐもぐ‥‥ごくん‥‥なかなかのモノだな」

 

テアの舌に寿司は大丈夫みたいで、その後もシュテルはテアに寿司を食べさせた。

その様子を見たユーリは、

 

(シュテルンったら、またあのちびっ子に‥‥くっ、シュペーに模擬弾じゃなくて、本物の弾使いたかったぜ!!)

 

またミーナも、

 

(我が艦長に食べさせる役目はワシの役目なのにぃ~!!)

 

と、悔しそうにしていた。

しかし、いつまでもシュテルの独壇場にするわけにはいかず、

 

「艦長、ずっと預かっていたこれ‥‥」

 

ミーナは被っていた艦長帽を脱ぐ。

シュペーを脱出した時、必ずこの艦長帽をテアに返すと約束していた。

その約束を今、果たそうとミーナはテアに声をかける。

決して、シュテルとテアがイチャイチャしているのをこれ以上見てられないからではない。

 

(グッジョブ、ミーちゃん ( ´∀`)bグッ! )

 

(テアはワシのモノじゃ!!( ^ω^)b !!)

 

ユーリとミーナは心の中で互いに親指を立てた。

 

「被せてくれ」

 

テアは、被せてくれと言って、せがみ、後ろを向く。

ミーナは、テアの後ろから艦長帽をテアの頭にそっと被せる。

その瞬間、テアの目から一筋の涙が出てきた。

 

「艦長さん…」

 

感動の再会に鈴も涙目であった。

 

「私は泣いてない!!」

 

テアは袖で涙を拭き、照れ隠しをする。

 

「し、しかし、ヒンデンブルクは相当酷い状態だな」

 

「確かに、日本に来てまだ一ヶ月なのに、もう歴戦艦みたいになってしまった‥‥」

 

ヒンデンブルクの左舷側には彼方此方ブルーシートが張られている。

とても、現状で修理できる箇所ではないからだ。

 

「シュテル、我々と共にゼーアドラーに行って修理を受けたらどうだ?」

 

「そうしたいけど、まだ行方不明になっている学生艦がいるから、それらの学生艦を見つけるまでは、まだ横須賀には戻れない‥‥船体は傷ついているけど、この後、明石、間宮から補給と補修を受けるから大丈夫だよ」

 

シュペーをこうして救助出来たので、残るは重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦の学生艦なので、傷ついているヒンデンブルクでも何とか対応できる。

学校からは行方不明になっている学生艦すべてが見つかったと言う連絡を受けていない以上、晴風とヒンデンブルクにはまだ学生艦捜索の仕事が残っている。

 

「そうか‥‥では、此処でお別れだな」

 

「ええ、先に横須賀で待っていてください」

 

テアとシュテルはしばしの別れとして握手を交わす。

 

「ん?‥あれ?」

 

そんな中、ミーナは納沙が居ない事に気づいた。

その納沙は、

 

「盃はかえしますけん‥‥以降わしを晴風の者と思わんでつかい‥‥帰るゆうても‥‥帰えれんぞ‥‥」

 

真白の部屋で電気も点けず、ミーナと共によく見ていた任侠映画を寂しそうに見ていた。

真白の部屋はミーナの部屋でもあり、納沙はここでよく、ミーナと共に任侠映画を見ていた。

真白の部屋は、納沙にとっても思い出深い部屋だった。

しばしの別れとは言え、やはり共通の趣味があり、その話で深く、語れる友人と別れるのは辛かった。

 

やがて、日は落ち、夜となり、交流パーティーはお開きとなる。

スクリューが全損しているシュペーを曳航するため、ブルーマーメイドの艦艇も到着し、シュペーの曳航準備が整いつつあった。

シュペーの左舷甲板では、ミーナがテアの横で何故かソワソワしながら晴風の甲板を見渡していた。

 

「如何したんだ?」

 

そんなミーナの様子に気づいたテアが声をかける。

 

「ココ‥いえ、何でもありません」

 

ミーナは、テアに何でもありませんと言ったが、今思い返してみれば、交流パーティーの際、ミーナは納沙の姿を見ていなかった。

実際にミーナは明乃や真白の他に納沙にもテアを紹介したかったからだ。

やがて、シュペーの曳航準備が整い、補給と補修の為、ゼーアドラー基地へと曳航される。

シュペーのマストには国際信号旗の『U』 『W』 『1』 の旗が翻っており、意味は『協力に感謝する。御安航を』という意味があり、ヒンデンブルクと晴風のマストには国際信号旗の『U』 『W』 の旗が翻っており、意味は『御安航を祈る』となっていた。

 

「楽しかったぞ!!」

 

ミーナがそう叫ぶと晴風からも真白が、

 

「私たちもです!! 良い航海を!!」

 

返答し、シュペーの安全な航海を祈る。

 

「Gute Reisen!! (グーテ ライゼ!!)」

 

ミーナがドイツ語でヒンデンブルクと晴風にも良い航海をと叫ぶ。

自走出来なくとも、シュペーは別れの挨拶として、汽笛を長音一声鳴らす。

 

「はっ!?」

 

それを聞いた納沙は居ても立っても居られず、急ぎ部屋から飛び出て甲板に出る。

やっぱり、このまま顔も見せず、別れの挨拶もせず、別れるのはこの先、ずっと後悔すると思ったのだ。

ミーナが段々と遠ざかって行く晴風とヒンデンブルクに向けて手を振っていると、一人の女子生徒が晴風の艦首に向かって走ってくる。

 

「あっ!?」

 

それは紛れもなく、晴風の中で、一番交流を交わした女生徒だった。

 

「わしゃあ!旅いってくるけん!」

 

ミーナ自身、このまま納沙と顔を合わせることなく別れるのかと思いきや、彼女はギリギリながらもこうして自分の前に姿を見せてくれた。

ミーナはしばしの別れの挨拶を納沙に向かって叫ぶ。

すると、納沙も、

 

「体を厭えよ~!!」

 

ミーナに向かって別れの挨拶を叫ぶ。

 

「ありがとう~!!」

 

ミーナは、納沙に手を振り、晴風から旅立っていた。

次第に水平線の彼方へと消えていくシュペーの姿。

納沙がシュペーを‥‥ミーナを見送っていると、後ろから真白がポンっと納沙の肩に手を掛けて、

 

「間尺に合わん仕事をしたのう」

 

と、珍しく真白が任侠映画の台詞を納沙に言った。

あれだけ、部屋で任侠映画の音声を聞かされたら、嫌でも耳に残る。

 

「もう一文なしや‥‥」

 

涙で濡れながらも、納沙は笑みを浮かべて真白にそう返す。

アドミラル・グラーフ・シュペーの救助はこれで完全に終わり、ミーナは無事に元の自分の艦に戻れた。

 

 

「シュペー、行っちゃいましたね」

 

ヒンデンブルクの艦橋でメイリンがシュテルに声をかける。

 

「ああ‥‥」

 

シュテルもやはり、しばしの別れとは言え、シュペーと‥‥テアとの別れに寂しさを感じた。

 

「さて、私たちも行こう‥‥」

 

「はい」

 

晴風とヒンデンブルクも機関を始動させ、補給と補修を行うため、間宮、明石との合流海域へと向かった。

 

 

 

 

ここで場面はとある世界のとある時間軸へと移す。

 

 

その時間軸の世界にあるとある病院の一室で、今まさに一人の男が死を迎えようとしている。

心電図の波形は徐々に小さくなり、やがて、

 

ピーッ!!

 

心肺停止状態を示す電子音が病室に鳴り響き、医師が臨終を確認する。

しかし、この男の周囲にはこの男の死を悲しんでくれる者は居らず、医師と看護師しかいなかった。

 

 

 

 

「こ、ここは‥‥?一体、どこなんだ?俺は確か死んだはずじゃあ‥‥」

 

男はついさっきまで病院のベッドで瀕死の状態だった。

それが気づけば、自分は両足で立ち、妙な空間に居た。

そこは、床がチェスの盤のように白と黒のチェック柄の床で、空はどこまでの続く真っ暗闇なのに、妙に明るい場所だった。

ここがどこなのか?

何故、死んだはずの自分がこうして自分の足で立っていられるのか?

男が戸惑っていると、

 

「あなたはつい先ほど、寿命を終え、天寿をまっとうしました。あなたの人生は終わってしまったのです」

 

どこから兎も角、女の人の声が聞こえてきた。

 

「だ、誰だ!?」

 

男が周囲を見渡すといつの間にか、男の目の前には椅子に座った一人の少女が居た。

 

「ようこそ、死後の世界へ」

 

少女は自分に向かってここが死後の世界であることを告げる。

彼女の話が本当ならば、やはり自分は死んだのだろう。

 

「お、おい、此処はどこなんだ?」

 

「此処は生と死の狭間‥‥選択の間です。比企谷さん」

 

そう、ついさっき、病院で死んだのは比企谷八幡と比企谷小町の父親だった。

 

「初めまして、私の名は女神エリス‥幸運の女神エリスです」

 

「女神?死後の世界?ふん、馬鹿馬鹿しい」

 

女神だの、死後の世界だの、漫画・アニメみたいな事に比企谷父は、信じられない様子で、エリスを小馬鹿にした目で言い放つ。

 

「どう、捉えようとご自由ですが、あなたがお亡くなりになったのは事実です。実際に最後は寝たきり状態だったあなたはちゃんと自分の足で立っているではありませんか」

 

「むっ?」

 

エリスにそう言われると比企谷父は彼女の言葉があながち全て嘘だとは言い切れない。

 

「では、早速ですが、あなたには三つの選択肢の内、一つを選んでもらいます」

 

「選択肢?どんな?」

 

「一つはあなたが居た世界にもう一度、記憶を消去して転生する、二つ目は天国に行って何事もなくただ永遠という日々を過ごす。三つ目は、特典を一つ貰い、異世界へと転生する‥‥この三つです」

 

「戻れるのか?あの世界に‥‥?」

 

「はい。ですが、その際、あなたの記憶はリセットされ、人に転生するかもしれませんし、人以外の生物に転生するかもしれません」

 

「むぅ‥‥」

 

人以外、記憶をリセットと言われ、渋る比企谷父。

彼としては人として、そして、記憶を持ったままあの世界に戻りたかった。

あの世界に残してきた小町の事が気になるからだ。

だが、あの世界に戻るには記憶をリセットしなければならず、しかも人になれるかもわからない。

彼は渋々、あの世界に戻ることを諦めた。

そして、二つ目の選択である天国行き。

念のため、天国がどんなところなのかを彼はエリスに訊ねる。

酒池肉林の様な極楽なのだろうか?

それならば、天国へと赴き、文字通り天使を相手に自らの肉欲を思う存分発散させたかった。

だが、エリスから聞いた話では、天国は自分が思ったような世界ではなかった。

残る三つ目の選択肢、特典を持っての異世界への転生‥‥

特典は可能な限りなんでも叶えられる。

しかし、その特典をもってしても前の世界に記憶を持ったままの転生は不可能だと言う。

そこで比企谷父は、どんな世界があるのかを訊ねる。

 

転生する異世界の事をエリスから聞いた彼は、社畜だったことに嫌気があるのか、現代に近い世界は選択肢から抜いた。

そこで、彼は転生する世界として文明のレベルが現代よりも下の世界にする。

自分の知識と行動力、リーダーシップがあれば、その世界で一国一城の主になり、秀吉みたいに何百と言う愛人を囲んでのハーレムを作れると思い込んでいた。

だが、実際は比企谷父にそこまでのカリスマ性はない。

そして、特典を選ぶ際、彼は、

 

 

俺の人生があそこまでボロボロになった理由はただ一つ!!

 

あのゴミクズが俺の家に生まれたことだ!!

 

 

と、前世の自分の人生設計が滅茶苦茶になったのは八幡のせいだと決めつける。

 

 

あの不愛想で可愛げのないゴミクズが家に居ただけで、家の中の空気が腐るし、勝手に失踪したせいで、職場では虐待を疑われ、永続窓際部署に追いやられ、小町が高校受験に失敗してニートになり、女房とは離婚する羽目になり、散々だ。

 

本当なら、小町が生んだ沢山の子供たちと小町に囲まれて、最後を看取ってもらう筈が、誰からも看取られない哀れな最期だったんだ‥‥

 

くそっ!!

 

俺は元々、男なんて‥息子なんて要らなかったんだ!!

 

もし、次の人生で男が生まれた大変だ‥‥よしっ、それならば‥‥

 

 

「決まりました」

 

「なんでしょう?」

 

「俺の特典は、女を身籠らせた場合、生まれてくるのは必ず娘だけが生まれてくるようにしてくれ!!」

 

と、自分の下に生まれてくる子供は必ず女子であるように設定してくれと言う。

 

「‥‥分かりました」

 

エリスは比企谷父の願いを聞き入れると、彼の足元に魔法陣が浮かび上がる。

 

(フフフ‥‥待っていろ、異世界のエンジェルたち、俺が幸福をもたらせてやるぜ!!)

 

まだ見ぬ、異世界の女性たち、そしてその間に生まれてくる娘を夢見て彼は異世界へと旅立って行った。

 

比企谷父が異世界へと転生した後、エリスは誰もいなくなった空間でポツリと愚痴をこぼす。

 

「‥‥折角の特典をあんな、色欲な願いであの世界に行くなんて、無謀もいいところだわ。戦闘力たったの5の村人が、どうやってあの世界で生きるのか見物ね」

 

比企谷父が転生した世界は、前任の女神が多くの転生者を送り込んだ世界。

強力な武具も、魔力もない、一般人‥‥ド〇クエでいうと、村人、ドラ〇ン〇ールでいうと、戦闘力たったの5の農夫と同じレベルのステータスしかない比企谷父が英雄‥ましてや一国一城の主となりハーレムを作るなんて不可能に近い。

そもそも、次の人生では結婚できるかさえ分からないのだ。

エリスは比企谷父の滑稽な選択に思わず嘲笑するような笑みを浮かべていた。

 




比企谷父は、こ〇すばの世界へと転生していきました。

機会があれば、この〇ば世界へ転生した比企谷父の視点も描きたいと思います。
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