やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
ウィルスに感染したシュペーの乗員たちを正気に戻し、シュペーは補給・補修のため、ゼーアドラー基地へと向かい、同基地にて補修・補給の後は、横須賀に戻ることになり、ヒンデンブルクと晴風は引き続き、行方不明になっている横須賀女子の学生艦を捜索するため、両艦も補給・補修の為、明石、間宮との合流地点へ向かった。
両艦共に補給は必須であるが、補修に関して晴風はそこまで深刻なダメージを受けていないが、ヒンデンブルクの方は、駿河、シュペーとの戦闘で彼方此方損傷し、とても応急員だけでは完全に直すことは出来ず、応急処置として海水や雨水を防止するために、破損個所にブルーシートを張っている状態だった。
しかし、明石の補修だけでも完全に直すことは出来ないだろう。
それでも、やらないよりはマシである。
それに学校側からの連絡では行方不明になっている学生艦の中でもう戦艦は含まれていないので、これ以上のダメージは負うことはないだろう。
間宮、明石との合流地点まで向かっている途中、行方不明になっている学生艦と邂逅することもなく、両艦は合流地点に無事に着いた。
ヒンデンブルクの損害を見て、明石艦長の杉本珊瑚は、
「うわぁ~これは随分と手酷くやられたねぇ~‥‥」
損傷した箇所を見て、いつも通りの眠そうな顔で呟く。
「流石に明石だけの装備と備品だけでは、完全に直すのは難しいなぁ~」
工作艦一隻で、しかも洋上での補修では完全に直すことは出来ず、横須賀に戻り、ドック入りしなければ、完全に直すことは出来ないだろうと珊瑚は言う。
元々明石に積みこめる応急修理の部品だって数に限りがあるからだ。
それに補修をするのはヒンデンブルクだけでは無いのも理由の一つだ。
「まぁ、捜索する残りの学生艦は数少ないから、補修が出来る部分だけでいいよ」
シュテルは珊瑚に出来る部分だけで良いと言って、明石に補修を任せた。
「りょーかい‥‥あっ、そう言えば‥‥」
珊瑚は何か思い出したかのように呟く。
「ん?まだ何か?」
「私もあのDVD見たよ」
「えっ?」
DVDと言う単語を聞いて、ビクッとするシュテル。
「でぃ、DVDって?」
「間宮艦長が言っていたダートマス校の演劇祭のDVD」
「やっぱりかぁ~‥‥」
「ほんのちょい役だったけど、ヴァイオリン上手だね。今度、お茶会の時に生演奏してくれると嬉しいな」
「か、考えておきます」
まさか、間宮以外に明石でもあのDVDが出回っていることはシュテルにとっても予想外だった。
それに珊瑚の見た目からして、演劇なんて興味がないと思っていたのに、それを見ていたことも同じく予想外だった。
補修、補給を行っている中、晴風の艦橋にて、
「てぇ~へんだぁ!! てぇ~へんだぁ!!」
『ん?』
『えっ?』
「てぇ~へんでぇ~いぃ!!」
柳原が大変だと叫びながら、艦橋に駆け込んできた。
しかも彼女は制服の上に浅黄色で背中の部分に『大漁』と書かれた法被を着ていた。
「何事だ!?」
大変だと叫びながら艦橋に駆け込んで来たのだから彼女の役職上、機関部に何かあったのだろう。
真白が柳原に何があったのかを訊ねる。
「機関部の何処か壊れていた?」
柳原が晴風の機関長なので、機関部にどこか深刻なダメージでもあったのかと思い、明乃が訊ねると、
「違ーう!!」
しかし、柳原はそれを否定する。
機関に何か問題があったわけではなさそうだ。
「じゃあ、機関科の誰かの体調が悪いの?」
機関に問題がなければ、機関科の誰かが病気か怪我にでもなったのかと思ったが、
「みんな元気でぇい!」
どうやら、機関科のクラスメイトたちも怪我や病気でもなく、元気みたいだ。
「だったら何!?」
機関にも機関科のクラスメイトにも問題がなく、一体何が大変なのか分からず、西崎は柳原に何が大変なのかを率直に訊ねる。
「もう晴風は赤道を越えているじゃねぇか!」
柳原は艦橋メンバーに晴風が既に赤道を越えている事実に目を輝かせながら言う。
「赤道?」
「あぁ~確かにそうですねぇ~」
納沙がタブレットで晴風の現在位置を調べると、確かに晴風とヒンデンブルクは赤道を越えた位置に居た。
当然、補給、補修中の明石、間宮も同じことが言える。
四月に入ったばかりの新入生たちがまさか初の海洋実習で赤道を越えるほどの大航海をするとは、本人たちにとっても驚愕の事実であり、横須賀女子初の偉業記録ではないだろうか?
「マロンちゃん、何かしたいの?」
「決まってらぁ!!赤道祭だぁ!!」
柳原は赤道を越えているのだから、それを記念して赤道祭を行おうと言った。
確かに補給・補修の間、特に何かすることもなく、またヒンデンブルクの補修には時間がかかるので、その間に柳原が言う赤道祭をするのも悪くはないと思った明乃。
ここ最近、戦闘ばかりで、息抜きする機会もなかったので、丁度いい。
明乃は、早速、晴風のクラスメイトたちを教室に集め、赤道祭の企画を伝える。
その他にも晴風から赤道祭を行いたいと言う連絡を受け、シュテルも晴風の教室に向かう。
「本艦とヒンデンブルクは補給・補修中でもありますし、赤道祭を行いたいと思います」
そして、明乃はシュテルと晴風のクラスメイトたちにこの補給・補修の時間を利用して赤道祭を行いたい旨を伝える。
「赤道祭?」
「また適当に名前つけたっすね」
青木が赤道を越えたからそれを記念した祭りとして、赤道祭をしたいと言うことから随分と安直なネーミングだと口にする。
「何言ってぇんでい!!赤道祭は、由緒正しい祭りだい!!」
柳原は、赤道祭は決して安直なネーミングの祭りではないと、青木の意見を否定する。
「何処が由緒正しいのですか?」
万里小路が、赤道祭の由緒を聞いてきた。
「それはなぁ~‥‥クロちゃん説明してくれぇい!!」
柳原は赤道祭の説明を隣に居た黒木に任せた。
「帆船が主流だった大航海時代に赤道近くの無風地帯を無事に通過できるように海の神に祈りを捧げたのが始まりだったそうよ。赤道通過の時に乗員が仮装をしたり寸劇を演じたりと雅にお祭り騒ぎをした記録が残っているわ」
黒木は赤道祭の由来を柳原の代わりにクラスメイトたちへ教える。
「ふ~ん」
「へぇ~」
「そうなんだ~」
だが、黒木から赤道祭の由来を聞いたのに対して、晴風のクラスメイトたちはあまり乗り気ではない様子。
(周りはあまり乗り気じゃないみたいだ‥‥ある意味、前世の文化祭実行委員みたいだな‥‥)
折角のイベントなのだが、赤道祭と聞いてもシュテルにとって、前世の最後の文化祭における文化祭の準備というよりも、文化祭実行委員のあの教室と同じような空気が晴風の教室に流れていた。
あの時の文化祭実行委員のメンバーは、雪ノ下以外は嫌々でやっていた感があった。
「実行委員には機関長の柳原さんが立候補してくれました」
そんな白けた空気なのに、柳原は赤道祭の実行委員に立候補した。
(まぁ、見た限り、相模みたいに目立ちたい、ノリで委員になった‥‥とは思えないが。この白け切った中でどうやってやるのだろう?)
シュテルは、柳原は決して、相模みたいに目立ちたいから、ノリでやったという理由で赤道祭の実行委員になった訳ではないと彼女の様子を見て、判断する。
むしろ、周りは白けているが、柳原自身は赤道祭をやる気満々の様子。
「やっぱり‥‥」
「マジか!?」
柳原が実行委員になった事に、機関科のクラスメイトたちは事前に聞かされていたみたいだったが、まさか本当に赤道祭を提案して、その祭りの実行委員に立候補するとは思っていなかったみたいで、機関科のクラスメイトたちはてっきり、柳原が冗談を言っているものだと思っていたので、こうして、赤道祭の実行委員になったことに呆れている様子だった。
「皆の衆盛り上がっていくからな!それぞれ出し物を考えておいてくれよな!祭は明日の明日だからな!!」
「めんどくさいっす‥‥」
青木はもう赤道祭に関して面倒というぐらい白けていたのだが、隣に居た和住は口には出さなかったが、何か思いついていたみたいで、彼女は青木とは正反対で、赤道祭には乗る気みたいだった。
「とりあえず、ウチの艦のみんなにも知らせておくか‥‥」
「あっ、ドイツ艦の艦長さん、すまねぇが‥‥」
「ん?」
艦に戻り、赤道祭の事をヒンデンブルクのクラスメイトたち伝えようとした時、シュテルは柳原に声をかけられる。
「なんでしょう?」
「艦長さん、すまねぇが、赤道祭の会場にそっちの艦を使わせてくれねぇか?」
「えっ?」
柳原は赤道祭の会場にヒンデンブルクを使用したいと言う。
その理由は、晴風、明石、間宮、ヒンデンブルクの中で、一番大きく広いのはヒンデンブルクだからだ。
「赤道祭に関して今から、艦の乗員に説明しますので、その後で返事をする形でいいですか?」
「ああ、かまわねぇぞ」
「でも、被弾しているので、見栄えは悪いですよ」
「いいって、いいって、江戸っ子は、こまけぇ事は気にしねぇし、後部甲板は平気なんだろう?」
「えっ?ええ、まぁ‥‥」
ヒンデンブルクは艦橋周辺や両舷の高射砲群は駿河、比叡、シュペーとの戦闘で被弾しているが、柳原の言う通り、後部甲板は被弾していないので、そこを赤道祭の会場にすれば、問題ないだろう。
後は艦内の教室などでも使用できるし‥‥
「江戸っ子って‥‥貴女は東京の出身なのですか?」
柳原が自らを江戸っ子と呼んでいたので、シュテルは彼女が東京出身なのかと訊ねると、
「うんにゃ、千葉生まれの千葉育ちでぃ」
(‥‥それ、江戸っ子ちゃうやん!!)
思わず関西弁で心の中で柳原にツッコミを入れるシュテルだった。
その後、シュテルは、ヒンデンブルクに戻り、クラスメイトたちに晴風にて赤道祭を行う旨を伝える。
ヒンデンブルクでもここ最近は戦闘に次ぐ戦闘だったので、息抜きにバカ騒ぎをしたかったのか、ヒンデンブルクのクラスメイトたちは赤道祭に乗る気だった。
シュテルは柳原に会場をヒンデンブルクが可能な旨を伝えた。
「会場、こっちで大丈夫だよ」
「おお、そうか!!すまねぇな」
「いいって、ここ最近、戦闘ばかりだったからみんな、バカ騒ぎをしたいみたいだからね。赤道祭についても乗る気だよ」
「そりゃあ、よかった!!じゃあ、盛大に盛り上げていこうぜ!!」
「そうだね」
赤道祭の企画が進んで行く中、補修に関して、明石の生徒たちは主にヒンデンブルクの補修を行ったが、晴風も簡単ながらも改装が行われることになった。
「必要な物は、補充しといたわ」
補給に関しては、補修よりも早めに終わった。
「主砲の換装はあと二日ぐらい掛かる。ヒンデンブルクの補修箇所が結構多くてな」
「ありがとう」
補修・補給に関して明乃には手伝うことはなさそうだったので、柳原が企画した赤道祭について、艦橋メンバーはどんなことをするのか気になったので、艦橋に行ってみると、
「出し物、何やります!?」
「えっ?」
納沙が真白に赤道祭での出し物は何が良いかを訊ねていた。
彼女は、赤道祭に関しては前向きな様だ。
「やっぱり、やんなきゃいけないの~?」
「うぅ~‥‥」
納沙とは裏腹に西崎と立石は青木同様、和住や榊原、黒木以外の機関科のクラスメイトみたいにあまり赤道祭に関しては乗り気ではない様子。
「私が考えても良いですか?」
そんな様子の二人を完全にアウト・オブ・眼中な納沙が真白に赤道祭の出し物の企画をしてもいいかと訊ねる。
「ダメだ!!」
「えぇ~」
真白はあっさりに却下する。
「ココちゃんの考える事に私たちきっとついていけない気が‥‥」
鈴は納沙がやる企画は恐らく任侠映画系のネタかよく艦橋内でやってきた即興の一人芝居の延長線上な演劇をやるのだろうが、ミーナ以外に任侠映画を理解できる人間は晴風にはいないし、納沙の即興一人芝居なんて納沙以外には分からない。
「じゃあ、シロちゃんも一緒に考えてくださ~い!!」
納沙は、ミーナや自分と共に同じ部屋で任侠映画を一緒に見ていた真白には幾分か理解があるはずだと思い、一緒に企画してくれと真白に抱き着いて頼む。
「は、離せ~」
「離さんよ~!」
「離せゆうとるんじゃい!」
「離さんよ~!」
「あぁー!!もう~!!」
真白は納沙を引きはがそうとするが、納沙は反対に益々真白に腕を絡めてくる。
これが男女ならば、カップリングしたてのツンデレ彼氏と彼女のじゃれ合いに見えるのだろうが、あいにくと二人は同性なので、そっち方面の人しか興奮しないだろう。
逆に黒木がこの現場を目撃したら、納沙に対して嫉妬の炎を燃やしていただろう。
「いつの間にか凄く懐いているね」
「なに、このうっとおしい距離感」
「うぃ~」
確かに納沙と真白は自分たちと同じ艦橋メンバーであるが、納沙が真白に此処までぴったりくっつき合い、じゃれ合う光景は今回が初めてだったので、自分たちが知らない間に二人に何かあったのだろう。
勿論、切っ掛けはシュペーとの別れの際のある一コマである。
納沙や和住、柳原たち一部の晴風の乗員が赤道祭の準備に前向きな頃、ヒンデンブルクでも、準備が進められていた。
しかし、晴風以上に損害を負い、補修箇所多い為、全員が赤道祭の準備という訳にはいかず、各部署で交代しながら、赤道祭の準備をしている。
会場がヒンデンブルクという事で、飾りつけも当然、ヒンデンブルクで行われているのだが、晴風の砲術科三人娘たちは水着に着替えて水鉄砲でサバゲーをしているし、同じ機関科のメンバーは砲術科三人娘と同じく水着に着替えてデッキチェアで優雅に日光浴をしている。
和住は木箱の上に座り何かを書いている。
野間は周辺の海でパラセイリングをやっていた。
「あなたたちも手伝ってよ!」
黒木は不機嫌そうな顔と声で晴風の甲板で日光浴を楽しんでいる機関科のメンバーに声をかける。
晴風の機関は、柳原が赤道祭をやりたいために彼女と黒木が早々に点検を終えたので、晴風の機関科のクラスメイトたちは手空きで、赤道祭の準備ができる筈なのだが、彼女たちは元々赤道祭には消極的なので、どうもやる気がない。
「うーん、なかなか、大変、大変」
和住は、楽しそうにスケッチブックに何かの設計図を書いていた。
そして、出来上がったのか、スケッチブックを片手に食堂へと向かった。
「やっぱり屋台はほしいよな」
晴風の食堂では柳原、杵崎姉妹、伊良子、ヒンデンブルクの厨房長が集まり、赤道祭に出す料理の話し合いをしていた。
「焼きそばとかたこ焼きとか?」
「屋台だとウチらはフランクフルト、ホットドッグにレープクーヘンかな?」
「れ、れーぷくーへん?」
聞いたことのない名前のお菓子に首を傾げる柳原。
「クリスマスにドイツでよく食べるケーキとクッキーの中間のような焼き菓子の事」
「まぁ、定番もいいけどスカっぽい感じもほしいよな!」
「スカ~?」
「スカってなに?」
「横須賀のことじゃない?」
「ああ、なるほど」
「わかった、色々考えてみる」
柳原の言うスカッぽい感じと言う要望に少し困った笑みで色々と出店を考えると言った。
「ねぇねぇ、主計科で要らない木箱とかってない?」
そこへ、和住がやって来て厨房で要らなくなった木箱はないかと聞いてきた。
「えっ?木箱?あるよ。ちょっと待っていて」
伊良子が食糧倉庫に不要となった木箱を取りに行く。
「おっ?出し物で使うのか!?」
要らなくなった木箱を使うのだから、赤道祭の出し物に使うのかと思い、柳原は和住に木箱の使い道を訊ねる。
「ううん、ちょっと個人的に作りたい物があるんだ」
「なぁんだよ?個人的って!?」
「な・い・しょ」
「むぅ~」
和住の態度に頬を膨らませる柳原。
「なんでぇい、なんでぇい!!内緒ってのは気に入らねぇ!!」
そもそも和住が個人的に作りたい物が赤道祭に関係ある物なのかさえ分からない。
もし、関係ない物だったとしたら、あまりにも不真面目すぎると柳原は少し不機嫌だ。
柳原が赤道祭の準備が行われているのか進捗を確認している中、甲板で八木と宇田、そして万里小路がスイカ割をしていた。
「何やってんでぇい?」
「スイカ割りだよ~」
「万里小路さん凄いの!絶対外さないんだよ!」
「赤道祭はどうした!?出し物何やるか決めたのか?」
「まだ~」
赤道祭の出し物が決まっていないのに、吞気に甲板でスイカ割りをしている三人に詰め寄る。
「だったらスイカ割りなんてしてねぇで‥‥」
「参る!!はああぁぁ!!」
万里小路は目隠しをして、スイカ割りに集中していた為、柳原の声が聞こえていない様子で、手にした木刀を気合いと共に一気に振り下ろす。
すると、見事に木刀はスイカに命中し、スイカはパカッと真っ二つに割れる。
「おおー」
「すごーい!」
八木と宇田は一発でスイカを割った万里小路に拍手を送る。
「機関長もスイカ食べる?」
「いらねぇ!いらねぇ!んなもん!」
割りたてのスイカを一緒に食べないかと誘われるが、柳原は不機嫌な様子で断ってズカズカと甲板を歩きだす。
「まったく、どいつもこいつも‥‥時間がねぇってぇのによぉ、何のんびりしてんでぇい、ドイツ艦の先輩方はもう出し物を考えて準備しているってぇのに‥‥わっぷっ!!」
ヒンデンブルクのクラスメイトたちは赤道祭で何をするのかを決めてみるみたいで、時間を見つけてはその準備をしている。
しかし、晴風のクラスメイトたちはどうも赤道祭には消極的で、各々の時間を過ごしている。
そんな晴風の現状に柳原のイライラは募るばかり。
更に泣きっ面に蜂のごとく、砲術科三人組の水鉄砲の水が直撃する。
「うわっ!ゴメン、機関長!!」
「ったく、遊んでいる暇があったら祭りの準備しろってんでぇい!!」
「えー全方位、盛り上がってないんですけど~」
「盛り上がっているのは、機関長とドイツ艦の人だけだよ」
「なっ!?‥‥も、盛り上がってない‥‥だと‥‥」
砲術科のクラスメイトたちから衝撃的な発言を受け、柳原は雷に打たれたぐらいのショックを受ける。
盛り上がっているのは、自分とヒンデンブルクのクラスメイトたちだけ‥‥
その言葉の裏腹はつまり、晴風のクラスメイトたちは赤道祭に対して全く興味を抱いていないことになる。
ただ少なくとも、和住と納沙はやる気があるのだが、和住はそれを柳原に内緒にしており、納沙の方に関して柳原は知らない。
更に、日置が赤道祭より、水鉄砲大会の方が盛り上がると、まるでトドメの一発の様に言うと柳原はそんなことはないだろうと思い、その場を後にする。
自分と同じ機関科のクラスメイトたちは赤道祭に協力的だと思っていたのだが、現実は非情で、彼女の眼前には、赤道祭の準備もせず、甲板の上で、制服ではなく水着姿でデッキチェアに座り日光浴をしている機関科のクラスメイトたちの姿がそこにあった。
日光浴をしながら雑誌を読んでいる若狭に突然影が差す。
一体誰が自分の貴重な休憩時間の邪魔をしているのか?
一言「邪魔だ。そこをどけ!!」と文句を言ってやろうかと思い、雑誌から視線を逸らすと、そこにはダークオーラを纏った柳原の姿があった。
「うえっ!?み、みんな何やっているのよー!?」
「うん?」
「げっ!!」
「あっ!?」
「きゅ、休憩終わりー!!」
「祭りだー祭りだー!!」
「準備、準備~」
日光浴を楽しんでいた機関科のクラスメイトたちが急いでデッキチェアから一斉に立ち上がり、体裁を整えるが、誰が見てもその場しのぎで柳原のご機嫌取ろうとしているのは、分かるくらいで、幼稚園児でさえ騙されることはないだろう。
「わざとらしいことしなくていいんだよ‥‥」
底冷えする様な低い声で柳原は腹の奥底から呟く。
これはかなりご立腹な様子だ。
『うっ!』
「よぉ~く、分かったよ‥‥みんな、赤道祭なんかどうでもいいんだな!?向こうの先輩方はちゃんと考えているってのによぉ!!晴風のみんなはどうでもいいんだな!?」
赤道祭の出し物に非協力的なクラスメイトたちの態度にとうとう柳原がキレた。
「き、機関長、落ち着いて‥‥ねっ?」
「そ、そうですよ」
「めっちゃ、楽しみー」
「わーい、わーい」
機関科の四人娘たちは必死に取り繕うがそれは焼け石に水、火に油を注ぐ行為だった様で、
「無理すんな!!おめぇらに慰められたくねぇや!!」
「あっ、機関長!!」
「あぁ~‥‥行っちゃった」
柳原は完全にブチ切れると何処かに走り去って行った。
晴風で企画・実行委員の柳原がキレて不貞腐れていることなど知る由もない、ヒンデンブルクのクラスメイトたちは赤道祭の出し物や準備を着実に進めていた。
「出し物何をやろうか?」
「私としてはシュテルンと一緒に何かやりたいなぁ〜最近、シュテルンと絡んでいないし‥‥」
「だったら‥‥」
シュテルと何か一緒に出し物をやりたいと思っているユーリにクリスはある提案をする。
「いいね、それ!!」
「でしょう?じゃあ、早速準備しようか?」
「でも、用意できるの?ソレ‥‥?」
「うーん‥‥舞台に必要な小道具と少しはすぐに用意出来るだろうけど‥‥」
「メインのソレが少ないとイマイチ盛り上がらないし、私たちにとっても福眼じゃないよ」
「そうだよねぇ~」
「今から作るにしても時間がなさすぎでしょう」
「うーん‥‥どうしよう‥‥」
ユーリとクリスは赤道祭の出し物に必要な小道具を集めようとするも時間の壁が立ちふさがったみたいだ。
そこへ、
「あの‥‥」
「ん?」
「えっ?」
明石の乗員が声をかけて来た。
「もし、ソレに困っているようでしたら、私のコレクションを貸しましょうか?」
「「えっ?」」
二人が赤道祭の出し物に必要としているモノをどうやらこの明石の乗員が持っているみたいだった。
実行委員の柳原が不貞腐れ、晴風の乗員のほとんどが赤道祭に対して白けている中、無事に赤道祭を行うことが出来るのだろうか?