やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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今回はシロちゃんが誘拐でピンチ!!


88話

Rat事件から、時が過ぎ、五月初頭のゴールデンウイーク真っ盛りの中、横須賀にある真白の実家である、宗谷家‥‥

その家の中にある自室のベッドにて、真白は目を覚ます。

時刻は午前七時‥‥普段から起きている時間とほぼ変わらない時間。

長年の習慣なのか、それか真白の生真面目な性格故の体質なのか?

 

「うっ‥‥うーん‥‥」

 

久しぶりの実家での生活‥‥。

入試で、大ポカをしたせいで、横須賀女子に何とか入れたが、ギリギリ入学の結果、真白は上の二人の姉が過去に艦長を務めた大型直接教育艦、駿河ではなく、航洋直接教育艦、晴風の副長となり、高校生活は決して真白にとって良好なスタートではなかった。

元々自分は不幸体質であり、何かと辛い目や、ついていない出来事に遭遇してきた。

入学式の日も同級生であり、自分が乗る艦の艦長である明乃が食べていたバナナの皮を踏んで海に落ちた。

しかも入学してから初めての海洋実習では、集合地点に向かう途中で乗艦にエンジントラブルが起き、集合場所へ遅刻。

集合地点に遅れながらも来れば、いきなり教育艦から実弾で砲撃され、自艦防衛の為、模擬魚雷を教育艦に撃ち込み、現場から逃亡すれば、海上安全整備局からは反逆者扱いをされた。

何とか濡れ衣を晴らそうとして、学校に戻る途中、ドイツからの留学生艦のシュペー、東舞鶴海洋学校の伊201に攻撃を受けながらも、四国沖でブルーマーメイドの隊員と合流し何とか疑いを晴らすことが出来た。

自分たちが濡れ衣を着せられた原因は、Ratと呼ばれる突然変異体のネズミが引きを越したウィルスが原因だった。

 

 

その後、晴風はシュペー同様、ドイツからの留学生艦、ヒンデンブルクと共にウィルス感染し、行方をくらませた同級生たちの学生艦を捜索することになった。

当初は二週間の予定だった海洋実習が当てもなく、長い実習となった。

その過程で、ウルシー環礁で遭難した商店街船、新橋の救助中、艦内に取り残され、九死に一生を得るような経験もした。

あの時は、本当に死ぬかと思った。

 

 

結局、この騒動は四月丸々続き、五月になりようやく故郷である横須賀に戻った。

しかし、当初は晴風に配属になった事に不満だらけの真白であったが、この長い航海の間で、真白のその認識は変わっていった。

明乃の事も当初は艦長らしくない艦長と言うことで、明乃に対しても不満があったが、彼女の過去や信条を知り、段々と明乃の事も認めるようになった。

明乃以外にも真白には友人と呼べる者たちが出来た。

あの航海は結果的に真白にとってはプラスになった事だろう。

 

海洋実習後の四月後半に予定されていたカリキュラムがあの事件で潰れてしまった結果になったが、事情が事情なので、真白の母であり、横須賀女子の校長である真雪はゴールデンウイークを潰すようなことはなかった。

長い航海から戻ってきて、そのまま休みなく、授業では流石に辛いだろうから息抜きも必要だったのだ。

ただし、夏休みの前半は補修になるだろう。

 

そして、今日は久しぶりの休日‥‥

ベッドから起き上がった真白は折角の休日なので、今日は勉強もオフにして、買い物にでも行こうかと思った。

 

「おはよう」

 

「あら?おはよう真白」

 

リビングに行くとスーツ姿の母、真雪が居た。

 

「あれ?お母さん、今日も仕事?」

 

私服ではなくスーツ姿と言うことで、真雪は今日、オフではなく、仕事があるみたいだ。

 

「ええ、例の事件の報告書をまとめて海上安全整備局に提出しないといけないのよ」

 

休日なのに真雪は大変そうだった。

 

「姉さんたちは?」

 

「真霜はまだ寝ているわ。真冬は、さっきジョギングに出かけたわね」

 

「休みの日でも姉さんたちは相変わらずだな‥‥」

 

「真白は今日、どうするの?家に居る?」

 

「うーん‥‥折角の休日だし、私は出かけようかな」

 

真白は誰か誘おうかと思ったが、久しぶりの休日を騒がしい晴風のクラスメイトたちと過ごすのは‥‥と、そんな思いもあったので、今日は一人で出かけることにした。

それから真白は朝食を食べ、洗面と着替えを終え出かける。

真白が出かける前に、真雪は学校へと出勤して行った。

 

「じゃあ、ちょっと出かけてくるから」

 

「おう、日が暮れる前には帰ってこいよ。それから知らない人についてっちゃダメだぞ」

 

真白が出かける頃には真冬はジョギングから戻っており、真白を見送る。

 

「子供じゃないんだから、そんなことを分かっているよ!!」

 

真冬の見送りの言葉に声を荒げ、家を出る真白。

 

そんな宗谷家の近くの電信柱には、作業着を着て、頭にはヘルメット、腰の部分には工具をぶら下げた安全ベルトをつけて電信柱にぶら下がった男が居た。

その姿はどう見ても電力会社の作業員にしか見えないのだが、不思議とその作業員は、電信柱にぶら下がっているが作業をせずに、宗谷家を小型の双眼鏡でジッと見ていると、おもむろに懐から一枚の写真を取り出す。

写真には、真白のあきらかに隠し撮りしたであろう写真が写し出されていた。

そして、真白が家から出かけるのを確認すると、

 

「‥‥ターゲットを捕捉‥‥繁華街へと向かっている。プランAを発動‥‥あとは別動隊に監視と実行を任せる」

 

と、どこかへ連絡を入れた後、電信柱から降り始めた。

 

 

真白は家の近くに不審な電気工の作業員がいたなんて気づくことなく、繁華街を目指していく。

特に目的や買いたい物があるわけではないが、あのまま家に居て、二番目の姉である真冬に絡まれて折角の休日を潰されてはたまらない。

真白が家の外に出かけた理由として真冬の存在も関係していたのである。

繁華街をぶらつきながら、書店で参考書や海洋関係の雑誌、ファンシーショップでぬいぐるみを見て回る真白。

ただ、この時も真白は自分の後をまるで監視するかのように尾行している者たちの存在には気づいていなかった。

 

 

この日、シュテルも真白と同じく繁華街を見て回っていた。

艦長を務めているヒンデンブルクはあの海洋実習において、駿河、比叡、シュペーとの戦闘で、中破程度の損害を受け、横須賀のドックへと入渠している為、当直業務は無くなった。

その為、休日は普通の学生同様、オフになっている。

ヒンデンブルクやシュペーの学生たちも思い思いの休日を過ごしている。

シュテルもそんな学生と同じく、ヒンデンブルクに積まれていたMTBにまたがり、横須賀の繁華街を走っていた。

ただ、この時、シュテルは当直業務がないので、緊急な連絡もないだろうと思い、スマホを今、お世話になっている横須賀女子の学生寮の部屋に置き忘れていた。

それに気づいたのは既に寮から離れた後だったが、わざわざスマホを取りに戻るのも体力と時間を無駄に消費するだけだと思い、スマホなしのまま出かけた。

 

「横須賀は神奈川県だから、マッ缶はないか‥‥」

 

道端にある自販機の商品を見つつ、自身のソウルドリンクであるマッ缶が販売されていないことを愚痴りつつ、シュテルはアク〇リア〇を買って飲む。

〇ク〇リア〇を飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨て、再びMTBを走らせようとした時、

 

「ん?あれは‥‥」

 

シュテルの視線の先には私服姿の真白が居た。

 

「あれって、確かミケちゃんの艦の‥‥」

 

真白とはあの航海で何度か顔を合わせ、会話をしたが特に親しいと言う間柄ではない。

見たところ、自分と同じく一人で休日を満喫している様子だし、ここで声をかけるのも野暮だろうと思い、シュテルはそのままその場から去ろうとした。

そんなシュテルの視線の先に居た真白に、眼鏡に帽子、マスク姿の怪しい男が近づいてきた。

男の手には横須賀周辺の地図があり、一見怪しそうだが、横須賀に来た観光客で道に迷っているようにも見える。

 

「あっ、すみません。お嬢さん」

 

「はい?」

 

その男は真白に声をかけてきた。

真白は声をかけられ、その男の風体に怪しさを感じつつも、

 

「な、なんでしょうか?」

 

一応、応対する。

 

「すみません、道に迷ってしまったのですが、ここへ行くにはどうすればいいのでしょう?」

 

男は地図を真白に見せながら、要件を話す。

どうやら、この男は道に迷っているみたいだ。

男に怪しさを感じつつも、困っている人に 『交番に行って聞け』 と冷たい態度はとらず、真白は素直に応じる。

 

「えっと、どこですか?」

 

「ここなんですけど‥‥」

 

男が広げた地図を見ると、ある場所に印が書かれていた。

 

「ここですか?‥‥ここへは‥‥」

 

真白が、印が着いた場所へのルートを男に説明しようとした時、

 

ドスッ

 

「うっ‥‥」

 

真白の腹部に激痛が走り、意識が遠のいた。

道を訊ねてきた男が、突然、真白の鳩尾に拳を叩き込んだのだ。

男は意識を失い倒れそうになる真白を抱えるとすぐ傍に止まっていた黒光りするバンに真白を押し込め、自身もバンに飛び乗った。

夜間ひっそりではなく、真昼間から堂々と真白を連れ去ったのだ。

よほどの大物か‥‥もしくは、単純に手柄を焦ったバカか、それとも無差別なのか?

理由は分からないが、真白が誘拐されたと言うのは事実である。

しかし、行きかう人間は誰も止めに入らないし、入れない。

普通の一般人なら、ただ唖然と誘拐現場を見つめているだろう。

誘拐と言う犯罪をする者たちだ。

もしかしたら、武器をもっている可能性もある。

ならば、自身の安全を第一とし、何処の誰か分からない女子高生一人の為に命を張るなんてバカらしい。

せいぜい、その場では可哀そう、大変だと言いつくろい、やがて忘れ去るか、どうせ誰かが、警察に通報しているから後は警察に任せようと言う傍観者効果が働いているのだろう。

 

しかし、例え短時間でも、知り合ったわけであり、親友と同じクラスの生徒が誘拐されたのだから、黙ってみている訳にはいかない。

シュテルは慌ててポケットからスマホを取り出し警察に電話しようとした時、今日自分がスマホを置き忘れていることに気づく。

 

「あぁ、もう!!なんでこんな時にスマホを忘れるかな!?くそっ!!」

 

真白が目の前で誘拐された現場を見て一瞬、唖然としてしまったが、スマホがない以上、追いかけて真白の行方を追わなければならない。

確かにあの場に居た誰かが警察に電話をしているかもしれない。

しかし、警察があの場に来て、犯人を追うまで一体どれくらいの時間がかかるだろうか?

それに、皆が皆、誰かが警察に電話しただろうと思い込み、警察に電話をしていない可能性だってある。

真白の安全を考えるのであれば、今は一分一秒でも時間が惜しい。

犯人たちを追いかけて、真白の監禁場所を突き止めてからでも警察に連絡するは遅くはない筈だ。

シュテルはMTBのペダルを漕ぎ、真白を攫った黒いバンを追う。

 

「多少、距離を開けられてもなんとかなるか‥‥?」

 

バンは計算しつくしたように、人気のない道を選び進んで行く。

犯人は、あらかじめ逃走ルートを決めていたのだろう。

となると、真白の誘拐は計画されたモノなのかもしれないが、不幸体質な真白のこともあり、偶然あの場に居た為、無差別に誘拐するターゲットにされた可能性もある。

 

この世界は前世の日本と異なり、地下資源の強引な掘削で地盤沈下が起き、日本の陸地が水没している。

その為、陸地は少なく、海上都市、フロート船が日本と言う国家を形成している。

陸地が少ないこと、更に長い直線ではなく、左右に曲がりくねった小幅な道を通っている為、思う以上に速度を出せないことが幸いし、相手が車であってもこっちは小回りが利く自転車であり距離は空くが見失わない程度の距離は保つことが出来た。

やがて、バンの行き先がおぼろげながらも分かってきた。

 

「この先は港湾区画‥‥やっぱりドラマや漫画・アニメみたいに港の倉庫に監禁する気か?」

 

ドラマの誘拐場面では定番である監禁場所は港湾の倉庫かと思っていたシュテルであるが、その予想は覆された。

バンよりも一足遅く港湾区画に辿り着いたシュテルが見たのは、バンから降り、港に停泊している一隻のクルーザーに乗り換えている犯人たちの姿と連れていかれる真白の姿だった。

 

「マズい!!」

 

海に出られたら、真白の居場所を突き止めるのは困難になる。

早く追いかけなければと思い周囲を見渡すと、

 

「よしっ、こんなもんだろう」

 

「エンジンの方は結構早く終わったわね」

 

「おしっ、休憩の後は‥‥」

 

港に泊まっているモーターボートのエンジンを修理していた柳原と黒木の姿があった。

休日なのに、故障した漁船やモーターボートのエンジンの修理をしているってことは、エンジン修理のバイトかボランティアでもしていたのだろう。

しかし、二人はクルーザーに強引に乗せられている真白の姿に気づいていない。

 

「柳原さん!!」

 

「ん?なんでぇい、ドイツ艦の艦長さんじゃねぇか、妙なところで会うな」

 

「このボート動かせる!?」

 

「ん?そりゃあ、ついさっき、エンジンの修理が終わったばかりだからな。それがなんでぃ?」

 

「ちょっと、貸して!!」

 

「えっ?」

 

「ちょっと、どういうことなの?説明して!?」

 

いきなり、ボートを貸してくれと言われ、柳原は唖然し、黒木はちゃんと理由を話せと言う。

 

「説明は戻ったらするから!!」

 

「えっ?ちょっと!!」

 

唖然とする柳原と納得していない黒木を尻目にシュテルはボートのエンジンを起動させて、犯人たちのクルーザーを追いかけた。

犯人たちのクルーザーは、廃棄予定のフロート船に向かって行く。

 

「なるほど、あそこを監禁場所にする気か‥‥」

 

真白の監禁場所が分かったので、無線で警察かブルーマーメイドに通報しようと、ボートの無線機で連絡を取ろうとしたシュテルであるが、

 

「この無線機壊れている!?」

 

このボートのエンジンは先程、柳原と黒木が直したが、無線機はまだ修理されていなかった。

先程、柳原は『休憩の後は‥‥』と言っていた。

おそらく、休憩の後は無線機の修理をするつもりだったのだろう。

 

「嘘だろう!?おい!!」

 

ここでシュテルは二つの選択肢を突きつけられる。

 

一つはこのまま真白を追いかける。

 

もう一つは、港に戻り、柳原と黒木に事情を説明して警察かブルーマーメイド、ホワイトドルフィンに通報する。

 

 

自分と真白の安全を考えるなら、後者なのだが、そちらに関しても自分の安全は100%保証されているが、真白の安全は必ずしも約束はされていない。

 

真白の誘拐が宗谷家への身代金目的なのか?

 

それとも、イタリアで経験した人身売買、臓器売買目的かもしれない。

 

いずれにせよ、やはり、時間を無駄にはできない。

考えた末、シュテルは犯人たちのクルーザーが廃棄フロートに着岸してから時間を少しおいてから、自身も廃棄フロートに降り立った。

 

廃棄予定のフロートなので、当然電気は通っていないが、犯人たちは光源確保のため、大型のライトスタンドと自家発電機、逆探知妨害装置を用意していた。

犯人たちは真白をクルーザーから引きずり出し、廃棄フロートの奥へと進む。

真白は手に手錠をされ、口元はガムテープでふさがれている。

 

(うぅ~‥‥なんでこんな目に‥‥やっぱりついてない‥‥)

 

真白はまさか、自分が誘拐何て犯罪に巻き込まれるなんて予想もしておらず、あの航海で遭難した商店街船、新橋で多聞丸と共に取り残された時と同じくらい、命の危険に晒されていた。

 

「上手くいきましたね」

 

「ああ、アイツらの悲しむ顔が目に浮かぶぜ。おい、連絡を入れろ」

 

「へい」

 

犯人の一人は真白から奪ったスマホでまずはビーコン機能をオフにした後、どこかに電話を入れた。

 

 

真白が誘拐されたとは思いもしない宗谷家では‥‥

 

プルルルル‥‥プルルルル‥‥プルルルル‥‥

 

家の固定電話が鳴り響く。

 

「はい、はい、はい、もしもし、宗谷です」

 

電話に出たのは同じく休暇で家に居た真冬だった。

長女の真霜は、仕事の時はやり手のキャリアウーマンであるが私生活ではかなりズボラであり、今日も休日であると言うことで、まだベッドの中に居る。

 

「あぁ~宗谷さんか?」

 

「そうですけど?どちら様ですか?」

 

「今、お宅のお嬢さんを預かっている」

 

「はぁ?」

 

電話相手の言葉に思わず声が裏返る真冬。

 

「あんた、何言ってんだ?イタズラならもう切るぞ」

 

真冬は当初、相手の言うことがイタズラだと思った。

 

「嘘だと思うなら、今からお嬢さんの写真をお宅にFAXする。FAXが終わったら、もう一度電話をする」

 

「お、おい、ちょっ、アンタ‥‥」

 

そう言って相手からの通話は切れた。

 

「なんなんだよ?」

 

プルルルル‥‥プルルルル‥‥プルルルル‥‥FAXヲ受信シマシタ‥‥

 

それからすぐに電話の相手が言うように、宗谷家に一通のFAXが送られた。

 

「っ!?」

 

FAX用紙を見た真冬は目を見開く。

そこにはパイプ椅子に座らせられ、手には手錠、口元にはガムテープが貼られた真白の写真が写し出されていた。

それから再び宗谷家の固定電話が鳴る。

 

プルルルル‥‥プルルルル‥‥ガチャっ!!

 

「もしもし!?」

 

「どうかな?これで分かっていただいたかな?イタズラではないと言うことが‥‥?」

 

「お前‥マジで、シロを‥‥」

 

イタズラではなく、電話の相手が本当に真白を誘拐した犯人であることに真冬は唸るような声を上げる。

 

「おい、いいか、シロに何かしてみろ!?そん時は、お前を必ず見つけ出して、ぶっ殺すからな!!」

 

「それはそちらの対応次第だ」

 

「なに!?要求はなんだ!?」

 

「まず、お宅のお嬢さんの身代金として5千万用意しろ」

 

「ご、5千万だと!?」

 

「そうだ。それと、以前、宗谷真冬が検挙したレッド・シードラゴンの幹部メンバーの開放だ」

 

電話の相手はまさか、電話に出ているのがその真冬であると気づいていないみたいだ。

 

「レッド・シードラゴン‥‥だと‥‥?」

 

「そうだ。その両方の要求が実行されたら、お嬢さんを返す。まずは身代金の用意だ。二時間後にまた電話する。もちろん、警察やブルーマーメイド、ホワイトドルフィンに連絡をしてみろ、その時は人質の命はないぞ‥‥」

 

ガチャッ‥‥プー‥‥プー‥‥プー‥‥

 

「ま、まて!!シロの声を聞かせろ!!おい!!もしもし!!もしもし!!」

 

犯人は一方的に要求を伝えると電話を切った。

ついでに誘拐犯お決まりの文句、「警察に連絡したら、人質の命はない」と言う脅しと共に‥‥

更に犯人たちは警察の他に、『ブルーマーメイド、ホワイトドルフィンにも通報するな』と追加してきた。

自分たちが人質に取っている宗谷真白は一介の高校生であるが、その姉二人は現役のブルーマーメイドの幹部であり、母親の方は、今は海洋学校の校長職であるが、現役時代は『来島の巴御前』の異名を持つほどの優秀なブルーマーメイドだった。

当然、宗谷家はブルーマーメイドと深い関わりがある。

舞台が海上限定であるが、ブルーマーメイド、ホワイトドルフィンが治安維持組織であることには変わらないので、そのブルーマーメイド、ホワイトドルフィンにも連絡を入れるなと犯人たちは釘を刺してきたのだ。

 

「ま、真霜姉!!大変だ!!」

 

真冬は血相を変えて、真霜の部屋に向かう。

 

「真霜姉!!」

 

真冬が真霜の部屋にいくと、真霜の部屋の床には、昨日、真霜が着ていた服が脱ぎっぱなしで、その他にも本やら書類やらが部屋中に散乱している。

ウルスラの姉であるエーリカ・ハルトマン程ではないが、彼女の部屋も汚部屋の片鱗が見える。

 

「真霜姉!!大変だ!!起きてくれ!!」

 

そんな汚部屋のベッドで真霜はダボダボのシャツにパンツ一丁で寝ていた。

ブルーマーメイドの隊員が見たら、驚愕するような真霜の一面であった。

 

「真霜姉!!起きて!!おい、起きろ!!大変なんだってば!!」

 

真冬は寝ている真霜を叩き起こす。

 

「うぅ~‥‥うーん‥‥何よ?休みの日ぐらいのんびりさせてよぉ~‥‥」

 

真霜は寝ぼけ眼を擦りながら、むっくりとベッドから身体を起こす。

無理矢理叩き起こされたせいか、何だか恨めしそうな顔で自分を叩き起こした真冬を睨みつけてくる。

 

「真霜姉!!吞気に寝ている場合じゃねぇって!!シロの奴が大変なんだよ!!」

 

「大変って、あの子の不幸体質は今に始まった事じゃないでしょう?」

 

後頭部をガリガリと掻きながら真冬に何大げさに騒いでいるのかとあくびをしながら言う。

この時、真霜は不幸体質な真白の事だから財布かスマホ、家の鍵でも落としたぐらいのレベルだと思っていた。

 

「これを見てもそんなことが言えるか!?」

 

「ん?なに~?」

 

真冬は真霜に先程、誘拐犯から送られてきたFAX用紙を見せる。

 

「‥‥」

 

最初は寝ぼけ眼だった真霜であるが、FAX用紙をジッと見ていくと、段々と眠気が覚め、険しい顔になっていく。

 

「な、なによ!?これ!?どういうことなの!?」

 

真霜はFAX用紙を真冬から奪い取るかの様に手に取り、ジッと食い入るように見る。

 

「だから、大変だって言ったじゃねぇか!!」

 

「これ、アンタや真白が私をからかうためにやっているイタズラやドッキリじゃないわよね!?」

 

「こんな悪趣味なイタズラやドッキリなんてやらねぇよ!?」

 

真霜は真冬と真白が自分をからかう為に用意周到で盛大なドッキリでもしているのかと思ったが、真冬は速攻でそれを否定した。

 

「ど、どうしよぉ~‥‥真冬‥‥真白が‥‥真白が‥‥」

 

ここにきて、真霜は事の重大性に気づいた。

そして、真霜にしては珍しくオドオドと狼狽えている。

 

「真霜姉、まずは落ち着けよ」

 

「落ち着けですって!?真白が大変なのよ!?」

 

「大変な時だからこそだろうがぁ!!宗谷真霜!!」

 

「っ!?」

 

真冬の一括でやや落ち着きを取り戻した真霜。

 

「そ、そうね‥こんな時こそ、落ち着かないとね‥‥」

 

「ああ‥‥とりあえず、母さんにもこの事を伝えよう」

 

「ええ‥そうね」

 

真霜、真冬、真白の宗谷家三姉妹は、今日は休日であったが、母親の真雪はRat事件のあおりで今日も学校に休日出勤していた。

真霜と真冬は急ぎ、母の真雪に電話を入れた。

犯人は警察とブルーマーメイド、ホワイトドルフィンに連絡を入れるなと言っていたが、真雪は海洋学校の校長であり、警察でもブルーマーメイドでもホワイトドルフィンでもない。

その為、犯人の要求を破った訳ではない。

 

その頃、真雪は真白が誘拐されたことなど知る由もなく、横須賀女子の校長室でRat事件の事後報告書をまとめていた。

そこへ、

 

Piririririr‥‥

 

真雪のスマホが鳴る。

ディスプレイを見ると、そこには 『宗谷真霜』 と表示されていた。

 

「真霜から?何かしら?もしもし、真霜。どうしたの?」

 

「お母さん!!大変なの!!」

 

通話ボタンを押して、電話口に耳をあてると、そこから真霜の切羽詰まった声が聞こえてきた。

大声だったので、耳がキーンとする。

 

「うっ‥‥大変な事?何かあったの?」

 

「真白が誘拐されたみたいなの!?」

 

「えっ?誘拐!?真白が!?」

 

真霜から『誘拐』と言う物騒な単語が出てきたことに思わず聞き直す真雪。

 

「誘拐って本当なの!?何かの間違いじゃないの?」

 

「私も最初はそう思ったんだけど‥‥今、犯人から送られてきたFAXを写真に撮ったからそっちに送るわ!!」

 

真霜は犯人から宗谷家に送られてきたFAX用紙の写真をスマホのカメラで撮り、それを添付して真雪のスマホにメールで送る。

 

You get mail‥‥

 

メールを受信した真雪は、早速、メールに添付されていた写真を開く。

 

「っ!?」

 

真霜同様、真雪は真白が拘束されている写真を見て驚愕する。

 

「こ、これは‥‥っ!?」

 

「ねぇ、お母さん、ど、どうしよぉ~真白が‥‥真白が‥‥」

 

「お、落ちつきなさい、真霜‥‥それで、犯人からの要求はきているの?」

 

「電話に出たのは真冬みたいだから、真冬に代わるわね」

 

真霜はスマホを真冬に手渡す。

 

「もしもし、母さん」

 

「真冬‥それで、犯人からの要求は何なの?」

 

「まずは、シロの身代金に5千万用意しろって言ってきた」

 

「5千万‥‥」

 

真雪は犯人から要求された真白の身代金の額に声を震わせる。

それに今日は休日なので、銀行をはじめとする金融機関も休み‥‥

宗谷家に5千万なんて大金が有る訳がない。

 

「真白‥‥」

 

真雪の脳裏に最悪の事態が過ぎった。

 




真霜はブルーマーメイドのキャリアではありますが、どちらかと言うと内勤がメインと言うイメージがあり、反対に母親の真雪はTV版の冒頭でも大和に乗艦していたり、現役時代に、緻密な情報収集と大胆な作戦で武装勢力を単艦で一掃したことから、「来島の巴御前」の二つ名を得ており、同じく真冬もべんてんの艦長を務め、映画版でもテロリストの制圧をしていたので、コマンドーの将軍で言えば、

「君達は世界中に敵を作ってきたからな。 犯人は東南アジアかアフリカか、それともテログループか…… 次は君の番だ」

の様に、海賊やテロリストの残党から真雪と真冬は恨まれていてもおかしくはないので、今回はそのあおりを真白が受けてしまいました。
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