やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
そして、間宮艦長である藤田がちょっと酷い目にあっています。
藤田ファンの皆様、申し訳ございません。
横須賀にて、宗谷真白の誘拐事件が起きている中、横須賀市内の別の地区の繁華街では、明石艦長の杉本珊瑚と間宮艦長の藤田優衣が休日のひと時を共に過ごしていた。
二人は中学からの知り合いであったが、明乃やもえかの様に仲が良い。
そして、市街地にあるお蕎麦屋の前を通った時、
「蕎麦か‥‥」
「蕎麦ね‥‥」
二人はお蕎麦屋のウィンドウに飾られているお蕎麦のサンプルを見て呟く。
お蕎麦の他にもデザートであるお汁粉やぜんざいのサンプルも飾られている。
「あんこを使ったデザートもあるね」
「‥‥そ、そうね」
「なんか、お蕎麦やお汁粉を見ていると、あの時の事を思い出すね」
「ええ、そうね‥‥」
珊瑚は普段と変わらない眠そうなたれ眼であるが、藤田の方は少し顔を強張らせている。
珊瑚の言う『あの時』の事を思い出しているのだろうか?
彼女が言った『あの時』‥‥それは先日、赤道を越えた時に行われた赤道祭まで時間を遡る‥‥
晴風機関長の柳原が企画した赤道祭、その当日、夕方頃、出し物はヒンデンブルクの大教室内でそれぞれの艦のクラスメイトたちが、思い思いの出し物をした。
晴風砲術科は大砲のモノマネをしたが、一部のクラスメイト以外には受けずに滑っていた。
反対に晴風航海科の航海ラップは受けた。
晴風砲術長の立石と水雷長の西崎のコンビ漫才も受け、普段は無口な立石が結構喋っていた。
そして、納沙がシナリオ担当をした寸劇、『仁義なき晴風』は、納沙やミーナが好きな任侠系の寸劇であり、ここでも普段はなよなよしている晴風航海長の鈴がはきはきとセリフ言って、自信に満ちた顔をして劇に参加していた。
晴風組の出し物が終わり、次にドイツ組の出し物となる。
艦長であるシュテル、航海長のレヴィ、記録係のメイリン、機関長のジークが、スクールアイドルの様な衣装に身を包み、歌い踊った。
次は副長のクリスと砲雷長のユーリの二人はマジックを披露した。
マジックでは定番のカードや物を変化させるマジックを披露し、観客席の学生たちを魅了した。
そしてマジックでは定番のアシスタント動物であるウサギ、ハトは流石に用意できなかったので、ウサギ、ハトの代わりに晴風副長、宗谷真白の飼い猫である多聞丸を借りてマジックをした。
多聞丸を箱に入れ、箱の外から銃剣を突き刺すマジックでは、真白がハラハラしており、クリスの心臓に悪い演出の際にはクリスに掴みかかるぐらいの勢いだった。
最後のイリュージョンマジックでは、シュテルの衣装を様々な海洋学校の制服にチェンジするイリュージョンマジックを披露した。
そして、ドイツ組の出し物が終わると、
「次は明石艦長と間宮艦長の二人羽織です!!」
「どうぞ!!」
舞台には間宮と明石の乗員が座布団を舞台に設置する。
座布団の他にもちゃぶ台が用意され、その上には盛り蕎麦、みかん、おはぎ、急須、湯飲み、箸、爪楊枝、布巾がセットされる。
舞台が整うと、珊瑚と藤田が上がり、珊瑚が藤田の後ろに回り、腕の役をやり、藤田が指示役をした。
「あら?美味しそうなお蕎麦。では、早速いただきましょう。いただきま――――いだっ!?」
藤田と珊瑚がお蕎麦を食べようと『いただきます』の合掌をしようとしたが、二人の距離感‥‥と言うか、珊瑚の腕の長さがちょっと足りない為に珊瑚の両手が藤田の眉間にチョップしてしまった。
更にそのチョップを受け、藤田がかけていた眼鏡が衝撃で落ちてしまった。
「め、眼鏡‥‥眼鏡‥‥」
眼鏡が無いと視界がボヤけており、落ちている眼鏡がよく見えない。
更に二人羽織をしているのだから、腕が四本出てしまうのは不自然だ。
「さ、珊瑚、眼鏡が落ちちゃったから眼鏡を拾って」
そこで、藤田は珊瑚に眼鏡を拾ってくれと頼む。
「ん‥‥」
珊瑚は手探りで藤田の眼鏡を捜し、
「ん?これかな?」
眼鏡らしき物体を掴む。
確かに珊瑚が拾ったのは眼鏡だった。
後は、藤田の目に眼鏡をかけるだけなのだが、
「いだっ!!珊瑚、ちょっと、ズレてる‥‥」
眼鏡を藤田の目にかけようとしたら、左側の眼鏡のテンプルが藤田の左目に突き刺さる。
「え、えっと‥‥こっちかな?」
眉間にチョップ、眼鏡を落とし、テンプルを目に突き刺すと言うトラブルがあったが、何とか珊瑚は藤田の目に眼鏡をかけ直すことが出来た。
(なんで、明石の艦長が羽織の中なんだ?この場合、逆の方が良かったんじゃないのか?)
二人の二人羽織を見て、シュテルは逆‥‥藤田が羽織の中であった方がよかった気もする。
しかし、実際には珊瑚が羽織の中に居る。
藤田は眼鏡をかけているので、羽織の中にいると、眼鏡が落ちる可能性があるので、眼鏡をかけていない珊瑚が羽織の中に入っているのだろうか?
それとも、珊瑚自身が恥ずかしいなどの理由から羽織の中に入っているのだろうか?
「さ、さて、気を取り直して、お蕎麦を食べようかしら?」
藤田はまずはお蕎麦を食べることを珊瑚に伝える。
珊瑚はまず、テーブルの上に置いてある箸を捜す。
「ちょっと、珊瑚、早く‥‥あっ、そっちじゃない、もっと左、左よ‥‥って、そっちは右でしょう!?」
珊瑚があまりにも箸を取るのが遅かったので、藤田は珊瑚に指示を出すが、
「えっと‥‥間宮の艦長さん、こういう時は自分一人でやっているように演じないといけないんじゃあ‥‥?」
見かねた若狭が二人羽織のセオリーを藤田に言う。
藤田はあくまで珊瑚の腕を自分のように演じなければならなかった。
「そ、そうね‥では、改めて。うーん‥‥なかなか、箸がつかめないわね。今日は寒いから、手が震えているのかしら?」
「赤道直下でその言い訳は苦しくない?」
藤田の背後で珊瑚がツッコミを入れる。
「うるさいわね。そもそも、貴女が箸を上手く掴めないのが、悪いんじゃない!?」
ボソッと藤田は背後の珊瑚に愚痴る。
ちょっと不機嫌ながらも藤田は珊瑚が箸を取るのを待つ。
そして、ようやく珊瑚は箸をとることが出来た。
しかし、これはあくまでも第一段階に過ぎず、この後、箸でお蕎麦を取り、そば汁につけ藤田の口元へ運ばなければならない。
今度はお蕎麦を食べるため、そのお蕎麦を捜す。
そして、お蕎麦の場所を確認できた珊瑚は、すぐにお蕎麦を食べさせようとしたが‥‥
「さて、いただこうかしら‥‥?‥‥って、ちょっと、ちゃんとそば汁につけてよ!!」
珊瑚はお蕎麦をそば汁につけずに食べさせようとした。
「むぅ~わがままだな」
珊瑚は面倒だと思いつつもお蕎麦をそば汁につけて藤田の口元に運ぶ。
要領を掴んだ珊瑚はまたお蕎麦を箸でとり、そば汁につけて藤谷に食べさせるが、最初よりもお蕎麦の量が多い。
「ちょっ、珊瑚‥量‥‥蕎麦の量が多い‥‥ふぐ‥‥うぐ‥‥ごふっ!!」
大量のお蕎麦を珊瑚は藤田の口へとねじ込む。
しかも量が多かったので、お蕎麦全体にそば汁が染み渡っていない。
さらにお蕎麦の量が多すぎたのか、藤田は口に入り切れない量を無理矢理口の中にねじ込まれたので、むせてお蕎麦を大リバースした。
「「「「「プククク……!?」」」」」
流石に失礼だと思ったのか、観客席に居る皆は声を上げて大爆笑することはなかったが、それでも笑いは止められず、あちこちから小さな笑いが起こる。
「お、お蕎麦はもういいわ‥‥次はみかんを食べようかしら?」
藤田は気を取り直し、お蕎麦の次は、隣の皿に盛ってあるみかんを食べようとする。
すると、珊瑚はみかんの皮を剥かず、そのままの状態で藤田の口元へと運ぶ。
「ちょっ、ちょっと、ちゃんとみかんの皮を剥いて!!」
「‥‥」
珊瑚はみかんの皮を剥いたのはいいが、みかんの中身ではなく、皮を藤田の口元に運ぶ。
「珊瑚‥‥貴女、わざとやっているでしょう!?」
不機嫌そうな声を出す藤田。
いくらなんでも、みかんの中身と皮では感触が違うことぐらい主計科でない珊瑚でも分かるはずだ。
それにもかかわらず、珊瑚はみかんの皮を藤田の口元に運んだのだから、どうみてもわざとしか思えない。
すると、珊瑚はみかんの中身を今度は丸ごと藤田の口元にねじ込む。
「おが‥むぐ‥‥」
「なんか、女子高生が出しちゃいけない声を出しているな‥‥」
「顔もなんか辛そう‥‥」
「うぅ~‥‥口元がみかんの果汁でベタベタ‥‥ナプキンでふかないと‥‥」
布巾で口元を拭いてと頼むと、珊瑚は布巾を手に取ると、今度は器用に藤田の眼鏡を取ると、彼女の眼鏡を布巾で拭き始める。
「ちょっと、コラ!!」
『ハハハハハ‥‥!!』
珊瑚の行動に観客席からの笑い声の大きさが大きくなる。
藤田に一喝されて珊瑚は眼鏡を藤田の目元に戻すと、今度は藤田の口元を布巾で拭く。
「えっと‥次は、おはぎをいただこうかしら?」
藤田が珊瑚に次の指示を出す。
しかし、先程お蕎麦を食べた時に使用した箸よりも小さな爪楊枝を取るのは難しい。
珊瑚は羽織の中に居るので当然、外の状況を見ることが出来ないので、爪楊枝を捜すのに手間取っている。
やっと楊枝を手に取ると、今度はおはぎを切るために手探りでおはぎを探していた。
そして、おはぎの場所を確認できた珊瑚は、すぐにおはぎを食べさせようとしたが、
「やっと、おはぎを頂けるわ。では、さっそく……って、ちょっ!?まって!!珊瑚!!ちゃんと切りなさいよ!!そのまま食べさせないで!?」
珊瑚はおはぎに楊枝を突き刺すと、そのまま藤田の口に運ぼうとした。
さすがにそのままだと大きすぎたため、藤田が必死に止めると、珊瑚はおはぎを何とか半分に切って再び食べさせようとした。
「あ、改めておはぎを食べるわ! さっそく‥‥ちょっと!? もうちょっと左よ!!」
口元に運ぼうとするのだが、それが中々上手くいかず、頬や目、鼻におはぎを突っ込まれそうになるのを必死に藤田は阻止していた。
その様子がまさに二人羽織の醍醐味であり、等々こらえきれずに、観客席からはあちこちから笑いの声が上がっていた。
「杉本艦長、しっかりやってくださ~い!」
「もっと上ですよ~!」
「いや、下ですよ~」
「艦長、頑張れーっ!」
明石の乗員からは笑いながらも珊瑚を応援する声があがる。
「ちょっと、貴女たち!!余計なことを言わないで!! 珊瑚が混乱するでしょう!?」
藤田はそんな明石のクラスメイトたちに余計なこと言うなと言う。
「まったく‥‥さあ、おはぎを食べるわよ。おはぎを手に取って、落とさない様に逆の手をおはぎの下に添えて‥‥ちょっ、ちょっと!!」
「「「「「っ!?」」」」」
「ひょっ!? ひょっと……もがっ!?」
「「「「「っ!?」」」」」
「むがぁぁぁぁ~っ!?おごごごごぉ~‥‥」
珊瑚は再び藤田におはぎを食べさせようとしたが、珊瑚はおはぎを持つ手とは逆の手をおはぎの下に添えるつもりが、誤って藤田の顎を捕らえてしまった。
だが、珊瑚は体勢をたて直そうとはせずに、そのままおはぎを藤田の口に無理矢理押し込んで、おはぎを食べさせた。
その顎を押さえて口に無理矢理押し込んで食べさせる拷問じみたやり方に、一同はついに堪え切れず噴き出して笑ってしまった。
『あはははははは!!』
と言うか、二人羽織で見えないはずなのに、こういう事だけは何故か器用な珊瑚。
「ゲホッ!? ゲホッ!? な、何するのよ!?珊瑚!!」
さすがに藤田は激怒したが、珊瑚は気にせずに今度は急須に手を取った。
手探りだったが、あっさり急須を手に取ると、すぐに藤田に飲ませようとした‥‥しかも、湯飲みを使わずに‥‥
ただ、急須に入っているのはお湯ではなく、水である。
万が一のことがあって、失敗し、二人が火傷をしては大変だからだ。
「ちょっ!?ちょっと、 珊瑚!!さすがに湯呑に入れてから………ごぼっ!!」
『っ!?』
「ゴプゴプ‥‥アプ、アプ‥‥」
珊瑚はまた藤田の顎を捕らえると、有無を言わさず急須の口から直接、藤田に水を飲ませた‥‥彼女の顔全体に……。
「ひ、ひどい……ハハハハハ!!」
「ちょっと、ひどいって言いながらも笑っているよ‥‥フフフフ‥‥」
「貴女だって笑っているじゃん‥‥クククッ!?」
もはや二人羽織ではなく、軽い拷問の様に見えるが、傍から見ればまるでバラエティのように見えて、観客席からのあちこちで大爆笑していた。
藤田にとっては踏んだり蹴ったりであったが、結果的に二人の二人羽織は、大いに受けた。
「あの時は本当に酷い目に遭ったわ‥‥」
「でも、皆に受けていたし良かったじゃん」
赤道祭での出し物の事を思い出してちょっと不機嫌そうな藤田とは反対に、珊瑚は普段通り、どこ吹く風な様子だった。
そんな中、
ぐぅ~‥‥
珊瑚のお腹が鳴る。
「お蕎麦やぜんざいを見て、あの時の事を思い出していたら、何かお腹空いたねぇ~」
珊瑚はお腹をさすりながら空腹だと言う。
「まったく、貴女は~‥‥」
藤田は珊瑚の柳の様な性格に先程まで沸いていた怒りも呆れで自然と収まった。
そして二人はそのまま蕎麦屋の暖簾を潜った。
「そう言えば、ドイツ艦の人たち、結構沢山の衣装を使っていたけど、よく用意できたわね」
蕎麦屋の席に着き、藤田はヒンデンブルクのクラスメイト‥‥シュテルたちとクリスのマジックでは沢山の衣装を使用していた。
赤道祭は元々晴風機関長の柳原の提案‥突発的な企画だったので、衣装を用意していたとは思えない。
「あぁ~、アレはウチのクラスの人が貸したみたい」
「えっ?珊瑚の所の?」
「うん。あの子、アイドルの衣装や制服の収拾が趣味みたいだし‥私が着ているコートも彼女から貰ったモノだしねぇ~」
(なんで、衣装や他校の制服を艦に持ち込んでいるのかしら?)
藤田もシュテル同様、明石の乗員が個人的に衣装を持ちこんでいることに疑問を感じた。
その後、二人は昼食のお蕎麦とデザートを堪能した。
ここで時間を真白が誘拐される少し前まで巻き戻す。
そして、視点は珊瑚と藤田から真白へと移る。
真白はこの日の休日、一人で横須賀の繁華街へとやって来て、書店にて参考書や海洋関係の雑誌を見た後、
「ん?ファンシーショップか‥‥」
一軒のファンシーショップを見つけた。
そして、真白は周囲を見渡し、周りに知人が居ない事を確認すると、そのファンシーショップに入った。
自分がファンシーショップに入る所を同じクラスの同級生に見られたりすると、何を言われるのか分からない。
特に艦長である明乃はボケている‥‥というか、天然な所があるから、同級生たちと一緒にいる時に、ついポロっと零してしまうだろうし、記録係の納沙に見つかれば、写真を撮られて同級生に出回る可能性がかなり高い。
自分としはあまり自分自身の事を話題に取り上げられたくはないので、警戒するのも無理はなかった。
とは言え、真白がぬいぐるみ好きであることは、既に晴風クラスではとうに知られていた。
幸い、周辺及びファンシーショップの店内に同じクラスの同級生は居なかったみたいで、真白はゆっくりとファンシーショップの中を見ると事が出来た。
「そろそろ、ブルースたちに新しい仲間を増やしてみるのもいいかもな‥‥」
真白がもっている沢山のぬいぐるみの中で、一番大切にしている大きなサメのぬいぐるみ、ブルース‥‥
あの航海で真白がわざわざ晴風に持ち込むくらいで、その大きさから、真白は抱き枕にもしていた。
伊201での遭遇戦にて、寝ぼけて艦橋まで持ち込んでしまい、艦橋メンバーに見られてしまうと言う失態をやらかしてしまったが、それでも真白にとってブルースが大事なことには変わらない。
ほかにも鳥、ペンギン、あんこうのぬいぐるみも晴風に持ち込んでいたが、ブルースや他のぬいぐるみにも新たな仲間を増やそうかと思いながら、ぬいぐるみが置いてある棚を見て回る。
すると、
「あら?もしかして、晴風の副長さん?」
「っ!?」
真白は突然、声をかけられてビクッと身体を震わせる。
(まさか、クラスメイトの誰かに見られていたのか!?)
自分では気が付いていない時にこの店に入るのをクラスメイトの誰かに見られたのだろうか?
それとも、運悪く店に入ってきたクラスメイトが自分を見つけたのだろうか?
不幸体質な自分ならばそのどちらかの可能性が高い。
恐る恐る真白は声がした方を無理向くと‥‥
「やっぱり、晴風の副長さんだ」
柔らかな笑みを浮かべながら真白に近づいてくるのはヒンデンブルク医務長であるウルスラだった。
「えっと‥‥ヒンデンブルクの医務長‥さん?」
「はい。副長さんも買い物ですか?」
「えっ?ええ‥まぁ‥‥医務長さんも?」
「ええ。寮の部屋が殺風景なので、少しでも模様替えをと思いまして‥‥」
ウルスラはファンシーショップに来た理由を真白に話す。
それから二人は一緒にファンシーショップを見て回る。
真白は、ウルスラは艦も学年も違うので、自分がこうしてファンシーショップに来た事をバラさないだろうと思ったのだ。
「へぇ~ハルトマンさんにもお姉さんがいるんですか~」
「はい‥‥仕事中は立派な姉なんですけど、私生活ではどうもズボラな姉でして‥‥」
ウルスラは少し困ったように言う。
日本に来て数ヶ月経つので、ドイツの実家の方は大丈夫だろうかと心配なのだろう。
「‥‥姉って似るんですかね?」
「ん?」
ウルスラの話を聞いて、なんだか親近感が沸く真白。
真白も一番上の姉が仕事では立派なのに、私生活はズボラで、今日だって、自分が家を出る時間になっても寝ていた。
きっと、部屋も脱いだ服で散らかっているに違いないと思っている真白だった。
ファンシーショップを見て回っていると、自分は魚や海に関する生き物が好きなのだが、ウルスラは陸上に住む哺乳類動物が好きみたいで、それらの動物のぬいぐるみを見ている。
そして、トナカイのぬいぐるみを見つけ、棚から手に取る。
「ハルトマンさんは、トナカイが好きなんですか?」
「そうですね、好きか嫌いかと言われれば好きな方ですね‥‥トナカイはサンタクロースのソリを引く動物ですから‥‥その他にアナグマも好きですね」
(サンタクロースか‥‥)
トナカイのぬいぐるみとウルスラの口からサンタクロースと言われ、真白は先日の赤道祭でのウルスラの出し物を思い出した。
「次は、ヒンデンブルク医務長のウルスラ・ハルトマンさんです!!」
「どうぞ!!」
赤道祭の出し物でウルスラは一人ながらも人形を使っての腹話術を披露した。
そして、そのテーマが何故かクリスマスの話で、お手製かと思われるサンタクロースのぬいぐるみとトナカイのぬいぐるみを使って一人人形劇をする。
レヴィたちはシュテルの他にウルスラも同じ出し物に誘っていた。
しかし、ウルスラはこの時、人形劇をやることを決めていたのか、レヴィたちの誘いをやんわりと断った。
レヴィたちも既に出し物を決めているのでは、無理に誘えないので、ウルスラと一緒に出し物をすることを諦めた。
そして、ウルスラの人形劇が始まった‥‥
『ふざけんなよぉ!クソじじぃ!!坂道下るときは、必ずソリから降りるっていう約束だっただろうがぁ!!こっちはもうソリを引いているというより、追われている感じだったんだよぉ!アキレス腱にガンガンソリが当たっているんだよぉ!!血だらけなんだよぉ!!もう!!』
『そんなもんお前がソリを上回る速さで走ればいい話だろうがぁ!トナカイだろうがぁ!ああん!?お前の親父はそりゃあ凄かったよ。坂道でもぐんぐんソリを引っ張ってさ、そりゃ立派なトナカイだった!!』
『アンタ、えらい親父を気に入っている様だけどなぁ、親父はあぎれにアンタの悪口ばっか言っていたから言っとくけど‥‥』
『嘘つくんじゃねぇ!!』
(随分と仲の悪いサンタクロースとトナカイだな‥‥)
ウルスラの劇を見て、そんな印象を受ける真白。
いや、真白以外にもそう思ったに違いない。
その後、劇が進むにつれて、息子の為にクリスマスプレゼントを必死に捜している父親に対して、
『うるさいなぁ、いちいち質問ばかりしやがってトークショーの司会のつもりか?黙っていろ!!』
『なぁ、サンタ君。どうも、ここは真っ当な事をやってないって気がするんだが?』
そして、父親が捜していたヒーロー人形を差し出すと、
『300貰おう』
『300ドルか?』
『チョコレート300個だと思うか?ドルに決まっている』
『信じられない、子供の為だなんて言っておきながら結局は金がほしいのか?』
父親が捜していたヒーロー人形を手に入れて喜ぶも、それは不良品の偽物だった。
それにキレた父親は、
『そうか、わかったぞ、お前たちはサンタの服を着たペテン師の集まりだ!!』
『今なんて言った?』
『聞こえなかったのか!?ペテン師だ、泥棒、人間のクズ、チンピラ、ゴロツキ、犯罪者だ!!』
『北極じゃそれは喧嘩を売る言葉だぞ、かかってこい!!』
どうみても世間一般の知るクリスマスの内容ではなく、ギャグ要素が込められていた。
しかし、役ごとにウルスラは声を変えながらやっているので、納沙の一人芝居よりはレベルが上だった。
だが、何故、ウルスラの劇のチョイスがクリスマスだったのかは、本人以外分からない。
日本ではまだ四月であった。
確かに赤道を越えた南半球は北半球と反対の季節であるが、それでも南半球はまだクリスマス時期ではなかった。
「‥‥」
ウルスラとトナカイのぬいぐるみを見て赤道祭の事を思い出していた真白は複雑そうな顔した。
寮の部屋で彼女が持っているトナカイのぬいぐるみで、あのような一人芝居をするのかと思うと想像すると、自然と顔が引き攣る。
「ん?どうしました?」
ウルスラは真白の視線に気づき、声をかけるが、
「あっ、いえ、なんでもありあせん。それで、そのトナカイのぬいぐるみを買うのですか?」
「はい。宗谷さんは何か買いますか?」
「いえ、今日はそこまで持ち合わせがないので、下見ですね」
「そうですか」
ぬいぐるみの値段もピンキリであるが、ファンシーショップにおいてある人形‥‥
真白が求める大き目なぬいぐるみは、値段が結構張るので、今日はぬいぐるみを買うのは止めた。
「では、私はこれで、失礼します。また学校で会いましょう」
「は、はい。また学校で‥‥」
トナカイのぬいぐるみが入った袋を手にウルスラは真白に一礼し、彼女と別れた。
しかし真白自身、この後まさか、誘拐事件の被害者になるなんて思いもよらなかった。
映画版では明石艦長の杉本珊瑚はちょっとだけながらも登場していたのに、藤田は出てこなかったなぁ‥‥
銀魂に登場したサンタクロースとシュワちゃんが出てきたクリスマス映画、ジングル・オール・ザ・ウェイで登場したサンタクロースの吹き替えの声が同じ人だったので、サンタクロースつながりでウルスラの人形劇に採用しました。