やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
勿論、前世(原作)とは異なる流れとなっております。
ただ、後味が悪いと言うか、胸糞悪くなるような幕引きとなっておりますが、悪が栄えたためしはないので、いつかは‥‥
日本へ来てから、Rat事件、宗谷真白誘拐事件、立て続けに事件に巻き込まれたシュテル。
時期は五月下旬となり、高校一年生にとっては、高校入学後の初めてのテスト‥中間テストを迎える。
そして、日本へ留学に来たシュペー、ヒンデンブルクのクラスメイトたちにとっては日本で最初のテストとなる。
明乃は元々勉強嫌いと言うか、苦手だったので、中間テストを前に不安であり、もえかとテスト勉強をしていた。
なお、テスト直前の五月二十七日、真白が十六歳の誕生日を迎え、晴風のクラスメイトたちが真白の誕生日を祝ったのだが、中間テストの後でやれば良かったのか、中間テストで悲鳴をあげる晴風のクラスメイトが何人かいた。
ただ、あの誘拐事件の後、シュテルは背後から視線を良く感じるようになった。
振り返ると、晴風の副長の真白が居ることが多く、シュテルが振り向き、真白と視線が合うと、赤面して視線を逸らすか、その場から逃げていく。
更にその場面を晴風の機関助手の黒木に見られると、何故か黒木に睨まれることが多々あった。
シュテルとしては真白と黒木の行動が謎であり、首を傾げるだけであった。
そしてやってきた中間テストの期間。
その最中、シュテルは前世のことを思い出していた。
(中間テストか‥‥あっ、そう言えばこの時期に、えっと‥‥川越?川里だっけ?‥‥まぁ、いいや、川なんとかさんの件があったなぁ~‥‥)
川崎の名前がなかなか出てこないシュテル。
(あの時は、確かサイゼで晩飯を食べていたら、小町とアイツが来たんだよなぁ~‥‥)
(この世界でも俺や小町は存在しているのだろうか‥‥?)
シュテルはこの世界でも比企谷八幡、比企谷小町が存在しているのか気になり、ある休日に遠出して千葉まで行った。
しかし、地盤沈下して前世と異なり、地形が変わった為、前世に比企谷家があった場所は海の下に沈んでおり、そこには比企谷家がなかった。
近所のフロートや海上都市に比企谷家があるかもしれないと思い、捜したが、比企谷と言う家は存在しなかった。
一人であてもなく捜して見つかるはずもなく、この日、シュテルは後世の自分(八幡)と出会うことは出来なかった。
総武高校に赴いてもいいが、繋がりが全くない自分が行っても不審者扱いされるだけだと思い、総武高校にも行かなかった。
戸塚に会えるかもしれないと言う思いもあったが、今の自分は艦長と言う責任ある立場なので、おいそれと軽率な行動は出来なかったのだ。
それに、雪ノ下、由比ヶ浜、葉山を始めとして、前世で自分を虐めていた奴らと鉢合わせする可能性が高い。
もちろん、容姿も性別も今では異なるシュテルに気づく筈もなく、この世界では初対面となるのだろうが、それでもシュテルにとっては会いたくない人物には違いない。
その他にしてシュテルとしては、小町にも会いたくはなかった。
雪ノ下や由比ヶ浜以上に信頼していた筈なのに、結局最後は家族よりも半年ぐらいの付き合いで知り合った他人を信じた妹に今更家族愛何てない。
むしろ、気にしていたのは後世の自分自身だった。
この後世でも、比企谷八幡と言う男子高校生はあの独神の手によって隔離病棟(奉仕部)にぶち込まれて、無能な部長殿と頭がお花畑な部活メイトから常日頃に毒舌を浴びせられているのだろうか?
前世ではそれが当たり前だと思い、受け入れていたが、この後世で、人付き合いの環境が変わって、第三者視点で見ると、あの部活はあまりにも異常だ。
顧問の暴力、部活メイトからの罵倒‥‥これらの証拠を提示すれば、何らかの処罰は下るのではないか?
もし、この後世に比企谷八幡と言う男子高校生が居れば、今年の秋ごろに自殺するかもしれない。
転生した自分にとって比企谷八幡はもはや他人であるが、それでも、なんとか救えないかとこの時はそう思っていた。
だが、実際にシュテルが比企谷八幡と言う男子高校生がこの世界に存在しないことを知ったのはもう少し後の事だったからだ。
Rat事件解決の報告は総武高校でも知らされ、六月からは四月、五月の遅れを取り戻す為、海洋実習が始まる。
雪ノ下と同じ艦に乗るクラスメイトたちの本音は、もう少しRat事件が長引いてもらいたいと思っていた。
そんな中、その雪ノ下が在籍する奉仕部の部室では‥‥
「ねぇ、ゆきのん」
「何かしら?」
「前の世界だと、中間テストの前に確かサキサキの依頼があったじゃん」
「ええ、そうね」
「前の世界じゃあ、ヒッキーが私たちに内緒で勝手に何かしていたみたいだけど‥‥」
「全くだわ。私が彼女に現実を見せて救ってあげようと思ったのに勝手に行動するなんて‥‥」
「でも、後でサキサキがヒッキーにお礼を言っているのを聞いたんだけど、あの時、ヒッキーはサキサキに塾のフレンドシップの仕組みを教えて、解決したみたい」
「フレンドシップ?‥‥」
「あっ、違う。スカイシップだったっけ?」
「それって、もしかしてスカラシップのこと?」
「そう!!それ!!ねぇ、その仕組みを教えて今度は私たちが、サキサキを助けない?」
「そうね‥‥解決案があのゴミクズが考えたって事が唯一の不満ではあるけど、もうあのゴミクズはこの世界には居ないのですものね。だったら、私たちがその方法はとっても何ら問題はないわ」
雪ノ下はそう言うが、彼女の言葉の裏を返せば、自分が八幡に負けていることを認めているようなものだった。
雪ノ下本人も由比ヶ浜もその事に気づいていなかった。
サキサキこと、川崎沙希は前世では八幡、由比ヶ浜と同じクラスの同級生であり、二年生に進学した時から、彼女の生活サイクルに変化が生じた。
部活に所属していない筈なのに、家に帰ってくる時間が物凄く遅いのだ。
女子高校生なんだし、部活以外にも友人・彼氏との付き合いで遅くなることだってあるかもしれない。
しかし、川崎は八幡同様、元々人付き合いが得意な方ではないし、幅広い方ではない。
普段からは不愛想で近寄りがたい雰囲気があり、むしろ、八幡同様ボッチな女子高生だ。
彼女が何故、独神こと、平塚先生の目に止まり、奉仕部にぶち込まれなかったのか、まったく不思議である。
そんな彼女の弟、川崎大志が、ある日小町と共に八幡が居るサイゼにやってきた。
その頃、総武高校は中間テスト期間であり、サイゼには雪ノ下、由比ヶ浜、戸塚が居てテスト勉強していた。
三人と八幡が出会ったのは偶然なのだが、雪ノ下は挨拶するかのように平然と八幡に対して毒を吐いた。
八幡はそれをスルーした。
元々、八幡は三人とテスト勉強をしに来たわけではなく、夕食を食べに来ただけだった。
そこへ、小町が大志と共にきて、大志は姉の変化について相談してきた。
この時、八幡はまだ小町の事を大切にしていたので、大志に対して敵意を向けた。
渋々ながら、彼の話を聞いていると、雪ノ下が盗み聞きして首を突っ込んできた。
大志の話を聞いて、姉の帰りが遅くて心配しているというモノだった。
変化が出たのは二年生に進学してから‥‥八幡と同じクラスになったと聞いたら、雪ノ下は八幡のせいだと言ってきた。
冗談だとしても、悪質だ。
八幡が一々反論しないと思って、平気でさも当然の様に雪ノ下は彼に毒を吐く。
それは由比ヶ浜も同様だ。
話が中断したが、大志は話を続ける。
姉である川崎が帰ってくるのはなんと、午前五時‥‥
遅い何て時間ではない。
当初は八幡に相談したのに、雪ノ下が首を突っ込んで、奉仕部で川崎家の悩みを解決することになった。
翌日、奉仕部はまず、川崎が何を悩んでいるのかを掴もうとした。
葉山が協力して、川崎に声をかけ、悩みを聞こうと試みるも、彼女は葉山の言葉にも笑みにも興味を示さなかった。
普通の女子ならば、葉山の表面上の笑みでコロッと行きそうなのだが、川崎は葉山を冷たくあしらった
次に平塚先生が珍しく教師らしく、川崎に声をかけ、悩みがあれば相談に乗ると言うが、川崎から結婚関係の話を言われ、返り討ちにされた。
更にその次に雪ノ下がアニマルセラピー効果を狙って比企谷家の飼い猫、カマクラを使うも、川崎が猫アレルギーである事からこの方法も却下となった。
そんな中、川崎家に電話で『エンジェル』と名のつく店から電話があり、大志は朝帰りと言い、怪しい店からの電話と言い、もしかして、姉がいかがわしい店で何かヤバい事‥‥売春でもしているのではないかと疑い出した。
そこで、奉仕部は千葉市内にある『エンジェル』と言う名の点く店の情報を集め、材木座情報から二つヒットした。
一つ目はメイド喫茶だった。
早速行ってみると、そこに川崎の姿はなかった。
もう一つは、ホテルの最上階にあるバーだった。
そこに行ってみると、カウンターにはバーテンダー姿の川崎が居た。
早速、雪ノ下が声をかけ、川崎にバイトを辞めるように説得するが、彼女の説得は説得というよりも世間を知らないお嬢様の上から目線の命令だった。
川崎が雪ノ下の家柄について反撃すると、由比ヶ浜が噛みついてきた。
雪ノ下家は、関係ないではないかと‥‥
それならば、奉仕部も川崎家の問題に介入すべきではないと返された。
見かねた八幡が二人を先に帰らせ、川崎と話、彼女が何故、深夜のバーでバイトしているのか、その理由を突き止め、彼女が深夜のバーでバイトしなくてもいい提案をした。
彼女の悩み‥‥それは将来の学費だった。
大志はその年、中学三年生‥‥受験生と言うことで、塾に通うことになり、川崎は両親の出費の負担を心配し、自分の進学費用を自分で捻出しようとしたのだ。
そこで、八幡は川崎にスカラシップ制度を教え、川崎の依頼は解決した。
この世界には比企谷八幡と言う男子高校生は居ないが、川崎沙希と言う名の女子高生は由比ヶ浜のクラスにちゃんと存在している。
「確か、前の世界じゃあ、川崎さんの弟さんがあのゴミクズに依頼してきたのよね?」
「うん‥‥でも、この世界にはヒッキーも小町ちゃんも存在しないから、サキサキの弟くんが、依頼して来ないかも」
川崎の弟、川崎大志は今年中学三年生であり、高校生である自分たちが、大志の通う中学に行くのは不自然である。
大志の方も奉仕部の二人とは当然面識がない。
「でも、川崎さんがちゃんといるのなら、この世界でも彼女が深夜バイトをしている筈だわ‥‥」
比企谷家の全員はこの世界には存在していないが、由比ヶ浜のクラスにはちゃんと川崎が存在していることから、彼女は前世同様、深夜のバーでバイトをしている筈だと奉仕部の二人はそう決めつけていた。
「そうだね」
「私はクラスが違うから、詳しく分からないけど、まずは少し彼女の様子を見てくれるかしら?午前様なら、遅刻しているだろうから」
「うん、わかった」
奉仕部は川崎から正式に依頼されていないにも関わらず、この後世でも川崎の依頼があると確信し、動き始めた。
この後世では、前世の経験から、葉山や平塚先生に協力してもらってわざわざ川崎の悩みを聞きだす必要はなく、直接川崎のバイト先に乗り込んで、スカラシップの事を教えるつもりだった。
翌日‥‥
「それで、川崎。何か言い訳はあるか?」
「いえ、何もありません」
HRの最中、川崎が平塚先生に怒られていた。
この日の朝、川崎は、出欠確認が終わった後に教室へ入ってきた。
「それで、なんで遅刻をした?」
そこで、平塚先生が遅刻の訳を聞く。
「寝坊です」
川崎は遅刻の理由が寝坊の一言だけで済ませる。
(はぁ~‥‥今日は朝から厄日だわ~‥‥目覚まし時計は電池切れで寝坊するし、スキッパーは調子が悪いし、家を出てみると信号に捕まりまくるわ、そのせいで、けーちゃんの送りにも学校にも遅刻するし、この独神からネチネチと説教されるし、あぁ~もう最悪~)
川崎は平塚先生に『寝坊した』と一言だけ話すが、寝坊の他に自身のスキッパーの調子が悪くなったこと、赤信号につかまりまくった事、それによって、妹の保育園の送迎に時間がかかり、こうして学校に遅れてしまった。
今日は川崎にとって、厄日みたいだった。
川崎の遅刻を見て、由比ヶ浜は、
(やっぱり、サキサキ、夜遅くまでバイトしていたんだ‥‥)
この依頼の前まで、川崎の生活に意識を向けたことがなかったので、由比ヶ浜は今回の川崎の遅刻を常習なモノであり、やはり川崎はこの後世でも深夜のバーでバイトをしているのだと確信した。
そして、休み時間、由比ヶ浜は無駄だろうとは思ったが川崎に何か悩みがないか声をかける。
「ね、ねぇ、川崎さん‥‥」
「あん?なに?」
怒ってはいないのだが、川崎は不愛想な顔でぶっきらぼうに返答する。
前世ではあの三浦を言葉で撃退し、涙目にさせたほどだ。
その眼光はこの後世でも健在であった。
「あっ、いや‥その‥‥最近、何か悩みとかない?」
「は?なんでそんなこと聞くの?」
「えっ?その‥‥実は私、悩みを解決する部活に入っていて、川崎さん、何か悩みがあるなら相談に乗ろうと思って‥‥」
「いや、別にないし‥‥仮に悩みがあったとしても、同じクラスってだけで、アタシとアンタは友達でもなんでもないじゃん。それなのに、どうしてアタシの悩みをアンタに話さないといけないのさ?」
川崎から完全に拒絶され、由比ヶ浜はすごすごと引き下がる。
前世の三浦が見ていたら、由比ヶ浜に加勢して逆に川崎に言い負かされる光景が目に浮かぶが、この後世では三浦は由比ヶ浜とそこまで親しい関係ではないので、援護はしてくれない。
勿論、同じグループメンバーなのだが、葉山以外を邪魔に思っている相模も由比ヶ浜を援護することもない。
もしも、相手が八幡ならば、「ヒッキー!!マジキモイ!!」を連発してギャーギャー教室内で騒いでいただろうが、相手は八幡ではなく、同性の川崎であり、八幡と同じボッチであるが、凄みは八幡以上ある。
これ以上何かを言っても無駄だと判断した事と、八幡は何を言っても言い返さないから由比ヶ浜は、彼に平然と罵倒できるのだが、相手が川崎では何をするのか読めないから撤退したのだ。
言葉だけならばいい‥‥もしかしたら、平手打ちをされるかもしれない。
痛いのはゴメンなのだ。
(ふんだ、何だし!!あの態度!!折角、親切に私が悩みを聞いてあげようと思ったのに!!)
口では言わないが、心の中で由比ヶ浜は川崎に不満をもらしていた。
(でも、いいもん。今夜、サキサキは、私たちに感謝することになるんだから!!)
そして、今夜川崎が働いているバーで、スカラシップを教えれば、きっと川崎は自分に感謝するだろうと思っていた。
前世で川崎が働いていたバーはホテル・オオタニの最上階にあるバーで、この後世にも海上都市の一角にホテル・オオタニがあり、その最上階にバーがあることは事前の調査で判明している。
当然、前世同様ドレスコードもある。
一般家庭の由比ヶ浜はドレスなんて持っていなかったので、前世と同じく、雪ノ下から貸してもらった。
ただ、着付けを手伝っている時、由比ヶ浜の胸の部分を見て、悔しそうに顔を歪めたのも前世と同じであった。
それから、夜‥‥
ホテル・オオタニの玄関口にドレスを着飾った雪ノ下と由比ヶ浜、そしてスーツ姿の葉山の姿があった。
葉山の場合も雪ノ下家の顧問弁護士と言うことで、社交界のパーティーなどに出る機会があったので、ドレスコードに必要なスーツを持っていた。
そして、葉山はこの後世では奉仕部の一員なので、こうして二人について来た。
「おお!!葉山君、カッコイイ!!」
由比ヶ浜は、スーツ姿の葉山を褒める。
「え?そ、そうかな?」
「うん!!ヒッキーなんかよりも100倍カッコイイよ!!」
(当然だ。あんな腐れ眼の根暗野郎なんかと比較されること自体、不愉快だ)
葉山は八幡と比べられることに心外さを感じる。
「さあ、行きましょう」
「うん、そうだね」
「ああ」
三人は意気揚々とホテル・オオタニの中に入った。
そして、最上階にあるバーへと入り、カウンターに視線を向けると、そこには前世と異なり、川崎の姿はなかった。
「あれ?サキサキがいない‥‥」
「休憩かしら?」
「しばらく様子を見てみよう」
「そうね‥‥」
三人は川崎が休憩中なのか?
それともまだ店に出勤していないのか?
とりあえず、時間を潰して川崎が現れるのを待った。
しかし、いつまで待っても川崎は現れなかった。
「サキサキ出てこないね」
「やっぱり、今日はシフトに入ってないのかしら?」
三人は、今日、川崎はシフトに入っていなかったと思い、店を後にした。
それから、三人は毎夜、ホテル・オオタニのバーに出入りし、川崎を待ったが、彼女は一向に現れなかった。
ただ、三人のこの奇妙な行動は従業員たちに印象付けることとなった。
毎回、ソフトドリンクを一杯頼み、そのまま長居する三人組‥‥
しかも、本当に成人しているのかと思うほど、妙に若い。
客のプライベートになるので、不審に思いつつも従業員たちは声をかけることはなかったが、遠巻きからジッと観察するように見ていたが、三人は川崎を捜していることに集中していたので、これらの従業員たちの視線には気づかなかった。
そして、今日もカウンターには川崎の姿はない。
とうとう痺れを切らした雪ノ下は、
「ねぇ、ちょっと」
「はい?なんでしょう?」
「この店に川崎沙希って、子が働いているでしょう?」
店の従業員に川崎が働いているかと訊ねた。
「川崎沙希?いいえ、そんな名前の従業員は、当店にはおりませんが‥‥」
しかし、従業員からはこの店には川崎沙希と言う名前の従業員は居ないと言う返答が返ってきた。
(まさか、彼女、履歴書には偽名を使っていたのかしら?)
(それなら‥‥)
前世で川崎は年齢を誤魔化してバーのバイトをしていたので、年齢の他に名前も偽名でこのバーにバイトとして潜り込んだのかもしれないと思い、次に雪ノ下は従業員に川崎の特徴を話す。
「じゃあ、女性で長い髪、右目の下に泣き黒子がある女性従業員はいるでしょう?」
「えっ?右目の下に泣き黒子?うーん‥‥そんな人、居たかな?」
しかし、川崎の特徴を教えても従業員は川崎の事を知らないみたいだ。
女性ならともかく、右目の下に泣き黒子なんて、印象的な特徴であり、そう何人もいるようにも思えない。
雪ノ下はこの従業員がとぼけているのかと思い、
「貴方、とぼけるのはいい加減にしなさい!!此処に居る筈よ!!今日は来てないの!?それなら、彼女のシフトを教えなさい!!」
あれから何度来ても、川崎と出会えないことから、雪ノ下はもう従業員に川崎のシフトを聞いてその日に来た方が早いと思ったのだ。
「ちょっと、お客様、落ち着いてください」
雪ノ下は従業員に掴みかかる。
「そうだし!!さっさとサキサキを出すし!!」
すると、由比ヶ浜も雪ノ下に便乗して声を荒げ、従業員に噛みつく。
「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて」
周囲の目を気にした葉山が二人と止めるも、二人は止まらない。
「お客様、他のお客様のご迷惑になります」
「だったら、彼女のシフトを言いなさい!!」
「ですから、当店にはそのような従業員はおりません!!」
「とぼけるなし!!」
バーの利用客も二人の金切り声と従業員に噛みついている行動を見て、ザワザワと騒ぎ出す。
やがて、酔っ払いの絡みだと思われ、他の利用客から警察を呼ばれてしまった。
雪ノ下と由比ヶ浜の二人が大人しくなったのは、バーに駆けつけた制服姿の警官たちを見てからだった。
逃げようとしても既に従業員と警官に囲まれ、逃げるに逃げることも出来なかった。
葉山もここで逃げてはこの後の雪ノ下家との関係を考え逃げるに逃げられなかった。
そして、三人はパトカーに乗せられ、警察署へと連行された。
その時の三人の顔色は真っ青であり、小刻みに震えていた。
警察署で取り調べを受けた結果、三人が高校二年生‥未成年だと言うことも突き止められてしまった。
このままこの事実が学校に知られたら退学処分をくらうかもしれない。
絶体絶命のピンチの中、葉山の父親である葉山弁護士が警察署に来て、警官らと何やら話すと、すんなりと釈放された。
葉山弁護士と警察との間に何があったのか、分からないが学校側からも何の処分も受けなかったが、三人は当然、親から長々と説教を受けた。
それから、ある日の放課後‥‥
川崎が下校しようと昇降口に来た時、
「ちょっと!!川崎さん!!」
川崎は誰かに呼び止められた。
「ん?」
川崎が、声がした方を見ると、そこには不機嫌そうな顔の雪ノ下と由比ヶ浜が居た。
「由比ヶ浜と‥‥誰?」
由比ヶ浜は同じクラスであり、なおかつこの前声をかけてきたので知っていたが、雪ノ下の事は知らない様子。
「まったく、あの粗暴な猿と言い貴女もなの?」
三浦に次ぎ、川崎も二学年の首席である自分の事を知らなかった事実に雪ノ下の不快指数は上昇する。
なお、葉山はサッカー部の部活動があるので、この場には居ない。
「それで、何の用?私、もう帰りたいんだけど?」
「貴女、深夜のバーでバイトしているでしょう!?」
「はぁ?アンタ、何言っているの?」
「とぼけないで!!私たちは知っているのよ!?」
「そうだし!!サキサキ、年を誤魔化して夜のお店でバイトしているでしょう!!」
「だから、何訳の分からないこと言っているの?私、バイト何てやってないし」
川崎はあくまでも深夜のバーでバイトなんてしていないなんて言う。
「そんな筈ないわ!!ホテル・オオタニの最上階にある『エンジェルラダー』ってバーで働いているのを知っているのよ!!」
「だから、知らないって言っているでしょう!?」
三人が言い合っている場所は、昇降口であり、大勢の生徒が出入りしている。
当然、この三人の口論も大勢の生徒に目撃され、教師に通報された。
「こら!!そこで、何を騒いでいる!?」
三人は、職員室に連れていかれた。
川崎にとっては今日も厄日であった。
「それで、何を騒いでいた?」
職員室にて、教師が昇降口の騒動の発端を訊ねてくる。
「この二人が、突然、私が深夜のバーでバイトしているって、騒ぎ出して‥‥」
「‥‥川崎、君は本当に深夜のバーでアルバイトをしているのか?」
「していません」
「嘘おっしゃい!!」
「そうだし!!サキサキ、嘘言うなし!!」
「じゃあ、その店に確かめたの?私がそこで働いているのを見たの!?」
「そ、それは‥‥」
「た、確かに私たちが行った時は居なかったけど‥‥でも、サキサキは、あのホテルのバーでバイトしている筈だし!!」
このままでは埒が明かない水掛け論になるので、教師がエンジェルラダーに電話を入れ確認した。
その結果、川崎の潔白が証明された一方、雪ノ下と由比ヶ浜があのバーで騒いだことが学校側に知られてしまった。
雪ノ下と由比ヶ浜はそのまま職員室から生徒指導室へ移動し、そこで教頭先生、学年主任の先生からお説教を受ける羽目になった。
このまま二人は停学か退学になるかと思いきや、またもや先日の様に葉山弁護士が来て、先生たちと何やら話し込むと、不思議と二人には何の処分も課せられなかった。
ただ、後日の調査により、この時期、千葉県警、エンジェルラダー、総武高校に雪ノ下建設から多額の寄付が振り込まれていたことが判明した‥‥
そして、前世と異なり、川崎が深夜のバーでバイトをしていなかった理由‥‥
それは、この後世の川崎家の環境が前世と異なっていたのだ。
川崎家の家族構成は前世と同じであったが、違うのは、川崎の父親の職業が前世では平凡なサラリーマンであったが、この後世では外国航路の船の船長であり、前世の川崎家の収入と比べると、後世川崎家の収入は大幅に上がっており、川崎は弟が塾へ行っても自身の進学の為の学費を心配することがなかったのだ。
当然その事実を雪ノ下たちは知らなかった‥‥