やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

95 / 161
94話

 

横須賀女子で中間テストが終わり、テスト休みになった頃、すき焼きパーティーでシュテルが言ったように、学校側からRat事件の詳細報告を提出せよと明乃とシュテルは指示を受けた。

 

「うぅ~やっぱり来た‥‥」

 

「シューちゃんの言った通りになったね」

 

「まぁ、予想の範囲だったけどね‥‥」

 

その指示を受け、明乃は顔を青くし、もえか、シュテルの三人の姿は、横須賀女子の図書室にある過去の航海の資料や報告書が置かれている区画に居た。

テーブルの上には過去の航海資料、辞書、海図、晴風とヒンデンブルクの航海日誌、レポート用紙に筆記用具があり、明乃は少し憔悴していた。

本人が言っていたように、彼女は書類仕事が本当に苦手で、報告書の文章の文字遣いが変だったり、誤字脱字が多々あった。

そこをシュテルともえかが補正したりして、手伝っていた。

 

「うぅ~うぅ~うぅ~‥‥うわぁぁぁぁぁぁー!!分かんなくなってきたよぉ~!!」

 

「うわっ!?」

 

「ミケちゃん!?」

 

明乃はついに発狂した。

 

「ちょっ、落ち着いて、ミケちゃん!!」

 

いきなり発狂した明乃を宥めるシュテル。

 

「書類仕事は苦手なんだよぉ~!!」

 

「それは、分かったから‥‥でも、ブルーマーメイドになっても書類仕事は常に付きまとうから、学生の内に苦手な部分を克服しないと」

 

「ミケちゃん、私の方は量が少ないから、私の報告書が終わったら、手伝ってあげるから、頑張ろう。ねっ?」

 

もえかの方は途中で保護されたので、明乃やシュテルの報告書よりも量が少ないし、彼女は容量よく片付けているので、三人の中で一番進んでいる。

 

「はぁ~‥‥他の皆はテストが終わってお休みなのに‥‥この書類仕事はいつまで続くのぉ~?」

 

明乃はテーブルの上に置かれている書類の山を恨むように見つめる。

 

「仕事は、この山が片付くまで続くよ‥‥残念ながら」

 

シュテルは明乃に辛い現実を突きつける。

しかし、現実逃避をしていてもこの書類の山は片付かない。

 

「うぅ~でも、疲れたよぉ~」

 

「でも、着実に片付いているよ。もうちょっとだから頑張ろう?」

 

「そうだね、このペースなら、今日中に片付くかもね。それが終わったら、ミケちゃんにもテスト休みが待っているよ」

 

このままのペースを維持できれば、今日中には片付き、明日からはこの書類仕事から解放され、残りわずかであるが、テスト休みを過ごすことが出来る。

もうひと頑張りしようとした時、

 

「こんにちは」

 

「あっ、優衣ちゃん」

 

間宮艦長の藤田が三人の下にやって来た。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと差し入れにね。中間テストの後も書類仕事で大変だって聞いたから‥‥」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

「と言うわけで、一休みしない?」

 

藤田は三人に休憩を提案してきた。

間宮の艦長なだけに、用意された差し入れもきっと美味しいお菓子を作ってくれただろう。

しかし、まだまだ書類仕事は沢山残っている。

藤田の提案はまさに天使の様な悪魔の囁きであった。

シュテルはどうしようかと悩む。

お菓子はなかったが、ついさっき、一休みしたばかり‥‥

だが、シュテルが決断を下す前に、

 

「わーい!!しよう、しよう!!」

 

明乃は藤田の提案を受け入れる気満々であった。

 

「いや、でも‥‥ミケちゃん、今ここで大休止すると、残りの仕事が‥‥」

 

「えぇーだって‥‥」

 

シュテルはペースを崩すと今日中に終わらないのではないかと危惧するが、

 

「まぁ、まぁ、ちょっとだけだから‥‥」

 

「シューちゃんも疲れたでしょう?」

 

「一休み、一休み」

 

藤田、もえか、明乃の三人が怪しげな笑みを浮かべながら、シュテルに迫ってくる。

明乃の他にもえかも疲れていたみたいだ。

 

「うぅ~‥‥休憩してもいいけど、後で大変になるのは、ミケちゃん本人なんだからね」

 

「シューちゃんからもOK出たし、行こう!!」

 

「それじゃあ、外に行きましょう。此処、飲食禁止だし」

 

「やれやれ‥‥」

 

こうして、一行は図書室から藤田が茶菓子を用意した外へと出た。

 

「んん~‥‥やっぱり、海はいいなぁ~」

 

海が見える展望スペースで明乃は思いっきり背伸びをして、海風を感じている。

 

「海は普段見慣れている気もするけど‥‥?」

 

「でも、最近は室内ばかりじゃん」

 

「まぁ、そうだけど‥‥」

 

確かに明乃の言う通り、最近は図書室にこもりっぱなしで、海を眺める時間は極端に減っている。

 

「お茶入ったわよ」

 

そこへ、藤田がお茶会の準備が出来たことを告げ、席へと向かう。

テーブルには紅茶とカステラ、チョコ菓子が置かれていた。

 

「美味しそう‥‥」

 

「流石、間宮の艦長‥‥」

 

「あれ?そう言えば、今日は珊瑚ちゃんと一緒じゃないの?」

 

自分がもえかや真白と一緒に過ごす時間が長いように、藤田と珊瑚は常にセットだと思っていたので、今この場で珊瑚が居ないことに意外性を感じたので、明乃は藤田に聞いてみたのだ。

 

「あはは、別にいつも一緒にいる訳じゃないのよ。お互い別の艦の艦長だしね」

 

仲が良いと言っても、藤田は間宮の艦長、珊瑚は明石の艦長なので、普段から常に一緒に居るわけではない。

 

「まぁ、珊瑚は後から来るって言っていたけど、先に野暮用があるんですって」

 

藤田は紅茶が入ったカップに口をつけ、後から珊瑚が来ることを告げる。

 

「そうなんだ」

 

一緒に行動はしていないが、やはりこの後、珊瑚は此処に来るみたいだ。

 

「藤田さんも杉本さんとも付き合いが長いの?」

 

もえかは藤田に珊瑚との付き合いを訊ねる。

 

「ん?そうねぇ‥‥中学からの付き合いだから、そこまで長いってこともないかしら?中学もお互いに別の学校だったし‥‥」

 

藤田と珊瑚の二人の中学はお互いに別々の中学だったが、何らかの交流があり、知り合っていたみたいだ。

 

「でも、私が間宮に乗るきっかけを作ったのが、珊瑚だったから、影響は強いかも」

 

「「「へぇ~」」」

 

「じゃあ、二人とも同じ学校に入学出来て良かったね。私も中学は、もかちゃんと離れ離れになっちゃったから、高校でまた一緒になれて本当に嬉しかったもん」

 

「私は、小、中、高‥‥というか、普段、住んでいる国さえ違うから、こうしてミケちゃんともかちゃんと出会えて嬉しいよ」

 

「そうだね」

 

「それに晴風の皆と一緒になれたことも嬉しいかな」

 

「あっ、そう言えば、海洋実習でお世話になった平賀さんだけど、あの人も学生の頃はミケちゃんみたいな艦長さんだったらしいよ。それにスキッパーの運転も上手だって‥‥」

 

「へぇ~ミケちゃん一号‥いや、向こうが先輩だから、ミケちゃんが平賀さん二号になるのかな?」

 

もえかがブルーマーメイド隊員の平賀も横須賀女子のOGであり、彼女が学生時代は明乃そっくりな艦長だったと聞いた。

多分、駿河を横須賀に曳航する途中で、ブルーマーメイドの隊員から聞いたのだろう。

 

「うーん、横女の伝統なのかしら?」

 

「類は友を呼ぶのかな?」

 

「じゃあ、私もブルーマーメイドになれるね!!」

 

自分と似た平賀がブルーマーメイドになれたのだから、きっと自分もブルーマーメイドになれるだろうと自信を点ける明乃。

 

「あはははははは」

 

明乃の理屈に思わず爆笑する藤田。

 

「そんなに笑わなくても‥‥」

 

「あはは、ごめん、ごめん」

 

爆笑した藤田に対して涙目で傷つく明乃。

 

そこへ、

 

「盛り上がっているようだねー」

 

「あら?珊瑚、早かったわね」

 

そこに、珊瑚が合流した。

 

「そう?まぁ野暮用だからねぇ~」

 

「こんにちは珊瑚ちゃん」

 

「やあやあ、晴風艦長、駿河艦長、ヒンデンブルク艦長。なんか、実習とテストが終わったのに、色々と大変そうだね」

 

「まぁ、予想はしていたけどね」

 

シュテルはテストの前からあの事件の報告書を出せと言われるのではないかと既に予測していたので、テスト後も報告書の準備はしていた。

 

「まぁー困ったことがあれば何でも言ってくれたまえよー‥‥よっこいしょっ‥‥」

 

「ちょっと!!」

 

珊瑚はそう言って何故か藤田の膝の上に座る。

 

「珊瑚。なんで、私の膝の上に座るのよ!?」

 

「だって、優衣が私の椅子を用意してくれないだもん」

 

確かにこの後、珊瑚が来ることを知っていたのだが、彼女の分の椅子を用意し忘れたのは藤田のミスだった。

 

(赤道祭でやった二人羽織の時もそうだけど、凸凹コンビだな‥‥)

 

二人のやり取りを見て、シュテルはそう思った。

 

「足が痺れる‥‥」

 

「二人とも仲良いね」

 

明乃も二人の様子を見て、二人の仲が良いと言う。

 

「折角だから、ヒンデンブルク艦長のヴァイオリン演奏を聞きたかったが、さすがに今は無理かな?」

 

以前、珊瑚からお茶会の際、ヴァイオリンの演奏を頼まれたシュテルであったが、

 

「今日は突然のお誘いだからね、ヴァイオリンを持ってきてなくて‥‥日取りを決めてくれたらその日に持ってきますよ」

 

シュテルは日取りを決めたお茶会の日ならば、ヴァイオリンの生演奏をすると約束した。

 

「さて、ミケちゃん。そろそろ、戻らないと、明日も書類仕事になっちゃうよ」

 

今度はシュテルが怪しげな笑みを浮かべて明乃を再び図書室に誘う。

 

「ヒエエエエエッー!!」

 

明乃はシュテルの手によって連行されていく。

 

「えーっと‥‥それじゃあ、私も行かないと‥‥ご馳走でした」

 

「え、えぇ、そうね。またお茶会をしましょう」

 

明乃がシュテルの手によって連行されていくのを見て、もえかも二人を手伝わなければならないので、藤田に礼を言って、二人の後を追う。

 

「あの三人も仲が良いねぇ~」

 

図書室に戻って行くシュテル、明乃、もえかの後ろ姿を見て、珊瑚がポツリと呟く。

 

「そうね‥‥それよりそろそろ、空いたイスに移動してもらいたいんだけど‥‥」

 

三人が図書室に戻ったので、イスは空いているのだが、珊瑚は未だに藤田の膝の上から動こうとはしない。

 

「んー‥‥なんか、座り心地いいし、このままでいいよ~」

 

「私が良くないの!!」

 

珊瑚はこのまま、藤田の膝の上で良いと言うが、彼女が上に乗っていることで、圧迫され、足の血流が悪くなり、段々と足の感覚がなくなってくるほど、痺れてきた。

 

きっとお茶会が終わり、一歩踏み出す時、藤田の足には電気が流れるような痺れが襲うことになるだろう。

 

そして、図書室に戻った三人はと言うと‥‥

 

「ミケちゃんもう少しだから、頑張って!!」

 

「ヒエエエエエッー!!」

 

「終わらせてからお茶にした方が良かったかもね」

 

案の定、明乃が悲鳴をあげていた。

 

しかし、そこから休憩なしの怒涛の巻き上げのおかげか、完全下校の少し前に報告書を書き上げることが出来、テスト休みを全て潰す事態はなんとか回避することが出来た明乃だった。

 

 

翌日‥‥

 

 

横須賀女子の中間テスト後のテスト休み‥‥

 

シュテルと明乃は、Rat事件の報告書制作の為、そのほとんどを図書室で過ごし、もえかも二人の手伝いとして、図書室に詰めていた。

 

このままテスト休みすべてが報告書の制作で終わってしまうのかと思いきや、何とか休みを残して、報告書の制作を終えることが出来た。

 

元々、書類仕事が大の苦手な明乃は報告書の制作終了後、真っ白に燃え尽きていた。

残りのわずかではあるが、テスト休みで十分に英気を養ってもらいたいものである。

 

シュテルの方は、この日は市街地ではなく、港に来た。

 

(この前のゴールデンウイークには、市街地に行ったら、晴風の副長の誘拐現場に出くわしたからな‥‥今回は、人気の少ない所にくれば、事件に巻き込まれないよな‥‥)

 

人が少なければ、自分が事件などのアクシデントに巻き込まれないだろうと思ったのだ。

 

「ん?あれは‥‥」

 

港の防波堤に見慣れた人影があった。

 

「知床さん」

 

「あっ、碇艦長」

 

防波堤に座っていたのは、晴風航海長の鈴だった。

 

「んー‥シュテルでいいよ。岬艦長と知名艦長は、私の事を『シューちゃん』って呼んでいるし、クラスメイトは『シュテルン』って呼んでいるし」

 

「じゃ、じゃあ、シュテルさんで‥‥あっ、私の事も鈴でいいです」

 

シュテルは鈴の隣に座る。

 

「釣り‥やっているんだ‥‥」

 

「うん」

 

「意外な趣味だね」

 

鈴にしては釣りと言うアウトドアスポーツとは、あまりイメージが沸かず、こうして鈴が釣りをしているのはとても意外に見える。

 

「あっ、いや、そういう訳ではなくて‥‥」

 

「?」

 

「その‥私もついさっき、ここを通りかかっただけなんだけど、その時、マロンちゃん‥‥あっ、晴風の機関長なんだけど‥‥」

 

「知っているよ。赤道祭で実行委員をしていた人でしょう?」

 

「うん。それで、そのマロンちゃんが、釣りをしていたんだけど、おトイレに行きたいから少し変わってくれって言われて‥‥」

 

「なるほど‥‥」

 

鈴は自分で釣りをしているわけではなく、シュテル同様、この辺を散歩している時、柳原がトイレに行きたいので、その間だけ、釣り竿を見ていてくれと頼んで、柳原本人はトイレに向かったと言う。

 

特に何処かへ行く予定もないので、シュテルは鈴と共に海を見ながら柳原を待った。

 

「あっ、赤道祭と言えば、副長さんと砲雷長さんのマジック、凄かったです!!それに、砲雷長さんの声を聞いて、びっくりしました」

 

「ウチのクラスメイトも鈴さんの声を聞いて驚いていたよ。あの二人のマジックは、本当にどうやっていたのか、ホント謎だった‥‥それに、あんなに沢山の衣装を用意していた明石の乗員もね‥‥」

 

「えっ?あの衣装、明石の人が用意したんですか?」

 

「話を聞く限り、私たちの舞台衣装も、イリュージョンマジックに使った制服も全部、明石の人が用意したみたい。ホント、なんで乗艦している艦にあんなに沢山の衣装を積んでいたんだろう?」

 

「へぇ~‥‥」

 

「あっ、赤道祭と言えば、鈴さんが出ていたあの舞台も面白かったよ」

 

「あっ、どうも‥‥」

 

「それに、舞台に立っていた鈴さん、とっても生き生きしているように見えたよ」

 

「えっ?えええっー!!」

 

あの演劇の感想を言われて驚いている鈴。

本人は、舞台に立っている時、特に意識しておらず、あの舞台に立っていたみたいだ。

 

「鈴さん、もしかして、舞台女優としての才能があるんじゃないかな?」

 

「えええっー!!そ、そんなことないですよ!!」

 

あの舞台を見る限り、鈴には舞台女優としての才能があるかもしれないとシュテルはそう言うが、鈴は思いっきりソレを否定していた。

 

それから暫くは、釣り糸に魚がかかることなく、二人は海を眺めていた。

 

(うーん、マロンちゃん遅いなぁ~‥‥)

 

トイレに行った柳原がなかなか戻ってこない。

 

トイレが近くになかったのか?

 

それとも女子トイレが混んでいるのか?

 

用足しが小ではない方なのか?

 

そう思いながら、柳原を待つ鈴。

シュテルも鈴もこの後、特にこの後、予定が有る訳でもないので、のんびりと海を見ながら柳原を待っていると、

 

(釣りか‥‥そう言えば、四国沖で買い出し組を待っている間の事を思い出すなぁ~‥‥)

 

横須賀に戻る途中、トイレットペーパーが無くなり、選抜した同級生たちが四国沖の海上ショッピングモールにトイレットペーパーを買い出しに行っている間、シュテルはジークと釣りとしていた。

今、シュテルはその時の事を思い出した。

 

「ねぇ、鈴さん」

 

「はい?」

 

「鈴さんは、アザラシって漢字で書くと、どうやって書くか知っている?」

 

「あ、アザラシ‥‥?」

 

「うん、そう」

 

「えっと‥‥確か、海に豹‥‥でしたっけ?」

 

「正解。じゃあ、イルカは?」

 

「イルカは、海に豚ですよね?」

 

「正解、鈴さん、やるねぇ」

 

「う、海に関する動物も好きなので、その動物の字とかも調べていたので‥‥」

 

「でも、豚は豚でも、同じ海に住んでいるのに、どうしてフグは河の豚って書くんだろう?」

 

「あぁ~確かに私もそう思った事あります」

 

鈴とそんな雑学みたいなことを話していても柳原はまだ戻ってこない。

すると、柳原ではなく、

 

「リンちゃん?‥‥と、ドイツ艦の艦長さん?」

 

「ん?」

 

「あっ、ココちゃん」

 

納沙がやって来た。

 

「お散歩していたら姿が見えたので‥‥意外な組み合わせに、リンちゃんが釣りだなんて意外な趣味ですね」

 

「あっ、そういう訳じゃなくて‥‥」

 

「趣味ではないとすると‥‥はっ!? 『両親から仕送りを止められ、食うに困った私は残った所持金を握りしめ釣具屋へ向かった‥‥おお――――っこれは、いい釣り竿だぁー!!これで食料の心配はなぁい!!釣って、釣って釣り三昧!!海が枯渇するまで海の幸を堪能してやぅ――――ッ!!』‥‥みたいなことがあったんですね!?」

 

納沙は目を輝かせながら、鈴が此処で釣りをしている訳を一人芝居でやりながら訊ねる。

 

(あまりにも荒唐無稽過ぎないか?その設定‥‥)

 

シュテルは納沙の一人芝居の内容は無茶設定があるのではないかとツッコム。

 

(親の仕送りが止められるってのは、シャレにならないけどな‥‥)

 

前世では、よく学費を支払ってもらえたとその点においては不思議だった。

 

「ココちゃん相変わらず元気だね。えっと、ついさっき‥‥」

 

シュテルが心の中で、いろんなことを思っていると、鈴が納沙にこの場で釣りをしている訳を納沙に話す。

 

「あっ、よく見たら、釣り糸が海の中に入っていない!!」

 

釣り糸はギリギリ海面から浮いており、いくら待っても魚が来ない訳だ。

 

「だ、だって、釣れちゃったらどうしていいか、分からないし‥‥」

 

もし、釣り針に魚が食いついたら、どう対処していいのか、釣り素人である鈴は分からなかったので、鈴は海面ギリギリで釣り針を垂らしていた。

しかもその釣り針に餌も付いていなかった。

納沙もその場に座り、三人は何かをする訳でもなく、会話もせず海を見ていた。

 

「「「‥‥」」」

 

ミァア、ミァア、ミァア

 

ザザァーン ザザァーン ザザァーン

 

空にはウミネコの声がして、下からは防波堤にぶつかる波の音がする‥‥

雲はあるが、決して雨雲ではなく入道雲のような雲で、気温もポカポカと温かい。

横になればそのまま寝てしまいそうだ。

 

「「‥‥」」

 

鈴とシュテルが、海を眺めていると、

 

「暇じゃないですか?」

 

すると、納沙が暇じゃないかと鈴とシュテルに聞いてくる。

 

「私、海眺めているのが好きだから楽しいよ」

 

「同じく」

 

鈴はシュテルも何もすることもなく、海を眺めているのが好きなので、別に暇ではない。

 

「ふーん‥‥」

 

それからまた三人で海を眺めていると、

 

「‥‥あっ、リンちゃんの足元にフナムシが」

 

「ぴぇぇぇーっ!?」

 

「うわっ!?」

 

納沙が鈴の足元にフナムシが寄ってきたことを告げると、鈴は悲鳴を上げ、シュテルは彼女の悲鳴を聞きビックリする。

 

「えへへ、冗談です」

 

「うぅぅ~ビックリした」

 

「それはこっちのセリフだよ」

 

暇だった納沙が鈴をからかう為に足元にフナムシが居ると言ったみたいだ。

 

「そう言えば、ココちゃんは何していたの?」

 

鈴は納沙に休日である今日の予定を訊ねる。

 

「私ですか?うーん‥‥私も別に‥‥シロちゃんもミーちゃんも今日は用事があるみたいなので、一人ぶらり旅をしていました」

 

「そうなんだ‥‥えっと、じゃあ、この後一緒に出掛けない?シュテルさんも」

 

「えっ?」

 

「私は別にいいよ」

 

鈴は柳原が戻ってきたら、三人でどこかに行かないかと提案する。

シュテルはそれを了承したが、誘われた納沙はキョトンとしている。

 

「ホント?じつは、この前、気になるお店見つけたんだけど、一人で入るのは寂しくて‥‥」

 

「なるほど」

 

「はぁ?‥‥でも、私と行かなくてもいいのでは?実際にドイツ艦の艦長さんが行ってくれるみたいですし」

 

「「えええっー!!」」

 

シュテルはあっさりと了承したが、納沙はシュテルも行くのであれば、別に自分が鈴と一緒に行く必要はないだろうと言う。

納沙の返答に鈴もシュテルも驚いた。

別に今日の予定がないのであれば、鈴と一緒に行動しても別に差し支えはない筈なのに‥‥

 

「いや、リンちゃんは他にも沢山友達が居るじゃないですか。艦長とか誘ってみたらどうです?仲が良いみたいですし」

 

鈴は明乃や他の航海科のクラスメイトとは意外と仲が良い。

その為、高校入学から交友関係は広がりつつある。

 

「岬さんなんか疲れているみたいで‥‥」

 

「あぁ~、ミケちゃん昨日まで図書室に缶詰めになって、しかも苦手な書類仕事をずっとやっていたからね」

 

シュテルは明乃が着かれている理由を鈴と納沙に教える。

 

「図書室?缶詰め?」

 

「何かあったんですか?中間テストの結果が悪かったとか?」

 

「いや、晴風の艦長として、Rat事件の報告書の提出を学校から求められて、その報告書を書いていたからね。でも、本当に一緒に来ないの?」

 

シュテルは納沙に本当にこの後、一緒に来ないのかと訊ねる。

 

「そうだよ。ココちゃんだって、友達だし‥‥」

 

「えええっ!?」

 

「「えっ?」」

 

鈴からの友達発言に納沙が驚く。

そんな納沙のリアクションに鈴とシュテルも戸惑う。

 

ザザァーン‥‥

 

「「「‥‥」」」

 

波音しかしない中、三人は無言になる。

やがて、

 

「リンちゃん‥‥私たち友達になるようなイベントありましたっけ?」

 

納沙は自分と鈴は友人関係なのかと問うてくる。

 

「えええーっ!!」

 

「ココちゃん、あれだけ一緒に居たのにまだ友達と思ってなかったんだね?ハードル高すぎるよ」

 

あれだけの航海を通じてなお、友人関係ではないという納沙にシュテルも鈴も驚きっぱなしだ。

 

(この人、天然なのか?それとも不器用なのか?)

 

シュテルは前世で二回、雪ノ下に 『友達にならないか?』 と言ったが、両方とも断られたことがある。

あれは、正直、天然でも不器用でもなく、本気で自分と友達になんてなりたくないと言う雰囲気があったが、納沙の場合、雪ノ下とは違い、素で困惑しているように見える。

 

「あ、あの‥‥」

 

「なんですか?」

 

「失礼を承知で聞くけど、貴女、もしかして、小、中と友人は少なかったんじゃないかな?」

 

「そうですねぇ~‥‥確かにほとんど、一人で過ごしていました」

 

(この人、小町と同じハイブリッドボッチか!?)

 

小町も一見、人付き合いが広いように見えて、実際は親友と呼べる存在は居なかった。

高校受験で失敗した後、見舞いや電話、メールは来たが、そのどれにも対応せず、また同級生たちも見舞いに来たのも、電話やメールを入れたのも一回きりであった。

連絡してきた級友もあくまでも社交辞令みたいなものだったのだろう。

小町自身もこれまでの人生の中で、兄である八幡が他人を信じて裏切られて、そして家族にすら蔑ろにされていく様を見て育った為、心の何処かで他人のことを信じることができなかったのかもしれない。

 

納沙も自身の特殊な趣味が影響したのかもしれないが、与えられた役割など、表面上は淡々とこなし、普通に人付き合いをしているように思えるが、心の中では他人をあまり信用していないのかもしれない。

その結果、友人のいない寂しい環境の打開策として一人芝居をよくやっているのだろう。

 

「だ、ダメだよ!!そんなの!?」

 

このままでは彼女も小町みたいに捻くれてしまう。

もう、小町に会うことは出来ないだろうが、ハイブリッドボッチの小町の末路はなんとなく予測は出来る。

 

きっと、伴侶になる人を見つけることができない。

 

大志が小町の事を意識していたが、仮に彼が伴侶となっても恐らく長くは持たないだろう。

 

だからこそ家族を持つことができない。

 

小町は将来きっと家族や恋人を作れずに独りで生涯を終えるだろう。

 

「ミケちゃ‥‥岬艦長もよく言っていたでしょう?『海の仲間は家族だって‥‥』 今はまだ慣れないかもしれないし、困惑するかもしれないけど、晴風のクラスメイトはきっと、貴女の良き友人になれるから!!」

 

納沙の肩をガシッと掴み、諭すシュテル。

 

「「えっ?えっ?」」

 

シュテルの豹変に肩を掴まれている納沙は兎も角、鈴も困惑していた。

 

「ふぅ~思ったよりも時間がかかっちまった‥‥航海長にはわりぃことしちまったなぁ~‥‥」

 

そこへ、柳原が戻ってきた。

 

「ん?な、なんでぃ、なんでぃ、一体何があったんだ?」

 

柳原が見たのは、真剣な表情のシュテルが納沙の肩を掴んでいる姿とそれを見て、困惑する鈴の姿だった。

 

その後、何の予定もなかった納沙は、シュテルの勧めで、シュテルと鈴の二人と共に出かけた。

彼女の交友関係がこれを機に広がってくれることを祈るシュテルだった。

 

後日、伊良子がドラマ・映画が好きだと聞いた納沙は早速、伊良子と友人になろうと自分が好きな任侠映画を見せたりと彼女なりに積極的に動いていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。