「おーい、シスターッ!頑張れよォーッ!」
クリアリングによって
ヨグ=ソトースの落とし子が発見された旧唐館総合病院へと潜入した一同は、機械的に改造された人間の成れの果てや三合会の邪教徒など、明らかにただの廃病院には似つかわしくない背徳者達と遭遇しながらも、順調に奥へと進んでいた。
その途中にあった扉の奥より強い魔力の気配を感じた為、ユーリヤと解説役の蓮だけが先を確認しに行く事となり、政次郎と十三は後方からの追撃に備えて外で待機する事となった。
「
「ええ、任せておいて下さい!」
「あの、私の心配は?」
何やら聞こえない程小さな言葉を漏らしている蓮を内心心配しながらも、奥に潜む魔の気配を断つべくユーリヤは目の前の扉を開く。
扉を開いた先には、大量の武装した邪教徒に囲まれた白衣の禿頭の男が待っていた。
「ようこそ、儂の研究施設へ。何かお探しかね?」
「貴方がここの主って訳――」
「人の尊厳と魂、そして偉大なる現代人族の誇りを穢す者よ!この場にて、汝に鉄槌を下します!」
「ちょ」
医師というには余りにも濁った瞳を、似合わぬサングラスで隠した禿頭――施術師キュイネスがユーリヤと蓮を歓迎するも、ユーリヤにとって背徳者と言葉を交わす義理は無い。
世界支配民族の一員でありながら邪教と関わり、理を外れたその罪は重い。現代人族の面汚しである目の前の禿頭の頂点へ鉄槌を振り降ろす為、ユーリヤは戦闘態勢を取った。
「……少々予想外の反応だが、ま、構わんよ。質の良い被検体が二人も確保出来るのだ、ありがたくいただかせてもらおう」
「えっ、ちょっ……え、えーと、真魚ちゃんの分も含めて貴方の研究は――」
「覚悟ッ!!」
蓮が急いで台本を確認していると、ユーリヤが背負う鉄槌の柄へ手をかける。
邪教徒達は雇い主であるキュイネスを守るように前へ立つと同時に、それぞれの持つ銃火器――アサルトライフルやグレネードランチャー、ガス噴射器など多様なもの――をユーリヤへと向けた。
「まずはあのシスター女郎を血祭りだ!」
「”破魔”は一度に三発しか放てないはずッ!」
「一斉に距離を取って射撃すれば問題ないッ!ブッ殺してやるッ!!」
それまでの交戦歴から、黒丘会の邪教徒達にはシスターの技――即ち、破魔を始めとする数々の退魔術についての性質が知れ渡っていた。
本来無敵であり最強退魔術である神の御業も万能では無く、対策を取りさえすればそれは一つの”攻撃”に過ぎない。
どの様に放たれるのか、どの様な力を持つのか、どの様な射程を持つのか。それさえ理解してしまえば、いかなる攻撃からも身を護る事は容易だ。
「――無識な
「ランダムターゲットの術技が無敵とか最強とか、笑える国だなロシアはーッ!!」
ユーリヤは鉄槌へと伸ばしていた手を引き、自身の腰に回す。
既に邪教徒達の狙いはユーリヤの頭・胴・脚・腕を捉えており、退魔術の構えを取るよりも先に射撃が完了する状態にあった。
少しでも怪しげな構えを取り足を止めれば、その瞬間がユーリヤの最期となる。勝利の未来を確信した邪教徒達は、目の前の退魔師を嘲笑った。
「退魔術・破魔はもはや単なる”三回攻撃”ではありません――”全体攻撃”です!」
ユーリヤは腰に回していた手に鉄槌以外の何かを持ち、腰溜めにそれを構えた。
「破魔・ ソビエト赤軍ソ連邦英雄式――ッ!!」
ユーリヤは構えたアサルトライフル――AK-47
不意を突かれた邪教徒達は一瞬にして退魔の銃弾によって貫かれ、邪教に堕ちた体に風穴を開けられながら吹き飛ばされていく。自身が何の退魔術を使われたかも理解出来ぬまま、邪教徒達は愚かな生を終えていった。
「!?」
いきなりの発砲に面を食らったキュイネスは、目の前の光景に目を疑う。
馬鹿な。退魔術とは、破邪の光を投射する魔術の筈。であるのにも関わらず――目の前のシスターは、普通に近代火器を使用しているではないか。
「
解説役の蓮がここぞとばかりにユーリヤの退魔術の解説をその心中にて始める。
スプレーアンドプレイ。銃器の扱いに慣れぬ者が、その銃弾に対し神への祈りを捧げながらフルオート射撃を行う、古来より伝わる立派な退魔術の一つだ。
祈りがそのまま銃弾と成るその性質上、魔術に対しての対抗策を持つ相手であっても防弾チョッキが無ければ致命的な致命傷を与える事が出来る――即ち、
この魔術の存在によって「破魔は魔術、魔術耐性持ちの邪教徒には半減」とする邪教徒側の主張は完全に破綻した。
「劣等
「ぐうっ……!勝負、あったか……!覚えて、いろ……!」
「あ、ちょ、待ちなさッ――」
ワンマガジンを撃ち切りその場全ての邪教徒へ神の威光(物理)を示したユーリヤの弾丸はキュイネスをも貫いていた。
致命傷を負ったキュイネスは捨て台詞を吐きながらも、その体を少しずつ灰に変え、瞬間退場のエフェクト的な魔術によってその場を離れていく。
見覚えのあるF.E.A.R式魔術を察知して蓮は制止をかけようとするも、シナリオ一回制限という重い枷を持つその魔術を止める手段は無く、キュイネスはシーンから離脱した。
「逃しました……か」
「いいぞ、シスター」
「凄ェな、エクソシスト万々歳ってヤツだ」
後方から迫る固定エンカウントマスを全て処理し終えた政次郎と十三が部屋へと入ってきて、邪教徒を一掃したユーリヤを賛嘆する。
恐るべきキルレシオを見せたユーリヤであったが、この位は退魔術を嗜む者としては当然とも言える成果であり、改めて褒められる事でも無い。政次郎と十三へ小さく片手を上げ、会釈を送った。
「ところで、この灰はなんだ?」
「あ、それは――」
「恐らくはあの施術師の反魂の術によるものです。体が死を迎えた時、別の場所にある肉体へ魂を飛ばし復活するというものです」
「あっあっ」
十三がキュイネスだった灰を見つめて疑問を浮かべ、出番と見た蓮が解説をしようとするも、本来の台本の順番に従いユーリヤが割り込んで説明する。
このままではまた報酬を減らされてしまう。本業の仕事を潰され続ける蓮は、キュイネスの行方以上に自分自身の明日が心配になってきた。
「……仕方あるまい。施術師の行方を追うのは後だ、今はこの病院の調査の続きを優先する」
「そうですね、未だヨグ=ソトースの落とし子の姿が見えていません。必ずや神の鉄槌を食らわし、世界支配民族である現代人の理を教え込まねばなりません」
「承知」
「あ、うん、そう、ね」
そこで蓮はそういえばまだこの病院の調査が終わっていない事を思い出す。
施術師の研究はユーリヤの退魔術によって一時頓挫させる事に成功したが、元々はヨグ=ソトースの落とし子の捜索・討伐が目的だった。
まだ仕事が残っている。ヨグ=ソトースの落とし子に対して解説の尺を稼げば、まだ自分のギャラは手に入る余地がある。僅かな希望が、蓮の瞳に再び宿った。
「それと野曽木の報酬は現時点で半額とする。今後次第ではさらに半額の処分が下ると思え」
「挽回のチャンスも無いの!?」
どちらにせよ報酬が半減する事が確定した蓮は、白目を剥いた。
この物語はフィクションです。
実在のソ連邦英雄授与者、FPSスラング、ゲーム内非実装銃器とは関係ありません。