ダンジョンに死の恐怖がいるのは間違っているだろうか。(仮) 作:TE
最後を少し付け足しました。
第35話~迷い~
ヘスティアに帰還する手段を発見したと伝えてから一日が過ぎた。
俺、ハセヲは一人でダンジョンへと潜り、17階層までやってきている。
「・・・・・・」
目的をもってやってきたはいいが、どうにも気が乗らない。
その原因は明らかでヘスティアの事だ。
あいつがあんなに号泣するなんて思いもしなかった。
俺のせいで悲しむヘスティアを見ていられなくてダンジョンにやってきたと言ってもいい。
このままじゃダメなのは分かっている。
でも、どうすればいいのか分からない。
「・・・ん?」
適当に歩き回っていると轟音が鳴り響いているのに気づいた。
どこかの冒険者が戦っているのか?
一応様子を見に行ってみよう。
「あれは・・・」
音を頼りにしてたどり着き、岩陰に隠れてその先を覗き込むと一人の冒険者とミノタウロスがいた。
どうやら戦闘の真っ最中のようだ。
だが、どこか様子がおかしい。
冒険者は相当な実力者なのだろう。
ミノタウロスを片手一本で相手をしている。
おかしいのは、ミノタウロスを簡単に倒せるはずなのに一向に倒そうとしないのだ。
あの冒険者が痛めつけて喜ぶような奴には見えない。
どちらかというと、敵には容赦なく無慈悲に殲滅するタイプだと思う。
どっちにしてもやばい奴なのだが・・・。
「・・・あの冒険者、ミノタウロスを痛めつけているというより、教育をしてないか?」
ミノタウロスの猛攻を完全に捌き、防げるレベルの攻撃で攻める。
その光景はまるで教育者と家畜のようだった。
それに今気が付いたがお互い同じ武器を持っている。
ミノタウロスがあんな武器を持つとは思えないから、あの冒険者が渡したのか?
一体何の為に・・・?
「っ!?」
俺は今まで感じたことがないくらいの悪寒を感じて横に跳んだ。
その瞬間だった。
俺が隠れていた岩が粉々になって吹き飛んだ。
その原因はあの冒険者が使っていた大剣である。
俺はすぐに冒険者がいた方へと視線を向ける。
「貴様はハセヲ、だな?」
「なんで俺の名前を知っているのかは置いといて、急に何しやがるんだ!殺す気か!」
「あの程度の攻撃を避けられないならそうするつもりだった」
「なっ!?」
「お前の実力を直に確認しておきたかった。全力で抗え。じゃなければ死ぬことになるぞ」
こいつ、マジで言ってやがる。
冒険者が殺気を出して来たので、俺は大剣を取り出して戦闘態勢に入る。
「やるしかねえようだな・・・」
「それで一体何があったのよ?」
「な、なにがだい、ヘファイストス?何もないよ?」
ボク、ヘスティアは借金返済の為に働くことになったヘファイストスのお店で売り子のアルバイトをしていたら急にヘファイストスに呼ばれてその一言である。
何があったのかと言われればあった。
ハセヲ君が元の世界に帰る方法が見つかって喜ばないといけなかったのに号泣してハセヲ君を困らせてしまったんだ。
あの後、気まずい雰囲気でベル君にも迷惑をかけてしまったからどうにかしないととは思っているんだけど・・・。
「嘘ね。いつもなら2、3回はドジって怒られているのに今日は一度もドジっていないじゃない。何かあったに決まっているわ」
「判断基準が酷すぎないかい!?」
「冗談よ。5割ね」
「半分は本当だった!?」
なんて酷い神友なんだ!
「少しは元気が戻ったみたいね。ヘスティアは落ち込むときは引き籠るか何かに没頭するかのどっちかだからね」
「ぐぬぬぬっ・・・」
「本当に何があったのよ?もしかして、ハセヲ君の事かしら?」
どうやらヘファイストスには全てお見通しのようだ。
「うん・・・。ハセヲ君は訳ありでオラリオに来ていたんだけど、昨日ハセヲ君からもう少ししたらオラリオを去るって言われたんだ・・・」
本当の事は言えないので言葉を濁しながらヘファイストスにそう言った。
でも、意味合いは同じなので嘘ではないと思う。
「そうだったのね・・・。でも一生の別れって訳ではないのでしょ?」
「いや・・・多分、ハセヲ君は去ったら二度とオラリオには帰って来ない・・・」
そう。
ハセヲ君が元の世界に帰ってしまえば、こっちの世界には二度と戻ってこれない。
それは一生の別れと同じことなんだ。
そもそもこっちに戻ってくる理由はない。
彼は事故でこっちの世界に来てしまった。
果たしたい目的があるのにここに留まる事なんてしない。
ハセヲ君はその為に今日まで頑張ってきたのだから。
「ヘスティアはそれで良いの?」
「良いも何も、ボクはハセヲ君を応援しているんだ。それなのに引き留めてしまったら本末転倒じゃないか」
「でも本心ではないんでしょ?なら―――」
「いいんだ!!」
ボクは俯きながら大声でヘファイストスの言葉を遮った。
本心じゃない?
当たり前だろ?
ハセヲ君はボクの眷属になってくれた初めての家族なんだ!
そんな子と二度と会えなくなるなんて嫌に決まっている!
でも、そんな大事な家族だからこそ、ボクが足枷になって迷惑をかけたくないんだ。
「・・・ごめん、ヘファイストス。今日はもう抜けさせてもらうよ」
「ええ。私も軽率だった。ごめんなさい」
ボクはヘファイストスに頭を下げて部屋から出ていった。
ああ。
運命って、神様よりも複雑で気まぐれで、世界よりも残酷なんだろうか・・・。
「ぐああああああああっ!?」
ダンジョンの17階層でハセヲの悲痛の声が響き渡る。
ミノタウロスを教育する冒険者と戦闘が始まって数刻。
ハセヲは必死に抵抗するも冒険者には手も足も出ない状況だった。
「・・・レベル1との情報だったが、明らかに違う。最低でもレベル3はある。情報の隠蔽でもしたか?」
「さあ、な!」
ハセヲは冒険者に大剣を上から下へと振り下ろす。
しかし、冒険者は片手に持った武器で平然とした顔をしながら受け止める。
受け止められるのは承知の上だったハセヲは大剣から手を放すと腰に手を当てて大鎌を取り出した。
「【環切】!!」
大剣を受け止めたことで、がら空きになった横っ腹に最速で放てるアーツを使用する。
一番威力のないアーツだが少しでもダメージが通るならと思って放ったハセヲの一撃。
「何もない所から大鎌を取り出し、瞬間大剣が消えたのは何かのスキルか?初めて見る」
「なっ!?指だけで!?」
「だが、俺には通じん」
しかし、ハセヲの一撃は冒険者の片手。
それも指だけで掴み、受け止められてしまった。
ハセヲはすぐに大鎌から手を放してその場から離脱する。
大剣を取り出して構えると冒険者が持っていた大鎌が消えてしまう。
「便利なスキルだ。これなら敵に武器を奪われても問題ない」
「くっ!ぐおおおおおっ!?」
一瞬でハセヲの間合いに入って武器を横なぎに振るう冒険者。
どうにか大剣で受け止められたハセヲだが、その威力に耐え切れず吹き飛ばされてしまう。
「それに武器も一級品。俺の攻撃を受けても傷どころか刃こぼれなし。
「ちっ、くしょ・・・」
圧倒的な実力の差。
ハセヲは普通に戦っては勝てないと理解している。
だが、スキル【死の恐怖】が発動しない。
いつもなら戦闘している内に使えるようになっているのに一向に発動できる気がしないのだ。
「うおおおおおおおっ!【秘奥義 重装甲破り】!!」
最大威力の大剣アーツを炸裂させた。
手応えは感じていて、今まで戦ってきたどんな相手だろうと吹き飛ばせる威力があるとハセヲは思った。
「威力だけならレベル6にも匹敵する。しかし、俺には通じん」
しかし、冒険者には一切のダメージを与えることは出来なかった。
両手で武器を握って受け止めている所をみれば多少はマシだったのかもしれないがこの冒険者には通用しない。
「・・・てめえは一体何者なんだ?」
再び距離をとったハセヲは襲い来る冒険者にそう尋ねた。
「俺は『オッタル』。レベル7の冒険者だ」
「レベル7!?」
ハセヲが知り合ってきた中で一番高いレベルの持ち主に驚く。
だが、同時に納得していた。
その知り合ってきた中で一番に強いのだから。
それも当然でオッタルは世界で二人しかいないレベル7の一人。
そんな男がハセヲの実力を試している。
下手をすれば殺されてしまう事実にハセヲは絶体絶命の危機に陥った。
「そろそろ終わりにしよう」
「っ!?があああっ!?」
オッタルの武器がハセヲの左肩に突き刺さる。
痛みに叫びを上げながらもハセヲは大剣を振るう。
その大剣をオッタルは後ろに跳んで避けるが、少し驚いた表情をしていた。
「今のを避けるか。心臓を狙ったが咄嗟に動いて直撃を避けるとは恐ろしい奴だ」
「く、のおっ!」
オッタルの称賛など耳に入っていないハセヲは肩に突き刺さった武器を引き抜く。
大量の血が出るがそんな事お構いなしに立ち上がる。
「久方振りだろうか?俺を前に凄まじい気迫と殺気をぶつけてくる相手に会うのは・・・」
大剣から大鎌に持ち替えてオッタルを睨み付けるハセヲ。
その姿に近くにいるミノタウロスはプレッシャーで動けず、オッタルは逆に関心しながら眺めている。
そして同時に残念にも思っていた。
「お前の攻撃には迷いが見える。その迷いが消えない限り俺にその攻撃は通らない」
「迷い・・・?」
オッタルの言葉にハセヲのプレッシャーが納まる。
己の攻撃に迷いがある。
ではそれはなんだ?
ハセヲは思考の海へと浸り始める。
しかし、それを黙ってみているほど、オッタルは甘くはなかった。
「隙ありだ、ハセヲ」
「・・・ごはっ!?」
オッタルの武器がハセヲの腹部へと突き刺さる。
何も反応出来なかったハセヲは口から大量の血が溢れだす。
そして急激に体温が下がっていくのをハセヲは感じていた。
さらにハセヲの目の前が真っ暗になり、その体は地面へと崩れ落ちていった。
『俺は死ぬのか?元の世界に帰れるまであと一歩の所だったのに・・・』
ハセヲは深海のような世界で一人沈んで行っている。
『なんで俺は迷っていたんだ・・・?』
オッタルに指摘された迷いがどうしても頭に残っている。
『・・・背中が熱い。あれは俺の背中か?』
背中に異様な熱さを感じて目を開けると真っ暗で何も見えなかった空間に光が見えた。
それは自分の背中だと気づき、その背中から光が溢れだしているのが分かる。
『あの紋様はヘスティアの・・・そうだ。俺は・・・』
背中に描かれているヘスティアの恩恵でハセヲが何を迷っていたのかを思い出す。
ヘスティアを泣かしてそのままでいいのかと、ハセヲは整理が出来ないままダンジョンへとやってきていた。
『ヘスティア。俺だって・・・嫌なんだ。お前やこの世界で会ってきた連中と一生の別れになるなんて・・・』
一人となったハセヲを変えてくれたこの世界の人々は彼にとってとても大切なものとなっていた。
それを簡単に手放すなんて今のハセヲにはとても難しい。
だが、元の世界に帰って志乃を救い出さなければならないのだ。
『俺はどうすれば・・・』
“言葉は無力だ”
『っ!?』
ハセヲの中で一人の男の言葉が響き渡る。
それは、ハセヲが尊敬し嫌いな男。
そんな男の言葉にハセヲは昔を思い出す。
“無いと決めつけてしまう。或いは在るかもしれないと探してみる。どっちがゲームとして面白い?”
『結局は何もなかった。・・・でも、希望は持てた。元の世界に帰る方法だって、在ると信じて探し求め、見つけたんだ』
ハセヲは身体の中から心音が鳴り始めたのを感じた。
『元の世界からこっちに行く方法もある筈だ!だから、俺は―――』
「なに?」
オッタルの表情が初めて大きく変化した。
腹を突き抜かれて絶命し、崩れ落ちたと思われたハセヲの身体が踏み止まったのだ。
どんな耐久値を持った冒険者だろうと死んでもおかしくないダメージを負ったハセヲが生きていることにオッタルの表情が驚愕したのも頷ける。
「俺は、まだ死ねない!」
ハセヲの身体から赤く輝く紋様が浮かび上がる。
その光景にオッタルの直感がやばいと判断させ、ハセヲの首を落とそうと武器を振り下ろす。
「スケエエエエエエエイス!!」
「ぐっ!?」
しかし、ハセヲは叫ぶと衝撃波が発生してオッタルを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたオッタルはすぐに態勢を整えてハセヲを見る。
しかし、オッタルが向けた方向にハセヲは居なかった。
「そっちか!」
オッタルは後ろへと武器を振るとそこにはハセヲがいて、ハセヲはすれすれの所で避けた。
「せいっ!」
「くっ!」
反撃とばかりにハセヲは大鎌を横なぎに払う。
オッタルは武器で受け止めるもその威力と速さに驚いていた。
「パワーとスピードが格段に上がっている。だが、それだけではない。先ほどまであった筈の迷いが消えている。何があった?」
「お前には感謝しているよ、オッタル。お前のおかげで俺が何をするべきなのか分かった」
「そうか・・・。ではここまでにしよう」
オッタルは武器を収めると置いてあったかばんへと向かっていく。
油断できない状況な為警戒を解くことはないが、大ダメージを負っているハセヲにとって戦闘が終えることをありがたく感じていた。
「これを使え、エリクサーだ」
オッタルがハセヲに複数のエリクサーを投げ渡す。
ハセヲは何の疑いもなくエリクサーを使用した。
普通はそんな高級品を何の躊躇もなく渡すなんて怪しいのだが、ハセヲはオッタルがそんな卑劣なことをする奴ではないと理解していた。
「終盤の力がお前の本来の力。これならばあの御方も満足していただけるだろう」
「『あの御方』?一体誰の事だ?」
「お前が知る事ではない。下手な詮索は寿命を縮める事になる。そこのミノタウロスについてもだ」
「・・・分かった。でも一つだけ言わせてもらう。次、てめえと戦う時、この腹の怪我の借りを100倍にして返してやるからな・・・」
ハセヲは踵を返してその場から去っていく。
そんなハセヲの捨て台詞を聞いたオッタルは珍しく口角を上げていた。
「そうか。楽しみにしている」
そんなオッタルの呟きはハセヲに届くことはなかった。
「ヘスティア!いるか!」
俺、ハセヲはオッタルとの死闘を切り上げた後、急いでヘスティアの下へと向かった。
今日はヘファイストスの店でバイトだからそこに向かったら早退したらしいので、拠点へ帰るとそこにヘスティアはいた。
布団に包まった状態で。
「・・・何やってんだ」
「・・・・・・」
俺の問いに無言で返すヘスティア。
どうやらまだ俺と話すのに気持ちが整理出来ていないんだと思う。
さっきまでの俺もそんな感じだったので気持ちは分かるが、そんなこと言ってられない。
「そのままでいいから聞いてくれ。俺は元の世界に帰る。これは絶対だ。俺はあっちで成し遂げなければならない事があるからだ」
俺の言葉にびくびくと反応するヘスティアは何も言ってこないので俺は話を続ける。
「でも、俺は必ず戻ってくる!ヘスティアや皆に会いに!だから―――」
「やめてくれ!」
俺の言葉を遮るヘスティア。
布団からは出てきて来ない。
「そんな根拠のない言葉でボクを期待させないでくれ!希望を見せないでくれ!怖いんだ・・・。希望を持って待つ日々を暮らすのが、結局会う事が出来ないと分かって悲しむ瞬間が!」
そうか。
ヘスティアはそれを恐れていたんだな。
「でも、二度と会えないと思いながら生きていくのは幸せか?違うよな?俺はそんな気持ちをヘスティアにさせたくない。だから、俺を信じてくれ。俺がお前を信じたように」
「ハセヲ君がボクを・・・?」
ヘスティアは頭だけを布団から出して俺を見る。
その顔はさっきまで泣いていたのか目が真っ赤で顔がぐちゃぐちゃだ。
「お前は俺を見捨てなかった。そんなヘスティアを俺は信じた。そのおかげで俺はここにいる。俺は絶対にお前の下に帰ってくる」
「・・・本当かい?ハセヲ君は帰ってきてくれるのかい?」
「ああ。約束する」
そういうとヘスティアが布団から出てきてくれる。
そして、いつもの笑顔を俺に向けた。
「約束だぜ?あまりに待たせるとボクの方からハセヲ君に会いに行ってやるからね」
「そりゃあ大変だ。ヘスティアが俺の世界に来たら引きこもりのニートになるのは間違いない」
「そうだとも!君の家で養う羽目になるから早く帰ってくるんだよ!」
ああ・・・。
いつものヘスティアに戻ってくれた。
これで心置きなく元の世界に帰る為の準備が出来る。
「・・・ってハセヲ君!?その血だらけの恰好はどうしたんだい!?」
「え?ああ、これか?ちょっと殺されかけただけだ」
ヘスティアの視野がどうやら俺の顔だけだったらしく、今頃になって俺の恰好がオッタルとの死闘で血だらけとなってしまった事に気づいたようだ。
「ちょっとで殺されかけるってどういう状況なのさ!?早くシャワーを浴びてくるんだ!そして、その後に説教だよ!」
「へいへい」
俺はヘスティアの言われたとおりにシャワーを浴びに行き、その後は説教を食らう羽目になったのであった。