ダンジョンに死の恐怖がいるのは間違っているだろうか。(仮) 作:TE
そちらから見て頂いてから此方を見た方が違和感なく読めると思いますのでご注意ください。
第36話~残り一週間で~
「せいっ!」
「っ!?」
早朝。
ハセヲとリューの訓練が行われており、ハセヲがリューの武器を弾き飛ばし、一本を取った。
最後の模擬戦で疲れ果てたハセヲはその場に座り込んだ。
「っし!初めて一本取ったぜ!」
「ええ。今のはやられました。強くなりましたね、ハセヲ」
「あんたのおかげだよ、リュー。ありがとう」
正直な気持ちを伝えるハセヲの言葉に隣に腰を下ろしていたリューは顔を背けてしまう。
顔が熱くなり、心臓の鼓動が速くなるのを感じるリューは気持ちを落ち着かせ話し出した。
「い、いえ。私は特段なにもしていません。ハセヲが努力した結果でしょう」
「その努力の機会をくれたのはあんただ。それに細かいアドバイスもしてもらった。ダンジョンでの知識も教えてくれた。あんたは俺がここまで強くなれた事に一番大きく影響を与えてくれたのは間違いない」
「そ、そう言ってもらえると私も嬉しい限りです」
ハセヲに褒められて嬉し恥ずかしい気持ちになるリューは未だに顔を合わせることが出来ない。
そんな中、ハセヲが話し出した。
「リュー。そんなあんたにお願いがある」
「お願い、ですか?」
短い付き合いではあるが、滅多に人に頼る事がないハセヲからのお願いにリューはすぐに振り向く。
ハセヲの真剣な表情にリューは気を引き締める。
「ベルの事だ。あいつが何かあった時、力になってやってくれ」
「クラネルさんの・・・。それは構いませんが、どうして急にそんなお願いを?」
リューは率直な疑問を聞いた。
ハセヲは空を見上げながらその疑問に答えた。
「俺はロキ・ファミリアとの遠征が終わったらオラリオを出ていく」
「なっ!?」
ハセヲの答えにリューはとても驚いた。
そんなリューの反応にハセヲは苦笑しながら話し出す。
「俺は元々故郷に帰る方法を探すためにここ、オラリオに来たんだ。その方法を俺は入手した。遠征も帰る為に必要なアイテムを手に入れる為に行くんだ」
「そう、だったのですね。それはクラネルさんや神ヘスティアには言ったのですか?」
「ヘスティアには言ったが、ベルにはまだ言ってない。遠征に行く直前に伝えるつもりだ。今、あいつは強くなる為に特訓中だからな。俺の事でその邪魔をする訳にはいかねえだろ?」
ハセヲがいない間に、ファミリアをヘスティアを守るのはベルだけになる。
自分の事でベルがアイズと特訓して強くなる時間を潰す訳にはいかないのだ。
「正直まだまだ頼りないが、いずれ誰よりも強くなってくれるはずだ。その間、陰ながら見守ってくれるとありがたい」
「・・・分かりました。他でもない貴方のお願いです。お受けいたしましょう」
「すまん。ありがとう」
そう言ってハセヲは右手を出して握手を求めた。
リューはそんなハセヲの右手に恐る恐るといった感じで手を伸ばし握手する。
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
「あっ、す、すみません!」
握手する手をじっと見ているリューにハセヲは手を放すタイミングが取れずにいる。
そんなハセヲに気づいたリューは慌ててその手を引いた。
「いや、別に大丈夫だけどお前顔が真っ赤だぞ?」
「も、問題ありません!では私はお店の準備がありますのでこれで!」
「あ、おう。・・・リュー、明日も来るからな!次は今回よりも多く一本とってやる!」
猛スピードでその場を去るリューにハセヲが大声でそう言った。
その言葉にリューは急ブレーキをかけて止まり、振り向きお辞儀をしてからその返事を返す。
「・・・はい!楽しみにしています!」
お昼頃。
ハセヲはオラリオの北西にある市壁の頂上へ繋がる階段を上っている。
ベルとアイズの特訓はそこで行われているとベル本人から聞いて、ハセヲはどんな特訓をしているのか様子を見に来たのだ。
「そもそも。アイズはちゃんとベルに教えられているのかが心配だ。あいつ、そういうの苦手そうだし・・・」
そんな事を呟きながらハセヲは頂上へと出る入り口までたどり着いた。
ばれないように入り口からこっそり覗き込むハセヲはある光景が飛び込んだ。
「・・・ベルがアイズの顔、いや唇に!?」
そんな光景を目にしたハセヲはそれと同時に脳裏にあるシーンが浮かび上がる。
~~~
「ハセヲの弟分がアイズの純潔を奪っただって~!?」
「格下共・・・覚悟は出来てるんだろうなああああ!!」
「ぐちゃぐちゃにしてやんよおおおおっ!!」
「【ウィーシェの名のもとに願う】!」
ティオナが驚き、ベートとティオネが怒り狂い、レフィーヤとリヴェリアが極大魔法を詠唱し始める。
「ハセヲはん。うちのアイズたんを傷物にしたんや。その代償はあまりにもでかい。よって―――」
ロキはハセヲ達を指さして軽蔑の眼差しを向けながら判決を言い渡した。
「死刑。リヴェリア、レフィーヤ。やっておしまい」
「【レア・ラーヴァティン】!!」
ハセヲとベルは極大魔法に飲み込まれ、断末魔を上げることも許されず、骨さえも残されることはなかった。
~~~
「ふん!!」
「げぶおっ!?」
ベルがアイズにキスしようとする寸前でハセヲが猛スピードで近づき、ベルの腹を思いっきり蹴り上げた。
「あ、危ない所だったぜ・・・」
「は、ハセヲさん・・・?ど、どうしてここに・・・?」
「ハセヲ、さん・・・?」
最悪な展開を免れて安心するハセヲの登場に蹴られた腹部を押さえるベル。
そんな二人の騒動に目を覚ますアイズは状況が理解できないでいる。
「ベル。お前をそんな風に育てた覚えはねえぞ?」
「え・・・あ、いや、違うんです!これは、その・・・と、兎に角ありがとうございます」
「???」
ベルがハセヲになんのお礼を言っているのか理解できないアイズなのであった。
「最近、ベル様の様子がおかしいのです。何か知りませんか、ハセヲ様?」
夜のとある路地の居酒屋にリリルカとハセヲはいた。
ハセヲが一人ダンジョンへと帰ってきた時に偶々出くわしたので共に食事をする事になったのだ。
「具体的にはどういう風に様子がおかしいんだ?」
「はい。ダンジョンに入る前からボロボロになってたり、休憩中に溜息を吐いたりするのです」
「ああ・・・。心当たりはある。でもまあ、ベルのプライドにかかわる事だからそっとしといてやれ」
ベルがボロボロなのはアイズとの特訓で一方的にやられてしまっているからで、溜息を吐くのはそんな自分が情けないと自己嫌悪しているのだろうとハセヲは感じ取った。
「そ、そうなのですか?分かりました」
「悪いな。それと一つお前に言っておきたい事があるんだ。俺がロキ・ファミリアの遠征に行くことは言ったよな?」
「ぶふっ!?ゴホッゴホッ!?」
ハセヲの話の内容が衝撃的だったようで飲んでいたものが気管に詰まってしまったリリルカはむせてしまった。
落ち着くとリリルカは強めにテーブルを叩く。
「聞いてませんよ!?どうしてハセヲ様がロキ・ファミリアの遠征に行くのですか!?」
「あれ?言ってなかったか?まあ、ロキと色々あって依頼されたから受けたんだ」
「・・・ハセヲ様の事ですからただの善意で受けたわけではないのでしょう?」
ジト目で睨みつけるリリルカにハセヲはお酒を一口飲んで話を続ける。
「ああ。俺も遠征の目的である未到達階層に用があるんだ。その為にロキ・ファミリアを利用するって訳だ。それでお前に言っておきたい事っていうのは・・・・・・まあ、ベルの事だ。あいつはまだまだ半人前だからサポーターのお前が支えてやってくれ」
「ベル様を支えるのはサポーターとして当然ではありますが・・・」
リリルカはどこか違和感を感じる。
その違和感とはハセヲがベルの事だけではなく、オラリオから去る事を伝えようとしたが止めた事だろう。
特に止める理由があった訳ではない。
だが、リリルカに伝えるべきではないと判断したのだ。
「頼んだぜ?俺はお前を信頼してんだからな」
「・・・分かりました。ハセヲ様の信頼に応えられるように頑張ります。ですから、ハセヲ様も無事に遠征から帰ってきてくださいね?」
「ああ・・・」
「ハセヲさん!なんなんですか!あの弟分は!!」
「は、はあ?」
「ど、どうしたのだ?レフィーヤ?」
遠征まで残り数日。
ハセヲがロキやフィンと打合せを終えた後、リヴェリアの自室に招かれて約束の一杯を共にしていた。
部屋に入る時偶々見かけたレフィーヤも一緒にする事になって、ハセヲが買ってきたワインやおつまみを食べながら談笑していたのだが、急にレフィーヤが大声を上げたのだ。
そんなレフィーヤの急変にハセヲとリヴェリアは凄く驚いていた。
洞察力が良い二人はレフィーヤの急変の原因をすぐに理解する。
こいつ、酔っ払っている、と・・・。
「他所のファミリアなのに図々しいんじゃありませんか!」
「図々しいっていうなら他所のファミリアの副団長の自室で酒を飲んでいる俺が言えた事じゃねえんだが、何があったんだよ?」
「あの人間がアイズさんと遠征に行く間、二人っきりで特訓している事ですよ!ハセヲさんも知ってますよね?!」
「ほう・・・」
酔った勢いで特訓の話をばらすレフィーヤにハセヲは頭を抱える。
リヴェリアはその話に目を光らせた。
「ずるいです!他所のファミリアなのにアイズさんと二人っきりなんて羨ましいです!」
「お、おい。落ち着けって!とりあえず水を飲め!な?」
「嫌です!私はこの美味しいワインを飲むのです!」
ハセヲが水を渡そうとするが、レフィーヤは自分のグラスにワインを注いで一気飲みする。
飲み終わるとレフィーヤはハセヲを睨みつけながら近づいていくとソファーに座っていたハセヲの横に座った。
「ハセヲひゃん!グラスが空いてまひゅよ!飲みまひょう!」
「お、おう。ありがとな?」
「いえいえ!ひゃい、かんぱ~い!」
「か、かんぱい・・・」
チンッとグラスを合わせてワインを一口。
レフィーヤがワインを飲んで大人しくなっている間にハセヲはリヴェリアに話しかける。
「おい!レフィーヤってこんなに酒癖が悪いのか!?」
「いや、そんな事はない。だが、今飲んでいるワインが原因だろう」
「ワイン?これ、エルフに大人気と聞いて買ったんだぞ?」
「ああ。だが、そのワインは飲みなれていないエルフが飲むと一気に酔ってしまう事でも有名だぞ?」
リヴェリアの説明に驚くハセヲだが、酒を購入した時にした会話を思い出した。
『エルフが喜ぶお酒?ならこれだな!【妖精殺し】って言うんだが、落としたいエルフがいるならこれに限るぜ!頑張りな、兄ちゃん』
店員が妙にニヤニヤしながらそう言っていたが、『落とす』の意味合いがそういうものなのだと今理解したハセヲ。
「やはり知らなかったのだな。これを出された時は少し軽蔑したぞ?」
「飲む前に言ってくれねえか!?」
「私は昔から飲みなれているから問題ないし、レフィーヤにも良い体験だと思って飲ませたが、こんなに早く酔ってしまうとは思わなかった」
「ハセヲひゃん~。リヴェリア様とばかり話してないでくださいよ~」
レフィーヤはハセヲの腕に抱きついた。
いきなりの事で驚くハセヲだが、冷静を保ちながらレフィーヤを引きはがそうとする。
「とりあえず離れろ、レフィーヤ」
「なんでですか~?私とは話したくないんですか~?私は、いらない子、なんですか?」
気持ちよく笑っていたレフィーヤが今度は泣き出しそうな表情に変わって驚くハセヲ。
「な、なんでそうなるんだ。別にお前はいらない子なんかじゃねえよ」
「でも、私は皆さんの足を引っ張ってばかりだし、食料庫の時だって私がもっと強ければハセヲさんはもっと楽に戦えたかもしれません」
食料庫の事だけではなく、怪物祭の時や前回の遠征でもレフィーヤは自分の力のなさに失望していた。
それでも強くなろうと努力している。
「今は負けてても勝てなくてもいつかは追いつきたい。アイズさんやリヴェリア様達と肩を並べられるように。でも、ベートさんに言われたんです。リヴェリア様を超えて見ろって。いつかはと考えていた私を全否定されたようで・・・」
首を垂れて俯くレフィーヤ。
そんなレフィーヤにハセヲは手をレフィーヤの頭へと近づける。
「この馬鹿垂れ」
「あうっ!?」
ハセヲはレフィーヤにデコピンをした。
デコピンをされておでこを押さえるレフィーヤを見てハセヲは溜息を吐きながら話し出す。
「まずはそういう考えから止めろ。過去を思い詰めたってなにも変わらない。過去じゃなく今を見ろ」
「今・・・」
「それにベートの言っていることは間違ってはいない。いつかという未確定な言葉で今の自分を誤魔化そうとするのが悪いんだ」
『いつかは』という自身を励ます言葉はただのその場しのぎでしかない。
ハセヲはそういう経験をしたことがあるから分かる。
「ベートはレフィーヤを全否定する為にそう言った訳じゃない。前へと歩く橋を架けてくれたんだ。レフィーヤが強くなるために」
「私の為に・・・?」
「ベートの言葉があったから今のレフィーヤがある。そんな今のレフィーヤのおかげで今の俺たちがいるんだ。だから、お前はいらない子なんじゃねえんだ」
ハセヲはレフィーヤの頭を撫で始める。
その手はとても暖かく優しいものだった。
その心地良さにレフィーヤの瞼がゆっくりと閉ざされいく。
「ハセヲさん・・・ありがとう、ございます・・・」
「おっと・・・寝ちまったな」
意識が夢の中へと旅たったレフィーヤの身体はゆっくりとハセヲの下へ倒れていき、受け止めたハセヲは起こさないように自分の膝へとレフィーヤの頭を下ろす。
「・・・お前の団員は色々と大変だな」
「そうだな。だが、お前のおかげでレフィーヤも少しは肩の荷が降りた。礼をいう」
「俺は別に・・・って、なんでリヴェリアまで俺の隣に来るんだよ」
先ほどまでハセヲの正面の椅子に座っていたリヴェリアがグラスとつまみが乗ったお皿を持ってハセヲの隣に座ったのだ。
リヴェリアはワインが入ったグラスだけを持ってから話し出す。
「なに。それではお酒やつまみを食べることは出来ないだろ?手伝ってやろうと思ってな」
「そりゃどうも・・・」
リヴェリアに何を言っても無駄だと理解したハセヲはリヴェリアと同じようにグラスを持った。
「乾杯」
二人のグラスが交わり、その音が響き渡った。
遠征まで残り一日。
つまり、ベルとアイズの特訓の最終日。
残念に思いながらベルはそのひと時を無駄にしないように特訓に勤しんだ。
「今日までよく頑張ったね。君はとても強くなった」
「あ、ありがとうございます!」
「後は最後に君と戦って欲しい人がいるんだ」
「え?それは一体誰と?」
急なアイズの申し出にベルは戸惑いながら対戦相手を聞く。
するとベルにとって聞きなれた声が後ろから聞こえる。
「それは俺だ、ベル」
「は、ハセヲさん!?」
ベルが振り向くとそこには双剣を装備するハセヲの姿があった。
「さあ、ベル。お前の実力を見せてもらうぞ!」
ダンジョンでのイレギュラーな戦闘ではなく、正面からのハセヲとベルの試合が今始まろうとしていた。
如何でしたでしょうか?
次回は、ハセヲ対ベルの試合をメインに書きたいと思いますのでよろしくお願い致します。
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