どうにもならない、そんな時…なんだけどさぁ!   作:#任意の文字列

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このままだと今シリーズ「新たなる巨人」がアグル回の皮をかぶったTDスペシャル回なのでは?と言われかねないので別作品の要素を投入します(違う、そうじゃない)。


新たなる巨人・急 後編

(が、はっ…)

 

 全身が灼け、はじけ飛んだかのような痛みが蝕む。これが、光の巨人の必殺光線の力なのか。全身が熱く、うまく呼吸できない。視界もちかちかして、認識が出来ない。今まで戦ったどんな怪獣のいかなる能力とも違うダメージが、自分をその場に磔にしていた。

 そして、無情にも『ライフゲージ』の点滅が始まり、胸が苦しくなる。ゼルガノイドの『ソルジェント光線』が、これほどまでとは。改めて、相手がどういう存在なのかを理解し、その強さに戦慄する。

 そしてうまく動かない体が、何者かに持ち上げられる。首をつかまれ、そのせいでますます呼吸が苦しくなる。まだ安定しない視界を何とか正面に合わせると、そこに自分を片手で持ち上げる超合成獣人の姿があった。

 

「KiSHAAaaa…!」

 

 ゼルガノイドの裂けたような口が開き、中から怪獣らしい叫び声が聞こえた。歓喜の雄たけびと共に、自分の体がさらに持ちあがり、首がますます絞まっていく。なんとか相手を振りほどこうと腕につかみかかるが、力の差は歴然でまるで動く気配がない。痛みと息苦しさで、しだいに意識が遠のきつつあるのを感じた。

 ああ、まずい。まさか、一撃もらっただけでこれほどまでのダメージを負う事になるとは。この状態では光線技を使って振りほどこうにも技が限定されてしまうし、肉弾戦も分が悪い。万事、休すか。諦めるつもりは毛頭ないが、この状況で打てる手は限りなく少ないという事実が、自分の心を苦しめていった。

 そして、全身に力が入らなくなり、相手をつかんでいた腕も力を失い、垂れさがりそうになったその時―

 

「―ディアアァァァァ!!!」

 

 ―青い光が、地上に落ちる。

 後方より、何か大きな存在が、こちら目掛けて飛んできているのを感じる。何とかそちらに顔を向けてみれば、そこには飛び蹴りの構えでこちらに急接近する青い巨人―ウルトラマンアグルの姿があった。

 アグルはそのままの勢いでゼルガノイドに接近、ゼルガノイドが反応するよりも早く、その頭部を蹴り飛ばす。ゼルガノイドは当然吹き飛ばされ、その衝撃により自分も投げ出されることになった。

 

「デュオッ!?」

 

 変な声が出てしまったが、これで何とか解放された。頭を振り、なんとか意識をしっかりさせようとした自分の前に、何かの気配を感じる。そこには、自分を見下ろすウルトラマンアグルの姿があった。

 

(…ああ、本当に、アグルだ)

 

 自分の前に、自分とは違うウルトラマンがいる―その事実に、自分は感動と、安堵を覚える。どうやら、孤独なウルトラマンとして今まで戦ってきたことは、自分にとって思った以上に大きかったらしい。

 そして、こうして対面した以上、気になる事は一つ。やはり、変身しているのはラキュースさんなんだろうか。もしそうなら、彼女とコンタクトを取りたい。彼女は自分に正体を明かした際、変身する事への嫌悪と恐怖を感じていたことを自分に告げた。その事実が、余計に彼女と話したいという欲を掻き立てているようだった。

 …意識を、アグルに集中する。自分の五感を、ウルトラマンの持つ超自然の力に同調させていく。感覚を研ぎ澄まし、その眼で見据えれば、アグルの中に別な光を感じる。テラノイドには全くなかったその光は、光を見つめる自分の存在を認めたのか、少し揺らいだ気がした。その動きで確信する。この光こそ―ラキュースさんの心だ。

 彼女の心に届くように、意思に言葉を浮かべ、それを紡いだ。

 

(…ラキュースさん。そこにいるのは、ラキュースさん、なんですね?)

(…ええ、そうよ。そこにいるのはアルシェ、やっぱりあなた、なのね…?)

 

 光となったラキュースさんから、少し戸惑うような声が聞こえた。やはり、ラキュースさんだ。彼女の方も自分の事を認識できたようで、自分に対し手を伸ばしてくれた。自分はそれを、掴もうとして―

 

(…!ラキュースさん、後ろ!!)

 

 ―背後にて光を放つ、ゼルガノイドの姿を見た。ゼルガノイドは先ほど外した光弾を、こちらに向けて放とうとしている。自分の声でそれに気がついたのか、アグルもまた後ろを振り返り、それを確認した。

 

(…!)

 

 ラキュースさんの、何かを決意したかのような声なき声が聞こえる。それと同時に、アグルはその場で両腕を大きく開き、ゼルガノイドと自分の間に立ちふさがった。…動けない自分を、庇おうというのか。

 その行動に対し、自分が何か動くよりも早く、ゼルガノイドの光弾がアグルを直撃する。アグルの表面に爆炎が広がり、その姿は煙に包まれてしまった。

 

(ラキュースさん!!)

 

 思わず声を上げるが、それは届いたのだろうか。自分が何とか立ち上がろうとしつつ、目の前から視線を離せない中、やがて煙が晴れていく。

 …そこにいたのは、無傷のアグルだった。『ライフゲージ』も変化はなく、ダメージが少ないように見える。それは光弾の威力がそこまで大きくなかったからか、はたまたアグルに非凡な防御力があるからか。なんにせよよかったと、心の中で安堵した。

 

「…オァッ!」

 

 そしてアグルは、掛け声とともに煙を振り払うように右腕を動かし、そこから光の細剣―『アグルセイバー』を発生させる。それを振るい、光が空を切る独特な音を響かせたのち、アグルはその剣をもってゼルガノイドに切りかかった。

 

「デゥアアッ!!」

「ダアッ!」

 

 アグルとゼルガノイドの咆哮が激突し、両者の距離が一気に縮まる。剣を振りかぶるアグルに対し、ゼルガノイドは待ち受ける形となった。そしてアグルの剣が素晴らしい速さで振るわれ、ゼルガノイドの体を切り裂く…はずだった。

 ゼルガノイドはただ、その剣を体で受け止める。すると、剣が直撃した部分がうごめき、剣を完全にはじいてしまった。

 

(…スフィア!)

 

 その答えにたどり着くのに、時間はかからなかった。ゼルガノイドの纏うスフィアの鎧は、ダイナの必殺光線すら弾くのだ。アレくらい造作ものないのだろう。これは自分も加勢すべきだ、と立ち上がろうとするが、うまく体が動かない。繰り返すが、自分の受けたダメージは、本当に大きかったのだ。

 そして剣を防がれたアグルは、その状況を見て一瞬硬直し―剣を、叩きつけるように何度もゼルガノイドに浴びせ始めた。まるで何かを振り払うかのような彼女の動きに、焦りを感じるが、先程のようにラキュースさんの声が聞こえることは、ない。あの声かけは、もう少し集中しないとできないのか?

 そんな事を考える自分を尻目に、アグルの攻撃の速度はさらに上昇する。だが、鉄壁の防御力を誇るゼルガノイドに、あまりダメージは見受けられない。しかし最初は棒立ちで攻撃を受け続けていたゼルガノイドも、飽きたのかはわからないが、何度目かに振るわれたアグルの剣に対し、その腕をつかむことで停止させた。

 

「オゥ…ッ!」

 

 腕を無理やり止められたアグルから、呻き声が聞こえる。だがゼルガノイドはそれを意に介さずに、アグルをつかむ腕をそのままに、逆の腕でアグルの腹部を殴る。又うめき声のようなものが漏れるアグルに対しさらに腹部への攻撃を加えたのち、さらに顔面へのストレートを加える。同時に腕が離され、その勢いでアグルは後退した。

 だが、アグルは何とか踏みとどまり、転倒を防ぐ。そしてバックステップを取り距離を取ると、両腕を広げ、そこに泡のような光の帯を発生させた。…まちがいない、あれは『リキデイター』だろう。

 

(ら、ラキュースさん、待って…!)

 

 しかし、相手はあのゼルガノイドだ。光線技は狙う場所を考えないといけない。それを伝えようと声を発するように念ずるが、アグルには届いてないのか、そのまま『リキデイター』の発射準備が進められる。

 そして、アグルは発生した光球を、腕で撃ち出す様に放出する。完璧な『リキデイター』が、ゆっくり近づこうとしていたゼルガノイドに命中する。衝撃でのけぞるゼルガノイドに、続いて発射された第二第三の『リキデイター』が殺到し、次々着弾するとともに、爆発していった。

 …やはり、アグルは冷静ではないらしい。いきなり光線技を連射したのもそうだが、あの『リキデイター』の撃ち方は、すべてが命中するわけではなく、数で面を制するような、乱れ撃ちだった。つまり有効打になるのは何発も打ったうちの命中した一発二発くらいであり、それもどこに当たっているか分かったものではない。ゼルガノイドは爆発の煙に包まれていったので、なおさらだ。ここから推測される答えは一つ。アグルは、ラキュースさんは戦いを早く終わらせようと、焦っているのだ。

 そして次第に煙は晴れていき―そこから、ゼルガノイドが姿を現した。やはり、アレで倒せる相手ではなかったのか。アグルはその姿に驚いたのか、棒立ちになっている。そしてゼルガノイドはそんなアグルを見据え、見覚えのある十字を組んだ。

 

(!まずい、ラキュースさん避けて!!)

 

 思わず叫んでしまうが、その叫びもむなしく、ゼルガノイドは必殺の光線を放つ。アグルもそれに気がついたようだが、一歩及ばず、その光線をもろに浴びる結果となった。

 

「ウォアアァァァァァ…!」

 

 叫び声と共にアグルは吹き飛ばされ、そのまま着地した後数回転がり、地面に倒れこんだ。そのまま立ち上がる気配のないアグルに、ゼルガノイドが迫っていく。

 …ああ、何をしているんだ、自分は。いったい今までなんで戦ってきた?守りたいからだろう?なら、今大事な同胞が命を失おうとしているのに、ここで寝ているのか?

 

(…そんなわけ、ない…!!)

 

 そんなわけ、あるか!そう自分に言い聞かせ、全身に力をみなぎらせる。痛みと熱さはまだとれないが、そんなものに構っている暇はない。なんとかそれらを抑え込み、四肢に力を籠め、そのまま立ち上がった。

 さあ、反撃だ。全身に走る痛みは無視して、自分は全力でゼルガノイドに向かって駆けだした。ゼルガノイドもこちらの足音に気がつき、視線を向ける。それでいい。奴の意識は、目論見通りこっちに向いた。こちらに注意が向いている奴に向かって、自分は手より光弾を放つ。

 

「ダァッ!」

 

 自分が放った『ガイアスラッシュ』は、見事ゼルガノイドの顔面に命中した。そこから火花が散り、ひるむゼルガノイドを、自分は抱き着くように抑え込み、そのまま押し出した。

 もちろん相手もそのままでは終わらず、すぐに回復し、抱き着く自分の背に拳を振り下ろす。一回目のそれは何とか耐えたが、二回、三回と繰り返され、とうとう耐え切れ巣に叩き落されてしまう。地面に這いつくばる自分に、ゼルガノイドの足が迫る。それに対してはなんとか反応が間に合い、地面を転がって回避した。

 そして、立ち上がったところでゼルガノイドと再び目が合う。今度はゼルガノイドが先に動き、自分に向かって殴り掛かってくる。力と速さが伴ったその拳を何とか見切り、腕を全身で抑え込むように受け止める。そのままアゼルガノイドの腕の関節を極め、相手に縋りつくように動きを抑え込んだ。

 

(―ラキュースさん!ラキュースさん、大丈夫ですか!)

 

 その間、倒れ伏すアグルに意識を向け、その中にある光―ラキュースさんに声をかける。先ほどはどうやって声をかけることが出来たのかよくわからないが、関係はない。ゼルガノイドはその怪力で抑え込む自分を振り回して振りほどこうとしているが、何とかこらえつつ、問いかけを続ける。

 

(…ぁ、ぁあ…)

(!ラキュースさん!?)

 

 そして、微かにだがラキュースさんの声が聞こえた。思わず、名前を呼ぶ。だが、彼女の声はかなり弱弱しい。やはり、ダメージが大きかったのか?

 ―その考えが間違っていたと気づくのに、時間はかからなかった。

 

(…めて、やめて、やめて…)

(ラキュースさん!?どうしたんですか!?)

(やめて、やめて、やめてやめてやめてやめて)

(…え)

 

 聞こえてきたその声に、思わず力が緩みそうになる。ゼルガノイドはこれを機と見たのか一気に動こうとするが、何とか拳が相手の顔面に間に合い、動きを封じることに成功した。

 そのまま、意識をラキュースさんの方に向けなおす。ラキュースさんは壊れた機械のように、同じ言葉を繰り返していた。

 

(やめてやめてやめてやめてやめてやめて、やめてやめてやめてぇぇぇぇ!)

(ら、ラキュースさん、しっかりして!)

(嫌、嫌嫌嫌!これは、違う、この感触は、違う!これは、私じゃない!)

(…ラキュース、さん…!)

 

 ラキュースさんは、自分の問いかけに反応することなく、何かから逃れようともがいてた。しかし、荒れる彼女の心とは裏腹に、体たるアグルは、ピクリとも動かない。心と体が、一致していないのだろうか?

 何はともあれ、これはまずい。必死にゼルガノイドを抑えつつ、ラキュースさんの声を聴くという、余裕のない戦いが続く。

 

(変わってる、変わってる変わってる!私は、変わっていく!やめて、やめてよぉ…)

(…しっかりして!ここには、まだ敵が…!)

(もう私の感覚がない、私はここにはいない…誰か、誰か助けて…!!)

(…!)

 

 …ああ、そういう事なのか。彼女の心は、今壊れている。バラバラになって、感情が垂れ流しになっている。ひょっとしたら、今の彼女にはもう何を言っても無駄なのかもしれないのでは、とそんな考えが自分の中によぎる。そんな絶望を肌で感じたからか、不意に自分の力が抜け、押さえ込んでいたゼルガノイドの力で投げ飛ばされてしまった。

 

(ぐぅ…!)

「グォッ…!」

 

 そして、ゼルガノイドは容赦なく、自分の背を踏みつけてくる。肺から空気が抜けたような、そんな感覚が自分を襲う。さらにゼルガノイドは、自分を何度も踏みつけ、的確にダメージを与えてきた。

 …ダメージを受け続ける自分の頭が、次第にラキュースさんへの呼びかけを諦めるという考えに染まっていく。そもそも、今の彼女にこちらの呼びかけに答えられるほどの余裕があるとは思えない。呼びかけることが意味を持たないというのなら、ここは、彼女の事は後回しにして、先にこいつをどうにかして―

 

(…それで、いいの?)

 

 自分の出そうとした結論に、他ならぬ自分が反論する。果たして、それでいいのか?あんなに苦しんでいる彼女を見捨てて、それで勝てばいいのか?それが、本当にウルトラマンなのか?

 …違う、そうじゃない。自分は、なんのために結局戦おうと決めたのか。その理由は、ただ一つ。大事な人たちを、守りたかったから。大好きな皆に、笑顔でいてほしかったから。その為に、自分はウルトラマンとして戦うことを決めた。そういうウルトラマンであろうと、そうこの光に誓ったのだ。あそこで今苦しんでいる…いや、これまでも苦しんできたであろうラキュースさんを、見捨てることはできない。やっと見つけた唯一の同胞を、見捨てたくなんて、ない。ならば、やる事はただ一つ―

 

(―ラキュースさんを、助ける!だから―)

 

 ―自分に、力を貸して。心の底から、自分の纏う光―ガイアに向かって、希った。

 そして、奇跡は起こる。

 

(…!?これは…!)

 

 気がつくと、自分の周りを、金色の光の粒が包んでいる。と思ったら、今度は村の方から、間欠泉のごとく光の奔流が溢れ出していた。あれは、なんだ?

 …待て、ここは、そもそもどういう場所だった?ここには確か、遺跡があって。そしてそこには、光の巨人が、石となって眠っていて―

 

(―まさか!)

「!?ダァァッ!?」

 

 その事実に自分が思い至るのと、ゼルガノイドが光に弾き飛ばされるのは、同時だった。そして、周囲を飛んでいた金色の光は、そのまま自分の『ライフゲージ』に吸い込まれていく。光が入ってくるごとに、自分を蝕んでいた痛みが消え、胸の苦しみも和らいでいく。力がみなぎり、傷が癒されていき、そして赤く点滅していた『ライフゲージ』は、青い光を取り戻した。

 何故、彼らが力を貸してくれたのか、それはわからない。だが、この奇跡を無駄にするわけにはいかない。そして、ならば何をすればいいのか、その答えはすでに分かっていた。

 

(…ありがとう、ガイア)

 

 この状況を導いてくれたであろう光にそう心の中で告げ、自分は起き上がる。先ほどまでとは打って変わって力に満ち溢れた自分の体を確認し、そのまま倒れ伏すアグルに近づく。アグルの中からは、いまだ苦しむラキュースさんの声がした。

 

(嫌、いや、いや…)

(…ラキュースさん、今行きます)

 

 苦しむラキュースさんにそう告げると、うつぶせになっていたアグルの体を起こす。今まで必死になっていたからわからなかったが、アグルの『ライフゲージ』も点滅しており、自分も含めあまり時間は残されていなかったことを示していた。危ない所だった。

 なら、早く済ましてしまおう。自分は右の掌に意識を集中し、そこにガイアに教わった光の集め方をイメージする。すると、そこから赤と金の光が現れ、次第に溜まっていく。自分はそれを、アグルの『ライフゲージ』にかざす。

 ―そして、自分の意識は、別なところへ飛ばされた。

 

「…ラキュースさん、今来ました」

「…アルシェ、なのね?」

 

 そこは、満天の星空が広がる空間だった。足場もなく、果てもないこの場所で、自分とラキュースさんだけが存在している。自分の問いかけに、意外にもラキュースさんは冷静に返してくれた。ラキュースさんはそのまま、自分の手を悲しげに見つめつつ、言葉を続けた。

 

「…ごめんなさい。今は落ち着いているけど、取り乱してしまったわ」

「そう…ですか。落ち着いているなら、いいんですけど…」

「…やはり、私は怖いのね」

 

 ラキュースさんは自嘲するかのような口調で、そう告げる。彼女は、この状況を許せないのだろうか。その口調のまま、彼女の言葉は続く。

 

「あの時、あの巨人の攻撃を受けて、私の体を痛みと熱さが走った。…その感覚は、私がこれまで味わった何よりも激しいものだった。けどそれ以上に、私が感じたのは、ウルトラマンの痛みだった」

「ウルトラマンの、痛み…」

「ええ…私ではない、別な存在の感覚。それを私は、無理やりつなげられたような形で過ごしてきた…先程は、その感覚が激しかった分、私は、私ではなくなったことを自覚させられて、混乱してしまった…」

 

 そう言うと、彼女は目を伏せ、うつむいてしまう。…ようやく、わかった気がする。要するに、彼女はウルトラマンを生理的に受け付けられないのだ。ウルトラマンになった時、いつもと微妙にズレのある感覚を、彼女は受け入れられない。それがただ動くだけでもダメなのなら、あのゼルガノイドの一撃クラスならああなるものなのだろう。これは、自分にはまるで分らない感覚だった。

 ゆっくりと近づき、怯えているであろうラキュースさんの手を取る。驚くラキュースさんの顔が、少しだけおかしかった。彼女と目と目を合わせると、そのまま語りかけた。

 

「…大丈夫、ラキュースさんは、人間です」

「アルシェ…」

「そういう風に、自分に怖いものがあって、苦手なものがあって、それを恐れることが出来る、悔やむことができる…それって、すごく、人間らしいことなんです。だから、そう考えることが出来る限り、ラキュースさんは何があっても、ラキュースさんという人間であり続けられるんです」

「…ありがとう。でも、私が人間だったとしても、この感覚は拭えない。拭えなくて、戦うことが出来ない私なんて、ウルトラマンらしくない…」

「…いえ、そんなことはないですよ」

「え…?」

 

 自分の言葉に、ラキュースさんは不思議そうな顔を見せた。自分も、その顔を見つつ、思い出す。ここではないどこかで、ウルトラマンとして戦った者、その中でも、ウルトラマンという存在に苦しんだ者を。

 

「…自分や、ラキュースさんではない、別な場所のウルトラマン達にも…そのウルトラマンに変身する人たちにも、自分が何者なのか、そう悩み続けた人たちがいました。恐怖や、一時の迷いで戦えなくなったウルトラマンも、たくさんいます。彼らは最終的には立ち上がりましたけど、そういう面を含んでのウルトラマンなんです」

「…そう、なの?」

「はい。だから、ラキュースさんも、苦しい思いがあったからって、それで戦いづらいからって、そんなことであなたがウルトラマンにふさわしくない事なんてない。あなたにはまだこれからがある。転んでも、また立ち上がればいい。泣いても、また笑えばいい。それができれば―あなたは、ウルトラマンです」

「…そんな見方、したことなかったわ」

 

 ラキュースさんは意外そうな口調で、感慨深そうにそう告げる。そこまで告げた所で、自分が彼女の言葉から出た問いを思い出す。ウルトラマンが、怖いものなのか?…不思議なことに、いつの間にか問いかけを忘れていたその問いに、今はすらりと答えが出てきた。

 

「…自分も、ウルトラマンになるのは怖いです」

「え?」

「自分がウルトラマンの事を知っているからって、その知識上のウルトラマンと今の自分が同じという保証はどこにもない。だから、自分がどうなるかなんて、想像もつかない。だから、ラキュースさんと同じで、自分も怖いんです。…ラキュースさんが自分の前で告白してくれて、今更怖気ついてしまいました。最初に気がつくべき事だったんですけどね」

「そんな…私の、せいで…?」

 

 そう告げるラキュースさんは、申し訳なさでいっぱいのようで、今にも泣きだしそうに見えた。自分は彼女の手を握りしめ、「気にしないでください」と伝える。

 

「むしろ、ありがたかったんです。今まで、自分が見て来なかったことを、見ることが出来ましたから。…それに、あなたと一緒になれて、あなたの気持ちがちょっとだけわかって、嬉しいくらいです」

「アルシェ…あなた…」

「…だから、ラキュースさん」

 

 そう言って、自分はラキュースさんにぐっと近づく。ラキュースさんはそんな自分の行動に驚いているが、動く気配はない。一番重要なことを伝えたかったから、これはありがたかった。彼女を逃がさないようにして、言葉をつむぐ。

 

「―あなたはもう、一人じゃない」

「…!!」

「あなたの受けた呪いは、自分にもかけられました。これから自分は、あなたのように悩んで、怯えて、苦しむことになるでしょう。あなたと、同じで」

「それは「だから、一緒にがんばりましょう」…え」

「距離は離れることになっても、自分はあなたと同じです。だから、同じようにウルトラマンと、そして人間として生きて、苦しんで、楽しんで…もしその先が人の道を外すものだったとしても、自分だけは、あなたと一緒にいます。あなたと同じ場所にいます。だから―もう、あなたは、一人じゃない。もう一人で、苦しむことなんてないんです。同じ自分が、一緒ですから」

「…あ」

 

 ラキュースさんは、自分の言葉に、ただ声を漏らした。そして、瞳からは、一筋の涙が流れた。ああ、どうやら少しは、自分の言葉が伝わったらしい。少しだけ、安堵した。

 …あなたはウルトラマンとして、自分と変わらないと伝えたかった。そんなに自分の事をすごいと思う必要はないと言いたかった。だがそれ以上に、あなたは一人ではないと伝えたかった。自分も、ウルトラマンとして戦う事を、今まで共有できたことはほとんどない。だから、ウルトラマンになって一人でその力を抱えていた。そしてそれはラキュースさんも同じだろうと、勝手に考えていた。彼女は自分のような、前世の記憶がある人ではなく、またそんな人と会った様子でもなかったから。だから、もう一人で苦しむ必要が無いんだってことを、自分は伝えたかったのだ。…自分も、一人でウルトラマンが怖くなったことを、抱えられる自信はなかった。我ながら、どうしてその答えにたどり着けたのか、記憶をたどってもわからないが―この答を得ることが出来たのは、自分と彼女にとって大きな一歩になった、と思う。

 さて、ラキュースさんは声もなく、ただただ自分の前で泣いている。彼女の涙を自分の手で拭い、なるべく笑って、彼女に語り掛けた。

 

「大丈夫ですよ、自分も、そこそこウルトラマンやって平気ですから。だから、変な変わり方する事なんて案外杞憂だったりするかもしれません」

「…アルシェ」

「それに、村の前での話に戻りますけど、そんなに自分をすごいだなんて思う必要はないです。自分もいっぱいいっぱいだったし、皆がいなかったらここまで来ることはできませんでした。だk「アルシェ!」―うぷ!」

 

 突然、視界が硬めで大きな何かでふさがれた。それがラキュースさんの胸のアーマーだという事に気がつくのに、少しの時間を要した。というか、これ現実同様硬いのか。ちょっと驚いた。

 彼女は自分を抱きすくめたまま、絞り出すように口を開いた。

 

「怖かった、苦しかった…皆がいるのに、わかってもらえる人がいないことが、何よりもつらかった!」

「わぷ…ラキュース、さん」

「私が怖いと思っても、それを理解してくれる人なんて、いなかった!皆心配してくれたけど、私はどこまでも一人ぼっちだった!皆自分の事がわからない顔をして、でもつらそうで、それが嫌で、もう嫌な思いをさせたくなくて、抱え込んで…っ!」

「…わかります。ウルトラマンって、少ないですから」

「うん…だから、あなたが一緒にいてくれるって言ってくれて、うれしかった!私と一緒で、ウルトラマンが怖いって言ってくれたこと、嬉しく思ってしまった…ごめんなさい、許して、ほしい…!」

「大丈夫ですよ。自分は離れません。心は、ずっと一緒です」

「―あ、ああああああ!うあああああああっ!!」

 

 そうして、彼女は思いっきり泣いた。今までの苦しみを、吐き出すように。力強く抱きしめてくる彼女を、自分は甘んじて受け入れた。

 そして、しばらくったった後、彼女は泣き止む。少し顔を赤くして、それから周囲を気にするようにした後、自分に語り掛けた。

 

「ご、ごめんなさいね。見苦しい所、お見せしてしまって…」

「大丈夫ですよ。ここには、どうやら自分とラキュースさん以外いませんし」

「そう…そ、そういえば、ここも不思議なところね。外は、今どうなっているのかしら」

 

 ラキュースさんは気を紛らわせるように、周囲を見渡す。それに合わせるように、自分も周りを改めて確認した。

 …やはり、満天の星空が広がるばかりだ。ここは、自分とラキュースさんの力が作った心の世界みたいな場所かと思っていたが、何かが違う気がする。そんな思いが、自分の中にあった。

 そんなことを考えていると、突然星々が強く輝き―それらが一斉に、自分たちの元に殺到する。

 

「えっ!?」

「!アルシェ、こっち!」

 

 驚く自分を、ラキュースさんが引っ張り込む。彼女の懐で、周囲に光が集まる事を確認する。光はこちらと一定の距離を取り、強く輝いて自分たちを取り囲んでいた。

 そしてその光が強く輝くと、自分の頭の中に声が聞こえた。

 

「…止めて、ほしい?」

「え、これって…アルシェ、あなたにも聞こえるの?」

「え、ええ…」

 

 どうやらラキュースさんにも声が聞こえているらしく、戸惑いつつも彼女の問いかけに応えた。周囲の光は、輝きつつも自分に一つの事を伝えてくる。―どうか、止めてほしい、と。

 しかし、止めてほしいとはどういうことか?

 

「…アルシェ、この光が言っている事って、どういう事なのかわかる?」

「…少し、考えてみます」

 

 ラキュースさんも同じことを考えていたみたいで、彼女から質問が出る。自分もとりあえず、考えてみることにする。外がどうなっているのか気になるが、それはそれだ。

 さて、まずは語り掛けてきたこの光の正体から考えてみよう。といっても、これについては見当がついている。彼らは、この地の遺跡内部にいた光の巨人の石像、その中に眠っていた光だ。出てきた場所、こことは違うどこかのルルイエの遺跡で起きた奇跡と今回のケースの類似性からそう考えられる。なら、彼らが止めてほしいと思うのは何者か。この場にあるものは―そうか!

 

「…わかりました」

「!…それで、彼らは何を求めているの?」

「彼らは…ゼルガノイドを、操り人形になった自分たちの同胞を止めてほしいんです」

「…同胞…」

 

 ラキュースさんは、あまりよくわかっていない様子で、その言葉を口にする。しかし自分には、それ以外の答えは思いつかなかった。

 そもそもゼルガノイドは、先ほど戦っていたテラノイドにスフィアが融合した姿。そして、テラノイドは村長の言葉からも、光の巨人達の一部をかき集められて作られた、いわばフランケンシュタインの怪物なのだ。そう考えれば、彼らはゼルガノイドあるいはテラノイドを止めてもらうことで、もうこれ以上誰かに自分たちの仲間の一部が利用されるのを止めてほしいと考えるのが自然だろう。

 そのことをかいつまんでラキュースさんに話すと、彼女も納得したようで、光を見る目が少し変化したように見えた。

 

「…なるほど、それで、私たちをここに呼んだ…そういう事なのね?」

「ええ、おそらく…自分たちが話をすることが出来たのは、彼らなりの配慮、みたいなものかと…」

「…なら、それに応えなくてはね。アルシェ、協力してくれるかしら」

「…いいんですか?」

 

 ラキュースさんの言葉に、若干驚く自分がいる。彼女は、どう見てもウルトラマンの力を使う事に乗り気には見えない。そんな彼女が、自分よりも先にそういうことを言い出すとは。

 だが彼女はそんな自分を察したのか、苦笑しつつ「私も恩知らずではないもの」と告げた。

 

「あなたとの語り合いは、私にとって重要な事だった…それをセッティングしてもらったんだもの。これくらいなら、何とかこなして見せる」

「ラキュースさん…」

「…でも、今までまともに向き合ったことのないウルトラマンの力を、こうやって振るうのにはまだ勝手がわからない…だから、お願い、アルシェ。あなたの力を、貸してちょうだい」

「…はい!」

 

 ラキュースさんの不安げな顔から洩れた問いに、力強く答える。その甲斐あってか、彼女は安堵したような、綺麗な笑顔になった。

 そしてその瞬間、周囲の光も再び動き出す。彼らは自分の周りを高速で旋回し、いくつもの光の筋となって自分たちを覆う。そしてその筋から、自分とラキュースさん目掛け、光が伸び、貫いた。

 

「あ―」

 

 思わず、自分の口から言葉が漏れた。それと同時に、自分の中から何かが湧き上がってくるのを感じる。

 

(…これは、記憶)

 

 湧き上がってきたのは、自分の記憶。前世の事、今の世界の事。ウルトラマンに関わる事、今の生活に関わる事。そして大事な人たちの記憶が、泡のように現れては、はじけて消えていく。そんな不思議な感覚が、光と共に自分を貫いていた。

 そして、不意に現れたひときわ強い光で、自分の心象から引き戻される。自分とラキュースさんの中から現れたその光は、自分たちの変身アイテム―『エスプレンダー』と『アグレイター』からあふれ出ていた。それらはまばゆい光を放ちつつ、周囲から伸びる光を取り込み、輝きを増していく。そしていくらかの光を取り込んだところで、爆ぜたような白い光を放った。

 その光が止んだ後、自分たちの前に在ったのは、まるで違うアイテムだった。

 

「え…これは、一体…?」

「な…どうして、これが…?」

 

 ラキュースさんが戸惑いの、自分が驚愕の声を上げる。自分たちの目の前にあるアイテムは、それだけ衝撃的な姿に変貌していた。そして、それらすべてを、自分は知っている。

 まず見えるのは、二つある青いアイテム。両端にハンドルがあり、中央には何かをはめる台座のようなものがある。それは、まさしく『ルーブジャイロ』そのものであった。

 続いて目に入るのは、二つある透明な結晶。後ろには三つの角のようなものが折りたたまれているのが見え、一つは橙色、もう一つは青色。橙色の結晶は正面にガイアの絵と『地』の文字、青色の結晶にはアグルの絵と『海』の文字が浮かぶ。まさしくこれは、ガイアとアグルの『ルーブクリスタル』であった。

 そして最後に見えたのは、一つだけのアイテム。短剣の柄に円形の発光体が備え付けられたそれは、ウルトラマンオーブの力の発現の証、『オーブリングNEO』だった。

 なぜ、これらがここにあるのか。『エスプレンダー』及び『アグレイター』はどこに行ったのか。いろいろ疑問は尽きないが、正面のアイテムを見ていると一つだけわかる事がある。このアイテム達こそ、同胞を止めてほしい光の巨人たちがくれた力。これが、彼らなりの報酬のようなものという事が。

 自分はアイテム群を少し見つめ、ラキュースさんの方を見る。ラキュースさんも同じタイミングで自分の方を向き、視線がぶつかる。そして一瞬の間があき―彼女が大きく頷いたのを見て、自分も頷き返した。どうやら、何をすればいいのか、わかったらしい。

 意を決し、自分とラキュースさんはほぼ同時に、目の前のアイテムに手を伸ばした。

 

「「セレクト!クリスタル!」」

 

 まずは『ルーブクリスタル』を取って、後ろの角を開く。自分は二本角、ラキュースさんは一本角を選択して開き、『ルーブジャイロ』にセットする。

 

≪ウルトラマンガイア!≫≪ウルトラマンアグル!≫

 

 ほぼ同時にジャイロの中心の透明な部分が展開され、そこから声が鳴り響いたのを確認した後、自分たちはこれまた同時にジャイロを天高く掲げ、言霊を紡ぐ。

 

「纏うは大地!生命の営み!」

「纏うは大海!生命の育み!」

 

 そして、ジャイロのハンドルを引っ張る。中央の透明な部分が回り、星々のように輝いていた光が筋のように走る。そしてそこから光が溢れ出すとともに、自分たちは自信が纏う光の名を高らかに叫んだ。

 

ガイアァァァァァァァァァァ!!

アグルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 ―そして、自分たちは現実に戻る。地面が近づき着地した時、自分はいつも通りの、ウルトラマンガイアだった。

 …いや、違う。これまでとは、明らかに違うところがある。

 

「これは…」

 

 自分の腕を見る。そうして自分の目に映し出されるのは、ウルトラマンガイアの腕だ。ここまではいつも通り。だが、今はそれだけではなく、ガイアの腕と重なるようにして、自分自身の腕が見えていた。

 それだけではない。今自分は、ウルトラマンガイアの中ではっきりと人の形をとっている。周りの空間は赤く燃えているようで、そこに自分が浮かんでいるのを知覚できる。今の自分はウルトラマンガイアとして外が見えるのと同時に、ガイアと共にある自分の体を把握できていた。

 

「…まるで、インナースペース」

 

 この状況を表すのにぴったりな単語が、思わず口から漏れる。そう、今の自分が浮かんでいるのは、新世代ヒーローズでおなじみとなった、ウルトラマンの中の人を表す空間、インナースペースそのものだった。

 これは、あのジャイロの効果なのか?そう思ってすこし自分の周りを探ると、果たしてそこには『ルーブジャイロ』及び『ルーブクリスタル』があった。やはり、これが原因なのか?そういえば、アレはどこに…?

 

「ダァッ!」

 

 その思考は、突然の咆哮で遮られた。見るとそこには、ゼルガノイドの姿がある。今まで視界に入ってなかったが、ゼルガノイドはこちら目掛けて突進の構えを取っていた。まずい。ここは回避するか、受け止めるか。判断しようとしたその時、再び思考を遮る声がした。

 

≪ゼットシウム光線!≫

 

 それは、自分の後方から聞こえた、まさしく『オーブリングNEO』の音声だった。見れば、自分の後ろで右手を奥に構える『ゼットシウム光線』の構えを取るアグルがいる。その中には、光ではなくはっきりとした人の形で、同じ構えを取るラキュースさんの姿が見えた。

 

「アァァ…デゥアァッ!!」

 

 そして、掛け声とともに右腕が左腕に叩きつけられる形で十字が完成し、そこから『ゼットシウム光線』が発射される。発射された光線は迫りくるゼルガノイドに見事直撃し、独特の花火のようにはじける音、そして肉を引き裂くような音を残し、ゼルガノイドを押し出す。その一撃はゼルガノイドを倒すに至らなかったが、ダメージは与えたようで、そのままゼルガノイドを押し出した。

 ゼルガノイドを吹き飛ばした後、アグルが自分の隣に立つ。その中には、笑顔を見せるラキュースさんの姿があった。

 

「…危ない所だったわね。これで、少しくらい借りは返せたかしら」

「い、いえ、ありがとうございます」

「そう?なら、よかった」

 

 そういって微笑むラキュースさんには、先ほど会話をする前に見られた混乱は見られない。ありがたいことだが、不思議でもある。そんなに簡単に解決することではなかったと思うが。そう思い、問いかけてみることにした。

 

「…ラキュースさん、その、大丈夫なんですか?」

「…ええ、そうね。さっきこちら側に戻って、この体を確認してわかったの…今、私は、ウルトラマンと私を分けて見ることが出来る」

「…分けて、見る?」

「ええ。ウルトラマンに変身しているけど、変わらない自分がいる。変わらない自分がいる事を、ウルトラマンである自分と分けて見つめることが出来る。自分がウルトラマンとは違う、人間のままだって実感できる…現金な話だけど、こういう風に変わった分、私は人間だって嫌でもわかるから、今まで見たいに取り乱すことはない。そんなところよ」

「…そうですか。それなら、良かった」

 

 どうやら、彼女は落ち着きを取り戻しているらしい。それを聞いて、少しだけ安堵した。

 つまり、今の彼女はおそらく自分と同じインナースペースの中に存在しており、そこに自分の元の姿が存在するのをはっきり確認できるのだろう。だから、変わってしまうことが怖かった彼女は、変わっていない自分を確認できることが出来るようになって、それで恐怖を軽減できるようになった。こんなところなのだろう。これがインナースペースの嬉しい誤算なのか、光の巨人たちがラキュースさんにあげたプレゼントなのかはわからないが、なんにせよ彼女にとってこれほどうれしいことはないはずだ。

 そこまで考えた所で、何かが動く気配をウルトラマンの感覚、それをインナースペースを通じ普通の感覚に戻して知覚する。こんな効果もあるのか、と思いつつ目をやると、そこには立ち上がるゼルガノイドが。奴はふらつきながらも、十字を組もうとしている。それを見て、思わずラキュースさんに叫んだ。

 

「ラキュースさん、敵の攻撃が来ます!…『オーブリングNEO』を使うので、ラキュースさんはそれを自分に渡して、後に光線で続いてください」

「もちろん、いいけど…これの使い方は大丈夫?私はこれを手に取ったら、使い方が頭の中に入ってきたけど…」

「大丈夫です。もう、頭の中に入ってますから」

「なら大丈夫ね…行くわよ!」

「はい!」

 

 自分が彼女の声にこたえると同時に、自分の元に『オーブリングNEO』が来る。これを使って、あいつを迎え撃つ。…自分もちょっと使ってみたくて、渡してくれなんて言ったのは内緒だ。

 とりあえず、リングの円の中心を押す。

 

≪スペリオン光線!≫

 

 すると音が鳴るので、自分は右腕を上に、左腕を横にする『スペリオン光線』の発射体勢に入る。左腕を閉じた状態から開き、目の前に円が発生したところで、正面に向かって十字を組んだ。

 それと並行し、アグルもまた必殺光線の発射体勢に入る。腕を胸の前で組み、それを入れ替えて開き、光を結集したところで右腕を後方に持っていく。そして右腕を縦にして突き出せば、『アグルストリーム』が完成だ。

 それに対し、ゼルガノイドも十字を組む。相手の方が早く、先に光線がこちらに向かってくるが、もう遅い。

 

「オアァァァ…デュオッ!」

「デゥワ!アアァァァ…デゥアッ!!」

 

 相手の光線に対し、自分たちが放った『スペリオン光線』及び『アグルストリーム』が飛んでいく。光線は激突し、拮抗するが…それも一瞬。二人のウルトラマンの光線がウルトラマンではない怪物の光線に負けるわけもなく、一気に押し返して吹き飛ばした。

 …だが、驚くことに相手はまだ生きている。とんでもないタフさだが…ここで、決める!意を決し、ラキュースさんに声をかけた。

 

「ラキュースさん!自分たちの気持ちを、一つに!」

「…わかったわ!」

 

 そういって、リングを握りしめつつ想起する。想起するのは、自分が戦っている理由。すなわち、自分が守りたい、大切な人たちの事。そのことを真っ先に想起したことに、特に理由はなかった。

 すると、自分の頭の中に、何かが流れてきた。それは自分が知っていたり知らなかったりする、人々のイメージだった

 

「…これ、ラキュースさんの…?」

「…ターマイトさん、それに他にも…これは、アルシェの…大事な、人?」

 

 自分の中には、『蒼の薔薇』の人々の姿がある。それだけではない。ラキュースさんとはまた違った美しさを持つ綺麗な女性、その傍に立つ騎士。ほかにも、たくさん…これがラキュースさんの大事な人だと気が付くのに、時間はかからなかった。

 そして、それはラキュースさんも同じらしい。自分の思い浮かんだ大事な人を見て、ラキュースさんは感慨深そうに呟く。

 

「これが答えなの?この人達を守るため?仲間だから…みんなが、好きだから…!」

 

 何か答えを得たらしいラキュースさんは、自分の方に顔を向ける。自分と彼女、目と目が合って―気が付けば、お互い頷き合っていた。そう、今の自分たちの心の繋がりに、齟齬はなかった。

 それを確認し、リングに光をともし、ジャイロにセットする。セットしたジャイロを掲げ、ハンドルを操作すれば、そこから光と共に声が聞こえた。

 

≪トリプルオリジウム光線!≫

 

 その声に合わせ、ガイアとアグル、二人のウルトラマンが動き出す。目の前で円を作り、光を集めたら腕を合わせ、山を作る。山の頂に次第に光が集まると、そこに新たなウルトラマンが現れる。彼の名は、ウルトラマンオーブ・オーブオリジン!

 現れたオーブが手で円を作ると、そこに光のサークルが現れる。サークルに火・水・風・土を表す四つの輝きが宿ったのち、自分たちもまた光に合わせ腕を動かす。光が最大限集まった瞬間、自分とラキュースさんは思いっきり叫んだ。

 

「「トリプルオリジウム光線っ!!!」」

 

 そして、ガイアとアグル、加えてオーブを含めた三大ウルトラマンが一斉に十字を組み、光線が発射される。発射された光線はサークルに直撃し、そのサークルからまばゆい光が放たれる。増幅された光線は一直線に、立ち上がったものの限界なのかふらつくゼルガノイドに向かっていき、直撃。かの獣人を光で包みこみ―そして、大爆発。爆発が終わるとそこには、もうゼルガノイドの姿はなかった。

 …終わった。とうとう、決着がついた。隣のアグルを見ると、同じことを考えたようで、自分の方を向いていた。目と目が合い、なんとなく腕を出す。アグルもまた腕を出し、それを合わせ、打ちつけ合った。

 そして、自分たちの周りを、光が囲っている。よく見ると、ゼルガノイドがいた場所からも光が現れ、こちらの光と合流していく。自分たちもまた、次第にウルトラマンの姿がほどけていき、光となる。光と光はやがて交わり、夜空の彼方へ飛んでいく。

 夜空に一つ、大きな星が瞬いていた。




ラキュースですが、インナースペースが生まれたことで「ウルトラマンになっても変化していない自分」を確認できるようになり、その事がそれ以前の会話と共にウルトラマンに対する見方が変わるきっかけとなったためある程度ウルトラマンへの嫌悪及び恐怖を克服できました。いやぁ、よかったよかった。今の彼女にとっては。

~用語解説~
『ソルジェント光線』
ウルトラマンダイナ・フラッシュタイプの必殺技。ダイナ以外にもテラノイド及びゼルガノイドが使用可能。スペシウム光線とほぼ同じ動作で発射され、発射されるのは青白い光という点、着弾時オレンジの輪が出る点が特徴。平成ウルトラマンは光線使用時溜めポーズを取るのが特徴だが、ソルジェント光線にはそれが無い。スペシウム光線そっくりの場合がある。溜めがある強化タイプもあり、作者はそっちの方が好き。発射時のエフェクト、光の色、音などすべてが美しく作者好みの技である。

『フォトンクラッシャー』
ウルトラマンアグル、及びウルトラマンガイアV2の必殺技。しなりの少ない青のフォトンエッジといった感じで、実際頭部から出る点、原理がほぼ同じという点でフォトンエッジと酷似している。アグルが使用するほか、アグルの力をもらったガイアV2も使用可能。発射するときは直立したまま、光を頭部から延ばした後相手に振りかぶる形をとる。

『ビームスライサー』
ウルトラマンダイナの牽制技。いわゆる手裏剣光線。フラッシュタイプ及びミラクルタイプで使用され、ネオダランビアのバリアを破壊したり、シルバック星人を撃破したりしている。ウルトラ銀河伝説で宇宙竜ナースをバラバラにしたのもこの技。

『超合成獣人ゼルガノイド』
犯されて寄生されるとかレベル高いな円谷プロ…ウルトラマンダイナ第49話「新たなる影」にて、エネルギー残量考えず必殺技ブッパしまくった結果無様にやられたテラノイドにスフィアが融合し、スフィア合成獣となった姿。技はテラノイドが使えるものを網羅しているほか、スフィアの鎧に亜空間バリアといった防御手段を持ち、スフィアを介したエネルギー供給を受けられるなかなかトンデモな怪獣。ダイナ本編では、ある事情によりエネルギー切れ寸前のまま返信せざるを得なかったダイナを追い詰めた。今回は取り込んだテラノイドがエネルギー一杯の状態だったこと、またテラノイドが複数の人間を使って作られたダイナ本編以上の光エネルギーを注入されて作られたこともあって、ガイアとアグルを窮地に追い込んだが、テラノイド化された同胞を救いたい超古代の巨人がガイアに呼応したため形成逆転。トリプルオリジウム光線の刑に処され、テラノイド化した巨人たちは光に還ったのであった。

『アグルセイバー』
ウルトラマンアグルV2の持つ光の剣。かつてのアグルブレードの強化系で、これをΣズイグル戦で使用した時、アグルが帰ってきた!と当時の作者は大興奮であった。アグルブレードより細身で、Σズイグルの胸元に捕らえられた我夢を絶技をもって救い出した。ワザマエ!

『超古代の巨人たち』
ティガの地にて吹き上がった光の出どころというか、正体。大体はティガ劇場版でのルルイエで起こった奇跡とほとんど同じ。こんな簡単に出していいの?と思われる方も多いと思われるが、作者はティガ本編最終回のグリッターの方が好きだからね仕方ないね。

『記憶』
思い出。アルシェがアルシェである所以。生まれた時からこれが人より多かったからこそ、今のアルシェがある。

『泡』
湧き出てくるもの。いずれ弾けて消える定め。

『ルーブジャイロ』
テコ入れその一。本命。ウルトラマンR/Bにて、主人公であるカツ兄とイサミが使用する他、愛染社長もよく似たAZジャイロを使用し、最近は美剣サキの持つオリジナルが現れた。クリスタルを中央にはめ込み、その力を開放する。このアイテムもエスプレンダーやアグレイター同様作られたものである疑惑があるが、詳細は不明。特徴として、かなりデカいことがあげられ、またその構造上変身アイテムとして他に類を見ない両手持ちである。アルシェたちの持つものは。エスプレンダーとアグレイターが変化したもの。なぜ現れたかは不明。

『ルーブクリスタル』
テコ入れその二。対抗。ウルトラマンR/Bにて、主人公であるカツ兄とイサミが使用するほか、愛染社長がオーブオリジンのクリスタルを持っていたり、美剣サキもウルトラマンとベリアルのクリスタルを持っていた。最近のウルトラマン恒例の、歴代戦士の力が入ったアイテム。他のアイテムと違うのは、戦士の力と言うより属性の力の比重が大きめだという点。アルシェたちが持つものはガイアとアグル、地と海のクリスタル。アグルのクリスタルはオリジナルなので、違ったら別に話を組むかもしれない。

『オーブリングNEO』
テコ入れその三。穴馬、というよりおまけ。トリプルオリジウム光線がかっこよかったので採用した。後悔はしていない。ウルトラマンR/Bにて、愛染社長がアレな方法で浄化したオーブオリジンのクリスタルをAZジャイロで起動、そこから出現した。愛染社長はウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツへの変身に使用しており、カツ兄とイサミもウルトラマン状態でこれを使う事でオーブの技を使用している。アルシェたちが持つものはオーブの力を使えるようにする機能を持つ。オーブダークへの変身能力を持つかは不明。

『インナースペース』
新世代ヒーローズお馴染みの、変身者がいる空間。作者はウルトラマンR/Bを見て、一般人のカツ兄とイサミがウルトラマン化した自分に取り乱さない理由を、この空間がある事で変わっていない自分を認識でき、また自分がウルトラマンを操っているように見せる他様々な補助効果があるからではと考えた。だからそういうのではないって。アルシェたちもジャイロを手にしたことでこの空間とそこに立つ自分を認識できるようになった。またウルトラマンの体から来る感覚がこの空間を介することで人間の時の感覚に近くなり、そのためラキュースは恐怖の根源が大分払拭された形となった。

『ゼットシウム光線』
ウルトラマンオーブ・サンダーブレスターの必殺技。オーブリングNEOを使う事でウルトラマンロッソとブルも使用可能。光と闇の力を使い、腕を十字に組むことで発動する。花火みたいな音や肉が割けるような音が特徴で、禍々しさ満点のままマガオロチやギャラクトロンといった強敵を爆散させた。なぜか技名を叫びながら撃つと効かないジンクスがあり、サンダーブレスターの力を制御可能になったオーブは大体技名を叫ぶためいまいち効かなくなった。アルシェたちはオーブリングNEOの力でこの技を使うことが出来る。

『スペリオン光線』
ウルトラマンオーブ・スペシウムゼペリオンの必殺技。オーブリングNEOを使う事でウルトラマンロッソとブルも使用可能。ウルトラマンとティガの光の力をひとつに集め、腕を十字に組むことで発動する。発射時に円が発生する(オーブの光線はだいたいそうだが)他、エフェクトの美しさに定評がある。スペシウム光線とゼペリオン光線の中間に近い場所に左腕を持ってくるのがポイント。不遇伝説がある事で有名。アルシェたちはオーブリングNEOの力でこの技を使うことが出来る。

『アグルストリーム』
ウルトラマンアグルV2の必殺技。ガイアのフォトンストリームに該当する技で、腕を大きく動かし光をかき集め発射する。フォトンストリームとよく似ていると思われがちだが、フォトンストリームの方が大きく体を動かす。超コッヴと超パズズ戦でガイアと共に初披露した。ガイアとの合体技・バーストストリーム時はL字になる。ところでゼットシウム、スペリオンに加えこの技を受けてそれでも立ち上がったのが今回のゼルガノイドなわけだが、やっぱり強すぎではないだろうか?

『ウルトラマンオーブ』
光の力、おかりします!!覚醒せよ、光の戦士。史上初!!合体から変身!さすらいの風来坊、クレナイ・ガイが変身する新世代ヒーローズ4人目の戦士。ガイさん=オーブという、セブン方式のウルトラマンでもある。作者は新世代ヒーローズの中でオーブが一番大好きであり、そこは愛染社長とも通じるところがある、かも。TV本編最強が本来の姿であるオーブオリジンで、ほかの形態を食わないというのも良いポイント。トリプルオリジウム光線時はウルトラマンロッソとブルの後ろに巨大な幻影状態で現れ、光の力をお貸ししてくれる。アルシェたちがトリプルオリジウム光線を発射するときも、同様に出現した。

『トリプルオリジウム光線』
ウルトラマンロッソ、ウルトラマンブルの合体技。オーブリングNEOをルーブジャイロにセットして発動。ロッソとブルが円を作った後、腕でO-50の頂を再現し力を集め、オーブオリジンの力をお借りして発射する。この技がホロボロス戦で発射されたとき作者は一目で心を奪われた。ゆえに、グルジオキング戦で早くも破られたときには心が痛んだのじゃ…まさかもう破られるとは…アルシェたちもまた、オーブリングNEOの力でこの技を使うことが出来る。一応、大技クラスである。

くぅ~疲れましたw これにて「新たなる巨人」は完結です!嘘です。もうちょっとだけ続くんじゃよ。
次回は10月24日水曜18時、いつもの時間に投稿予定です。ガイアも大事だけど、ルーブもよろしく!
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