どうにもならない、そんな時…なんだけどさぁ!   作:#任意の文字列

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そういえば、この作品のアルシェ、『フォーサイト』結成する直前からウルトラマン開始なのでウルトラマン二年やってるんですよ。一人ウルトラマンをやり続けて苦節二年、やっと他のウルトラマンと会えたわけですね。


新たなる巨人・破 後編

 ラキュースさんは言った。怖いと。ウルトラマンになる事が、怖いと。

 意味が分からなかった。一体ウルトラマンに変身することのどこに、恐れを抱くのかと。

 自分は知っている、ウルトラマンに、恐れる要素なんてない。

 なぜなら、

 ウルトラマンは、

 ぼくらの事を救ってくれる、

 ヒーローなんだから。

 

 …本当に?

 

 

 

「よこせ!ギジェラを、よこせ!」

「ちょうだい!ギジェラの花粉をちょうだい!!」

「ああ、頼む!あの夢が見たい、見たいんだ!!!」

 

 ―耳障りな声が、聞こえる。格子をたたく音が、ひどくうるさい。この檻の中は最悪だと、ヘッケランは心底理解する。だが、座り込む彼には、この檻を脱出するだけの気力がなかった。自分があの騒ぎに参加しそうになるのを抑えるのに精一杯だった。

 ふと、彼は下に向いていた視線を、前に向ける。そこには、彼の仲間がいる。檻の前の騒ぎに参加していないだけマシなのだろうが、彼女たちも座り込んだまま動かず、その顔に覇気はない。何気なしに、ヘッケランは声をかけた。

 

「…イミーナ、どうだ」

「…さあ。あなたはどうなの」

「全然、だな…ロバー、そっちはどうだ」

「…すみません、皆さん」

「そうか…」

 

 帰ってくる言葉も、それに応答する自分の声にも力が無い。辺りを見渡すと、自分たちのように項垂れている者、格子をたたき、涎をたらした獣のようにわめく者の二つに分かれていた。項垂れているものの中には、彼らが先ほどまで同行していた『蒼の薔薇』の面々、ガガーランとティア、ティナの姿もある。彼女達にも、やはり覇気がない。自分たち同様、そういうものを根こそぎ奪われているらしい。百戦錬磨のはずの彼女たちまでああなのだと思うと、少しだけほっとした。

 

「…いや、なんでだよ」

 

 安堵するなよ、バカ野郎。心の中で、ヘッケランは自重する。彼もまた、それだけ追い詰められていた。

 ―どうしてこうなったのか。ヘッケランは想起する。異変が起こったのは、新しい巨人を見せますと言われその準備があるとかで部屋に押し込められた後の事。突然、彼らを幸福が襲った。

 本当に素晴らしい夢が見れた。ヘッケランの中にはそれだけが記憶として残っている。どんな夢なのかは覚えていないが、絶頂期というのはまさにこの事だというのが嫌でも理解できた。

 夢が覚めたと思ったら、そこは牢獄だった。訳が分からないヘッケランの中に、まず浮かんだのは、夢の続きを見たいという欲望だった。彼は驚愕する。ワーカー歴二年、仲間のことより自分の快楽を最優先することは、こんな状況ではまずなかったのだから。だが、欲望は止められない。仲間の安否、自分の身の安全、そんなものよりあの快楽がほしい。その思いと闘っていると、檻の外から声が聞こえた。

 そこには、青い服装に身を包んだ者たちがいた。一目でわかる。アレはこの村の住人だ。彼らは自分たちを一瞥すると、口を開く。…最悪な事に、ヘッケランが周りに人がいると気がついたのはこの時だった。

 

『お前たちに与えられたものは、ギジェラ』

『ギジェラの花粉はお前たちを夢にいざなう』

『もしわれわれの言う通りにすれば、ギジェラをやろう』

 

 断っておくと、この場にいたものは全員同じ罠にかかり捕らえられた者たちである。そして、その中には冒険者やワーカー、傭兵など腕の立つものは存在する。そもそも、ここにはヘッケランの頼れる仲間がいたし、それ以上に強いはずの『蒼の薔薇』のメンバーがいたのだ。誰も武器を持っておらず、そこの檻があろうと、突破して村人たちを蹴散らす事は容易だった。

 …結局、その場にいる誰もが、村人たちに屈する道を選んでしまった。ギジェラの花粉は、それだけ彼らにとって誘惑的であり、ギジェラがもたらす毒も、彼らの力を奪うのには十分だった。ヘッケランもまた、最初は立ち向かおうとした。仲間も、『蒼の薔薇』も、同様に立ち上がった。

 だが、立ち上がったところで、ある事が頭によぎったのだ。もしこいつらを倒してしまったら、俺たちはギジェラにありつけないんじゃないか、と。その予感は、ギジェラの快楽と毒が蝕むヘッケラン達の足を止めるのに十分であり、やがて彼らは屈してしまう。あざ笑う村人の目と自分の目が合った瞬間、ヘッケランの心は折れた。

 

(…アルシェは、無事かな)

 

 ふと、ここにはいない仲間の事を考える。ヘッケランにとって、この場に最年少ながら知識の宝物庫であり、そして最も苦しい戦いをこなしてきた少女がいないという事は、救いだった。なぜなら、こんなみじめな自分を見られずに済んだから。彼女を連れて行った『蒼の薔薇』のリーダー、そしてそれについていったのであろう仮面の少女とともに逃げおおせていることを、ヘッケランは強く願った。

 そんな考えが彼の中をよぎっていると、檻の向こうに人影が現れる。そこでは村人たちが、虫けらでも見るような目でこちらを見ていた。

 

「よろこべ、ギジェラをやる」

 

 ―その瞬間、力のない自分の体が全力で格子の方を向いたのを、ヘッケランは遅れて知覚した。

 

「…バカが」

 

 思わぬ体の動きに、自嘲する。その声は、格子の前で激しくなった音と歓声にかき消された。

 

「ほ、ホントか!ホントなんだな!?」

「ギジェラ…ギジェラ、ギジェラ!ギジェラギジェラギジェラ!」

「はは、やっと、やっと夢が見れる!!見れるんだ!!」

「おい、おれ、俺に先にくれ!!早く!」

「何言ってる!私が先だ!!」

「いや、俺だ!!」

 

 歓声は罵声に変わり、やがて暴力となった。檻の中の囚人たちが相争い始めたその時、「静かにしろ!」という一喝が響く。それが村人の声だったからか、檻の中はすぐに静まり返った。

 

「…まったく。これだから現代人どもは。心配せずとも、全員連れ出す。だが、順番というものがある。…手を出せば、ギジェラはないと思え」

 

 村人はそう言うと、檻を開け、無防備にも装備もなしに中に入る。だが、その場にいる誰もが、檻の外に出ようとも、村人を襲おうともしなかった。

 

(…飼いならされやがって)

 

 心の中で、呟く。だが、結局自分も同類だと、ヘッケランは考えてしまう。お前も結局、何もしなかっただろ?という囁きを、ヘッケランは事実として受け止めるしかなかった。

 

「始めろ。うるさいから前にいる連中からだ」

 

 先ほど忠告を発した村人の指示に従い、数人の村人達が檻の中の者達を一人一人引っ張り出していく。入口に近い者達から無造作に選ばれ、檻から出た者たちは村人に誘導され、どこかへと連れていかれる。

 そして、気がつけばヘッケランの目の前にも、村人の影がある。ヘッケランが顔を向けると、指示を出していた村人の姿があった。

 

「…ふむ。今はこれだけでいいだろう」

 

 村人は外を見つつ、手で指示をする。檻から出ることを許されたのはここまでか、とヘッケランが理解すると同時に、後ろを振り向いた村人と不意に視線が合った。…村人は、嗤っていた。

 

「…おいおい、そんなに欲しがりな顔をするな。これも仕事なんだよ」

 

 その言葉は、再びヘッケランの思考を奪う。思わず、顔に手を当てる。その姿をみて、村人は腹を抱えて笑い出した。

 怒りが、ヘッケランに火をともす。気がつけば、ヘッケランは村人につかみかかっていた。

 

「てめぇっ…!!」

「ヘッケラン!」

 

 イミーナの声が、遠くに聞こえる。だが、もう彼に自分を止めることはできない。そのまま殴り掛かろうとして、彼は村人の余裕そうな表情を見た。意外な光景に、思わずヘッケランの動きが鈍る。

 殴られることに危機感を感じてない様子の村人は、固まったヘッケランに語り掛けた。

 

「いいのか?お前」

「何が…!」

「ギジェラが、なくなるぞ?」

 

 ―ギジェラ。その言葉が、再びヘッケランの動きを封じた。それがどうした、そんなもの知るか、と心の中でヘッケランは叫ぶ。だが、その思考の裏で彼は、未来を想像してしまう。すなわち、ギジェラを失った未来を。…結局、彼の動きはそこで止まる。それだけで、村人たちには十分だった。

 檻の外にいた村人たちが集まり、ヘッケランを引きはがす。掴みかかられた村人は、ヘッケランを一瞥し、彼に虫けらを見るかのような視線をぶつけると、そのまま檻の外へ出ていった。

 ―相手にする価値もない。そう判断されたのだという想像は、ヘッケランの心を再び打ち砕くのに十分だった。

 

「…ちく、しょう」

 

 投げ出された姿勢のまま発せられた呟きも、檻の中に消える。残されたのは『フォーサイト』と『蒼の薔薇』の面々のみ。静寂が檻の中を支配し、それはこの場にいる全員にとって苦痛でしかなかった。

 そして、いつ終わるのかわからない苦痛が、彼らを蝕み続ける。ギジェラがほしいという欲望に、負けじとこらえ続けたが、それも限界に近づく。どうにもならないと、全員が思ったその時。

 ―衝撃が、檻を揺さぶった。

 

 

 

『『夜襲する』』

 

 遺跡に向かうモモン、ラキュース、イビルアイ、そしてアルシェの作戦はシンプルだった。日が沈むとともに重要拠点であると思われる遺跡内部に突入、囮役が敵をひきつけている間に他の面々が救出に向かう。段取りを決めたのち、彼らは時間を待ち、駆けだした。因みにナーベは突入する面々の中にはいない。彼女はモモンの説得により、もしものために待機するという事になった。もちろん彼女は反対し、モモンについて行こうとしたが、お前にしかできないというモモンの説得により、折れる形で待機を承諾したのだった。

 

「…そろそろだな。皆、いけるか」

「はい、自分は大丈夫です」

「!は、はい!私も、大丈夫です!」

 

 遺跡が目前にみえた所で、モモンが両脇に抱えた二人の少女に声をかける。アルシェはいつも通りに応え、イビルアイもかつて自分がこうやって抱えられていたことを思い出し、そこから現実に引き戻される形で慌てて返事をした。彼女たちは足並みをそろえるためというモモンの要請で、彼に抱えられて移動している。その後ろには、ラキュースが追従している。

 

(…速い!)

 

 前方を行くモモンに対し、ラキュースは舌を巻く。彼女もアダマンタイト冒険者としていろいろ持て囃されているが、そんな彼女をしてモモンの身体能力は底が知れないと感じるほどだった。改めて、彼がここにいてよかったと、ラキュースは感謝する。そして、前方に広がる遺跡の中に意識を集中した。この夜襲は、必ず成功させねばならない。

 ―そもそもなぜ今夜行動に移したのか。実は、この夜襲は苦し紛れの策という一面を持つ。仲間は生贄にされる可能性があり、早急に動く必要がある。相手側の脅威になる存在は今の所ギジェラのみで、ギジェラは夜花粉を放出せずその間花粉の影響はなくなる。モモンとラキュースはここに目をつけ、今夜のうちに行動するほかないと決めたのだ。本当はこちらが村人の襲撃を突破したためそれを知られ準備されるよりもっと早く動くべきなのだが、そこはギジェラの効力を考えると弱まる可能性がある方を狙う方がいいと判断された。

 しかし、ラキュースは村に入り、ある事に気がつく。

 

(拍子抜けね…)

 

 村を見て、ラキュースは心の中でつぶやく。村には、人の気配が全く存在していなかった。

 ラキュースは村に入ったところで必ず戦闘になるのではと考えていた。そこはモモンや他の面々も同じことを考えており、陽動はそこで行われることも計画されていた。だが、村の入り口付近に人影は見当たらず、一行はそのまますんなりと村の中に入ることが出来た。

 舐められているのか、とラキュースは考える。彼女が記憶をたどれば、村人たちはギジェラの効力に絶対の自信を抱いていたように感じる。村人がいくらやられようが、ギジェラがあれば勝てるとか、そういう風に考えているのではないか?

 

(…いえ、油断は禁物よ)

 

 そこまで考えた所で、ラキュースは甘い考えを持った自分を叱責する。ひょっとしたら村人は重要拠点である遺跡にて待ち伏せしているだけなのかもしれないし、自分たちを捕えられるだけの算段をつけたのかもしれない。あるいは人質を取ってくるかもしれない。最悪の事態を想定し、それに対応できるよう、ラキュースは心の準備を整えた。

 そして、モモンが抱えていた二人を下ろし、ゆっくりと侵入する。遺跡の入り口付近は広いホールのようになっており、そこには、ラキュースの予想通り少なくない数の村人たちが待ち構えていた。村人たちの先頭に立っている人物―村長ではない―が、立ち止まった一行の方へ一歩進んだ。

 

「やはり来たか。外の連中が帰ってこないと思っていたが…ギジェラに不備でもあったか。馬鹿どもめ」

「…ああ、彼らならもう始末した。先に言っておく。返すべきものを返してもらえるなら、命までは奪わない」

「ふん!貴様ら現代人など、ギジェラで事足りる!…やれ!」

 

 モモンに応対した村人が命じると、後ろから何かを抱えた村人が出てくる。彼が抱えているモノは人の頭ほどのガラス玉で、中に黄色の何かが詰まっていた。それを確認した村人が、自慢げに言い放つ。

 

「これがギジェラの花粉だ!貴様ら現代人に合わせ原種の花粉に細工を施したこいつがある限り、我々の勝利は揺るがん!」

「…なるほど、大した自信だな」

「ほざけ!貴様らが外の連中を始末できたというのも、奴らがこれの運用を失敗したからにすぎん!夢の中に囚われるがいい!」

 

 そう言い放つ村人の指示で、ギジェラの花粉を抱えた村人が、それを頭上に掲げる。それが振り下ろされ、割られる事で花粉が飛び出す―

 

「〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉」

 

 ―よりも先に、イビルアイから放たれた雷が、村人を巻き込み直撃する。

 

「ぎゃっ!?」

 

 断末魔の叫びと共に、村人は焼き尽くされた。それと同時に、ギジェラの花粉の入った容器もわれ、花粉ごと完全に焼き払われた。後に残るのは、村人が残した、焼け跡のみ。

 

「…は?」

 

 さっきまで自信満々だった村人は、状況をなかなか飲み込めないでいた。後ろにいた村人たちも、困惑している。彼らの予想を大きく外れたことは、明らかだった

 

「…一応、念には念を入れて第5位階の魔法を使ったが…そこまで必要なかったな」

「いえ、容器の固さまではわかりませんから…ありがとうございます、イビルアイさん」

「感謝するのはこっちだ、アルシェ。…怪獣とはいえ熱には弱い、なら焼き払えばいい。お前の教えてくれた弱点を知らなければ、ここまで上手くはいかなかったよ」

 

 そう言いつつ、イビルアイはアルシェから顔を離す。向けた先には、漆黒の英雄の姿がある。

 

(…よし!モモンさまの役に立てた!やったぞイビルアイ!)

 

 …イビルアイは、通常運転だった。

 そんな彼女の事など露知らず、あちこちに視線を合わせていたアルシェは、やがて天井の一角を見つめ、そこを指さした。

 

「あそこです!あの方角に、皆さんがいます!」

「!…なるほど、本当に皆の場所がわかるのね。頼りになるわね、アルシェ」

「いえ、それほどでも…!」

 

 アルシェはラキュースの褒める言葉に対応しつつ、天井の方を見続ける。彼女の持つ真のタレント、魔力や生命力を見る瞳は、確実に仲間たちの見慣れた力を捉えていた。

 それを聞き、ラキュースはアルシェが指した方向を見て、その後頭上を見る。その眼には、決意が宿っていた。

 

「…アルシェ、あなた〈飛行(フライ)〉は使える?」

「その程度でしたら…」

「なら十分ね。イビルアイ、あなたも準備を」

「…おいおい、いやな予感しかしないぞ!」

 

 イビルアイのその言葉に、ラキュースは笑みを返す。そのまま彼女は、自身の持つ大剣『魔剣キリネイラム』を構え、それを思いっきり頭上に投げつけた。彼女の全力により弾丸のように飛ぶ剣は、古い遺跡の天井に突き刺さり、そこを粉砕する。土煙が晴れると、そこには大穴があいていた。穴からは別な天井と、そこに突き刺さった『魔剣キリネイラム』が見える。ラキュースの目論見通り、天井に穴が開き、別のフロアにつながる道が開いたらしい。イビルアイはその一部始終を見て、あきれたような声を上げた。

 

「…全く、荒っぽい…あの名前の長い技を使わなかっただけ褒めてやればいいのか?」

「さすがにそこまで考え無しではないわ。アルシェ、行きましょう」

「…え!あ、はい!」

 

 ラキュースの声で、あっけにとられていたアルシェも気を取り直し、自身に〈飛行(フライ)〉の魔法をかける。イビルアイもまた〈飛行(フライ)〉の魔法を使用し、ラキュースがその手をつかむ。そこでやっと状況に気がついたのか、村人たちもようやく動き出した。

 

「や、やれ!奴らを捕え「させると思うか?」ぐあっ!?」

 

 だが、飛ぶ彼女たちを捕えようとした瞬間、村人たちは唯一飛ばなかったもの―引き付け役のモモンの一撃で吹き飛ばされる。そこに気付いたアルシェたちから、声が掛けられる。

 

「モモンさん、お願いします」

「も、モモンさま…がんばって!」

「モモン、後は頼むわ!」

「…ああ、ここは任せて、先に行け」

 

 モモンの返事を聞き、アルシェたちは天井の穴に入り、別のフロアへと侵入を果たした。残されたのは、モモンと、気圧されている村人たちのみ。その内、先頭にいた村人が、泡を食って指示する。

 

「な、何をしている!早く、早くギジェラの次を持ってこい!」

「し、しかし、今のギジェラの備蓄は余裕があるわけでは…!」

「馬鹿!緊急用のあれでいい!早くしろ!」

「は、はい!!」

 

 指示を受けた後方の村人は、その勢いに押されるように、後方の階段へと向かう。

 

「〈真なる死(トゥルー・デス)〉」

「え…ぁ」

 

 だが、それは叶わない。次の瞬間、村人は階段の目前で、わずかなうめきだけを上げて倒れる。ピクリとも動かない姿を見て、ほかの村人は悟る―もう、死んでいると。

 そして、気がつけば、彼らの目前にいたはずの大英雄の姿がなかった。

 

「…サイボーグと言う事は、だ。心臓は機械に置き換えられていることが容易に想像できるため、〈心臓掌握(グラスプ・ハート)〉は効かない可能性がある」

 

 声がする。黙々と何かを語るその声は、大英雄の者と同じ。だが、何かが違うというのは、村人たちにも理解できる。村人たちは恐る恐る、声の主の方向に顔を向けた。

 果たしてその方向、背後の階段の付近に、それはいた。

 

「だが、アルシェ君の言葉通りなら、脳の老化を防止する必要があるくらいには、生物のままの部分があるという事。故に即死そのものは効果があると踏んだが…読み通りだったな」

 

 それは、高貴な衣装に身を包んだ骸骨。絶大なる力を持つ、至高の死の支配者(オーバーロード)

 

「さて…ナーベの心を犯した上、俺にあんなに良い夢を見せてくれたんだ…俺も全力で、貴様らに応えてやらんとな…!!」

 

 声に怒りをにじませたアインズ・ウール・ゴウンが、村人たちの前に現れた。

 

 

 

 …何か、妙な感覚がする。思わず、後ろを振り返ってしまう。

 

「…どうしたの、アルシェ」

「…いえ、なんでもないです」

 

 ラキュースさんに声を掛けられるが、自分もうまく答えることが出来す、誤魔化してしまう。後ろ、というか下ではモモンさんが戦っているはずだし、モモンさんの生命力も感じるのだが…よく、わからない。

 ひょっとして、モモンさんの言っていた切り札が関係しているのだろうか?モモンさんは作戦決行時、囮役は一人でいいと言い出した。当然自分と、あとナーベさんとイビルアイさんは反対したのだが、彼は頑なに意思を曲げず、結局押し切られたのだ。その時、彼は自分にはとっておきの切り札がある、今回はそれを使うと説得してきた。よほど自信があるかのような物言いだったので、確かにすごいものなのだろう。

 そんなことを考えていると、ラキュースさんから再び声が掛けられる。

 

「モモンさんの事が気になるのはわかるけど、彼なら大丈夫よ。なにせ王国を救ったアダマンタイト級冒険者、漆黒の英雄モモン。自分の事なら自分で何とかするでしょうし、ここは彼に任せましょう」

「…わかりました」

「その意気よ、アルシェ。…だから、イビルアイもそわそわするのをやめなさい。それとも何?あなたを救った英雄様は、こんなところでやられる程度の人なのかしら?」

「!!そ、そんなことない!そんなことないぞ!」

「ならいいじゃない。私たちは私たちのできることをやりましょう」

 

 そう言って、ラキュースさんは再び先頭を駆ける。それについていく形でイビルアイさんと自分も続く。どうやら自分に合わせているらしく、この中で一番技量も体力も低いであろう自分でも何とか追従できている。これには感謝するほかないし、同時に非力な自分が、恨めしい。

 …やはり、ラキュースさんは頼れる人だと思う。村の外で話をしている時とは違い、今は非常に生き生きとして、眼差しにも力が入っている。イビルアイさんはこれでも本来の彼女に比べたら固すぎるとのことらしいが、自分からしたら頼もしいことこの上ない。これが、本来のラキュースさんなのだろう。それだけ、彼女をああまで苦しめたウルトラマンの力が、彼女にとってどれだけ大きい問題なのかも、容易に想像できた。

 それにしても、今の所このフロアには誰もいない。フロアは遺跡を使っているのではなく、新たに切り出してできた道のようだが、人の気配は全く感じない。モモンさんの事をそれだけ無視できないのか、それとも村の規模からも人がそもそも少なかったのか、あるいはその両方か。なんにせよ、急ぐ自分たちにはありがたいことだ。

 そして、駆け抜ける自分たちはこのフロアの突き当りにたどり着く。そこにある扉越しに、見慣れた生命力を感じた。鍵が掛かっているが、まあ問題ないだろう。

 

「ここです。この中に、皆がいます」

「…わかったわ。他に誰がいるかまではわかる?」

「待ってください…いません」

「よし、イビルアイは外をよろしく…開けるわよ!」

 

 ラキュースさんがそう言い、扉を持っていた大剣で両断する。そして何らかのトラップがないことを確認し、ラキュースさんと二人で部屋の中に突入する。

 部屋の中には、大きな檻、というか格子がつけてあり、その中に複数の人影を確認する。『フォーサイト』の仲間たちと、『青の薔薇』のメンバーは、そこに全員そろっていた。皆がいたことの喜びで、思わず声が出てしまう。

 

「やった…皆、大丈夫!?」

「…アルシェ、か?」

 

 自分の言葉にワンテンポ遅れて、うつむいて座っていたヘッケランが顔を上げる。どうにも憔悴しているようだが、檻に入れられたからか、それともギジェラの花粉のせいか。どちらにしろ回復手段はそろっているし、何とかなるだろう。格子に駆け寄ろうとして、後ろからラキュースさんに引っ張られた。

 

「アルシェ、下がって…はっ!」

 

 ラキュースさんの気合のこもった掛け声とともに振り下ろされた斬撃が、格子にあった扉を両断する。扉を何とかどかして、皆の元に飛びつくように駆け寄った。

 

「リーダー、イミーナ、ロバーテイク!ああ、よかった…皆が、無事で…」

「…ああ、ま、傷一つないのは確かだわな」

「ええ、そうね…」

「…なんにせよ、あなたが無事でよかったです、アルシェ」

 

 三人がそれぞれ、元気がなさそうな様子で反応を示す。やはり、ギジェラの効力があるのだろう。まずは浄化魔法から試す。そう考え、魔法を行使しようとしたところで、ヘッケランから声が上がった。

 

「それにしても、まさか助けに来てくれるなんてな…一つ聞くが、お前、ギジェラは大丈夫だったのか?」

「?あんなもの、自分には効かない。そんなものがあっても、自分は助けに来れる」

「…ははは!そうか、そうか!」

「…リーダー?」

 

 自分の言葉を聞いて、ヘッケランが笑いだす。どうしたんだろう、様子がおかしい。戸惑っていると、「ああ悪い悪い」と、ヘッケランが頭をなでてきた。

 

「…どうしたの?」

「いや?お前ってすげーな、って思っただけだよ。俺なんかじゃ敵いっこないって、分かったっていうかな」

「リーダー…?」

 

 後ろにいたイミーナからも、ヘッケランに対して戸惑いの声が上がる。ロバーテイクも、不安そうな表情をしている。…たぶん、ギジェラの花粉のせいだろう。止めないと。

 

「リーダー…あなたは、たぶんギジェラの花粉のせいで少し弱っている。安心して、自分がすぐに治す」

「…へっ、治せるとまで来たか…ところで、お前はどうも平気だったみたいだがよ、なんで平気だったんだ?」

「…それは」

 

 それは、ウルトラマンだからだと思う。だが、それはこの場で言うべきか…?彼にはすまないが、ぼかす他ない。

 

「…ごめん。自分が、自分だからとしか、言えない」

「…そうか。まあでも、それは要するにお前がすごいからなんだってことだろ?やっぱりお前はすごいんだよアルシェ、俺たちが拾ったその日から魔法や知識で頑張ってくれて、新しい商売のやり方を思いついて、そして…俺たちの知らない所で、あんなに頑張りやがって。お前、少しは誇らしくなっていいんだぜ?」

「…それは、ありがとう」

「…それにくらべりゃ、俺なんてどうしようもない屑だ」

「…何を言っているの?」

 

 …なんだ?ヘッケランは、何を言おうとしている?止めたいが、ヘッケランの悲しげな顔が、それを妨げる。固まる自分に構わずといった感じで、ヘッケランの言葉はつづく。

 

「実家の空気に馴染めないで、冒険者になろうとして、金に目がくらんでワーカーになって。仲間には恵まれたが、助けられてばっかりで。イミーナのレンジャーとしてのスキル、ロバーの神官としての力、そしてアルシェの魔法、知識、タレント、力…そういうのに支えられてばっかりで、ここまで来てしまった」

「…ヘッケラン、あなた何言ってるの?私たちは、あんたがいたから、あんたの立ち上げた『フォーサイト』があったから今までやってこれたのよ!?今さらさんなこと言うなんて…!」

「…こればっかりはあなたには賛成できませんね。ヘッケラン、イミーナの言う通り、あなたが私たちを拾ってくれたからこそ、今私たちはこうして生きて「こうして、檻の中、か?」い…それは」

 

 …

 …

 …これは、まずい。とても、まずい。だが自分の思いもむなしく、ヘッケランはまだ続ける。

 

「そもそも、こんなところに来たのだって、俺が直感で選んだ道が間違ってて…笑えるよな、今までワーカーやってて、ああいう場所でやっちゃまずいことの区別すらついてなかったなんてよ」

「それは…それは、今関係ないでしょ!?もうそれは済んだ話よ!それに、そのおかげでここの事を知れたじゃない!」

「…それは、結果論だろ?俺の、わけのわからん行動がここまで事態を悪化させた。それには、変わらねえよ…」

 

 …ああ、もう、無理だ。

 

「だからな、この一件が終わったら…俺たちの身の振り方、考え直そうぜ。大丈夫だよ、お前たちはすごい。お前たちならどこに行ってもやれるさ。だから、こんなバカな男、さっさと見限って『バキッッ!!』っ…え?」

 

 …

 …

 …ああ、やっちゃった。

 

「…ある、しぇ?」

 

 ヘッケランが、きょとんとした顔で、こちらを見ている。顔は横を向いていて、ほおは少し赤くなっていた。

 …殴っちゃった。今まで、そんなこと、一度も、やったことなかったのに。

 

「…やめてよ」

 

 声も、気がついたら出ていた。…涙も、気がついたら流していた。もう、止まらない。

 

「やめて、よ…そんなこと、言わないでよ…リーダーが、ダメだなんて…!」

 

 心の底から、自分は希っていた。もう、自虐の言葉は、聞きたくなかった。ヘッケランに近寄り、その頬を撫でた。

 

「リーダー、自分は、今の自分は、リーダーがいたから、生まれたんだ。自分の知識も、魔法も、力も、自分一人では持て余すものばかりだったのに、リーダーが近くにいて、イミーナやロバーテイクと会わせてくれて、皆のために使うことが出来た。自分がすごいのは、すごく見えるのは、リーダーが自分を、拾ってくれたからなんだよ?」

「…それは」

 

 ヘッケランは、ばつが悪そうに顔を背ける。だが、事実は事実だ。自分が今家族を養うことが出来ているのも、魔法や知識やタレントをみんなのために使うことが出来ているのも、ヘッケランが『フォーサイト』を作ってくれたから。自分が今ウルトラマンとして生き残ることが出来ているのも、くじけそうになった時、必ずヘッケランが声をかけてくれたから。彼には返しきれない恩がある。だから、彼を貶める言葉は、彼の口からでもききたくなかった。

 

「それに、最初に自分を拾ってくれた事だって」

「…あの時、か?」

「うん、あの時、自分は…」

「…?」

「自分、は…」

 

 …あれ、言葉が、でない。どうしたんだろう。言えばいいのに。

 あの時、自分はいろいろあって途方にくれていて…

 …途方に、くれていて…

 …

 …

 …いや、違う。

 

「…あの時、自分は絶望の淵にいた」

 

 そうだ。途方に暮れていた、なんて生易しいものではなかった。

 …自分の運命が変わるよう、出来ることはなんだってしたつもりだった。

 タレントがあることがわかり、魔法が何と無く理解できることを知って、それらを磨くため必死に努力して、帝国魔法学院に入ることが出来た。そしてそこでも師匠の下で努力を積んだ。

 両親の事を案じ、本来の流れに沿わないようにするためそれとなく忠告をし続けた。時には両親に、時には使用人に。どんな人物が皇帝になろうとしているのか、鮮血帝のような人物が現れたらどうなるか、そういったことを、それとなく語り続けた。

 貴族の娘であることを利用して、帝国のは入れるところはとりあえず入ってみたりした。そこで得た情報をもとに、さらに自分の行動を補強した。

 体だって、鍛えてきた。…成果は、芳しくなかったが。

 とにかく、なんだってやってきたのだ。…だが、それもむなしく、家は取り潰された。自分のやってきたことが全て否定されたようで、絶望の淵に沈んでいた自分が、街に出て…そこで、怪獣と出会った。

 なぜ宇宙戦闘獣コッヴがいるのか、わけもわからず逃げまどい、だがそれもむなしく追い詰められ、踏みつぶされて殺されそうになって、すべてをあきらめそうになって―それでも、家族の事が思い浮かんだその時、自分は光になった。

 …光になった後の、コッヴとの闘いは、よく覚えていない。だが、戦った後、自分はウルトラマンであるという事の重圧に耐えられなかった。ただでさえ人生の総てが否定された気分だったのに、ウルトラマンになって怪獣と戦えだなんて、できるわけがない。そう思って、でも投げ出せなくて、ずっとずっと、街をさまよい続け、どこかで倒れた。

 あの日は雨が降っていた。雨が倒れた自分の体温を奪い、意識が遠くなっていく。ああ、今度こそ死ぬのか、と現実をどこか遠い世界の事のように感じて―

 

『…おい、あそこに誰か倒れてないか?』

『…ホントね。あれ、女の子?』

『何やら弱っているようですね…急ぎましょう!』

 

 ―そんな時響いた三人の声を、今ならしっかり思い出せる。

 

『おい、しっかりしろ!くそ、こんなところで死ぬなよ!』

 

 若そうな男性―ヘッケラン・ターマイトに抱えられて、自分は確か『歌う林檎邸』に運び込まれたのだった。

 その後の事は、これまた朧気だ。多分、ウルトラマンの事はその時話しておらず、でも身の上話はそれなりにしたと思う。話の後、聞き手のヘッケランが、こう言ったのだ。

 

『…なら、俺たちと一緒に来ないか?』

 

 こうして、自分は、ヘッケランをリーダーとするワーカーチーム『フォーサイト』の一員となったのである。

 …すべてを思い出し、彼の事を改めて見つめる。彼がいてくれたから、生きていられたことを、噛み締めた。

 

「…あの日は、自分にとって、最悪に最悪が重なった後だった。絶望を抱えて、死ぬばかりだった。でもそんな自分を、リーダーが拾ってくれて、だから今の自分がいる。噂になるくらいの自分を、リーダーが作ってくれた。リーダーは、すごい。誇ったって、いいと思う」

「…そうか」

 

 ヘッケランは顔をそらしたまま、しかし、心なしか、返事は少し明るくなった気がする。そのまま、続ける。

 

「だから、リーダー…自分をダメだなんて、言わないで。あなたがいて救われた人がいるって、忘れないで。あなたがすごいって思う人は、あなたがいたからすごくなれたってこと、忘れないで」

「…」

「それでもすごくないって思っちゃうなら…自分が、言ってあげるから。あなたはすごい、あなたは強い。あなたはいろんなことをやってのけたって、あなたのことを、語り継いであげるから!あなたのすごさを、忘れさせないから!あなたが負けないって、信じ続けるから!だから、もう、言わないで…!!」

 

 そこから先は、嗚咽に変わってしまった。もう、自分でも止められない涙―それをぬぐってくれたのは、あの日自分を拾ってくれた、あの手だった。

 

「…そんなことされたら、たまんないな」

「リーダー…」

「…ああ、お前にそこまで言わせちまうなんて、リーダー失格だな…よし!」

 

 顔を上げれば、いつもの不敵な笑みが見える。ヘッケランは両の頬を叩き、気合の入った声と共に、立ち上がった。その顔に、先程までの陰気は残っていない。

 

「さ、こんなところとはとっととおさらばして、先に進まないとな!イミーナ、ロバー、準備はいいか!?」

「…全く、さっきまで一番ダメだった人が良く言うわね。…心配ご無用、私はもう大丈夫よ?」

「ええ、私も、アルシェにそこまで言わせたからには、やれますよ…これで、復活ですね。神の鉄拳はいりませんね?」

「はは…ああ、大丈夫だな!行くぞ!」

 

 …よかった。自分の声は、届いたらしい。立ち上がった皆を見て、心の底から安堵した。

 

「…いい光景ね」

 

 その時、後ろからラキュースさんの声がする。…忘れていた。慌てて後ろを見ると、そこにはラキュースさんと、立ち上がっていた『蒼の薔薇』の人たちがいた。あの人たちも、どうやらなんとかうまくいったらしい。彼女たちの姿を見ていると、ガガーランさんが咳払いし、ラキュースさんに話かけた。

 

「だったら、俺たちにだって泣き顔見せてくれたっていいんだぜ?」

「冗談…そういうの、私たちには似合わないでしょ?それに、そんなことしなくたって、あなたたちは立てるもの。ね?」

「…さすがは鬼ボス。容赦なさすぎ」

「…同感。でも、それでこそ鬼リーダー」

「…口数も減らないようだし、ね」

 

 やはり、『蒼の薔薇』も良いチームの様だ。それを確認していると、イビルアイさんが部屋の中に入ってきた。

 

「…あれ、イビルアイ…あなた、寂しくなっちゃった?」

「そんなわけあるか。あまりに人が来ないんでな、少し様子を見に来た…どうやら、もう大丈夫らしいな」

「ええ、後遺症もあるから、アルシェに魔法をかけてもらうつもりだけど。アルシェ、頼めるかしら?」

「あ、はい!わかりました」

 

 ラキュースさんに呼ばれ、『蒼の薔薇』の方に近づく。魔法を準備し、皆にかけることを伝えようとし―

 ―激しい衝撃が、自分たちを襲った。

 

 

 

「…ルシェ、アルシェ!大丈夫か!?」

「…!これは…」

 

 自分の近くにいるヘッケランの声で正気を取り戻す。どうやら、自分はヘッケランに抱きかかえられているらしい。そのままの体勢で、ヘッケランは語り掛ける。

 

「悪いな、急に崩れたから、引っ張りよせるので精一杯だった…大丈夫だな、アルシェ」

「うん、ありがとうリーダー。…どうなってるの?」

 

 ヘッケランに礼を言い、周囲を見るため立ち上がる。周囲、というかこの遺跡が激しく崩れている。幸い皆この部屋にいるようだが、遺跡は自分たちのいた部屋の入り口から、外の風景が見えるまで崩壊していた。いったい、何が。

 あっけにとられていると、倒れこんでいたラキュースさんが立ち上がる。彼女が引っ張り込んだのか、抱きかかえられていたイビルアイさんも立ち上がる。他の皆も立ち上がりつつあったところで、ラキュースさんが口を開いた。

 

「…これは、何事かしら」

「わからない…外を、見ないと」

「そうね…イビルアイ、皆をお願い」

「俺も手伝う…アルシェ、外は頼むぞ」

「わかった。よろしく、リーダー」

 

 他の人をヘッケラン達に任せ、自分たちは外をのぞく。遺跡は入口にかけて大きく崩壊しており、山だったところが大きく抉れ、外の村の様子までよく見えた。村は何か巨大な存在が通ったかのような、大きな破壊がもたらされていた。

 そして、その向こうを見ると、とんでもない存在が、聳え立っていた。

 

「あれは…!?」

 

 遺跡の外、平原地帯にそれは立っている。こちらに後姿を見せている巨人は、外が暗いので詳しくはわからないが、全体的に灰色で、赤いラインが走っている。上半身には、金色のラインが存在している。後ろ姿には、ウルトラマン特有の、特徴的な張りのようなものがあった。…だが、それはウルトラマンではない。

 

「…テラノイド…!?」

 

 人造ウルトラマン、テラノイド。そこに立っていた巨人は、まさしくそれだった。それを見て、震えだすものがいる。

 

「…あ、ああ、そんな…!」

 

 ラキュースさんは、先程までの不敵な様子から一転、村の外で自分と話していた時同様、弱弱し気な表情をしていた。…まずい、なんとか、しないと。

 決意を固め、後ろの頼れる人物に叫ぶ。

 

「リーダー!怪獣が出ました」

「!まじか、こんな時に…!」

「遺跡を破壊したのは、たぶんあいつです!リーダーは、ラキュースさんをお願いします!」

「…わかった!だが、お前はどうする!」

「…自分は行きます。奴を、放ってはおけない」

 

 その言葉と共に、遺跡の外に身を投げ出そうとする。魔法で飛び、一気に接近しようとしたその時、肩をつかまれ動きを止められた。見てみると、そこにはラキュースさんの弱気な顔があった。ラキュースさんは自分をつかんだまま、一呼吸置く。そして、何かを決意したような顔になって、口を開いた。

 

「…一つ、いいかしら」

「はい」

「…怖く、ないの?」

 

 …それは、どのような決意の元に出された言葉だったのか。ラキュースさんの真剣な瞳に、吸い込まれそうになる。

 彼女が問うていることは、わかる。自分は、怖いといえば怖い。戦う事、負けるかもしれない事。だけど、彼女が聞きたいことはそれではないはず。ここに来るまで、ずっと心に残っていたあの告白。それを想起し、問いかけに変える。自分にとって、ウルトラマンとは、彼らへの恐怖とは―答えが、見えた気がした。

 

「…ウルトラマンが」

「…?」

「…ウルトラマンが、怖くないわけ、ないでしょう…?」

「…!!」

 

 ラキュースさんの顔が、これまで見た中で一番の驚きを示す。それを一瞥し、何か言いたげな彼女の手を振り払い、自分は飛び立つ。なんとなく、返事は聞きたくなかった。

 

「…」

 

 飛びながら、自分の懐にあったエスプレンダーを…エスプレンダーのようなものを、取り出す。それを眺めてみれば、いつも通りの輝きが見えた。今思えば、これを見た時点で、疑うべきだったのだろう。

 ―ウルトラマンに変身する事が怖いと言われて、自分は意味が分からなかった。ウルトラマンは、皆を救うヒーローで、理解できない怪物ではないと、真っ先に言いそうになった。でも、よく考えれば、それは違う。それは、自分がテレビの中のウルトラマンを知っていたからでた言葉であり、前提のないラキュースさんから見れば、怖くなって当然なのだ。自分の知るウルトラマンアグルは変身者を傷つけたりしないだろうが、彼女が変身したウルトラマンアグルがそうであるかなんて、誰にも保証できないのだから。

 そう考えて、今更だが自分の使うガイアの光も、自分の知るものではないと気がついた。最初からV2である事、エスプレンダーを持っていた事…思えばヒントはいっぱいあったのに、今まで何も気がつかなかった。いや、ウルトラマンは安全だと、それを当然のように使ってきた。告白しよう、今まで自分は、ウルトラマンガイアと、きちんと向き合っていなかったのだ。

 

「…ごめんね」

 

 エスプレンダーの…エスプレンダーと呼ぶ以外、名前が思いつかない入れ物の中にある光に、語り掛ける。

 

「…自分は、今更、あなたが怖いと思っている。あなたが何をするのか、何がしたいのか、わからない、だから怖い…そう思う自分が、とても嫌だ。あなたをきちんと見ていなかった、自分が一番悪いのに」

 

 告白する。入れ物は黙して語らず、光はない。そのまま、続ける。

 

「私はもう、あなたを今までみたいに見ることはできないかもしれない…でも、それでも、自分には、守りたいものがある。あそこで待ってる、人たちがいる。その人たちに、報いたいって思っている」

 

 告白する。自分は少し臆病になって、そんな自分が嫌いになった。それでも、自分には守りたい人がいる。かけがえのない家族、自分に再び命を吹き込んでくれた、仲間たち。そして、自分がこれまで見てきた、この世界―そのために戦う、その意志だけは曲げたくない。

 それを確認し、自分はふたたび入れ物に問いかけた。

 

「…だから、お願いします。こんな自分にも、もう一度…もう一度、自分に力をくれませんか?」

 

 …入れ物、エスプレンダーは黙して語らず。だが、その結晶体の中の光は、再び輝いた。

 

「…ありがとう」

 

 答えてくれたことに感謝し、前方のテラノイドを見つめる。いつの間にかテラノイドはこちらを向いており、そして自分の方に―皆のいる遺跡の方に、十字を向けていた。

 させない!これまでやってきたようにエスプレンダーを構え、自分はあらん限りの力を籠め、その名を叫んだ。

 

ガイアァァァァァァァァァァ!!

 

 そして、自分は光に包まれる。光は応え、ウルトラマンガイアの形を取った。




アルシェですが、実は記憶がかなりあやふやです。転生前の記憶があやふやなのは彼女も「ウルトラマンのことで頭が一杯になって忘れてしまった」という風に自覚しているのですが、実は『フォーサイト』結成より前の記憶も、これを自覚できない形になりますがかなりあやふやです。これは長年自分の運命を変えようと苦労してきたことが全て裏切られたショックに加えウルトラマンという更なる重圧を押し付けられた結果発生した「苦しみの源から目を背けたい」という自己防衛の一種…という感じにしたかったのですが、自分の中の闇がはたしてその理由で記憶がおかしくなる位ダメージを負う事があるのか?とうるさいのでもっと闇に満ちた理由にします。

~用語解説~
『アグレイター』
ウルトラマンアグルに変身するための変身アイテム。藤宮博也が自らの手で制作したという、異色の背景を持つ。ライフゲージを模した結晶体に翼が生えているかのようなデザイン。ガイア放映時、作者はエスプレンダーのオモチャは持っていたがこっちを持っておらず、音もギミックもすごいカッコいいなと思っていたのもありすごくほしかったのを記憶している。

『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』
ルーブの主人公兄弟を見た自分の「なんでウルトラマンになったのに自分が未知の化け物になってしまった恐怖とかこれから自分の体が変化していくかもしれないことへの恐怖を感じていないのだろう」というアレ過ぎる感想から生まれた被害者。そんなの放映できるわけないでしょ。ウルトラマンに変身することにより自分の体が変化していく事に耐えられない、ウルトラマンを生理的に受け付けられない上未知の怪物のように怖れているウルトラマン不適合者。あるいは変身アレルギー。実は一年以上前からウルトラマンになれたのだが、前述の恐怖からなかなか変身できない。というかこの場合生理的に受け付けられない未知の恐怖を抱えつつ効果的なアドバイスができる相手がいない状態で一年以上頑張ってきたことになる。むごい(他人事)。一応変身が絡まなければマトモでいられるものの、やはり精神的ダメージは大きく、最近は中二病も鳴りを潜めてしまっている。

『王国の人々の反応』
用語ではないがここで解説。王国、というか周辺諸国はウルトラマンを神か救世主かのように崇めている。やはりファンタジー世界は現代社会と比べ倫理観や宗教観などあらゆる面で違いが出る事を踏まえ、信仰に身近に触れており神の存在が認められている世界の住人ならこれくらいの反応示すかなーという感じで決まった。ウルトラマンは神ではないけど、それをわざわざ言わないといけないぐらいには神様っぽく見えると考えているので。例外はアルシェの周りの人たちで、アルシェのウルトラマン及び怪獣の解説がちょっとだけ効いている模様。知恵者たちも例外で、こちらは大体ウルトラマンを得体のしれない化け物みたいに思っている。

『超古代植物ギジェラ』
ウルトラマンの鬱展開用キャラといえばこいつ!ウルトラマンティガ第45話「永遠の命」にて小型のコイツが世界中のありとあらゆる場所に突然大量に生え、そのまま人々を夢の中に閉じ込めることに成功した怪物。花粉はぶっちゃけ麻薬。吸えば天国だし、依存症たっぷりなので吸いたくて吸いたくてたまらなくなる。本体はヘボだが、こいつを守る人間が、質の悪いことに自分の意思で盾になるから厄介。自分はあのイルマ隊長がこいつのせいで童心にかえっていたのがめちゃくちゃ怖かった記憶がある。この世界では本体の姿はまだ見えず、村人たちが花粉を捕獲用の兵器として利用していた。ただし特殊な花ゆえにそんなに数はない模様。その分花粉は強力で、あらゆる耐性を無視し接触した意志あるものに快楽の夢を見せる。

『超古代人ヌーク、テラ』
不老不死ってマ?ウルトラマンティガ第45話「永遠の命」にてギジェラが復活したため地球にやってきた。サイボーグであり、脳の老化防止のためギジェラから抽出されるギジェラエキスを定期的に注入しないといけないがそのおかげで不老不死の体を持つ。最後はギジェラの死に連動して消滅した。この世界ではティガの地の村人が同じ服と体を持ち、不死ではないものの不老の体で活動していた。ギジェラに溺れる人々を現代人として舐めきっている。これはギジェラに対する優位性から来るものだが、それが無ければ一般人程度の力しかなく、キレたアインズ様の手で一人一人殺されることとなった。南無。

『ガイアヒーリング』
ガイアの技の一つ。第24話でゾンネルⅡに使用し、闘争本能を鎮めて地底に帰した。また第39話では汚染物質で狂暴化したツチケラを浄化し、そのまま成仏させた。たぶんコスモスの先駆け。アルシェはこの技を魔法っぽく使うことができる。効果は鎮静と浄化。

『龍雷/ドラゴン・ライトニング』
第5位階の魔法。強い電撃。アニメ一期3話でアインズ様がザコにブッパしてた魔法。イビルアイが撃てる、というのはweb版ネタを含む。

『飛行/フライ』
第3位階の魔法。飛べる…俺は、この空を、飛べる!原作でもいろんな人が使う魔法。この世界のアルシェも使う。

『魔剣キリネイラム』
ラキュースのメインウェポン。十三英雄の一人が持っていたとされる四大暗黒剣の一つ。ラキュースはこれを手にしたあたりで中二病を発症してしまった。

『真なる死/トゥルー・デス』
第9位階の魔法。すごいザキ。アインズ様がガゼフ殿を仕留める際に使用した。アインズ様は遺跡突入前にアルシェのレクチャーを受けており、その時聞いた情報からこれは使えると考えた。

『心臓掌握/グラスプ・ハート』
第9位階の魔法。ハートキャッチアインズ様。アインズ様の得意中の得意な魔法。今回の戦いでは相手がまともな心臓を持っていない可能性があったためお呼びがかからなかった。

『時間停止/タイム・ストップ』
第10位階の魔法。ポーズ…!アインズ様がフォーサイトやガゼフ殿と戦った際使用した。

『人造ウルトラマンテラノイド』
心のない巨人は、ウルトラマンではない。ウルトラマンダイナ第49話「新たなる影」にて、TPCのタカ派の主導の元進められていた「F計画」にて生み出された人類最大の防衛兵器。元が元なため強いのだが、AIが馬鹿すぎたのかスフィア相手に必殺技をブッパしまくるという失態を犯し、そのままガス欠で停止。倒れた体はこの後スフィアがおいしくいただきましたされ、大変なこととなった。この世界では村人が復元した石像に光を与えることで生まれた。ある理由で元ネタよりたぶん強い。ただしオツムはそのままなので…詳しくは次回!

『エスプレンダー』
ウルトラマンガイアに変身するための変身アイテム。高山我夢が自らの手で制作したという、異色の背景を持つ。セメント塗る奴。ガイアでは変身アイテムが授けられるとかそんなことは一切なく、我夢も最初は真空管みたいな奴に光を突っ込み、その後こちらに入れ替えた。誰も突っ込んでくれなかったけど、なんで我夢がいないのにエスプレンダーがあるの?我夢が不在なのにエスプレンダーなんてありませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから…いや、ここら辺の匙加減は自由でいいと思うんですけどね?



ふー、ようやく戦闘シーンに着手できる…異世界のウルトラマン問題、ちょっとだけ触れることが出来ました。いやー長かった…
次回は10月17日水曜18時、いつもの時間に投稿予定です。
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