提督落ちたから自力で鎮守府作る。   作:空使い

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お話の都合上、2話で舟に乗っていた時間を、五時間プラス沢山から、丸1日プラス沢山に修正しています。


さらばツインテ

 

沈んでゆく。

 

沈んでゆく。

 

沈んでゆく――――

 

 

 

身体の感覚が、無い。

あんなに沢山の砲撃と、爆撃と、機銃と、魚雷を受けたのだ。

ひょっとしたらもう、身体が無いのかもしれない。

 

ただ、寒い。

ありもしない身体が、凍りつくように冷えてゆく。

 

(第一艦隊のみんなは、ちゃんと……逃げられたクマ……?)

 

分からない。

自分は、一番最初に沈んでしまったから。

 

でもお陰で、大事な仲間が沈むのを、見ないで済んだ。

 

 

…………。

 

 

光が遠のいてゆく。

 

もう、海面の砲火は見えない。

音も、聞こえない。

 

長門と伊勢は、ちゃんと撤退出来ただろうか。

蒼龍と赤城は、あの包囲を突破できただろうか。

 

沈みかけの那珂を曳航した神通は、

満身創痍の天龍は、

戦艦に突っ込んだ川内は、

曙は、吹雪は、夕立は――――

 

みんな、上手に逃げられただろうか……?

 

(あと……ちょっとだけ…………もう、一隻だけ……でも…………やっつけたかったクマ……)

 

沈んでゆく。

 

(……多摩…………北上…………)

 

(くら)く、冷たい、海の底まで。

 

(…………大井………………木曾………………)

 

沈んでゆく。

 

(……お姉、ちゃんは…………)

 

沈んでゆく。

 

(…………まだ……………)

 

沈んでゆく――――

 

 

 

 

 

(…………沈みたく、ないクマ…………!)

 

 

 

 

 

沈んで――――

 

 

 

 

 

 

 

 

シズ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっさとくるです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『球磨!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

@@@@@@@@@@

 

 

 

ゴチンッッ!!

 

視界で火花が散った。

 

「イって゛ぇっ!!?」

 

「クマッ!?」

 

何かうなされてるなぁ、と思って覗き込んでみた俺の額が、いきなり起き上がった球磨ちゃんの頭と派手にかち合った。

 

ガサッ、と葉っぱのベッドに倒れ、頭のてっぺんを押さえながら「クマ゛ぁぁぁぁ…………!」と悶えている球磨ちゃんを横目に、恐る恐る額に手を当てる。

 

こ、コイツ一度ならず二度までも……!

仮にも提督に対して殺意が高過ぎねぇか…………? ふぅ、良かった、血は出てない……。

 

「あたまごっちん」

「うわぁいたそう」

「ぜったいいたいよわたしみてたもん」

「そうなの?」

「みてなかったからもういっかい」

「もういっかいー♪」

 

「するかぁ! っくぅ…………お、おい、球磨……球磨ちゃん? だよね? どう、気分は……?」

 

「……最悪クマ」

 

そう言って、頭の辺りでケガの様子を確かめている妖精さんを鬱陶しそうに払いのけて、ゆっくりと上体を起こす球磨。

 

頭をさすりながら、眠そうな目で、周囲の妖精さんを見て、掛けられたバナナの葉っぽいモノをウロンな目でつまみ上げ、最後に俺の古びた軍服に目を留めた。

 

一瞬の静寂。

 

次の瞬間、文字通りハッとしたように目を見開いた球磨ちゃんが、すごい勢いで俺に掴み掛かった。

 

「近いッ!?」

 

「どっ、どうなったクマっ!? 第一艦隊は……、天龍達は!? みんな無事クマっ!?」

 

「え!? な、なに!? どういう事?」

 

本当に、建造されて早々どうしたんだコイツ!?

あれか? 軍艦だった時の記憶ってヤツか?

 

後、クマって語尾、それマジなんか!?

 

なおも興奮した様子の球磨が、キョロキョロと周囲に視線を走らせる。

 

「ここは……トラック……じゃない、パラオ? どこの鎮守府クマ!?」

 

「お、おう……ここは…………あー……」

 

チラッ、と妖精さん達を見る。

 

「わ♪」

「すー」

「れ!」

「なー♪」

 

「コホン……わすれな鎮守府だ。あー、ようこそ球磨ちゃん? 俺が提督の――」

 

「ワスレナ鎮守府クマ……? 聞いた事ないクマ。どこの鎮守府クマ?」

 

俺が知りたい。

 

「きたまりあなです」

「うえのほー」

「はずれのとこです」

 

「えっ!? 初耳っ! 俺それ初めて聞いたんだけど!?」

 

「きかれた?」

「いってなかったです?」

「どこでもいいのあなたがいれば」

「きゃー♪」

 

おのれコヤツら……そしてどこだよ北マリアナ諸島。

太平洋の西の方だったか?

もう、語感からして明らかに日本じゃねぇ。

 

このツインテ、一体俺をどこに連れてきたのだ。

 

「クマッ!? 北マリアナクマ!? そんなハズないクマ! 北マリアナに鎮守府は…………し、深海棲艦の基地クマッ!?」

 

なんだか落ち着きのない艦娘だなぁ。

そのぴょんぴょん跳ねてるアホ毛はどんな仕組みなんだ?

 

語尾といい、マンガみてーなヤツが来ちゃったな……胸、ちっちゃいし……。

 

まんまと妖精さんどもに嵌められた。

何が不思議ちゃん系お嬢様キャラ巨乳だよ……クマーってなんだよ……。

……美少女だけど。

 

美少女だけど!

 

……おっぱいって、ちっちゃくても柔らかいんだな……い、いや、俺は貧乳なんかになびかんぞ!?

その程度の誘惑に俺の信仰は揺らがないんだからねっ!?

 

「あー……その、落ち着いて――」

 

「これが落ち着いてられるかクマーーっ!」

 

うお゛ーーっ! と頭を抱えてブンブンと髪を振り回す球磨ちゃん。

これ大丈夫? やっぱり材料が良くなかったんじゃない?

あ、髪、イイ匂い……。

 

「てい」

 

「クマ゛ッ!?」

 

ピコンっ! と、ツインテ妖精さんが、異物混入でご乱心状態の球磨ちゃんに笑っちゃうくらいデカいピコピコハンマーをお見舞いした。

 

「おちつけ」

 

「クマッ、クマッ!? や、やめるクマーっ!」

 

ピコッ♪ ピコッ♪ と割と遠慮のないピコピコハンマーが球磨を襲う。

そのこれ見よがしな『16とん』の文字はなんだ。

豚っぽいイラスト(ぶーって描いてあるから多分そう)からして、豚十六匹分かな?

 

連続するマヌケな音に、球磨が慌てて妖精さんを遠退けようと腕を振ると、ツインテは身軽にそれをかわして素早く俺の陰に隠れた。

 

「ひしょがかってに」

 

「余りにも無理がある! その、ごめんな、球磨ちゃん、妖精さんのした事だから……」

 

「それはやった方が言うセリフじゃないクマ……お前誰クマ? 補佐官クマ? 状況を知りたいクマ……ここの提督はどこクマ?」

 

あと軍服はちゃんと洗った方がいいクマ、と、顔をしかめて言う球磨ちゃん。

さっき袖を通したばかりなんだぜコレ。

俺だって洗いたい。

 

それはそれとして。

 

「うむ……俺がその提督だ」

 

「? ……冗談はよすクマ。球磨は早く仲間に合流――」

 

「ほんとです」

「このひとがていとくさんです」

「すごいぞー」

「かっこいいぞー♪」

「やらんぞー」

 

「クマッ!?」

 

「ええい、止めんか鬱陶しい! ……あの、信じらんないかも知れないけど、本当に俺が提督なんだ。ゴメンな、なんかその、妖精さん達が滅茶苦茶やったせいで混乱しちゃってるかも知れないけど……」

 

産業廃棄物とかたこ焼きとかバーナーとか。

あれがどうしたらこんなイイ匂いの美少女になるんだ。

おっぱい小さいけど。

 

俺がきゃいきゃい纏わりついてくる妖精さん達をぞんざいに払い落としながらそう言うと、球磨ちゃんはなぜか動揺した様子で、絞り出すように言った。

 

「い、いや……妖精さんはそんなウソつかないクマ……信じられないくらいなつかれてるし……じゃ、じゃあおま…………あなたが本当にココの提督クマ?」

 

チラッ、と俺の肩の辺りを見て、しかも大将クマっ!? と驚いている球磨ちゃん。

いや、妖精さんはそれくらいの冗談なら言うぞ?

まあ信用してくれるんならイイけどさ……あとこの服の持ち主、そんなに偉かったんだ。

 

「そうなのだ」

「えらいのだ」

「すごいのだ」

「ずがたかいぞー♪」

 

なぜか凄くエラそうにふんぞり返っている妖精さん達を脇に転がして、球磨ちゃんに向き直って言う。

 

「だからそう言ってるじゃん。俺がその提督。あー、その、何も無いトコだけど、ヨロシクね、く、球磨ちゃん?」

 

改めて自己紹介する。

緊張で若干噛んだが、一応笑顔は出来てるハズだ。

伊達にコンビニバイトで鍛えていないぞ。

近所の女子高生達にも『ニヤ夫』というアダ名で親しまれていたのだ。

チクショウ。

 

「よ、妖精さんにスゴいコトしてるクマ……球磨型軽巡洋艦、1番艦の球磨だクマ。よろしくクマ……こんな若い提督、初めてクマ」

 

お、おお……嫌そうな顔もせず、ちゃんと挨拶を返してくれた。

これが噂の提督補正か……すげぇな艦娘、提督最高じゃん。

 

俺は当初の想像通りの好感触にテンションを上げながら、続けて言う。

 

「い、いやー、実は俺、初めての建造でさぁ……正直不安だったんだけど、ちゃんと成功したみたいで良かったよ! く、球磨ちゃんだっけ? カロリーメイト食う?」

 

本当に、あの暗黒プールからこんなかわいい子が出てくるなんて、いまだにちょっと信じられんわ。

おっぱいは小さいケド。

 

しかし、俺がそう言って軽くキョドりながらリュックをあさっていると、球磨ちゃんが驚いたような大声を上げた。

 

「け、建造……? ちょ、ちょっと待つクマ! 今、建造って言ったクマ!?」

 

え、引っ掛かるトコそこ?

なんか妙に焦った様子の球磨ちゃんに、改めて言う。

 

「そりゃ、そうだけど……今さっき、下のプール……ゴホッ、ちょっとだけ古い……ゲホッ、び、う゛ぃんて~じ感溢れる自慢の建造ドックで、厳選した素材によって建造された、我がわすれな鎮守府初めての艦娘。それがキミなのだ」

 

う、うん、嘘は言ってない嘘は。

余計なディティールをハブいただけだ。

 

しかし、球磨ちゃんは俺の台詞の違和感でも感じ取ったのか、突然ワナワナと震え始めた。

 

「け、建造……建……造…………」

 

お、おいどうするんだ妖精さん!

お前らがちょっとお茶目なアレンジ建造したせいで球磨ちゃんが怒ってるぞ!?

 

「そんなハズないクマ……球磨が建造されたのは三年前、呉の鎮守府クマ……そのあと、配置転換でトラックに送られて……それで、それで…………」

 

…………おや?

なんか様子がおかしい。

 

建造されたのが三年前?

うん十年前の、大日本帝国時代じゃ無くて?

 

妖精さん達を見る。

プイッ、と顔を逸らして口笛モドキを吹き始めるツインテ。

 

コイツ……!

 

気づけば、震える球磨ちゃんの視点の合わない目が、蒼い光をチラつかせ始めた。

ふわっ……と広がる髪の、毛先が白い。

 

「球磨、は…………」

 

俺を見る球磨。

 

 

 

「……沈んだ、クマ」

 

 

 

ブラウンだった瞳が、真っ蒼になっている。

髪は(なか)程まで真っ白だ。

 

あ、これ良く分かんないケドスッゴい怒ってるらっしゃる?

 

って言うか……!

 

「おい……ツインテ」

 

「ぎくり」

 

一応、怒られるという事は分かったらしい。

見苦しくも逃走を図ったツインテの軽ぅ~い頭を鷲掴みにし、ギリギリと持ち上げる。

何がぎくりだ、擬音を口に出すな。

 

「お前……どういう事だ? ツインテお前たしか、建造って言ったよな?」

 

「いったかな?」

 

「ああ言った。完全に言った」

 

顔の前に持ち上げて至近距離から問い詰めると、分かりやすく目線を泳がせて他の妖精さん達に助けを求めるアホツインテ。

 

馬鹿だなぁ、お前のオトモダチは薄情な事にとっくに逃げ出してるよ?

 

はるか後方で柱の陰にひとかたまりになった妖精さん達が、何事かを口走っている。

 

「おまえのしはむだにしない……!」

「さらばついんて」

「きみがいけないのだ」

「ひとりだけあだなもらってずるい」

「わたしもおこられたいぞー」

「ぞー♪」

 

仲間の裏切りに衝撃を受けたような顔で「がーん」と言っているツインテを、更に顔に近づける。

 

「なあ、説明…………してくれるよな?」

 

……おい、顔赤らめんな。

 

 

 







アホの提督と妖精さんズという、天然と天然が一生ボケ倒していた鎮守府にやっとツッコミできる子が加入。

球磨ちゃんには色んな間違いを正して頂きたい。



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