改稿版
3話同時修正、同時投稿です
がっつり改稿しつつ、一万文字近い加筆
11話、球磨ちゃんの憂鬱からお読み直し下さい
妖精さんに頼んで艤装の燃料を水偵に移し替えている間、球磨ちゃんは顔を赤くしたり青くしたりと大変忙しそうな様子だった。
「まさか、まさか、球磨を水底から掬い上げてくれた提督が、こんなちっちゃい女の子に発情しちゃうような異常性癖の持ち主だったなんて…………よ、妖精さん相手に信じられんクマ! ふつう男の人だったら断然巨乳の女性、映画女優で言うと、イザ○ル・アジャ○ニ辺りがイイはずクマ……! いやでも、でもクマ、この提督以外にこの状況で頼れる相手はいないのも確かクマ……球磨はあえて、あえて社会道徳をかなぐり捨てて、見て見ぬフリをしなきゃクマ……っ!」
ごくり、と喉を鳴らす球磨ちゃん。
さっきからブツブツと何言ってんだろうこの子?
やっぱりどこか調子が悪いんだろうか?
「いれかえかんりょー♪」
「まんたんです」
「お、サンキューお前ら……って言うか、今思ったんだけど、艤装の燃料とヒコーキの燃料って一緒で良かったのか?」
「ようせいさんじるしのかんむすねんりょうです」
「なんでもうごくよー♪」
「いれてよし」
「ぬってよし!」
「のんでよし♪」
「へぇ、便利なこって……いや、差し出されたって飲まねぇよ!?」
ワクワクした顔で差し出された携行缶を脇にどける。
「そう……そうクマ、これは、超法規的措置! 球磨は世界の平和のため、八人の妖精さんの不幸な妖生をあえて、あえて見て見ぬフリをするクマ。クマァァァあああ最低! 最低だクマ! 球磨はなんて最低な軽巡洋艦クマっ! 遠く前線の戦友たち、姉妹艦のみんな、あの作戦で共に沈んだちょっとだけクセの強い仲間たち! この球磨型軽巡洋艦1番艦の魂の選択を笑わば笑うクマ…………っ!!」
頭を上げ、カッ、と目を見開く球磨ちゃん。
あ、まだ続いてたんだソレ。
「――――見なかった事にするクマ♪」
イイのかそれで。
なんなんだろうか、艦娘って見た目通り多感な時期の女子みたいな中身してるんだろうか。
こんな二頭身のフシギ生物に発情なんてするハズ無いだろうに……ぬいぐるみとかネコとか、そんな感覚じゃないか?
しゃべるけど。
「おお、そうか。じゃあ……えっと、球磨、本土のどこに連絡すればいいんだ?」
「……いきなり横須賀に連絡を出しても混乱されるかもしれないクマ……作戦の合同指揮をしてた岩川の
そう言って、パタパタと自分の服をまさぐった後、ジッ……と困ったように見上げてくる球磨。
「……何?」
「提督、紙とかペンとか、持ってるクマ?」
「ああ、そんならリュックの中にメモ帳とボールペンが――」
「さっさと戻って報告書と救援要請を書くクマ」
「は、ハイっ!」
@@@@@@@@@@
またそこそこ険しい道のりをえっちらおっちら戻って司令室にたどり着いた俺は、執務机に座って海水でゴワッゴワになったメモ帳に何かをせっせと書き込んでいる球磨を、じゃれついてくる妖精さん達を適当に構いながらボーっと眺めていた。
たんに鎮守府内を移動するってだけでいちいち十分くらい掛かるのはどうもキツいなぁ……さっさと道とか階段とか直さないと……いや、球磨が鎮守府に連絡入れたら俺もここ追い出されるんじゃねぇか?
うわぁ……短い提督生活だった……!
せめて一回くらい巨乳の艦娘とイチャイチャとかしたかったなぁ……。
ってか、その執務机、俺だって一回も使ったコトないのに、初めてを球磨に取られたんだけど。
切ない。
「………………提督、ちょっと聞きたい事があるクマ」
そう言って、書きかけの書状に目を落としたままの球磨が、ペンを止めてボソッと呟いた。
「コラッ、服の中に潜り込もうとするなっ……え、何? 聞きたい事?」
妖精さんたちとの格闘を中断して顔を上げると、球磨ちゃんのアホ毛が不安そうにゆらゆらと揺れているのが目に入った。
「その……球磨が、球磨じゃなくなっちゃったかもしれないって事……ちゃんと書かなきゃダメなのは分かってるクマ。でも…………怖いんだクマ。球磨は、本当に戻れるクマ? 球磨は、まだ艦娘でいられてるクマ? 戦えるクマ? 妹たちに、仲間に受け入れてもらえるクマ……?」
「お、おい……球磨ちゃん、震えて……」
気づくと、球磨ちゃんは寒さをこらえるように自分の身体を抱きながら、小さく震えていた。
髪の先や指先の方から、じわじわと白い色がのぼってきている。
「球磨は、本当に前の球磨のままクマ……? 今は、何も変化は感じられないクマ。見た目以外、何が変わったかなんて分からないクマ。でも……でも、本当にそうクマ?」
いや、変わったかどうかなんて……初対面だよ?
球磨ちゃんは、俺の答えを聞く事もなく、書きかけの書状に目線を落としたまま、淡々と不安を吐き出してゆく。
冷静になって、いざ助けを求めようと思ったら、突然色々な不安が噴出してきた、という感じだ。
アルバイトの面接の申し込みの電話をして、いざ実際にお店に赴く前のあの感覚に近いだろうか?
「……じ、実験台とかにされちゃうクマ? それか、まさか撃沈処分、とか――――!」
「球磨ちゃん!」
球磨ちゃんの聞き捨てならない呟きに、思わず声を上げる。
「く、クマっ?」
驚いたように顔を上げる球磨ちゃん。
すでに全身真っ白に黒セーラーの白クマちゃんモードになってしまっている。
「させないよ」
「……提督?」
「させるワケないだろ!」
実験台。
実験台!
球磨ちゃんを実験台にして全身いじくり回すだと!?
そんな羨まケシカラン事、させるワケにいかないに決まってるじゃないか!
本土の変態エリートどもめ、いっぱい揃えて並べた艦娘たちを日替わりで楽しむだけじゃ飽きたらず、こんな中学生みたいなロリかわいい処女球磨ちゃんまで実験と称して性的にイタズラするつもりだなっ!?
YESロリータ! NO、タッチ! の名セリフを知らんのか!?
「これはかんちがいしてるめです」
「おもしろいからほっとこう?」
「ていとくさんはおもしろいなあ」
「そこもすきー♪」
「きゃー♪」
空気を読んでおとなしくちょこんと正座していた妖精さんたちが何かこそこそと喋っているが気にしない。
「球磨は、俺の艦娘だ! サルベージだかなんだか知らんが、俺が既にボロボロの鎮守府をちょこ~~っと削ってまで建造した大事な艦娘だぞ? 本土のヤツらの好きになんかさせるか!」
撃沈処分なんてもっとあり得ない。
要らないなら寄越せ!
ちっパイだってもったいないだろうが!
「て、提督!? 突然どうしたクマ!?」
「球磨!!」
ガシッ、と球磨ちゃんの両肩を掴む。
蒼白く染まった瞳が驚愕に見開かれ、頬が僅かに染まっている。
「な、何――」
「お前は俺のモノだ!」
「クマァっ!?」
ピンっ! っと、球磨ちゃんの真っ白なアホ毛が驚いたように跳ねる。
「誰が何と言おうと、俺が建造したんだから球磨ちゃんは俺のだ。俺の艦娘だ!! 誰が返すもんか! 実験台になんかさせないし、処分なんか絶対させない!」
「ち、近いっ! 近いクマっ!?」
顔を赤くした球磨ちゃんにちょっとあり得ない位の馬鹿力で胸を押され、引き剥がされる。
あ……し、しまった、俺は何を言ってんだ?
球磨ちゃんは確かトラックだかダンプだかの提督の艦娘で、俺には何の提督補正もかかってないんだった!
何かここまで全然キモがられないモンだから、軽くギャルゲ感覚で喋ってた。
これじゃただの不細工キモ男に意味不明に言い寄られただけじゃね?
球磨ちゃん、プルプル震えちゃってるし……!
「く、球磨は……球磨は、と、トラックの艦娘クマ……」
「う、うぐぅ……そりゃ、そうだ……」
「ちょ、ちょっとだけ不安になって、色々言っちゃったケド……球磨の知る限り、今の軍隊は昔よりずっと人道的クマ。実際にはそんな非道な事は無い……と思うクマ」
「……そうなんすか」
うう……せっかくの初艦娘……いきなり嫌われてしまった……。
何だよサルベージって……俺にハーレムなぞ絶対に作らせないという世界の意思でも働いてんのかよ……!
かわいい処女の女の子は決して不細工には回ってこないと言うのですか、童貞の神様……!
しかし、俺が絶望に身悶えしていると、球磨ちゃんが続けて言う。
「でっ、でも!」
「はいっ!」
「……球磨がトラックに戻れるかは、分からないクマ。仲間に受け入れてもらえるかも……そ、それに、提督はなかなかのへっぽこクマ!」
「あうっ!?」
うう、コイツさっきから何べんも『なんちゃって』だの『モドキ』だの『へっぽこ』だのとズケズケ言いやがって……事実だから何も言えないケドさ……。
「て、提督は連れてる妖精さんの数も少ないし、色々ダメっぽいけど……妖精さんたちには何かあり得ないくらいなつかれてるし、珍しい妖精さんも連れてるし、く、球磨を建造する事もできたんだから……きっと才能はあるクマ!」
…………あれ、誉められてる、のか?
「ていとくさんはすごいんだぞー」
「かっこいいぞー」
「やらんぞー」
はいはい、お前らもありがとね、ズボンの中に入ろうとしないでね。
隙あらば潜り込もうとする妖精さんを逆さ釣りにして、球磨ちゃんの続きを待つ。
「だから……だから、もし、提督が一緒に本土に帰れたら、少しだけ一緒に居てやってもいいクマ!」
「……え?」
あれ、なんかフラグ立ってた?
今なんか、球磨ちゃんがツンデレヒロインみたいなセリフ言わなかった?
「か、勘違いしないで欲しいクマ! 球磨はこう見えても結構歴戦の艦娘だったクマ! 本当は提督みたいな素人同然の新人についたりなんかしないクマ! ……でも、提督が球磨をもう一度建造……サルベージしてくれたのは確かだし、球磨は提督の艦娘、と言えない事もなきにしもあらずクマ。ふ、不本意だけどクマ!? ……だから、て、提督が正式に予備役とかに就任したら、提督がちゃんと一人前になって、自分の新造艦を持てるようになるまで……提督の補佐に入れるように申請は出してやるクマ」
…………おや?
デレた?
俺にもちょっとくらいはあった感じか、ウワサの提督補正!?
テンションが上がって参りました。
「…………な、何とか言ったらどうクマっ!?」
俺が予想外の事態に固まっていると、球磨ちゃんが赤い顔で焦れたように叫んだ。
いつの間にか、髪も身体も元の色に戻っている。
「はえっ!? な、何とかって……?」
「う、嬉しいとか……ありがとうとかクマ?」
「あ、ありがとう……」
「……どういたしましてクマ」
これはどんな状況なのだろうか。
うつむいた球磨ちゃんと、軽く目線をずらしてぼそぼそとしゃべる俺。
クソっ、こんな所で俺の女性経験の薄さ(見栄)が露呈してしまうとは……。
いざデレ状態の女子を目の前にすると、気の効いた言葉が一つたりとも浮かんでこない。
と言うか、最初は球磨ちゃんが俺に聞きたい事があるとかじゃなかったか?
取り敢えず不安は解消したって事でイイのか?
イイよね?
「その……球磨ちゃん――」
「……球磨でいいクマ。普通の軍人さんは部下にちゃんとか言わないクマ」
「――分かった。球磨」
今俺は、かわいい女の子を呼び捨てで呼んでいる。
何か男として一つレベルアップした気分だ。
ショボいな俺。
「球磨の不安、その、少しは晴れたか?」
「クマ……まあ、考えるだけ無駄って事は分かったクマ。球磨を建造した提督がこんなテキトーなんだから、球磨も少しは提督の能天気にならう事にするクマ。……つくづく、こんなヘンな提督初めてクマ」
「いや、能天気って……そらお前の元提督のエリートさんたちに比べれば俺なんかクソみたいなもんかも知れないけどさぁ……」
いちいち現実を突きつけないでくれよ、ヘコむ。
「よしよし♪」
「ていとくさんはがんばった」
二頭身の妖精さんに慰められる俺、超情けない。
いいんだよ俺は、明日から頑張るんだから……。
「クマァ♪ 球磨はこれ、仕上げちゃうクマ」
「ああ、あいよ」
すっかり機嫌の戻った様子のクマは、長いアホ毛を楽しげに揺らしながら、カリカリとメモ帳への書き込みを再開し始めた。
はあ、またしばらくヒマになっちゃったな。
どうなるにせよ、まだしばらくはこの無人島で過ごすことになるんだろうし、少ない荷物の整理でもするか……。
「…………提督」
「ん?」
「ありがとクマ」
「……おう」
かわいいなぁ、艦娘。
@@@@@@@@@@
何故かガジガジと頭に噛みつき始めたツインテと格闘している間に、球磨が救援要請を書き終えたらしい。
「ふぅ……できたクマ」
「ふぅー……ふぅー……おお、書けたか」
ガチガチと歯を鳴らしながら、うわきものー! と暴れるツインテを顔から離しながら球磨に返事する。
それほど本気で怒っているワケでもなく、じゃれついているつもりなんだろうが、結構痛いから止めて欲しい。
あとヨダレ。
「あ、ちなみになんて――――」
「軍事機密クマ。部外者には教えられないクマ」
「ハイ。サーセンっした」
冷た過ぎないっすか?
さっきまでのデレ、もう終了なの?
「……提督の事は、できるだけ良いように書いたクマ。悪いようにはならないハズクマ」
「おお……ありがとう球磨」
やっぱり球磨はいいヤツだった。
ちょっと貧乳もいいかもって思えてきたじゃん。
提督目指してよかった。
大切そうに畳んだメモ用紙を懐にしまい込む妖精さんに、念を押すように話し掛ける球磨。
「妖精さん、岩川の鎮守府まで、かなり危険な飛行になるクマ。頼んでおいてこんなコト言うのもどうかと思うクマが…………この任務、断ってくれてもいいクマ」
「むようなしんぱいだぜ」
「とばないようせいさんはただのぷりちーなようせいさんだ」
いっちょまえにカッコつけて不適な笑みを浮かべるポニテ妖精さんとショート妖精さん。
……時々思うんだけど、コイツらはどこでそういう知識を身に付けてくるんだ?
普通の人に見えないのを良いことに、人んちに上がり込んで勝手にテレビとか見てるんだろうか?
いや、コイツらに至っては何十年もこの島でグダってたんだろ?
……うん、考えるだけ無駄だな。
「……感謝するクマ。そのメモを岩川の提督さんにちゃんと届けて欲しいクマ。白くて立派な髭のお爺ちゃんだからすぐ分かるクマ。……幸運を祈るクマ」
「まかせろー♪ かえったらていとくさんとけっこんするんだ♪」
「ぱいんさらだをつくってまっててね」
それは帰ってこないヤツの台詞だよアホ妖精。
あ、そうだ。
「なあ、妖精さん。その鎮守府に報告したらさ、帰ってくる前に俺の実家に寄って、住み着いてる妖精さん達にココの場所教えてやってくれないか?」
そう、妖精さんに顔を寄せて頼む。
アイツら、鎮守府作ったら呼べって言ってたし、一応追い出される前に呼んでおかないとスネそうだ。
一晩二晩もここでキャンプごっこでもすれば満足するだろう。
……あとはあの
「まかせるです」
「ていとくさんのたのみとあらば♪」
球磨が報告書にどう書いたか知らないが、もしかしたら部外者の俺だけはこの危険地帯らしい無人島に放置される……ってコトになるかも分からんし、念のため人手……もとい、
そんな事を考えていると、球磨が驚いたように横から口を挟んできた。
「実家クマ? 実家に提督の妖精さんがまだ残ってるクマ? 本土まで二千五百キロもあるクマよ? そんなに離れたら、妖精さんなんてとっくにみんなどっかにいっちゃってるクマ」
「えっ? そうなの?」
なんだ、そういうものなのか妖精さんって?
と、頭の上のツインテに訊ねてみると、
「わたしたちはていとくさんひとすじです」
と、答えになってない答えが帰って来た。
たぶん、『我々は一生お前に付きまとってやるぞグヘヘ』と言う意味だろう。
そんなに俺が好きなら、もうちょっとくらい俺に迷惑掛けないようにしてくれても良くない?
「…………ひょっとして、提督ってスゴい提督だったりするクマ? 実家の妖精さんって、どれくらいいるクマ……?」
そう、恐る恐るといった風に聞いてくる球磨。
それに、海軍の人事局窓口で言われた事を思い出しながら答える。
「んあー、いや、お前が思ってる程はいねぇよ。なんか本物の提督の百分の一くらいだってさ」
千匹だか二千匹だかだもんな。
しかも全員好き放題と来たもんだから……この百倍をどう管理するってんだよイケメン提督どもは。
やっぱイケメンだと妖精さん達も素直に言う事聞いてくれるんかね?
俺の答えを聞いて、球磨は安心したような、拍子抜けしたような、何か複雑そうな表情で溜め息を吐いた。
「なんだ……驚かすなクマ。提督は何もかもが今まで見てきた候補生の連中と違うし、ひょっとしたら……とか思った球磨がバカみたいクマ」
「さいですか」
お前、俺だってキズつくんだかんなー……?
そんな露骨に前の男と比較して失望した風に言わないでくれよ……あ、いや、別に別れたワケでもないから今の男になるのか。
ったく、これだから中古は――――
ゴスッ
「イ゛ったいっっ!!?」
「……よく分からないクマが、今なんかスッゴいムカついたクマ」
蹴った!
コイツわざわざ艤装履いて俺のスネ蹴ったよ!
いや、そりゃ処女を中古呼ばわりは悪かったかもだけど心の声だからセーフだろ! 提督イジメ反対!
俺提督じゃないけど!
「あー!」
「ていとくをけったなー」
「まあいまのはていとくがわるい」
「だいじょうぶ?」
うずくまる俺に群がってきゃいきゃい騒ぐ妖精さん達。
おおお……! や、止めろ!
今俺のむこうズネは枯れススキ並みにデリケートなんだ、ペチペチすんのヤメテ……!
「よーしのりこめー」
「わぁい♪」
悶絶する俺を完全に無視して、二匹の妖精さんが元気よく叫ぶ。
そして、衣装チェンジの時のようにペカーっと光ったかと思うと、いつも以上にちっこくなったポニテとショート妖精さんが、フロートを足場にしてピョンピョンっとコックピットに乗り込んだ。
「おーイテテ……ああ、なるほど、どうやって乗んのかと思ってたけど、そんな事もできんのな妖精さんって」
「提督、そんなコトも知らんクマ? ……ああ、そうか、士官教育も何にも受けてないんだったクマ」
呆れたようにそう言いながら、精巧なミニチュアの様な零水偵を大事そうに持ち上げ、肩の横んトコのカタパルトに乗っける球磨。
カチャカチャと艤装を鳴らしながら、重い扉を開いて司令室の外へ出て行くのを慌てて追っかける。
ま、待って待って!
そんな大事なこと、俺抜きでやんないで!
球磨を追いかけて、全身に妖精さんをくっつけながら司令室の外に出る。
当の球磨は眩しそうに目を細めながら、壁の崩壊した廊下で日が
球磨の長い髪が、暖かな潮風を受けて大きくなびいている。
強い陽射しが反射して、キラキラとまばゆく光る
繊細な絹糸のような、流れるような髪の一本一本が、幻想的に輝いている。
はためく白いセーラー。
踊る赤いネクタイ。
鈍く輝く艤装。
澄んだ
「――――ぁ」
――――――キレイだ。
「――――ひどい鎮守府クマが、発艦にはちょうどいいクマ」
球磨がそう呟くと、ザァァッ、と、うるさいくらいの潮騒が耳に飛び込んできた。
「っ……!?」
み、見とれてた……!
今一瞬、周りの音が聞こえないくらい、目の前の小さな艦娘に見惚れてしまった……!?
ひ、貧乳なのに……!」
「……お前ちょっと黙るクマ」
ギロッ、と横目で睨んでくる球磨。
おっと、声に出てたっぽい。
「うわき」
「ぎるてぃ」
「せいさいだー♪」
「や、やめっ、止めろっ! 痛いっ!?」
ツインテが俺の帽子越しに、俺のツムジ辺りをビシビシとつつき倒す。
同時に、俺の両脚にまとわりついた妖精さんたちが一斉に先程痛めたむこうズネをゲシゲシと蹴り初める。
や、止めろ、それはマジでシャレになら、アッー!
「…………クマァ……ちょっとだけ静かにするクマ」
呆れたような顔の球磨が、スッ……と左腕を真っ直ぐに持ち上げる。
水平に差し出された腕にそって、カタパルトがキュラキュラと向きを変え、青い海原に先を向ける。
バラッバラララッララララララ……
小さな排気口が黒い煙を吐き、プロペラが勢いよく回り初める。
その風を受け、球磨の髪が踊り、ディーゼルともまた違った匂いが辺りに漂う。
「イテテ……おっ、おおぉ…………!」
「うーん、なつかしいにおい」
「やっぱこのおとです」
「よいしあがり」
「わーい♪」
「とべー♪」
三座式コックピットの一番前と真ん中の席に座った妖精さんが、トンボみたいなゴツいゴーグルをつけて、グッ! と力強くちっこい親指を立てた。
「零水偵、発艦するクマ!」
ポンッ、という爆発音。
白い煙。
ブオッ、と吹き付ける風と火薬の匂い。
カタパルトに勢いよく押し出され、妖精さんを乗せた小さな零水偵は、いっそあっさりな程に、抜けるような青空に発進した。
「……!」
その瞬間、ピカーっ、と光をまとう零水偵。
次の瞬間、空を裂くように飛ぶ零水偵は、普段の大きさの妖精さんを乗せられるサイズにまで大きく巨大化した。
ブロロロロロ……、と景気の良いレシプロ音を響かせて、妖精さんを乗せた零水偵が空に大きく弧を描く。
ピカピカのコックピットが、陽射しを反射してまばゆく輝く。
ワスレナ鎮守府をぐるっと一周回るように旋回した後、細く煙をたなびかせる零水偵は、キラキラと輝きながら本土へと向かって真っ直ぐに飛んで行った。
「……ふぅ、無事発艦できたクマ。どうやら艦娘としての機能はちゃんと元通りみたいクマ。後は救援が来る事を祈るだ――――何してるクマ?」
「ん、お、おおぅ……!?」
球磨は大きく溜め息を吐いて俺に向き返り、少し驚いたような、変な顔をした。
また俺は、気づかない内に雰囲気に当てられたらしい。
俺の腕は、最初よりはいくらかマシになったであろう、海軍式の敬礼の形になって、顔の横にしっかりと添えられていた。
ちなみに妖精さんたちも一緒になってピシッと敬礼している。
「し、しかたないだろ……俺は雰囲気に乗せられやすいんだよ……!」
慌てて腕を後ろにやりながら、言い訳のようにそう言う。
うわぁ、こっぱずかしい!
本物の軍属を前に、何をいっちょまえに敬礼なんかしてるんだ俺は。
顔アッツ!
「……まぁ別に、悪いコトじゃないクマ」
プイッ、と顔をそむけながら、そう吐き捨てるように言う球磨。
あっ、コイツ笑ったな!?
チクショウ、いいじゃんか! 別に、敬礼くらい!
ちょっとくらい提督気分に浸らせてよ!
「………………提督、そんな顔できたクマね」
「……ん? 今なんか言った?」
ボソッ、と何かを呟いた球磨に、思わず聞き返す。
何々? 俺はそこらの難聴系主人公とは違うよ?
例えお胸がちょお~っとばかし慎ましやかでも、貴重なフラグは見逃さないよ!?
「……生意気クマ。提督モドキが調子に乗んなクマ」
「うわ、顔コッワ! 止めて、キズつくから!」
「うるさいクマ。何か連絡があるまで、こっちはこっちで出来るコトをやるクマ」
冷たく言い放って、のっしのっしと大股に歩きながら司令室に戻ってゆく球磨。
くそう、やっぱり気のせいだったか。
さっきは不覚にもちょっと可愛いかもって思ったのにコイツ、俺のトキメキ返せよ……!
「ちっ」
「らぶこめのはどうをかんじるです」
「どろぼうねこめー」
「がるる」
「オメーらは何言ってんだ――痛った! ツインテ、髪、髪引っ張んな! 禿げたらどうしてくれる!」
妖精さんとぎゃあぎゃあ騒ぎながら、球磨を追いかける。
……そのちょっと不機嫌そうな足取りの球磨の頭の上。
長~いアホ毛が、ほんの少しだけ機嫌良さそうに、ピョンピョンと跳ねていたのを、妖精さんの相手に夢中になりつつも、チラッと盗み見る。
……やっぱ、帰れるってなったら嬉しいよなぁ。
はぁ…………俺も自分だけの艦娘、欲しかったなぁ……。
……あ、ツインテお前、今ブチブチって音したぞ!?
抜いた!? 抜いちゃったのか!?
「…………提督、お前ちょっとくらいマジメにできないクマ!?」
改稿完了
※多分読者の大半に伝わっていないであろう冒頭の球磨ちゃんのセリフネタ元
sm5708934の11:13あたりから