提督落ちたから自力で鎮守府作る。   作:空使い

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漂着する意思

 

 

 

 

湿った大気を()()()()ような炸裂音と共に、至近で立て続けに水柱が上がった。

 

海面に生まれた渦に引き寄せられないよう、いっぱいに踏ん張りながら大きく旋回し、左腕の砲塔から一発、おおよその見当だけつけて盲目(めくら)に撃ち返す。

 

大小入り混じった砲弾の雨の中をS字航行で切り抜けつつ、黒煙と水飛沫の合間に首を捻ると、友軍部隊に追い詰められた敵艦隊が、最も守りの薄いこちら目掛けて決死の突撃を敢行したようだった。

 

……予定通りの動きだ。

 

『ソノママ、アル程度ノ抗戦ヲシタ(ノチ)、敵主力二突破サセヨ』

 

「『作戦は十全ニ承知シていマしてヨ。精々華々しク散って見せマスわ』」

 

『ウム。少々辛イ役目ダガ、我々ハ不滅ダ、遠カラズ再会出来ルダロウ。デハ、健闘ヲ祈ル』

 

「『健闘ヲ祈りマすわ、オーバー』 …………ふゥ……」

 

最後の通信を終えて顔を上げれば、陣形を(やじり)の形にした敵艦隊が、ほとんど一直線に全速力で此方に突撃してきていた。

数倍以上の戦力に完全に包囲され、散々にいたぶられてなお、彼女らの戦意はいささかも(つい)えていないようだ。

 

まるで、この世の不幸と正義を一身に背負ったような悲壮な顔しちゃってまぁ……。

 

「…………何隻かハ、沈メちゃっテイイのヨね」

 

つくづく、腹が立つ。

 

何も知らないクセに、自分達ばかりが世界の為に戦っているかのようなその無知が。

自分達は正義で、()()は悪だと、信じて疑わないその傲慢が。

……提督に指揮され、人々に愛され、イキイキと海を駆けるその姿が――――、

 

「……気ニ食わナいわ」

 

黒い艤装の単装砲四門を、突撃してくる護衛艦隊の先頭に向ける。

 

「過去ニ囚わレているノは、貴女達ダといウのに」

 

……私だって、

 

どうせ甦るなら、ソッチが良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………。

 

……………………。

 

………………………………?

 

「………………ア…………ゥ…………ココ……ハ……?」

 

全身がバラバラになってしまいそうな程、痛い。

そして、それ以上に、寒い。

自分でも、意識が朦朧としているのが分かる。

 

何でこんなに苦しいんだろう?

 

「ソうか……私…………沈ミ…………損ねテ………………」

 

ぼやけた視界に、海草やフジツボのこびりついた、ゴツゴツした岩場が見える。

 

痛いと、寒い。

 

それ以外、ほとんど感覚の無くなった冷たく冷えた身体は、この岩礁に引っ掛かって波にうたれているようだ。

耳元で聞こえるハズの潮騒が、やけに遠くに聞こえる。

 

ボロキレのようになった身体の半分は生ぬるい潮水に浸かり、この一瞬ごとにほんの僅かに残った体力がどんどん抜けて行くのを感じる。

 

死ぬ。

 

死ぬんだ、私は。

 

死ぬ。

 

沈む。

 

死ぬ。

 

「痛イ…………怖イよ……………」

 

そして、だんだんと痛みすら感じなくなってくる。

まぶたが重い。

視界がぼんやりと白く濁り、そして少しずつ暗くなって行く。

 

「やっパり……怖イ…………提督(アドミラル)…………私…………沈ミたク…………なイ……」

 

こんな、誰もいない所で。

 

誰にも知られずに。

 

一人寂しく、私は、死ぬ。

 

「…………助……ケテ……」

 

――――そんなの、イヤだ。

 

例え、またすぐに甦れると分かっていても、やっぱりもう二度とあの(くら)く寂しい水底になんて、戻りたくない……!

 

今更そんなコトに気付いて……でも、もう遅すぎて……ほとんど見えなくなった目に、涙が溢れる。

 

「……………タス………………………け…………」

 

……意識が途切れる寸前。

 

何か懐かしく温かい、大きな手が自分に触れたような気がした。

 

そして。

 

――――沈んでしまう、その直前だというのに、もう安心だと、何故かそう、確信するように思った……気が、した。

 

 

 

@@@@@@@@@@

 

 

 

先ほどから、球磨ちゃんが落ち着かない。

 

「クマ…………クマぁ…………クマー…………!」

 

ブツブツと不機嫌そうに呟きながら、『にゅうきょちゅう』という札の下げられた真新しいドアの前を、ソワソワした様子で行ったり来たりする球磨ちゃん。

さっきからずっとこんな調子で、時折ドアを睨んでは、俺の方を見て、また難しい顔をして歩き回る……その繰り返しだ。

 

「…………提督。………………やっぱり、今の内に……」

 

「ダメって言ってるだろ?」

 

「…………クマ……そ、そうクマね…………でも……」

 

「だぁからダメだって。とにかく、話を聞くまではダメ」

 

「………………クマ」

 

「しんぱいしすぎ」

「はげるぞ」

「まつのあきたー」

「かまえー」

「あそべー」

 

「ん、おお……騒がしいのは無しな……すぐ目を覚ますらしいし……」

 

いい加減ただ待っているのが退屈になったらしい妖精さんズがじゃれついてくるのを適当にあしらう。

 

今だけは能天気な妖精さんがありがたい。

さっきから空気が重苦しすぎてたまらんのよ。

 

再び白い深海モード(仮)になった球磨ちゃんがピリピリしながら、ず~……っと俺とドアの間に陣取って離れないのだ。

あれだけ念入りに武装解除したんだから、そんな警戒しなくてもイイのに……とは思うんだが、球磨ちゃんの言い分も理解できるだけに、ムゲに止めろとも言えない。

 

困った。

 

いつも勝手に頭の上でふんぞり返っているツインテは、部屋の中でニュウキョ中の()()の見張りだ。

 

目を覚ましたら出てくる手筈になってるハズだが……お!

 

キィ……とドアが細く開く。

中から、ムワっ……と、白い湯気と熱気が漏れだす。

 

「めをさましたです」

 

そう言って、ツインテがピョコン、と顔を出した。

 

 

 

@@@@@@@@@@@

 

 

 

(かす)かな、でもハッキリと聞こえた、助けを呼ぶ声。

その方向に走った俺は、とんでもなくショッキングな光景を目の当たりにしていた。

 

「な……ひでぇ……!」

 

岬の反対側、潮が引いてあらわになった岩礁の端っこ。

潮が引いた岩場の波打ち際に小さな人影が引っ掛かっているのを見つけて、湿った海草に足を滑らせながら走りよってみれば、そこに居たのは、

 

「お、おい! だだ、大丈夫か!? 生きてんのか、おい!?」

 

()()()()()()()()()()、全身傷だらけの、小さな女の子……の惨殺死体だった!

 

ぐぐぐ、グロい……!

どう見ても死んでるよ。

やばい、なんかこみ上げてきた……まず脚が無いし、肌は血の気が失せて真っ白だし、全身生傷や焼け焦げでボロボロだし……!

 

……いや、白いのは球磨ちゃんもか。

 

このコに、一体何があったというのか……酷い状態の死体だ。

しかし、そうするとさっき助けを呼んだコは別にいるってコトか?

確かにこの辺りだったハズ……どこにも見当たらんぞ?

もしかして力尽きて流され――――

 

「こいつはやくたすけないとあぶないですよ?」

 

「――――は?」

 

頭上のツインテの声に、思わず聞き返す。

 

「きゅうじょしないです?」

 

コイツ、まさか……!

 

「……ツインテ、不死身(たぶん)のお前には理解できんかもしれんが、このコはもう死んでるんだ……人間はな、身体の下半分がちぎれちゃったりすると、まぁおおむね死んじゃうんだよ……」

 

「そうなのかー」

 

目の前の死を、受け入れられないのか……!

 

考えてみれば、妖精さんはシリアスとは対極に位置する存在だ。

死とか、絶望とか、そういったモノを理解出来ないんだ……。

 

「したいはみんないきしてるです?」

 

「バカだなぁ、死体は息なんて――――」

 

そう言いながら、出来ればあまり直視したくない、白髪の少女の無惨な土左衛門にチラっと目を――――

 

「するわけ――――」

 

ヒュゥー…………ヒュー…………

 

掠れた呼吸音と共に、うつ伏せになった少女の背が、小さく上下しているのが見えた。

 

「おおおおおおおいおいおい、いい生きてんじゃねーか!!」

 

「そういってるです」

 

「バカおまえツインテおまえノンキ言ってねぇで救助だ救助! は、はやくえ~と、応急処置!」

 

生きてんなら最初にそう言えよ!

あ、いや言ってたか?

と、とにかく、このままじゃどう考えても不味い!

 

慌てて少女に駆け寄る。

 

「お、おいっ! しっかりしろ! 今なんとかするからな!」

 

しかし、少女からは何の反応も返ってこない。

今にも止まりそうなか細い息が、青白い唇から漏れるばかりだ。

クソ、意識を失ってるっぽい!

 

だいたい、応急処置ったって、下半身が無くなった患者ってどう応急処置したらいいんだ!?

腰か!?

腰でも縛るのか!?

……そういえば、このコ、全身傷だらけで血まみれなのに、一番重傷なハズの脚の方から血が流れてる様子がないぞ……?

 

恐る恐る、傷の断面を覗き込む。

 

「っ………………あれ……? これ……」

 

傷が無い――――というか、脚の付け根から下が、ツルンとしている。

なんというか、最初から無かったというか、最初から切断してあったような……にしては、縫合の痕も見られない。

 

「…………な、なんだ、千切れちゃったわけじゃ無いんだ……」

 

と、とにかく良かった……!

脚以外の全身が傷だらけなのは変わらないが、一番の致命傷っぽい箇所がなんともなかったのは良かった!

正直もうどうにもならんかもって思ったが、これならなんとか助かるかもしれない。

 

潮に濡れた長い白髪をかきあげて、おっかなびっくり青白い首筋に手を当てる。

 

「冷たい……!」

 

脈動も弱々しい。

相当弱っているのは確かなようだ。

 

しかし、俺が触れた瞬間に、ほんの少し、苦しそうな表情が弛んだ気がする。

 

「……あ」

 

冷静になって良く見れば、ボロボロで血のにじんだ腕には、真っ黒い艤装の残骸のようなモノがくっついている。

 

艦娘……いや、白黒ってことは、こいつが球磨ちゃんの言ってた深海棲艦なのか?

 

「………………」

 

深海棲艦。

 

漂着。

 

球磨ちゃん。

 

北マリアナ。

 

戦い。

 

敗北。

 

沈没――――。

 

「………………」

 

頭の中で、ついさっき聞いた話と目の前の状況が急速に組み上がってゆく。

 

もしかしてこのコって――――。

 

「…………そういう、コトだよな、やっぱり」

 

ボロボロになって、死にかけながら必死に息をして、頬に涙の跡を残した弱々しい姿。

それはほとんど人間と……艦娘と同じだ。

 

なんだ、聞いてねぇやこんなの、そっか、そうだったのか。

 

「おんなじじゃねぇか」

 

一瞬でも迷った自分が嫌になる。

 

「ツインテ!」

 

「あい!」

 

すると、気持ち嬉しそうな声で、ツインテが即座に返事をする。

なんだコイツ、俺を試したつもりか?

ナマイキなヤツめ、あとでこちょばしたる。

 

「にゅーきょどっくはこわれてるので、ちょうしゃにつれてくです」

 

「よ、よし、庁舎だな!? ……う、動かしても大丈夫だよな?」

 

下手に動かしたらかえってマズいとか困るぞ?

 

「いそがんとしぬぞー」

 

「わ、分かった、急ご――――」

 

 

 

「――――待つクマ!」

 

 

 

鋭い声に振り向く。

 

「提督……危険クマ。ソイツから離れるクマ」

 

そこには、

 

「……ソイツは駆逐棲姫……っていうクマ。深海棲艦クマ。……そんな見た目してるクマが、凶悪で、狡猾で、残忍なヤツで――――」

 

髪を真っ白に染め、真っ黒いセーラー服と艤装に身を包み、

 

「――――球磨の仲間のっ…………仲間を沈めた、(かたき)クマ」

 

瞳に、ゾッとするほど冷たい蒼い火を灯した、

 

「だから、提督」

 

球磨ちゃんが、立ちはだかっていた。

 

「そこを、退いて欲しいクマ」

 

 

 

 

 


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