提督落ちたから自力で鎮守府作る。   作:空使い

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初めての建造

 

 

 

「よろこんでー♪」

 

俺の淀み無い命令に、色白ツインテがかわいらしい敬礼で応える。

合わせて、妖精さんズもまた背筋を伸ばして、ちっちゃな指の先まで伸びた見事な敬礼をした。

 

誰の目にもやる気がみなぎっている。

 

俺の見せた鮮やかすぎる推理劇に、巨乳を憎む妖精さん達ですら、敬意を抱かざるを得なかったのだろう。

よせやい、テレるだろ。

 

「やるぞー」

「もえてきたぜー♪」

「つくるぞー」

「みててー♪」

 

ぴょんぴょん跳び跳ねて嬉しそうにアピールする妖精さん達に、見てるぞー、と手を振る。

 

ピカァーっと一瞬光り、あっという間に作業着と黄色いヘルメット姿になった妖精さん達が、戦隊ヒーローのようにビシッとポーズを決める。

 

コイツらの早着替えにも、もはや何とも思わなくなってきたなぁ。

 

目線を上げ、妖精戦隊さんの後ろを見る。

 

産業廃棄物をミキサーにかけて煮詰めたような液体にプカプカ浮かぶ黒いボールを、棒でつつき回して沈めようと頑張る黄ヘルのツインテ。

胸の、『げんばかんとく』と書かれたワッペンを見ながら、命令したはいいが、一体ここからどうやってかわいい女の子なんかを建造するというのか、分からな過ぎて首をかしげる。

 

怖いような、気になるような……。

 

と、足元に一匹の妖精さんが、海水の満たされたバケツを持って駆け寄って来た。

何だ? と思ってしゃがんで見下ろすと、後頭部に慣れた感触と重みが。

 

頭上から、しがみついたツインテの声が降ってくる。

 

「なまえよぶです」

 

そう言って、俺の頬を後ろからてしてしと叩く。

 

「名前? なんの?」

 

差し出されたバケツに手を添え、後ろを振り返ろうとする。

 

「きてほしいかんむすです。きこえるよーに」

 

「あ、ああ……えっと、球磨?」

 

「こえがちいさい」

 

ギュッ、と、ツインテがしがみつく手足に力を込める。

 

分かった分かったって……なんか照れ臭いなぁ……。

 

「く、球磨! 球磨ぁ! 聞こえるか? 球磨っ!」

 

こんなんでイイのか? と思いながら、半ばヤケクソになって叫ぶと、突然、後頭部と手の中のバケツがじんわりと熱を持ち始めた。

驚いて両手に力が入ると同時に、揺れる水面が、こころなし……いや、見間違えでなく、キラキラと不思議な青い光を(たた)え始める。

 

「お、おおお? おおおぉぉおお……!」

 

何だかよく分からんが、これでイイのか!?

い、イイんですよね!?

なんかシャレんなんないくらい熱くなって来たんですけどぉっ!!?

 

俺がそこそこの異常事態に軽くビビっていると、俺の頭から飛び降りたツインテが、俺の手からひょいっ、とバケツを取り上げ、てててっ、とプールに向かって走る。

 

そして、

 

「そおい♪」

 

プールの(へり)から、蒼白く発光した海水(?)をバケツごと豪快に中へ放り込んだ。

 

ええーーーっ!?

予想はしてたけど、ええぇーーーーーっ!!?

 

あんまりにも躊躇いの無い荒っぽさに、内心、バケツごとかよ!? と驚いていると、間髪を容れずに、今度はプールそのものが蒼白く発光し始めた。

 

「う……………………………………」

 

思わず、見とれた。

 

黒い水面にオーロラのようにたなびく、蒼い光。

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような、幻想的な光景。

 

…………綺麗だ。

 

何故か、異常なハズのその光から、目が離せない。

()()()()()()()()

そんな気がした。

 

声が聴こえるのだ。

酷く切なく、震える声が。

助けを求める声が。

 

しかし、それも一瞬だった。

取り憑かれたように、立ち上る細い光に手を伸ばし掛けた俺は、

 

「はーいさがってー」

「あぶないよー♪」

「さがったさがったー」

「そーいうのきんしー♪」

「ゆだんもすきもない」

 

「ええっ!? ちょちょ、ちょっと何だよ!?」

 

妖精さん達によって後ろを向かされ、ズイズイとプール(海底)から引き離される。

 

え、ホントに待って!?

よくは分かんないケド、いまメッチャ大事な場面じゃ無かったっすか!?

 

俺が戸惑いにたたらを踏んだ瞬間だった。

 

 

 

ゴウッッッッッッ!!!!!

 

 

 

凄まじい音と共に、周囲に真っ白い光が溢れ、全身に熱風が吹き付ける。

 

「今度はなん――――――」

 

振り返って、絶句した。

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ………………!!!!

 

 

 

溶接現場で使うような遮光マスクを被ったツインテが、火炎放射器のようなモノでプールに爆炎を叩きつけていた。

 

「ひゃっはー、おぶつはしょうどくだー♪」

 

 

 

ええエエェェェェェェェェッッッ!!!?

 

 

 

本日二度目の、魂の叫びだ。

 

「な、な、な、ナニやってくれちゃってんノオォォォォォッッッ!!?」

 

衝撃の光景だった。

幻想的だった先ほどとは一転、目の前で繰り広げられる世紀末な蛮行。

 

発光する程の高熱を放射され、蒸発、気化した白と黒の蒸気。

それがモクモクと吹き上がり、ゴミ処理場と交通事故現場を混ぜたような強烈な臭いと共にコウショウ中に立ち込めて行く。

 

それを囲んで熱風に髪をなびかせ、背後に向かって黒く長い影を投げ掛ける二頭身の妖精さん達。

揃いの遮光マスクをした姿も相まって、実に異様極まる光景だ。

 

やがて放射が終わり、妖精さん達が「ふはー♪」と遮光マスクを外した頃になっても、俺は衝撃から立ち直れないでいた。

 

燃やしちゃったよ……。

なんか今にも艦娘が産まれて来そうだったプール、燃やしちゃったよ……!

 

くらくらと目を回す俺の目の前で、更に状況が動く。

 

妖精さん達が赤熱するプールの横の床に這いつくばって、何かゴソゴソすると、ガゴッ、という音と共に、コンクリート板が長方形に剥がされ、脇に退かされる。

そしてそこから、ガコン、と鋼鉄のレバーが引き出された。

 

七匹の妖精さん達が全員で錆びたレバーに取り付き、「せーのっ♪」の掛け声で、ガシャンッ! と重そうなレバーを倒した。

 

同時にコウショウの地面の奥から響いてくる、ゴリゴリゴリゴリ…………という、太い鎖の擦れ合うような鈍い音。

 

何事かと思えば、蒸気の立ち上るプールの脇で、ピー♪ ピー♪ と笛を吹きながら紅白の旗を振るツインテ妖精さんの姿が。

 

あっけに取られる俺の目の前で、中の液体がすっかり蒸発した長方形のプールの底が、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………と重々しい音を立ててゆっくりとせり上がって来た。

 

ピピィーー…………ピッ!

 

という、ご機嫌な笛の音と同時に、ゴウン……と底の上昇が停止する。

 

(は、反応が追い付かない……!)

 

次々に起こる不思議現象に、スペックの低い脳ミソが拒否反応でも起こしているようだ。

ここ、ただの汚いプールかと思ったら、建造ドックっての、本当だったんだな……と、現実逃避のようにそう思った。

 

シューシューと煙を出すプールの底には、黒鉄の台座が作られ、その上に、蒼白く発光するボールの様なモノが載って、瞬くように弱々しく明滅している。

 

「かこめー♪」

「いそげー」

「しあげだー」

「うでがなるぜ」

 

それぞれの手に金槌やスパナなんかを持った妖精さん達が、待ち構えていたかのようにその塊に突撃した。

 

カーンッ♪ カーンッ♪

 

という小気味良い音を響かせて、ゆらゆらと光を揺らす塊が、みるみる内に形を変えて行く。

 

そして、

 

「できたー♪」

「やっぱりこうそくけんぞうはらくちんだぜ」

「ほめてー♪」

「いいできばえ」

 

ものの一分も経たない内に、光る塊はその形を整えられていた。

 

「…………これは……?」

 

船……軍艦だ。

明滅が止まり、ただ静かに蒼白い光を湛える、軍艦……のミニチュア。

 

台座の上に、人が一人横たわったくらいの長さの軍艦の、白一色の精巧な模型が浮かんでいた。

 

「コレが…………艦娘? 球磨なのか……?」

 

うわ言のように呟く。

気づけば周囲には、どこか静謐な、厳かな空気が満ちていた。

 

妖精さん達は、如何にも一仕事終えたぜ、みたいな顔で、ヘルメットを脱いで動物柄のタオルで額を拭っている。

 

「ていとくさん。さいごのしあげです」

 

ツインテに促され、慌てて発光する軍艦の前に進み出る。

なにがなんだか分からないでいる俺の頭によじ登って、ツインテが言う。

 

「このこがくまです」

 

言われて、建造(?)された軍艦のミニチュアを眺める。

 

細長く、カッコいい船だ。

マストが二本、前に見晴らしの良さそうな艦橋、後ろには一基のクレーン。

真ん中に、先の膨らんだ煙突が三つ。

一つ、二つ……砲塔が全部で七つ、前に二、両舷に一、後ろに三。

後部砲塔の間には、水上機を載せたカタパルトが一基。

魚雷の発射管は、四基八門。

艦首に菊花、艦尾に旭日旗。

 

間近で見ると、大きさと重武装とが相まって中々に迫力がある。

コレで『軽』巡洋艦なのか……軍艦ってスゲェ。

 

…………じゃなくて、

 

「これ、艦娘……」

 

これ、艦娘じゃ無くない……?

ただの良くできた模型……?

 

普通でない事は分かる(ふわふわ浮いてるし、光ってるし……)のだが、どう見ても人形(ひとがた)じゃない。

 

戸惑う俺に、頭の上から、ツインテが言った。

 

「さわって、なまえをよぶです」

 

訳も分からず、そっと手を伸ばす。

ゴクリと唾を飲み込む。

 

ぴとっ……と、艦首に手を触れた。

ひんやりとした感触に驚きながら、恐る恐る、名前を呼んでみた。

 

「……球磨」

 

……。

 

…………。

 

………………?

 

別に何も起きな――――――

 

 

 

パアアァァァッ、と、『球磨』が光を放つ。

 

「うわっ!?」

 

思わず腕で目を庇った。

 

妖精さん達が、興奮したようにぴょんぴょん跳ねている。

 

腕の隙間から、眩い光を放つ球磨がぐにゃぐにゃと変形するのを見た。

 

丸くなり、頭が、腕が、足が生えて行く。

軍艦そのままだった球磨が、蒼白い光の中で徐々に人の形に変わって行く。

 

「…………!」

 

「あ」

「あ」

「あ」

 

そこに、黒い光が混ざる。

 

髪の長い、小柄な女の子の形に成りつつあった球磨の内側から、仄冥(ほのぐら)い光が漏れだし、身体にまとわりついて行く。

 

薄く広がるように身体を這う光が、衣服のように変形して行くのをただ呆けたように眺める。

 

やがて光が止むと、目の前、ドックの上には、()()()()()()()()()()()の、中学生くらいの女の子が、ふわり、と浮かんでていた。

 

なだらかな肢体を包む真っ黒いセーラー服に、同色のショートパンツ。

襟もとのタイまで真っ黒だ。

足の艤装――艦娘の装備をそう言うらしい――は、連装魚雷発射管まで真っ黒、背嚢(はいのう)型の艤装もまた、マスト、艦橋、カタパルト、煙突、単装砲に至るまでこれまた黒一色で、内側から溢れ出すように蒼い光が零れている。

 

その、()()()()()()()()()()()()()、真っ黒ずくめの白い少女は、よく見るとうわ言のように口を動かしていた。

 

「……な…い………めない…………だ、…ずめない…………」

 

「……?」

 

何か、うなされているようだ。

 

建造された白い艦娘が、ゆっくりとドックの上に降りてくる。

と、台座の上に足を着いた瞬間、フラッ、とグラついた。

 

「あっ、ぶなっ――」

 

「しず…めない……、…マは……まだ、沈めない…………っ!」

 

しかし、白い艦娘は、大きく足を開き、ガリッ! と床の破片を飛ばしながら、腕をだらんと垂らして踏ん張った。

 

スッ……と、(まぶた)を開く。

蒼白い光。

 

「球磨は…………球磨は、まだ……こんなトコロで…………っ!」

 

蒼い目が、真っ直ぐに俺を貫く。

強く、燃えるような壮絶な意志のこもった、瞳。

 

ピョコンっ、と、少女の頭から白く長ーいアホ毛が跳ねた。

 

ツインテ以外の妖精さん達は、遠く柱の陰からこちらの様子を窺っている。

 

「ていとくさん……」

「ふぁいと♪」

「おしいことをした」

「わすれないです」

 

アイツら、いつの間に――――!?

 

素早く背後に手を伸ばし、取り外した単装砲を真っ直ぐに俺に向け、両手でがっちり構える、白い艦娘――――球磨?

 

「え、ちょっ――――」

 

「沈めないんだクマーーーーーーーーっ!!!」

 

かわいらしくも迫力ある声で吠えた球磨(?)が、固まって動けない俺の脳天目掛けて、引き金を引いた。

 

(えっ、ウソっ、死っ――――!!)

 

 

 

ガチンッ!

 

 

 

しかし、砲口から砲弾が飛び出す事は無かった。

 

弾切れ――――というか、装填されていなかったようだ。

 

凍りつく俺の目の前で、俺を仕留め損なった球磨(?)は、顔をしかめ、ぶらん、と腕を下ろした。

 

ガチャンッ、と、取り落とした単装砲が床に転がる。

 

フッ、と、球磨(?)の瞳に燃えていた蒼い炎が消え、力無く瞼が落ちる。

そして、糸が切れたように体勢を崩すと、フラッ……と身体が傾いて行く。

 

ゲシッ、と、ツインテに後頭部を蹴られる。

 

「アタっ……ととっ!」

 

思わず前につんのめり、倒れ込んできた球磨(?)を抱き締めるように受け止めた。

身体に感じる冷たさと、柔らかい感触と、小さな重み。

 

「さるべ……けんぞうはせいこうです」

 

「ちょ、ちょっと、えっと……球磨? 球磨さんですか……!?」

 

初めて感じる、女の子の頼りない感触と香りにドギマギしていると、胸元から、すぅ…………という、静かな寝息が聞こえて来る。

 

恐々と見下ろして見ると、球磨、であろう、穏やかな顔で眠る女の子の蒼白い顔に赤みが差し、真っ白だった髪の先方から、明るいブラウンに染まってゆく。

それだけでなく、真っ黒だったセーラー服は白く、タイは赤く、艤装は鋼鉄の灰色に色が変わり、球磨の身体がだんだんと温かくなって行く。

 

アホ毛の先までが茶色く染まった時には、すっかり血色の良くなった小柄な女の子が、アホ毛を揺らしながらスースーと気持ち良さそうに俺の身体に寄りかかっていた。

 

えっと……ど、どうしよう……?

 

「よかったね」

「いちじはどうなることかと」

「しんじてたぜ」

「さすがていとくさん」

「あこがれちゃうなー」

「ちゅっちゅっ♪」

 

妖精さん達がわらわらと戻ってきた。

 

混乱の極みにあった俺に、頭の上からツインテ妖精さんの声が降ってくる。

 

「とりあえず、べっどにもってきましょう」

 

そう言って、鎮守府庁舎の廃墟の方を指差した。

 

「お、おう……」

 

いっぱいいっぱいの俺は、おっかなびっくり、建造ほやほやの球磨を抱えて、賑やかな妖精さん達に囲まれながらコウショウの出口に向かって歩いた。

 

 


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