VRオフラインゲームにのめり込んでヒーローごっこをしていた馬鹿が、インスタ映えを意識したスクショを撮ったり自分のカッコいいシーンを編集して動画にUPしたりするお話。

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インスタバエル! ~VRオフラインゲームはヒーローごっこじゃない1111!!!!!~

 荒野の空と地に灼熱の閃光が広がっては消えていく。

 荒れ果てた広大な大地に溢れる光芒の乱舞は、「人類」の軍隊と「魔族」の軍隊による戦闘の光だ。

 一方が敵兵を葬れば、もう一方が負けじと敵兵を爆殺する。

 戦意と熱気が奔流して双方の軍隊がぶつかり合い、そして散華していく光景は戦場という地獄絵図を可能な限り美しく彩ったものだった。

 もちろん、戦っている者達の中にこの場所へ美意識を持ち込んでいる者はいない。

 ある者は死の恐怖から逃れる為、ある者は自身の理想とする世界を実現する為、ただ必死で目の前の敵と戦っているのだ。

 

 「魔族」が集う「魔王軍」と「人類」の一部が集うレジスタンス。二つの勢力によるお互いの全てを懸けた戦争だった。

 

 魔王軍はここより次元を隔てた世界である「魔界」から渡り来た魔族の王が、地上世界を侵略する為に結成したその名前の通りの軍隊である。

 遥か昔、この世界の「神」によって太陽の暖かさも地を照らす光も無い劣悪な世界である魔界に放逐された彼らは、数千年の時を経てこの地上に帰ってきた。ただ光を求めて――暖かい世界と美しい空を求め、その果てに彼らは地上の支配者である人類へと牙を剥いたのだ。

 

 彼らの攻撃により、当然のように地上人類は大打撃を受けた。

 

 魔王軍の強引な侵攻行為は経済的、人的にも多大な被害を地上にもたらし、人々は侵略者を憎み応戦した。

 その憎しみは怒りとなり、暴力に姿を変えて際限なく連鎖を続けていく。

 

 魔族と人類――双方には戦う理由があり、非があった。

 

 魔王軍の非人道的行為によって命を失った者も多いが、人類側だけが被害者というわけではないのだ。最初は平和的に魔界から訪問してきた魔族の移民達を、地上の人々がこぞって拒絶し、テロを起こして会戦のきっかけをつくったのが混沌の始まりだった。

 

 お互いに同じようなことをしていて、同じような目に遭って――違っていたのは、互いの立場だけだ。

 

 

 ――その憎悪の果てに、もはや祖国を滅ぼされ、後の無くなったレジスタンスが魔王軍に対し最終決戦を挑んだのがこの日のことだった。

 

 レジスタンスの戦力は、これまでに魔王軍に滅ぼされてきた数多の国々で生き残ってきた残党兵達で構成されている。それこそ魔王軍に攻め込まれるまではお互いの国で牽制し合っていた、昨日の敵が今日の友の関係である。

 それぞれに故郷も違えば肌の色も違う。尻尾が生えている者や獣耳が生えている者もおり、なりふり構わず世界各地から結集したと思われる顔ぶれがそこにあった。

 敗北した国の残党兵達とは言え、今この場において数の上では劣っていない。士気の方もまた背水の陣の思いか、はては魔王軍への復讐心からか今が最も高まっていると言っていいだろう。

 

 しかし、個人の力の差は絶望的なほど開いている。

 

 魔界という劣悪な環境で育った魔族の者は、その環境に適応するべく地上人類からすれば異形と呼べる姿へと進化している。そんな彼らの肉体は、全てにおいて人類のそれを上回っていた。

 人類側のアドバンテージと言えば、戦う場所が自分達のホームである地上世界だということで得られる地の利ぐらいなものだ。だが、それを承知でレジスタンスは魔王軍に挑んでいた。

 

 戦闘開始直後から、情勢が魔王軍へと傾いていく。

 既にレジスタンス側の損傷率は、魔王軍側の四倍を超えていた。

 軍隊は後退を余儀なくされ、馬やワイバーンに乗った騎兵達が後へ、後へと押しやられていく。

 

 その様子を後方から見ていたレジスタンスの司令官が、短いうめき声を上げた。

 唇が裂けんほど憤怒した目で魔王軍の軍勢を睨むが、彼の視線だけで戦況が覆ることはない。

 唾を吐き散らしながら、握り締めた拳を震わせて大きく叫ぶ。

 

「怯むな! 散っていった祖国の者達の為にも、我々は立ち止まるわけにはいかんのだ! この地上を、奴らの手に渡しては……」

 

 ならん!――勇ましくそう紡ぎかけた言葉は、友軍からの新たな呼び声によって遮られた。

 

「司令!」

「なんだ!?」

「げ、幻魔です! 幻魔アンドレアルフスが来ます!」

「なんだとォ!?」

 

 怯えを含んだ報告に、司令官が目を見開いて彼の監視していた方角へ向き直る。

 そこにはたった一体でレジスタンスの集中砲火を掻い潜り、一騎当千の立ち回りで友軍を蹴散らしていく魔族の姿があった。

 二メートルを超えている体長は人間にとっては巨体で、魔族にとっては標準的な体格だ。

 しかしその者だけは他の魔族とは明らかに格が違っていた。

 引き締まった身体は長く鋭利なかぎ爪の光る強靭な両足に支えられており、腰部の後ろには巨大な扇のように虹色の尾羽が広がっている。

 上半身にはボディビルダーにも劣らない逞しい両腕がついていたが、その頭部は人間ではなく「鳥」のものだった。

 鷹のような鋭い眼光と、巨大なくちばし。

 そして背中には、彼の最大の特徴を示す翼長五メートルもの美しい翼が広がっていた。

 まるでクジャクのような、威圧的にも美しい虹色の翼。それを背中に生やした彼の姿は、「鳥人」と形容したところだろうか。巨大なクジャクが筋肉質な人型に進化したような姿は不気味にも美しく、翼と同じ虹色の体毛に覆われたその姿を見た瞬間、司令官の心に絶望が過った。

 

 幻魔アンドレアルフス――魔王バアルに絶対の忠誠を誓う魔王軍の大幹部、「バアル七十幻魔」の一員である。

 

 レジスタンスの者達にとって、その姿は何度も辛酸を舐めさせられた恐怖と憎悪の対象でもある。

 虹色の翼を広げこちらへ向かって接近してくる敵を睨みつけながら、司令官がギリッと歯ぎしりしたと同時に戦場に哄笑が響き渡った。

 

「ワハハハハ! 敗残兵どもで固められた寄せ集めの軍隊など、この俺の相手ではないわ!」

 

 司令官が名を叫ぶよりも先に、アンドレアルフスが高らかに叫ぶ。

 その直後、彼が右腕を振り上げたと同時に、アンドレアルフスの翼から無数の刃が全方位に向かって放たれる。

 

 レインボー・ウイングハリケーン。

 

 自らの虹色の羽根をカッターとして撃ち出すその技の名を、司令官は知っていた。

 その威力も。

 だが彼が味方に注意を促すよりも早く、アンドレアルフスから射出された大量の羽根がまるで意思を持っているかのように屈曲し、弾丸の雨となって全軍に襲い掛かった。

 

 一瞬にして、辺りの戦士達が倒れ伏していく。

 

 そう、レジスタンスは一気に何十という味方を失ったのである。

 

「ふぅん……思い知ったか人間共! 所詮貴様らの実力などこの程度なのだ! 大人しくバアル様にひれ伏していれば、最小限の犠牲で済んだのになァ!」

 

 生き残った者達が驚愕を整理するよりも速く、両腕を組みながら空を翔けるアンドレアルフスが動く。

 レジスタンスの軍勢を一望できる高度まで、高々と舞い上がった彼がそのクチバシに魔力のエネルギーを集束させる。

 

 ――まさか!

 

 司令官の背筋に冷たいものが走る。

 奴はやる気だ。味方を巻き込むのも構わず、レジスタンスの全軍を……この荒野ごと吹き飛ばすつもりだ。

 幻魔と呼ばれる魔族には、それが出来るだけの圧倒的な力が備わっている。

 

「悪魔め……!」

 

 敵の狙いがわかっても、司令官にはどうすることも出来なかった。

 既に敵は攻撃の発射体勢に入っており、ワイバーンの騎兵達は先ほどのレインボー・ウイングハリケーンで全て地に叩き落されている。

 奴に制空権を取られた時点で、レジスタンスの敗北は決まっていた。

 

「さらばだ! ぶるああああああああっっ!!」

 

 巨大なクチバシから、極太のビームが放射される。

 視界が閃光に埋め尽くされ、直径数十メートルに達しようかと眩い光の柱が目の前まで迫って来る。

 抗うことなど出来はしない。まさにそれは天より落とされた粛清の雷のようだった。

 ……せめて、目を逸らさずに逝こう。

 精一杯の意地で目を開けていた司令官は、覚悟を決めて迫り来る暴力の光を受け入れる。

 

 だが、それはレジスタンスの軍勢を飲み込む手前で――突如現れた白い閃光と交錯し、弾かれ、四散した。

 

 そう、白い閃光として現れた金色の剣が、アンドレアルフスの放ったビームを切り払った(・・・・・)のである。

 

 

「馬鹿な!? 何が起こったというのだ!?」

 

 驚愕に目を見開いたアンドレアルフスが、両目の角度を鋭角にして介入者の姿を睨む。

 勝利を決定づける渾身の一撃を防いだ邪魔者――それは、白い鎧を纏った翼の騎士だった。

 肌の露出は一切無い、鋭角的で無骨なフォルムをしているフルフェイスの騎士甲冑。

 背中から生えているのは、アンドレアルフスのカラフルな翼と対を為すような白い翼。

 そしてガントレットに覆われた両腕が携えた二振りの剣は、魔王軍が今最も恐れている存在を意味していた。

 

 

「あれは……バエル!」

 

 

 閃光の中から現れた白き騎士の名を、人々はそう呼んだ。

 そんな介入者の登場を、レジスタンスの司令官と生き残り達は呆然と見つめていた。

 事態を把握するに連れて、彼と、彼の周りにいる兵達の表情が一様に喜色へと変わっていく。

 

 

 ――バエルだ!

 

 

 歓声が沸き上がるレジスタンス兵達の前で、白き騎士はその翼をはためかせて天へと昇る。

 

 

 バエル――バエル・インスター。

 

 

 それは、この混沌の時代に一条の光をもたらそうとする、新たな勇者の名前だった。

 魔王軍と人類軍がひしめき合う戦場に、人々の危機に颯爽と現れては敵を単騎で倒していく最強の戦士。

 掲げる理想は戦乱の時代の終焉。この馬鹿げた戦争を終わらせる為だけに、何の見返りも求めず、どこの組織にも属さない。

 絵に描いたような理想の勇者(ヒーロー)。それが、バエル・インスターという白騎士の存在だった。

 

「……来て、くれたのか……」

 

 未だ歓声が沸き続ける残存兵達の中で、張りつめた糸が切れるように司令官の膝が崩れ落ちる。

 涙ぐんだ視線の先には、虹色の悪魔に急迫していく翼の白騎士の姿が映し出されていた。

 

 

 二刀流の白騎士は飛翔スピードを緩めず、右腕の剣を振り上げて虹色の敵に接近していく。

 虹色の敵も、組んでいた腕を解くなり鋭利な爪を剥き出しにしてそれを迎え打つ。

 黒く歪んだ空の一隅で、金色の剣と爪が激突した。

 白騎士と虹色の悪魔の間から凄まじいスパークと火花が弾け、怒りに沸騰したアンドレアルフスの声が大気に響く。

 

「バエル・インスタァァァッ!!」

 

 エネルギーの波濤を迸らせながら、鍔迫り合いを演じる両者の態度は対照的だった。

 アンドレアルフスは鬼気迫るほどの熱を浮かべ。

 白騎士は仮面の下でニヒルに笑む。

 そんな白騎士の感情が剣先から伝わったのか、アンドレアルフスがさらに怒気を膨れ上がらせながら叫んだ。

 

「いつもいつもいつも……! 何故貴様は我々の邪魔をするのだあああ!?」

 

 白騎士が仮面の下で鼻を鳴らし、僅かに顎を引く。

 次の瞬間、膠着した戦況が変化した。

 鍔迫り合いの状態から、白騎士がアンドレアルフスに右足を叩きつけたのだ。

 胴部にその一撃を喰らったアンドレアルフスが、ぐうっと呻きながら弾かれたように吹っ飛ぶ。

 それでもみなぎらせた戦意をそのままに、虹色の悪魔はその翼を羽ばたかせた。

 

「既に貴様らに勝利はない! 地上は我ら魔族の手中に収まっているというのにぃ!」

 

 二射目のレインボー・ウイングハリケーン。

 レジスタンスの軍勢を相手にした時は全方位に拡散させて放ったそれを、アンドレアルフスは目の前の白騎士だけに撃ち出す。

 目も覆いたくなる羽根(だんがん)の嵐である。

 その弾幕を閃光のような速さで宙に鋭角的な軌道を描きながら、白騎士は襲い来る全弾を避け切ってみせる。

 そんな彼は、アンドレアルフスに対して指を差すように左手の剣を突き出し、叫び返した。

 

「人々の心は折れていない!」

「なに?」

 

 若い、男の声だった。

 その声で叫んだ白騎士は、地上からこの戦いを見上げている全ての人々の耳に届けるように、「魔法」で強化した声帯を持って高らかに語り出した。

 

「レジスタンスの人々よ! たとえ魔族の前に敗者となろうとも……諸君らの気高い生き様は、永劫に語り継がれていくべきものだ!」

 

 演劇のように通った声で。

 毅然とした佇まいで。

 騎士は今、人々に対して宣誓する。

 

「創造神の意志は、常に私と共にある」

 

 故に、教え導くと。

 力無き者の目を集めるように、無骨な仮面に刻まれた白騎士の目の部分が赤く光り輝いた。

 

「諸君らが祖国を失った無念に、未だ彷徨い続けるのならば……私が光指す道標となろう!」

 

 右腕の剣を高く振り上げ、剣先から迸り出た波動が黒い雲を消し去り、降り注ぐ太陽の光を露出させる。

 その光に金色の刀身を瞬かせながら、白騎士バエル・インスターは世に生きる全ての弱者に対して命じた。

 

 

「皆――バエルの下に集え!」

 

 

 あれこそが……勇者!

 

 邪悪な悪魔の前で披露した神々しい姿を前に、誰もが心を奪われた。

 敵軍である魔王軍さえ足を止めているところを見るに、魔族にとってもそれは心に響く光景だったのだろう。

 気づけばその白い姿を見上げるレジスタンス司令官の目に、熱い液体が流れていた。

 

「バエルだ!」

「伝説の勇者の魂……!」

 

 数千年前にこの世界に現れ、神と共に世界を救ったと伝えられている伝説の勇者。

 今は亡き祖国にいた時は何度も読み直していた伝説の一節が今、彼らの目の前にあるように思えた。

 そんな彼の威風堂々たる姿を道標にして、倒れ伏していた兵達が次々と戦意を取り戻していった。

 

「そうだ……正義は我々にあるッッ!!」

 

 司令官はまるで自分が幼い少年の頃に戻ったようだと錯覚しながら、彼に続くように部下達を鼓舞する。

 その叫びを胸にして、息も絶え絶えだった筈のレジスタンスは蘇った。

 

「おおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地を揺らすほどの歓声を下にしながら、「プレイヤー名」バエル・インスターは感動に打ち震えていた。

 外見上は剣を携えながら、その心は今にも踊ってしまいそうだ。

 

 ――決まった……これ以上なく、完璧にキマッた!

 

 多くの人間には、「現実には出来ないが一度でもいいからやってみたい」と思うことがあるだろう。

 

 インドア派の者が山の頂上からありったけの声で叫んでみたいと思ったことがあったりとか、そういうものが。

 そして彼にとってのそれが、今この【Heavens(ヘブンズ) Knight(ナイト) Story(ストーリー)】という「VRオフラインゲーム」の世界で盛大な「英雄ごっこ」をするというものだった。

 

 最高に映える(バエル)アバターを作り、最高に映える(バエル)場面を演出する。

 

 ただただカッコいい自分に酔いしれたい、オフラインゲームだからこそ誰の目に憚れることなく、何も気にすることなくはっちゃけてみたいという一心での奮闘だった。

 

 

 ――これは過去最高のいいねポイントやろなぁ……インスタに載せたら楽しみだ。それっぽいBGMをつけてニッコにアップすれば20万再生はいけるかも。

 

 

 無骨な仮面の中でニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべているこの男は今、心の中では全裸でイナバウアーしてからブリッジへ移行、その後三点倒立でグルングルンと大回転を決めていた。

 

 ――到底、人には知られたくない内心である。現実にこんなのがいたらやべー奴だとドン引き待ったなしだ。

 

 

 ……だからこそ、英雄のロールプレイをする彼は思う。

 ああ、このゲーム買って良かったわ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何の為に生まれ、何をして生きるのか。

 

 かの国民的ヒーローの主題歌にもある哲学的なフレーズであるが、その質問を受けてすぐに答えられる人間は意外に少ないのでないかと思う。

 

 因みに俺は上手く答えられない口である。何となく生きて、何となく楽しんで、何となく一日を終える。そんな、何気ない人生だ。

 かと言ってそれに満足しているかと言うとそういうわけでもなく……なんだろうな、俺自身はそんな自分の、何気ない人生をどこか不満に感じていた。

 

 別に今の人生を不幸だとも、不自由だとも思っていない。贅沢言うなって言われれば何も否定出来ないだろう。

 

 ただ、俺は――

 

 

 一度ぐらいこう……なんか、盛大にはっちゃけてみたくなったのだ。

 

 

 例えば正義の味方として、スタイリッシュに悪を倒したり。

 その逆で、カリスマ性溢れるライバルポジションで正義の味方を苦しめるのにも憧れていた。

 別に自分がハリウッドスターみたいな主人公だなんて思っちゃいない。

 もちろん犯罪行為をして有名になるのなんかは以ての外だし、今の生活を壊してまではっちゃけたいかと言えばそれはナシだ。そのぐらいの分別はある。

 

 ただ……たった一度でも人の印象に残るようなことをして、大きな花火のように散ってみたいと思ったのだ。

 

 割とありきたりなようにも感じるこの自己顕示欲を俺は抱えていて――成人式で会った大多数の元クラスメイト達から存在を忘れられていたほど、人の記憶に残っていなかった過去の自分を嫌悪しながら悶々とした平和な日常を過ごしていた。

 

 

 そんなある日のことだ。

 

 何気なくテレビを眺めていた俺の目に壮烈に焼き付いたのが、最近発表された「ワールド・ダイブ」という新技術を取り入れた、「超常的VRオフラインゲーム」のCMを見た時のことだった。

 

 CMで紹介されたのは、少年の頃に憧れた幻想的なファンタジーワールド。

 その世界へ直接入り込み、一人の主人公として自由に駆け回る。

 ドラゴンを狩るもよし。

 帝国に喧嘩を売るのもよし。

 魔王軍と戦うのもよし。

 逆に、魔王軍に入って人類を敵に回すもよし。

 あえて戦わず、その世界の一市民として生きるもよし。

 

 紹介されたゲームの世界はプレイヤーのどんな行動でもプレイの一部として組み込まれていく、もう一つの現実と言ってもいい世界だったのだ。

 

 

 

 ――これは、映える(バエル)

 

 

 

 それほどゲーム好きだったわけでもない。始めは衝動的だった。だが、俺は初恋の時のようにそのゲームに惹かれ、やってみたいと思った。

 思い立ったが吉日、俺は近所のゲームショップに一つだけ残っていたそのゲームをハードである「VRギア」ごと購入し、早速プレイを始めたのが先日のことだ。

 

 案の定そのVRゲームにドハマりした俺は、誰にも邪魔されないVRオフラインゲームを好き勝手にプレイしていく中で、自分の自己顕示欲が想像以上にどでかかったことを思い知った。

 

 今では現実世界でも自分の「英雄ごっこ」を奇跡の一枚としてインスタに載せてみたり、編集したプレイ動画を動画サイトに上げ、後日ニヤニヤ感想を眺めるようになるぐらいにまで自己顕示欲が侵食している始末だ。

 

 

 ……そう、今まで目立つことはせずに真面目に慎ましく生きていた平凡な俺は、ゲームを通して少年時代抱いていた英雄願望が蘇ったように――弾けた。

 

 

 

 





 バエルを主人公機にしたビルドファイターズ小説を書こうとしたらこんなのが出来ました(∩´∀`)∩


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