あなた達は物好きなのね。
そんな物好きなあなた達に、
15話……グダグダっとどうぞ。
「オッシ! んじゃ、行ってくるわ!」
「アハハハハ! A組に吠え面かかせてやってよ!!」
気合を入れて立ち上がったのは、1年B組の鉄哲 徹鐵。夜々の対戦相手である。
それを見た物真が私怨丸出しだが彼なりの言葉で応援する。
「ほら! 君も何か言ってやりなよ。クラスメイトとしてさぁ!?」
「………」
話を振られた黒羽は難問を突きつけられたかのように眉間にシワを寄せる。
「…悪いけどMr.鉄。君じゃ僕のハニーは倒せないかな」
個性は"スティール"。
防御面と耐熱性に優れている為、夜々の攻撃手段とは相性が良い。
にも関わらず、夜々を良く知る黒羽は士気の下がる言葉を投げかけた。
「おいおい。そこは思ってても頑張れだろ」
まだ短い付き合いだが本音しか話さず友達作りが下手。そんな黒羽を知っているからか、苦笑いを浮かべながら控え室に向かう鉄哲。
黒羽は訂正もせず、その背中を見送った。
そんな黒羽の隣に一人の女子生徒が腰を下ろす。
名は拳藤 一佳。B組のまとめ役である。
「まったく……鉄哲は気にしてないようだけど、手厳しい事いうね」
「…僕ら大天狗の一族は、ヒーロー志望だろうとなかろうと幼少期から個性の制御を義務化されてる。それは鬼も同じ」
指を組んで目を瞑り、独り言のように黒羽は語り始める。
「その有り余るパワーを制御するために、彼女も幼少期の頃から必要最低限の腕力を癖のように維持。そして相手を怪我させないために、どうすれば効率良く弱い力で無力化できるのかを義務化されている………彼には悪いけど、学ぶ環境と基盤が違いすぎる」
「ふーん。つまりそんな技術がある上で、血を飲んで力も込められたら勝ち目ないってわけね」
『ヘイガイズ! アーユーレディ!? 色々やってきたが、結局これだぜ ガチンコ勝負! 頼れるのは己のみ! 心技体に知恵知識! 総動員して駆け上がれ!』
そうこう言っていると会場の熱が高まり、見てみればフィールドに選手が2名入場してくる。
「血を飲まれる前に速攻しかければ、鉄哲にも勝ち目はあるってわけだ」
そう言ってクラスメイトの勝利を願って、腕を回して肩を鳴らす男子生徒に目を向けた。
「…ハニーを知らないからそう言えるんだ」
「え? 何?」
『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする。あとは“まいった”とか言わせても勝ちのガチンコだ! 怪我上等! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから、道徳倫理は一旦捨ておけ! だがもちろん命に関わるようなのは駄目だぜ! アウト! ヒーローはヴィランを捕まえる為に拳を振るうのだ! さぁ、行くぜ!? レディ………スタートォ!!』
鉄哲本人も速攻しかないと思ったのか、試合開始の合図に合わせて走り出す。
飲む隙も与えずに仕留める。
夜々にそう攻撃を仕掛ける刹那…鉄哲の視界に不自然なものが映り込む。
否、映り込むどころではなく、それは視界を覆い周囲が確認できなくなる。気付けば身体の自由は奪われ動けない。
彼自身…自分の身に起きている事を把握できずにいた。
「Mr.鉄がハニーに勝つために足りない物…それは盾ではなく矛なんだ。寄せ付けずに射抜き、素手では真似できない技」
バトルフィールド上で関節を決められたまま、俯けに伏せて抑えられている鉄哲を見て当然の様に黒羽は言った。
夜々はその上に座る様な形で体重をかけ、後ろに回した腕と鉄哲の頭をそれぞれ片手で押さえ込む。
「…鉄哲君。そこから動ける?」
「………グッ………降参…です」
審判として場にいるミッドナイトが夜々に組み伏せられた鉄哲に尋ねると、ようやく自分の現状を理解。
地に伏せ地面しか見えないまま、絞り出す様に敗北を宣言した。
ー
ーー
ーーー
「速ぇ…」
「速いというより手際が良いな」
場所は変わってA組側の観客席。
爆豪 勝己を挟んで、上鳴と切島がそんな感想を溢す。
(あの動き……ババア仕込みか)
つい最近体験した強化合宿。
爆豪の脳裏に嫌でも浮かび上がるのは、地に伏せた自分とその上に座る酒呑 月華。今フィールドにいる二人の姿は、そのまま脳内で自分たちに置き換える事ができた。
「………チッ」
「ん、どうした爆豪」
「なんでもねぇ!」
怒鳴り気味で質問をバッサリ切り落とす。
「あの動き…もしかして月華さんの?」
「間違いねぇ。母親もそうなら実家仕込み…テメェその点知らねぇのか?」
「酒姫の動画は少ないから…でも確かに
興味深そうに口元を手で隠し、緑谷はブツブツと独り言を始める。
その数秒後に、爆豪は肩をピクッと震わせる。
「なぁんでテメェがここに居んだクソデクーーーッ!?」
「え、いやポカリ買いに行こうと……」
「だったらさっさと通り過ぎやがれ!! 俺と雑談しようとすんじゃねぇよ!!」
「わ、わかったから、痛い…痛いってかっちゃん!」
慌てて離れようとする緑谷の背中を爆豪は蹴飛ばし、唸り声を上げて獣のように威嚇する。
「……喧嘩するほど仲が良い奴って本当にいるんだな」
「あぁん!?」
上鳴は爆豪の反応を見てこの関係は暖かく見守ろうと判断する。
「それより次が始まんぞ。瀬呂には悪いけど、やっぱ勝つのは轟か」
「だな。瀬呂には悪いけど」
「うちも轟はんかな。瀬呂はんには悪いんやけど」
「どわッ!?」
いつの間にか戻ってきた夜々が、爆豪の切島の間からを顔を出して言う。それに驚いた切島を見て満足したのか、大人しくその隣の席に移動した。
「夜々ちゃーん! お疲れ様ーーー!」
「ありがとーーー!」
前の方で試合を見ていた女子グループが振り向き、こちらに手を振って労ってくれる。それに返事をしてから腕を組み深く腰を下ろす。
「派手に行くつもりやったんやけど、地味に終わらせてもうた。それも全部B組のあの人が悪い! だって相性悪いんやもん!」
「俺は勉強させてもらったぜ! 俺も身体一つで戦う個性だからよ、今度組み技教えてくれよ」
「えぇ…うち、使えはするんやけど教えるのは………まぁええよ」
難しそうな表情を浮かべてから、開き直ったように笑って承諾する。
そこに上鳴が首を伸ばして夜々に何か尋ねようとした。その時………
フィールド上に巨大な氷壁が築かれ、上鳴は質問を忘れて息を飲む。
「……瀬呂君…動ける?」
「無理っす……ってか浮いてます」
試合開始するや否や、瀬呂は個性で轟を拘束。そのまま場外へ投げ出そうとした。
が、轟は最大火力を持って、瀬呂を氷壁で拘束。
抜け出す手段の無い瀬呂は大人しく降参した。
「………で、なんや?」
「え? あ、なんだっけ? 爆豪、俺今何言おうとした?」
「知るかッ!!」
ー
ーー
ーーー
第三試合:緑谷 VS 心操。
会話を成立させた相手を操る個性を持つ心操を相手に、緑谷は何も答えずに勝負を仕掛けようとする。
「騎馬戦では見せつけてくれたな。イチャラブカップル」
「へ!? や、違…僕たちはまだ………………」
しかし開幕と同時に洗脳されてしまい、心操の指示で場外まで歩き去ろうとする。
あと一歩で場外というところで、個性を暴発させたショックで洗脳を解いた。その後は危なげなく心操を場外に投げ出して勝利を収めたが、緑谷は自分の心の弱さを恥じた。
第四試合は、より短い時間で終わった。
飯田 VS 塩崎。
塩崎は個性の薔薇でフィールドを埋め尽くそうとするが、スピードが売りの飯田はそれを許さず速攻で場外へ押し出して勝利。
それに比べて第五試合の芦戸と常闇は長い時間拮抗した。
芦戸の個性は"酸"。それを撒いて牽制し、滑走してスピードをだし持ち前のバランス感覚で上手いこと制御した。
だがその動きに慣れた頃に常闇は攻めに転じ、そこからは一方的だった。
ダークシャドウと呼ばれている影が酸を払い除け、そのまま芦戸に抱き付くように拘束。そしてそのまま場外へ押し出す事で勝敗は決した。
第六試合は一方的…というよりは、上鳴の自爆で終わる。
電撃をぶっ放してゴリ押し気味に攻めたが、尽く絶縁シートで防がれてしまったのだ。
やがて個性を使い果たした上鳴は脳がショートして知能が低下。
盾を構えた体当たり…俗言うシールドバッシュで場外に飛ばされた。
「んじゃ、行ってくるわ」
「気張れや、工藤!」
「おう!」
突き出した夜々の拳に、切島は自身の拳を合わせるように突き出す。
そして不意打ちで頭に手を伸ばし、夜々の頭にチョップを喰らわせる。
「
ちょっとした冗談を言うような口調で言い残し、切島は第七試合に出るために控え室に向かう。
相手は強敵だが負けるつもりは毛頭無い。
そんな力強う背中を夜々たちは見送った。
しばらくして時間になり、観客の声援を浴びながら切島が入場。向かいからは黒羽が入場してくる。
「手加減なしでいかせてもらうぜ!」
「当然だね。手を抜かれても困る……よろしくね、工藤くん?」
穏やかな表情で黒羽が挨拶し、ズルっと転けそうになる切島。
すぐに体勢を直して訂正しようと苦笑いを浮かべると…
「知ってるよ。ハニーが勝手に呼んでるんだろ? 原型を止めないのはともかく、あだ名呼びというのは彼女なりの愛情表現みたいなものさ………なのに」
「………なんだって?」
最後の方が聞こえず聞き返すが返答は無い。
審判のミッドナイトも会話が終わったと判断し、実況席に向けて試合開始の合図を出す。
『それじゃあいくぜ!? 第七試合、スタァァトーーー!?』
マイクが言い切ると同時に雲行きが怪しくなってくる。
それを確認するより早く、切島は正面から黒羽に仕掛けた。
「それなのに………」
「クッ!」
切島の拳は避けられ、黒羽は空に退避して空を指差す。
「僕は、
私怨丸出しの悲痛な叫びと共に空が黒雲に包まれ、それが一瞬だけ眩い閃光を放つ。
刹那、雷鳴が轟き、観客の殆どが目を瞑って決定的瞬間を見逃してしまう。
光に焼かれた視力が元に戻りフィールドに目を向けると、そこには黒く焦げた切島が横たわっていた。
黒羽はその前に立ち、心なしか見下している。
「婚約者たる僕を差し置いて…調子に乗りすぎだよ」
「………切島くん戦闘不能により、黒羽くんの勝ち!」
『な、なんか一方的な試合が多くね? 俺ちゃん心配になってきたぜ』
どよめく会場の事など気にもとめず、勝利した事を確認した黒羽は退場した。
ー
ーー
ーーー
「……ほんとキモいわ。あのクソ烏」
「夜々ちゃんは私らが守るからね!」
「ありがとー!」
夜々に抱きついてきた芦戸にハグで返す。
ついさっきまで敗退した芦戸を励ますつもりでそばに居たのだが、こうやって冗談でも気にかけてくれるのは嬉しいと思った。
ちなみに夜々は、試合ごとに観客席をウロウロしてあちこちでクラスメイトと話している。
今はもう爆豪の近くで試合を見てるわけではなく、爆豪が何故か夜々を見て貧乏ゆすりをしているのには気付いていない。
「いいな…オイラあの間に入りてぇ」
「よせ峰田。酒井にはセコムがついてる」
「………だよなぁ」
性欲葡萄のあだ名を持つ峰田だが、目を光らせている緑谷と爆豪と目を合わせないように俯く。
「……………」
「お、行くのか爆豪」
「ファイト!」
「あぁ」
第八試合の時間も迫り、爆豪は控え室に向かう。
そして対戦相手である麗日も深呼吸をして立ち上がる。
「よし」
「お茶子はんも頑張ってな〜」
「ありがとう、よっちゃん。勝ってくる!」
そう意気込んで控え室に向かった麗日の背中を見送ると、肩が少し震えているのに気付く。
「勝ってくるて…大きく出たなぁ。でもて、やっぱ強いわ。お茶子はん」
「開会式の時のかっちゃんと同じで、きっと自分を追い込んでるんだ」
「一皮剥けるなら今やな」
そう言う夜々は緑谷、飯田の近くに座って今試合は観戦するようだ。
『さぁ始まるぜ第八試合! 騎馬戦では共に戦場を駆けた二人がここでぶつかり合う!!』
二人が出てくるまでの間に場を温め、観客は次の試合が始まるのを今か今かと待っていた。
そこに両者は入場する。
麗日の表情には不安こそあるが迷いなく、爆豪は軽いストレッチを兼ねながらそんな彼女を睨み付けていた。
「よっちゃんはどっちが勝つと思う?」
「勝己」
「そ、即答だね」
「俺はどちらも応援するぞ! 二人ともーーーッ! 頑張れーーーッ!」
即答する夜々に苦笑いを浮かべた緑谷だが、飯田の真面目さを見て苦笑いを更に深める。
「そりゃ…お茶子はんにも頑張って欲しいんやけど、能力の長所が違いすぎるやん。個性で浮かせれば、場外になんて簡単に飛ばせる。それは脅威やけど、それは身動きの取れん連中に限る話やろ」
その言葉にわかってはいたが、納得したくなくても改めて納得してしまう。
加えて爆豪のバトルセンスに有用性の高い爆破個性………一体どうすれば麗日が勝てるのだろう。
不穏な空気が流れる組み合わせであったが、予想がより凄惨なものになっていく。
「…頑張って! 麗日さん!!」
「ファイトやー! お茶子はーん!」
その声援が聞こえたのか、麗日は観客席に視線を飛ばしてから自身の両頬を軽く叩く。
「……ちったぁ気合入ったかよ」
「うん! 胸借りるね、爆豪くん!」
『両者揃ったところで、早速レディ スタァァァアト!!』
両者が対峙し、合図と同時に仕掛け合う。
その時、後出しするように夜々は一言呟いた。
「負けたとしても、強い事に変わりないで。お茶子はんは」
ー
ーー
ーーー
「うわ…そこまでやるかよ」
「見てらんねぇ」
触れた物を無重力のように浮遊させる能力は確かに脅威だ。
だが純粋な戦闘面においては、何も活かす事が出来ない。当然と言えば当然。
麗日は爆豪に攻撃を仕掛けるが、向こうは一切の手加減もせずに迎撃。
モロで食らった麗日だが、それに怯んで下がっても焼き直しになる事を知っている。だからなのか、出来る限り間を開けずに攻撃を続けた。
何度も突撃し反撃されるの繰り返し。
それを見てられなくなった観客席からは、ついにブーイングが起こり始める。
一部のヒーローが正義感を振りかざしている
爆豪を非難するそのヒーローに「良くぞ言った」と目を向ける者、同調する様に頷く者がいる。
しかし彼は何も正しくない。
それを教えてくれたのは雄英高校所属のイレイザーヘッドだった。
無理矢理実況席に座らされて小言だけ言っていた彼だが、初めて自らマイクを握った。
『今、言った奴。何年目だ? 本気でそう言ってんなら帰って転職しろ。もう見る意味ねぇから』
その言葉に観客席は騒つく。
『騎馬戦で上位陣にフォローしてもらった。だからここまで来れたとでも思ってんのか? 相手の実力を知ってる。だからこそ容赦ねぇんだろうが』
ブーイングは止まり、今しがた起きた騒つきも静まり返った。
避難していたヒーローも自分を恥じるように、今は大人しく試合を観戦している。
「相澤はんカッコいー」
そんな茶化すように小言を呟きながら、同じように観客席で試合を見ていた夜々が空を仰ぐ。
「………やっぱ強いなぁ」
麗日が攻撃を仕掛け、爆豪は爆破で迎撃。それによって生じた被害は、フィールドを削りいくつもの瓦礫片を作っていた。
それを夜々は
(本当は足りないとわかってるんやろ? もっと溜めたいんやろ?)
そう思う夜々は、麗日が能力を解除した所を見た。
浮いていた瓦礫片は流星群の如く降り注ぐ。
しかし爆豪に一切の油断はなく、天に向けた片腕から放たれた大規模な爆破がそれらを一掃した。
(…悔しいなぁ。なぁ? お茶子はん)
傷だらけになっても尚、最後の最後で逆転劇を起こしたかった。
限界が来た麗日はそれを起こす事は出来なかった……不本意な最後の攻撃。それが完封されたのを見届けて、彼女はその場に倒れるのだった。
「………どこが弱いんだよ」
刺こそあるが、麗日に対する爆豪の評価は夜々と同じ物だった。
欲を言うならそれが、彼女の耳に届いていればよかったが……生憎、聞こえてはいないのだろう。
「勝己、照れ臭くて絶対言わへんで」
「照れくさいとかじゃないと思うけどな」
ー
ーー
ーーー
『さぁやって来たぜトーナメント二週目!! 多くの方々もこの組み合わせが気になってんじゃねぇの!? 何を隠そう俺も、この二人の大規模な妖術バトルが楽しみだぜぇ!!!』
「妖術使うのはうちだけやけどな」
実況のセリフを聞き、観客の声援を浴びる。そして実況の内容にツッコミを入れ、実況のマイクを見ながら入場する夜々。
対して向かいからは、轟が実況も歓声も聞こえていない様子で対戦相手を見据えて入場した。
両者は位置につき、轟は一度も視線を外さずに口を開いた。
「酒井……お前にも勝つぞ」
そう言われて頭を掻いた夜々は初めて轟を視界に捉える。
「無理やで」
『レディ…スタァァァアト!!!』
それと同時に………夜々は腰を下ろした。
Q.ねぇねぇ、今どんな気持ち?
回答者:黝 証呂
リアルがいつ慌ただしくなるか、ビクビクしてます。
そんな状態で書いてます。
なんで筆の進みがこういう時に限って良いんだろ。天邪鬼かな?
体育祭が終わった後、閑話で2チャンネルのスレみたいなのを書く予定です。
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緑谷「2チャンネルみたい」
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死柄木「ヴィランsideのIFを見せろ」
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マイク『酒姫との過去編が見たいぜ!』
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峰田「イチャイチャを見せてくれーッ!」
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爆豪「時間かけてでも全部書けや!!」