鬼人のヒーローアカデミア   作:黝 証呂

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16.鬼を通して、少年は何を観る

 開始合図と同時に仕掛けたのは轟。

 瀬呂との戦いでも見せて最大火力を夜々に向けて放つ。

 分かっていた観客たちも、思わずまた絶句する。ドームを超える高さの氷壁を瞬時に形成…何度見ても圧巻だろう。

 

 初見殺しの大技。しかし夜々をその氷塊に閉じ込めることが出来たのは一瞬だった。

 

 氷塊の内側からそれは溶け、やがて小さな洞穴のようになる。

 その中で夜々は胡座をかいて座っていた。

 

 そんな彼女の周囲には、幾つもの鬼火が浮遊している。

 

「チッ」

 

 舌打ちをしてから轟は走り出す。

 足の裏から氷を形成し、自身を押し出すように加速する。

 

 夜々はそれを見て、少し首を仰け反らせ……轟が拳を振りかざしたタイミングで、勢いよく頭を前へ突き出す。

 

「グッ!?」

 

 加速した勢いで夜々の額に伸ばした轟の手は、彼女の不完全な頭突きとぶつかる。

 座った体勢のまま放たれたので威力は低いが、素の力が強く彼の掌がビリビリと痙攣。そうやって怯んだ隙に、夜々は右手を上げる。

 

「無駄やで。しっしっ」

 

 夜々の挙げた右手を警戒して轟は距離を取るが、その手は虫を追い払うように動かすだけで攻撃はしなかった。

 それを見た轟の目は憎悪の炎を燃やしていた。が、それは今に始まった事ではないと、夜々は知っている。

 

「酒井、舐めてんのか?」

 

 攻撃らしい攻撃をせず今でさえ胡座をかき、何もしてない左手では頬杖すら突いている余裕そうな夜々。

 見るからに本気ではなく、それが轟を不機嫌にする。

 

「………つまらんなぁ」

 

「何?」

 

 胡座から体操座りへ座り方を変え、膝を抱えたまま前後に揺れる。

 

「何で炎使わへんの?」

 

「お前には関係ない」

 

「気付いてるやろ? 何を隠そう自分の個性やもんな?」

 

「うるさい!」

 

 右足を踏み出し、氷のスパイクが地面から突き出しながら夜々に迫る。

 しかし夜々は立ち上がる事もせず、鬼火を自分の前の床に並べた。するとそれに近づくにつれてスパイクは小さくなり、鬼火の線を超えて迫る事は無い。

 

「…轟はん。開会式前の会話……その続きしよか」

 

「続き?」

 

「そや。喧嘩になってまうからやめた話の続き」

 

 そう言った夜々は、気怠そうにやっと立ち上がった。

 

「とどのつまり、喧嘩やな。喧嘩しよ」

 

 自身の拳二つをぶつけるように構え、轟の返事を待つ。

 と言っても、ここで返事なんてどう返せば分からないだろうと思い、夜々はすぐさま轟に駆け寄った。

 

 USJ事件で見た実力からして、氷壁を築いても壊される事を轟は予期した。その為、氷の足場で逃げ道を作りそこを移動する。

 その先へ鬼火を放つ事で滑走路を溶かし躓かせ、そこへ夜々が跳んで上から踏みつけようと迫る。

 

「いくで、エンデヴァーの息子はん?」

 

「ッ!? その肩書きで呼ぶな!!」

 

 鬼圧で自重を高めた落下を辛うじて避ける轟だが、その体勢では追撃は避けれない。

 

「こっち側やこっち。使えや!」

 

 回し蹴りが轟の左側面を捉える。

 鳩尾を狙えば落とせたかもしれないが、側面を狙った事で咄嗟のガードが片腕のみだが間に合う。

 

「左は使わねぇ!!」

 

「ふざけた事抜かしおって!」

 

 その足を振り払い、轟はまた氷のスパイクを夜々に迫らせる。

 先程と同じように鬼火たちを地面に並べて進行を防ぐと、轟はその鬼火の線を飛び越えて接近する。

 その時、何を思ったのか夜々は鬼火を消す。

 

「ふざけてんのはそっちだろ!!」

 

 ガードする為に構えた夜々の腕を掴み、轟の個性で腕を中心に凍り始める。

 牽制で蹴りを放つと轟は離れ、凍った腕の侵食は止まった。

 

「お前…血、飲んでねぇだろ!」

 

「現にそれで充分やない。エンデヴァーの息子はん」

 

「止めろ、俺は轟 焦凍だ」

 

「それとそこ…危ないで」

 

 ー ピシッ ー

 

 背後から嫌な音が聞こえ、轟は横に飛んでそれを回避する。

 すると最初に作った大氷壁が、自重に耐えきれなくなり崩れ始めた。夜々の溶かし方が中途半端だったのだろう。

 

「一種目の仕返しや」

 

 回避した所に追い討ちをかます夜々。

 彼の頬を裏拳が打ち抜き、その勢いを使って反対の手で正拳突きを放つ。

 

「お ま け」

 

『も、モロに入ったぁーーーッ!』

 

 轟は足元を凍らせ、後ろに滑走する事で威力を減らす。

 そのまま場外へ出そうになると、背後に氷壁を作ってストッパーにする。

 

「早よ早よー」

 

「クッ!」

 

 絶え間なく攻める夜々に、轟は防戦一方になり始めた。

 仮に攻めに出た所で、遠距離攻撃なら体勢を崩さずに鬼火で対処される。それがわかっている轟は直接触れて凍結し拘束を狙う…が、接近戦は彼女の土俵である。

 

「早よ使わんと、()()()()()()()()()!?」

 

「てめぇには関係ねぇだろ!」

 

「………はぁ。それ、ヒーローになった後も言うんか?」

 

 途端に攻撃の手が止まり、轟は攻めに転じようと動く。

 伸ばした手は夜々の眼前に迫るが手首を掴まれ引かれ、体勢を崩し夜々の後ろに転がされる事になる。

 

「やっぱ醜い生き方しとるなぁ…損するで自分」

 

「うるせぇ!」

 

「…轟はん、あんた何したいん?」

 

「……なんだと?」

 

 両手でパンと音を鳴らし、合掌したまま轟に語り掛ける。

 

「うちが(ヴィラン)だったとしよ」

 

 夜々の周囲には常に鬼火が浮遊していたが、その数が2倍…3倍と、数が一気に増殖する。

 それが彼女の足元で円を描き、地面スレスレでクルクルと回り始めた。

 

「こうするだけで轟はんの氷は届かない。このままじゃ勝てないなぁ。あんたはどうするん?」

 

「どうするもこうするも……まだ負けたと決まったわけじゃねぇ」

 

 頭を痛そうに押さえ、呆れたようにため息を吐く。

 

「答えになっとらんて…なら借りにこのまま負けたとする。(ヴィラン)に負けたあんたは、(ヴィラン)に殺された被害者の遺族になんて言うん?」

 

 その言葉に、轟は動きを完全に停止させ言葉を詰まらせる。

 

「本気を出さなかったせいで守れませんでしたー。こんな事が以後起きないように、強くなって半分の力でも勝てるよう頑張りますー………ハッ、阿呆くさ。だから嫌いなんよ」

 

「どこでそれを」

 

「いや、父親妬んでんのは見りゃわかるけん。理由とかはほんまに知らん」

 

 心底苛立った様子で轟を睨み言葉を続ける。

 

「で、話戻すけど、遺族が本気を出せとか言ったらこう言うんやろ? "てめぇには関係ねぇだろ"」

 

 轟の表情が歪み始める。

 

「せやな。関係ないな。お前さんの家庭事情に巻き込まれただけの部外者やもんな!?」

 

 その言葉に、轟の身体がビクッと反応する。

 攻防で何度も凍らせた反動で、自身の身体には霜が付いていた。

 轟の使()()()()()個性は触れたものは凍らせる事……そして凍らせた反動で体温を奪われていくデメリットが有る。

 人は誰しも運動すれば熱を持ち、体温が下がればパフォーマンスか著しく落ちる。

 夜々が出した鬼火で暖を取る事もできたかもしれないが、ご丁寧な事に近づかれた時に夜々は逐一消していた為暖は取れていない。

 

 そんな体温低下のデメリットを打ち消すのが、使っていない左側の個性。その炎で体温を確保できるのに、轟はそれをしようとしない。

 

「……ヒーローやめてくれ。あ、別にこのまま職業をヒーローにする分にはええで? 本気出さない轟はんでも助けられる人はいっぱいおるさかい。ならなるだけの価値はある。ただ出しゃばらんといてな? USJ事件で誰か死ぬかもしれん状況でも手加減して戦ってた男や。勝己の言葉を借りるなら、モブヒーローとしてチマチマ頑張っててくれ」

 

 結果的に戦犯と称して深く反省した夜々だが、少なくとも彼女は自分のできる最大限の行動を起こした。

 クラスメイトの危機よりも父親への復讐を優先させた轟と違って………

 

 その事実が轟の心を押し潰していく。

 

「改めて聞くけど、あんたは何したいん?」

 

「………………」

 

 轟自身わからなくなっていた。

 俺は何がしたかったんだ? 父親に復讐すること? 

 それはクラスメイトを見捨ててまでする事だったのか? 

 

 ………違う。濁りこそしたが、轟が目指したものは()()じゃない。

 

「わからんならさっさと負けてくれへん? お茶子はんみたく、最後の最後に大逆転の目処があるならまだしも……代わり映えの無い戦闘をグダグダ続けられても冷めるだけやねん。それが嫌なら………」

 

 一呼吸挟んでから夜々は轟に怒鳴りつける。

 

「見失ったなりたいもん、さっさと見つけェや!!」

 

 脳裏に浮かぶのはかつての記憶。

 父親エンデヴァーは、オールマイトを超えるヒーローを作るために"個性婚"をした。

 それは強い個性同士の掛け合わせで、より強い個性を持った子を作る行為。

 

 それで産まれたのが轟 焦凍。

 

 幼い頃から鍛え上げられ、吐いてもそれは止まらなかった。

 心の拠り所でもあった母親だが、父親と愛し合って結婚したわけではない。

 ストレスが重なり、ついに彼女も過ちを犯してしまう。

 

 轟 焦凍の左側を見て憎しみを込め、消えない火傷痕を作ってしまった。

 

 その後、母親は精神を病み病院に入院。

 その原因である父親を恨み、復讐を志した。

 父親の個性を使わずにNo.1ヒーローになり、父親を全否定する。

 

 その事実だけが、箇条書きのように轟の脳裏を流れていく。

 

「………俺は」

 

 ──僕は父さんのようなヒーローにはなりたくない! 

 

「………」

 

 かつて自分が言った言葉を思い出した。

 母親に酷い扱いをする父親を見てそう言った。

 そしてこうも言った。

 

 母さんを傷つけなくて済むならヒーローじゃなくてもいい! 

 

(……そしたら…母さんはなんて言ったんだっけ)

 

 夜々が轟に歩み寄ると、足元の炎の円も並行して動く。

 それは目に入っておらず、轟は脳裏に浮かぶ映像ばかりを観ていた。

 

『そう…なら………』

 

 そしてようやく思い出した。

 

『母さんを傷つけずに、救ってくれるヒーローになってくれる?』

 

「………悪い。酒井」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「オォーーーっと、ここでどうした轟ィー!! 今まで使わなかった炎を解放したーーーッ!!」

 

 隣で実況するマイクの事などつゆ知らず、相澤は眼下の轟を見て呟いた。

 左手を夜々に向け大規模な炎を放ち、たちまち夜々を飲み込む。

 

「……吹っ切れたか」

 

「荒療治っつぅか、懐かしい……つぅか」

 

 実況マイクから距離を取り、前のめりだった姿勢を仰け反らせで小言を挟む。その視線は轟ではなく、包まれた炎の中に立つ夜々を見ていた。

 そんな二人が思い出すのは、自分らよりも小さい小柄な少女…そんな外見をした年上の存在だった。

 

「覚えてるかイレイザー。あの時…」

 

「………マイク、思い出話は後にしよう。また実況を忘れるぞ」

 

「おっと…そいつはいけねぇや」

 

 実はこの試合中に思い出話をすでにしており、実況を忘れていた事もあってすぐに前傾姿勢に戻りマイクを握る。

 

 思い出話をしたのは試合開始から『も、モロに入ったぁーーーッ!』と、慌てて実況に戻るまでの間だ。

 

「………やっぱ、昼は一緒に食いたかったな」

 

 相澤は昼食の誘われた時に、条件反射とはいえ逃げだした事を少し後悔した。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 両腕の拳の小指側面から肘にかけて密着させ、面積は狭いがそれで顔を守ろうとする。

 肌が炎症を起こしピリピリとした痛みが走る。

 更に突風…冷えた空気が熱によって膨張し場外まで吹き飛ばされたが、鬼火で自分の周囲だけでも温まっていたのが功を奏した。しかし炎に飲まれた鬼火は、全て消失していた。

 

「………まるで別人やね。誰やこのイケメン」

 

 腕を解いて顔を覗かせた夜々は、不適に笑って炎を放った轟を見る。

 

「何度も言わせるな。俺は、(とどろき) 焦凍(しょうと)だ」

 

 父親の力でも母親の力でもない。

 それを自分自身の力と割り切った轟の目には、明るみが増していた。

 

「悪いな酒井。俺も目指すよ…No.1のヒーローを。待ってる人がいるから」

 

「……あかんなぁ。今の轟はんは、うち好きやで」

 

 ニカッと笑って、夜々は親指の腹を噛みちぎる。

 そして自身の血を喉に通していった。

 

「うち炎と氷で言ったら、炎が苦手やねん」

 

 プハッと言って親指を口から話、ツノが仄かに光り始める。

 

 鬼人には耐火性がある。

 しかしそれはオマケ程度の性能で、自身の鬼火で火傷しないくらいのものだ。

 だから氷を鬼火で対処できたが、それ以上の熱量の炎をぶつけられるのは苦しい。

 

「うちも本気…出さんとな」

 

 今までの気怠そうな気配は消え、人差し指を轟へと向ける。

 その先から放たれた光線は、轟が形成した氷壁で防がれた。しかしそれをものともせずに氷壁は撃ち抜かれる。

 

「こっちだ!」

 

「そっちかい!」

 

 氷壁はガードでなく、自身の姿を隠す目眩し。

 その隙に横へ回った轟は、惜しみなく炎をぶっ放す。

 辛うじて残っていたジャージは焼け落ち、申請していた耐火性インナーがあらわになる。

 夜々は動じずに反撃に集中する。

 

「動きにキレが戻っとるね。それでもうちは負けへんよ!!」

 

 氷壁を撃ち抜いた光線は枝分かれし、細く威力低下した無数のレーザーが轟を襲う。

 

「グッ!」

 

 対人用の威力に設定されているが、それでも時速100kmの野球ボール程度の威力。

 程度と言って良いのかわからない威力だ。野球選手であるなら死球(デッドボール)の脅威は存じているだろう。

 

 それに四方面から狙われた轟は、堪らず氷壁を展開して繭の様に自分の身を守る。

 

「お邪魔するで」

 

「しまッ!?」

 

 ここで轟は、守りに入るように誘われたのだと気付いた。

 氷壁ができるより早く内側に飛び込んだ夜々…それから逃れようとするが、退路はたった今、自分が氷壁で塞いでしまった。

 外ではまだレーザーの衝突音が聞こえ、溶かして逃げるか一瞬の迷いが生じる。

 

 その隙が致命的となり、轟の背後を夜々がとった。

 

 左腕が巻きつくように轟の首に回され、右腕でそれを固定させた。

 膝カックンの要領で足を曲げさせ、鬼圧で高めた自重で自分ごと轟を後ろ向きに倒す。

 倒れた後は足を絡めて動きを封じ、夜々は寝技で動きを完封。

 

「ガッ……アッ………」

 

 首を絞められ意識を手放すのは時間の問題。

 それを悟って抜け出そうと必死にもがくが、素人はこの手の技から抜け出す術を知らない。

 

 やがて大人しくなった轟を確認し、夜々は拘束を解いた。

 そして自身の汗を拭い、氷壁を殴り壊して外へ出た。

 

 審判のミッドナイトは気絶した轟を見て、夜々の勝利を宣言した。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「………………」

 

 気がつくと、轟は白い天井を見上げていた。

 

「目が覚めたかい?」

 

 声が聞こえて見てみると、小柄なお婆さんがお茶を啜っていた。

 その正体はリカバリーガール。

 轟は保健室で寝かされていてのだと気付く。

 

「………負けた」

 

「にしても綺麗に落とされたみたいだね。頚動脈洞を圧迫されただけで異常はない。目が覚めたなら早く戻りな」

 

 促されるまま保健室を出て、轟は急ぎ足で観客席に戻る。

 そこにはA組の面々が雑談をしていて、今試合はやってない。

 

「今何試合目だ」

 

「あ、轟くん」

 

 轟の存在に気付いた緑谷が手を振り、流れで彼の隣に腰を下ろす。

 すると近くに座っていた夜々が顔を覗かせる。

 

「轟はんの氷の除去に時間使って、まだ次の試合始まっとらんよ」

 

「そうか……先生たちには悪いことしたな」

 

 そう言う夜々の顔は少しだけ赤い。

 それは火照っているわけではなく、火傷の症状だとわかる。

 むしろその程度に収まってる事に轟は驚いた。

 

「それ火傷か?」

 

「んあ? せやで。治りかけやけど……」

 

「次は負けない」

 

 ケラケラとそう言う夜々に、轟は真面目な表情で…それでいて以前に比べると柔らかい面持ちで言った。

 

「お手柔らかにな。あれ以上炎食らったら、もしかすると顔に傷が残ってしまうさね」

 

「……鬼にも傷は残るのか」

 

「そう言う問題じゃないでしょ轟くん! 女の子の顔に傷つけてどうなるか分かってんの!?」

 

 葉隠が後ろの席から夜々に抱き付いて、驚いた夜々は彼女の透明な手を確かめるように触れて腕を絡める。

 そして悪戯っぽく笑って冗談をほのめかすように言った。

 

「せやで〜? うちを傷物にしたら責任とってくれるん?」

 

 あざとく軽い口調で言うと、轟は少し考える素振りを見せる。

 

「………わかった。すぐには無理かもしれないが、時間をかけてでも責任は取る」

 

 隣に座っていた緑谷はピシッと石化したように固まり、後ろの方に座っていた爆豪も分かりやすくビビったように跳ね上がる。

 

「そ、そか………わ、わかってるならえぇねん」

 

 夜々は冗談を返された事に多少照れながら、平静を偽ろうと努力する。

 

「…そういや言ってなかったな。酒井」

 

「な、なんや?」

 

「俺もお前が好きだ」

 

「………………………」

 

 驚くほどの静寂に包まれ、全く関係ない雑談をしていた男子グループも黙り込む。

 誰もその静寂を終わらせる事なく時が流れると、轟が再び口を開いた。

 

「これからよろしく頼む」

 

「半分野郎ゴラァァァア!!!??」

 

「ちょっと良いかな! 轟くん!!!」

 

 二言目をキッカケに、爆豪と緑谷が言いながら立ち上がり彼の両脇を抱える。

 

「…ど、どうした二人と……いた、緑谷、痛い。爆豪もどうし」

 

「良いから来いボケェ!!」

 

 二人に連行された轟を唖然と見送るA組の面々。

 唯一峰田だけはそれを見てガタガタと音を立てて震えていた。

 

 やがて3人の喧騒が遠退くと、全員の視線は次に夜々へ向けられる。

 

「………夜々ちゃん?」

 

 自分の名を誰かが呼ぶが、彼女の耳には届かない。

 

「ッ!? いけない! 酒井君が気絶している!!」

 

「よっちゃん! しっかりして!」

 

「傷は深い……重症だな」

 

 飯田、麗日、常闇の順に口を開き、夜々本人は言葉にならない声を上げている。

 その顔は先程よりも赤く、焦点の定まらない目がこの上なく震えていた。




夜々
「せやで〜? うちを傷物にしたら責任とってくれるん?」


(責任?リカバリーガールでも治せない傷痕だ。確かに治療費はバカにならないだろうな。だが学生のうちにそんな大金は用意できない)
「………わかった。すぐには無理かもしれないが、時間をかけてでも責任は取る」

夜々
「そ、そか………わ、わかってるならえぇねん」


(……そういえば試合中に俺の事ことを好きだと言ってくれたな。友達としてだよな。俺もそれに答えないと)
「…そういや言ってなかったな。酒井」

夜々
「な、なんや?」


「俺も(友達として)お前が好きだ」

A組
「………………(絶句)」


(これからも………"も"はおかしいか。以前は嫌われてたから"これから"だな)
「これからよろしく頼む」

体育祭が終わった後、閑話で2チャンネルのスレみたいなのを書く予定です。

  • 緑谷「2チャンネルみたい」
  • 死柄木「ヴィランsideのIFを見せろ」
  • マイク『酒姫との過去編が見たいぜ!』
  • 峰田「イチャイチャを見せてくれーッ!」
  • 爆豪「時間かけてでも全部書けや!!」
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