鬼人のヒーローアカデミア   作:黝 証呂

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19.少年少女の実力差

「爺さん」

 

 とある屋敷………何故かその屋敷は半壊しており、今まさに修繕リフォームの真っ最中。

 屋敷を囲う様に鉄棒を組まれ、それを足場にリフォーム会社の作業員がせっせと働いている。

 そんな屋敷の座室には4人の人影があった。

 そのうちの一人の女性が、隣に座っていたガタイの良い老人に向けて口を開く。

 

「何じゃ?」

 

「テメェこそ何を教えやがった?」

 

 話しかけられた老人は畳の上胡座を描いたまま腕を組み、唸り声を上げるように首を捻る。

 

「力の使い方を突き詰めたんじゃが………」

 

 疑問符を浮かべて考え込むが、ふと笑みを零して考えるのをやめた。

 

「いずれ空彦に教わるじゃろうて口を閉ざしたが、出の字………緑谷 出久は言われずとも機動力を求めたようでな。何度か見せたワシの正拳突きから盗んだんじゃろうな」

 

「クククッ……良いねぇ。有望株だな」

 

 テレビに映っているのは生放送の雄英体育祭。

 今まさにその緑谷が、夜々を相手に善戦している所だった。

 

「緑谷とかいう少年の初手は、やはり童子さんの技ですか。一体何をしたのでしょう…」

 

 蚊帳の外だった2人の男のうち、初老の男が質問気味に呟いた。

 そして老人の方は恨めしそうに画面に映る少年を見て愚痴を零す。

 

「ワシも煮え湯飲まされた技じゃ……」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

『レディ………スタァァァアトォォォオ!!!!』

 

 その合図がスピーカー越しに発せられたと思ったら、口から予期せずに空気が漏れる。

 本来なら肺に溜まっていたはずの酸素が押し出され、呼吸困難に陥った夜々。

 驚愕するがまだ表情が自分の感情に追い付いていない。

 それが追いつく前に、彼女の眼前に拳が迫る。

 

(………なんやコレ)

 

 ガードをする思考に辿り着く前に被弾。

 彼女の両手は今、一手前に食らった鳩尾を抑え込もうと身体の前に情けなく位置していた。

 

(…出久?)

 

 片手を押さえられ、後退する身体を無理やり引き戻される。

 その勢いに合わせて今殴り抜いた拳で裏拳を放つ。

 

 今度は身体が横に揺れ、無意識伸びた足が倒れるのを踏み止める。

 そして裏拳の勢いで逸れた顔を前に戻そうとするが、そこに反対の手でアッパーが放たれる。

 

(………そっか……これが今の出久か)

 

 その勢いで身体ごと打ち上げられ、僅かにだが足が地面を離れる。

 上へと浮遊した身体が重力に従って落ちる刹那……宙で止まった一瞬に、緑谷はトドメと言わんばかりに拳を突き出した。

 

「スマッシュッ!!!」

 

 くの字に曲がった身体が吹き飛び、地面をバウンドする。が、夜々は身体を捻って体勢を正して両足で着地する。

 

「ッ!!」

 

 身体を捻った辺りで仕留めきれなかった事を察したのか、緑谷は既に駆け出しており夜々に追撃を放つ。

 

「………効いたで。少しな♡」

 

「ツノが! いつ!?」

 

 緑谷が打ち出した拳は掌で受け止められ、そのまま掴んで離さなかった。

 お返しとばかりに夜々はそのまま緑谷を引き寄せ、反対の腕を真横にピンと伸ばしていた。

 そんな彼女の額に生えたツノは、僅かに発光して個性は発動済みだと知らせている。

 

(ラリアットッ!? 避け……れない! 下手に避けてよっちゃんの後方に飛ばされればそのまま場外……ここは………)

 

 軽く跳ねるように緑谷は夜々の腕に飛び込む。

 

「おろ?」

 

「グゥッ!!」

 

 夜々も自身の後ろへ飛ばすつもりだったのか、腕は攻撃を喰らう拍子に離されていた。

 しかし緑谷が軽く跳び、自ら受けに入った事で飛ぶ方向が正面に変更される。

 

 地についた緑谷は勢いを殺さずに膝を曲げ、転がるように夜々から距離をとってから立ち上がる。

 

『………な………なんだぁぁぁぁあ!!? おいイレイザー! 展開早くて実況がおいつかねぇよ!!』

 

『俺に言うなよ』

 

『しかも緑谷! 最初瞬間移動しなかったか!?』

 

 実況が騒がしいが、気にせずに夜々は緑谷の出方を伺う。

 だが彼も攻めあぐねるように、ジリジリと立ち位置をズラすだけだ。

 

「出久。瞬步は使わんの?」

 

「……へ? しゅんほ?」

 

「知らんのかい。最初にやった奴や」

 

 瞬步。

 夜々の祖父、酒呑童子のような大柄な男性は、力こそあれど走るのは苦手な者も多い。

 そのため酒呑童子は、足先に瞬間的に力を込めて弾くように地を蹴って移動する。

 短い移動距離で連続では行えないが、その間だけなら飯田のレシプロと同等の速度で動ける技だ。

 それは酒呑童子の正拳突きに組み込まれており、緑谷はそれを目で見て盗んだらしい。

 

「あぁ……瞬步って言うんだ。ここぞと言う時に使わせてもらうよ」

 

 今度は緑谷が不敵に笑って構える。

 しかしそれはハッタリで、緑谷はその技を使いこなせてはいなかった。

 最初に使えたのは試合形式上存在する「レディ、スタート」の掛け声……その掛け声が始まる前に入念に形を作れたから使う事ができただけ。

 実戦では設けることができない時間を使って技を構え、合図と同時に飛び出したのだった。

 

 つまり決定的な隙が生まれない試合中では、もう使う事ができない。

 

(にしても不味いぞ……よっちゃんに手番を渡さずに一気に決めるつもりだったんだけど………)

 

「どしたー出久〜。早よしないと、血ィ飲むで〜?」

 

「嘘つかないでよ。もう飲んでるじゃないか!」

 

 戯ける夜々にそう言えば、「ベッ」と言って舌を出してくる。

 その時見えた歯が、ほんのり赤く染まっていた。舌も心なしか、より赤く染まっている。

 

「血を飲めば良いんだもんね。そりゃ指以外からも血は出るさ」

 

「口内炎なるさかい………本当はしたくなかったんやけどね」

 

 攻めあぐねているのを見かねて、夜々はその場で屈伸を行う。そしてスジをグッと伸ばしてから、走り出すような構えを取る。

 

「接近戦恐れとるんか? そっちから来ないなら、こっちから行くで!!」

 

 姿勢を落とし、クラウチングスタートのような体勢を取る。

 それを見た緑谷はあからさまに警戒して、フルカウルを持続させたまま構える。

 

「鬼砲!」

 

「ちょっ!? 走らないんかい!!」

 

 走り出すかと思えば上半身だけ起こし、緑谷に向けて極太のレーザーを放つ。

 知っての通り操作性に優れた攻撃は、緑谷が避けた後も追尾して追う。

 

「ウチの口調移ってるで!」

 

「クッ………」

 

 夜々の軽口に付き合う暇はないのか、緑谷はフェイントを入れながら走って逃れようとする。

 

「よっと………おわっ! 危なッ!」

 

「走らないんかい! って完全にうちの口調やん」

 

「……フン……セイッ……」

 

「長年付き添う夫婦も似るってそういや言うなぁ」

 

「………ハッ…」

 

「もぉ、うちの事を意識し過ぎなんとちゃいます?」

 

「………………………」

 

「……イズクノエッチーーー」

 

「精神攻撃やめてよッ!!!」

 

 顔を真っ赤にした緑谷が怒鳴れば、会場のあちこちで笑いが聞こえてくる。

 しかしそんな事毛ほども気にせずに夜々が仕掛けてくた。

 

「ごめんなー」

 

 レーザーを避けた緑谷の側面から迫る夜々に、緑谷は舌打ちをしてから足を振り上げる。

 

「スマッシュ!」

 

 地面を蹴り上げ、抉れた瓦礫片が夜々に放たれる。

 ただ数も少なくダメージを無いと判断し、スピードを緩めずに突っ込む。すると…

 

「あらっ!?」

 

「よしっ!」

 

 突っ込んだ矢先に足払いを受け、夜々の眼前に自らの放った鬼砲が迫る。咄嗟に鬼砲の進路を上に向けて自爆を避けるが、その間に一撃……緑谷から新しく攻撃を受け付けてしまう。

 

「ぐっ………むぅ」

 

 反撃しようとした時には、既に距離をとっていた緑谷。

 それを見て、口を窄める夜々。

 

「なるほどな………鬼砲はこれで封じた言うんか?」

 

「鬼砲の弱点はマニュアル操作だと言う事。その操作を意識すれば、よっちゃんのガードは甘くなる!」

 

「極め付けに瓦礫片で、少しでも意識を逸らすってか。カーーー、やってくれるやん? 完封では無いにせよやり難いわ!」

 

 だが夜々はこれで確信する。

 緑谷はやはり接近戦(インファイト)を避けている。と……

 

「ほな、ガンガン行こか!」

 

「捕まったら終わりだ…捕まったら………」

 

 逃げてばかりでは勝てない。

 その身一つで来られては、遠距離攻撃を持たない緑谷が行き着く答えはそれだ。

 逃げれないなら向かうしかないが、それは実にハードな選択だと認識している。

 

「ほっ………オッ!?」

 

「グゥッ!」

 

 夜々は対処される前提で様子見の攻撃を仕掛ける。それが緑谷にさばかれてからが勝負だ。

 しかし手始めに放った拳は、予想を反してクリーンヒットした。様子見故に威力が低く、緑谷は然程苦もなくカウンターを放ってくる。

 

「そなら!」

 

 また最初のように連撃を仕掛けられる事を危惧して、夜々はすぐさま二発目を放った。

 

「ッ!」

 

 これもまた当たり、先ほどよりも威力はあるにも関わらずカウンターを打たれた。

 

(脳が…揺れるんわ辛い……)

 

 三発目に伸びた手は、緑谷の首元に迫る。

 掴んでそのまま組み伏せようとしたのだが………

 

「フンッ!」

 

「…………」

 

 その手は緑谷の手によって払われ、彼は体勢を構え直す。

 

「………へぇ〜〜〜」

 

 そんな間延びした声を上げて、夜々は少しねちっこい言い方をする。

 更に少しイラついたような…もしくは何かが彼女の尺に触ったのか、笑顔だが額に青筋が浮かび上がっていた。

 

「そうゆう事しちゃうんや〜鬼相手に〜ふ〜ん??」

 

『……イレイザー、どゆこと?』

 

『お前、俺に聞いてばかりじゃねぇか?』

 

『そんな事言わないでくれよ』

 

『………緑谷は組み伏せられる事に関して細心の注意を払っている。それが酒井には気にくわねぇんだろ』

 

『………どゆこと?』

 

 短い期間で出た同じ言葉に、相沢は溜め息を吐いたがちゃんと教えてくれた。

 

『組み技には対応しないが、パンチなら食らってやる………緑谷は鬼を相手に、ノーガードで殴り合いしようっつってんだよ』

 

「こりゃ舐めれたなぁ〜。よりによってノーガードで………全国ネットで吐いて昼食紹介するハメになっても、後悔すなよ?」

 

「………ッ」

 

 いつもは乾いた笑みでケラケラと笑っていた夜々だが、珍しくも緑谷を睨み付けて尋ねる。

 それに返答はしないが、臆する事なく彼も睨み返した。

 

「ほな………いくでッ!!!」

 

「ガッ!!!」

 

 初手。振り上げるような右のボディブロー。

 その一撃は重く、思わず嗚咽してしまう威力。だが………

 

「耐えれ……なくもない………」

 

 踏み止まり浮きはしなかったその体勢で、緑谷は型にあった正拳突きを放つ。

 姿勢を落として放ったそれは、夜々の鳩尾はまたも捉える。

 

「……鬼には悪手やて」

 

 汗を滲ませなが言うと、次は左のフックが飛んでくる。

 首が横に伸びきって意識が飛ぶのを必死に押さえ込んでカウンターを放つ。

 

 そこからは殴り合いの応酬だった。

 

 だが誰もが見てもわかる。圧倒的にダメージを受けているのは緑谷だと。

 何度攻撃を食らっても、夜々はその衝撃を受けて身体や頭を反らせるだけ……対して緑谷は踏み止まる為に足が何度も動いている。

 攻撃力と防御力から求められるダメージ比率が、2人の間でそこそこの差があった。

 

「「ーーーッ!!」」

 

 ただ、その殴り合いにも変化か生まれ始める。

 綺麗にクロスカウンターが入った所からだ。

 

『またも両者の攻撃がヒットーーーッ!! だが緑谷はもう限界かッ!?』

 

 緑谷の拳は夜々の顔面の側面を捉える。否、()()()拳を顔面の側面で受けた。

 

(………舐めてるわけでは無いみたいやな)

 

 夜々はアッパーを食らって脳が揺れ、千鳥足で後退する緑谷を見て思う。

 そして流れた冷汗を拭い、夜々は恨めしそうに睨みつけた。

 

(徐々にやけど……合わせてきてる)

 

 腕力が劇的に上昇したわけでは無いが、夜々に加えられるダメージ量が増え始めている。

 原因は緑谷の攻撃する場所。合宿で叩き込まれた急所突きの精度が、徐々に上がり始めているのだ。今になって制度が上がる理由は、単に夜々の動きに慣れてきたからだろう。

 

「………いかん。まだ揺れちょる」

 

 自分の頭をコンコンと叩き、回る視界が元に戻るのを待つ。

 その間も緑谷の動向には注意し、その場で出方を伺う。

 

(顎に入ってたら危なかったな………)

 

 もしもの事を考えると、また冷汗が頬を伝うがすぐに目の前の出来事に意識を戻す。

 実を言うと夜々は殴り合いに関しては素人……というより、喧嘩の延長線のようなもので、技術らしい技術は無い。

 タフネスとパワーで殴る。それで大概は通用するし、むしろ力加減を間違えれば大惨事。だからこそ周囲の鬼たちも組み技の無力化を学ばせていた。

 

 だがその結果、緑谷はまだ立っている。

 もし夜々がもう少し殴り合いに特化していれば、今のアッパーで緑谷の意識は飛んでいただろう。なんならもっと早く決着はついていた。

 

 視界が正常になりつつある中で、夜々は僅かな苛立ちを覚える。

 売られた喧嘩を買ったが自慢の力が満足な結果を出さない。

 そして喧嘩を買ったからには、今更組み技で終わらせたく無い。もし組み技を使って試合に勝っても、それは勝負に負けた事になる。

 このまま負けたとしたら、その敗因は喧嘩を買ったことだ。

 

 そんな事を考えていると視界がいつもの見え方に戻る。

 もう地面は傾かず、頭も揺れていない。

 

「悪いな………これで終わりや」

 

 すぐさま駆け出し、振り上げた拳が緑谷へと突き放たれる。

 その腕で許される所まで引き絞ったソレが緑谷の身体を捉える前……そのタイミングで緑谷は左手を夜々に向けた。

 

「………ごめん。よっちゃん」

 

「………………は?」

 

 向けられたその手は、親指で中指を引っ掛けるように構えられていた。

 俗に言う"デコピン"。

 

「スマァァァッシュ!!!」

 

 巻き上がる砂埃と吹き抜ける突風。

 それを発生させた指先は、当たってはいないが夜々のすぐ前にあった。

 

「グッ………アッ………!?」

 

 至近距離で放たれた空気の壁を叩きつけられ、夜々はステージの端まで飛ばされる。

 轟のように凍らせてストッパーを作れない夜々は、"気圧"を用いて辛うじて踏みとどまった。

 

「………………」

 

 線をはみ出て無い事を確認して胸を撫で下ろすのも束の間、目を丸くして緑谷に視線を戻した。

 

「グッ……ァァァ………」

 

 一回り二回り腫れ上がったその指は、痛々しい青紫色に変色していた。

 その指を抱え込むように押さえる緑谷だが、苦痛を噛みしめながら顔を上げる。

 

「………何してん…」

 

「……へへっ」

 

「へへ、やない! 何してん聞いとんのや!!!」

 

 怒気を強め、叱るように言う。

 しかし緑谷は軽く苦笑いを浮かべるだけで、そこまで悪びれる様子は見えない。

 

 そこに………

 

「ざけんじゃねぇデクーーーッ!!」

 

 観客席から一際でかい罵声が飛んできた。

 それは二人も聴き慣れた、愛想のない幼馴染の声だ。

 

「その先に…その先に、俺はいねぇぞ!!!」

 

「………勝己の言う通りやで」

 

 一眼でわかる重症の指………原因はわかりきっていた。

 緑谷 出久が保有している"個性"……"ワン・フォー・オール"。

 許容限界8%のそれを100%で………緑谷はいつかの身体能力テストのように指先のみに使用した。

 

「もしこれで勝てても……決勝戦には出れないだろうね」

 

 試合での怪我はリカバリーガールが治してくれる。

 しかしそれは"治癒力を前借りする"個性であって、傷を癒すだけのエネルギーを保有していない患者には使えない。

 緑谷がこのレベルの重症を重ねていくと、それを治すだけのエネルギーを持たない彼を、決勝戦前に完治させる事は出来ないだろう。

 

 その先に俺はいない。とはそう言う事だ。

 

 それでも緑谷はその手段に出た。

 

「僕はNo.1ヒーローになる! 今は君にも負けてしまうような僕だけど………そんな僕だからこそ! 君には全力で戦いたい!! 全てを出し切りたいんだ………君に見合うヒーローに成るために!!」

 

 そう言って腰を落とし、右腕を腰で構えて拳を固く握りしめる。

 

 また100%で使う気のようだ。

 それも今度は指一本と言わず右腕一本で。

 

「……ハァーーー」

 

 大きく息を吸って、吸ったそれを全て溜め息として吐き出す。

 そして夜々は自分の右手首に齧り付いた。

 

 皮膚を割いてその下に歯が達し、そこから溢れる血液を喉を鳴らして飲み干していく。

 

 やがてツノが帯びていた光が、一層強く輝いた。

 

「プハッ……ハァ。まったく………」

 

 呆れた様子で、夜々は右人差し指を緑谷に向けて構えた。

 

「うちの惚れた男どもは、どうしてこんなに手がかかるん?」

 

「……いくよ」

 

 緑谷の右腕には身に余るパワーが爆誕する。

 同様に夜々の指先に溢れんばかりの妖力が凝縮されている。

 

(いけない!)

 

 それを直感で感じたのか、審判として立っていたミッドナイトはその場を離れてセメントスに目を向ける。

 セメントスもミッドナイトが待避したのを見て、夜々と緑谷の間に何層ものコンクリの壁を一瞬にして築いた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 日本で見られる和風な方の城。その城にある畳張りの大広間。

 一畳からはみ出る事なく、正座したまま頭を垂れて顔を伏せていた。

 

 そうしていると、正面から「カン」という短い物音が聞こえた。

 煙管で灰皿を叩いたか、酒瓶を台に乗せたのか、一体何をしたのかは顔を伏せているため分からない。

 ただそこに誰かがいるという事だけはわかった。

 

 その人物は勇者か? 英雄か? それとも魔王か? 

 わからない。だが頭を下げずにはいられない……そんな人物だ。

 

「………ぬるい」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「………は?」

 

 目を覚ますと保健室に居た。

 間抜けな疑問系の一音を発してから身体を起こし、ボーッとする頭も少しずつ目覚め始める。

 

 隣のベッドに目をやると、そこでは腕に包帯を巻いた幼馴染が眠りについていた。

 健やかな寝息を立てる彼を起こさぬよう、夜々は物音を立てないよう自分の寝てたベッドから降りる。

 

「起きたかい?」

 

「起きた。うち勝ったん?」

 

「勝ったよ」

 

 お茶を組んでいたのか、お盆に乗せた湯飲みを持って席に戻ってきたリカバリーガール。

 彼女に尋ねれば自分は勝ったのだと短く伝えられる。

 

 全力放った鬼砲は、セメントスの築いた複数枚の壁を砕き抜いた。緑谷の全力も同様に壁を砕き、それでも有り余った威力同士が衝突。そして拮抗し相殺た所で、夜々の記憶は終わっていた。

 どうやら強化した事で耐えれた貧血だが、鬼砲に全エネルギーを使って素に戻った拍子に倒れたらしい。

 

 ダブルノックアウトで引き分けかと思えば、夜々はステージ上に残ったが風圧で緑谷が場外に飛ばされたとの事。

 

「………危なかったんやな」

 

「危なかったなんてもんじゃないよ! まったく…母親といい無茶するんだから」

 

「お? リカバリーオバちゃんもオカン知ってるん?」

 

「リカバリーオバちゃんはやめなッ!」

 

「はい」

 

 相沢と違い凄い剣幕で怒鳴るリカバリーガールに、夜々は即答で従った。

 

「それはそうと……百升モードだったかい? アレは禁止だよ」

 

「………あー、やっぱ血が足りん?」

 

「鬼に人の血は輸血出来ないからねぇ。治癒で多少は増血できたけど………個性を使うなら十升まで。それを破ったら即失格と伝えておくからね」

 

「………わかりました」

 

 気の抜けた返事に、リカバリーガールは不審そうな目で夜々を見る。

 

「なんだい? まだどこか具合が悪いのかい?」

 

「いやちゃうねん………なんか…変な夢見て……思い出せんのや」

 

 そう言って思い出そうとする素振りを見せたが、すぐに諦め、緑谷をその場に残して観客席に夜々は戻る。

 

「………と、その前に」

 

 眠っている緑谷の横へ行き、しゃがんで彼の耳元で語りかける。

 

「あんな我儘…もうせんでよ? でも………」

 

 更に耳元に口を近づける。

 

「少しだけカッコ良かったよ」

 

 そんなセリフを最後に、今度こそ夜々は観客席に戻った。

 

 保健室には、リカバリーガールと緑谷が残される。

 

「………………」

 

「ズズッ……あんたは思いの外重症で、あと5分は目覚めない。それで良いね?」

 

「………ありがとうございます」

 

 か細い声で誰かがそんな事を言った気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

「………緑茶がやけに甘いねぇ」

 




緑谷
「全てを出し切りたいんだ………君に見合うヒーローに成るために!!」

瀬呂
「酒井も爆豪も緑谷も、これが全国に放送されるって分かってんのかねぇ?」

体育祭が終わった後、閑話で2チャンネルのスレみたいなのを書く予定です。

  • 緑谷「2チャンネルみたい」
  • 死柄木「ヴィランsideのIFを見せろ」
  • マイク『酒姫との過去編が見たいぜ!』
  • 峰田「イチャイチャを見せてくれーッ!」
  • 爆豪「時間かけてでも全部書けや!!」
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