雄英高校入学当日
夜々は肩掛けバッグの中身を確認してから玄関で靴を履く。
「………スゥー……行ってきます!」
意気込んでそう家の中に返すが、返事は返ってこない。
雄英高校が遠い事もあって一人暮らしを始めたのだから、別におかしな事ではない。
玄関の鍵を閉めて走り出せば履き慣れたスニーカーが足音を鳴らし、カバンに付いてる昔貰ったストラップは物理運動に振り回される。
ちなみにストラップは"二頭身オールマイトフィギュア"。幼馴染の緑谷 出久に貰ったもので、十年も経ったため大分色褪せている。
「あの様子なら、かっちゃんは合格したんやろな。出久はどうやろ……泣き虫やったし心配やわ〜」
そんな独り言を零しながらバスターミナルから出るバスに乗り込む。
そのまま揺られる事20分…彼女は雄英高校前のバス停で降り、いずれは母校となる高校へ足を踏み入れた。
そして試験合格を伝える封筒に同封された資料を頼りに、自分のクラスへと辿り着いた。
「もうかっちゃん
異形型で大きな身体の学生への配慮か、やけに大きな扉を潜って入室する。すると………………
「机に足を掛けるな‼︎ 歴代の先輩方や机の製作者に申し訳ないと思わないのか‼︎」
「思う訳ねぇだろうが! どこ中だこの脇役が⁉︎」
あからさまに態度の悪い男子生徒と、それを注意する眼鏡の男子生徒が目に入る。前者は机に足を掛けて吠え、後者は真面目なのか怯まずに注意する。
「………ないわー」
そして前者の態度の悪い生徒は、例の幼馴染。
夜々の「ないわー」という声が耳に入ったのか、爆豪は机から足を下ろし彼女の前までやってくる。
「テメェ、0ポイントの奴か。アレをぶっ飛ばしたくらいで調子のんじゃねぇぞ? 俺はオールマイトも越えるヒーローになる。テメェ如きには負けねえからな?」
入学式当日で彼なりにテンションが上がってるのか、野心的な笑みを浮かべて夜々を睨みつける。宣戦布告だろうか。
それに対して夜々は冷やかな視線を返す。
それとほぼ同時に、教室のドアが開いて生徒がまた入ってくる。
その生徒にも夜々は見覚えがあった。緑色のボサボサ髪にソバカス…もう一人の幼馴染である
それを見た夜々はターゲットを変えて緑谷の方へ飛びつく。
「出久ー! 聞いてくれや〜!」
「ヘッ⁉︎ わ、え、あ、ななななな何ッ⁉︎」
女慣れしてないのか、夜々に抱きつかれた緑谷は動転する。
顔は真っ赤に染まり視点が定まらない。
「知り合いかよデク。いや、んなことよりデクてめェ! クソナードがどうやって入学しやがっグェ‼︎」スパァン…
「…うちの事なんて、そんな事かい……」
「………………」パクパク
緑谷は爆豪に恐怖に近い苦手意識を持っているのか、爆豪の頭に上から平手打ちを落とした夜々を見て魚のように口を開閉する。
「君は一体………ん? ちょっと待ってソレ…間違いない! "二頭身オールマイトフィギュア"のキーホルダーだ8年前に製造停止になって今じゃ凄いレア物だよ僕以外で持ってる人初めて見たこの二頭身特有のフォルムでありながらオールマイトの細かい特徴をよく捉えてる素晴らしい作品なんだ僕も持っててね、今は一つ…昔は二つ持ってたんだけど友達に上げちゃったんだ! うわ〜懐かしいなぁ〜〜‼︎」ブツブツ
彼はオタク気質なのか、先程の動揺が嘘のようにブツブツと語り始めた。だが夜々は引かずに緑谷の顔を両手で掴み、無理矢理自分の方へと顔を向けさせる。
「昔二つ持ってたんや〜。それ一体、誰にあげたん?」
再び赤面し目が泳ぐ緑谷だが………
「え、えぇ……それは…その、だから友達に………」
「その友達って?」
「え……えぇーーーッ⁉︎ もしかして
「あぁ? ……あぁ………あぁぁあ‼︎⁉︎」
ここまできてようやく彼女が誰か気付いたようで、赤面から驚愕の表情に変わる。
そして爆豪も緑谷の言葉で分かったのか、夜々を二度見三度見。更には足先から頭のてっぺんまで視線を何度も往復させる。
「やっと気付いてくれはった〜! かっちゃんは気付かないどころか、興味なさげにそんな事やって……酷いと思わへん?」
「んな! …わかるかボケェ‼︎」
爆豪は怒気を弱めずにそう応対する。
無理もない。彼らの頭の中にある夜々の姿は12年前で止まっている。その姿は4頭身以下で顔もまだふっくらしていた頃だ。
成長した今の姿との共通点は、額に生えたツノのみだ。
「テメェもっとふっくらしてただろ‼︎んな状態からこんな変わって気付けるわけあるか⁉︎」
「デブみたいに言わんといて。んでその言い方は、遠回しに綺麗なった
「んなわけあるかァ‼︎」ボンッ‼︎
爆豪の個性はやはり"爆破"なのか、両手から手が隠れるサイズの爆発が起きる。
「そならかっちゃんは………うちをブスやと思ってはるん?」
「グッ………‼︎」
夜々はあざとく口元に手をやり、目尻に涙を浮かべる。
それを見て爆豪は押し黙り、心なしか白目を向いている気がする。返す言葉に困っているのだろう。
ちなみに夜々は完全に爆豪の反応を楽しんでいる。
「………いっぺん死ねぇぇぇえ‼︎」
(えぇーーーーーーッ⁉︎)
誰がとは言わないが、爆豪の答えにクラスメイトの誰かが心の中でそう叫んだ。
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ?」
いつからそこにいたのか、寝袋に入って床に横たわる青年がゼリー飲料を口にしてそう言った。
「………担任?」
夜々は首を傾げるが、周りのクラスメイトが自分達を除いて座っているため、慌てて自分の席へ着く。
「はい………静かになるのに十秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」
寝袋の中から出てきた男は立ち上がり、緑谷以上にボサボサの髪を掻き分ける。
「俺は担任の
合理性を最初に解くだけの事はあり、自己紹介からの展開も早く早急に生徒たちは指示を受けることになった。
「し、質問宜しいでしょうか!」
「却下」
真っ直ぐに伸びた綺麗な挙手だが、相澤と名乗った担任は即座にそれを切り捨てる。
その時に夜々は、今しがた挙手した彼が試験説明会場で質問をした受験生と同一人物だと気がついた。
(………あの人委員長ぽいなぁ)
ー
ーー
ーーー
「個性把握テストッ⁉︎」
「なんやて工藤?」
グラウンドに出ると、担任の相澤にそう告げられた。
それに対しては意を唱える生徒が多数いた。
「入学式は? ガイダンスは⁉︎」
「ヒーローにそんな悠長な事している時間はない。雄英は自由な校風が売り文句。
呼び出された爆豪が前に出ると、片手で持てるサイズのボールが手渡される。
「今からやるのは体力テストと同じ内容。ただし………
「解禁しちゃうん?」
中学時代の体力テストを思い出し、夜々はふとそう口に出す。
「あぁ、解禁しちゃう。爆豪、中学のソフトボール投げ、何mだった」
「…67m」
「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」
最後に目を鋭く光らせて「思い切りな」と付け足す。
そう促された爆豪は腕を回しながら地面に書かれた円の中に入り、大きく振りかぶった。
「死ねえ‼︎‼︎」Booom!!!
「さっきうち言われたわぁ〜」
(この人よく喋るな………)
爆破の勢いでボールを飛ばすその姿に圧倒される者が半数、爆豪のセリフに呆気にとられる者が1割、動じない者が1割、夜々の言葉に苦笑いする者が3割。
そんな状況下でも相澤はブレずに話を進める。
「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
そう言う相澤の手に握られた端末から電子音が鳴り、その画面をこちらに見せてくる。
そこには「705.2m」と表記されており、それが爆豪 勝己のハンドボールの記録なのだろう。
「何だこれ‼︎ すげー
「705mってマジかよ」
「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科‼︎」
「………
生徒が騒ぐ中だが、相澤の呟きが耳に入り生徒は口を閉じる。
「ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
その言葉には凄みがあり、生徒達は冷や汗をかいた。
そして相澤は少しためてから口を開いた。
「良し……ならトータル成績最下位は見込みなしと判断。
「はぁぁぁーーーッ⁉︎」
まさかの除籍処分。
自由が売り文句で教員も自由とはいえ、入学式当日に除籍を言い渡されると誰が思おう。
倍率300の狭き門を潜ったばかりでこんな危機に直面すれば、声を大にして叫ぶ者ももちろんいた。
「除籍しちゃうん?」
「除籍しちゃう。生徒の如何は先生の自由だ。
そう言い切った相澤。
生徒達はその断言に焦りを感じ始めた。が、夜々はそれが不思議そうに口を開いた。
「どないした工藤?」
「どうした…ってお前、除籍だぞ! 最下位は除籍‼︎慌てんのは当たり前……」
「慌ててどうなるん?」
また不思議そうに首を傾げてそう告げる夜々に、周囲の視線が彼女に集まる。
「相澤はんも雄英の教師ならプロヒーローやろ?」
「酒井、相澤先生と呼べ」
「最下位は見込みなしと判断ゆうとったけど、プロヒーローなら最下位で見込みありなら前言撤回くらいするやろ…それこそ
相澤先生の言葉は流し、夜々は話し続ける。
「せやから工藤、全員がヒーローに相応しい結果取ればええやない。"ぷるすうるとら"や」
「お、おぉ! それもそうだな! 漢らしくていいぜ‼︎その考え方‼︎………あと俺、工藤じゃなくて切島な?
「工藤…うちに漢らしいゆうのは酷うない?」
「スマン‼︎ あと切島な?」
そんなこんなで、体力テストが始まった。
ー
ーー
ーーー
【第一種目:50m走】
二人一組ずつ出席番号順に走るわけだが、夜々は軽くストレッチをして、前のペアが位置についたところで親指を咥える。
そして実技試験の時のように、グイッと顔を上げて指先から血を飲む。
「…何やってんだ?」
「こういう個性なんよ〜……ん…十升モード〜」
出席番号の関係でペアになった男子生徒…
「あれがよっちゃんの個性…」
「酒井さん…ツノが光って………」
後ろから見ていた緑谷がそう言うと、出席番号が最後の女子生徒…
そして間も無くスタートの合図が切られ、夜々は姿勢をこれでもかと言うほどに低くして走る。
「……3秒37」
「あぁー、委員長はんに勝てへんかった」
(………委員長?)
【第二種目:握力測定】
「ンッ!」
「酒井、502kg」
細い腕から叩き出された記録に場はどよめく。
「マジかよ! 障子に続きゴリラかよ……ってイダダダダダッ⁉︎」
「………あ、ゴメン瀬呂君。手が滑って…」
(緑谷…目が笑ってないぜ?)
【第三種目:立ち幅跳び】
「…見たか? 酒井が着地した瞬間…あの双丘がプルんギャァァア‼︎」ボゴォン‼︎
「峰田ァァァーーー‼︎」
爆破の推進力を使ってスタートダッシュをする爆豪だが、50m走待ちで彼の後ろに並んでいた
「…俺の後ろに立ってんじゃねぇ。殺すぞ」
(爆豪さん。意図的に掌を峰田さんに向けていた気が…)
【第四種目:反復横跳び】
「ンッ、ンッ、ンッ」
「「………………………」」
「なんだよぉーーーッ‼︎ オイラまだ何も言ってないだろぉーーーッ⁉︎」
「酒井、記録は…どうした?」
「……個性切れやな。また血ぃ飲めば問題ありまへん」
待機時間もキープしていたからか、彼女の
「プハァ………」
「「………………………」」
「だからオイラ何も言ってねぇだろぉぉぉーーーッ⁉︎」
【第五種目:上体起こし】
(緑谷のやつ…試験の動画では0ポイントを殴り飛ばしたが、自身の腕も耐え切れず破壊させていた。今回のテストではまだ一度も個性らしいものを使っていない…やはり制御できてないのか………)
相澤は記録用紙に目を落とす。
(………にしては頑張ってるな)
「ンッ、ンッ」
「………………」
「フンフンフンフン‼︎」
「オワッ⁉︎緑谷! 急にどうし、ちょ、待っ」
夜々に見惚れていた男子生徒…
(………頑張ってはいるが、この程度の記録ばかりじゃ、どの道除籍か)
【第六種目:長座体前屈】
「…ンンッ………」
「「………………………」」
「だからなんで緑谷と爆豪はオイラを睨むんだよぉぉぉーーーッ‼︎」
【第七種目:ボール投げ】
「ンッ! …からの……ほな!」ゴォォ……
投げたボールを後押しするように、レーザーが続いていく。
「酒井、768.9m」
「………チッ」
記録が負けている事を気にしてるのか、爆豪が舌打ちをする。といっても全体的に見れば、勝ったり負けたりで気にするほどではないと思う。
「次、出久やん。ウチは終わったけど、出久はまだ残してる競技もあるしな………気張りや」
「う、うん」
ここまでで飛び出た記録の無い緑谷は焦っていた。
円に入ってボールを手に取ると、緑谷は深く深呼吸をする。
(ここまで目立った記録が出せてない。まだ完全にコントロールは出来てない。握力測定の時に
「………よし」
彼の個性の名は「ワン・フォー・オール」。言ったところで誰も信じないと思うが、何を隠そうNo.1ヒーローの
緑谷は本来無個性の少年だった。しかしヒーローの見込みありと、オールマイトの後継者に選ばれ、個性を受け取った。
しかしそれはまだ借り物の力…使いこなせず100%の力で打って強力な一撃の代わりに、パンチを打った腕を破壊する事しか出来なかった。
そんな個性だが、意を決して緑谷は大きく振りかぶり…そして投げた。100%の力で………しかし。
「………緑谷、48m」
しかし記録は48メートル。
「なっ! ……今確かに使おうって…」
「個性を消した。つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」
個性が不発に終わったようだった。その原因は担任である相澤にあるようだ。
「消した…ッ‼︎あのゴーグル……そうか! 見るだけで人の個性を抹消する個性! 抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!!!」
緑谷はヒーローオタクである。イレイザーヘッドとはマイナーなヒーローの名前だったが、オタク故に正体を見破った。
そしてイレイザーヘッドこと相澤は、緑谷に近寄り指導と思われる会話をする。
「何か指導を受けていた様だな……」
「ハッ! 除籍宣告だろ!」
「うぅ……心配だよ」
「心配してる? ……僕は全然!」
「うちは心配やわ…何もできへんけど」
測定を終えていた生徒達が緑谷を見てそんな事を言う中、ずっと余裕の表情だった夜々が冷や汗をかく。
十升モードはまだ切れておらず、全てではなかったが強化された聴覚が嫌なワードを拾ったからだ。
「えっと、夜々ちゃんだよね。夜々ちゃんも心配?」
話しかけて来たのは、
「……お茶子はん、そりゃ心配よ。うち幼馴染なんやけど、昔から泣き虫で気が弱くてな? それでも前向きで努力家できっといざという時は機転を利かせるんやと思う………ありゃ?」
ここでまた夜々は、体力テスト前のように不思議そうに首を傾げた。
「……なら安心とちゃう?」
「いっけえぇぇぇーーーーーッ‼︎‼︎」
緑谷は個性を使ってボールを投げた。
記録は710mを超え、握り拳を作って相澤に宣言する。
「ま…まだ、動けます‼︎」
「コイツ………」
緑谷は個性がコントロール出来たわけではない。ただ、腕で使って腕が壊れるなら、指先に………それも人差し指一本に絞って個性をフルで使ったのだ。
結果、人差し指を骨折して酷い色に変色しているが、彼はちゃんと結果を出した。
それを見て相澤は薄く笑みを浮かべた。
【最終種目:持久走】
「ふぅーハラハラしたわぁ」
「御機嫌よう酒井さん」
「…えっと………お嬢?」
「
なんとなく雰囲気でそう呼んだら、八百万は自分の名前を述べてくれる。
「酒井 夜々。よろしゅう…それ個性なん?」
何故そんな質問をするのかと言うと、夜々の隣を走る八百万はバイクに乗っているからである。
「体内の脂質を変化させて物体を生成する個性ですわ。設計をよく把握する必要がございますが………」
「……便利そうな個性やなぁ〜」
「このペースで息を切らさない酒井さんも、十分凄いと思いますわ」
「あんがとぉ〜」
「………………話は変わりますが、先程の緑谷さんの個性は諸刃の剣なのでしょうか?」
だいぶ後ろの方を走る緑谷に目を向けてから、視線を八百屋に戻す。
「………? わかりまへん」
「俺の前を走ってんじゃねぇーーーッ‼︎」
「あ、かっちゃん来よった」
ー
ーー
ーーー
コレで体力テストは終わり、結果発表が始まる。
「その前に、最初に言った除籍は嘘ね」
「「「…は、はあぁぁぁーーーッ⁉︎」」」
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽‼︎…というか、よく最後まで信じた奴がいたな。酒井の言ったこと聞いて、大体のやつは気付いたと思ったが………」
「あんなの嘘に決まってるじゃない。……すぐに分かりましたわ」
「…自由だからやめたんやないの?」
相澤に続き、八百万が呆れたように言った。
しかし夜々の言葉で、クラスメイトの半数はゴクリと生唾を飲んだ。その可能性も捨てきれず、この先もいきなり"除籍"というワードとぶつからないとも限らないからだ。
それから結果発表は始まり、夜々は二位という順位に位置付いた。一位は八百万。最下位は緑谷だった。
それを見た緑谷本人は、夜々の言葉もあってかきたくもない汗が噴き出す。
ー
ーー
ーーー
結果発表を終えた後、帰りのホームルームをするべく教室に戻って軽い話をして解散の流れになった。
指を負傷した緑谷は帰りの支度もせずに保健室へ行き、夜々は自分の荷物だけ纏めて保健室に足を運んだ。
「出久ー、おるかの〜?」
引き戸を開けると、そこには緑谷とリカバリーガールというヒーローネームを持った老女がいた。
彼女は治癒の個性を持っていて、保険の教師としてここにいるのだろう。そして緑谷の指はすでに処置を終えたのか治りきっていた。
「あ、よっちゃん」
「なんだい。怪我人じゃないのかい………これかい!」バッ
夜々を一目見て怪我人じゃないと判断すると、リカバリーガールは緑谷の方に小指を立てた右手を向ける。
そのジェスチャーが意味するのは"恋人"である。
「な、ちょ、ちちち違いますよッ‼︎」
「まあいい。ハリボーお食べ!」
会釈して夜々は、リカバリーガールから貰ったハリボーを食べる。
「それで、何か用?」
「怪我の様子が気になっただけや。大丈夫そうやな」
「う、うん」
「鬼女、居るか?」ガラッ
そこへまた生徒がやって来る。それは爆豪だった。
終始穏やかな表情ではなかった爆豪だが、今は多少額にシワが寄っているが比較的無表情に近かった。
「なんやかっちゃん。出久が心配なって来たん?」
「んなわけねぇだろ殺すぞ。忘れもんだ」
「お、あんがとぉ。こうして三人集まるんのも久方ぶりやなぁ」
「うん。よっちゃんも朝見た時は見違えたよ!」
「そやろか? どうや? 綺麗なった?」
「え、や、えっとぉ………」
「かっちゃんどう思う?」
「殺す」
「………二人とも変わってもうたなぁ」
(よっちゃんが一番変わったよ)
「にしても二人共雄英、よく受かったなぁ」
「ハッ! 余裕だろこんなの‼︎」
夜々の言葉に野心的笑みでそう返す爆豪は、両手で小爆発を起こす。
それを見て夜々は「そういえば」と一言挟んで、昔の話を持ち出す。
「うちら三人、ヒーローになろう約束しよったよな。そうすればまた会えるから〜て。もしかしてうちに会うために頑張ってくれたん?」
「んなわけねぇだろ‼︎ 忘れたわ! そんな思い出‼︎」
あざとく問う夜々に爆豪が鼻で笑いながら返答する。
するとつまんなように…それでいて悪戯っぽくまた問いた。
「ならあの約束も忘れてしもうたん?」
「あの……」
「………約束ぅ?」
そこで少し間を開けて夜々は首を振る。
「いや、なんでもないわ。気にせんといて」
「「………………」」
そう言い残して、夜々は一人で先に帰り始めた。
保健室に残された二人は、なんともいえない空気を味わう。
(………忘れるわけないじゃないか)
(………忘れるわけねぇだろ)
顔が赤いのは動転したせいか、それとも爆破の熱のせいか…
その真偽はしばらく先まで分からないだろう。
「………青春だねぇ〜」
そしてリカバリーガールはこの後、無性にコーヒーか青汁が飲みたくなったらしい。
ー
ーー
ーーー
「うちおいきくなったらヒーローになるんや!」
「ぼくも! オールマイトみたいなヒーローになる! それでよっちゃんを守ってあげるね!」
「いずくじゃ無理だな! オレが守ってやるよ! ずっとな!」
2人の少年は「ぼくが!」「オレが!」と言い争う。
それを見ていた少女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、口を開いた。
「じゃあNo.1ヒーローになった方のお嫁さんにしてや。すえながくよろしゅうおねがいします」
どこでそんな言葉を覚えたのか、少女はそんな事を言って少年2人の初々しい反応を楽しむつもりだった。しかし…
「「………わかった! やくそくだ‼︎」」
しかし少年は真っ直ぐに…少し照れながらもそう言い切ったのだ。
純粋な好意を2人から直接受けた少女は顔を真っ赤にしてうずくまる。
「そ…それはズルいんよぉ〜」
「どうしたのよっちゃん⁉︎」
「だれだ! だれが泣かした‼︎」
当時はまだ幼い少女だった彼女は、高校生になった今でもたまに思い出し、今も帰り道で1人頬を染めている。
そしてそれを誤魔化すように彼女はケラケラと笑うのだった。
オールマイト
「リカバリーガール、少しいいですか?」
リカバリーガール
「よく来たね。青汁お飲み!」
オールマイト
「………いつもの茶菓子ではないんですね?」