鬼人のヒーローアカデミア   作:黝 証呂

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委員長回だから短いです。




4.鬼は傍観する

「教師オールマイトについてどう思ってます?」

 

「え? そりゃ………えと………」

 

「最高峰の教育機関に自分は在籍しているという事実を殊更意識させられますね。威厳や風格はもちろんですが他に……」

 

 No.1ヒーローが教室を務めるというのは、世間的に見ても大きなネタである。その為か雄英の校門にはマスコミといった人種が集まり、登校した生徒達に手当たり次第マイクを向けていた。

 

(委員長はん真面目やわ〜、今の内にコッソリ門潜ろ)

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。V(ブイ)と成績見せて貰った」

 

 担任の相澤が入室すれば、生徒は一斉に黙って前を向く。彼が担任になって三日目となれば、生徒達も時間を合理的に使うよう努力する。といっても、今はまだホームルーム開始時ピッタリに一斉に黙る程度のものだが。

 ホームルームが始まれば、相澤が昨日の戦闘訓練について話し始める。

 

「爆豪。おまえもうガキみてえなマネするな。能力あるんだから。酒井も上手く動いたつもりだろうが、爆豪をセーブさせる努力はしろ。二人組みの意味がねぇ」

 

「………わかってる」

 

「了解やわ、相澤はん」

 

「先生と呼べ………で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。"個性"の制御…いつまでも"できないから仕方ない"じゃ通させねぇぞ。俺は同じ事を言うのは嫌いだ。()()さえクリアすればやれる事は多い。焦れよ緑谷」

 

「はいっ!」

 

(同じ事()うの嫌いなら、そのうち相澤はんって呼んでも注意せんへんようなるんかな………)

 

「さてHR(ホームルーム)の本題だ。急で悪いが今日は君らに…」

 

 また臨時テストか? と皆が身構えるが、本題は思ったものとは違った。

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

「「「学校っぽいの来たーーー‼︎」」」

 

 静寂を通していた生徒達はやる気を出し、我こそはと前のめりになりつつ挙手をする。

 普通科では雑務のような扱いだが、ヒーロー科では集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられる役でもある。

 

 だが普通科同様に、雑務として認識して面倒に思う輩もいる。

 

(うちはパス。そういう役やないし)

 

 そして飯田の発案により、多数決で決めることになった。

 日が浅く信頼も何もない中で票を集めた者こそ、真にふさわしい人間という事になるらしい。

 

 結果…緑谷が3票、八百万が2票獲得して委員長と副委員長は二人に任される事となった。

 しかし夜々はそれとは別の所を見ていた。

 

 そこには「酒井」の二文字と「一」という漢数字。「正」という漢字の一画目が、酒井の文字の隣に書いてあった。

 

(………誰がうちに入れたんやろ)

 

 そしてそう考える彼女の隣にも、同じような疑問を持つ者がいた。

 

(一体誰が………いや、なんとなく誰かは分かるが………)

 

 飯田は横目で夜々を盗み見る。その視線に気付いたのか顔を向け、夜々は笑顔で手をヒラヒラと振っていた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「いざ委員長やるとなると、務まるか不安だよ」

 

「ツトマル」

 

「そう思う限り無理やない?」

 

 昨日も一緒に食べた四人で食堂に足を運んだ夜々達は、昼食を取りながらそんな話をする。

 

 麗日は不安に思う緑谷にそう言うが、夜々はバッサリと逆の事を言った。

 

 そして飯田はというと、「大丈夫さ」と自信を持って言い放った。

 

「緑谷くんのここぞという時に働く胆力や判断力は、"多"を牽引するに値する。だから君に投票したんだ」

 

「委員長はんが投票したんやね。そんな委員長はんにうちは投票したんやけども」

 

「やはり俺に入れたのは君か。何故俺に?」

 

「………委員長はんやから?」

 

 今日は蕎麦を昼食に選んだのか、蕎麦の先を口に咥えながら首を傾げてそう答える。

 

「答えになっていない! そして何故疑問文なんだ⁉︎」

 

 夜々は首の角度を戻すと、一呼吸置いて「ちゅるん」と一気に蕎麦を吸い上げた。

 そして咀嚼して飲み込むと、飯田の疑問に答え始める。

 

「答えになるやん。うちは飯田はんが最初から委員長っぽいと思ってはったんや。だから勝手やけど委員長呼ばせてもろた」

 

「ぽい……って………」

 

「性格的な意味で個性の強い皆の中で手を挙げ意見する。かっちゃん相手でも怯まず注意を飛ばす。入試の時でさえ、千超える受験者の中で手を挙げはった。さらには委員長決める時も投票が適してる言うて、小さな結束やけど既にクラスを纏めてたやん? 先導する事に恐れへんアンタやから、うちは投票したんや」

 

「わぁ…夜々ちゃんって思ったより考えてるんだね」

 

「なんや! そな無礼なこと言うのはこのお餅か!」

 

 箸を置いて麗日の両頬を軽く抓る夜々は悪戯っぽく笑う。それに対して自分に投票した理由を聞いた飯田は嬉しかったのか、ジーン…と打ち震えていた。

 

「でも残念やったな。副委員長は八百万はんで、結局なれんかったし………やりたかったんやろ?」

 

「"やりたい"と相応しいか否かは別の話。僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

 

「………僕?」

 

「ッ!」

 

 飯田の一人称が変わった事に気付いた緑谷がそう呟くと、飯田はハッと表情を固める。

 

「ちょっと思ってたけど飯田くんて…坊っちゃん⁉︎」

 

「………そう言われるのが嫌で一人称を変えてたんだが…ああ、俺の家は代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ」

 

「ええーーー凄ーーーッ‼︎」

 

「ターボヒーロー インゲニウムは知ってるかい?」

 

「もちろんだよ‼︎東京の事務所に65人もの相棒(サイドキック)を雇ってる大人気ヒーローじゃないか‼︎まさか…!」

 

「詳しい………それが俺の兄さ‼︎」

 

 緑谷のオタクらしい詳しさに引きつつも、飯田はメガネを指で押し上げながらあからさまに…そして誇らしげにそう言った。

 

「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー‼︎俺はそんな兄に憧れヒーローを志した」

 

「あ、そういえばよっちゃんも………」

 

 緑谷に話を振られた夜々は、少しウンザリした表情を浮かべる。

 

「…せや。うちも代々ではないけどオカンがヒーローやで」

 

「何ッ! そうなのか‼︎」

 

「委員長はんみたく立派なもんやないで?」

 

「そんな事ないよ‼︎」

 

 そう謙虚に言って話を終わらせようとする夜々だが、ここでもオタクスイッチが入ったのか緑谷が否定する。

 

「ヒーローランキング39位、鬼嫁ヒーロー 酒姫‼︎ 少しマニアックだから名前は知らないかもしれないけど地元では愛されてるヒーローで、実力は本物の………」

 

「出久待って、怖いわ」

 

 そこで待ったを掛けたのは夜々本人だった。

 

「よっちゃんはあまり好きやないの?」

 

「……確かにオカンの実力は本物やけど、尊敬はできんわ。個性の関係とはいえ、パトロールの仕方は梯子酒(はしござけ)やし………それに雄英が遠いから今うち一人暮らしなんやけど……」

 

 

本当は邪魔やから追い出したんやで? 

 

 

 実の親を本当に憎んでいる口調で、夜々は吐き捨てる。

 

「え、追い出………」

 

「本当の事や………うちが邪魔やったんや。証拠に引っ越したその日に忘れ物したから実家に戻ったんやけど………親二人は何してたと思う?」

 

 冗談ではなく本当の事なんだと理解し、三人は表情を暗くさせる。子供を貶すような嫌なワードが頭をよぎった。

 

「まさか………」

 

「そのまさかや…あのロリババア………」

 

 

既に全裸やったんやで? 

 

 

「………は?」

「え………」

「なッ………‼︎」

 

 理解するまでの時間にズレはあったが三人は赤面する。

 

「うちが居たせいでできなかったにしろ、娘が出て数分で合体しようとするか普通⁉︎ それおかしい()うたら、お詫びの代わりに弟か妹を………モガッ」

 

「わーーー‼︎わーわーーーッ‼︎‼︎」

「夜々ちゃんソレ、食堂でする話やない‼︎」

「それ以前に未成年が口にしていい話ではないぞ酒井君‼︎」

 

 隣に座ってた麗日が両手で口を抑え、テーブルを挟んだ向かいに座る男子二人は慌てふためく。

 

「………思春期やなぁ」

 

 そして夜々はそれを見て楽しんでいた。

 

「あと純粋に酒好きやからなぁ…朝の一杯は鬼殺し、一日の締めも鬼殺し、弁当のお供に鬼殺し、ウガイに使うのも鬼殺しで、消毒液の代わりにバーボンやで?」

 

「消毒だけハードボイルドッ⁉︎」

 

 そんな楽しい時間は、唐突に終わりを迎える。

 

『ウウーーーッ‼︎‼︎』

 

『“セキュリティ3”が突破されました。生徒の皆さんは屋外へと避難してください』

 

 警報に続き、そんな事を放送で知らされる。

 

「セキュリティ3…?」

 

「校舎内で誰か侵入してきたって事だよ‼︎ 君達も早くッ‼︎」

 

 先輩と思われる人が夜々の疑問に答え、人の波が出口へと一斉に動き出す。その波に飲み込まれて出久は流され、飯田は窓際まで押され、麗日もその近くまで流されていた。そして夜々は………

 

「………アカン、お茶子はんの"個性"で逃げれへん」

 

「あぁーーーッ! ゴメン夜々ちゃん‼︎」

 

 麗日の"個性"である無重力の発動条件は、指5本で触れる事………厳密にいえば、指の腹に付いている肉球が5つ触れる事で発動する。

 

 夜々は麗日に口を押さえられた時に、それに触れられてしまったようだ。

 

 人混みが波打つその上を、夜々はスカートを押さえながら浮遊していた。

 

「……あ、ちょっと楽しい」

 

「言ってる場合じゃないだろ、よっちゃん‼︎」

 

 今解除すれば落下し、着地する床は人混みで見えない。誰かしら怪我するだろうと考えているその頃、窓際で動けなくなった飯田のみが事の真相に気付いた。

 

「アレは………今朝の報道陣じゃないか‼︎」

 

 雄英高校の校門は関係者以外が近付くとシャッターが下される仕組みになっている。それを掻い潜って敷地内に入る…それも校門前に居た報道陣全員が入ってくるのは不可能だろう。

 

 だがそれが出来ているのだから今こうなっているのだろう。最も可能性としては、セキュリティゲートである校門の不具合だと思うが。

 

(この状況に気付いているのは………僕だけか⁉︎)

 

 窓に押し付けられながら周囲を見渡すが、相変わらず生徒達は皆混乱状態だ。そう判断する飯田は、流されて離れ離れになった友人を比較的に近い場所で見つける。

 

「大丈夫、飯田くん!」

 

「麗日君……ッ‼︎ ()()()()()‼︎」

 

 咄嗟に思いついたやり方で、飯田は場を収束させようと行動に出た。

 麗日の伸ばした手の五指が飯田の手に触れ、人波から外れて空中に出る。

 

「委員長はん、迎えに来てくれたん?」

 

「すまない酒井君! 君は後だッ‼︎」

 

 無重力状態になり浮遊したまま、学生服のズボンの裾を捲る。すると脹脛から生えたバイクを彷彿させるラフラーが、突如として空気を吐き出し推進力で飯田を押し運ぶ。

 

 無重力ゆえに複雑に回転しながら、飯田は皆が逃げようと押し迫る出入り口の真上の壁に激突した。

 そこに突き出た何かの配管に手をかけて声を張り上げた。

 

「だいじょーーーぶッ‼︎」

 

 喧騒を切り裂くように飯田の声は響き渡った。

 それに続きマスコミの存在を知らせた事で、辺りにいた学生達は落ち着きを取り戻した。

 

「…非常口のマークやんけ」

 

 一人高い所で食堂を見下ろす夜々は、出入り口の上にへばり付いた飯田を見て感想を零す。

 やがて生徒達は教室に戻るように放送で指示が出され、人混みが薄くなってきたところで夜々はやっと床に足を付ける。

 

「ゴメン夜々ちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫やでお茶子はん。むしろ"おしくらまんじゅう"されるよりだいぶマシやったわ」

 

 然程気にしてない様子で四人も教室に戻った。

 

 その後、緑谷が委員長の座を辞退して飯田を推薦し、彼が1-Aの委員長を務める事になった。

 

(やっぱり委員長やん)

 

 ホームルームが終わったのを確認し、夜々は席を立って帰路につく。

 が、自分のスマホにメールが来てる事に気付き踵返した。

 

 向かう先は職員室だが、辿り着く前に目的の人物の後ろ姿を見つけた。

 

「相澤は〜ん!」

 

「ん………酒井、お前いい加減にしろよ?」

 

 少しマジな口調で注意をされたが、夜々は毛ほども気にせずに話し始めた。

 

「多分昼の事がもうニュースになったんやろうね、それ見たオカンが伝言やってメールが」

 

「伝言………………あの人から?」

 

 ポツリと呟いてから苦悶の表情を浮かべて、トーンを低くしてそういった。

 

「オカンと知り合いなん?」

 

「一応な。で、内容は?」

 

 またスマホを起動してメールを開き、夜々は相澤に内容を口頭で伝える。

 

「えー、"災い来たりて、気張れ"………やって」

 

「………………」

 

 たったそれだけの文に呆れたのかと思ったが、相澤はその言葉を聞いて考え込み始める。

 

「………こりゃ、近いうちに何かあんな」

 

「なんでそんなん分かるん?」

 

「お前が気にする事じゃねぇよ」

 

「えぇー、なんや気になる〜。相澤はんオカンとどうゆう関係なん?」

 

「相澤先生と呼べ。んでもって帰れ」

 

「えぇやんえぇやん。聞かせてや〜」

 

「こっちは仕事残ってんだよ。これ以上の会話は合理性に欠ける」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「………ふぅ〜」

 

『YEAH‼︎ どうした溜め息なんかついて! そんなんじゃ幸せはどんどん逃げてっちまうぜ⁉︎』

 

「五月蝿いぞマイク」

 

 職員室で自分のデスクに腰を下ろすと、昔から縁のあるプレゼントマイクが個性を使った声量で話しかけてくる。

 

「で、どうしたんだ?」

 

「どうも何も、校長が昼の騒動の後言ってただろ」

 

 ふとマイクは昼の騒動を思い出す。

 今朝から校門に集まっていたマスコミ達は、昼になると侵入者を阻む校門のゲートを破壊して敷地内に入ってきた。

 いくら情報に飢えるマスコミだからといって、器物破損までするだろうか………

 

「マスコミは陽動だ。邪な者が入り込んだか……宣戦布告か………校長もそう言っていただろ。で、そんな時に不吉な伝言を耳にしてな」

 

「ワッツ?」

 

「災い来たりて、気張れ………このセリフはお前も聞いた事あんだろ?」

 

「………酒姫か」

 

 豹変と言うほどではないが、マイクは態度を変えて呟いた。

 相澤とマイクは先程も言った通り昔から縁のある人物である。そんな二人が新米だった頃に世話になった事のあるヒーロー………それが現プロヒーローの鬼嫁ヒーロー"酒姫"、酒井 夜々の母親であった。

 

「あの人の"勘"は当たるからな。それも踏まえ、今度のヒーロー基礎学は担当する教師を増員し、三人程で行う事になるだろう」

 

「オレちゃんはいる?」

 

「要らん」

 

「それはそうと話は変わるがイレイザー」

 

「なんだ?」

 

「酒井ガール………父親の遺伝子どこやった?」

 

「………確かにな」

 

 相澤は苦手とするかつての先輩…そんな人に似過ぎている夜々を、相澤は同じく苦手意識を抱いていた。




酒姫
『仕事お疲れイレイザーはん。そや、打ち上げに一杯行こうや』

相澤
『自分飲めないんで』

酒姫
『なんや、儂の酒が飲めん()うのはこの口か?そな事言うていいんか?今すぐ"でぃーぷきす"して"すきゃんだる"起こす事もできるんやで?』

相澤
『いやそれで大打撃受けるの家庭持ってるアンタでしょ』


ーー
ーーー

マイク
「懐かしいな」

相澤
「あの日俺を見捨てて帰ったお前を、俺は絶対に忘れない」

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