鬼人のヒーローアカデミア   作:黝 証呂

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連日投稿です。
次の更新は遅くなると思いますけどね。


7.鬼を垣間見る

「………………」

 

 対オールマイトと言うから警戒したが、それでも予想していた以上の攻撃力に言葉も出ない。

 

(なにが"なんとかなる"や。この楽観主義者が………)

 

 驚愕…というよりは物理的に無理な話だった。打ち付けられた衝撃で、肺からは空気が出て行くばかり。呼吸を落ち着かせようとしていると、瓦礫に埋まった両足がろくに動かないことに気付く。オマケに十升モードは切れている。

 

(十升じゃまるで歯が立たん………脳は揺れるん? ショック吸収の上限は? どのみちこのままやと決定打に欠ける………なら…)

 

 

ーーー更なる高みへーーー

 

 

 夜々たち鬼の一族は、経口摂取したアルコールを力に還元する個性を持つ。

 そして彼女らにはアルコール度数の高い血潮が通っている。

 

 より自身の血を飲めば強くなる。言葉にすればわかりやすい内容に聞こえるが、言うほど簡単なことでは無い。

 

 まず十升分のアルコールを含んだ血液を摂取した時と比べ、二十升分の血液を摂取した時…彼女はどれ程強くなるだろうか。

 単純に二倍? 否、答えは一倍………つまり"十"も"二十"も変わらないのである。

 

(まだ親にゃ、止められてたんやけど………)

 

 一升から九升まで、身体能力や戦闘力は一切変化しない。

 桁が増える事で初めて強化されるのだ。

 

 つまり"十"を超えるためには"百"に達しなければならない。

 

(時間稼ぎ…やる事自体は変わらへん………さて、全身の血液と体重の比率ってなんやったっけ? 昔計算したんやけど………)

 

 震える右手を自分の口へと運び、彼女の歯が手首に食らいついた。

 すると遠くで聞こえていた地鳴りのような音に気付く。

 

(早く…早く………)

 

 爆豪はまだ戦っているだろう。先程見えた氷塊は轟の個性だろう。2人が揃ってどれだけ時間が稼げる? 脳無は別格の(ヴィラン)だ。時間稼ぎすら難しい。

 

(…早く………早…く………)

 

 2人の元へすぐにでも向かいたいが両足は瓦礫に捕らわれ、抜け出す力も無い。少しでも早くと自身の血を吸い上げると、身体中に巡る力を感じる。

 

 同時にやって来るのは激しい目眩と頭痛。

 力の巡る快感と負荷としてかかる頭痛が混ざり、通常では感じない嘔吐感にまで襲われた。

 

 それが十数秒前の事だった。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「……き……ぉ………ぅ」

 

 両の足がフラつきながらも、夜々は脳無をビシッと指差す。

 

「死柄木 弔! 脳無に回避の指示をッ!」

 

「うるせえ黒霧。脳無! 迎え撃て‼︎」

 

「弔ッ!」

 

 ーーー ゴォォォォォオ‼︎‼︎ ーーー

 

 指示するが早いか、夜々の指先から極太のレーザーか放たれる。先程までと違い、赤というよりは朱色に近いレーザー…威力は言わずもがな格段に上がり、飲み込まれた脳無の原型が若干崩れる。

 

 レーザーはやがて通り過ぎ、そこに残ったのは大きく抉れた地面と、表面が焼け爛れて内側の肉を見せる脳無だった。

 

「ハハハハハ‼︎ 見ろ! そんなんじゃ脳無は倒れねぇよ‼︎」

 

「よく見てください、死柄木 弔! 脳無の表面を…再生が目に見えて遅い………いや、再生が止まっています‼︎」

 

 言われて気付く。

 脳無はオールマイトを殺す為の生物兵器。No.1ヒーローを殺すために数ある個性を持たされた生物兵器だ。数ある個性の中には"再生系"の個性もある。

 それも"超"か付くほどの高性能自己回復個性。

 

(それが発動しない? すでにダメージが許容範囲を超えたか………いや、あのビームがおかしいのか。炎症か………それとも()()()()()()()()か)

 

 死柄木が考察する合間に、距離を詰めた夜々が脳無を殴る。

 "ショック吸収"の個性によって、その攻撃による衝撃は皮膚下に沈むように消えた。

 しかし夜々はその手を止めない。

 

 "ショック無効"ではなく"ショック吸収"なら上限があるとか、そんな事を考えていたりはしない。

 

「今更そいつに物理は効かねえ‼︎ 下がれ‼︎」

 

 爆豪が声をかけるが、夜々は未だに止まらない。

 

「………半分野郎ッ‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

 不審に思い飛び出した爆豪は、自分の呼び方で轟を呼ぶ。

 それだけで察したのか、轟が右足を前に踏み込むと氷の道ができる。そしてその先にいた脳無に道が触れると、脳無は氷塊に閉じ込められる。

 

「グギッ………!」

 

 無論、それは一瞬だが、その間に爆豪は夜々を抱えて下がった。

 肋骨がイかれて表情は歪むが、抱えていた夜々を下ろして面を向かいあわせる。

 

「テメェどこ見てやがる‼︎ オイ! 鬼女ッ‼︎」

 

 爆豪の呼び掛けに対し、夜々は一瞬固まってから辺りを見渡し、脳無を見つけると爆豪を振りほどき脳無へと走り出そうとする。

 

「どうした酒井! 落ち着け!」

 

 見かねた轟も声をかけて、夜々の腕を掴む。

 

「……ッ………………………」

 

「何だ? よく聞こえねぇ!」

 

「………ッ! テメェ…まさか………」

 

 目の前で小さな爆発を手の上で起こす。そんな爆豪の手を前にして、夜々は一瞬何が起きたか分からなそうな表情を浮かべる。今の光が爆発で起きたものだともわかっていないような。

 夜々の視界は既に霞み、彼女の耳には爆豪の声も轟の声も届いていなかったのだ。

 

 原因は百升モードに入るための失血による貧血。

 今は意識か辛うじて残っているだけで、本人は気付いていないが呂律が回らず会話もできていない。

 

「………死柄木 弔」

 

「あぁ………脳無! 鬼女を殺せ‼︎」

 

 死柄木がまた命令すれば、先程は殴られっぱなしだった脳無が夜々に迫る。

 

「ーーーッ‼︎」

 

 聞きたくない鈍い音と共に、またも夜々は殴り飛ばされる。

 反応に遅れた爆豪は、突発的に手を向けここ一番の大爆発を引き起こした。

 

「クソガァァァア‼︎‼︎」

 

 眩い閃光が弾け、爆熱が周囲の生物の肌を焼く。

 その爆発は下から掬い上げるように放たれ、脳無もダメージこそ無いが後方へと吹き飛ばされた。

 

「グッ………」

 

「爆豪! もう動くな。酒井連れて逃げろ」

 

「ざっけんなよ…こんなのダメージにも入らんわ‼︎」

 

 やはり折れているのか、今の爆発の衝撃に耐えきれず爆豪は腹部を押さえて膝をつく。

 

(今の火力をもう一度でも出せば、今度こそ爆豪が壊れる。かくいう俺もこの腕じゃ………)

 

 轟の個性の"冷"の方は右側から発せられる。使えないわけでは無いが、彼の右腕は脳無が砕いた氷塊の礫をくらい、おそらくだが脱臼していた。

 

「行け、脳無」

 

「止めろ‼︎」

 

 右足を踏み出し、また足元から氷の道を形成。そして脳無の前に巨大な氷壁を築く。だが案の定、脳無はいとも容易くそれを破壊する。

 爆豪は脳無の前に回り込もうとするが、身体が言う事を効かず思うように飛べなかった。

 

「逃げろ‼︎夜々ッ‼︎」

 

 もはやそう叫ぶことしか出来ない。

 その叫びも虚しく、脳無は跳躍………そして夜々がくたばっている瓦礫の山に突っ込んだ。

 土煙が舞い上がり、脳無の足元には夜々が倒れている。

 

「止めろ! 止めろォォォオ‼︎」

 

 脳無が夜々の首根っこを掴み片手で持ち上げる。そして反対の腕を振り上げ、彼女に向けて突き出した。

 また彼女は吹き飛ばされる。

 

「さかーーー」

 

 唯一の違いといえば、すぐさま立ち上がった夜々が脳無に殴り返した事だろう。

 

 渾身の一振りが脳無の顔面を捉える………といっても、正面を向いていた脳無の首が、少し左に曲がる程度だった。

 

「離れろッ!」

 

 轟が築く氷壁、氷塊は何も守れず何も拘束できなかった。

 

「脳無! 確実に殺せ‼︎」

 

 弱くは無いが力不足なその拳で黙々と殴り続ける夜々……その頭上で、脳無は両手を組む。そしてそれをハンマーのようにそのまま振り下ろした。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 オールマイトがここにいないうえ、1人のガキが逃げ応援を呼んでいる。なら生徒を何人か殺し、雄英に傷を付けて帰ろう。

 

 黒霧がガキを逃したと言った時はそう思った。

 

(アイツを見ていると虫酸が走る)

 

「………死柄木 弔」

 

「あぁ………脳無! 鬼女を殺せ‼︎」

 

 ターゲットを酒井とか言う鬼の女に絞る。

 本来の目的とは別に、殺すべきだと思ったからだ。

 

 理由は知らない。

 

 脳無に数度殴られても原型をとどめて立っているのには驚いたが、アイツが痛めつけられるさまを見ているのはとても痛快だった。

 

「脳無! 確実に殺せ‼︎」

 

 そう命じると、脳無は腹部を殴られながらも物ともせず手を組んだ。

 そしてそれを振り下ろせば鬼女の頭部を上から捉え、アイツは勢いをそのまま受け継いで地面に叩きつけられた。

 瞬間、あたりは激しい轟音と共に土煙が充満する。

 

「サブクエストクリア…か。帰るぞ黒霧、脳無を回収しろ」

 

「………死柄木 弔」

 

「あ?」

 

 帰ろうと背を向けるが黒霧は動かない。

 呼び掛けられ俺はまた振り向くと、晴れかけていたがまだ土煙が舞っている。そこに立つ脳無………の足元で俯けに倒れた鬼女が、ピクリと腕を動かした。

 

「おいおいマジか…頑丈すぎないか?」

 

 確実に殺せと命じたからか、脳無は足を振り上げ踏み潰そうとする。とっくに外野になっていたガキが2人騒いでいるが、もう止まらなーーー

 

 

 

 「TEXAS SMASH‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

 ………あぁ、コンテニューだ…

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 夜々の頭を踏み潰そうとした脳無を、颯爽と現れた大男が拳を突き出す。しかし"ショック吸収"の個性で威力は殺されてしまうが、彼はそこから更に力を加え、押し上げるように殴り飛ばした。

 

「胸騒ぎがして校長の話を切り上げて来てみれば、途中で飯田少年と会ってね。事情は聞いたよ。でも大丈夫………」

 

 現れた大男はサラリーマンのような服装をしていたが、その首元に巻かれたネクタイに指をかける。そしてネクタイを緩めるような動作で、結び目からソレを引きちぎった。

 

 「私が来た」

 

「オールマイトッ‼︎」

 

「気をつけてください。そいつはショック吸収といった物理耐性の個性を………」

 

「それも知ってるよ。USJの入り口で、早口に緑谷少年が言っていたからね」

 

 轟の言葉に軽く返しながら、オールマイトは膝をついて夜々の容体を確認する。彼女の命に別状が無いのがわかると、優しくその頭を撫でてから前へ出た。

 

「私が相手だ………来い、(ヴィラン)どもッ‼︎」

 

 堀の濃い表情で敵を睨みつけながら言えば、死柄木は嬉しそうに表情を歪めた。登場したオールマイトに食いつくように、その場で前のめりになりながら口を開いた。

 

「もちろんだ。なんたってその為に来たんだからなぁ‼︎‼︎ やれ! 脳無ッ‼︎ こんな世の中を作った平和の象徴をぶっ壊せッ‼︎‼︎」

 

 今まで死柄木が指示を出してから脳無は動いていた。それが頭に刷り込まれていた爆豪と轟は、戦いの余波に備えて身構える。オールマイトの登場で安心こそしたが、彼の気迫で現場の緊張感が更に高まっているからだ。

 

 だからこそ棒立ちで動かない脳無に対して、2人は呆気にとられた。それは相手側も同じようで、死柄木は頭にクエッションマークを浮かべながら脳無を見る。

 

「おい、どうした脳無! やれッ‼︎」

 

 それでも脳無は動かない。

 その様子に焦る死柄木に、隣に立っていた黒霧が耳打ちをして何かを渡す。

 それは携帯電話のようで、死柄木は自分の耳にそれを当てる。個性の関係か、中指だけ浮かせて携帯を持っている。

 

「………はぁッ⁉︎ 撤退って………どういう事だよ先生ッ‼︎」

 

「先生?」

 

 その言葉に反応して眉を動かすオールマイト。そして次の瞬間、脳無が何かを吐き出し始めた。それもその体積に合わない量の流動体だ。

 

「SHIT‼︎ まさかワープ系の個性かッ⁉︎」

 

 咄嗟に走り出し、拳を振りかぶるオールマイト。その拳は脳無を捉えたかのように見えたが、 振り抜いた拳には吐き出した流動体が少し付着してるだけでそこには何もいない。

 

「ゴポッ⁉︎」

 

 そして同じ現象が死柄木、黒霧の身にも起きる。

 

「待てッ‼︎ 私も連れて行け‼︎」

 

 逃すまいと手を伸ばすが、奇しくもその手はまたすり抜けてしまう。

 

「クッ………逃したか」

 

 すり抜けた拳を握りしめ、ゆっくりと下に下ろして振り向く。

 しかし彼は教師でありヒーローである。すぐさま生徒の安否を確認する為に動き始めた。

 

 その後、現場に到着したヒーロー達が生徒を一ヶ所に集め点呼を取り始める。ちなみに、黒霧が逃したガキというのは飯田の事で、彼は応援に駆けつけたヒーローと共にUSJに戻ってきていた。

 

「みんな! 怪我はなかったかッ⁉︎」

 

「委員チョー、うちらは平気だったよ!」

 

「すまないッ‼︎ 僕がもっと早く走れていれば迅速に…」

 

「自分を責めんなよ。むしろお前のお陰で俺たち助かったんだぜ?」

 

 集まり始めた生徒たちは、緊張感から解放されてかそんな事を話しながら息をついている。

 

「そうだ…よっちゃんッ!」

 

 緑谷は彼女の名を呼び目を向けると、夜々は脳無の攻撃で地面に打ち付けられた場所にいた。まだ横になっていたところを、応援で駆けつけたヒーローの1人…プレゼントマイクがちょうど抱きかかえる所だった。

 俗に言う"お姫様抱っこ"だが、夜々は意識があったのか身動いでその腕から逃れる。

 

「酒井ガール! スゲェタフネスだな。だが大人しくしとけ。それとも年頃の女生徒として、流石に恥ずかしかったか?」

 

「………………」

 

 無言のまま、千鳥足で歩き出す夜々。無視されたマイクはなんとも言えぬ表情を浮かべる。

 

「………酒井さん?」

 

 フラフラと歩く夜々を見て、八百万が疑問を浮かべ呼びかける。だがそれにも無反応を示す夜々は、フラフラとしていた歩みだったが次第に強く走り出す。

 

(ヴィラン)はこれで全員ですかね」

 

「だろうね」

(そろそろ時間か…頃合いを見て抜け出さねば………ん?)

 

 その先には情報交換を行っていたヒーローが2人いた。片方は最初に応援として駆けつけたオールマイトだ。

 

「どうかしたのかい? 酒井少ジョッ⁉︎」

 

「why⁉︎」

 

「………え?」

 

 派手な轟音をたてオールマイトが瓦礫の山へと吹っ飛ぶ。無論、その現場を見たものは唖然とし静まり返った。

 

「…酒井…いったい、何…を?」

 

 耳郎が状況を飲み込めないまま、ワナワナと震えて口に出した。

 状況が飲み込めないのは彼女だけでは無い。しかし、間を置いていち早く理解した者もいた。

 

「モブ蛸にタラコ唇は消えろッ‼︎」

 

「爆豪?」

 

「な、なんだよ急に………」

 

 咄嗟に夜々を追い掛ける為に走り出した爆豪。もちろん肋骨がすでに完治してるわけではなく、苦悶の表情が見える。

 

「グギギッ………」

 

 そして状況を把握していないが、それでもすぐに走り出した者もいた。その者は走りながら状況を再確認し、答えに辿り着いた。

 

「かっちゃんはなんで障子くんと砂藤くんに? ツノがまだ光ってる。個性の力がまだ切れてないんだ。そういえばよっちゃんは自分の血を経口摂取して強くなる個性。あの(ヴィラン)を相手にする為に自分の血を吸いすぎたとしたら…貧血? 周りに無反応だった。まさか耳と目があまり機能してない。きっとオールマイトのシルエットを脳みその(ヴィラン)と間違えたんだ。だからかっちゃんはガタイの大きい2人にあんな事を言ったのか」ブツブツ

 

「HAHAHA…まさかこの筋肉が仇になるとはね」

(SHIT⁉︎()()()弱いんだ‼︎ それに時間が…()()()()の時間が!)

 

 オールマイトに大きなダメージは無さそうだったが、笑顔の裏では焦りを見せていた。

 そんな彼の元に夜々が辿り着く。オールマイトは彼女の大振りな一振りを半身で避けたが、それと同時に身体から煙が噴き出した。

 

「しまっ⁉︎」

 

 夜々の追撃に身構えるオールマイト。だがその追撃は来ない。

 

「…HAHA………緑谷少年の推測は当たりのようだねガハッ‼︎」

 

 そう笑いながら吐血するが、そこには筋骨隆々なNo.1ヒーローの姿は無い。

 あったのは虚弱体質で自然と吐血する骸骨のような男がいた。

 

 そう………それがオールマイトの()()()姿である。

 

「止まりなさい‼︎」

 

 そう言ったのは四角い顔をした教師だった。無論、彼も教師でありヒーロー。セメントスという名のヒーローは、夜々とオールマイトの間にコンクリートの壁を出現させる。

 

 夜々の攻撃を防ぐには薄い気もするが、目標を見失った夜々は混乱して硬直する。そこに2人が追いついた。

 

「「止まれッ‼︎ 夜々(よっちゃん)‼︎」」

 

 左手に組み付き左から大声で呼び止めたのが緑谷、右手に組み付き右から大声で呼び止めたのが爆豪である。

 

「………いず………か…き………?」

 

 口もあまり動かさず、消えそうな声で彼女が呟く。

 

「もう大丈夫だから!」

 

「ことはとっくに終わってんだよ‼︎」

 

「………………」

 

 糸が切れた人形のように動かなくなり倒れると、もちろん2人はそれを支える。しかしある問題に感づき、ゆっくりとその場に寝かせた。

 

 気絶した瞬間、2人が組み付いていた両腕が途端に柔らかくなっていた。

 百升モードが切れ、強化されていた身体が元に戻ったのだろう。鋼のようだった両腕が少女相応のソレになり、その肉の下の異変に気付いたのだ。

 

「折れてる…多分脚も………それを個性で強化し、筋肉だけで骨も身体も支えていたのか………」

 

「オイ‼︎タンカ‼︎」

 

 まだ場がどよめく中、セメントスが秘密裏にオールマイトの元へ移動する。

 ちなみにオールマイトの本当の姿を世間は知らないが、教師陣は把握している。最も、緑谷 出久がオールマイトの後継者というのは誰も知らないが。

 

「大丈夫ですか?」

 

「もちろんだ。食らった時はまだ"マッスルフォーム"だったからね。だが時間だ…私はこれで………」

 

「わかりました………さぁみんな。点呼を取り次第移動しますよ」

 

 夜々によってまた騒動が起きたが、それもすぐに収集がつき全員の生存確認が行われた。夜々の奇行に関しては緑谷が代わりに弁解し、何故そうなったのかは轟の補足もあったが爆豪が答えた。

 

 こうしてUSJで起きた事件は、幕を下ろす事になる。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

『どういう事か説明してくれよ。先生』

 

 場所は変わって、何処かもわからない暗闇の中。

 1人の男がモニター越しに誰かと話していた。その誰かとは死柄木 弔で、先生と呼ばれた男は全身をチューブで繋がれた重症患者だった。

 医療器具につながれ患者と呼んだが、ここはどうも病院ではない。

 

「エラーだよ」

 

『エラー?』

 

「対オールマイト用の脳無………私とドクターの最高傑作だったのだが、こちらでエラーを感知してね。あのままオールマイトと戦わせても、最高のパフォーマンスは求められないだろう」

 

『だから強制帰還させたのかよ。何から何までダメじゃねぇか』

 

 画面の向こうにいる彼は、ゲームが思い通りにいかずに拗ねる子供のようだった。それを見て先生と呼ばれた男は口角を吊り上げる。

 

「それで良いんだよ。死柄木 弔…よく言うだろう? "失敗は成功の元"だって。沢山失敗して良いんだ。そこから学べば良い…大丈夫。その為に僕がいる」

 

 そうあやすように告げ、男はモニターの電源を切った。

 

「………で、どうだった。ドクター」

 

 その声に応えるように姿を現したもう1人の男。その男は姿を現してから文字通り答えた。

 

「ふむ。前半分の表面の焼け爛れと、打撲痕に似た焼け跡…前者はもちろん、ただの物理じゃこうはならん」

 

「そうか………フフフッ…そうか!」

 

「ッ‼︎ これはいかん‼︎ タマちゃん、部屋から薬を取ってきてくれ! パックのやつ!」

 

 備え付けていた医療機器がアラームを鳴らし、心電図らしき画面の線が歪に波打つ。

 焦ったように誰かに命令すると、脳無の顔を取り付けた猫のような生物が暗いこの部屋から出て行った。

 

「すまないドクター。疼いてしまってね………()()と同じ傷か」

 

「ダメージは全然無かったがのう」

 

 患者の男は自分の首筋をなぞるように撫でる。

 

「薬もタダじゃない。何より死柄木 弔の先生として、あまりはしゃがんでくれよ? ()()()()()()()()()()

 

「わかっているよ………フフフ、酒井 姫の娘…そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒呑童子の子孫か

 




夜々
「二の腕とおっぱいの柔らかさって同じなんやって」

証呂
「何故それを最後に言う」
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