戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第九十七話 襲撃のクォーターズ

━━━━あれから一週間が経った。

 

響は、まだ目覚めない。

けれど……目が覚めて、やっと思い出せた胸の歌が壊されてしまった事を知ったら……響は、どう思うのだろう……

 

……悲しむだろうか。それとも……

 

「……心、此処にあらず……と言った所ですね。」

 

「━━━━あ……いえ!!

 ……すみません、右京先生……」

 

気が付けば、鍵盤の上を滑るべき手元は止まってしまっていて。

━━━━そうだった。七月頭に控えた中期試験。その中の音楽のテストには、選択によって楽器や声楽などの種別が加わる物がある。

そして、(小日向未来)はピアノを使った室内楽ピアノを選択していた事もあり、テスト前の実習という形で声楽選択者の為の奏者をしていたのだ。

……なのに、気づいたら私は響の事を考えてしまって……

 

「技術的な面での問題は少なかったですし、失敗するのもまた、上達の秘訣です。

 ですので、小日向さんは試験の日までに悩み事を解決しておくように。」

 

「はい……」

 

「━━━━では、次の人。」

 

━━━━消沈する気持ちを抑えて、椅子へ戻る。

……でも、この問題ばかりは……響が目を覚ました時にしか、答えを見つけられないんだろうな……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━Project IGNITE……現在の進捗は95%。

 旧二課が保有していた第一号、及び第二号聖遺物のデータと、エルフナインちゃんと鳴弥さんの頑張りのお陰で予定よりずっと早い進行です。」

 

━━━━立花のギアが砕かれてから、一週間。

懸念されていたオートスコアラーによる追撃も起きる事無く……気迫を持って訓練に当たっていた(風鳴翼)達の肩を透かすように、何事も無くProject IGNITEは完遂されようとしていた。

 

「各動力部のメンテナンスと重なって……一時はどうなる事かと思いましたが……

 作業や本部機能の維持に必要なエネルギーは、都市部用ギガソーラーシステムで外部から供給出来たのは幸いでした。」

 

「……」

 

━━━━本当に、どうなる事かと思ったのだ。

幾ら奏やセレナ達が居るとはいえ、彼の者達が装者の身辺を調べ上げている事が立花への再三の襲撃でわかっていた以上は、本部への強襲も覚悟していたというのに……

たかだか数日でSONGの装者三人のギアを手折る電撃作戦をしたかと思えば、我々にプレッシャーを与えるようなジリジリとした兵糧攻めを披露する……果たして、彼の錬金術師の目的とはいったいなんなのだろうか……?

 

「それにしても、シンフォギアの改修となれば機密の中枢に触れるという事なのに……よく許可が下りましたね?」

 

「状況が状況だからな……それに、()()()()の口利きもあった。」

 

「八紘兄貴……って、誰だ?」

 

「……限りなく非合法に近い実行力を以て、日本の安全保障を陰から支える政府要人の一人……

 超法規措置による対応人員の捻じ込みなど、彼にとっては茶飯事であり━━━━」

 

「待て待て待てッ!!とどのつまりがなんなんだッ!?

 オッサンが兄貴って呼ぶのはなんでなんだよッ!?

 っつーか、なんでセンパイが説明をしてんだッ!?」

 

……私の言葉を遮って掛けられる雪音のその言葉に返す答えは、私には無い。

だから、私は目を逸らしてしまう。

 

「……」

 

「━━━━内閣情報官、風鳴八紘……司令の兄上であり……翼さんの、御父上です。」

 

「なんだ、だったらはじめっからそう言えよなぁ。

 一々蒟蒻問答(話題のすり替え)が過ぎるんだよ。」

 

……そう。御父様だ。御父様、なのだ……だが……

 

「私のSONG編入に、セレナのSONGでの保護……そういった裏方のゴタゴタに掛かった鶴の一声も、確かその人物の名義だったけれども……

 なるほど、やはり親族だったのね。」

 

「あ、あぁ……」

 

━━━━陰に日向に。あの方は今も、日本という国家を防人(さきも)る為にその力を迷わず振るっているのだな……

 

それだけに。

 

『━━━━お前が私の娘であるものかッ!!』

 

━━━━あの日の言葉が、いつまでも、私の脳裏に響き続けるのだ。

 

「……どうした?」

 

「……ふん……」

 

「あぁ、そりゃアレだよ。翼は親父さんと喧嘩して家出中だからなぁ~」

 

━━━━どう応えた物か。悩む私の代わりに、しかして爆弾を投げ込んで来たのは奏の声。

 

「ちょ、ちょっと奏ッ!?」

 

「なんだよ、歌手になるって言って弦十郎のダンナの家に転がり込んだのは事実だろ~?」

 

「それは……そうだけどッ!?」

 

確かにそうだ。嘘は言っていない。言っていないけれど……

 

「へぇ……んな事情があったのか……」

 

「なるほどね。口が重いワケだわ。」

 

あぁもう……ッ!!奏のせいで、事実が六割とは言うすっかり私が家出娘だと思われてしまっているし……ッ!!

……でも、そのお陰で重い口を割らずに済んだのは事実。

 

「もう……やっぱり、奏には敵わないな……」

 

「━━━━響の様子を見て来ました。」

 

「やっぱり、まだ目は覚めないみたいで……」

 

些か軽くなった空気の発令所に入ってくるのは、小日向とセレナの二人の姿……

医務室にて立花の様子を見る為、放課後に立ち寄ってくれたのだ。

 

「生命維持装置に繋がれたままですが……大きな外傷も無いですし、心配は要りませんよ。」

 

「ありがとうございます……」

 

小日向の声に、場の空気が緩んだその時。

━━━━瞬間、鳴り響くアラートの音。

 

『━━━━ッ!!』

 

「アルカ・ノイズの反応を検知ッ!!」

 

「座標、絞り込みますッ!!

 ━━━━コレは……ッ!?」

 

オペレーターの皆さんが動き始めるよりも速く、本部潜水艦を揺らす、破壊の爆動。

 

「まさか、敵の狙いは……ッ!!

 我々が補給を受けている、この基地の発電施設━━━━ッ!?」

 

━━━━開戦を告げる号砲は、かくして鳴らされたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━煉獄山を巡る旅の途中。

ふと気づけば、(■■■鳴)の意識は、煉獄山を登り始める前に居た小さな家の中にあった。

幽霊のようにふわふわと浮いた状態……まるで()()()()()()()()()()()()()()()()、第三者視点からそれを見る。

 

ヴァージルさんが料理に挑戦して失敗し、彼を《パパ》と呼ぶ少女から酷評される……

そんな、当たり前の日常の一コマ……

 

『あぁ……料理も錬金術も、レシピ通りにすれば間違いない筈なんだけどなぁ……?

 ━━━━どうしてママみたいに出来ないのか……』

 

━━━━そんな、夢を見た。

 

「━━━━大丈夫かい?」

 

「……はい……」

 

━━━━気が付けば……目の前に広がるのは、相も変わらずに荒野が広がる煉獄山。

 

「━━━━ヴァージルさんの記憶を、見ていました。」

 

「ボクの?

 ……そうか……次の記憶への道が見当たらないと思ったら……そうか……そういう事もあるのか……」

 

……コレは、どういう事なのだろうか?

 

「……ヴァージルさんも、煉獄山に刻まれた記憶なんですか?」

 

「……一つの側面から見れば、そうなのだろうね。

 ボクの後悔……ボクが遺してしまった《悲嘆》……それが、この煉獄山の核心に繋がっている。

 だからこそ、ボクはキミを導く役割を果たそうと思ったんだ。」

 

━━━━そう零す彼の姿は、まるで決意を握った殉教者のようで。

 

「悲嘆……それは、一体……?」

 

「……あぁ。煉獄山が定義する七つの大罪。それは当時のキリスト教圏における普遍的なとらえ方で語られていた。

 だが、そうなる以前。エヴァグリオス・ポンティコス(ポントスのエヴァグリオス)が人の心に強く宿る《想念》を分類した時にはまだその数は七つでは無かったとされている。

 ━━━━コレを《八つの枢要罪》と言う。」

 

話には聞いた事がある。

エヴァグリオスは、時に人の心を大きく動かし、時には人を誘惑してしまう物……即ち《想念》を八つに分類し、それ等と向き合う事を説いたのだと。

 

「えっと……七つの大罪と八つの枢要罪での違いは確か……」

 

「うん。六世紀後半の伝説的教皇グレゴリウス一世は、《高慢(傲慢)》こそすべての大罪の根源であると説き、更にはそれ以外の七つの幾つかを統合した。

 ━━━━悲嘆とは、その際に怠惰を統合した七つの大罪なのさ。」

 

「なるほど……あれ?

 ですけど、既にこの煉獄山には統合された筈の《怠惰》が根付いていました。コレは一体……?」

 

「うんうん、良い着眼点だ。

 グレゴリウス一世は《喪った物を嘆き悲しみ、自らの成すべき事から目を逸らす》事を以て《怠惰》を《悲嘆》の中へ統合した。

 ……けれど、考えてごらん?人が自らの成すべき事から目を逸らす理由は、喪った物を嘆き悲しむ悲嘆だけでは無いように思えるだろう?」

 

━━━━言われてみればそうである。

人が成すべきを為さぬ事に理由があるとしても、それは喪った物を見た事だけとは限らない。であれば起きる事は……

 

「━━━━主節と従節の逆転。」

 

「━━━━そう。人々が語る中で悲嘆と怠惰の立ち位置は逆転し……神曲の書かれた十三世紀には《怠惰こそが大罪である》という論調が広がっていた……

 さて、此処でようやく、話を煉獄山に戻す事が出来る。

 ボクは成すべき事を為したし、自らの生に迷いも無い。

 ━━━━けれど、ボクを喪った事で命題を見失ってしまった子が居たんだ……」

 

そう言って俯くヴァージルさんの顔は、深い悲しみを表している。

あぁ、だから━━━━

 

「━━━━だから、《悲嘆》なんですね。

 煉獄山に表出する事が無い、古い枢要罪の一つ。

 けれど、貴方をパパと呼んで慕っていたあの子が遺した、焼き付いた悲しみの残響(エコー)……」

 

「……そう。あの子が笑えていたいつかの記憶……その残滓。

 そして同時に、《あの子が見たボク》として、あの子の暴走を止めたいと……いや、()()()()()()と願っているモノ。それが……ボクだ。」

 

……その言葉で、俺はようやく気付く。

最初に出逢った時にヴァージルさんが言っていた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の正体に。

 

「━━━━あの子が……俺を覚えてくれていた女の子なんですね?」

 

「そう……あの子━━━━キャロルこそが、かつて空から落ちて来たキミ(隻腕の遺骸)を救い、そして彼が齎した情報を基に()()()()()を救わんと走り続ける女の子で……

 ボクにとって世界で一番の娘だ。」

 

……あぁ、だから……俺は、あの夢を垣間見せて貰ったのだろう。

 

「ありがとうございます。

 ━━━━お陰で、前に進む理由がなお明確になりました。」

 

━━━━あの子は、笑っていた。父親と二人過ごす幸福の時間の中で。

けれど、今の彼女は違うとヴァージルさんは語っていたのだ。

……それは、きっといつかの俺(隻腕の遺骸)の責任なのだろう。

 

━━━━だから、俺はそれを背負う。見捨てたりなどするものか。

 

「……ありがとう。娘の我儘を受け入れてくれて。」

 

「いいんですよ。コレも……俺の、我儘の筈ですから。」

 

━━━━だって、(ダンテ)の魂がそう叫んでいるのだ。

 

━━━━諦めたくない━━━━

 

と……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『━━━━秘密はパパが解き明かして?

 錬金術師、なんでしょ?』

 

『あははははッ!!この命題は難題だ。』

 

『問題が解けるまで、私がずっとパパのご飯を作ってあげるッ!!』

 

 

━━━━それは、それだけで満ち足りていた、いつかの記憶(おもいで)……

 

「……夢?

 ━━━━アレは、数百年を経たキャロルの記憶……」

 

温かい感触を背に受けながら目を覚ましたボク(エルフナイン)は、寝起き故か、ぼんやりと靄が掛かったような頭で考える。

 

「キャロルがボクに刻んだ記憶……パパとの想い出……

 ━━━━!!いけない!!」

 

ガバリと起き上がり、ボクは画面へと意識を戻す。

其処に示された時間は、2()0()4()4()()7()()7()()()1()5():()3()5()()

 

「あぁ……30分そこらも寝落ちてしまっていました……」

 

寝落ちてしまえば、必然として作業の手は止まる。

作業の手が止まるという事は、即ちキャロルの計画を阻止する為の準備が遅れてしまうという事だ。

 

「……でも、その分頭は冴えた筈。ギアの改修を急がないと……!!

 って、この毛布は……?」

 

「━━━━あら、もう起きちゃったの?」

 

顔を上げた時にずり落ちてしまったのか、椅子の背もたれとの間に挟まった毛布に気づいて挙げた声に重なるように入室して来たのは、SONG研究班におけるボクの先達でもある人……

 

「あ……鳴弥さん!!

 ……もしかして、毛布を掛けてくれたのも……?」

 

「えぇ。エルフナインちゃんってば、此処一週間ずーっと部屋にも戻ってないじゃない?

 ……ホントは布団も敷きたかったのだけど、流石にこの散らかりようじゃあ……ねぇ?」

 

━━━━言われて見やる研究室には、理論構築のための計算式をチョークで書いた跡に、参考文献とした魔導書の山、錬金素材としてSONG諜報班の皆さんに集めて貰った各種マテリアルのこれまた山が……

 

「……うぅ、すみません……研究に熱中するとどうしても身の回りの事は後回しになってしまって……

 ━━━━でも、キャロルの計画を止める為にも、此処が踏ん張りどころなんです!!だから……」

 

「あぁ、いいのいいの。研究室が汚いのなんていつもの事だし、どこに何があるかは分かるんでしょう?

 私達研究者にとってはそれさえ出来てればなんでもいいのよ……実際、旧二課時代もそれは酷い物だったし……ね?」

 

そう言ってウインクしてくれる鳴弥さんの口調は軽く……キャロルの記憶の中でも(彼女はパパ以外の世界を知らずに育ったのだろう)、エルフナイン(廃棄躯体十一号)として産まれてからも殆ど経験が無かった故に経験の全くないボクの対人関係スキルでも、ボクの事を気遣ってくれている事が分かった。

 

「旧二課……それは、()()()()()()()()だった時代という事ですか?」

 

「フィーネ……えぇ、そうね。旧二課の研究室は当時研究主任だった了子さんの研究室であり……同時にフィーネの研究室でもあったわ。

 とはいえ、データとして体系化されて遺されていたのは彼女の表向きの研究成果だけで、真に《フィーネの研究室》と呼べる物は……いまだに見つかっていないのよね。

 彼女が潜んでいたって言う郊外の別荘のデータも、爆破された中から出来るだけ復元したのに、櫻井理論の真髄に迫る物は無かった……

 でも、それは考えてみれば当たり前だったのよね。」

 

しまった。

ボクがそう思ったのは、フィーネの研究室という言葉を聴いて翳った彼女の顔を見据えてからだ。

でも、鳴弥さんはその翳りを振り払うかのようにすぐに話を変えてくれたし……なにより、それ以上に気になる話があったのだ。

 

「櫻井理論の真髄、ですか……?」

 

「えぇ。少女の歌に呼応して光を発し、それをギアプロテクターとして固着させる……通常の物理学では決して考えられない事象。

 それを成したのが櫻井理論と聖遺物だったのだけれども……その根幹部分には、我々表の世界の科学者では理解出来ない謎のロジックが含まれていたのよ。」

 

「通常科学では理解出来ない謎のロジック……それは、やはり……」

 

「━━━━えぇ。櫻井理論の根幹部分には、貴方達が振るう《真なる錬金術》と同じロジックが使用されているわ。」

 

……正直に言えば、ボクはそれを知っていた。

錬金術の基本は等価交換。それは逆説的に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。

そして、公開された櫻井理論にその原則の応用……いや、換骨奪胎(スピンアウト)が含まれている事を知った為にシンフォギアの根幹部分に迫る事が出来……

それ故に、《シンフォギアを錬金術で強化する》というProject IGNITEの発想に到ったのだ。

 

━━━━けれど、鳴弥さんはそうではない。

秘匿された知啓に接続(アクセス)しうる手段は限られている。歴史の闇に根を張る秘密組織に入団し、通過儀礼(イニシエーション)を経る以外に体系だった知識を得る事はできないのだから。

だから、知啓を得ていない彼女にとって櫻井理論は《根幹に理解の出来ない概念が使われた理論》でしかない。

そんな中から《尋常な物理法則から逸脱している理由》がある事、ましてや、それが《まったく別の法則を換骨奪胎した物である》事にまで辿り着いて居ただなんて……

 

「……鳴弥さんは凄いですね……それに比べてボクは……」

 

━━━━ボクは、何もかも他人任せだ。

ボクに刻まれたパパとの記憶、そしてそこから構築された自我()が叫ぶのだ。キャロルを止めたいと。

……だけど、そう思ったボクに出来た事と言えばダインスレイフの欠片を持って逃げ出した事と、SONGに接触してキャロルの脅威を伝えた事だけ……

今こうしてProject IGNITEを進められているのは、偏にSONGの皆さんの尽力があったからで……

 

「━━━━もう。そんな風に落ち込まないの。」

 

ふわり、と。澱む感情に(くら)むボクの頭を、鳴弥さんは抱きしめて抱え込む。

 

「わ、わ……鳴弥さん!?」

 

「んー!!可愛い反応ねー!!

 ……ねぇ、エルフナインちゃん?

 きっと、貴方は自分には何も出来ていないと思っているんでしょうけれど……それは違うわ。」

 

びくり、と。衝かれた図星に震えてしまうボクを、ゆったりと撫でながら鳴弥さんは言葉を紡ぐ。

 

「━━━━貴方が居なければ、私達は錬金術師キャロルの攻撃に対してその正体を掴む事すら出来なかった。

 ━━━━貴方が居なければ、私達はシンフォギアを改修しアルカ・ノイズに対抗させる事も出来なかった。

 ━━━━貴方が居なければ、護れなかった人が確かに居る……それだけは、どうか忘れないで。」

 

━━━━仮令(たとえ)、総てが忘れ去られてしまっても。

 

鳴弥さんのその言葉の矛先は、ボクだけでは無いとすぐに分かった。

シンフォギア装者と、その関係者。旧二課の時代から関わっていたほぼ総ての人員に起きていた記憶の欠落。

━━━━その中心に、きっと居たはずの《ダレカ》。

 

「……お節介だって事は分かってる。けど……どうも、ウチ(天津)の男にそっくりなのよねぇ……

 そういう風に、出来る事はぜーんぶ自分の責任だと思って動くト・コ・ロ。

 ━━━━だから、きっと()()()も……」

 

━━━━鳴弥さんの声を遮るように、鳴り響くアラート音。

 

「襲撃……!!」

 

「━━━━エルフナインちゃんはアメノハバキリの仕上げ作業をお願いッ!!

 その間に私はイチイバルをッ!!」

 

「はい!!」

 

「━━━━天津の女を嘗めんじゃないわよ……ッ!!

 いつまでも後ろで見てるだけじゃあ……無いよッ!!」

 

━━━━そうか。こうしてギアを改修する事もまた……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━何が起きてるデスかッ!?」

 

「アルカ・ノイズに、このドックの発電施設が襲われているの……ッ!!」

 

「此処だけではありませんッ!!火力、水力、風力……都内複数個所の発電所、および変電所でも同様の被害を確認ッ!!

 各地の電力供給率、大幅に低下していますッ!!」

 

━━━━(月読調)が切ちゃんやセレナと一緒に飛び込んだ発令所の中では、悲鳴のような報告が響いていた。

 

「ぬぅ……ッ!!一週間と開けたのはコレが狙いか……ッ!!」

 

「今、本部への電力供給が断たれるとなれば、ギアの改修への影響は免れない……ッ!!」

 

「それだけじゃねぇッ!!こんな風に電力網がフッ飛ばされちまったら、あたし等の足下だってボロボロだッ!!」

 

「ギガソーラーシステムから蓄電していた内蔵電源も、そう長くは保ちませんからね……」

 

「それじゃあ、メディカルルームも……ッ!?」

 

「初動にはアタシが出るッ!!緒川さんは援護を━━━━」

 

奏さんが出撃すると声をあげる、その瞬間

 

「━━━━私達が連れて行きますッ!!」

 

「調ッ!?」

 

「ですが、それは……」

 

「メディカルルームに行って、LiNKERを準備するまでです。

 ━━━━それくらいは、させてください……」

 

「……分かった。セレナくんッ!!悪いが、キミにも出撃してもらいたい……だが気を付けろ、二人共ッ!!

 キミ達のギアはアルカ・ノイズ対策の改修が間に合っていない状態だ。アルカ・ノイズの攻撃の枕を潰し、味方である特異災害対策起動部に被害が及ばないよう護る事を優先してくれッ!!」

 

「━━━━はいッ!!」

 

「━━━━おうッ!!」

 

━━━━走る、走る、走る。だけど、決して躓かないように。命を乗せて、走る。

 

「……お前等、出撃するつもりだろ?」

 

「……ほえ?」

 

「━━━━ッ!!」

 

セレナと別れてメディカルルームへ走る道中、車椅子に乗った奏さんが呟く。

 

「ははッ!!切歌はともかく、調は図星か?」

 

「はい……今大切なのは、強化型シンフォギア完成までの時間を稼ぐ事……」

 

「け、けど調ッ!!あたし達のLiNKERはもう無いんデスよッ!?

 LiNKER無しでギアを纏ったって……」

 

「ううん、切ちゃん。私達用に調整されたLiNKERは無いけど━━━━」

 

タイミングよく辿り着いたメディカルルームの扉を開き、お目当ての物と……護りたい人を、私は見る。

 

「━━━━アタシのLiNKERは、鳴弥さんによって了子さんが作った分のコピーって形で数が確保されてる。

 考えたなぁ、オイ?」

 

「……それでも、相談したらきっと反対されてしまうから……」

 

メディカルルームのベッドの上で眠る彼女……立花響をそっと見つめる。

 

「ふふっ……だったらだったで、助けたい人が居ると言えばいいデスよ。」

 

「……イヤだ。」

 

━━━━だって、それは……

 

「どうしてデスか?」

 

「……恥ずかしい。ホントは、切ちゃん以外に弱音なんて見せたくないもの。」

 

「……それは弱音なんかじゃないさ。

 ━━━━それよりホラ、そこの冷蔵ケースの中だ。」

 

「はいデス!!まずは響さんを助けて━━━━そしたら、弱音なんて吐かなくたって平気の平左デスからッ!!」

 

━━━━切ちゃんのその言葉に背を押され、私は冷蔵ケースを開く━━━━

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━アルカ・ノイズ襲来。

その火急の知らせを受けて各地に展開した特異災害対策機動部の実働部隊。

その決意は固く、眼差しは鋭い。

 

「━━━━新型ノイズの位相差障壁は従来ほどでは無いとの事だッ!!

 解剖器官を避けて、集中斉射ッ!!

 お姫様(シンフォギア)お召替え(強化改修)が終わるまで護り切るぞッ!!」

 

『了解ッ!!』

 

無反動砲(84RR)……()てーッ!!」

 

━━━━後方への燃焼ガスの逆噴射によって反動を極限まで減らした、おおよそ人が持つには最大級の火砲が、迫りくるアルカ・ノイズの群れへと突き刺さり……そして、爆発する。

 

「━━━━着弾確認ッ!!効果アリッ!!」

 

「ぃヨシッ!!」

 

思わず、と言った風に快哉の声を挙げる指揮官。だが、それも仕方ない事だろう。

位相差障壁という摩訶不思議ゆえに、今までは臍を嚙む想いで遅滞戦術を行うしか無かったのだ。

通常兵装でも攻撃が通るのであれば、シンフォギアだけに頼る必要は薄い。

━━━━それはつまり、一般人でもある彼女達を戦場に立たせなくとも良いという事なのだ。

 

「行けそうですッ!!」

 

━━━━だからこそ気づかない。いや、気づけない。

今までのノイズ相手ならば、正面に火力を集中すれば、此方の世界に波長が合った瞬間に当たった弾丸が牽制となり、遅滞戦術となっていた。

だが、今彼等が相手をしているのは、人を襲う事を規定(プログラミング)された悪魔(ノイズ)ではない。

錬金術師が召喚し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()━━━━召喚悪魔(アルカ・ノイズ)なのだ。

 

即ち、回り込んだ後方からの急襲、

━━━━今までならば有り得なかったそんな行動を受けてしまえば、自衛隊の兵士が纏う装甲など一瞬たりとも保たずに紅塵(アルカへスト)へと分解されるだろう。

 

「━━━━危ないッ!!」

 

━━━━そんな未来を打ち砕くヒカリが、一つ。

回転しながら解剖器官を叩き込まんとしたアルカ・ノイズの横っ腹に突き刺さり、紅塵へと還すモノ。

 

━━━━白銀の光を纏うそのシンフォギアの名は。

 

「━━━━アガートラーム。セレナ・カデンツァヴナ・イヴ……行きますッ!!」

 

何故、どうして。そんな疑問を胸に抱きながらも、あの日(天の落とし子)と同じように、荒れ狂う暴虐から人々を護る為に立ち向かう、独りの少女だった……




白銀(アガートラーム)黄赤(ガングニール)桃紅(シュルシャガナ)翡翠(イガリマ)
四領が立ちし理由。それは、目の前の誰かを護る為。
そんな覚悟に立ちはだかるのは、大喰らいなる紅の人形(グラトニア)

奮戦と防戦を物ともせず、人形は嗤う。
彼女が求めるモノは、いつだって一つだけ。
人形の幸福(レゾンデートル)は、きっと。
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